ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ35話までの範囲でお送りします。


降霊

 

「光よ─────!!」

 

 

ズドン!と大きな衝撃音が夜の街中に響く。

アリスのレールガンから放たれた最大出力のエネルギーは強固な結界に阻まれて霧散し、傷一つ付けることが出来ない。

 

「駄目ですね、ビクともしません」

「ま、まあまあの威力ね…」

 

何とも無いように言うアリスだったが、初見のセリカはあれだけの威力の武器の反動を生身で押さえ込んでいるアリスのパワーに若干引く。

それこそセリカが見てきた中では個人で出せる火力としては最高峰のものだったのだ。

武器が強いというだけでは片付けられない、それを使いこなす腕力と体幹。

先輩として良い所を見せるつもりが、後輩の才能を目の当たりにして早くもセリカは危機感を持つ。

 

ヒナは呼び出していた式神である玉犬『渾』に近くに集まっていた低級の特異体を処理させつつ、結界に手を当ててその強度を確認すると首を横に振った。

 

「アリスのでもまるで効いてないし、かなり強力な結界ね。何処か脆いところでも見つけて一瞬でも穴を開けないとどうにもならないわ」

「脆いところ?何故ですか?」

「なんでってアンタ、そりゃこれはいわゆる私達を入れないバリアよ?バリアってのは自分を囲むものなんだから、これを降ろしてる奴も中にいるに決まってるじゃない」

「いえ、ですがDBセンターの方では…」

 

そこでアリスは先程シュンと共に調査に当たったセミナーDBセンター入口駅に降ろされていた結界の話をすると、セリカは周囲の高層ビル群を見回した。

 

「なるほどね〜…結界で自分を囲わずに外に出ることで発見撃退されるリスクを上げる代わりに結界の強度も上げる…目からウロコよ、まったく」

「結界術の基礎を思いっきり無視してるわね。けれど、それならアリスのレールガンでも破れないのは納得だわ。それで、その理屈なら結界の基はかなり目立つ場所にあると思うのだけど」

「あら、奇遇じゃない。私も同じこと考えて探してたのよね…あれよね?」

「あれね」

「あれですね!」

 

アリス達の視線の先…そこには、ライトに照らされてその存在感を引き立てる高層建造物、このミレニアムでも一際高く聳え立つ───ミレニアムタワーがあった。

 

 

 

 

 

 

 

ミレニアムタワー、屋上。

そこに立っていた2人の人影は、セミナー本部駅周囲を覆う結界を見下ろしていた。

 

「特異現象捜査部のガキ共は気付くかな?ここが最も目立つ場所だろう」

「おそらくな。だが気付いたところで、だ。それに下層には例の改造された生徒共がうじゃうじゃいる。直ぐには上がってこられんさ────何だと!?」

 

高を括っていた2人だったが、次の瞬間ミレニアムタワーの外壁を駆け上がり屋上まで登ってきたアリスが重りの着いた縄を振り回し、2人を絡めとってしまう。

 

「捕まえました!」

「くっ…!コイツら嘱託式の結界のことを知っているのか!?」

 

絡めとった2人をハンマー投げでもするかのように縄ごとぐるんと回したアリスは、その勢いのまま2人を鉄柱に叩きつける。

その間に一緒に登ってきていたセリカとヒナは屋上に設置されていた杭を見つけ、それを引き抜いた。

 

「これよね!?」

「はい、シュンさんが言うにはもうそれには結界術が組み込まれていて、あとは誰かが神秘を流し込むだけで結界を降ろせるのではないかと」

「ならこれさえ破壊出来ればアウトロー共は後回しで良いわね」

「そう、ねっと!」

 

セリカは杭を地面に叩きつけると、それを撃って破壊する。

直ぐに結界の方を確認するが…

 

「…あっ、特異現象捜査部の生徒を入れない結界が上がってない…!そっか、結界毎に杭があるならあと2本ある筈よ!」

「一通り探してもこれしか見つからなかったし…持ってるとしたらあいつらね。アリス!」

「はい!」

 

「ククッ、舐めるなよ!行くぞ”ジェネラル”!」

「まったく、無駄に驚かせられた。足を引っ張るなよ”理事”」

 

絡み付いている縄を強引に引きちぎった2人…羽振りのいい装いをした体格のいいロボットの男…理事と、軍服風の装いをした細身のロボットの男…ジェネラル。

 

