ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ39話までの範囲でお送りします


揺蕩─弐─

(あれは…大人?)

((誰…?))

(あの人は…まさか…!)

 

(脱出じゃなくて援軍…?)

 

敵味方で反応はそれぞれ、その正体を訝しむ者、ただ困惑する者、敵が増えて厄介だと思う者…そしてその正体に心当たりがある者。

 

安らぐように目を閉じ、穴から飛び出た狐耳の女…ワカモは次の瞬間にはレンゲの武器…百花繚乱を掴んでいた。

 

「は?おいっ…!」

 

百花繚乱を掴んだワカモは取られまいと引っ張ろうとしたレンゲごと銃をひょいと掴みあげると、凄まじい勢いで引かれたレンゲの方が吹っ飛んでいく。

 

「レンゲ先輩!」

(今空中にいたろ!?なんだあの馬鹿げた速度と力は…力比べで私が負けたのか!?それにあいつ…神秘をまるで感じない…!)

 

「レンゲちゃんと…ヒナちゃんも大丈夫?」

「…ああ」

「私も身体はね…でも穴のほうは無理よ、塞がったわ。それに今のでもう同じ手は使えない」

 

「狐坂ワカモ…噂には聞いたことがありましたが、何故ここに…?」

 

突然の状況に困惑が広がり、その間に領域の外へ出る為の穴は維持出来ず既に閉じてしまっている。

そんな中比較的状況を理解出来ている…侵入者の正体に心当たりがある、知識としてワカモの事を把握しているナギサは、しかしその様子がおかしい事に気が付いた。

 

 

 

ジェネラルが用意した『天界システム』によって降ろされたワカモの肉体はその特異性故に、受肉元である自動人形(オートマタ)に組み込まれていた制御系統、命令系統の自立稼動システムを乗っ取ってみせた。

そして、本来自動人形に込められていた神秘が尽きれば自動で終了するはずの天界システムによる降霊も…神秘の無い肉体を降ろしてしまったことで、神秘が尽きるというプロセスが起こりえない。

極めつけに、制御機構である『天界システム』が破壊されたことでそれを制御できるものはもう居ない。

 

エラーを起こした(にくたい)ワカモ(にくたい)は暴走を起こし…器が壊れるまで戦い続ける殺戮人形と化したのだ。

本能のままに戦うワカモはこの場で最も強い者…ハルカにその暴力性を解き放つ。

 

 

(あの人、神秘がない…)

「っ…!あなたも…死んで、ください!」

 

 

神秘が弱いどころか全く感じないとなると本来は取るに足らない相手のはず。

しかしその気迫に危機感を煽られてハルカはがむしゃらに刃とショットガンの乱射による攻撃を行った。

近付けまいと全力の抵抗を受けたワカモは…迫る刃を尽く百花繚乱によって撃ち砕き、強靭なフィジカルで強引に突破し、弾丸は巧みな動きで全て躱しながらハルカとの距離を駆け抜ける。

 

「このっ…がっ!?」

 

すぐ目の前まで迫った女に銃身をバットのようにして叩き付けようとしたハルカだが、あっさりと掴まれ止められると逆に百花繚乱の銃身で何度も殴り付けられた。

 

慌てて飛び退きショットガンで反撃するが、その尽くをすり抜けるかのように避けては距離を詰めて再び殴りかかり、刃で攻撃しても撃ち砕かれ、果てには襟を掴まれて顔面を思いっきり殴り飛ばされる。

 

投げ飛ばされてから復帰していたレンゲはあれだけ自分達を苦しめた相手に蹂躙を繰り広げる女を見て言葉に出来ないような…ワカモが自分を遥かに上回る”暴力”を持っている事にただ目を奪われていた。

 

「ハァ…ハァ…ひぃっ…」

(負ける…?私が…神秘もない人に…?い、いや、まだ…あの女の神秘が弱まってる…維持できなくなれば、私の領域で…!)

