ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ44話までの範囲でお送りします

不義遊戯の戦闘が相変わらず難しい…


理非─参─

 

ある日の一幕。

 

S.C.H.A.L.Eの休憩室でアリス達が談笑していた時、カチャン!と小気味いい音を立ててカップが倒れ、零れたコーヒーが近くに置いてあった枕を濡らした。

 

『あ、あ〜…これホシノ先輩の…』

『うわーん!怒られちゃいます!』

『取り敢えず火傷してない?制服とか濡れてたら脱ぎなさいよ』

 

ヒナがおしぼりを持ってきてテーブルに広がったコーヒーを拭き取り、アリスは一旦枕を避難させてティッシュで染み抜きを試みる。

が、結果は芳しくなく白地の枕にはかなり大きな茶色い染みが出来てしまった。

 

『ん〜…クリーニング済の枕を私達に任せて置いていったアヤネさんと、コーヒー零した私。どっちが悪いと思う?』

『何と何を天秤にかけてるのよ。10:0であんたよ馬鹿』

『こうなったら出来る限り頑張って汚れを落としましょう!こういうのはトントンすれば良いと聞きました!』

『おー、アリスがいてくれるとこういう時気が楽〜』

 

割とやらかしたと気を落とすカズサだったが、前向きに解決法を提示するアリスに心洗われヒナも巻き込んで枕の染みをタオルでトントンと叩いてもう一度染み抜きを試みる。

だが現実は非情かな、多少マシにはなれど勿論完全に染みを落とすことは出来ず結局断念することになってしまう。

 

『うーむ…この辺の跡とか顔っぽいし、新作のモモフレグッズとでも言い張れば誤魔化せるか…?』

『ブランド舐めんじゃないわよ』

『というかあの気持ち悪いのブランドだったんですか…』

『ま、まあホシノ先輩も色々枕の種類持ち歩いてるし1つの枕にそこまで思い入れは無いでしょ。最悪弁償すれば…ヒナ、一応値段調べて』

『もう調べたわ』

『流石仕事がはや…にじゅうご…!?』

 

同様の品を検索したヒナの端末にデカデカと掲載される250000の数字。

予想以上に高額な事を知りカズサは冷や汗をタラタラと垂らして猫耳をペタンと倒れさせた。

 

『ホシノ先輩は怠けるのと寝る事に全力を注いでますからね!寝具にも拘りがあるとか!やはり知られたら怒られちゃいますね!』

『追撃要らないから!え、っていうか嘘でしょ…税込み…?』

『税抜き…そこそんなに気にするところかしら?』

『…仕方ない、私が9万出すからアンタらは8万ずつお願いね』

『えぇ!?なんでアリス達も!?』

『連帯責任よそれにこっちだって小遣いが惜しいんだから!』

『ふざけんじゃないわよ大体貴女が…!』

 

言い合いに発展しそうになった一同だったが、その時休憩室の外でホシノの声が聞こえ声を鎮めると、流れるような押し付け合いでヒナに枕が手渡され、割と強引にヒナの服の中に捩じ込むように隠される。

その結果…

 

『おはよ〜!アヤネちゃんから私がクリーニング頼んだ枕預かってるって聞いたけど…え、委員長ちゃんどうしたの?成長期来た?』

『何でもないわ…』

 

ヒナの胸元が膨れ上がり小柄な体型に似合わない爆乳が誕生してしまう。

ヒナは青筋を浮かべてアリスとカズサを睨むが、当の2人は口元を抑えて必死に笑いを堪えている。

なんなら堪えきれずに吹き出し、もういいやとカズサがヒナの服から枕を引っ張り出した。

 

『あ〜!?おじさんの枕がぁ!?』

 

『あっははは!』

『ぷくく…!』

『貴女達ねぇ…!』

 

馬鹿やって揉めて笑い合って、そんな面白おかしい日常は紛れもなくアリス達にとっての”青春”だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな日々は、儚く消える泡沫のようで。

平穏がどれほど尊く守り難いものなのかをアリスは思い知る。

 

 

「カズサ…」

 

 

