反響する。
『…未だに、何故アリスが死刑にならなければ行けないのかは納得出来ていません。ですが…困り、苦しんでいる人がいるのなら、それを助けない理由はありません。それが、勇者ですから』
『良いかい、アリス。君は強いのだから人を助けるんだ。救える人は救え。手の届く範囲でもいい、感謝されなくてもいい。とにかく一人でも多く救ってあげるんだ』
『特異現象捜査部の部員には、後悔のない死は訪れません。今一度問います。貴女は何故S.C.H.A.L.Eに来たのですか?』
反響する。
『そうじゃなきゃ…そうじゃなきゃ!私は…ハスミ先輩は…人の心に堕とされたって言うの…!?そんなの、あんまりじゃない…!』
『あの世でミドリとユズに詫びて』
『”たくさん人を助ける”ですか。小娘、貴女がいるから人が死ぬのですよ』
反響する。
『私は貴女の言う勇者なんて高尚なものじゃない。だから貴女を助けたことを後悔なんてしてないわ』
『…そう。じゃあ私達共犯だね』
『…うへ〜、気持ち良さそうに寝てるおじさんを起こすなんて、罪深い後輩達だね〜』
何度も繰り返し反響する言葉の数々。
それらは今の自分を構成するもので、今の自分が背負うべき業。
なんのために自分は生きているのか。
なんのために戦っているのか…その答えを見つける為だけに、今はただ前へとアリスは進む。
電灯が点滅する薄暗い駅の地下通路。
右半身が焼け焦げ右目も潰れ、まとめていた髪はだらしなく降りて、足はフラフラ、息も絶え絶え…それでもユウカは通路の奥を目指す。
やがて階段を下り地下鉄乗り場に出ると…その先に待っていた数十体の改造された生徒がユウカに血走った目を向けた。
それは腹を空かせた猛獣の檻に餌を放り込んだようで…
「…山海経…そうね…山海経…梅花園なんて良いかしら…」
(卒業した後は…子供達に囲まれるような仕事をして…静かに事務仕事したり、本を子供に読み聞かせてあげたり…今までは忙しくて見れなかった映画とか…そういう穏やかな生活を…いや、違う)
朧気で明瞭としない意識の中、自分の思考の不自然さにユウカは頭を振る。
血が辺りに飛び散り、下手に体を動かした分全身に激痛が走るが、それが逆に朦朧とした意識を覚まさせてユウカは目の前の改造された生徒達を見やった。
(…そうだ、ヒナちゃんを助けないと…レンゲちゃんと…ナギサさんは…?あの2人もどうなったの…?)
右腕は動かず、左手の銃を握りしめたユウカは光が宿らない暗い目で天井の向こうにある空を見上げる。
改造された生徒達はじりじりとユウカへとにじり寄り、今にも飛びかかろうとして口から唾液を溢れさせている。
(…疲れた、もう…疲れたわ…そうね、もう十分やったわよね…)
内心で責任を放棄しながらも、しかし身体は戦うことを選び、死にかけとは思えない機敏な動きで改造された生徒達を葬っていく。
何十体といたそれらは着実にユウカによって倒され数を減らしていくが、それでもユウカが満身創痍なのは変わらない。
恐れを感じない改造された生徒達は一心不乱にユウカへと迫り、ついに捌き切れなくなって振り払われた腕が脇腹を打ってユウカは壁まで吹き飛ばされる。
だがまだ倒れず、吹き飛ばしてきた改造された生徒を撃ち殺し、突進してきたものは開かれた口に銃口を捩じ込んで体内に銃弾を乱射して仕留める。
そこで銃の残弾は尽きたが…今度はそれを鈍器として用い残りの改造された生徒達を撲殺していった。
白兵戦になる分数の差がある以上被弾は増えるが…それでもユウカは倒れない。