 

避け様の無い刃での飽和攻撃はその分威力と刃の強度が落ちて命中しても当然のようにワカモの肉体に負け刃の方が砕ける。

ならばと範囲を狭め刃の強度を高めても、超人的な反応速度で躱されるか百花繚乱の超威力の銃撃によって粉砕される。

拡散するショットガンによる射撃は殆ど避けられ、当たったとしても距離が離れているとまともにダメージを与えられない。

接近しようにも圧倒的な速さと膂力、反射神経と格闘能力の高さによって白兵戦でも完封され銃身で、拳で何度も殴り付けられてハルカは頭から血を流す。

 

速さで敵わず、力で敵わず、反応で敵わず、暴力で敵わない。

 

反撃する暇も与えられぬ一方的な蹂躙と言っても良い乱打に、生まれて初めて”死”が近付いているという感覚に恐怖したハルカはその場を大きく飛び退いて離脱すると自身の周囲から無数の刃を壁のように伸ばして自身を覆い守りの姿勢を取った。

 

今は領域の必中効果が消えているが、それを成しているヒナの神秘の解放も終わりが近い。

それを感じていたからこそ必中効果を取り戻せば勝てると判断しての持久作戦だったが…

 

「…あいつに賭けるわよ。ヒナ、もう少し頑張れる?」

「大丈夫よ…それに…頑固者が重い腰を上げてるし」

 

 

 

「好きに言ってくれますね…それはそれとして、学びませんね。貴女も」

 

ハルカの背後に回り込んでいたナギサは側に浮かべた球状の液体から小型の迫撃砲を取り出し発射すると、刃の壁を貫通してハルカへと直撃させ、外へと引きずり出す事に成功した。

 

「しまっ…」

 

ナギサの迫撃砲は小型だからと侮るなかれ、勿論特別製。

 

撃ち出されるそれは強靭な装甲に守られた戦車をまっすぐ貫通してぶち抜く威力を誇る徹甲弾。

それが直撃して大きく体制が崩れた所に、ワカモは飛びかかって馬乗りになると、頭に百花繚乱を突きつけた。

 

(負ける…?私が…神秘もない人に…?)

「こ、このっ…!」

 

ハルカが言葉を発しようとした瞬間…有無を言わさず引き金が引かれ、その圧倒的な火力がゼロ距離で叩き込まれる。

何度も、何度も、何度も。

ハルカが何とか身体を起こそうとしても、その度に百花繚乱による銃撃で頭に撃ち抜いて地面に叩き付ける。

 

あれだけレンゲ達を苦しめたハルカを、まるで玩具のように残虐に弄ぶ一方的な蹂躙。

ワカモは銃撃は飽きたのか、百花繚乱の銃口の方を持つとそれを鈍器としてハルカに何度も殴りつける。

 

 

「ぶ、ぶっ殺して…」

 

 

───ガンッ!ガンッ!

 

 

 

 

「この、このっ…」

 

 

───ガンッ!ガンッ!ガンッ!

 

 

 

 

「や、やめ…」

 

 

───ガンッ!ガンッ!ガンッ!ガンッ!

 

 

 

 

 

「たすけ…あるさ…」

 

 

 

 

──────ガンッ!

 

 

 

 

 

最早抵抗する気力すら失ったハルカにもワカモは容赦無く百花繚乱の銃身で頭を殴り続け、やがてハルカのヘイローに亀裂が走ると…トドメとばかりに振り下ろされた強烈な一打でその小柄な体がビクンッと痙攣し、ヘイローが砕けた。

何度も殴られ続けた頭はぐちゃぐちゃに潰れ頭蓋骨は完全に割れ、原型すら残っておらず死体はまだビクビクと震えている。

 

そしてワカモの膂力によって鈍器として扱われ何度もハルカの頭を叩いていた百花繚乱も銃身が曲がりくねり、本来の機能を完全に喪失していた。

 