仰向けに倒れるカズサの顔の半分近くが吹き飛び、残った右目は生気を失ったように淀んでいる。

もう、過去に共に過した時のあの格好の良い笑顔を見ることは叶わず、容赦なく小馬鹿にしてきたあの声も聞けない。

その事実が痛いほどにアリスの胸に響き、そして仲間を失ったという今が、忘れようと頭の隅に置いていたユウカの死を思い起こさせる。

 

「ハァ…ハァ…ハァ…」

 

息苦しく、心拍数が上がる。

滝のような汗が全身を濡らす不快感すら気にすることが出来ないほどに、心に絶望が満ちていく。

 

モモイとの戦いでの敗北、Keyによる大虐殺、早瀬ユウカの死…天童アリスの心は、もう…

 

「だ、ダメです…かずっ…」

 

 

 

 

(ひひっ…ゾクゾクする…!自分自身の才能に…!ねえ、見てる?カヨコちゃん…ハルカちゃん…アルちゃん…!)

「私が…!私こそが!アウトローだぁ〜!」

 

アリスの目の前で仲間(カズサ)を殺すという企みを完遂し、これ以上ないほどにムツキの昂りは絶頂を迎えていた。

偏執的な笑みを浮かべながら駆け出したムツキは無情に拳を振りかぶり、抵抗する気力すら無くしたアリスの胴にそれを叩き込んで────黒閃

 

「がふっ…!」

 

無情にも…黒い光は、微笑む相手を選ばない。

拳の衝撃と神秘の対象への衝突が殆どの狂いなく同時に発生することによって起こる、文字通りの『会心の一撃(クリティカルヒット)

 

その一撃によって壁まで吹き飛ばされたアリスは衝突した壁が激しく陥没する程の衝撃を背中に受け、吐血する。

それでもやはり抵抗することが出来ず、ムツキはそれを良いことに容赦なくアリスへ弾丸を浴びせた。

 

「どうせアンタは!悪者退治だとか!ゲームの討伐クエストだとか!その程度の感覚でここに来たんでしょ!?甘いんだよクソガキがぁ!」

 

無防備に弾丸を受け、壁に寄りかかるアリスの顔面を思いっきり蹴り飛ばしたムツキは、何度も何度もアリスを踏みつけ、腹を蹴り、襟を掴んで振り回して地面や壁に叩き付ける。

 

「これはね!戦争なんだよ!間違いを正す戦いなんかじゃない!正しさの押し付け合いだよ!ペラッペラの正義のねぇ!」

 

アリスを放り投げ地面に転がしたムツキは、手榴弾を取り出すとそれを袖から伸ばした肉塊に持たせた。

肉塊はムツキの操作によって伸びるとアリスの顔に手榴弾を押し付けながら頭部に巻き付き…手榴弾が爆ぜる。

 

「アンタは私だよ、天童アリス!私が何も考えずに人を殺すように、アンタは何も考えずに人を助ける!私達の”自由”と!アンタらが守りたい”青春”!百年後に残るのはどっちかっていう、そういう戦いなんだよ!…そんなことも分からないアンタが私に勝てるわけないでしょ」

 

全身をボロボロに、口から、鼻から、目から、夥しい血を流してアリスは倒れる。

そんなアリスを見下ろしながらムツキは悪戯っ子のように笑うと、口元に付いた血を舐め取りながら言う。

 

「ねぇ、アリス。アンタは鎮めて来た特異体の数を覚えてる?覚えてないよね?敵なんて所詮そんなもんだし、私達にとってのアンタらも同じようなもの。殺す相手の事情なんてほんっとうにどうでも良いんだもん!」

 

完全に折れたと判断したムツキは、銃口をアリスへと向ける。

あれだけやっても未だ死に至らない耐久力は異常だが、それでも限界な事には変わりない。

それこそ、今の無防備な状態にムツキがもう何弾倉分か銃弾を打ち込めばそれでアリスのヘイローは壊れてしまうだろう。

 

「アンタの事だって、そのうち忘れるよ」

 

そしてトドメを刺そうとムツキは銃の引き金に指を掛けて…

 

 

 

 

パンッ!

