セミナー本部駅地下に突入する少し前。
特異現象捜査部の者を入れない結界が上がった事で一足先にそれまで進めなかったセミナー本部駅周辺地区に向かったアリスは、街中に溢れかえる手当たり次第に近くの者を襲う改造された生徒と逃げ惑う一般人達の姿を見つけた。
「なんて数…!放ってはおけませんが、流石に全員は…」
人の多さ、改造された生徒の多さ、そして人々の密集度がアリスによる救助を困難にさせている。
これだけ人が集まっていれば当然レールガンは使えず、直接一体一体改造された生徒を対処しようにも数が多くてどうしても犠牲が出てしまうだろう。
その上、あくまで主目的はホシノの奪還でありここに時間をかけていれば間に合わなくなってしまうかもしれない。
今こうして迷っている間にもホシノが連れ去られてしまっているかもしれないというのに、まだアリスにはその踏ん切りがつかなかった。
(駅は…ホシノ先輩は直ぐそこなのに…!仕方ありません、まずはここを直ぐに片付けて───)
「───労働!」
「…!その語彙は!」
聞き覚えのある語彙にアリスは声の方を向くと…そこには拡声器を片手にアリスにピースを送っていたミノリがいた。
「ミノリ先輩!」
「デモ!」
「…すみません、ミノリ先輩!ここお願いしても良いですか!?」
「デモデモ」
「ありがとうございます!」
アリスはこの場をミノリに任せてセミナー本部駅を目指し、残ったミノリは拡声器を起動するとそれを逃げ惑う人々や改造性と達へと向ける。
そしてマフラーを外して口元を晒すと、拡声器を通して『言霊』を発動した。
『働くな』
────22:10 セミナー本部駅 構内
ミノリに一般人の救助を任せたアリスは他のチームの者と合流できないまま1人セミナー本部駅に突入した。
事前に聞いていた報告によれば駅の中に人が大勢閉じ込められていた筈だが、何故か内部にはもぬけの殻で、アリスは困惑する。
しかし足を止める時間もなく駅の地下まで降りたアリスだったが…
「…あれ?」
「…!天童アリス…私の、妹と仲間の仇ぃ!」
ゲーム開発部の生き残り…アリスに憎悪を募らせていたモモイが、有無を言わさず襲いかかった。
モモイのライフルから弾丸が放たれるが…まるで噴水から吹き出されたように高圧の血と共に出てきた弾は、推進力を得て急激に加速し異常な速度でアリスへと迫った。
咄嗟にレールガンを盾にするアリス。
しかし、今までどんな攻撃にも耐え、それそのものによる超高火力な攻撃の反動すら抑え込む頑強さを持ったその銃身に、放たれた弾丸がめり込んだ。
「なっ…」
モモイが扱う秘儀は、百鬼夜行支部のマコトが使っていたものと同様の『赤血秘術』
特に血の繋がりがあったり万魔殿と関係がある訳では無いが、系統として存在する秘儀の中でたまたま同様のものを生まれ持ったモモイのその秘儀の使い方は、マコトの使い方とは少し異なっていた。
マコトは弾丸に自身の血を混ぜることで放った弾を相手に追尾させるように操れるが、モモイは血を吹き出す事で生じる推進力で弾丸を加速させ威力を引き上げている。
理屈はマコトが手から直接血を水圧カッターのように放つ『穿血』と似ているが、強いて違いを挙げるならモモイの場合は直接血で攻撃するのではなく弾丸を発射するので、弾丸そのものに特殊な加工を施して追加効果を狙えるという部分だろうか。
モモイが練りに練って考えた奥義、その名を───『生苦』