「…ナギサ、ありゃ一体誰だ…?」

「…私の知る限りでは、彼女は何年か前に小鳥遊ホシノに打ち破られた筈の───亡霊です」

 

 

 

 

ハルカが死亡したことで領域が解除され、結界が解ける。

広大な荒野から元いた地下駅の空間へと戻り、レンゲ達は地面に投げ出された。

 

(…あいつ、マジであのアウトローを1人でボコしやがった…)

 

起き上がったレンゲはあれだけの一方的な蹂躙を成したワカモへと興味を惹かれ…ユウカは全員の生存を確認し安堵の息を吐くが、しかしまだ問題は残っているとレンゲとは別の感情を持ってワカモを見る。

 

(あの女が私達の味方だっていう確証はまだない。私の知らないどこかの支部の虎の子が応援に来たっていうならまだしも、完全なる第三者だったのなら…)

 

警戒に銃を握る手に力が入るユウカ。

その対象であるワカモは暫くハルカの死体を見下ろしていたが、曲がって銃としては使い物にならなくなった百花繚乱を見て何か考えついたのか、銃身を掴むと力づくでそれをねじ切り、尖った部分を作って即席の刺突武器を作り上げた。

 

その出来栄えに満足したように笑みを浮かべると…今度はその視線がユウカ達の方へと向く。

 

「やっぱりそう来るわよね…皆!気を付けて───」

 

 

 

 

 

「───は?」

 

先手を撃たれる前に迎撃を促そうとしたユウカだったが、指示が伝わる前にワカモは高速移動し、ヒナを蹴り上げて天井を突き破り、上の階へと吹き飛ばしていた。

何が起きたかも理解する暇もなく、ワカモは蹴り上げたヒナを追って上階に跳んで最接近すると、服の襟を掴んで今度は駅の外にまで放り投げる。

 

地面を転がってようやくワカモに外に連れ出されたことを理解したヒナは、ハルカを圧倒した”暴”が今度は自分に向いていることに気が付き冷や汗を流した。

 

(いつの間にか外に出されてた…速いなんてものじゃないわ。下手したらあの時のKeyよりも…なんなのよ、こいつは…!)

 

放り投げたヒナを追って外に出てきたワカモは、能面のような無表情のままヒナへと歩み寄り、変形させた百花繚乱をペンでも回すかのようにくるくると回した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソッ、ヒナ…!」

 

ヒナを外に連れてかれ、残されたレンゲ達もワカモが天井に空けた穴を通って追いかけようとする。

が…

 

 

 

「…逝ったのね、ハルカ」

 

(…冗談キツイですね)

 

音もなくレンゲ達の背後にいた女…アルは、無惨に殺されたハルカの遺体を抱き上げ、ぎゅっと抱き締めた。

それに気付いたナギサは経験と勘でアルの力を察し、厄介な相手とばかり鉢会うと自分の不運を自嘲する。

 

(あの者…ハルカというアウトローより、格段に…)

 

「後は任せなさい」

 

(…強い!)

 

遅れてアルの存在に気が付いたレンゲとユウカもその姿を見た瞬間に格の違いを本能で察したのか戦慄し、緊張に身体を強ばらせながらもそれぞれ銃に手をかける。

 

「アウトローの魂は巡り巡って、いつかまた惹き合うわ。100年後…遙か未来の荒野でまた会いましょう。さて…」

 

ハルカの遺体に聖女のような優しい声で語りかけたアルは、羽織っていたコートを地面に敷いてその上にそっと遺体を下ろすと、今度は底冷えするような冷たい声色に転じ───気付けばユウカの真横に移動し、側頭部に銃口を突きつけていた。

 

「1人目」

「っ!」

 

誰もそれに反応して対処する間もなく引き金が引かれ、放たれた弾丸はユウカを吹き飛ばし…壁に衝突したのと同時に弾丸が爆ぜ、ユウカは爆炎に飲み込まれる。

まるで反応出来ずただユウカが吹っ飛ばされたのを見ていることしか出来なかったレンゲは強く歯噛みすると、爆炎に包まれたユウカを流し目で見ているアルへと襲いかかった。

 

