ブルア廻戦   作:天翼project

41 / 155
今回はアニメ38話までの範囲でお送りします


揺蕩

 

特級複製特異体、グレゴリオが展開した大聖堂のような荘厳な領域。

対するシュンはその領域の性質により苦戦を強いられていた。

 

「っ!狭いですねっ…」

「シュン姉さん!」

 

グレゴリオがオルガンの鍵盤を叩くと一瞬で現れた棺桶がシュンを閉じ込め、さらに落下してきた巨石が棺桶ごとシュンを地中に埋める。

続いてグレゴリオが曲を引き───直ぐに棺桶と巨石を破壊してシュンが地上に脱出する。

 

(なるほど…大体分かってきました。1に棺桶に拘束、2であの大岩で地面に埋めて、3であの特異体が曲を引く。ここまでがこの領域の必中効果。あの曲は『天国への階段』の一節ですね。ある程度引いた時に感じた悪寒からして、おそらく4小節分引き終わる前に脱出できなければ即死する、といった感じでしょうか)

 

地上に脱出したシュンはオルガンを引くグレゴリオの背中を狙って撃つが、銃弾が届く前にグレゴリオが鍵盤を叩くと弾が直角に落下してしまう。

下手な攻撃では通用しないと察したシュンは1度後退してココナを小脇に抱えて領域内に具現化しているオブジェクトである椅子の裏に身を隠した。

 

あくまで領域内ではどこに隠れようが逃げようが必中なので、本当に気休めに過ぎないが。

 

(特に厄介なのはあの大岩ですね。地中に埋められるときの強い衝撃が体に響いて、あと2度も受ければ普段通りの動きが出来なくなってしまいます。ここを切り抜けられたとしても、その状態でユメちゃんとは戦えない…)

「ココナ、無事ですか?」

「は、はい!」

 

先程からココナがあの棺桶攻撃を受けていない事に疑問を抱いたシュンは考えを巡らせると、1つの仮説を立てる。

試しにグレゴリオが神秘解放を行った際近くに居たことで領域に巻き込まれた2羽のカラスの内、1羽に大量の神秘を送り込んでグレゴリオへと接近させる。

 

するとそれに反応してグレゴリオは鍵盤を叩き、カラスは棺桶に閉じ込められ落下する巨石によって地中に埋められる。

そしてグレゴリオが4小節分の曲を引くと…シュンはそのカラスとの繋がりが切れたのを確認する。

 

(やはり、領域内で神秘の強い者を反射で標的にしているようですね。残る1羽のカラスはまだ残しておきたいですし…王手を指すにはココナちゃんに攻撃対象を移して私が自由に動く時間を稼ぐしかない。ですが、ココナちゃんはあの棺桶からの大岩攻撃を1度でも受ければまず死ぬでしょう)

 

棺桶の強度はキヴォトスの住民が扱うような一般の銃で破れる程度だが、あの大岩の方はそうはいかないだろう。

シュンのように銃弾に大量の神秘を込められるか、アリスのような強力な武器を用いる、或いは神秘で肉体を強化して大岩を破壊するしかない。

だがココナにはまだ十分な神秘の操作を行える技量も大岩を破壊できる程に銃弾に神秘を込められるだけの出力も育ち切ってはいなかった。

 

今ココナに囮を任せる事は、犠牲を強いることを意味する。

 

それでも…

 

 

「…ココナちゃん、頑張れますか?」

「勿論です!シュン姉さんの為に、死ぬ気で頑張ります!」

 

シュンから寄せられた信頼に嬉々として答えたココナは、隠れていた椅子の影から出てグレゴリオの前に姿を現し、持てるだけの神秘を対外に放出する。

それと同時にシュンは自らの神秘を抑え、移動を開始した。

 

(全部理解してますよ、シュン姉さん!)

