ブルア廻戦   作:天翼project

4 / 155
今回は呪術廻戦0の後編部分でお送りします。


0後編

街に溢れかえる特異体への対応で怪我した者を応急処置する仮説救命所で、セナは患者の治療のために駆け回っていた。

イチカやその他監督オペレーターの補助によって多少はマシにはなっているが、怪我人は増えるばかりで治療が追いついて居ない。

 

「セナさん!こっちもお願いっす!」

「そこに寝かせていてください!こちらを処置したら直ぐに向かいます!」

「了解っす!大丈夫っすよ、セナさんなら必ず治してくれるっす」

 

 

「…本当に面倒な事を…許しませんよ、ユメ先輩」

 

各所で上がる呻き声や患者を励ます者達の声に歯噛みするセナは、忌々しげに事の元凶である()()へ恨み口を叩いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「産まれて初めての激情、神秘が身体に満ち満ちてるね。身体能力の向上、五感も研ぎ澄まされてる…烏合じゃ相手にならないだろうし、直に叩かせてもらうよ」

 

仲間を…友達を傷付けられた怒りによって燃え盛るように神秘を滾らせるクロコを前にして、ユメは蛇のような人面の特異体の口から一丁の銃を取り出した。

それは…特級遺物『百花繚乱』

かつてユメが百鬼夜行自治区から強奪したものである。

 

「…先生、合わせて」

「大人は社会の上に立ち、子供を自分達に貢がせる駒と思っている。おかしいと思わない?キヴォトスは学園都市なのに」

 

ユメは百花繚乱…そして肩に掛けていた鞄を盾に変形させて地面に突き立てる。

対して、クロコは銃の握り心地を確かめると前傾姿勢になり、すーっと深呼吸する。

それに合わせて背後のプレナパテスと息を合わせ───踏み込んだ。

一蹴りで肉薄すると、プレナパテスは巨腕を振り下ろし、ユメが避けた先にクロコが撃ち込む。

ユメはそれを盾で受け流し、滑るような機動でクロコとプレナパテスの連続攻撃を捌いていく。

 

クロコの足払いを跳んで避け…踏ん張りが効かない空中のユメをプレナパテスが腕を振るって殴り飛ばす。

直撃は盾で受け止めたユメだったが背中から電柱に衝突、へし折ってその奥まで吹き飛び着地する。

直ぐにクロコが追ってくるが、百花繚乱による射撃一発で向かいのビルまで吹っ飛ばし、背後に回り込んできたプレナパテスが振り下ろす腕の上に乗ってその上を駆け上がってクロコの方へ跳んだ。

 

ビルに空いた壁の穴から出てきたクロコは跳躍してくるユメに銃を乱射するも、全て盾によって弾かれ強烈なシールドバッシュを受けてしまう。

一瞬視界が点滅するほどの衝撃に意識が飛びかけ千鳥足になったところを、ユメはクロコの腕を掴むとビルの外に引っ張り出し、身体を回して遠心力で地面に向かって投げつける。

 

直下に滑り込んだプレナパテスがクロコをキャッチするが、ユメが落ちながら放った百花繚乱の弾丸がプレナパテスの額を撃ち抜き、巨躯が仰け反る。

プレナパテスの腕の外に出たクロコは着地しようとするユメの着地先に回り込み、銃のストックで殴りかかろうとするも百花繚乱の銃身で受け止められ、押し合う形になる。

 

「結局大人なんて、子供達を支配したいだけの利己の塊なんだよ!」

「あなただって大人でしょ…それなのに子供じみた事を言うんだね」

「論点がズレてるよ、クロコちゃん」

「!」

 

足元から出現したタコのような特異体の触手がクロコに絡みついて縛り上げる。

力尽くで引きちぎって脱出しようとするクロコだったが、その前に顔を百花繚乱で撃たれ助けに入ろうとしたプレナパテスの方へ吹っ飛んだ。

 

「私が望んでるのは啓蒙じゃなくて選民なんだよ。人より長く生きて権力があるっていうだけで子供達が搾取される。そういう大人の身勝手さが吐き気がするほど嫌いだって言ってるんだ」

 

 

”クロコ…”

「大丈夫…もう慣れてきた」

 

「…問答は終わりかな?」

 

プレナパテスに受け止められたクロコはユメの話に耳を傾けることすらせず、銃のリロードを済ませるとただ一点を見て集中する。

雰囲気がより深いものに変化したのを感じたユメは盾に身を隠し、迎え撃つ体勢を整える。

 

クロコの集中は極限の域にまで達して───

 

 

(───さっきより速い!)

