ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ36話までの範囲でお送りします


鈍銃

 

 

ユウカは思う。

己の不甲斐なさに腹が立つなどということは今までもこれからも自分の人生ではありえないと。

ただひたすらに現実を突きつけてくる諸悪は、ただひたすらに…

 

 

各所への連絡や要請のためにセミナー本部駅を覆う4枚の結界、その外に出ていたユウカは見てしまった。

腹を貫かれ、血溜まりを作るほどに出血して倒れるアヤネの姿を。

 

 

「…舐めたことしてくれるわね」

 

 

ただ悪意に愚痴を吐き捨てて、ユウカは握る銃のグリップに力を入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「知っていますか?私の秘儀を」

 

セミナーDBセンター駅、その地下5階まで降りた所にある地下鉄の線路。

そこからセミナー本部駅方面に登った結界の付近で多くの武装を搭載したロボットのような特異体と交戦するシュンは、アリスを逃がしたあと攻め手を強め、特異体を追い詰めていた。

 

等級としては1級相当はあるだろうその特異体に、シュンは秘儀も特別な遺物も使わず単純な神秘の操作と身体強化のみで圧倒していたのだ。

ちなみにココナは後方から戦闘の邪魔にならない、シュンが気にしなくても良いように巻き込まれない程度の距離を取ってシュンを応援している。

 

「私の秘儀は『カラスを操る』ただそれだけ。贔屓目に見ても戦闘向きとは言えません」

 

特異体の武装である小型のミサイルポッドから放たれる追尾ミサイル、ガトリング砲から放たれる弾幕を、シュンは狭い地下空間であるにも関わらずひらりと躱し、精確な射撃で撃ち落とし、一切の被弾もなく隙を見て特異体を狙い撃つ。

 

今の攻防の間に4発弾丸を撃ち込まれ、特異体の装備する小型のミサイルポッドの1つが爆発して破壊される。

また4脚の足の1つも関節部を何度か撃たれて、接合が不安定になり、そして崩れる。

 

「ですから、私は鍛えました。秘儀がなくとも戦えるように。貴方をこうして圧倒していると、その努力が無駄ではなかったのだと実感できます。お陰で可愛い子供達にお手本として自分を見せることが出来るんですから…」

 

熱弁するシュンの話を遮り特異体は新たにキャノン砲を展開するが…展開した瞬間にずっと後方から応援していたココナが砲身の奥を狙撃し、キャノン砲は内側から爆発して機能を停止する。

 

「しーっ、です!まだシュン姉さんが喋っているんですから!」

「私は自分に言い聞かせ、子供達にも言い聞かせました。特異現象捜査部で活動するに当たって、大切なのは秘儀ではないと。ですが…限界が来てしまいました。身体能力も、神秘による肉体強化も延々に伸びる訳では無いと」

 

ゆっくりと歩み寄ってくるシュンにミサイルやガトリング砲を掃射しようとした特異体だったが、シュンが先手をとってそれらを撃ち抜いて破壊し、遂に特異体の武装が完全に尽きてしまう。

何とか自己修復を試みようとしているようだが…どちらにせよ詰みだ。

 

「挫けました。挫けましたので、そこから再び自分の秘儀に向き合うことで私は1級の資格を得るまでに花開いたのです!」

「シュン姉さん凄いです!」

 

大袈裟に身振り手振りをしながら語るシュンに、ココナは尊敬と感動の面持ちで心からの拍手を送る。

何を見せられているのだと、しかし己の危機を悟った特異体は脚を1つ破壊され機動力が落ちているものの、巨躯を活かした突進で強引にシュン達を突破して逃走しようとする。

が…

 

「では、時間を潰すのもこれくらいで…終わりにしましょうか」

 

 

銃をリロードしたシュンは高速でガシャガシャと動く特異体の脚の関節部を撃って破壊し、前のめりに転倒させる。

巨体が線路を巻き込み破壊しながら地面を擦り…シュンの目の前で止まった。

 

「命の価値、命の重さ…そして子供達の尊さを理解出来ない貴方達が、私に勝てるはずがないでしょう。それでは、おやすみなさい」

 

