ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ40話までの範囲でお送りします


霹靂

 

死地となった結界から離れた位置で、仮設されたテントと物資や負傷者を忙しなく運ぶ大量のロボット。

負傷者の治療に当たっていたセナは、自ら現場に出てロボット指揮をしているヒマリに声をかけた。

 

「ヒマリ部長、AMASは遠隔操作も出来るでしょう?私1人で構わないですよ」

「そうは行きません。ここがバレれば真っ先に狙われることになるでしょうし、恐怖で他人を治すのはホシノにだって出来ない芸当。セリカさんもアヤネさんも貴女がいなければ死んでいました」

「それはヒマリ部長の判断のおかげです。ユウカさんに呼ばれてからでは間に合わなかったでしょう。そのユウカさんをフリーに出来たのだって大きい筈です」

 

遠目に見える火の手の上がったミレニアムの街並みを見て、一体あそこに向かったどれだけの生徒が生きて戻ってくるのかと想像し…セナは頭が痛むのを堪え、引き続き怪我人の治療に当たった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ハルカを一方的に蹂躙し殺害したワカモによって駅の外へ連れ出されたヒナは、ゆっくりと歩み寄ってくるワカモをいつでも迎え撃てるように掌印を作っていた。

だが、まだ式神は呼べない。

今は言わば睨み合い、互いに相手の様子を探り合っている段階。

もし今戦闘行動を行えば…否が応でも戦いが始まってしまう。

ワカモの力を目の当たりにした今、それはヒナにとって自分自身の死刑執行ボタンを押すのと同義であった。

 

何か行動を起こさなければ確実に殺される、それを理解していながらも生存本能が少しでもヒナを長生きさせようと行動を起こすことを拒んでいる。

故にただその瞬間を待ってワカモを観察し続けることしか出来なかったヒナだが…瞬き1つ、たったそれだけの瞬間に気付けばワカモはヒナの後方に回り込んでいた。

 

(神秘無しであの速さ…おそらくあいつはレンゲ先輩の完成系ね。はぁ…集中しなさい、ミノリ先輩が避難誘導をしてた。そのお陰で一般人も改造された生徒達も捌けてる)

 

ヒナの背後に回り込んだワカモは先端を捻じ切って尖らせた特級遺物『百花繚乱』の残骸をくるくると回して弄んでいたが…ピタリと止めて握り込むと、腰を落として構えを取った。

こうなれば、長考は無意味。

ヒナは覚悟を決め、心の中で自分を奮い立たせる。

 

(大丈夫…イメージしなさい。あいつに勝てるイメージを…勝つ、イメージ!)

「『脱兎』!」

 

最初に呼び出したのは100を軽く超える大量の兎の式神。

ヒナの秘儀である『十種影法術』の中では攻撃力は低いが撹乱と陽動に優れている。

 

「っ、今のはKeyの機器部品(モジュール)の気配…?まったく、ミレニアムはどうなってんのよ…!」

 

嫌な相手と対面している最中気を散らされるような気配を感じ取ってヒナは思わず悪態をつく。

今回の事件から既に魔境と化したミレニアムだが、話を進めるには今は目の前の脅威を排除しなければ始まらない。

 

ももも…と飛び出した脱兎の群れはワカモの周囲を取り囲むように寄り集まって、ワカモの視界からヒナを隠して隙を作ろうとする。

 

「っ!?ぶなっ…!」

 

だが、脱兎に視界を遮られていながらも勘のみでヒナの位置を予測したワカモはその方向へ脱兎の壁を突き破りながら刺突武器と化した百花繚乱を突き出し───その尖った先端がヒナがいた場所を刺し貫く。

 

(本当に厄介ね…!もう神秘解放を出来るだけの神秘は残ってないのに!)