再び『生苦』が放たれ、アリスは下手に受ければレールガンが破壊されかねないと弾道を読み身体を捩って回避する。
アリスの服を掠めた弾丸はその後方にあった階段に突き刺さり、コンクリート製のそれを容易く粉砕して崩壊させた。
「くっ…光よ────!」
「んっ…!」
次の攻撃が来る前にレールガンを放ったアリスだが、モモイは片腕を前に突き出すと、腕に神秘を纏い保護した上で迫る極大のエネルギーを受け止め…バチッ!と強引に弾いてその軌道を逸らしてみせた。
受け止めた腕は完全に防ぎきれなかったのか軽く火傷しているが、それも戦闘に支障が出るようなものでは無い。
(想像以上高い火力…でも問題ない、私なら勝てる。なら今考えなくちゃいけないことは…)
「…ねえ、あなたに聞きたいことがあるの。私のユズとミドリは最期に何か言ってた?」
「ミドリとユズ…やっぱりあなたは…」
「聞いてんの!さっさと答えて!」
「…何も。ただ…泣いていました」
「っ!ミドリ!ユズ!見てて…これが皆のお姉ちゃんだよ!」
実妹のミドリ、妹のように気にかけていたユズ。
共に過ごし、共に一喜一憂し、共に戦ってきたモモイにとっての”妹達”。
大切な仲間であり家族を殺された怒りは激情となり、モモイの神秘が膨れ上がった。
モモイの手のひらの上に大量の神秘が集まり…それが反転して”恐怖”に転じ、肉体の修復を身体の外側で行うという荒業で高密度に圧縮された血の球体を作り出す。
あれはマズイと感じたアリスは先手を取って殴りかかるも、顔を狙った拳はギリギリで回避され逆に腕を掴まれて投げ飛ばされる。
今の攻防でモモイの手から離れた血の球体は空中に浮き上がり、アリスが投げられて地面を転がったのと同時に炸裂して破片爆弾のようにアリスへと降り注いだ。
「ぐぅっ…!」
それに気付いたアリスは咄嗟に降り注ぐ血の雨の密度の小さい場所に転がって被弾を最小限にするが、幾らか浴びた血が強い衝撃を身体に与えて来て声を漏らす。
体勢を崩したままではいけないと次の攻撃が来る前に起き上がるも、モモイが手を挙げるとアリスが浴びていた血、そして辺り一面に飛び散っていた血が逆再生されたかのようにモモイの手の中に収まって再び高密度な血の球体を作る。
そしてモモイは動きが鈍ったアリスに急接近すると顎下をアッパーでかち上げ、浮いて身動き出来ないアリスに血の球体が収まった腕でアリスに殴りかかり…それと同時に手を開いて手の中の血の球体を炸裂させる。
直撃する寸前に直ぐ真後ろにあった壁をレールガンで叩いた反動でなんとかモモイの腕の正面から逃れたアリスだったが、最も密度の高い場所は避けられても全方位に飛び散る血に巻き込まれて吹っ飛ばされ、背中を地面に叩きつける前にバク転の容量で着地しながら後方に下がる。
だがそれによってモモイと距離が離れてしまい、再度モモイはアリスへと銃口を向けた。
(あの血で加速する弾丸は速過ぎます…避けられるかどうかは五分といった所でしょうか。勘が外れて頭部にでも受ければ死にますね…ならばせめて…!)
不意に撃たれれば確実には避けれないと判断したアリスは、あえて身体から力を抜き身体の重心をかかとに置いて後ろに倒れ込むような体勢を取って隙を晒した。
(撃たせるタイミングはこちらで決めさせてもらいます!)
(明らかにわざと隙を作ってるよね…誘ってるのかな。良いよ、受けて立つよ…!)