 

 

 

 

銃声の代わりに響いたのは、乾いた手拍子の音。

そして遅れて響いたのは、若い少女の声。

 

「祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり。沙羅双樹の花の色、盛者必衰の理を表す。ただし…」

 

アリスの前に立つ少女は、自分と位置を『入れ替えた』ムツキに意識を向けながらも、優しい微笑みでアリスの方を振り向いた。

 

「私達を除いてね!」

 

自称天童アリスの”シスター”、扇喜アオイが参戦した。

 

 

 

 

 

 

少し時間は遡り、セミナー本部駅地下5階…小鳥遊ホシノが封印されたというそこに到着していたアオイと、それに付き添っていた黒髪の少女はそこで立ったまま気絶する大勢の生徒達を見つけ困惑していた。

 

「これ…皆さん生きてますよね?」

 

 

────特異現象捜査部、百鬼夜行支部1年 静山マシロ

 

 

後輩であるマシロの不安を他所に、アオイは1部何かがめり込んでいたかのように陥没している地面の前にしゃがみこんで検分すると、ため息を吐いて両手を上げた。

 

「どうやらユメは小鳥遊ホシノを封印したって言う特級遺物を既に持ち去ったようね」

「そ、そんな…!」

「切り替えなさい。小鳥遊ホシノを奪還する戦いから少しでも味方を救って、出来る限り敵の戦力を削ぐ戦いに目的が変わっただけよ。急ぎましょう…シスターなら近くに来てるはず」

「は、はい…!」

(アオイ先輩、姉妹の人いたんだ…)

 

的外れな事を考えながらもマシロはアオイに追従し、駅の中を回ることになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場面は戻り、突如視界が変わって自分の位置が変わっていることに気が付いたムツキは、周囲を見回して現状の把握に努めていた。

 

(何が起こった…?あいつ…青い髪、尖った耳…今のは入れ替え?前にカヨコちゃんを追い込んだっていう生徒?)

 

 

「アオイ先輩、あっちの子の処置終わりました!ですが…おそらくもう…」

「御託は良いわ。シスターの方も早く…起きなさいシスター!私達の戦いはこれからよ!」

(縁起悪い…)

「あお…い…?」

 

マシロに指示を出したアオイの声に反応して、アリスが小さく呻いた。

その姿を見下ろしながらもアオイは真剣な表情でその絶望を孕んだ声に耳を傾ける。

 

「アリスは…もう、戦えません…カズサだけじゃありません…ユウカも…死んでしまいました…Keyが、たくさん殺したんです!ですから…アリスがもっとたくさん人を助けなければと…ですが、私には出来ませんでした!アリスが信念だと思っていたものは…アリスの為の言い訳でしか、なかったんです…アリスは、もう…アリスを許せません…!」

 

それは、心の底から溢れた弱音。

勇者を目指した自身を否定する、アリスの本音だった。

それを聞き目を閉じて黙り込んでいたアオイだったが、暫く様子を見ていたものの堪えきれなくなったムツキがその静寂を打ち破る。

 

「声が小さくて聞こえないよ〜!」

 

アリスさえいなければ、どんな援軍も自分の敵ではないと駆け出すムツキ。

 

その魔手がアオイへと伸びて…手拍子に合わせてアオイの背後にいたマシロとムツキの位置が入れ替わり、次こそ触れようとして振り向いたムツキは今度はアオイと位置が入れ替わる。

結果としてムツキがアオイに背を向ける形になり、ムツキが振り向いたところを、アオイの膝蹴りがムツキの顔を打ち据えて吹き飛ばす。

 

ムツキが吹き飛んだ方向にいたマシロは慌てて手を前に出してそれを受け止めようとするが、衝突の寸前にアオイが手拍子を鳴らしたことでその位置が入れ替わり、ムツキだけが誰もいない方向へと転がった。

 

「あっ、ははっ!」

(面白いや、分かっててもここまで混乱するものなんだ…!)

 

受身を取って起き上がったムツキは新たな玩具を見つけたような無邪気な笑みを浮かべる。

気分が昂ったことにより増した気迫を受けながらも、アオイはアリスを気にかけて声を掛けた。

 

「シスター。あなたほどの子が、小さくまとまらないで。私達は仲間よ?私と貴女とカズサ、ユウカも、私達が生きている限り死んでいった仲間達が真に敗北することは無いわ!」

「!」

 

滅茶苦茶な理屈、不条理な鼓舞。

しかしそれでも、確かにアリスの胸にはそれが響いた。

淀んだ瞳に光が戻り、その目はアオイの背中を見上げる。

 

「罪と罰の話じゃない。散りばめられた死に意味や理由を見出すことは時に死者への冒涜になる。それでも…貴女は何を託されたの?