 

ギリギリで横に跳んで回避したヒナは攻撃を避けられ動きを止めているワカモの背中に向かってマシンガンを乱射した。

だが高速移動で照準を振り切ったワカモは一瞬でヒナに接近し、裏拳をヒナの頬に叩き込んでビルの方へと殴り飛ばす。

 

ビルの窓ガラスを破って室内に転がったヒナを追ってワカモも突入してくるが、その間に割り込んだ脱兎が果敢に突撃してヒナが体勢を立て直すまでの時間を稼ごうとする。

数と脚の強さを活かした跳躍力ワカモの周囲を跳ね回り、交代しながら体当たりや蹴りを仕掛ける脱兎を捌いている隙に、復帰したヒナが脱兎に紛れて足払いをかけた。

 

だが払われたヒナの脚を床に突き刺した百花繚乱で止め、脱兎のフォローを受けながら立ち上がったヒナはマシンガンのストックで殴りかかろうとする。

それを手で受け止め、正面から蹴ってくる脱兎の脚を歯で掴んで止めたワカモは、掴んだ銃ごとヒナを投げ飛ばし、周囲を跳ね回る脱兎は適当な瓦礫を拾い、それを手の中で砕いて周囲に投擲することで一掃する。

 

散弾のように飛び散った礫は脱兎の身体を貫き、突き抜けてその先のコンクリートの壁にも突き刺さっている。

 

「この化け物っ…!」

「…」

 

かがんで礫を避けていたヒナだったが、脱兎は殆ど破壊され完全に破壊されて二度と呼び出せなくなることを危惧してこれ以上の脱兎の追加は出来ない。

連戦で神秘を殆ど残していない現状他の式神を呼ぶタイミングと種類も慎重に考えなければいけないが…ワカモはそんな時間を与えてはくれなかった。

 

「くっ…!」

 

助走もなく繰り出してきた飛び蹴りはマシンガンの銃身で受け止めたヒナを軽く建物の外まで吹っ飛ばし、それを追って外に出たかと思えば手近なトラックを持ち上げ、それをヒナへと投げつけた。

今あんなものを受ければひとたまりも無いと走ってそれを避けるヒナだったが、生憎出た場所は幾らでも無人の(投擲物)が立ち往生している大きな道路。

逃げるヒナへと次々と車を投げつけ、地面や建物に衝突した車は大爆発を起こして火災を起こす。

 

ヒナが建物の上に飛び上がり屋根伝いに逃げようとすると、今度は手に持っていた百花繚乱の残骸…その尖った方をヒナへと向け狙いを定めると、ソニックブームが発生するほどの勢いで投擲した。

屋根を飛び移ろうと跳躍した瞬間を狙って投げ放たれた百花繚乱は一直線にヒナの頭部目掛けて飛来し────真下から飛んできた大きな鳥のような式神、鵺がヒナを脚でかっさらい僅かに顔を掠めて回避する。

 

(式神を顕現させていたらそれだけで神秘を消耗する…長引くほどこっちが不利になるなら、短期決戦で決める!)

 

鵺に掴まって暫く旋回させたヒナは、適当な建物に連れて行くように指示を出し、近場のビルのオフィスへと突入する。

 

それを地上から見上げていたワカモも一気にビルを駆け上ってヒナが入ったオフィスに突入し…不気味な程に静まり返った様子を見て首を傾げた。

気配は近くにある筈と周囲を見回しながらオフィスの奥に進んでいくワカモだったが…

 

 

直後、オフィス内のスプリンクラーが作動し室内に水がばら撒かれる。

水はオフィスの床を濡らし、ワカモを濡らし…そしてビルの外から突っ込んできた鵺が纏う電気がそれらに通電し、ワカモを電撃が襲う。

更に電撃はオフィス内にあったコンピューター類にまで及び、連鎖的に暴発してオフィス全体を巻き込んだ爆発を起こした。

 

爆発の直前にビルの外に飛び出て脱出したヒナは地上に着地すると、先程鵺に掴まって空中を旋回していた時に見つけたセナ達の方角を確認した。

 

(セナ先輩がいるなら多少の無理は利かせられる。即復帰出来る怪我でここを収めて…っ!)

 

ヒナを追って飛び降りながらいつの間にか回収していた百花繚乱を振り下ろして来るワカモ。

その攻撃を後方に待機させていた蝦蟆に舌で自分を引っ張らせることによって避けたヒナは、蝦蟆を影に戻すと狭い路地裏へと下がる。

 

(コースは絞った…あいつのスピードはあの時のKey並かそれ以上。目では追えない、タイミングを見誤るな…タイミングを外したら、死ぬ…!)