「っ!逃がしませんよ!」

「ぬおっ!?」

 

その内理事の方が2本の杭を懐に締まったのをアリスは見逃さず、残っている分の縄を理事の腕に引っ掛けると、ミレニアムタワーの外側の方へ引っ張って放り、地上へと落とす。

アリスとヒナはそれを追ってタワーの外壁の出っ張りを使って地上に降り、セリカは残ったジェネラルと対峙する。

 

「私の相手は君かね」

「ふん!可愛い後輩も出来たことだし、ここいらで活躍してぼちぼち私も…1級になっちゃうわよ!」

 

セリカはどこかから取り出した猫耳が外に出る穴が空いた赤い覆面を被り、銃のリロードを済ませる。

対してジェネラルは不気味に微笑むと、クイッと腕を上げた。

すると、階下から地面を突き破って奇妙なカプセルのような大きな装置が現れる。

 

「…嫌な感じね。さっさと終わらせてやるわよ!」

 

 

 

セリカは1級の資格を得るに当たって、ユウカからの推薦に拘っていた。

理由は単純、世話になりよく助けて貰ったユウカはの筋を通すため。

筋というものは特異現象捜査部のような血生臭さのある活動をするに当たっては大切なものであり、しかし筋の通し方が分からなくなることもザラにある。

 

故にセリカは迷った時はいつもこう考えていた。

『ユウカならどうするか』…その考えがあるからこそ、ユウカに認めてもらうことで1級の推薦を得ることに拘っているのだ。

 

 

 

(ユウカ先輩に任せられた以上2人をアリスとヒナを放っては置けないけど、だからといってコイツらを引き連れてくのは違うわよね。ベストは瞬殺して2人と合流、事実に即して自分を律する。慢心は無いわ!)

「『来訪瑞獣一番 獬豸』!」

 

セリカが撃った弾丸は空中で形と性質を変化させ、大きな棘のようになる。

それは首を傾けて回避したジェネラルの頬を掠め…その後方で大きく軌道を変えてジェネラルを追尾し、腕で受け止められてようやく止まる。

 

降霊術『来訪瑞獣』、顔を隠すことで自らが霊媒となり四種の瑞獣の能力を武器に降ろすことが出来る。

 

「ふむ、降霊術か。奇遇だな」

「なんの事か知らないけど、もう何もさせたりなんかしないわよ!『二番霊亀』!」

「元気が良いな。どれ、貴様は丁度いい実験体になりそうだ。我らが復権の糧となってもらおう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地上に降りたアリスとヒナはあちこちにいる低級の特異体を片付けながら先に落ちて行った理事を探す。

暫くして2人は道路の上にうつ伏せで倒れる理事を発見するが…

 

「…アリス。私はあいつの接地の瞬間を見てないけれど、死んでるにしては外傷が見えないわよね。あの高さから無防備に落ちたら私達でも大怪我ものよ?」

「つまり…死んだフリということですね!」

「そうね、さっさと起きなさい。このタヌキ」

 

「クククッ…ハッハッハッ!」

 

アリスがレールガンを、ヒナは玉犬『渾』を呼び出してマシンガンを構え臨戦態勢を取ると、倒れていた理事が高笑いを上げて向くりと起き上がる。

やはり外傷は見られず、高価そうな服に汚れが付いているのみだ。

 

「まったく、近頃のガキは…大人を敬わんか」

「時間はかけられないわよ」

「かかりませんよ!」

 

一蹴りで理事に迫ったアリスは防御が間に合わない速度で理事の胴に拳を打ち込むが、鈍い感触に違和感を覚え咄嗟に飛び退く。

 

そこに理事の頭上から玉犬『渾』が爪を振り下ろして理事の頭に直撃するも、ガクンッ!と理事の上体が仰け反っただけで傷は付いていなかった。

体勢を崩した隙にアリスとヒナは息を合わせて理事の両側を挟み込み、アリスはレールガンの銃身で、ヒナはマシンガンのストックで殴りかかろうとするも理事は腕でそれらを弾くと、袖から取り出したナイフでアリスの脇腹を切りつけた。

 

「っ…!」

「アリス!」

「いえ、浅いです!心配ありません!光よ────!」

「ぐおぉ!?」

 