殴り殺す度に上がる血飛沫がユウカの身体を濡らし、自分から流れるものも相まって既に全身は真っ赤に染まり、狂ったように改造された生徒達を始末していく姿は地獄の亡者にすら見える。
そうして一体、また一体と仕留め、そして最後の一体を仕留めて─────
「…いたのね」
「いたよ…ずっとね」
ユウカの胸に、ムツキがトンっと手を当てた。
「君には何度か付き合ってもらったし…ちょっとお話でもする?」
「…」
「────ユウカ!!ぁ…」
駆けつけたアリスは、ムツキに触れられたユウカの姿を見てしまう。
その接触が、どんな意味を持つのかをアリスは知っているからこそ、それ以上の言葉が出てこなかった。
アリスに気付いたムツキは目を細めると、ユウカに当てている手をぐっと押し付けた。
ムツキからの言葉にもアリスからの呼びかけにも答えず、ユウカはムツキの背後の虚空を見る。
そこに幻視するのは…過去に亡くした友人であったノアの姿。
(ノア、結局私は何がしたかったのかしら…逃げて、逃げた癖にやりがいなんて曖昧な理由で戻ってきて…)
幻覚のノアは、表情を変えることなく何かを訴えかけるようにアリスの方を指差した。
(…ノア…駄目よ、ノア…それを言ったら、あの子の”責任”になってしまう…ダメ…だ…)
その意味を察したユウカはそれを否定し拒もうとするが…その時、ノアが微笑みかけたのを見た。
もう久しく見ていないそれが目に映った時…アリスがどれだけのものを背負うことになるのかを理解しながらも、全てを託すことを決意する。
ユウカはアリスの方を振り向くと憑き物が落ちたような、そんな爽やかな表情で口を開いた。
「…アリスちゃん」
「はっ…!」
「後は頼んだわ────」
次の瞬間、ユウカの身体が内側から爆裂し、上半身が吹き飛んだ。
四散する肉片と血飛沫は、砕けたヘイローの破片と混じりあって紙吹雪のように散る様は美しい程に残酷で、どこまでも惨たらしくアリスの目に焼き付く。
「はっ…はっ…はっ…」
息が上がったように肩が上下し、肺が苦しいほどに呼吸が荒くなる。
尊敬し、頼りにし、自分を認めてくれた大好きな先輩の最期は、冷えきっていたアリスの内に熱い炎を灯す。
荒れ狂う激情を、怨敵であるただ1人に向けて神秘として解放した。
「なんっ…なんですか…!あなたは何なんですかぁ!ムツキィ!」
「そんな大きい声出さなくても聞こえてるよぉ!天堂アリス!」
募り積もった怒りが荒れ狂い、アリスは衝動的にレールガンをムツキへと向けて放っていた。
放出された圧倒的な破壊のエネルギーはしかし横っ飛びに簡単に躱され、お返しとばかりにムツキは袖から流動する肉塊を溢れさせるとそれをアリスへと濁流のように押し流す。
アリスはそれをレールガンで吹き飛ばそうとするが…アリスの目の前でピタリと肉塊の濁流は止まり、蠢く肉塊の中から歪んだ生徒の顔が浮かび上がってきた。
「たす…け…」
「くっ…!」
それはムツキがそう言わせているだけなのか、それともムツキに取り込まれた生徒が心の底から発しているものなのか、判断がつかないアリスはレールガンの引き金にかけた指を動かせないでいた。
そしてそれを見越していたように…歪んだ生徒の顔を引き裂いて肉塊の中からムツキが飛び出て来ると、小型地雷をアリスの足元に叩きつけて起爆する。
「あなた、はっ…!」
「ばーか」
「がぁっ…!?」
持ち前の頑丈さでそれを耐えたアリスだったが、煙幕に紛れて近付いてきたムツキの拳が顔面にめり込み、吹き飛ばされた衝撃でホームの柱に勢いよく叩き付けられる。