 

アオイの言葉を受けてアリスの頭にフラッシュバックする仲間の死の瞬間。

思い出したくないようなそれを、しかしアリスは鮮明に脳に焼き付け、向き合う。

目を背けていた、その瞬間を…そして思い出した。

ユウカも、カズサも…その時は、笑っていたことを。

 

「今すぐ答えを出す必要は無いわ。でも絶対に足は止めないで。それが生き残った者達のせめてもの罰よ」

 

託された者はそれが何なのか、答えを出さなければいけない。

それまで、先に進み続けなければいけない。

自分の行いを罪だと思うのならば、それがアリスにとっての罰になるのだと。

 

その真意を読み取り体を起こしたアリスの背中に、マシロが手を置いた。

そこから暖かいような、温いような、そんな感覚がアリスの全身を伝う。

 

「アリスさん、私の神秘を施しました。良いですか、貴女が受けた傷はこれ以上悪化しません。痛みも和らぐと思います。治ったわけじゃないですが、出血は泊まります。ですが今ある傷だけです。また攻撃を受ければ傷は増えるでしょうし、その傷に関しては私の神秘は対象外です」

(…アオイさんの妹さんあんまり似てないな…)

 

アオイの言葉を真に受けまたも的外れな事を考えるマシロだったが、余計なことを考えている余裕はないと気を引き締め、ムツキと対峙するアオイを一瞥するとカズサの方へ駆け寄った。

 

「ごほん、えっと…あっちの子にも同じ処置を施しました。呼吸も脈も止まってからそんなに時間は経ってないので助かる可能性はゼロじゃありません。私はあの子を連れて離脱します。ですが、ゼロじゃないだけですので!あまり期待し過ぎると逆に辛いですからね!?」

「…はい!」

 

そう言ってマシロはカズサを背負い、上階へ登って行く。

残されたアリスはアオイの言葉を思い出し…自分を奮い立たせ、そして勇者は立ち上がった。

 

 

 

 

「話は終わった?ミミトガリちゃん」

「…」

「来ないなら…こっちから行くよ!」

 

アオイに翻弄されたことで慎重になっていたムツキは、向こうが一段落したのを待ってから改めて攻撃を仕掛けた。

アオイへ向けて弾丸を放ち…その瞬間拍手によってアオイとムツキの位置が入れ替わり、放った弾丸はムツキに命中する。

 

「チッ…!」

 

今度は袖から伸ばした肉塊を刃のようにしてアオイに突き刺そうとするが、今度はムツキの下にスライディングで潜り込んだアオイは地面に着いた手を押し上げ、全身をバネのように使ってムツキを真上へと蹴り飛ばした。

その勢いで天井にまで吹き飛ばされたムツキだったが、天井に叩きつけられた瞬間、今度は天井を蹴って真下に急降下、アオイに向かって肉塊の刃を振り下ろす。

が、拍手によって位置が入れ替わり、代わりにムツキの脳天にアオイのチョップが突き刺さった。

 

それによって体勢を崩したムツキを蹴り飛ばそうとしたアオイだったが、前のめりに飛びかかってムツキは強引に触れようとする。

…しかし、やはり拍手によって位置が入れ替わりそれを躱された。

 

「あら、どうしたの?私には触ってくれないのかしら?」

 

(やるねぇ…死にかけのアリスと距離を取りながら私をいなしてる)

「でもそれだけじゃないんだよね」

 

ムツキは地面に手を触れ…そこを中心に神経のようにか細い肉塊で作られた触手が地面一面に広がって、それらは連鎖するように爆発する。

しかしその不意打ちもアオイは飛び退いて巻き込まれるのを避けてしまう。

 

(また避ける…いいよ、対応してみせる。必ず当てる!また”アレ”を決めたい。もう少しで辿り着ける気がする…私のアウトローとしての本質へ!)