アリスの足裏の前方が地面を離れかかとだけが接地する状態。
姿勢が後ろに傾いたその瞬間、モモイは『生苦』を放つ。
音速にすら突破する超速の弾丸を…アリスは顔の薄皮1枚を掠めて回避し、地面を蹴ってモモイへと肉薄する。
レールガンをチャージしながら接近と同時に発射しようとするアリス。
モモイは防御の姿勢が間に合っておらず、反応し切れていないのだとアリスは決めにかかろうとして───背中から受けた強い衝撃に身体が仰け反って態勢を大きく崩してしまう。
「な、何がっ…!?」
「『超新星』…良いネーミングセンスだと思わない?」
モモイが『生苦』で弾丸と共に噴出された弾丸を加速させる高圧縮された血液は、発射後にアリスの背後に集って高密度の球体を作り、アリスの直ぐ真後ろで炸裂したのだ。
モモイは前のめりになったアリスの脚の甲を撃って機動力を削ごうとするも、歯を食いしばって痛みを堪えたアリスはモモイの腹に膝蹴りを加えて蹴り飛ばす。
だが吹っ飛びながらモモイは銃の照準を精確にアリスへと合わせ…『生苦』を放つ。
高圧の血の噴出で加速した弾丸はアリスの横腹に入り、その威力でアリスも吹っ飛ばされ地面を転がって身体を壁に打ち付けた。
「ぐあっ…うぅ…!」
「ちぇっ、圧縮が足りなかったかな…貫通出来なかった」
(あの人…強い…!なんで私は、勘違いしていたんですか…!)
この頃勝ちが続いていたアリスは自分があの古聖堂の時より、トリニティの時よりレベルアップして強くなったのだと調子づいていた事を自覚していた。
それでも勇者は負けないという信条と、なんとかなるという心のどこかにあった楽観がそれを重く見ていなかった。
その結果がこれだと、アリスは内心自分自身へ毒を吐く。
いつまでもモモイと戦っていれば先には進めず、それどころか勝てるかすら怪しい現状。
どうにか打開策を考えていた、その時。
アリスのポケットの中から声が響いた。
『…おい、どういう状況だ?』
「っ!メカペロロ!?」
「うん…?」
何か話し始めたアリスに首を傾げるモモイ。
そんなモモイに注意を払いながらアリスは身体で死角を作ってポケットの中にしまっていたメカペロロの小型傀儡を取り出すと、自分の長い髪に隠すように耳元にくっつける。
そして疑問を感じながらも遠距離から攻撃を仕掛けてくるモモイに気付かれないよう、それらを回避しながら小さな声で会話を行った。
「今まで何を…」
『省エネだ。私にはまだやることが…ん?あれはモモイか。確かマコトと同じ秘儀を使ってたな』
「知ってるんですか…?」
『ユメ達と取引して合流していたのはな。言っておくが弱点までは知らんぞ』
「うえぇ…」
『まあ解説ぐらいはしてやる。赤血秘術は主に特異現象捜査部のゲヘナ支部、万魔殿直轄の部隊が重用する相伝の秘儀だ。血液を圧縮する百蘞、それによる穿血や血刃で近、中、遠距離全てに対応出来るバランスの良さが強みだな。恐怖を扱い自己再生が出来るモモイに失血のリスクはない』
「つまり勝てないってことですね!有益な情報ありがとうございます!」
メカペロロの説明中も容赦なくモモイが放ってくる『生苦』や『超新星』を避けながら、聞けば聞くほど打つ手が無くなっていく情報に若干キレ気味にアリスが嫌味を言う。
しかし冷静なメカペロロは少し考え込むと、周囲の状況を確認して何か策を思い付いていた。
『アリス、弱点は分からないがアイデアはある』
「はい?」
『まずはトイレに逃げ込め』
「トイレ…何故ですか?」
『説明は後でする。成功率は1割程度だな。悪いが失敗したら潔く死んでくれ』
「うわーん!辛辣過ぎます!」
『どうせこのままではジリ貧で殺されるだろうからな』
段々と激しさを増していくモモイの猛攻に回避の限界を感じ始めていたアリスは、仕方なくメカペロロに従って近くにあったトイレへと駆け込んだ。
「ふんっ、そこにあるのはトイレだけだよ。逃げ場なんかないよばーか!…うん?」
どの道そこに逃げ込んだ所で籠城程度にしかならず、相手に時間が無いことを知っているモモイはトイレの前でアリスを待ち構えるつもりでいた。
だが、トイレの奥から聞こえる何かを破壊するような音に警戒心を強める。
(何の音…?あいつはミドリとユズにも勝ってる。ただのお馬鹿じゃあの2人には勝てるわけないし…罠でも張ってるのかな?それに誰かと話してたみたいだし…油断はしない。いいよ、わざわざ中までは追わないし。出てきた瞬間を───)
『なんだ、来ないのか?弱虫なんだな、お前の妹達と同じで』
「…殺してやる!」
メカペロロの煽りにまんまと乗ったモモイはトイレへと突入し銃を構え…トイレの中が、パイプが破壊され噴水のように吹き出す水でびしょ濡れになっているのを見る。
『本当にそっくりだな。3人とも仲間思いで扱いやすい』
「っ!」
モモイは声が聞こえた左の方に『生苦』を放つが、弾丸が貫いたのはメカペロロの小型傀儡。
ここまでアリスをサポートし続けた小型傀儡は遂に破壊され…トイレの入口の右側に張り付くように隠れていたアリスがメカペロロに気を取られて向けたモモイの背中を狙う。
(ここまでは作戦通り、後は賭けです!)