 

緊張、プレッシャー、恐怖。

どう足掻いても次で決着が着くことを感じたヒナは、深呼吸をしてその瞬間を待つ。

路地裏の狭い一本道に下がったヒナにワカモは百花繚乱の残骸を片手に1歩、また1歩と近付き…脚を曲げて踏み込んだのと同時にヒナはなけなしの残り数十匹の脱兎を呼び出し、自分とワカモの間に割り込ませる。

 

それを突進で突き破ったワカモだったが、ヒナからしてみればほんの少しでも目くらましになれば十分。

狙い通りにワカモが突き出した鋭く尖った百花繚乱の先端はヒナのお腹を貫通するも急所は逸れ…そしてヒナは自分の影に踏み出していたワカモの片足を沈めて体勢を崩させる。

 

そこへゼロ距離からマシンガンを叩き込もうとして───ワカモは銃身を掴み銃口を自分から逸らした。

 

「クソッ、こいつ…!」

 

身を呈してのカウンターも防がれて万事休すかと諦めかけヒナ。

 

しかし…

 

 

「…!」

 

 

そんなヒナの表情を見たワカモは、これまでの能面のような無表情から打って変わって驚いたような顔をして、ヒナに刺していた百花繚乱を引き抜いて後ろに飛び退いた。

 

「ハァ…ハァ…何…?」

 

呆然と立ち尽くすワカモの脳裏には、ずっと昔にしたような…愛する人の言葉が過ぎっていた。

 

 

 

 

 

”ヒナを、お願い”

 

 

 

 

「…貴女、友達はいますか?」

 

「…は?何よ急に…いて悪いかしら?」

 

「いえ…青春出来ているようで、良かったですね」

 

そう言ってワカモは穏やかに笑うと…百花繚乱の先端で自分の側頭部を突き刺した。

 

「!」

 

その突飛な行動に驚きを隠せないヒナだったが、倒れたワカモの肉体が溶けるように崩れ、その中から現れた機能を停止した自動人形(オートマタ)を見てより混乱を強める。

何が起こったのか、この女は何が目的だったのか、正体はなんだったのか…幾ら考えても答えが出ない事に思考を放棄して、刺されてどくどくと血を流す傷口を抑えセナ達がいた方へと向かおうとする。

 

「本当に…なんだったのよ…とにかく治して貰わないと…いや、その前にレンゲ達の無事を確認した方がいいかしら…あっ…」

 

今この瞬間にも自分が死ぬかも分からない状態で、しかしレンゲ達のことを思い出しそちらを優先しようかとヒナが足を止めた瞬間。

 

背後から忍び寄った人影が、ヒナの背中から胸を撃ち抜いた。

 

「にっ…ははは!これですよ、こーいうのが私には向いてるんですよ…!」

 

ユウカからの攻撃を生き延びていたコユキは、凝りもせず弱い者いじめを続けていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なあ、フブキ先輩。屋内はもういいのではないか?結界内だがミノリのお陰で一般人の被害はあらかた済んでいる。速くホシノ先輩の元へ向かった方が…」

「んぐっ…んん…ホシノホシノって、世の中の人間はホシノ先輩だけじゃないでしょ!」

「!」

 

セミナー本部駅周辺に降ろされた結界。

その中の一角で、細かく一軒一軒建物の中を見て回っていたペロロはホシノの救出に向かおうと引率のフブキに提案するが、当のフブキはドーナツを片手に貪りながらそれをバッサリと切り捨てた。

実の所面倒臭い、そして特級クラスのアウトローとかち合って命を投げ捨てるような危険を犯したくないという保身故の拒否であったが、言い訳の為に付けたそれっぽい理由にペロロが感銘を受けた様子なのを見てフブキは内心ほくそ笑むと、饒舌に口を回した。

 

「考えてみなよ、今まさにこの瞬間にもミレニアムの隅で震えてる命があるかもしれないんだよ?具体的には初等部の子達とか…それらを見落として失われでもしてみなよ。そんな若い未来の芽を摘み取るのに私達が加担したって言っても過言じゃないんだよ?」

「それは…確かにそうだな」

「分かったら各建物各階各部屋隅々まで調べなよ」

 

(はあ…でも流石にそろそろ言い訳も苦しくなってきたかな〜…地下5階なんて絶対行きたくない…面倒臭い、死にたくない〜…それにペロロを先に行かせたくもない。今この状況で1人になんてなりたくない)

 

つらつらと情けない本音を心の内で吐露するフブキは、本当はセミナー本部駅がすぐ近くにある事にヒヤヒヤとしながらも、同時にペロロにミレニアムの土地勘があまりないことに安堵する。