 

「…!?」

 

高揚感のままに再びアオイへと攻撃しようとしたムツキだったが…その目の前に、ふらふらとよろめきながらも確かに両足を地につけて立つアリスがいた。

 

(すみません…ユウカ。楽になろうとしました。罪すら言い訳にしました)

 

 

 

 

 

『後は頼んだわ』

 

 

 

 

 

「っ…うおりゃぁぁぁ!!」

「こいつッ…!?」

 

アリスは排熱が終了し再使用可能になったレールガンを最大までチャージし、ムツキへと向けて放った。

 

袖から溢れさせた肉塊を緩衝材にして受けようとしたムツキだったが、放たれた極大のエネルギーはそれを無いもののように突き破り、ムツキに直撃する。

そして衝突の瞬間に発生する────黒閃

 

アリスの会心の一撃が、ムツキを複数の区画の壁をぶち抜いて押し飛ばした。

 

 

(アリスは…しっかりと、ユウカの分まで苦しみます)

 

 

「ハァ…ハァ…このっ、死に損ないの癖にぃ…!」

 

 

「おかえりなさい」

「…はいっ!」

 

威勢を取り戻した親友に、アオイは上着を脱ぎながら嬉しそうに微笑みかけ、アリスは元気にそれに応えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミレニアム、セミナー本部駅に向かう新幹線の中で、アズサが残した3体の小型傀儡(メカペロロ)の1つ…アリスの補助に付いたのが1つ、ユメ達を監視するために監視カメラを操作していたのが1体…そして残る最後の1体は、それを手のひらに納めるヒフミに訴えかけていた。

 

「…」

『頼む、ヒフミ。もう決着が着く頃だ。今からミレニアムに行っても意味は無い』

「…どうして…アオイ先輩とマシロちゃんだけ…?」

『…アオイはミレニアムでも9割9分死なないと判断した。アオイと同行するマシロもだ。あいつの秘儀は役に立つ───』

「私は…!」

『!』

 

冷静に戦力と役割から考えられるミレニアムに赴いた場合の活躍を語るメカペロロだったが…ヒフミの啜り泣くような、上擦った声であげられた叫びに話を途切れさせて押し黙る。

 

「私は…役立たずですか…?」

『…聞いてくれ、ヒフミ。もうそういう次元の話じゃないんだ。お前だけじゃない。キキョウ、マコト、フウカ、カホも、31日は百鬼夜行自治区内での任務に追われるようスケジュールを細工した』

「…どうして、何も言ってくれなかったんですか…?どうして、相談してくれなかったんですか…?私達は…仲間じゃなかったんですか?私が…弱かったからですか?」

 

涙混じりの声、他に乗客の居ない車両内。

新幹線の走行音に掻き消されてしまうほどに弱々しい声にメカペロロは懺悔するように隠し続けていた胸の内を語った。

 

『ヒフミが弱いんじゃない。私が弱かったんだ。弱いからやり方を間違えた…弱いから間違いを突き通せなかった。大切な人がいたんだ…どんな世界になろうと、私が側で守れれば良いと思っていた。その人が守られたかったのは、私ではなかったのかもしれなかったのに』

「…っ!」

 

その時、ヒフミはメカペロロから微かに聞こえていた駆動音が弱まっているのに気が付いた。

それが何を意味するのかを…悟れないほど鈍くは無い。

 

『…時間だ、ヒフミ』

「嫌です…嫌です、そんな…!」

『さよならだ。今まで…』

「さよならなんて、言わないでください!」

『ヒフミ』

 

泣きじゃくり駄々を捏ねるように引き留めようとするヒフミに、メカペロロは穏やかに言った。

 

『私は、アズサ…白州アズサ。ようやく言えた、私の名前を』

「…アズサ…ちゃん…?」

『ヒフミ。幸せになってくれ。どんな形であれお前が幸せになったのなら、私の願いは叶ったも同然だ』

「!」

 

一瞬、窓に白い翼の少女の姿が映ったような気がして…しかしヒフミが目を向けた先には遠くに火の手の上がるミレニアムの街しか見えない。

ただの見間違いか、それとも幻覚だったのか、誰も答えを教えてくれる者はいなかったが…それでも、ヒフミはその時に感じた確かに存在した温もりを、夢や幻だったと否定したくはなかった。