 

ココナの神秘に反応したグレゴリオは鍵盤を叩き、ココナを棺桶に閉じ込める。

そして続いて巨石が棺桶へと落とされようとして────

 

 

 

「ふんっ…!」

 

ココナに気を取られていたグレゴリオの側面に移動していたシュンが、鍵盤を叩こうとするグレゴリオの腕を撃ち抜いた。

瞬間的に神秘を込められ威力が引き上げられた弾丸はグレゴリオの腕を吹き飛ばし、オルガンの演奏を不可能にする。

 

 

グレゴリオは違和感を覚えていた。

対象に領域の必中効果を適応する際に行うオルガンの演奏はあくまで演出であり、たとえ腕が飛ばされ鍵盤を叩けなくなっても必中効果の段階は進むのだ。

しかしグレゴリオが振り返った先には、閉じ込められているものの未だ巨石が落ちず地上に露出している棺桶があった。

 

「私がただの荷物持ちであの子を連れていると思いましたか?」

 

「シュン姉さんからの期待は、私にとっての神秘の使用許可なのです!」

 

棺桶に閉じ込められた際、ココナは続く落石が来る前に領域の必中効果を中和する技術───簡易領域を発動することで追撃を防いでいた。

そして1度対象を絞った段階で必中効果を遅延させられたことで対象が固定され、シュンに対象を変更することが出来なくなっている。

 

「ココナちゃんの役割は領域対策、私は結界術は簡単な結界を下ろせる程度であまり才能が無かったので、簡易領域はココナちゃんに任せています。では、そろそろ終幕と行きましょうか」

 

領域の必中効果を抑え込まれてしまったグレゴリオはオルガンを引く為に座っていた椅子から立ち上がり、肘から先が無くなった腕を振るって神秘を放出しシュンを攻撃する。

だが優雅に跳躍してそれを回避したシュンはグレゴリオの背後に着地、グレゴリオは振り返ってシュンを叩き潰そうとじわじわと再生している腕を振り下ろそうとするが…その前に、背後から飛来したカラスがグレゴリオの背中を貫いた。

 

ただのカラスの突撃はグレゴリオの胴体に大きな風穴を空け、ただの一撃で屠ってみせた。

その仕組みは単純で明快なもの、神秘を扱う者が最もインスタントに能力を底上げする方法である『命を賭けた契約』

命という代価によって支払われる対価は並大抵の契約によって得られるそれを凌駕する。

それこそ、たった1羽のカラスが特級特異体を撃ち沈められる程に。

 

シュンの秘儀である『黒鳥操術』、その真骨頂である『神風(バードストライク)』はシュンが操作するカラスに自死を強制させ、その対価として本来微弱である動物の神秘の制限を消し去り体当させるという裏技じみたもの。

 

「これを防げたのは今までにもホシノちゃんぐらいしかいないんですよ?」

「流石はシュン姉さんです!」

 

グレゴリオが鎮められたことでその領域が消失し、結界が解けて元の地下線路の空間へと戻る。

そして決着を見越していたのか、その直後に線路の奥から2体の対になったような特異体を引き連れた偽ユメがやってきた。

 

シュンは領域の結界で外に分断されていたカラスを近くへと呼び戻し、偽ユメと相対する。

 

「さあ皆さん、本丸ですよ。ユメちゃん、可愛い子供達を守る為に、死んでもらいます」

「ふふふっ…やるね。若者の割には、ね?」

 

コキコキッ、と首を鳴らして軽くストレッチを済ませた偽ユメは、不気味に微笑んで腕をシュン達へと振りかざした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「小鳥遊ホシノが封印ですか。まるで狐につままれたような気分ですね」

「私もよ。ただ偽物とはいえユメ先輩が絡んでいるらしいし、その辺に種が絡んでるんじゃないかしら」

 

カズサやイチカと別れ先へ進んでいたユウカは道中でレンゲ、そしてナギサと合流し、アリス…メカペロロから伝えられた作戦を元にセミナー本部駅北東側にある地下鉄に向かい、線路伝いにセミナー本部駅の地下5階を目指そうとしていた。

 

「…ふぅ」

「…おい、やる気がないなら帰れよ」

「なんでこんな所まで来て紅茶を飲んでるんですか…」

「お気になさらず」

 

レンゲはわざわざ持参したティーカップを上品に持ちこの状況で堂々と紅茶を啜っているナギサに苦言を呈し、ユウカもツッコミを入れるがさらりと流される。

元々レンゲは魑魅一座を脱走した時にナギサ…特異現象捜査部のトリニティ支部に保護されたのだが、その時の人付き合いの苦い経験にナギサを含むトリニティの連中を苦手に思っていた。