切り口から血飛沫が飛び散るが、痛みを無視してアリスは理事を蹴り上げ、空中に浮いた所にレールガンを撃ち込んで吹き飛ばし、理事はその先にあった建設現場へと突っ込む。

作業用の足場が崩れ理事はそれに巻き込まれたように見えたが…直ぐにそれらを押しのけて無傷の理事が姿を現した。

 

「ふむ、ガキにしては良い動きをするじゃないか。将来有望、殺りがいがある」

 

1度理事から距離を取った2人は、あの連続攻撃を捌き切って見せた理事に警戒を強める。

この戦いでヒナはやりづらさを感じていた。

その理由の一つはアリスの身体能力に任せた荒っぽい攻めに合わせること…そして2つ目は理事の常軌を逸した耐久力だ。

 

「…玉犬の爪は特級にも効くわ」

「アリスだって本気で殴りました…それなのに、なぜ効かないんでしょうか。まともなダメージが入っているようには見えません」

「時間はかからないんじゃなかったかしら」

「ノーコメントです!」

 

困惑するアリスとヒナに理事はその機械の顔にニタリとした笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェネラルとの戦いが長引いていたセリカは、先程ジェネラルが呼び出していたあのカプセルのような大きな装置に目をつける。

ジェネラルはやたらとあの装置を気にかけており、秘儀や銃弾の流れ弾からあの装置を庇っているようだった。

 

(見立て通り大して強くないけど…何がなんでもあれは守ってきてるのよね。ここは敢えてあっちに狙いを集中するべきかしら?)

 

ジェネラルが守る装置、それは現れて以来何か内部から駆動音のようなものが鳴っていて、まるで何かの準備をしているようだとセリカは感じていた。

急ぎあれを破壊しジェネラルを制圧しようと秘儀を発動しようとするが───その前に装置が内側から常軌を吹き出し、そのカプセルのような外装が蕾が開くように展開される。

そこから姿を現したのは…1つの自動人形(オートマタ)のようなロボット。

 

「何…?凄く嫌な予感が…」

「ふふふ、見たまえ!これこそが我らが作り上げた技術の結晶!現代に誕生せし遺物(オーパーツ)!『天界システム』だ!」

「チッ、させないわよ!」

 

あれを起動させてはいけない、そう本能が警鐘を鳴らしたセリカは装置から出てきた自動人形を撃ち、弾丸に『獬豸』の能力を降ろして棘へと変化させる。

今ならまだ破壊出来ると打ち出された渾身の攻撃だったが───

 

 

「さあ!現代に再び降臨しろ!天与の暴君───『狐坂ワカモ』よ!」

 

 

 

棘が命中する直前…自動人形は全身に光を纏い、光に包まれた自動人形の腕が動いて眼前に迫った棘を掴んで止めた。

 

「なっ…!」

 

自動人形の全身を覆っていた光、それが霧散すると狐の耳を生やす美しい女性の姿があった。

しかしその内から溢れ出すのは圧倒的で、暴力的なまでの”死”の気配。

セリカの本能が、震えとなって身体に危機を伝える。

 

「さあ、行け」

 

ジェネラルの指示に従って、かつて小鳥遊ホシノによって打ち倒された怪物がセリカへと牙を剥く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────20年前、小鳥遊ホシノ 爆誕

 

小鳥遊ホシノという、キヴォトス最強の神秘が頭角を現す以前はカイザーグループという大企業がキヴォトスの覇権を握り、金と企業としての規模にものを言わせて猛威を振るっていた。

大々的に行われる汚職や無断での開発、闇金や違法物資の裏取引。

当時の連邦生徒会ですらかつてのカイザーグループを表立って抑制することが出来ず、そもそも連邦生徒会内にカイザーグループと癒着する者もいた始末。

 

カイザーグループによって資金的余裕のない、連邦生徒会からも庇護を受けられていない地方の田舎校は軒並み借金を背負わされ、土地を奪われて路頭に迷うことは珍しくなく、挙句の果てには捉えられ奴隷のように働かされることさえあった。

まさにカイザーグループにとっての天下、自分達を脅かす存在などいないという絶頂期。

 

中でも闇金関連を取り扱う理事はその手腕により多くの田舎校を吸収して土地を奪い、軍事部門を取り扱うジェネラルは武器の取引や傭兵であるカイザーPMCの派遣によって荒稼ぎをしていた。

 

その栄華はいつまでも続くかと思われたが…小鳥遊ホシノが誕生したことにより、カイザーグループの時代は終わりを告げることになる。

 

 

 

 