特異体の頭部に当たる部分にスナイパーライフルの銃口を突きつけて…その引き金が引かれ特異体は完全に沈黙し、プスプスと黒い煙を上げて至る所から火花を散らす。

 

「あらあら」

「シュン姉さん!服が汚れますので早く行きましょう!」

「そうですね。アリスちゃんは…丁度良く片付いたようですし」

 

倒れる特異体の横を駆け抜けてシュンとココナは進み…残された特異体は爆発と共に消滅し、その衝撃によって地下線路の一部が崩落して瓦礫に埋まったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

理事を打ち倒し、彼が持っていた結界を降ろす効果を持つ2本の杭をアリスが握り潰して破壊すると、セミナー本部駅を覆っていた4枚の結界の内…1枚は既に解除済み…”特異現象捜査部の者を入れない結界”が上がった。

 

「…あれ?今上がったのはアリス達を入れない結界だけですよね?セリカ先輩のものと合わせて3つ破壊した筈ですが…」

「どれか1つがダミーだったんでしょう。けれど、これでセミナー本部駅に突入出来る。残りはホシノ先輩を閉じ込める結界と一般人を閉じ込める結界だけよ…この男にも色々聞きたかったけど、起きそうにないしね」

 

先程の戦いでヒナの策にまんまと引っかかり、そしてアリスの抜群の戦闘センスによって打ち倒された理事を見下ろす。

今は後ろ手に頑丈かつ神秘的で保護がされた縄でしっかりと拘束されており、そう簡単には抜け出すことは出来ないだろう。

が、ダメージを与え過ぎたのか完全に気絶しており少し叩いたり銃で撃ってみたりしても起きる気配がなく、当分尋問は出来そうに無い。

 

「うっ…ちょっとやり過ぎてしまったでしょうか?」

「さっきの場合は手の抜きすぎ、ね。どんだけギリギリを攻めたのよって話。勿論貴女に非はないわ。まずはセリカ先輩と合流して…っ!?『鵺』!」

 

小話を挟みあの時残っていたもう1人のアウトローと戦っているのだろうセリカを気にかけてミレニアムタワーを見上げたヒナだったが…その時、タワーの屋上から放り出された人影を見つけて咄嗟に式神である鵺を呼び出し、落ちる人影の回収に向かわせる。

鵺は人影が地上に落ちる前にキャッチしてヒナ達の元まで運ぼうとするが、重量オーバーなのかのろのろとその飛行速度は遅く誤ってその人を取り落としてしまう。

 

その落下地点に回り込んだアリスがそれを受け止めるが…果たして人影の正体は、激しく殴られたのか頭部から流血しボロボロになってヘイローにもヒビが入るほどのダメージを負ったセリカだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セリカをミレニアムタワーの屋上から放り捨てた『天界システム』によって狐坂ワカモを降ろし受肉した自動人形が、タワーの下を見下ろす。

決着が着いたと、自動人形による蹂躙を後ろから見届けていたジェネラルはセミナー本部駅を覆っていた結界が上がったことに気が付き、理事の敗北を悟った 。

 

「ふむ、中々やるではないか。こちらは慎重に行かせてもらおう。私は油断して失敗するような馬鹿とは違うからな。小鳥遊ホシノはいないに越したことはない。さあ、自動人形(狐坂ワカモ)よ、お前は地上に降りて特異現象捜査部の連中を始末するのだ」

『…』

「む…?どうしたのだ、一体───」

 

自動人形に命令を下したジェネラルだったが、反応もなく立ち尽くしていることに疑問を感じた。

自動人形本体か、それとも『天界システム』の方に何か問題があったのかと勘ぐるが…自動人形はぐりん、と首を回して振り向くと、ジェネラルを射殺すような目付きで睨みつけた。

 

「誰に命令しているのですか、あなたは」

「っ!?」

 

明らかに異常を感じ取ったジェネラルは飛び退いて自動人形…ワカモから距離を取って懐からハンドガンを取り出す。

 