アリスがありったけの神秘を込めて放った拳は…やはりギリギリで躱され、飛び退いたモモイがアリスに銃を向け、さらに周囲に血の球体を浮かべる。
「残念だね、今のが最後のチャンスだったのに」
「それはどうでしょうか?」
「!」
勝利を確信したモモイだったが、銃の引き金を引いても弾が出ず、その上浮かべていた血の球体も溶けるように床に落ちて制御が効かなくなった。
『赤血秘術』は秘儀の効果を上げるために血液の凝固反応が無効化される。
その為モモイの血は水に溶けやすく、加えて水に晒された血液の中では浸透圧で赤血球が膨れ細胞膜が破れてしまう。
血液の45%を占める血球成分がコントロール出来なくなった事で、モモイは秘儀を保てなくなったのだ。
アリスの不意打ちを避けた際水が吹き出すトイレの奥の方に飛び退いてしまったことが悪手となり、ついでに防水加工の施されていないモモイの銃は水で湿気り使えなくなる。
そしてこの状況下では、モモイは体外での血液操作が不可能。
「…『クリエイティブセンス』」
知識に疎いモモイは自身に何が起こったのかを理解出来なかったが、冷静に現実を受け止め体内で完結する血液操作…マコトが扱う『赫鱗躍動』と同様の身体強化を自身に施して体術のみでアリスと向き合う。
対してアリスは脅威となるモモイの遠距離攻撃を封じたことで自身の土俵へと持ち込み、トイレの中では流石に狭過ぎて使えないとレールガンを降ろして構えを取った。
水が吹き出す音、床を跳ねる音、身体を濡らす水の冷たさにアリスとモモイ、両者の神経が研ぎ澄まされ…同時に動く。
アリスのボディブローを肘で止めたモモイはカウンターの膝蹴りを叩き込もうとするが、後ろに跳んでそれを避けたアリスは壁に着地し、壁を蹴った勢いで高速の突進を仕掛ける。
身体に組み付かれたたらを踏んだモモイに、地に脚を付けたアリスが持ち上げてジャーマンスープレックスをかけようとするが、頭から地面に落とされるのを先に地に付けた腕の腕力で強引に凌いだモモイは脚を振って身体に組み付いていたアリスを振り落とす。
双方地面を転がって全身を水に濡らし、同時に立ち上がるも先にアリスがモモイの肩を掴んで頭突きを入れた。
「あぐっ…!」
「うおりゃあぁぁ!」
脳を揺らされモモイが大きくふらついた所にアリスの渾身のボディブローが確かに決まり、モモイが吐血する。
(勝てる…!)