もしユウカが間にいなければこの場にとんでもなくギスギスした空気が流れていたに違いない…今でも既に空気はやや悪いが。

 

そんな風にちんたらと紅茶を飲みながらゆっくりと歩くナギサに嫌気が差し先を急ごうとレンゲが足を早めようとすると、何かに気がついたユウカがレンゲの袖を引きそれを止めた。

 

「あれは…」

 

 

 

「…う、うぅ…」

「おい、大丈…」

 

そこにいたのは、黒い装いが特徴的な少女。

ショットガンを抱くように握り締め弱々しく呻き声を上げる少女にレンゲは声を掛けようとして…気が付けば少女の背後を取っていたナギサによって少女は液体の中に閉じ込められていた。

 

「…!お前何して…!」

「油断怠慢、鈍いにも程がありませんか?」

 

赤に近い半透明な液体の中で泡を吐き藻掻く少女に対してナギサは何処からか取り出した小型迫撃砲で液体ごと少女をぶち抜き、吹き飛ばす。

 

「確かに感じる死臭、アウトローに違いないでしょう」

「…ユウカさん、今の動き見えたか?」

「…いいえ、まったく」

 

ナギサの不可思議な高速移動に呆気にとられるレンゲとユウカだったが、その間にもナギサは隙無く構え、体を丸め激しく咳き込む少女に一歩、一歩と歩み寄っていた。

 

咳き込む少女はやがて一層大きな咳をすると…吐き出した吐瀉物の中に、色の抜け落ちた多種多様な構造を持っていたと思われるヘイローの欠片が混ざっていた。

それが意味するのは即ち…

 

「これはこれは…一体どれだけの生徒を手に掛けたのでしょうかね。しかしヘイローを取り込む…?」

「相手方にはヘイローを操るアウトローがいたはずよ。そいつが取り込ませたのかしらね」

「…うぅ…アル様…ムツキ室長…カヨコ課長…カヨコっ…!」

 

少女の神秘が、途端に膨れ上がった。

まるで少女の内に燃え盛る激しい怒りと憎悪に呼応するように、激情を燃料に並の生徒に毛が生えた程度だった神秘が、この空間を重い重圧で包み込むほどに強力で凶悪なものへと変貌する。

 

「よくも!よくもよくも!カヨコ課長を殺しましたねぇぇ!!」

 

「なるほど、まだ成長期でしたか…っと」

「っ!レンゲちゃん!避けて!」

「チッ!何だこれ!?」

 

少女の神秘が変貌した直後、少女の足元を起点に無数の刃が地面から伸び、辺り一帯が足の踏み場の無いほどの針山地獄となった。

 

ナギサはトンッと飛ぶと天井から下がる吊り看板に手をかけて、ユウカは適当なオブジェの上に、レンゲは手近な高い観葉植物の上に駆け上がることでそれを回避する。

 

「なんて範囲攻撃だよ…!」

 

その圧倒的な制圧力を持った攻撃に戦慄する一同だったが、唯一ナギサだけは冷静に捕まっていた看板から手を離すと、落下して刃だらけの地面に落ちる直前、出現した赤い液体がそれらを飲み込み、取り込み、半径十メートル程の広さの足場を確保した。

刃を根こそぎ取り込んだ赤い液体はナギサの手の中へ流動し、やがて小さく収まるとナギサの握り込む動作で取り込んだ刃諸共消滅する。

 

「あらゆる飲料で紅茶が一番美味しいというのは存知ですか?」

「…私はハルカ…伊草ハルカ!アル様にも、ムツキ室長にも、カヨコ課長にも…!」

「珈琲やらジュースやら…」

 

 

 

 

「名前が…共に居たいという絆があるんですよ…!!」

「お下品だとは思わないのですか!!」

 

 

 

 

「うがっ…!」

(当たった、けど…)

 

少女…ハルカと名乗ったアウトローがナギサと問答をしている隙に銃撃を撃ち込んだユウカだったが、苦悶の声を上げながらも即座に自らの方を睨みつけ殺気を向けてくるハルカに攻撃の手応えの無さを感じた。

 