「ん…!」

 

一瞬でユメの横を通り抜けて背後に回ったクロコは無防備な背中を狙い、銃にありったけの神秘を込めて乱射した。

しかし、それにすらユメは反応して盾で防いでしまい…同時にクロコの銃が込められた神秘の量に耐えきれず自壊する。

 

「駄目だよ〜?そんなに急に神秘を流し込んじゃ、器が持たない。ホシノちゃんに教わらなかった?神秘を込める時は少しずつ───うべっ!?」

 

壊れた銃のグリップを放り捨てたクロコは話の途中にユメの盾を左手で掴んで強引に退かすと、余った右腕をその顔面に叩き込────黒閃が生じる。

それによって威力が引き上げられた打撃は強靭な腰の強さを持つユメですら踏ん張れず、軽々と吹き飛んで地面を転がった。

 

「…やるね」

 

「分からない…!私には、大人のことなんて知らないし、あなたがしようとしてることが正しいかどうかなんて私には分からない!でも…私が皆の友達でいられるために…私が、生きてていいって思えるように…!あなたを殺さないといけない!」

「…中々自己中心的だね。でも、自己肯定かぁ…生きていくならそれ以上に大事なことは無いよ」

 

クロコの慟哭に、思うところがあるように呟いたユメは殴られた事で鼻からドクドクと流れる血を拭うと、立ち上がって盾を横に突き立て、百花繚乱をその隣に置く。

当然、それは降参の意思表示などではなく…ユメは両手を広げた。

 

「私は全霊を持って君を殺すよ。もう質も量も妥協しない…知ってる?特級を冠する生徒は4人…確認されている限りアウトローは5人、特異体は16体存在するんだ。これは、その内の一体」

 

ユメの横に、靄のようなものがかかって次第に”それ”が姿を現す。

”それ”は、両腕にガトリング砲を持った修道女のような格好をした特異体。

明らかに、これまでクロコ達にけしかけてきたものとはレベルが違う存在。

 

「特級複製特異体”聖女バルバラ”…さらに、私が今持ってる特異体4461体の特異体を1つにして、君にぶつける───特異操術極の番『うずまき』」

 

「…」

 

ユメの背後に、どす黒い渦が巻く。

そこに内包されるのは、途方もない数の特異体、その凝縮。

クロコとプレナパテスはその脅威に晒されて…それでもなお勝利を諦めない。

 

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、ユメが放った特異体による百物語に襲われる百鬼夜行連合学園自治区。

百鬼夜行支部の生徒を初めとした多くの生徒がそれに立ち向かうが、その中に現れた一際強力な個体により1人、また1人と生徒が屠られていた。

 

四足歩行の甲虫のような甲殻に覆われた巨大な特異体がまた1人生徒を飲み込む。

圧倒的な戦力差に絶望しながらも、それでもあの特異体を止めようと1人の生徒が飛び出そうとして───駆けつけたユウカがその生徒の肩を掴んで止めた。

 

「あ…ユウカさ…」

「ここは私が。下がってなさい」

 

生徒の前に出たユウカは2丁のサブマシンガンを構えると、先程から猛威を奮っていた特異体へと突っ込む。

それに気付いた特異体は巨大な口でユウカに食らいつこうとするが、それを跳んで避けたユウカは特異体の背に向かって銃弾をばら撒き、怯んだ隙に足元に潜り込んで4本の脚を撃ち抜く。

四肢の腱を精確に貫かれたことで特異体はバランスを崩してその場に倒れ込んだ。

 

そこへ、近くの建物の中から無数のバッタのような特異体が現れる。

銃をリロードし、それらの背中の上を飛び回りながらユウカはそれの殲滅を始める。

 