「何故だ…!?今回『天界システム』は肉体の情報しか降ろしていない筈だ…!自動人形の意思が降ろした者に乗っ取られないようにヘイローまでは…!」

「降ろす?ああ…そういう感じですか。まあよく分かりませんが、わたくしの肉体は特別ですので。肉体そのものがこの仮初の身体に刻まれた命令系統を上書きしてしまったのではないでしょうか」

「馬鹿な…!?肉体がヘイローと同等の意思を持つなど、有り得るものかぁ!」

 

利用する強者を間違えた事を悔やみ、半ばヤケクソ気味にハンドガンをワカモへ撃つが…一発も当たることはなく、気付いた時には既にワカモの姿がジェネラルの目の前にあった。

逃げようと反転するジェネラルだったが、その前にワカモはジェネラルの頭部を掴みあげ、余程の握力で掴んでいるのか機械の頭からギシギシと嫌な音が響く。

 

「が、あ…離…せ…」

「わたくし、愛する殿方以外から命令されることが死ぬほど嫌いですので…報いを受けてもらいましょう」

「クソッ…クソォッ!」

 

ワカモはジェネラルの頭を掴んだままその場で回転し、十分勢いが着いた所で丁度よく近くにあった大きな装置に向かって投げつけ────その余りの投擲の勢いにより装置に激突した瞬間、ジェネラルは身体がバラバラになって崩壊し絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

セミナー本部駅への突入を試みていたレンゲ、カズサ、ナギサのチームだったが、駆けつけたイチカからの報告により先行を1時中断していた。

 

「アヤネさんが?」

「イチカさんと連絡してる最中に襲われたっぽい。多分ヒナ達と別れたあとだろうからヤバいかも」

「チッ、カズサはイチカさんとアヤネさんの所に向かえ!」

 

状況を整理し判断を下すレンゲだったが…少し離れた場所で上品な欠伸が聞こえて眉を顰めた。

 

「ふわぁ…おっと、失礼。端末も機能しませんし、監督オペレーターの方がいないとお話になりません。お気を付けてくださいね」

 

持参のティーカップに紅茶をいれて優雅に飲むナギサ。

だがその周囲には改造された生徒達の死体と血が広がっており、傍から見れば猟奇殺人鬼にしか見えない。

 

「…あいつやる気あんだか無いんだか…取り敢えずここは私達が片付けるから、敵に注意して行ってくるんだぞ」

「すみません、良さそうなお茶菓子でも見つけたら持ってきてくれませんか?」

「無視しろ。行け!」

「うん!」

「はいっす!」

 

呑気なナギサはさておいて、レンゲからの指示を受けてカズサとイチカは結界の外を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミレニアムタワーの屋上から落ちてきたセリカを保護したアリスとヒナは応急処置を済ませ周囲の安全を確かめると、アリスはタワーを見上げて鋭い目つきを向けた。

 

「アリスは、あそこにいる人を殴ります!」

「気持ちは分かるけど今は抑えなさい。私達の最優先事項は?」

「…ホシノ先輩です」

「結界は上がった、上にいた奴はもう逃げたかもしれない。まずはセリカ先輩を結界の外に連れていくわよ」

「では、セリカ先輩を頼みました。アリスは先に駅に向かって他のパーティの人と合流します」

「…そうね。今はそれがベスト。ただし…」

「死んだら殺す、ですか?大丈夫です!アリスにはメカペロロも付いていますので!外見は気持ち悪いですけど…」

 

若干嫌がりながらメカペロロの小型傀儡を握り込むアリス。

だが随分前からメカペロロからの応答はなく、薄々アリスもその機能が停止していることを察していた。

それでもヒナを安心させる為に満面の笑みを浮かべ…ヒナは真顔から小さく微笑むと、セリカを担いでアリスに背を向けた。

 

「分かってるなら良いわ。また後でね」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何者かに襲撃された可能性が高いアヤネを保護しに結界の外を目指し夜のミレニアムの街を駆けていたカズサとイチカだったが、道の先から歩いてくる者の気配を感じ取り、カズサはイチカを庇うように前に出て銃を構えた。