そこへ追い討ちの手榴弾を投擲するムツキだったが、直ぐに起き上がったアリスはそれらをレールガンの銃身で打ち返し、逆にムツキを爆発に巻き込む。
しかし当然ながらムツキの特性を貫通してヘイローに直接響かせられるのはアリス本人の神秘が込められた攻撃のみ。
ただ爆弾を跳ね返しただけではダメージを与えることは出来ず、ムツキはピンピンとした様子で爆煙の中から現れた。
「ん〜…もっと踏ん張りが聞いてたらその頭も吹き飛ばせたのかな〜?」
「…どうしてっ!あなたは何度も何人も!人の命を弄ぶことが出来るんですか!」
「ん〜?くふふっ!指折り数えて困り顔で殺せば満足?ひーふーみーって。次からそうするね…ペラッペラのあんたにはペラッペラの答えを授けてあげるよ」
「…」
ぴょんぴょんとスキップしながらアリスの後ろまで堂々と回り込むムツキを振り返って視界に納めながら、何を言うつもりのかと少しの興味を抱く。
だが当然そこに期待はなく、案の定帰ってきたのはまともな答えではなかった。
「天童アリス…あんたは私だよ」
「…は?」
「もう、いちいち怒らないでよ。アウトローの戯言でしょ?だけどそれを認めない限りあんたは私に勝てないよ?」
「よくもペラペラと…遺言ですか?」
何ヶ月か前の自分からは考えられない、本当に自分から発されているのかが信じられない程に冷たい声を出すアリス。
怒りは巡り巡って、1周回って逆に思考を冷静にさせていた。
そんな中アリスは脳裏に過ぎる、ユウカの言葉を想起する。
『後は頼んだわ』
(ユウカなら怒りで我を忘れるなんてことはしない…証明してください、天童アリス…あなたは、勇者です)
アリスの決意も嘲笑うようにムツキは両腕をめいいっぱいに広げると、袖からから大量の肉塊を溢れさせた。
津波のように押し寄せる肉塊はやがてただでさえ閉鎖された狭い空間である駅のホームの大半を飲み込み、敢えて残された狭い一本道のようなスペースでアリスとムツキは向かい合う。
最初に動いたのはムツキ、 銃をアリスへと向け乱射しながら駆け出し、アリスがそれをレールガンを盾にして防いでいる隙に飛び上がると、袖から溢れさせた肉塊を刃の形に変えて振り下ろす。
しかしアリスはこの狭い空間の中レールガンという明らかに持つだけで機動力がガタ落ちするだろう得物を担いでいて尚身軽な動きでそれをひょいと避けると、カウンターとして剛腕により繰り出された拳がムツキの胴を打ち据える。
「かはっ…」
「う、うおおりゃああぁ!」
そのままムツキを殴り飛ばしたアリスだったが、ムツキは肉塊で出来た壁に手を触れると壁が蠢いて無数の棘が横向きに生えアリスを貫こうとする。
それをレールガンを叩きつけ肉塊の壁を大きく歪ませることで生えようとしていた棘を叩き潰したアリスだったが、大振りで行われたその隙を狙ってムツキが再度殴りかかり拳がアリスの横っ面を捉える。
しかし今度は吹き飛ばず、踏みとどまったアリスはムツキの腹を膝で蹴り上げると、体が浮いたムツキの脚を掴み地面に叩きつけた。
追撃をかけようとレールガンを向けるが、肉塊の壁が動きアリスを押し潰そうと迫ってきたためそれも中断される。
一方外側から見れば肉塊が蠢き、やがて二箇所が大きく膨らむと、それを突き破ってアリスとムツキが外へ飛び出す。
「くふっ、良いね。続けようか」
「…」
「ラウンド2だよ!」
「あっはははは!」
地下鉄のホームを駆けるムツキは、銃を乱射して並走するアリスを狙う。