「てめぇ、よくも…!」

「2人目」

「ぐあっ…!?」

 

しかし当然敵う筈もなく、一瞬で背後を取ったアルはレンゲの頭を掴んで地面に叩きつけると、仰向けに倒れたレンゲの顔に銃口を突きつけ、引き金を引く。

発射された弾丸は着弾した瞬間に爆ぜて、ユウカと同じようにレンゲを爆炎に飲み込んだ。

 

「あら?」

 

自分は爆炎に巻き込まれないように飛び退いていたアルだったが、今度はその背後をナギサが取っていた。

 

ナギサはその秘儀を使いこなす天性の才能と十全に活かせる武装を得られるだけの立場、そして本人の老獪さによって特異現象捜査部で活動するに当たっての名を広め、小鳥遊ホシノを除いて『最優』と謳われるに至った。

万全ならばアルを相手にしたとしても一方的な戦いにはならないだろう。

 

そう、万全ならば。

ハルカとの戦いで右腕を失い、身体中を切り裂かれ、多くの血を流し神秘も消耗している状態。

本来のパフォーマンスが発揮出来るわけもなく、ナギサが操る液体から武装を取り出そうとするよりも速く、アルは銃口の先でナギサの顎下を打ち上げた。

 

「かはっ…」

「3人目」

 

空中に浮いたナギサ、その喉元を撃ち抜き、吹き飛んだナギサが壁に衝突したのと同時に放たれた弾丸も爆ぜてナギサを爆炎で飲み込む。

 

ひとまずハルカの仇である連中を片付けたアルは外に出て行った方も殺そうと上の階に上がった。

 

 

「残りの連中は…っ!Key…!?なんで…!」

 

 

だが、ヒナとワカモの方を追おうとしたその時。

セミナー本部駅の方角から強烈な気配…Keyのそれを感じ取り、足を止める。

 

(いや…違う、機器部品(モジュール)…?機器部品(モジュール)が解放されたの?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モモイに敗北し気絶するアリスの前にしゃがみ込んだキララは、アリスの口にKeyの機器部品(モジュール)をねじ込み、水を流し込んで飲み込ませようとしていた。

 

「キララ、早く。機器部品(モジュール)の神秘で特異体が寄ってくるかも」

「分かってるよ…お願い、出てきて。Keyちゃん…」

 

 

 

「チッ!あなた達、天童アリスに機器部品(モジュール)を幾つ飲み込ませたの!?」

 

「「!」」

 

そこに、セミナー本部駅までを駆けてきたアルが滑り込んでくる。

アルは天童アリスを見ると既に機器部品(モジュール)を飲み込まされた後だからか、その身体から小さく機械音が鳴っている事に気が付いて舌打ちをする。

 

一方、アルという天上の格上であるアウトローを前にしたキララとエリカは及び腰になるが、自分達にも目的がある以上引く訳にもいかず、特にエリカはアルの質問に対して強気に答えた。

 

「言わない!」

「エリカちゃん…!?」

 

「そう…なら死になさい」

 

「くっ、エリカちゃんこっち!」

「!」

 

求めた答えを返さないキララとエリカに、状況が状況故に気が立っていたアルはこれ以上の問答をする暇は無いと銃口を向ける。

キララとエリカはそれだけで死を感じ、それを対処しようとキララがエリカを抱き寄せると自分達に向かって端末のカメラを向けた。

 

その行動を不可解に思ったアルだが面倒だと引き金を引き…放たれた弾丸がキララとエリカの足元に着弾すると、爆炎を上げて2人を飲み込む。

 

邪魔者を排除したアルは気絶するアリスに駆け寄り、体内から鳴る機械音がまだ継続していることを確認すると懐から予め用意していた包みを取り出した。

 

(予想外の事態だけど…せっかくだし最大限活用するしかないわね)

 