 

「イチカさん、下がってて。直ぐに終わらせるから」

「うっ…」

 

「にっはっは〜!またまた発見です!今度は何して遊びましょうか!」

 

道の先から歩いてきた桃色の髪をツインテールにしま小柄な少女…可愛らしい容姿の反面、その内に抱えるのは善悪を理解していないかのようなタチの悪い悪意だった。

少女に聞こえるような声量で話した後、小さな声でカズサはイチカに続く指示を出す。

 

(そこの建物に隠れた振りをして、裏口を抜けて結界の外に向かって。口ぶりからしてアヤネさんはあいつにやられたんだと思う。だとしたら急がないと)

(…っす。カズサさんも無理はしないでくださいっすよ)

 

「え〜?コソコソ話ですか?私も仲間に入れてくださいよ!って、隠れちゃうんですか…?」

 

カズサを前に、近くの建物の中に逃げ込んだイチカを見て少女は心底ガッカリしたように肩を落とす。

が、余所見しているのを良いことにカズサは銃を乱射しながら少女に接近し、銃のストックで殴りかかろうとする。

しかし銃撃も白兵もすんでの所で避けられ、少女は少し下がってカズサから距離を取った。

 

「何をするんですか、酷いじゃないですか!」

「自分から丸腰晒しといて、そんな理屈が通用するわけないでしょうが!」

 

そう、あの少女は何故か武器を持っていなかった。

キヴォトスでは特異現象に関わらない一般の生徒ですら銃を常備し常に持ち歩いているというのに、複数の監督オペレーターを襲撃していると思われるこの少女は丸腰。

故にカズサはあの少女が何か攻撃的な秘儀を持っていることを考慮して慎重に攻略を進める。

 

「あっ、そういえばあなたは前にも会いましたよね?」

「知らないよ、どちら様ですかぁ!?」

「ああもうまた!そんなバンバン撃ってたら危ないじゃないですか!」

「今までキヴォトスでどうやって生きてきたのさあんたは!言い訳が、見苦しいってんのよ!」

 

そこらに点在する看板や車、戦車や公衆電話を遮蔽物にのらりくらりとカズサの攻撃を躱す少女だったが、既に十分弾丸を辺りにばらまいたカズサは一気に決めにかかろうと秘儀を発動しせようとする。

しかし…

 

「にははっ!さよなら〜!」

「は?隠れたんじゃなかったのか…!」

 

遮蔽物に身を隠しながら何か移動しているかと思えば、少女はイチカが駆け込んだ建物へと入って行く。

慌ててそれを追いかけイチカの元に向かわせまいとするカズサだったが…既に魔の手はイチカへと牙を向いていた。

 

 

 

 

「痛っ…なん、すか…!」

 

カズサの指示に従って結界の外を目指していたイチカだったが

突如として背後から足を撃たれて転び、弾丸が貫通して脚から流れる血を止血しながら、撃ってきた方向を振り返る。

そこには、銃身の側面から伸びるアームが脚となって自動で動く奇妙な銃がイチカへと銃口を向けていた。

 

「勘弁、して欲しいっす…」

 

「いましたいました!シューット〜!」

「あぐっ…!?」

 

そこに、来た方向から走ってきた少女が銃を回収しながらイチカへと駆け寄り…イチカのお腹を蹴り飛ばす。

腹に強い衝撃を受けてイチカは激しく咳き込み、少女を追ってきたカズサはその光景を見て額に血管を浮かべて激怒する。

 

「あんた…!よくも!」

「うわっ!?」

 

コユキが持っていた銃を撃ち抜いて手を離させ、さらに飛び蹴りをかまして追撃する。

腕で受け止めるもののそこまで身体能力は高くないのか大きくよろめいた少女にカズサは追い打ちをかけようとするが…真横から飛んできた銃弾が側頭部を掠め中断を余儀なくされる。

 

弾が飛んできた方向を見ると、先程少女が取り落とした銃が自動で動きカズサへと狙いをつけていた。

 