(我々は自由だった…!年々増える特異体によってS.C.H.A.L.Eや連邦生徒会は手一杯。監視も抑止も緩くなり、その間に我々の成長は歯止めが効かなくなった。自由に、欲望のままに我々は生きられていたのだ)

 

過去の栄華を懐古する。

誕生したというだけでその存在感を特異現象や神秘に関係するキヴォトス各所に知らしめ、小鳥遊ホシノが特異現象捜査部に所属することになったというニュースは当時のアウトローを震え上がらせた。

闇サイトでは軽く億超えの懸賞金が小鳥遊ホシノにかけられ、またその存在を危惧したカイザーグループはジェネラルや理事に命じて小鳥遊ホシノを消すことを画策したが…

 

結果は襲撃を仕掛ける段階にすら届かず、ジェネラルが雇ったアウトローの集団も、ジェネラルが差し向けたPMCの精鋭も、襲撃前にその存在を察知され、小鳥遊ホシノから放たれる圧倒的な威圧感に臆して任務を放棄し一目散に逃げ出した。

その他あらゆる方法で抹殺を試みるも尽くが失敗に終わり、遂には現場に乗り込んできた小鳥遊ホシノによってカイザーが牛耳るキヴォトスの裏社会は完膚無きまでに叩き潰されることになる。

 

その時にようやく、彼らは気付いたのだ。

 

年々力を増す特異体、頻発する特異現象、その原因が小鳥遊ホシノであることを。

小鳥遊ホシノが誕生したことで、キヴォトスのパワーバランスが変わったのだと。

 

 

 

(我々は自由だった。その自由が突如として奪われた。小鳥遊ホシノによって大打撃を受けたカイザーグループはその後あの最悪のアウトローによって壊滅させられるハメにまでなった!)

 

「巫山戯るなぁ!」

「ぐっ…!」

 

ヒナとアリスによる畳み掛け、それらを全ていなし、捌き、耐え切った理事はアリスの顔面に飛び蹴りをかます。

よろめいたアリスは鼻血を拭ってレールガンを発射し反撃を行うも、理事は極大のエネルギーの衝突をその異様な耐久力で凌ぎ強引に突破してアリスを蹴り飛ばす。

 

吹き飛ばされてきたアリスを受け止めたヒナは理事に向かってマシンガンを連射するも、弾幕を浴びた理事にはやはりダメージは見られず、背後からの玉犬『渾』の体当たりにも耐えその首を掴んで持ち上げると振り回して地面に叩き付ける。

さらにヒナにも迫り、ヒナはアリスを横に転がしてカウンターの拳を振るうが、顔面に受けた理事は怯みすらせずにヒナの腹に膝蹴りを入れ、続く回し蹴りで横に蹴り飛ばす。

 

「私は生涯現役、死ぬまでガキ共から搾取する!楽しいなあ!」

 

「清々しいクズね…!」

「うわーん!性根が腐りきってます!」

 

何とか立て直したアリスとヒナは1度合流し、どうやって理事を打ち倒すか頭を悩ませる。

アリスのレールガンや打撃にも、ヒナの弾幕や玉犬の攻撃力も、それら全てが通じず一切のダメージを与えるに至らない。

最早タフや頑丈という言葉では説明がつかず、明らかに何かしらの種が隠れていると考察したヒナは理事の秘儀を考えることにした。

 

大人になると新しく神秘や秘儀の才能を引き出すことは出来ないが、若い頃からそれに関わってきたのなら話は別。

理事の老獪さから考えても相当の場数を踏んでいることが伺える。

 

(あいつの秘儀…攻撃の無効化?いや…)

「良いのかしら?今ここミレニアムにはあの小鳥遊ホシノが来てるのよ?さっさとその結界の基を置いて逃げたらどうかしら?」

「ヒナ…?」

「ククッ、ハッタリが下手だな。小鳥遊ホシノは封印されたのだろう?貴様らが言ったのだ、無駄に大きな声でな。そもそもだからこそ柄になくはしゃいでいるのだろう。小鳥遊ホシノが現在ならば家でとっくに帰って寝ているさ」

 

(やっぱり、こいつはホシノ先輩には勝てない。つまり攻撃を完全に無効化できるわけじゃないし、そもそも無効化なんていう大層なものじゃないかもしれない)

「うわーん!ヒナの嘘が下手すぎます!ドンマイです!」

「うっさいわよ!」

「痛っ!?」

 