殴り合いならば自分の方が上だと確信したアリスは追撃にモモイの顔に上段蹴りを入れ、トドメの一発を入れようとして────戦闘中、モモイが服の内側で水に晒されないように小さく圧縮した上で直前まで凝固させていた血の球体がアリスの方向へと炸裂し、至近距離からアリスを巻き込んだ。
「がぁっ…」
「ふん…終わりだよ」
至近距離からの『超新星』の貫通力は生半可なものでは無く、アリスの耐久力ですら耐え切れず飛び散った血の一部がアリスの体を貫いた。
(油断…しました…もう遠距離技は来ないと…どこを貫かれて…壊れてはいけない部分が壊れたような…)
アリスは知る由もないが、この時アリスは肝臓を貫かれており、それは十分な致命傷になる。
視界が朧気になり、立つことすらままならなくなったアリスは倒れ込みそうになるが、気合いで踏みとどまって戦意を衰えさせなかった。
(…理解しました、アリスの役割を。ヒナが、カズサが、ユウカが、先輩達皆が…ここを通ってホシノ先輩の元へ辿り着けるように。死んでも、この人を戦闘不能にします。勇者になるのは…アリスじゃなくてもいいんです!)
一方、アリスに致命傷を与え後は何もせずとも死ぬだろうと高を括っていたモモイだったが、咳き込み口元を抑えた手を見ると、咳と共に出た血が手を濡らしているのに気付いた。
(3発…たった3発しか食らってないのに、こんなにダメージを…それに…)
『赤血秘術』を扱う者でも、全ての血管に意識が行き届く訳では無い。
少しでも水によって制御が外れるリスクを避けるために炸裂の直前まで血の球体を凝固させたことで、その司令がモモイの体内の血液の1部にまで及んで血栓症を起こしていた。
それに加えてアリスから受けた打撃によるダメージは重く、既にモモイは万全とは言えない状態になっている。
それでも…アリスが未だ戦意を滾らせているのを見てモモイは向き合って構えを取る。
「…来なよ」
「はい…!アリスはモモイを殴ります!」
水飛沫を上げながら駆け出したアリスは身体に空いた穴の痛みを、内蔵が貫かれた苦痛をものともせず、破壊的な威力で拳を振るう。
大きく避ける体力も惜しいモモイは最小限の動きでそれを買わし、カウンターを狙ってはアリスがそれを避けて更なるカウンターを入れようとして、互いにギリギリまで消耗しながらも冷静に駆け引きを行う。
モモイは振るった腕に血を纏い、アリスがガードしたのと同時に炸裂させてそのガードを崩し、服の袖を引っ張ってアリスを床に転がす。
起き上がろうとしたアリスに血で作った小さな槍のようなものを突き刺そうとするが、水に濡れ強度が落ちたことで刺さりきらず、逆にアリスが不安定なその血の槍を殴り壊した事で飛び散った血がモモイの目にかかって一瞬視界を奪う。
目潰しが効いている間に起き上がったアリスは顔面を狙って拳を入れようとしてするが、水が血を洗い流しモモイが想定より早く視界を取り戻した事で受け止められ、腕を掴まれて引けなくなったところで躱しようのないカウンターがアリスの鳩尾を捉える。
「かはっ…ぐ、うぅ!」
「もう諦めなよ!あなたじゃ、私に勝てないんだって!」
「っ、それでも!」
互いに消耗しているものの、ダメージの差とそこまで早くは無いが恐怖による自己再生が行えることによって戦況はモモイへと傾いて来ていた。
これ以上続けても、先に限界が来るのはアリスの方だろう。
だが…
(アリスが置いたレールガン、もう使わないと思っているでしょう。だからこそ、この一撃は…入る!)