手の中にあるメカペロロは、もう言葉を発さない。

 

それを両手で包み込んで、ヒフミは込み上げる想いに大粒の涙を零し、嗚咽した。

 

「うっ…ううっ…う、ああぁぁぁ…!」

 

 

 

そんなヒフミの鳴き声を隣の車両の扉の前で聞いていた他の百鬼夜行支部の面々。

ある者は何も言わず無言を貫き、ある者は視線を落として俯き、ある者はギリィ、と怒りに歯軋りをして、ある者は顔を手のひらで覆っている。

鬱蒼とした空気の中、最初にキキョウが口を開いた。

 

「…カホ先輩、メカペロロがした事は…」

「不問です。本人が亡くなっている以上、咎める先がありませんので」

「…はっ、随分とこの私を低く見積もってくれたものだな」

「それに関してはマコトに同意よ…アオイなら死なないとか、私達なら死ぬとか、関係無いわよ…可愛い後輩を泣かせた人を、私は許さない」

 

それを皮切りにカホは心底痛み入るように、マコトは変わらぬ調子で、しかしどこか落胆したように、フウカは怒りに満ち満ちて口々に言う。

間に合うかも分からない新幹線は、それでも真っ直ぐと決戦の地を目指した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ、はははは!」

 

壊れたように笑いながら、ムツキは肉塊で作り上げた触手の先に更に棘の付いたハンマーのようなものを構成し、狭い地下内で振り回す。

それは地下の柱を、壁を次々と粉砕しながらアリスとアオイに迫るも、アオイが受け止めるたのに合わせてアリスが間合いを詰めムツキに飛び蹴りを仕掛ける。

 

クリーンヒットした蹴りはムツキをよろめかせ、そこにアオイが受け止めていたムツキのハンマーを投げつけて追撃する。

自分で作った大質量の肉塊の下敷きになったムツキだったが、直ぐにそれを袖の中に回収すると今度は巨大な爪のようなものを作り、地面に叩きつける。

その衝撃で地面が割れ…3人は地下の空洞に落下した。

 

「また分身ですか…!」

 

落ちるやいなや、肉塊でもう1人の自分を作り上げたムツキはそれぞれで挟み込むように肉塊の触手をアリスに振るう。

しかし拍手の音が鳴るとその内の片方がアオイと入れ替わって、絶妙な位置調整により位置を入れ替えられた分身の触手は本体の顔面を捉えた。

 

「ぐふっ…ちくしょう…!」

「まだまだ行けるわね!?アリス!」

「勿論です!」

 

悪態を着くムツキに2人は巧みな連携で怒涛の攻めを行い、ムツキの手数に翻弄される前に行動を潰して削りを入れていく。

アリスが主体となって攻め込み、アオイはアリスが攻撃を入れる為のフォローに徹して隙作りや間合いの管理、入れ替えによる被弾のカバーを担う。

 

余程互いが互いを信頼していない限り成立することは無い高速戦闘中に行われる連携を、アリスとアオイは呼吸をするかの如く平然とこなしていた。

 

(ミミトガリちゃんのヘイローは万全だけど、今の私ならワンタッチで殺せるかな…?天童アリスのヘイローの耐久値はおよそ残り1割…私のヘイローの耐久値は4割ぐらい。あの子猫ちゃん、弱っちい癖に爪痕だけは残してくれちゃってさぁ…)

 

ムツキがヘイローを分けて作った分身が破壊されたことに加え、カズサの秘儀でのダメージとそれによって動きが鈍った所へのアリスのラッシュで、ムツキのヘイローは大きくその耐久値を削られていた。

それでもまだ半分近くの猶予を残しているとはいえ、このままあの連携に押されるのはマズいとムツキはアオイに狙いを定めた。

 

「邪魔者はお払い箱だよ…!『多重輪:撥体』!」

 

ムツキは袖から巨大に膨れ上がらせた改造生徒を放ってアリスとアオイを飲み込ませようと襲わせた。

狭い地下を埋め尽くすほどの巨体を前に、アリスとアオイは視線を交わすと天井の穴から上の階に跳び上がり、追ってくる改造生徒から逃げる。

 