「何そのふざけた銃…!」

「残念でしたね〜!」

「あんたがね!『木天蓼』!」

「え…?」

 

煽ってくる少女に対しての返答として銃弾を無造作にばら撒くカズサ。

雑な狙い程度容易く避けて反撃しようとした少女だったが…辺りに散乱する撃ち終わった後の弾丸がカズサの秘儀によって独りでに浮き上がって向きを変え、その狙いが一斉に少女の方を向く。

 

そしてそれらが一斉に少女に殺到し、その一部が天井に当たって建物の天井が崩れ、少女はその崩落に巻き込まれていた。

 

これで一段落したとイチカの応急処置に向かおうとするカズサだったが…

 

 

「っ!来ちゃダメっす!」

「何───あがっ…!」

 

天井が崩落した際の土煙に紛れて煙の奥から飛んできた弾丸がカズサの顎を捉える。

咄嗟に神秘での防御が間に合い貫通することは防げたものの、衝撃で頭が、脳が大きく揺れてしまい立つことすらままならなくなってしまう。

そんなカズサに服の汚れを払いながら少女が歩み寄ると、動けないカズサの顔に自分の顔を近付けた。

 

「にははは!危ないですね、まったく。それにしても良いの入っちゃいましたか!?あなた、以前会った時より強くなっていますよね?最初は気付きませんでしたよ。ですが、ただ強ければ勝てるよう世界じゃないことは承知でしょう?特に私の秘儀が絡んだりするとね。さて…どっちから殺しましょうかね〜」

「あんたは…」

「うん?」

 

脳が揺れて未だ立てないカズサは、少しでも時間を稼ごうと必死に口を回す。

この少女ならば付き合ってくれるだろうと半ば希望的観測に近い推測を立てて。

しかして、やはり少女は銃を拾おうとしていた手を止めた。

 

「あんたは、何がしたいのさ…!」

「はい?ああ、何か小鳥遊ホシノを封印すると聞きましたね」

「あんたの話っつってんでしょ…」

「そうでしたか?そうですね…う〜ん、よく言葉で表せません。まあ理由なんてなくてもいいんじゃないですか?私が楽しいならそれで、ね!」

「うぐぅっ…!」

「イチカさん…!」

 

少女は倒れるイチカの腿を撃ち、また脚を撃たれたイチカは痛みに喘ぐ。

それを面白がり、少女は何度もイチカの脚を撃っては苦痛で声を上げるのを笑う。

 

「やめろ…!」

「え〜?やめさせてくださいよ〜?」

 

まだ上手く動かせない身体を根性で突き動かしたカズサが少女に殴りかかろうとするも、少女はカズサの脚を払って転ばせた。

 

「ふらっふらじゃないですか?大丈夫ですか〜?」

「クッソ!」

「おっと」

 

地面を叩いた反動で強引に起き上がったカズサは銃身を少女に叩きつけようと振るい、少女は自分の銃を盾にしてそれを受け止め────

 

 

 

 

 

 

 

────ズドン!

 

 

「え…?」

「あっ…」

 

同時に、壁が粉砕される音が木霊する。

音の方向に目を向けた2人、その先には…無表情で、しかし確かな怒気を滲み出させるユウカの姿があった。

 

それを見たカズサとイチカは表情を明るくし…逆に少女は病気を疑うほどに顔を青ざめさせる。

 

慌てて銃身を押し合うカズサを突き飛ばしてその場を逃走しようとする少女だったが、それよりも早くユウカが少女の逃げ道に回り込んでいた。

 

「なっ…あっ…その…どうも…」

「…ああ、思い出したわ。あんたコユキでしょ?確か何度も問題行動起こしたかと思ったら、突然いなくなってたわよね。どこをほっつき歩いてるのかと思えば…」

 

面識があるのか、合点が言ったように1人頷くユウカだったが、直ぐに切り替えて少女…コユキへと近づいて行く。

 

「あっ…!な、何勝手に近付いてるんですか!こっちには人質が…あれぇ!?」

 