 

 

 

 

 

『天童アリスは例え20個の機器部品(モジュール)を全て取り込んだとしてもKeyに肉体の主導権を譲らないだろうね。でも、それは機器部品(モジュール)を1日1本、20日かけてゆっくり取り込んでいった場合の話。もし一度に大量に機器部品(モジュール)を取り込めば一時的にではあるだろうけど肉体の主導権はKeyに移ると思うよ』

 

 

 

 

 

 

「起きなさい、Key」

 

事前に偽ユメから話されていたKeyを利用するに当たっての計画を思い出していたアルは、包みを広げて10個のKeyの機器部品(モジュール)を出すと、それをアリスに飲み込ませていく。

 

1個、2個と飲み込ませていき…そしてアルが持たされていた10個の機器部品(モジュール)が全てアリスの中に入る。

 

(これで10個…ユメが観測していたこれまで天童アリスが飲み込んできた機器部品(モジュール)と、さっきの2人が飲み込ませたのも合わせてこれで最低で15個の機器部品(モジュール)が天童アリスの内にある)

 

 

「ごほっ…げほっ…」

「ん?…何よ、生きてたのね」

 

Keyが目覚めるのを待っていたアルだったが、不意に聞こえてきた咳の声に振り返ると、先程確実に仕留めたはずのキララとエリカが無傷でそこに立っていた。

アルはそれが2人の内のどちらかの秘儀によるものだと推察し、しかし明らかにアルに怯えていることからそう何度も防げるものでは無いと判断する。

 

生かしておいても面倒だからと2人が死ぬまで撃ち続けようしたが…

 

 

 

 

「1秒あげましょう。退きなさい」

 

「「「!」」」

 

傲慢に、全てを見下すような威圧感で放たれた声を聞いてアルは飛び退き、キララとエリカは背筋を震わせる。

 

このキヴォトスにおいて、アルは間違いなく最上位の力を持っている。

それでもなお…真の天上は途方もない高みにあった。

 

よっこらせと立ち上がったKeyは身体の調子を確かめるとアル達にその光を失った赤い瞳がアル達を睨みつける。

 

(これが、Key…小鳥遊ホシノとはまた違った異質な強さ。圧倒的な邪悪…!一挙手一投足が死因になりかねないほどの…!)

 

他を省みず、己の快不快のみで行動を起こすKey。

それが目の前にいると言うだけで、呼吸をすることすら許されないのではないかと思えるほどの恐怖が3人を襲った。

滝のような汗を流し、動悸が胸を締め付けるような、底なし沼のような恐怖。

 

「…頭が高いです」

 

Keyの声にアルは直ぐに跪づき、キララとエリカは低頭して額を地面に擦り付ける。

するとそれを見たKeyは指をひょいと横に振ると───アルの角の片方が消し飛んだ。

 

「っ…!?」

「この私を前に片膝で足りるとでも?思い上がりも甚だしいですね。実るほどなんとやら…余程頭が軽いと見えます」

 

しかし侮蔑の言葉は吐くもののそれ以上の追撃は行わず、一旦アルから興味を失ったKeyは今度はキララとエリカの方へ目を向ける。

視線を向けられると言うだけで死ぬほどの恐怖を味わう2人だったが、以外にもKeyは優しい声で話しかけた。

 

「まずは貴女達からにしましょう。私に用があるのでしょう?機器部品(モジュール)1つ分ぐらいならば聞いても構いません。言ってみなさい」

 

「…!し、下に、頭に縫い目がある女がいます…そいつを…殺して、ください…!ユメっちを…解放してください…」

 

極限の恐怖と緊張の中、勇気を振り絞ってキララが答える。

 

2人は、ユメに心酔していた。

あの時ユメに地獄から救い出され、まだ幼かった自分達の面倒を見てくれたあの聖母のような恩人が、心の底から大好きだった。

 

 

 

 