体勢を低くし、時折遮蔽物やレールガンを盾にそれを凌いだアリスは走りながら瓦礫を広いムツキへと投擲した。
ムツキはそれを袖から溢れさせた肉塊ではたき落とすと、お返しとばかりに手榴弾を投げアリスの進路の先を爆破する。
辛うじて爆風から逃れたアリスは近くにあったエレベーターに目を付け、ボタンを押してこの階へとエレベーターを呼ぶ。
それが来るまでの間もムツキからの攻撃は続き、肉塊が寄り集まって構成された巨大な腕がアリスを掴もうと伸びてくる。
前転して回避したアリスは懐から閃光弾を取り出すと、それを地面に叩き付けて炸裂させた。
「うぐっ…いない?…エレベーターかな?」
閃光でムツキの視界が塞がれている間にエレベーターに乗り込みさらに地下に降りるアリス。
だがエレベーターの上に強い衝撃がかかって大きく揺れ、天井が吹き飛び巨大な肉塊で作られた腕が機内のものを押し潰そうと叩き込まれる。
「…あれ?またいない?」
しかし手応えを感じなかったムツキが首を傾げていると、降下中のエレベーターの下から神秘の高まりを感知する。
「…っ!やばっ…!」
「光よ────!」
エレベーターの床をぶち抜き裏側に退避していたアリスは、直上に向かってレールガンを発射する。
極大のエネルギーの塊は肉塊を打ち破り、エレベーターごとムツキを飲み込む。
自身に特攻となる強力な神秘の籠った一撃に身体を焼かれるムツキだったが、直撃の瞬間に袖から溢れさせた肉塊を大量に身にまといダメージを和らげ、既に殆ど原型を残していなかったエレベーターを完全に破壊するとその直下に潜んでいたアリスへと銃撃を加えた。
身体を丸めて浴びせられる弾丸を堪えたアリスは落下しながらも周囲に意識を巡らせ、壁面の出っ張りに手をかけ壁に張り付くと、壁に向かってレールガンを発射して壁を崩しそこから外に離脱した。
(かなり下層まで降りて来てしまいました…地下4階、ホシノ先輩が封印されたという場所は真下ですね。いや、今はそれよりも…)
「逃がさないよ!」
アリスが開けた穴からムツキも出てくると、小分けにした肉塊を放ってくる。
咄嗟に回避したアリスだったが、それらは床に着弾するのと同時に爆発を起こし、衝撃に煽られ怯んだアリスにムツキは飛び蹴りを行って改札の方まで蹴り飛ばす。
さらに銃撃を加えられそうになるも、改札を引きちぎって投げつけることで牽制し、ムツキへと真っ正面から突撃する。
無謀だと鼻で笑ったムツキだが、今更油断はしないと袖から大量の肉塊を溢れさせて津波のようにアリスへと差し向けた。
走りながらアリスはレールガンを放ち進路上の肉体を消し飛ばすとムツキの直ぐ目の前まで肉薄しレールガンの銃身を振り上げ、振り下ろす。
しかし振り下ろされる銃身の真横を叩くことで軌道を逸らしたムツキはアリスの額に頭突きをお見舞いし、仰け反ったところを顔面を掴みそのまま後方へと押し倒してアリスの後頭部を床に叩きつけた。
空いている手の方の袖から肉塊を溢れさせるとそれで鎌の形を作り、首を断とうと振り下ろすがその前にアリスがムツキの腹を蹴り上げ、衝撃で浮いた身体にレールガンを放って奥の壁まで吹き飛ばす。
「ハァ…ハァ…」
「あー…痛った。ん〜…一旦立て直すかな」
(無闇に突っ張りすぎると普通に死にかねない。暫くは改造した子達使って攻めるかな。ああ怖い怖い)
(前より手数が増えてますね…あの時より、ムツキも成長してる。これ以上ムツキが人を殺す前に…アリスが殺さないと…!)