慌てて倒れるイチカの方に銃を向けてユウカを近付けさせなくしようとしたコユキだったが、ユウカに気を取られている内にイチカは近くにあったエスカレーターまで這いずり、上の階に登ってコユキの射線から逃れていた。

地面に残る引きずるような血痕からイチカが逃げた方へ向かおうとするコユキだったが、その肩に手が置かれた。

 

「あっ…ひっ…」

「それで、何か言ったかしら?」

「いや…その…」

「はぁ…仲間の数と配置は?」

「え…?し、知りませんよ〜!」

 

自棄になって至近距離からユウカにあの改造され威力が引き上げられていると思われる銃を撃ち込んだコユキだったが…ユウカはそれにまったく怯まず、傷1つ付かずにまるで壁のように微動だにしなかった。

その事実により血の気が引いて一周まわって冷静になったのかコユキはユウカの顔を見上げ…にぱっと笑う。

 

「えへへ…」

「仲間の数と配置は?」

「え?いやだから知らな───うぎゃあ!?」

 

コユキの顔面にユウカの拳が叩き込まれ、秘儀の条件も満たして特大威力に跳ね上がった打撃によってコユキの小柄な体躯がゴムボールのように吹っ飛んでいく。

吹っ飛んだコユキは壁に亀裂が走る程の勢いで衝突し、最早何が起きたのかさえ理解しきれずに鼻血を流して混乱していた。

 

(な、何が…血…?私から…?と、とにかく逃げなきゃ…私の秘儀がなかったら今ので死んでた…あの人本気で私を殺す気だ…!)

「あら、生きてたのね」

「ひぃぃ!?」

 

壁を背になんとか立ち上がって逃げようとするコユキだったが…追いかけてきたユウカはコユキの髪を掴み上げると、その顔の前に自分の圧の籠った無表情の顔を近付ける。

 

「仲間の、数と、配置は?」

「で、ですから本当に、知らないって…ごばぁ!?がっ…おえぇ…」

 

鳩尾を殴られ、胃の内容物を吐き出し顔を涙と吐瀉物でぐちゃぐちゃに汚すコユキ。

そんなコユキをユウカは再び容赦なく掴み上げると、腕にありったけの神秘を込めた。

 

「ここに来るまでに、何人もの監督オペレーターが殺されてたわ。あなたがやったのよね?先輩として…せめてやらかした後輩の後始末ぐらいはしてあげる」

「ご…ごめん、なさ…ぁ…」

「歯を食いしばりなさい」

 

ユウカは1度コユキを離し、ガクンッと膝を着いたコユキの丁度いい位置に来た顔面を殴り飛ばして、悲鳴を上げる間もなく吹っ飛んだコユキは建物の壁を突き破って外まで飛び、向かいの建物の壁に衝突して崩れた瓦礫の下敷きになった。

 

「ふぅーっ…」

(…凄い…レベルが違う。これが1級…!)

 

一息ついたユウカはカズサの手を取って起き上がらせると、エスカレーターを辿って上の階まで続く血痕を見やる。

 

「イチカさんの所に向かうわよ」

「は、はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

特異体を突破した後、アリス達が特異現象捜査部の者を入れない結界を破った事で線路の奥に進めるようになったシュン達は、その先で見覚えのある懐かしい姿の人物と対峙していた。

 

「まさか貴女だったとは驚きですね」

「ご無沙汰してます、シュンさん」

「刺客を放っておいてよく言いますね、ユメちゃん」

 

過去に特異現象捜査部に彼女が在籍していた頃と変わらない態度にシュンは懐かしさを覚え…同時に違和感も感じていた。

 

(…どうして生きているのでしょうか。去年ホシノちゃんがしくじった?それとも、まさかホシノちゃんとユメちゃんが手を組んでて、今回の騒動も2人で引き起こした?…いえ、それはありませんね。ホシノちゃんなら誰かと手を組まずとも1人でキヴォトスの人を鏖殺出来るだけの力があるでしょうし)

「…私はですね、ユメちゃんの事も買っていたんですよ?時折見せる普段の雰囲気とは違ったキリッとした表情だって素敵でしたし…それなのに、ユメちゃんを殺さなければいけないというのは非常に悲しいです」