『ねえねえ、ユメっち〜!小鳥遊ホシノって子なんなの?超強いんでしょ?』

『うん。可愛い後輩だったんだ。でも喧嘩別れしちゃってねそれきりなんだ』

『ふーん…?』

 

 

 

 

(…ユメっちを殺した小鳥遊ホシノを、私達は一生許さない)

(でも、それで良かったのかもって思った。だって、小鳥遊ホシノはあの人が大好きだった後輩で…友達だったんだから)

 

想いは拗れ、愛情は捻れ、今はただ最愛の恩人の為だけに。

その執念だけがユメの身体を操る何者かにも歯向かわせ、今こうしてKeyを前にして恐怖に打ち勝ち願いを話すことが出来ている。

全ては、誰とも知れぬ者の支配からユメを解放する為に。

 

「私達は…もう1つ機器部品(モジュール)の場所を知ってます…そいつを殺してくれたら教えます…だから、どうか…」

 

 

 

「…面を上げなさい」

「「!」」

 

Keyに促されるままに顔を上げるキララとエリカ。

そんな2人にKeyはふっ、と微笑むと─────次の瞬間、エリカの頭が消し飛んだ。

 

「…え?…は…エリカちゃん…?エリカ、ちゃん…!?やだ、やだやだ…!」

 

「たかが機器部品(モジュール)の1つや2つで私に指図するつもりだったのですか?不愉快です。死になさい」

 

「〜〜〜!そっちこそ…!」

 

古くから苦楽を共にした親友がさを殺され、怒りの絶頂に達したキララは恐怖すら忘れてKeyに端末を向ける。

そして自身の秘儀を発動させようとするが…

 

「ふむ…端末、いえ…写真機の方ですか」

 

悲鳴さえ上げる間もなくキララの全身が塵のように分解される。

Keyは落ちたキララの端末を拾い上げると、少し観察するも直ぐに興味を失って放り捨てた。

 

「大方被写体の状態をどうこうするものだったのでしょうか。実につまらないものですね。では…次はそこの。なんの用があって私を?」

 

「…!用は…無いわ」

「ほう?」

「私達の目的はKey、貴女の完全復活よ。今は天童アリスの適応が追いつかずに一時的に自由を得てるだけ。それは貴女自身が分かっているでしょう?」

 

アルはムツキから聞いたトリニティでの一件の際、ムツキにヘイローの形を変えられて肉体を作り替えられた時にアリスからの契約を拒んだのは、Keyが他人を治せる恐怖を扱えたとして、それでもムツキの秘儀にかかった者を治せはしないからこそ圧倒的有利な契約でも結べなかったのだと察していた。

故に今度こそKeyが自由を得られるように準備をしてきたのだ。

 

「さあ、天童アリスが戻る前に契約を結びなさい。肉体の主導権をずっと奪える契約を。幸い天童アリスの仲間が大勢来ているわ。やり方なら幾らでも…」

「必要ありません。私には私の計画があるので」

「えぇ〜…」

 

折角用意してきた準備をすげなく断られ、面食らったアルは間の抜けた声を上げる。

それを無礼とも思わず逆にクスリと笑ったKeyは、側に落ちていたアリスのレールガンを拾うとそれをアルへと向けた。

 

「っ!」

「しかし必死なのですね、貴女方も。良いでしょう、機器部品(モジュール)の礼です。私に一撃でも入れられたのなら貴女方の下に付いてあげましょう。手始めにこのミレニアムの者を皆殺しにしましょうか?まあ1人除くことになりますが」

 

それを聞いたアルはポカンと口を開けて呆然としていたが…Keyは余裕の笑みを浮かべながらもそれを”契約”として言っていることに気が付くと、置いていた銃に手をかけて構えた。

 

「…二言は無いわね?」

「無論です」

 

舐めてなどいない。

勝てないことは分かっていて、Keyもああ言いながら自分達の下に付く気など無いことも十分理解している。

それでも…アルは一縷の望みにかけてKeyからの提案を受けたのだった。

 

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