「…っ!待ってください!」
少なくないダメージを受けているムツキは今のまま削り合いを続けるのは分が悪いと判断し、アリスから背を向けて駆け出した。
現状ムツキに対抗出来るのが自分しかいない以上ここで逃がす訳にはいかず、アリスも後を追うが一気に距離を離され見失ってしまった。
最後に姿を消した方の道を辿っていくと、何故か二人の生徒が困惑したように立ち尽くしていて、彼女達の後方に上階へ繋がる階段が見える。
「き、君、こんなところで何してるの!?」
「すみません、今ここは危険です!直ぐに安全な場所に避難してください」
「い、一体何が起きて…」
「話してる暇はありません、仲間のいる方角を教えるので、とにかく避難を…っ!」
「え…?な、何が起きて…」
状況を掴めていない二人に避難を促しおそらく上階へ逃げたと思われるムツキを追おうとしたアリスだったが…突如2人の生徒の内片方が痙攣し始め、咄嗟にレールガンの銃身を叩きつける。
しかし中身のない着ぐるみを叩いたような手応えのない感覚に違和感を感じていると、その生徒の皮という名の着ぐるみから抜け出して姿を現したムツキがアリスを殴り飛ばし、度重なる意味不明な状況に混乱するもう一人の生徒に触れると、そのヘイローがぐにゃりと歪んで肉体はムツキの袖の中に取り込まれた。
「ちょっとさ〜、想像力足りてないんじゃないの?」
「…やめてください」
「ハッ、馬鹿なの?それはあんた次第じゃん」
(天童アリスのメンタルにはこっちの方が効く。そしてもう一枚その為のダメ押しのカードを手に入れる…この結果はさ、何となく分かってたよ、アルちゃん。いつかこうなるんだって…その覚悟はしてた)
「でも…私が全部失くしたのに、あんたにまだ残っていることが許せない。だから…私が全部奪ってやるよ、天童アリス」
「…そうしてあなたは、コハルを…ユウカを…皆を殺したんですか?子供の癇癪で、自業自得を突きつけられて理不尽に逆恨みするんですか?」
「子供なのは一緒でしょ?理不尽でいいじゃん。楽しんでいこうよ、学生なんだからさ」
「それを捨てたのはあなた達でしょう!」
胸の内を告白するムツキに、アリスはより1層怒りを強める。
身勝手で、我儘で、自己中心的なこのアウトローを滅さなければいけないと何度も頭の中で自分に言い聞かせる。
「そうですね…アリスは、あなたを殺す為に生まれてきたのかもしれません」
(これ以上の被害は出させない…ここでアリスが、ムツキを殺す!)
「そっか…ならこれも運命だね。少なくとも私は今、あんたを殺す為に存在してるよ」
ムツキはアリスを殺す為に、どこまでも狡猾になって一手ずつ詰めていく。
アリスはムツキを倒す為に、どこまでも殺意を滾らせて確実に追い詰めていく。
交錯する闘志のぶつかり合いは…いよいよ佳境へと入っていく。
───少し時間を遡って、アル達が散開して行動する前。
流動する肉塊が次々と逃げ惑う生徒達を捉え、ムツキ達がいる駅の地下へと風呂の栓に吸い込まれる水のように引きずり込まれていく。
そうして引きずり込こまれた生徒達をアルが適度に痛め付けてヘイローにヒビが入る程度のダメージでギリギリ生かされると、締めにムツキが触ってヘイローを歪める。
肉体はムツキの袖に飲み込まれ…ぐにゃりと歪んだヘイローは飴玉程度のサイズにまとめられると、ムツキはそれをハルカへと投げて渡した。
『はい飲んで飲んで〜』
『い、良いのでしょうか…私ばかり…』
『ハルカはもっと成長なさい』
『私も十分ストックしたし、これくらいでハルカちゃんもガンガン前に出ていけるようになるんなら安い出費だよ。ね、もっといっぱい殺してこ〜!』
『ご、ごめんなさいごめんなさい…役立たずでごめんなさい…』
『なんであんたはすぐ暗くなるのよ…』
『とにかく、天童アリス殺しゲーム再開だよ』
『だからそれは駄目よ!』