更にハルカの意識がユウカへと移った所をレンゲが一気に接近して背後から銃床で殴りかかかろうとするも、ノールックで逆に捕まれ、ギュルンとハルカが振り向き…何か行動を起こす前にナギサがハルカを液体に閉じ込め、懐から取り出したハンドガンで撃ち抜いた。

 

液体から弾き出されザザーッと靴を地面に擦りながら後退したハルカにユウカとレンゲがすかさず銃撃を加えるが、弾丸が届く前にハルカの周囲を覆うように地面から伸びた刃が壁となり防がれる。

 

(どれもダメージなし…いや、果てしなく体力が高いって感じかしら?)

「1級の者が二人も揃って倒せないとは、由々しき事態ですね」

(…ナギサがフォローしてくれなかったら間違いなく手痛いのを受けてた…恥だ…!)

 

それぞれが思慮を巡らせどうやってこのアウトローを打倒しようかと策を練る。

 

(推定、神秘はかなり多く、持久力も底が見えない。ならばどうするか…簡単なこと。反撃の暇を与える間もなく…)

 

考えがまとまったナギサは軽く膝を曲げ踏み込むと、一瞬でハルカの真横を駆け抜け背後に周り、浮遊する球状の液体の中から取り出した小型迫撃砲で刃の壁を貫通しハルカを吹き飛ばす。

 

 

(手数で潰す!)

 

 

それに合わせてユウカとレンゲも攻撃を仕掛け、弾幕を張り、絶え間ない猛攻によって一気に押し切ろうとする。

攻撃の圧力に押されたハルカは大きく跳び退いて体勢を立て直そうとするが、跳んだ先に既に回り込んでいたナギサによって撃ち落とされ、地面に落ちた所を蹴り上げられ、追撃の迫撃砲で吹き飛ばされる。

 

(神秘を解放する事も出来ない、銃の狙いを定める余裕もない、反撃出来ないっ…!)

 

桐藤ナギサの秘儀『紅茶需法』は、特異な性質を持つ紅茶のような液体を生み出し操るというもの。

この液体は一定以下の神秘の弱いものを質量を無視して格納できる性質があり、遺物などは格納出来ないが神秘を持たないあらゆる武装をこれに格納してナギサは順次使い分けている。

ちなみにこの液体は飲むことも出来るらしいが、せいぜい市販の安い紅茶程度の味しかしないとか。

 

何度ナギサの動きを読み照準を合わせようとしても瞬時に振り切られ、気付けば撃たれ吹き飛ばされ撃ち落とされて、そこにユウカとレンゲの援護も加わって一方的にダメージを受け続けているハルカは、戦況をひっくり返そうと銃を手放し印を結ぼうとする。

しかし、

 

「させませんよ」

「ぐぁっ、このっ…!」

 

液体からサブマシンガンを取り出したナギサによるほぼゼロ距離の射撃で腕を撃ち抜かれそれも妨害される。

ナギサが主体となり、常に誰かが攻撃を差し込むことでハルカの反撃を潰し続けていた三人。

それは格上を相手に圧倒する上で完璧な対抗策と言えるだろう。

現に、ハルカは防戦一方となり時折防ぎ切れずに重い一撃を受けて吐血する。

戦況は確実にナギサ達が押していた。

 

だが…それでも失念していた。

相手は、ルール無用の”アウトロー”だと言うことを。

 

その場に立ち尽くし一方的に攻撃を受け続け耐えることで精一杯といった様子のハルカに更に追い打ちを掛けようとしたナギサだったが、ふと異変を感じてピタリと足を止めた。

 

 

「…っ!やられました…!」

「『神秘解放────」

 

 

本来印を結ぶ必要がある『神秘解放』、それをハルカは攻撃を受けながらも自分が吐いた血で靴先を濡らし、地面に印を描いていた。

『神秘解放』に理解があるからこそ、印を結ぶ手に最大限の注意を向けていたからこその失態。

しかしナギサが初めて焦りを露わにするのも時すでに遅く…

 

 

 

「────ブローアウェイ』」

 

 

 

辺りが結界に包み込まれ、一帯に木々の代わりに刃が生えた荒れ果てた荒野が広がった。

 

 

 