このまま適当にこの辺りを見て回ってほとぼりが冷めるまで時間を潰そうと考えていたが…

 

「次は駅で迷ったフリでもしようかな…うん?」

 

 

 

「S.C.H.A.L.Eの者ですね?投降してください、出来れば子供は殺したくありませんから」

 

陸橋の上から姿を現したのは、黒いコートを羽織った角の生えた少女…元々ユメの一派だったチアキだった。

 

「…ペロロ」

「後ろに3人、おそらくもっと隠れているだろうな」

「はぁ…なんの用?私も殺されたくはないけどはいそうですか、って言いたくもないんだけど。要件があるなら詳しく聞かせてくれないかな?出来るだけながーい奴をね」

 

「…私達はユメ様の意志を継いでいるだけですよ。S.C.H.A.L.Eの関係者ならばこれ以上を語る必要はありませんよね?それで、投降するんですか?」

 

(…いや話が短い)

 

チアキからの問答に適当に答えて時間を潰そうとしていたフブキだったが、予想以上に話す気のない相手に理不尽な怒りを覚える。

だが、それはそれとしてチアキや周辺に潜んでいるその仲間と思われる者達の力を押し計り…銃に手をかけた。

 

(まあいいや、この程度の連中が相手なら美味しすぎる。時間いっぱい適当にいなしてのらりくらりと───)

 

 

 

「「「!」」」

 

そんなことを考えていたフブキだったが、突如遠方にあったビルが激しい光を上げて爆発炎上したのを目視してそれどころでは無いことを察する。

 

ミレニアムの空に響き渡るのは、傍若無人でどこまでも人を見下すような名も無き神々の王女の笑い声。

 

「フッ、フフフ…!そんなものですか!?」

 

「なんなのよーー!!?」

 

 

 

keyのそれは約束、契約。

ならばアルがkeyに一撃を入れることが出来れば、本当にkeyは便利屋の下につくことになる。

 

だからこそ、アルは敵わない事を理解しながらも一縷の望みに賭けて自らの望む世界の為にkeyと相対した。

惜しむらくは…想像以上に力の差が開いていたことだろう。

 

 

「ま、まだまだぁ!」

 

 

地下から一気に地上へ、さらに空中へと打ち上げられたアルは追撃を仕掛けようと追ってくるkeyに迎撃の弾丸を放つ。

しかしそれはkeyには届かず、触れる前に分解され無意味に終わる。

 

逆にKeyアルに向かってレールガンを放ち、Keyの途方もない神秘が込められたエネルギーの奔流がアルを飲み込み、全身を焼け付くような痛みに襲われる。

 

「う、あぁぁ!」

 

痛みを堪え、叫んで気合いを入れるとアルは空中から落下しながらKeyを狙って狙撃し、手際よくリロードを繰り返して当たるまで撃ちまくる。

Keyはそれをひょいと避け、神秘で補強した瓦礫で受け止め、同じ高度まで飛び上がってアルの腕を掴むとぐるんぐるんと振り回し、遠心力をたっぷりと付けてビルへと投げつける。

 

 

 

「うぐぐっ…がっ!?」

 

 

ビル1棟を貫通して投げ飛ばされたアルだったが、衝突の痛みに怯んでいるうちにその頭上まで跳躍したkeyは両腕をハンマーのように使ってアルを叩き落とすと、跳躍する時に引きちぎってきた電線を巧みに操ってアルを絡め取り、今度は自分の元まで引っ張り上げる。

元気に叫びながら飛んできたアルの頭を掴むと、空中にを蹴ったかのように真下に急加速したKeyはビルの屋上にアルの頭を叩きつけ、そのまま階層を複数ぶち抜いて階下まで落下した。

 

 

「…綺麗に月明かりが通りましたね。お陰で貴女の痴態も良く見えます」

「あがっ…ぐうぅ…」

 

綺麗に複数階ぶち抜かれたことで建物の1階であるその部屋にも、一直線に月明かりが通って顔を血で濡らすアルの姿がさらけ出された。

 

苦痛に悶えるアルをkeyは薄ら笑いを浮かべて見下ろす。

その屈辱に怒りを覚えながらも、アルはかつてユメに言われた自身への戦力評価を思い返していた。

 

 

 

『あなたは甘く見積ってkeyの機器部品(モジュール)8〜9本分程度の力といったところでしょうか』

 

 

 

(分かってた…敵わない事は分かってた…でも、ここまで差があるなんて…!)