「来ないならそろそろ殺すぞ?」

「チッ!」

 

何故か横から煽ってくるアリスの脛を蹴って黙らせるヒナだったが、殺気を強めて向かってくる理事に対して咄嗟に掌印を結ぶと新たな式神を呼び出した。

 

「『脱兎』」

「むっ!?」

 

ヒナの影から現れたのは、軽く100は超える大量の兎の群れ。

それらは雪崩のように理事へと押し寄せ、取り囲んで包み込んでいく。

その際一匹の脱兎が理事と接触し────

 

 

「グウッ…!」

「!」

 

 

理事は無数の脱兎によって作られた球体の中に閉じ込められた。

いつまでも拘束し続けることは出来ないが、時間稼ぎとしては十分。

その間にヒナは今の一瞬で感じた違和感の正体に思い当たり、同時に理事が持つであろう秘儀に検討をつけた。

 

ヒナは脱兎の球体から溢れた一匹の脱兎を抱え上げ戯れているアリスの元まで下がると、脱兎に覆われた理事を睨みつける。

 

「アリス!あいつの秘儀の正体が分かったわ!勝ちに行くわよ!」

「おお!流石ヒナです!一気に行きましょう!」

 

 

 

 

 

「クソッ、数で陽動するタイプの式神か!」

(このまま閉じ込めて兎共の向こうからでかいのを撃ち込んでくるつもりか?)

 

大量の脱兎が群がって作られた球体の内側に閉じ込められている理事は、キリが無いと分かっていながらも内側の脱兎を蹴って憂さ晴らししつつもアリスとヒナの次の一手を考察していた。

だが予想に反して脱兎の壁の向こうから攻撃が来ることはなく、秘儀が解除され脱兎達は溶けるように一斉に影に沈む。

 

「…いない!?逃げられたか!?」

 

だがそこにアリスとヒナの姿はなく理事は慌てて周囲を見回した。

 

 

 

 

「────『満像』」

 

「なっ!?」

 

しかし上からヒナが呼び出した桃色の巨大な像の式神、『満像』がプレス攻撃を仕掛ける。

 

「ははっ!面白いじゃないか!なんだこれは!」

 

当然のように無傷で満像の下から這い出した理事だったが、直後に満像が溶けるように影に沈んで消える。

満像が降ってきた頭上を見上げた理事は、街灯の上に立つヒナの姿を発見した。

 

「出したり消したり忙しいなぁ、ええ?来るならもっと大胆に攻めてこないか」

「生憎、そういうのは私の役割じゃないのよ。ねえ?アリス」

「っ!」

 

「うおりゃあぁぁ!」

 

ヒナの合図に合わせてアリスはその辺に停車してあった自動車を持ち上げると、理事に向かって投擲する。

なんというものを投げてるのだと理事は内心毒を吐くが、そもそもトン単位の質量があるレールガンを軽々持ち運ぶ上で高速移動も出来るアリスのパワーなら車を投げることも難しいことでは無い。

 

数トンにも及ぶ質量がそれなりの速度をもって投げつけられたわけだが、それすらも理事は受け止めて無傷で凌いでしまう。

 

だが防御直後の隙を狙い、ヒナとアリスは一気に攻勢に転じた。

 

(今はとにかく攻め続ける!)

 

マシンガンを連射し、隙を見て肉薄しては強烈な打撃を打ち込んでくるヒナと、レールガンを放ちあの馬鹿力で殴りかかってくるアリスに理事は内心ほくそ笑んだ。

 

理事な秘儀、それは『あべこべ』

この秘儀の発動中に理事が受けるあらゆる攻撃は、その威力が強いほど弱く、弱いほど強くなる。

全力で攻撃するほど理事に与えられるダメージは少なくなり、必死の攻撃を決めた相手の大きな隙を狙ったカウンターを行うことで理事は勝ち続けてきた。

 

故に今回も理事は勝利を確信する。

アリスとヒナが、既に理事の秘儀を見抜いているとは知らずに。

 

 

 

 

『あいつの秘儀はあべこべよ』

『ほう?』

 

理事が脱兎が群がって作る球体に閉じ込められている間に、ヒナは戦闘中に感じた違和感から察した理事の秘儀の考察をアリスに聞かせていた。

 

『脱兎の軽い接触だけであからさまに声を上げていたし、攻撃用じゃない脱兎に囲まれた今も下手に脱出しないのも、ミレニアムタワーから落ちた時にピンピンしてたのもそういう原理でしょう』