ハルカの領域へと取り込まれた三人は何が起きても対応できるように油断なく構える。

しかし、

 

「痛っ…!?」

「チッ…!」

 

突如として速度を持って出現した刃によってユウカは肩を、レンゲは腰を、浅くではあるが切り裂かれた。

咄嗟にそれぞれで刃を叩き落とすが、その攻撃の違和感により対処の判断が遅れたことを自覚していた。

 

(今の刃…触れるまで確かに存在しなかった。この領域内にいる限り不可視の刃がこっちに当たるまで干渉不可の状態で飛んで来るのか?インチキすぎるだろ…)

「ユウカさん、大丈夫か!?」

「ええ、貴女も何かが触れたと思ったらその瞬間には反応して撃ち落としなさいよ。それよりナギサとあのアウトローは…」

 

 

 

「なるほど…面倒ですね…」

「秘伝『紅茶花伝』」

 

何やら巫山戯た名称が付いているが、それはトリニティ支部の部長に代々伝わる対神秘解放の術。

必中効果を持った神秘が発動者に触れた瞬間、同時に神秘を放出することでそれを迎撃し弾いて身を守るというもの。

必中効果を持つ領域ならば大抵を防ぐことができ、彼の小鳥遊ホシノのような領域に取り込んだ時点で神秘にハマってしまうようなものでなければ基本有効な対抗策となる。

そんな秘伝の術で不可視の刃を弾いたナギサだったが、対してハルカは対策されたことに焦る様子を見せることも無く、冷静に分析を進め効率的に敵を排除する方法を模索する。

 

(小手調べは十分、白い女に七割、太腿女に三割の力を割り振る…)

「神秘起動『死流髏憂群』!」

 

ハルカが領域に付与した神秘を最大出力で起動すると、荒野の景観が広がる領域の空に光が瞬いた。

 

「レンゲちゃん!防御して…きゃあ!?」

「ユウカさん!」

 

攻撃が来ることを悟ったユウカがレンゲに注意を促すが、しかし攻撃の対象はユウカ自身。

無数に降り注ぐ不可視の刃によって次々と身体を切り裂かれ、必死に銃身を盾にしたり弾いて防ごうとしているが、圧倒的な物量によってそれも間に合っていない。

 

そして追い詰められているのはナギサの方も同じだった。

 

 

(…まずい、ですね。キリがない…)

 

 

『紅茶花伝』によって降り注ぐ刃を全て弾いているナギサだったが、予想以上の物量による絶え間ない刃による強襲は反撃に転じる隙を全く与えてはくれず、一方的に神秘を消費し続けるジリ貧となっていた。

 

さらにこの『紅茶花伝』には「発動者の秘儀との同時併用の不可」というデメリットもあり、『紅茶花伝』を解いてナギサの秘儀である『紅茶需法』での防御に切り替えるまでのタイムラグの間に致命傷を負いかねない現状、まさに打つ手なしと言える。

それはまさに、ハルカによる三人への意趣返しのようでもあった。

 

一人は捌き切れず刃に飲み込まれ、一人は防御に手一杯でまともに動けず、一人は眼中にすらない雑魚。

一気に形勢が傾いた戦況の中で、ハルカは先程落としたショットガンを回収すると、それを最も厄介なナギサへと向ける。

 

「…死んでください」

「くぅっ…!!」

 

 

ドンッ!とナギサを撃ち、体勢が崩れ『紅茶花伝』が解除されたところを容赦なく刃が飲み込み切り刻まんと襲いかかる。

 

 

「『死流髏憂群』は、際限なく湧き出る刃の嵐です。当たるまで認識も回避も出来ません。どんな抵抗も無駄です…そして、貴女が一番弱いですので」

「クソッ…!」

 

ハルカがナギサとユウカに意識を向けている間に不意を突こうと背後から発砲したレンゲだったが、地面から生えた刃が射線を遮り弾は届かず、逆に距離を一気に詰めてきたハルカによる至近距離からのショットガンの発砲で吹き飛ばされる。

地面を転がるレンゲに興味を失くし、ナギサ達に確実にトドメを刺そうとしたハルカだったが、背後から投げつけられた壊れたライフルを避けると再びレンゲの方を振り向いた。

 