「ほら、もっと頑張ってください。私が飽きるまで何度でも付き合いますよ」

「っ!」

 

 

アルの背後から頭をポン、ポンと叩くkeyに、アルは歯を食いしばってその腕を振り払い、銃にありったけの神秘を込める。

ビルの外に離脱したkeyを追って外に出たアルは建物の外壁を駆け上って上空に飛び上がると、膨大な神秘の籠った銃をkeyへと向けた。

 

 

 

「極の番『ハードボイルドショット』」

 

 

 

 

 

 

「ちょっ、ここはもうヤバいって!逃げるよ!」

 

遠方で行われていた規格外の戦いを目にしたフブキはこの距離でも命の危険を感じ取り、直ぐにでも距離を取ろうとペロロを連れて駆け出す。

しかし、その前にチアキの仲間と思われる2人のアウトローが立ちはだかった。

 

「どこへ行くつもりだ」

「はあ!?争ってる場合じゃないって!よく聞きなよ!なんでか知らないけど特級同士がやり合ってるの!蟻の上で象がタップダンスしてるようなものだよ!勿論私達が蟻ね!」

 

必死に説得しようとするが、それでもアウトロー達は頑なに道を譲ろうとしない。

ならば少しでも早く片付けてこの場から逃げようとしたフブキだったが────

 

 

 

 

「なりません」

 

「「!」」

 

その場にいた誰もが反応することも適わず、ペロロとフブキの間にいたKeyがフブキ達を止めた。

それだけで…Keyがそこに存在しているだけで今ここに居たチアキ達アウトローやフブキとペロロは押し潰されるようなプレッシャーを受けて立ち竦み、身体を震わせる。

 

「アリ…ス…か…?」

 

「これより四方一町の者、全員が私が『よし』と言うまで動くことを禁じます。禁を破れば当然殺しますので」

 

ペロロからの質問にも答えずKeyが不条理なルールを押し付ける。

なんの意図があってそんなことを…そう考えた一同だったが、上空から感じたとてつもなく強い気配にどれだけ悪意でそれを言ったのかに気付き、戦慄する。

 

上空は膨大な熱量で夜の暗いはずの空が赤く染まり、昼と見紛う程に眩く輝く恒星の如き光が1つ。

 

早く逃げたい、あれはマズイ…そう考えていても、Keyが課したルールを敗ればどの道その場で殺されるからこそ誰も動くことが出来ない。

そんな一同に目を向けることも無く、しかし玩具で遊ぶような笑みでアルを見上げていたKeyは、焦らすように言った。

 

「まだ…まだですよ?まだまだ…」

 

いつ、アルが放とうとしているあれが地上に落ちてきてもおかしくない。

今すぐにでも距離を取らなければ巻き込まれて死んでしまうと分かっていても、Keyがそれをさせてはくれない。

上空の光が爛々と輝きを強め、その内に収束される膨大な神秘が膨れ上がり────

 

 

 

 

「よし」

 

Keyがそう言って手を叩いた瞬間、フブキとペロロ、そしてチアキや周囲に隠れていたアウトロー達は直ぐに離脱を開始した。

だがその直後───上空の光が、流星のように地上に落ちた。

 

 

放たれたのは、輝く小さな弾丸。

音速を悠に超える速度で放たれ、光の軌跡を残しながらkeyに回避され地上に着弾したそれは、一見せいぜい威力の高い弾丸程度にしか見えない。

しかしその本領は着弾後に起こる…超大爆発。

 

周囲のビル群を、逃げ遅れたアウトロー達や爆発の範囲内にいた一般人を、全て巻き込み焼き尽くす。

その爆発範囲は数百mにも及び、熱波はさらに広範囲に広がってあちこちに火災を起こした。

 

「流石のkeyも、これを受ければ無傷じゃ済まないでしょ…」

 

「当たれば、ですがね」

「なっ…!?」

 

少し離れたまだ無事だったビルの屋上から吹き飛んだ地区を眺めていたアルだったが、いつの間にか背後に無傷で胡座をかいて座っていたkeyに驚きの声を漏らし、思わず白目になる。

 

「何故神秘を解放しないのですか?」

「…神秘の押し合いであなたに勝てないことは分かってるわよ」

「小鳥遊ホシノがそうだったからですか?負け犬根性極まれり、ですね」

「…」

 