『では、デコピンでもすれば倒せるのでしょうか?』

『いや、弱過ぎたら駄目だと思うわ。ただあべこべなだけなら空気抵抗とかの微弱な力で自滅する筈でしょうから』

『おお!なるほど!』

『おそらくあべこべにも下限と上限があるのでしょうね。強い攻撃を弱くできる上限と、弱い攻撃で大ダメージを受けてしまう下限。だから上限を超えるような攻撃を普通にしてくるホシノ先輩や秘儀が通用しないような複雑な秘儀を持つ相手には相性が悪いのでしょう』

『となると、同時に攻撃するのが良いでしょうか?あべこべの下限と上限ギリギリの強さで同時に殴れれば防ぎようがないでしょうし』

『そうね。でもまだこっちが秘儀に気付いた事は悟られたくないから、暫くは大技を続けて馬鹿をアピールするわよ』

『分かりました!』

 

 

 

 

 

 

「がぁ!?」

 

全開攻撃を仕掛けてくるアリスとヒナに余裕綽々だったカイザーだったが、突如感じた強い痛みにそれを感じた先を辿ると、大きな蛙のような式神、蝦蟆から伸びた舌が理事の横腹を打ち据えていた。

 

(まずは打撃力の低い蝦蟆、そこから一気に畳みにかかる!)

 

(クソッ!クソッ!こいつらいつ気付いた!?)

 

アリスとヒナは理事に対して同時に殴りかかり、絶妙な力加減で着実にダメージを与えていく。

あべこべの上限を上げ過ぎれば、弱い威力で殴るヒナの攻撃が痛烈なダメージになってしまい、逆にそれを恐れてあべこべにすら下限を上げてしまうと、弱められる威力の範囲外からアリスの強烈な殴打をモロに受けてしまうことになる。

 

「グゥゥ…調子に乗るなぁ!」

 

このままでは負けると悟った理事はがむしゃらにナイフを振り回してヒナとアリスを退かせるが、アリスが全力で殴り掛かり、理事はそれに合わせてアリスの顔を狙いナイフを突き出す。

そしてヒナが動いていないことを確認するとあべこべの上限を今のアリスの打撃を受け切れる範囲に設定し…突き出したナイフは躱され、そしてアリスの拳が理事の顔の目前で止まった。

 

「は…?」

「ふんっ!」

「ぶべらぁ!?」

 

寸止めによって拳の勢いを殺し、本来ならば友達との戯れ程度にしかならないパンチを放つアリス。

しかし今の理事はアリスの渾身の一撃を防ぐ為にあべこべの上限を引き上げており…同時にその下限も低くなっている。

故にその緩やかな打撃は理事にとっては致命の一撃となり…パンチの速度に反して凄まじい勢いでぶっ飛び、ガードレールに突っ込んで気絶した。

 

「…貴女意外と器用よね」

「そうですか?」

 

あれだけの腕力を振りかざしながら絶妙な力のコントロールをして見せたアリスにヒナは若干引いているが、アリスはどうしたのかと首を傾げたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ジェネラルが呼び出したカプセルのような装置の中から現れた自動人形、それが光を纏って現れた狐耳の美女…ワカモにセリカは感じる威圧感と死の気配に肩を上下させて呼吸を荒くしていた。

 

(何よあれ…有名なアウトローか何か?立ち姿で分かる、あいつめちゃくちゃ強いじゃない!)

「このっ…『四番竜…』───あ」

 

セリカは自らの秘儀で扱う瑞獣の内最も強いものを降ろしてワカモに対抗しようとしたが…瞬き一つにも満たない間、音もなくセリカの横を通り過ぎ、同時に覆面を奪われたことで秘儀の発動条件を満たせず秘儀の効果が途切れてしまう。

セリカの実力は秘儀に頼らずとも一定の相手に通じる技量と身体能力があり、それをもって迎撃しようとするが…ワカモへと照準を合わせたアサルトライフルは横から手刀で叩かれて破壊され、振りかぶられた拳には防御が間に合わずモロにセリカの顔面へと叩き込まれる。

 

「うがっ…!?」

「…」

 

まるで歯が立たず、反撃もままならず、一方的にその暴力にさらされて───血飛沫が舞った。

 




配役
粟坂…カイザー理事
オガミ婆…ジェネラル
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