相変わらず天童アリスに執念を燃やすムツキを咎め睨みつけるアルだったが、ムツキは舌を出して悪戯っ子のように笑うとアルの制止を無視して駆け出し、同時に袖から溢れさせた肉塊で1つの人型を作り上げる。
『っ!?』
『ほらアルちゃん、止めたいなら捕まえてみなよ!』
肉塊で作り上げられた肉人形はムツキの姿を取り、そこに仕上げとしてムツキは自分のヘイローの一部をちぎるとその肉人形の頭上に移した。
すると肉人形…ムツキの分身は本体と同様の自我を持ち、ムツキと並走して階段を目指す。
『私は地下を回るから、そっちは地上ね』
『言わなくても分かってるよ〜』
『そりゃそうだね』
『ちょっ、待ちなさい!ムツキ!』
二手に別れたムツキを追おうとしたアルだったが…片方のムツキが振り向くと袖から肉塊を溢れさせ、それが通路に膜を張ってぶつかったアルをポヨンと跳ね返す。
尻餅を着いたアルは直前のムツキの意地悪な笑顔を思い出し額に青筋を浮かべると、通路に張られた肉の膜を撃ち抜いて破壊する。
その先に既にムツキの姿はなく、後ろでアワアワするハルカと呆れたようにため息を吐くモモイの存在すら忘れて叫んだ。
『ムツキ〜〜〜!!』
そうして本体と別れた分身は…地上の路地でとある生徒と対峙していた。
「でさぁ、さっきの見た?やばくな〜い?私あの辺うろついてたんだよね。巻き込まれるかと思ってヒヤヒヤしたよ」
「…あんた、見たことあるね。ホシノ先輩が描いた極端にデフォルメされた人相書きに似てる。噂に聞くアウトローでしょ?ウチのバカにちょっかいかけたっていう」
相対するは…Keyと死路虚の戦いを遠方から見て外を見回っていたカズサ。
カズサの話を聞いてムツキの分身はわざとらしく頬を掻いて照れくさそうにした。
「いや〜、参ったねぇ。噂になるなんて私ってば有名人?」
「まあね。しっぽ巻いて逃げた腰抜けって有名だよ」
「…良いね、やりがいがありそうじゃん」
おちゃらけた冗談に煽りで返され、ムツキの分身は薄く目を開くと適当な生徒の死体からくすねた銃の引き金に指をかけ、カズサへと照準を合わせる。
対してカズサも銃を構え、深呼吸をしてムツキを見据える。
「私も今日は良いとこ無しでさ…逃げ虫ぐらいは鎮めさせてもらうよ」
(こいつの秘儀はヘイローがどうこうってのと手に触れるなって話だったかな…思い出せ、カズサ。あの時掴んだ、神秘の核心を…!)
ゲーム開発部との戦いの時に出した黒閃。
あの時の高揚感を思い出したカズサは銃を乱射して先制し、避けたムツキに向かって飛び蹴りをかける。
少しよろめいたムツキだったが直ぐに銃で反撃、それをカズサは頭上の吊り看板を撃って落とし、大きな鉄板で出来たそれを盾にして銃撃を防いだ。
されど装甲も施されていないただの鉄板、撃ち続ければ貫けると構わず銃撃を続けるムツキに、蹴られて吹っ飛んできた看板が迫った。
「あっぶな…いっ!?」
「『木天蓼』」
看板を腕で弾いたムツキだったが、それを目くらましに看板の背後から飛んできた弾丸が額に直撃し、その想像以上の威力に面食らう。
ムツキは額に手を当てて痛がる素振り見せるが、しかし続く声には余裕がたっぷりと含まれていた。
「ん〜、やるね〜。でも、基本そういうの効かないんだよね」
実際痛みはあれど現実的なダメージは無く、同じような攻撃をどれだけ繰り返そうとムツキは倒せないだろう。
それを薄々と感じながらも、しかしカズサは戦意を衰えさせるどころかより強く燃え上がらせる。
「その余裕をひっぺがしてあげるよ、感謝しなさい」
「出来ないことを言うのは嘘を吐くのと同じだよ?嘘吐きはアウトローの始まりなんだから」
(口ぶりからして親しいんだろうね…こいつを殺して、天童アリスの心を折る。あいつの仲間を、1人残らず…!)
ムツキの邪悪な魔手は、カズサにも迫ろうとしていた。