線路に降りた2人の後ろから馬鹿正直に改造生徒が迫ってきている事を確認すると、アリスは横に逃げてアオイが改造生徒を引き付け、後方からアリスがその先にあるトンネルの天蓋をレールガンで破壊して崩落させ行き止まりを作る。

その行き止まりに向かって駆けるアオイは瓦礫の壁に衝突する直前、追ってきていた改造生徒と位置を入れ替え、アオイの代わりに改造生徒が瓦礫の壁に突っ込んでその周囲がより大きく崩壊し、改造生徒は崩れ落ちてくる瓦礫に押し潰された。

 

その改造生徒の中に潜んでいたのか、瓦礫の中から飛び出たムツキは肉塊で剣を作り両手に持ってアオイに切りかかろうとするも、剣の腹を掴まれて抑え込まれ、そこにアリスが横からレールガンを放ってぶっ飛ばし、無理矢理エレベーターへと押し込まれる。

慌てて外に出ようとする前にアオイハンドガンを使った跳弾を利用して遠距離からボタンを押し、ムツキは強制的に上の階へ送られた。

 

「はっ、ふざけたことしてくれちゃって…!」

 

エレベーターを壊して外に出ようとも考えたが、真っ向から叩き潰してやろうという考えに至り大人しく上階に到着するのを待ち、エレベーターが止まったのと同時にムツキは扉を突き破って外に出る。

そこには追ってきたアリスがレールガンを構えていて…

 

「光よ─────!」

 

放たれた極大のエネルギーがムツキに迫る。

だが発射地点からはそれなりに距離があり、余裕で躱そうと横に跳ぼうとしたムツキだったが────拍手の音と共に迫っていたエネルギーはアオイと入れ替わった。

 

「なっ…!?」

「一定以上の神秘さえ篭っていれば、私の秘儀の対象よ」

 

その突飛な行動に呆気に取られるも、振りかぶったアオイの拳に合わせて反撃しようと冷静に腕を伸ばすムツキ。

どうせアリス以外の攻撃は効かないとその一撃を受け入れながら確実にここで仕留めようとして…横の壁を突き破って来たエネルギーの塊がムツキを飲み込んだ。

 

「ぐあっ!?」

(さっき入れ替えた、天童アリスの…!?)

 

「行くわよ、シスター!」

 

アオイと位置を入れ替えられたレールガンのエネルギーが時間差で襲いかかり、想定外のダメージにムツキは身体を硬直させる。

そこにアオイは確実に一撃を入れるために拳を入れると見せかけて、シームレスに身体の動きを蹴りに移行する。

 

(そのレベルで満足していると、私と貴女は親友では無くなってしまう…このアウトローは既に黒閃を決めていると聞いたわ。今置いて行かれているのはこの私!本当に強くなったわね、シスター!貴女はそれで良いの?扇喜アオイ!再びシスターを1人にするつもり!?)

 

妄想と想像が爆発して、アオイのテンションは臨界点に達する。

極限まで引き上げられた集中力は運も実力もその全てを脚に乗せて─────黒閃

 

「ごふっ…」

 

黒閃により威力が跳ね上がった蹴りを胴に受けたムツキは、吹き飛びそうになるのを地面に爪状にした肉塊を引っ掛けることで後退する程度に留める。

確かに今のを受けたのが並のアウトローならばそれだけで決着が着く程の強烈な一撃。

それでもアリスでなければムツキの特性を貫通してヘイローにダメージを与えることは出来ず、故にアオイの黒閃は無駄に終わったのか。

 

 

 

否、黒閃を出した直後はその者の集中力や瞬発力、神秘を扱うセンスが引き上げられる”ゾーン”へと突入し…

 

それぞれが黒閃を出した今、三者は120%のポテンシャルを引き出すに至る。

 

 

 

 

ムツキは袖からありったけの量の肉塊を溢れさせ、荒れ狂う竜のようにそれをのたうち回らせると、空気が震えるほどの声量で叫んだ。

 

 

 

「テンション上げなよ、天童アリス!私とアンタの…最後の殺し合いだよ!」

 




配役
新田新…マシロ
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