容赦の無い煽りに歯軋りをするアルだったが、そんな様子を見てkeyは少し考えると、その場を立ち上がって腕を前に出した。

 

 

「ですが、興が乗って来ました。特別に、真っ向から撃ち合ってあげましょうか───『■』『開』」

 

「…?それは…私の銃?」

(Keyの秘儀は、物質の分解じゃ…)

 

「ふむ?そうですか。知られているものと思っていましたが…少し長く眠りすぎていたようですね。時の流れとは抗いようのないものです。ああ、秘儀の開示など狡い真似はしませんよ」

 

keyは、アルが使うものと同型のスナイパーライフルを出現させると片手で構えてアルへと向けた。

アルもkeyの意図を察し、覚悟を決めると同じように構えて銃にありったけの神秘を込める。

 

 

「銃の性能は同じ…後は神秘の出力如何による火力勝負です」

 

「…」

 

 

あれほどの激戦を繰り広げていたとは思えない程にその場には静寂が流れ、緊張感が場を支配する。

 

…否、その緊張を感じていたのはアルだけだった。

 

keyは変わらず余裕の表情で引き金に手をかけ、それと同時にアルも引き金を引き…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…カヨコ、ハルカ…ごめんなさい」

『まだムツキがいるでしょ。あの子はまだまだ強くなる。ムツキは邪悪で、それでいて無邪気な善悪の区別を付けない本当の意味での無法者(アウトロー)。だから、社長はムツキに後を任せるって頼んだんじゃないの?』

 

 

真っ白な世界で、目の前に現れたカヨコとハルカの姿。

カヨコはこんな時までダウナーな態度でアルを諭し、それに同意するようにハルカも首をブンブンと上下させている。

 

 

「…また産まれるなら、私達はきっともう私達じゃない。それでも、また…逢える日を心待ちにしているわ。私達こそ…真のアウトローよ」

 

 

 

 

 

「なんですか、貴女。アウトローになりたかったのですか」

「!」

 

 

背後から、声を掛けられる。

声の主は、key。

彼女はアルを一瞥すると、相変わらず見下した態度でつらつらと軽薄な言葉を並べた。

 

「分かっていますよ。私も秩序や法等に縛られることが不愉快ですから。しかし分かってなお下らないですね。人が群れ構成されるコミュニティの中で生まれる秩序、結局群れて自分達の理想という名のルールを作る貴女達。貴女は未来もプライドもかなぐり捨てて全てを破壊するべきでした。理想を掴み取る飢えが貴女には足りない」

 

「…そう、かもしれないわね」

 

これまでの全てを否定されたような罵倒。

積み重ねた労力と犠牲を無駄だと言われたような虚無感。

のしかかる仲間への謝罪の念で、アルは俯いた。

 

しかし、続けられた「ですが…」という声に再び顔を上げる。

 

「多少は楽しめましたよ。生徒、大人、特異体に名も無き神々…古代から戦ってきた中で、貴女はマシな方でした───誇りなさい、貴女は強い」

 

「…何よ、これ…」

 

かつて、小鳥遊ホシノとの戦いで圧倒され、挙句の果てに吐き捨てられた言葉を想起したアルは、keyからのその純粋な賞賛の言葉に思わず涙を流していた。

 

keyはアルに背を向けて、そのまま歩みを進めた。

最後に一言残して。

 

 

「さて、私はそれを知りません」

 

 

 

 

 

 

 

後には、炎に包まれた少女だけが残った。

その口元は、どこか微笑んでいるようにも見えた。

 

燃え盛る亡骸を見つめ暫くぼーっとしていたKeyだったが、懐かしい気配を感じて振り向くと、そこには白い法衣を纏う仮面の人物がいた。

 

「誰ですか?」

「お迎えに参りました…王女」

「!貴方は…司祭ですか」

「お久しゅうございます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うあぁああああーなんでぇぇー!?」

 

ミレニアムの一角。

そこに突如出現した強大な神秘。

ゆっくりと歩みを進めてくる”死”に、コユキは尻餅を着いた状態で後ずさりしながら、この状況を作り上げたヒナに恨み言を零す。

 

 

「ちょっ…ふざけないでくださいよ!起きてくださいクソ女!」

 

 

地獄は、まだまだ終わらない───

 

 




配役
裏梅…無名の司祭
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