軽く数十いた筈の特異体はあっという間に数を減らし、僅か1分足らずで全滅、更に先程倒れた巨大な特異体は這いずってユウカを飲み込もうとし───その頭部が線分され、88%の長さに当たる点に銃弾が撃ち込まれ、黒閃を生じながら消し飛ばした。

 

「次、かかってらっしゃい」

 

 

 

 

また、百鬼夜行では別の場所でも百物語への反撃が進んでいた。

 

木造の建物の上を駆け回るマコトは、特異体を捉え次第次々と狙撃して鎮めていく。

 

「キキッ、そっちに行ったぞヒフミ!」

「なんで楽しそうなんですかぁ!?もう、シン陰流『簡易領域』!」

 

ヒフミを中心として半径12.3mの円陣が広がり…その範囲内に2体の特異体が侵入した瞬間、脊髄反射による神速の速射によって撃ち抜かれる。

なんとか倒した事に安堵したヒフミだったが、直ぐ真横の建物から壁を突き破って特異体が現れ…直後に駆け抜けた高出力のビームがそれを飲み込む。

 

「あっ…メカペロロさん」

「油断するな、ヒフミ」

「あんたもね」

「!」

 

ヒフミに注意するメカペロロだったが、その頭上から襲いかかろうとした特異体が狙撃され上を見上げると、嫌味ったらしく笑うキキョウが見下ろしていた。

 

3人の元に戻ってきたマコトは、近くにいたもう一体の特異体を踏み潰し、端末を取り出す。

 

「貴様ら警戒を続けていろ!フウカ、どうだ?」

『西の方向から特異体7体接近中よ』

 

通話の奥から、箒に乗って空から街を見下ろすフウカが敵味方の位置を把握しサポートを行う。

報告を聞いたマコトは一旦通話を切ろうとしたが、ふと気になってもう1つフウカに聞いた。

 

「…アオイはどこに行った?」

『あ〜…もうすぐ会えると思う…』

「…この轟音か」

 

丁度良く近くで次々と建物が崩壊する音が轟き、それがマコト達の方へ段々と近づいてくる。

少しして…どこからか跳んで来たアオイがマコトの前に着地して地面を砕く。

 

「今までどこに行ってたんだ貴様…あ!」

 

その時、建物より大きな特異体が一同の前に現れて咆哮を上げた。

他の有象無象とは格段に強い神秘を持ったその特異体にマコト達は尻込みするが…真っ先にアオイがそれに向かって駆け出してしまう。

 

「ま、待て!そいつは危険だ!1人で…!」

「8時からの中継で、連邦生徒会の年末決算報告会議にリンちゃんが出席するわ。こんなところでもたついていられるわけないじゃない!」

「…おい!」

 

1人であの強大な特異体に向かって行くアオイを止めようとするマコトだが、端末からフウカの報告が入る。

 

『マコト!東からさらに10体以上!』

「ぐぅっ…全員迎撃態勢に付け!クソッ、キリがない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クロコちゃん。君がプレナパテスを使いこなす前に来て良かったよ」

「…」

 

4000を超える特異体を凝縮したユメの『うずまき』を前に、不思議と緊張はなくクロコは随分と昔の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

初めて人のいないアビドスに通った時、ただ1人クロコを迎えて教鞭を執ってくれた先生との出会い。

 

 

『先生は…ずっと私の先生でいてくれる…?』

”…うん。私は、いつまでもずっと、クロコの味方だよ”

『…約束だよ!』

 

今でも宝物のように大切に持ち続ける、思い出のカードをくれた時の先生との約束。

 

 

 

 

 

 

思い出から目を覚ましたクロコは、背後に立つプレナパテスへと振り向くと背伸びして首に腕を回し、ギュッと抱き着いた。

 

「先生」

 

”何かな、クロコ”

 

「いつも見守ってくれてありがとう。私に色んなことを教えてくれてありがとう…最後に、もう一度力を貸して。あいつを止めたい。そのあとは…もう何も要らないから。私の未来も、心も…全部先生から貰った。だから…これはそのお返し────私は、先生から卒業する」

 

 

 

 

 

 

 

”うん、頑張って。クロコ”

 

 

 

 

 

 

プレナパテスから、莫大な神秘が吹き出す。

暴風のように荒く、大津波のように激しく、火山の噴火のように凄まじく…そして、空のように、海のように、大地のように、優しい神秘が。

 

(自らを生贄にした神秘の制限解除…!)