身体を捻って腰を入れたパンチを繰り出すと思わせて、アリスは身体に隠した手でスイッチを押す。
それは、レールガンの強化や整備を行うエンジニアが無駄に搭載した機能の1つ。
いつも要らない機能ばかりを…最近はBluetooth機能を付けられた…詰め込んでくる事に業を煮やしていたアリスだったが、今はその機能に感謝する。
普段は本体に組み込まれていて、必要な時に取り外し使えるスイッチ。
その機能は…レールガンの遠隔発射。
戦闘中モモイの位置を誘導し、調整し、事前に置いたレールガンの射線へと追い込んだ。
そして遠隔発射のスイッチを押したことで放たれた極大のエネルギーがモモイの脇腹に直撃し…
「…なんでっ」
「残念だったね」
レールガンによる攻撃で吹き飛ぶどころか怯みすらせず、不意をつく為にチャージをしない速射だったとはいえ当たったエネルギーの方が弾かれた事にアリスは呆然とする。
アリスがレールガンの射線を気にしていることを看破したモモイはアリスの油断を誘うために敢えて誘導に乗り、エネルギーの直撃は事前に被弾部を神秘で固めた上で血を纏って防御力を上げていたことでダメージをふせいでいたのだ。
そして切り札が防がれた事に対する驚きは決定的な隙となり───モモイの腕がアリスの肩を抉った。
骨ごと持っていかれたのか腕を動かせず、防御も出来ないアリスの鳩尾にもう一度一発叩き込んで遂にアリスがダウンして、その場にへたりこんだ。
他の者が受ければとうにヘイローが砕けているようなダメージを負っている筈のアリスだったが、まだ息があることに気付いたモモイは腕に血を纏ってそれを振り上げる。
「あの世でミドリとユズに詫びて」
『くだらないですね、この程度の者に負けるなど…ん?』
アリスが殺されそうになったことでそれを軽蔑しながらも、重い腰を上げようとしたKey。
しかしその直後に起きた異変に純粋に困惑していた。
「あっ…ああ…なんで、天童…アリス…?」
アリスにトドメを刺そうとしていたモモイだったが、意識を失っているアリスの顔を見てふと腕を止め…そして思い浮かぶ不可思議な
まるで脳の中で棘だらけの虫が暴れているような、そんな激しい頭痛に苛まれどこか人のいない狭い場所へ移動したモモイは、思い浮かんだ
「ああっ…!ん…あ…なに、これ…!?」
───突如モモイの脳内に溢れ出した、
『タイトルから分かると思うけど、このゲームは童話テイストで、色彩豊かな王道ファンタジーRPGなの。えっと、王道とは言っても色々な要素を混ぜてたりするんだけどね。トレンドをそのままでもだめだけど、王道に拘りすぎて古くなるからってことで』
『…ボタンを押します…Bボタン…???…!?!?』
『あはははっ!予想出来る展開ほどつまらないものはないよね!本当はここで指示通りじゃなくて、Aボタンを押さなきゃいけないの!』
『改めて見てもこの部分はちょっと酷いと思う』
『…も、もう一度始めます…』
『プレイを進めれば進めるほど…まるで別の世界を旅しているような…夢を見ているような、そんな気分…もう一度…もう一度…』
『ええっ!?』
『あ、アリスちゃんどうして泣いてるの!?』
『決まってるじゃん!それだけ私達のゲームが感動的だったってことでしょ!』
『い、いくらなんでもそれは…というかこのゲーム、ギャグ寄りのRPGのはずだし…』
『ありがとうアリス!その辺の評論家の言葉なんかより、その涙の方が100倍嬉しいよ!あー、早くユズにも教えてあげたい!』
『…ちゃ、ちゃんと全部見てた…』
『えっ?ロッカーが勝手に動いて…』
『きゃあああっ!お、お、お化け!?』
『落ち着いてミドリ!プライステーション投げちゃダメ!そろそろ壊れる!』
『…』
『…?』
『ユズ!』
『ユズちゃん、あれだけ探してたのに見つからなかったのに!いつからロッカーの中にいたの?』
「どういう…なんで、あなたが…!」
そんな出来事などなかった。
そんな思い出は存在しない筈。
そんな事は、ありえない。
ならば、何故…?
そう葛藤しながら、モモイは蹲って塞ぎ込んだのだった。
「いた…生きてるよね?」
「うん」
モモイが離れトイレに取り残されたアリスの前に、小さな角のカチューシャを付けた赤髪の少女と小さな角を生やした白い髪の少女…キララとエリカがやってきた。
2人はアリスの前にしゃがみこむと───Keyの
「じゃあ、始めるよ」