「私も残念だよ〜?かつての先輩を手にかけるのは」

 

口ではそう言いながら、シュンは目の前のユメの姿をした女が偽物だと結論付ける。

対して、その辺を看破されている事に気付いているのか、偽ユメは白々しく言いながら片腕を上げると、空間に開いた真っ黒な孔の奥から一体の強大な力を持った特異体が姿を現した。

 

 

───特級複製特異体 グレゴリオ

 

 

(特異操術?読みが外れたでしょうか?)

 

ユメ本人が扱う、それもキヴォトスにおいても貴重な秘儀を使用したのを見てあれが本人の可能性を再浮上させたシュンだったが、目の前に巨大なオルガンと共に現れた背後に豪奢な飾りを浮かべた法衣姿の特異体。

それは他の事に意識を割かせない程度には十分な脅威として機能しシュン達の前に立ちはだかった。

 

 

「特級複製特異体、グレゴリオ。去年手持ちの特異体はほとんど使い果たしちゃったけど、質は衰えてないよ。念の為地下5階の子達は残して起きたいんだから。この先の線路で待ってるね。この子を倒せたら相手するよ」

 

グレゴリオにその場を任せて姿を消す偽ユメ。

シュンはそれを追うことが出来ずグレゴリオに集中するが…グレゴリオがオルガンの鍵盤を勢い良く叩いた瞬間、あのオルガンを中心に神秘が吹き荒れ、周囲が結界に包まれた。

 

(神秘解放…!?少々厄介ですね…)

「シュン姉さん!」

 

さらにグレゴリオが鍵盤を叩くと、今度はシュンは長方形の狭い箱の中に閉じ込められ、次のオルガンの音でシュンが閉じ込められている箱…棺桶の上から巨大な石が落ちてシュンが入った棺桶を地中に捩じ込むと、グレゴリオは激しくオルガンの演奏を始める。

ココナが心肺の声を上げるが…次の瞬間にはシュンは巨石毎破壊して棺桶を脱出し、グレゴリオに向き直った、

 

「ふふっ…いつぶりでしょうか、私の命に指がかかったのは」

「シュン姉さん…!」

 

それでも、シュン達はグレゴリオの領域に囚われたまま。

劣勢の状況の中、それでもシュンはグレゴリオに挑みかかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コユキを吹っ飛ばした後、イチカと合流し怪我の手当を地中ませたユウカは今回の騒動の間に得た情報を伝達していた。

 

「じゃあ、アヤネさんは無事なんすね」

「ええ、出来る限りの処置は施したわ。それにあの子も元々特異現象捜査部として前線に出てたんだから幾分かは頑丈よ。でも、やっぱりそっちにはホシノ先輩が封印されたことは伝わってなかったのね」

「私達は直ぐに室内に入ったっすからね」

「封印されても粘るあたり本当にあの人っぽいね…凄いよ、ホシノ先輩は」

「…2人はここで救護をお願い。私はレンゲちゃんやナギサさんと合流して地下5階に向かうわ」

「ん…なら私も…」

「駄目よ。ここからの戦いは私で最低限。はっきり言って足でまとい、邪魔よ。ここで待機してなさい」

 

厳しくも現実を突きつけたユウカは、カズサとイチカを置いて死地へと赴くのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────22:10 セミナー本部駅 構内

 

ヒナにセリカを任せたアリスは他のチームと合流しようと仲間を探し回っていたが、一向に見つからずそのまま1人駅に突入していた。

 

事前に聞いていた報告によれば駅の中に人が大勢閉じ込められていた筈だが、何故か内部にはもぬけの殻で、アリスは困惑する。

しかし足を止める時間もなく駅の地下まで降りたアリスだったが…

 

「…あれ?」

「…!天童アリス…私の、妹と仲間の仇ぃ!」

 

ゲーム開発部の生き残り…アリスに憎悪を募らせていたモモイが、有無を言わさず襲いかかった。

 

 

 

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