「そう来るかぁ〜、この甘え上手さんめ…!」

 

「ん、失礼な…親愛だよ」

「なら、こっちは大義だよ!」

 

プレナパテスと共にクロコが前に出した腕の先に、桃色の神秘のエネルギー収束する。

その圧倒的な出力を前に冷や汗を流すユメは、初めてクロコに怒りを吐き捨てると『うずまき』に凝縮された特異体を解き放つ。

 

同時にクロコも収束させた神秘のエネルギーを解き放ち───莫大な神秘が爆ぜ、爆風と衝撃波によって一帯の建物が根こそぎ消し飛ばされた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

フラフラと、不安定に壁に身体を寄せて歩くユメ。

『うずまき』はクロコとプレナパテスが放った神秘エネルギーとの衝突に押し負け、その破壊の力が全てユメへと降り注いでいた。

 

それによって片腕を失い、全身が震え歩くことすらままならず遂には壁に寄りかかりながら座り込んだ。

 

「ふ、ふふふ…凄いや…本当に…まさに世界を変える力だね…プレナパテスさえあれば、せっせこ特異体を集める必要も無い…今度、こそは…いや…遅かったね、ホシノちゃん」

 

懐かしいその気配を感じて…ユメは全身の力を抜く。

視線も送らず、既にそこに来ていたホシノは瀕死のユメを見て目を細める。

 

「いやぁ〜…ホシノちゃんで詰むかぁ…私の家族は無事だったかな?」

「揃いも揃って逃げおおせてましたよ。百鬼夜行の方もユメ先輩の指示ですよね?」

「まあね〜…ホシノちゃんと違って、私は優しいから…あの2人を私にやられる前提で送り込んだでしょ?容赦ないね〜…クロコちゃんの起爆剤に使いたかったの?」

「そこはユメ先輩を信用しましたよ。理由もなく子供を殺したりなんかしないって」

「信用…まだ私にそんなもの残してたんだ…」

 

 

薄れ行く意識の中、ユメはかつてホシノと共に過した日々を懐古する。

もう戻らない…あの頃の青春。

もう取り戻せない…ホシノとの思い出。

 

「…ユメ先輩。子供はいつか大人になります。私も…ユメ先輩も、もう立派な大人です。いつまでも…子供のままじゃいられないんですよ」

「…ふ、ふふっ…クロコちゃんと同じようなこと言うんだね。あれもホシノちゃんの教育の賜物かな…?」

 

昔のように自分を叱るホシノに、ユメは穏やかに笑った。

するとふと思い出したように、ユメは懐からクロコの学生証を取り出すとホシノへと投げて寄越す。

 

「これ返しといてね〜」

「うん?クロコちゃんの学生証…?初任務の時に失くしたって聞いたけど…もしかして小学校のもユメ先輩の仕業だったんですか?」

「まあね〜」

「はぁ…何か言い残すことはありますか?」

「…誰がなんと言おうと、私は大人が嫌い。でも…S.C.H.A.L.Eまで憎かったわけじゃないよ…ただ、この世界じゃ私は心の底から笑えなかったんだ」

 

「…ユメ先輩」

「うん…?」

 

瞳から徐々に光を失い瞼を下げていくユメに、ホシノは傍にしゃがみこむとただ一言を送った。

 

 

 

 

「────────」

 

「…ふふっ、本当に…最後ぐらい…恨みの言葉を吐いてよ…」

 

 

 

 

 

 

 

バチュッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…ロコ!…クロコ!」

 

 

「休暇!」

「おい!大丈夫か!」

「しっかりしろ!」

 

「ん…」

 

自分の名前を呼ぶ声。

微睡みから呼び覚まそうとする大切な友達の声。

クロコが目を覚ますと、倒れる自分の顔を覗き込むレンゲとミノリ、そしてペロロの姿があった。

それを認識するとクロコは飛び起き、心配が逸る。

 