「ハァ…ハァ…弱いって言うなら一撃で殺してみろよ…」

「…あの距離で反応して銃を盾にするなんて…ですが、武器を失った貴女に何が出来るって言うんですか」

 

それでも未だにレンゲを脅威として見ていないハルカはさっさと片付けようと刃の嵐を差し向けようとする。

 

 

(こんなことなら、先にヒナと合流しておくべきだったな…)

 

 

ヒナは普段レンゲにパシリ扱いされて武器の持ち運びの為に預かっていた為、その武器があればまだ戦えただろうに、とレンゲはヒナと合流出来なかった事を後悔する。

仕方なく、今はなんとか根性でしのぎ切るしかないと覚悟を決めたレンゲだったが…

 

 

 

 

「───神秘解放『イシュ・ボシェテ』」

 

 

領域の一部が歪み、そこに開いた孔から黒い影と共に見知った顔が飛び込んできた。

 

「レンゲ先輩!」

「ヒナ!?」

「私の領域に…侵入を…!?」

 

神秘を解放し領域を展開しながら飛び込んできたのは、ちっさい後輩こと空崎ヒナ。

ヒナの解放した神秘により溢れ出た影が地面を這ってカズサの元まで伸びると、そこから一丁の銃が飛び出す。

 

「…!全くお前って奴は本当に…生意気な後輩だな!」

 

あるべき場所に帰ったかのようにレンゲの手に馴染のは、苦い思い出のある相手が残したかつて百鬼夜行自治区から強奪された由緒ある銃。

 

 

特級遺物『百花繚乱』

 

 

領域へと侵入してきたヒナを排除しようとショットガンを向けるハルカ。

しかし、レンゲにより横から銃を撃ち抜かれ阻止される。

 

「邪魔っ…!」

「おらぁっ!」

 

反撃しようとするハルカにさらに銃撃を加え、強烈な銃弾を強引に突破してこようとするのを何度もリロードと発射を繰り返して押し返す。

 

(一撃の威力がとんでもなく強い…いや、でもこの程度なら…)

「まだまだあぁ!」

(っ!?いや、マズイ…!想像以上に衝撃が身体に響く…!)

 

レンゲが扱う特級遺物、『百花繚乱』は純粋に極めて強力な破壊力を持った銃。

その主な特性は2つあり、1つ目は弾丸の代わりに神秘を弾として発射する。

この弾を作る為の神秘は『百花繚乱』の銃身に刻まれている機構から補填されるものであり、これを撃つに当たって使用者の神秘は消費されない。

そして2つ目は、銃身そのものの強度を高める神秘による補強。

補強される理由は単純で、『百花繚乱』の銃としての圧倒的な威力の反動に本体が耐えられるようにする為だ。

その威力は通常のライフル程度の大きさと取り回しの良さでありながらアリスのレールガンにさえも匹敵する。

 

(このままじゃ押し返せない…なら、解放した神秘で…あれ…?領域の必中効果が消えてる…?)

 

あまりの威力に近付こうとする度に押し戻され、近付けないならばまた刃の嵐で仕留めようとしたハルカだが、同時に異変に気付く。

神秘解放により展開された領域、その内部ではハルカの神秘が必中となり、一方的に相手に防戦を強いることもできる強力なもの。

 

だが、それは”必中”という強みがあってこそであり、その効果が無ければ神秘解放前に行っていたそこまで回避が難しくない単純な攻撃しか行えない。

領域の強みが削がれている要因、それはヒナが今も解放を続けている神秘によりハルカの神秘を相殺しているからであった。

 

未だ未完成のヒナの領域では押し合いでは不利だが、それでも押し合いが継続している限りは領域の必中は効果しない。

 

(でも所詮神秘の押し合いの強さは私以下…あの人も神秘解放に集中する為にろくに動けていない…なら…)

「今の内に排除します!」

 

「っ!待て…!」

 

レンゲが銃のリロードを始めた隙にハルカはヒナの方へ向かい、地面に手を着いて地面から伸びる刃を襲いかからせる。

 