「…っ!皆…怪我は!?レンゲ…ミノリ…わわっ!?ペロロ破けてる…!」

「落ち着け、全員今のお前より元気だ」

「外装が破れたぐらい、後で縫い直せばいい…私は無事だ。助けてくれて、ありがとう」

「デモ!」

「そう…良かった」

 

皆の無事を確認すると、レンゲはそれまでに溜まっていた疲れがどっと出て表情が綻んだ。

3人もクロコの無事を喜びあって…その時、少し離れた場所で瓦礫を押し退ける音が響いた。

 

 

 

”クロコ…”

 

「あっ…先生…」

 

 

全身をボロボロに…仮面のような顔に亀裂が走るプレナパテスに、クロコは疲れた体を必死に動かしてゆっくりとだが歩み寄っていく。

瓦礫の中から脱出し立ち上がったプレナパテスのすぐ前まで近付き、その顔を見上げた。

 

「ごめんね先生…待たせちゃって」

「どうした、クロコ?」

「…約束したんだ。あいつを倒して…私は先生から卒業するって」

 

 

「やあやあ皆〜!生きてる〜?あ、クロコちゃんはおめでとう」

「何してるんですかホシノ先輩」

「なんでここにいんだ、仕事はどうした」

「結局今回も間に合わなかったな」

「プロレタリア」

「うへ〜…後輩の当たりが強くて辛いよ〜…」

 

足場の悪い瓦礫の上をぴょんぴょんと飛び跳ね、拍手しながら現れたホシノに特に歓迎の雰囲気はなく思い思いに言いたいことをぶつける。

大袈裟にがくり、とジェスチャーするホシノだったが、気を取り直してプレナパテスの方を見やった。

 

「この前クロコちゃんが言ってた仮説、面白いと思ってね。家系の調査を依頼してたんだ。するとびっくり、プレナパテス先生はなんとかつてキヴォトスを襲った”色彩”を鎮めた『偉大なる先生』の子孫だったらしいよ」

「「「!?」」」

「えっ…誰…?」

 

ホシノの話にピンと来ないクロコだったが、レンゲ達は驚愕に目を見開き、逆にそれを知らないクロコに詰め寄る。

 

「キヴォトス三大偉人の1人だぞ!?」

「超大物じゃないか!」

「デモ!」

「えぇ…」

 

「まあ、その子孫だけあって大人としての責任っていうか、生徒を思う気持ちが凄まじかったんだろうね。だから、死後も君の事を見守り続けようとした。だから…後は、彼が君の事をもう見守らなくても大丈夫だって思えたのなら…プレナパテスの解放は完了だよ」

「…」

 

それを聞き、クロコは待ってくれていたプレナパテスに改めて向き直る。

プレナパテスはクロコを見下ろすと、割れた顔の奥からクロコに話しかけた。

 

 

 

”全部、私が悪いんだ。クロコの事が心配で…クロコが望んでないのに多くの人を…生徒を傷付けた。私がいたから…クロコの友達も傷付くことになった私は…先生失格だよ”

 

「…ううん。先生、ありがとう。沢山色んなことを教えてくれて…ずっと側で見守ってくれて。私はこの6年を、幸せじゃなかったなんて思わない」

 

”…クロコ”

 

「…何、先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

”卒業…おめでとう”

 

「…」

 

 

仮面の奥、その向こうにある先生と目が合った気がして、クロコは抑えきれず涙がポロポロと零れ落ちる。

長いようであっという間だったクロコと先生の青春は、6年の時を超えてこの時終わりを告げた。

 

 

”早く会いに来ちゃ、駄目だよ”

 

「ん…先生────

 

 

 

 

 

─────またね」

 

 

”…うん、さようなら”

 

 

 

プレナパテスの身体が、光の粒子となって崩れて空に登っていく。

夜明け間近の遠くに明かりが見える空を彩る、蛍火のような幻想的な光。

その揺れ動きはまるでクロコに手を振っているようで…やがてプレナパテスは完全に消滅し、特級過責特異体…先生として責任を果たし、その役割を終えたのだった。

 

 

 

その日キヴォトスでは各地から天に登る光の粒子が連なった柱のようなものが観測されたが…連邦生徒会により百物語での特異体の襲撃やS.C.H.A.L.E近郊の大破壊共々、その全ての噂が速やかに収束させられた。

 

 

 

 

 

 

 

 

雪が降り、未だ再興中の街を銀世界に染め上げる。

 

 

クロコは制服を着てホシノと共にS.C.H.A.L.Eへの通学路を歩いていると、思い出したようにホシノが言った。

 

 

「今更だけど…ユメ先輩の件はクロコちゃんに非はないよ。クロコちゃんがいなくても、あの人は必ずS.C.H.A.L.Eに来ただろうしね」

「そうかな…」

「それと、ほらこれ」

「あっ、私の学生証…ホシノ先輩が拾ってくれてたんだ」

「…いや、私じゃない。私の先輩だよ…たった1人のね」

 

いつになくしんみりした様子のホシノにクロコは首を傾げる。

かける言葉は見つからず、このまま歩くのも気まずいと思っていると…そんな静寂を壊す元気な声が聞こえて来る。

 

 

「おーい、クロコ!いつまで待たせるつもりだ」

 

 

道の先に厚木に着込むレンゲやミノリ、ペロロが待っていた。

自分が守った…守れた青春。

先生との青春が終わり…新たに掴んだ友達との青春。

 

クロコはチラッとホシノを見るが、ホシノは顎をしゃくって行くように促すとすっかり自然に笑えるようになったクロコは3人の方へと駆け出した。

 

「ほら行くぞ!」

「今日も訓練だ。また何かあった時に遅れを取らないように鍛えるぞ」

「デモ!」

 

 

 

 

「うん…!」

 

 

 

 

壊れた街も、傷付いた心も、大切な人との別れも…時間と共に強かな生徒達は復興し、癒し、乗り越えていく。

 

ここはキヴォトス、学園都市。

子供達が未来を切り拓く、そんな世界の物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オデュッセイア海洋高校の運営する巨大宿泊船。

旅行や観光に来た生徒で賑わい、人が集まるが為に暴れる生徒達の喧騒があちこちから聞こえ、その対応に船員の生徒が駆け回る。

 

どこでも起こる銃撃戦はキヴォトスの日常。

今更それを一々気にしていてはやっていけるはずもなく、すっかりこの風景に馴染んだクロコは甲板の屋外カフェで刺身を挟んだサンドウィッチをもっ、もっ、と口にしてだらしなく表情をふやけさせていた。

 

「ん…美味しい…」

「そうデショウ!ここのフィッシュサンドはワタシのオススメでして、絶品なのデス!」

 

クロコと共に何故か行動を共にしてここへ来ていたフィーナは、自分の好物をそれは美味しそうに食べるクロコを見て気を良くし饒舌になる。

 

「このサンドウィッチにはここのコック自慢の特性ソースが使われてイマシテ、このソースさえ入っていればどんな料理デモ美味しくなる魔法のソースなのデース!」

「へぇ〜…」

「…そんなことヨリ…本当に小鳥遊ホシノは帰ったんデスよね?」

「…?うん」

「ならいいデース」

 

随分とフィーナと親しくなったクロコは別の具材のサンドウィッチにも手を出し、またまたフィーナがそれを自慢のように説明した。

そんな楽しそうな時間が流れ───フィーナはいつの間にかクロコの後ろに立つ人物の姿を見て硬直する。

 

「…なんでアナタがココに…」

「ん…?あっ、ホシノ先輩」

 

「や、クロコちゃん。久しぶり」

 

 

普段の制服とは違った、ラフな旅行向けの服装のホシノは久々に会った後輩にひらひらと手を振った。

 

 




備考
『偉大なる先生』…本作におけるキヴォトスでは本編よりずっと昔に色彩襲撃イベントがあったが、それを当時の先生が解決した。
この先生の活躍は概ね最終編のものと同様だが、ブルーアーカイブの主人公である『先生』とは別物であり、『先生』の配役先というわけではない。
ぶっちゃけて言うと原作で言う乙骨の先祖やら五条の親戚関係の話をどうするかと悩んだ末に思い付いた設定なので特に覚える必要は無い。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。