防御の為に神秘の解放を中断すれば領域の必中効果が戻ってしまう上に、ヒナ自身の神秘も焼ききれてしまうためそれを回避することも防ぐことも出来ず、無防備な身体に刃が伸びて…それらをどこからか飛んできた弾丸が撃ち砕いた。

 

「ユウカさん!」

 

 

ヒナを守ったのは、必中効果が無くなった事で刃の嵐から抜け出すことが出来たユウカだった。

しかし既に身体はボロボロ、身に付けていた衣服も無惨な状態になっていて、左目は深く切り裂かれたのか潰れ、下手に動いていい状態ではない。

 

それでも状況が状況だけに「休んでいて欲しい」とも言えないヒナが狼狽えていると、ユウカはキョロキョロと辺りを見回しヒナに質問を投げかけた。

 

「ヒナ、アリスちゃんとセリカちゃんは?」

「…セリカ先輩はリタイア、アリスとは別行動中よ」

「…分かったわ。ふぅ…貴女は私が守るわ。神秘の解放に集中してて」

「さっきから…鬱陶しいです!いい加減死んでください!」

 

 

 

「これだから野蛮人は困るんですよ」

「っ!」

 

背後から聞こえた声の主に思い当たったハルカは振り向きざまに地面から刃を伸ばして攻撃したが、刃は液体に飲み込まれるとそれを液体ごと声の主…ナギサが踏み潰して消滅させ、ハルカを蹴り飛ばした。

 

「…はぁ、貴女のせいで謹製のティーカップが割れてしまいました。たかがティーカップ、されどトリニティの由緒ある聖遺物…高く付きますよ!」

「お前はお前でもっと気にした方がいい事あるだろ…!」

 

トリニティの生徒会長兼特異現象捜査部の支部の部長であるという凄みと威圧感を衰えなくハルカにぶつけるナギサだったが、それでも先程の猛襲で受けた傷は軽くなく、全身はズタボロ、気品を感じさせる白い衣装は最早元からそうだったのかと思わせるほどに真っ赤に染め、右腕はばっさりと切り落とされている。

 

「何度も何度も…いい加減に、してください!」

 

どれだけ突き放そうとしても喰らいついてくる敵に苛立ちが募ったハルカは、自らのショットガンと刃による飽和攻撃で一同を押し潰そうとする。

怒涛の猛攻にレンゲ、ユウカ、ナギサでそれぞれ対処に当たるが、必中効果が無い分被弾こそ減ったが物量は勢いを増していて、徐々に押し返され始めていた。

 

(…この拮抗も何時までもは続かない、先にこっちに限界が来る。ヒナだってもう長くは持たない…!)

 

戦いの天秤が着実に傾いてきている現状にユウカは焦り、必死に打開策を練ろうと思考を回していたが…そこに、神秘の押し合いに集中していたヒナが声をかける。

 

「…ユウカさん!あの子は今私と神秘の押し合いをしてると思っているでしょうけど、私の狙いは違うわ。領域…結界に穴を開ける。そこから脱出しましょう。人が一人通れるくらいの穴なら開けれるわ。それで全員外に出れれば、勝てる」

「…貴女だけ残る、なんてことは無しよ?」

「ええ。命は懸けても、捨てる気なんてさらさら無いわ」

「…全員集合!」

「!」

「おや」

 

(…?一塊になって守りを厚く?…いや、違う!)

 

 

(気付かれた?いや、でももう遅いわ)

「ヒナの足元に!」

 

散会して刃と弾丸を迎え撃っていたユウカ達が一箇所に集まろうとした意図に遅れて気が付いたハルカは、これまででも最大量の刃を伸ばし足止めを図る。

 

しかし時既に遅し、ヒナの足元には穴が開き、その奥には結界の外の景色が見えていた。

穴から外へ出ようとした四人、全員が遂に集まりそこへ飛び込もうとして…穴の縁に手がかけられた。

 

 

 

「「「「!?」」」」

 

(外から…仲間を呼んだ?)

 

穴から伸びた二つの腕、その主はまるでこの世を謳歌しているかのように穴から飛び出てくる。

新たな侵入者は、格好を見れば狐の耳を生やした和装の女性だ。

 

 

 

しかし一同は刮目する。

 

現代に蘇りし災厄…剥き出しの肉体、その躍動を。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。