地面が割れ、大きく広がった裂け目から地上にのたうつ竜のような肉塊が姿を現す。
それは共に地上に出てきたアリスとアオイに大口を開いて喰らいつくが、飲み込んだ直後に内側から放たれたレールガンが風穴を空け、2人はそこから脱出する。
そして遅れて地上に上がってきたムツキはその肉塊を崩れさせると、流動する肉塊が鉄砲水のように街中に広がって建物や車を押し流した。
広々とした…足元が液状の肉塊が広がるそのエリアの上で、空気が震えるほどの声量で叫んだ。
「テンション上げなよ、天童アリス!私とアンタの、最後の殺し合いだよ!」
「私は仲間外れかしら?」
「っ!」
偏執的な笑みを浮かべ”特級”を冠するに相応しい気迫を見せたムツキだったが、不安定な足場の上を一瞬で駆け抜けたアオイがムツキの腕に触れないように細心の注意を払いながら組み付いて動きを封じると、そこに駆け寄ったアリスが腕を振り抜こうとする。
手で触られたら終わりだと知りながら大胆に肉薄してくるアオイに感心するムツキは、自分の首を切り離して逃がすことでアリスの拳を避け、独立した首の断面からまた新たに身体が生えて元の姿に戻った。
「いよいよ何でもありになってきましたねあなたも…!」
「私にルールの話をするつもり?無法で結構、こちとらアウトローだよ!」
衣服の代わりに蠢く肉塊を纏い、ムツキは先端が刃状になった触手を振り回す。
風切り音が劈き、コンクリートの建物すら紙のように切断する威力のそれにアリスとアオイは攻撃範囲外に離脱するが、その間にムツキは切り離した身体の方に残してきた服を回収し着直した。
勿論黙ってその隙を見逃すはずも無くアリスはレールガンを放とうとするが…本体に服を剥ぎ取られた首のない身体の上にヘイローが浮かび上がると、それは自律して行動しアリスへと襲いかかる。
「また分身…!」
「シスター!貴女は本体をやりなさい!こっちは私が!」
「分かりました、気を付けてください!」
首なしの分身の方を受け持ったアオイは、本体の方へ向かっていくアリスを止めようとする分身を手を叩いて入れ替える事で妨害し、アリスから離れた方へ蹴り飛ばして引き離す。
やがてその分身にも生々しい音と共に首が生えると、分身は足元に広がっていた液状の肉塊を幾らか手の中に納め、そして一体の肉人形を作り上げた。
「あれは…!」
「『多重輪:幾輪異性体』」
分身が作り上げたそれは、仮面を着けたような顔面に歪な形のヘイローを浮かばせた…ミレニアム内を闊歩する改造された生徒に似たもの。
その本質は、混ぜ合わせた時にヘイローの拒絶反応の少ない…姉妹や親子等のヘイローを一纏めにして生まれた特殊な改造生徒。
それを知る由もないアオイは、真っ直ぐ自分に向かって走ってくる幾輪異性体を速攻で排除しようとする。
(改造された生徒の強さとしての等級は特異体やアウトローでの換算でおよそ3級〜2級程度。手早く潰して…シスターの援護に…!)
「アオイ!?」
幾輪異性体の蹴りを下に潜り込んで回避しそのまま仕留めようとしたアオイ。
しかし想像を遥かに超える反応速度で幾輪異性体はアオイのアッパーを避けると、カウンターの鋭いボディーブローが突き刺さってアオイは奥の建物の中まで吹っ飛んでいく。
「くふふ、舐めてるからそうなるんだよ」
「くっ…尽く、あなたは…!」
強打の入ったアオイの方を見てケラケラと笑うムツキに、アリスも天井を無くした怒りによってギアを上げる。
刃の付いた触手による嵐のような斬撃を掻い潜り、レールガンの銃身で横薙ぎに叩き付けるも踏みとどまったムツキに掌底を食らって後ろによろめく。
その隙にムツキは分身から分け与えていたヘイローを回収して自分に戻してしまう。
一方吹き飛ばされたアオイは追撃しようと追ってくる幾輪異性体の後方に向かって近くに落ちていた小石を投げ…手を叩いてその小石と位置を入れ替える。
アオイの秘儀である『不義遊戯』は一定以上の神秘を持ったものの位置を入れ替えるものであるが、極論神秘さえ流し込めばその対象はあらゆる物品にまで及ぶのだ。
突如目の前のアオイが消えて立ち止まる幾輪異性体の後ろからタイルが敷き詰められた床に大きな亀裂が入る程のかかと落としを脳天に叩き込み、更に確実に潰そうと腕を振り上げるが…
「…あら?」
(死んでる…あれだけパワーがあったのに一撃で…?)
それなりに苦戦することを覚悟していたアオイだったが、最初の一撃で幾輪異性体が動かなくなったことに拍子抜けする。
あれだけの膂力があるならば肉体の強度もそれなりだと推測していたが、実の所『幾輪異性体』は複数のヘイローの神秘と耐久値を薪として焚べることで短時間の爆発的なパワーを得た改造生徒。
その分性能は攻撃力に極振りされており、自律させるためのヘイローの耐久値そのものをエネルギーに変換しているため外部からの攻撃に極端に弱い。
アオイもその性質に思い至り…分身が本体に戻る前に追加していた2体の幾輪異性体の方を振り返る。
「当てれば倒せるけど食らうのはマズイ。無駄に神経使わされるわね。許しなさい、貴女達。せめて生まれ変わった時の平穏を、私達が作ってみせるわ」
おぞましい肉塊に変えられてなお命を弄ばれる生徒達に謝罪と祈りを捧げたアオイは、インナーの内側から取り出したロケットに口付けをすると、襲いかかって来る2体の幾輪異性体を迎え撃った。
(ミミトガリちゃんとの分断は済んだ…ここで押し切る!)
アオイのカバーが無くなったアリスに袖から溢れさせて肉塊を矢のように飛ばすムツキ。
柔らかそうな見た目に反して建物を粉砕する威力のそれをアリスは機敏に、壁や瓦礫の山等の地形を活用して避けていく。
避けられた肉塊の矢が大量に突き刺さったタワーは崩壊し、その中でアリスは崩壊と共に落ちてきた巨大な看板を掴み取るとそれをムツキの方へと投げつける。
肉塊で巨大な腕を作りそれを受け止めようとするムツキだが、その質量とアリスの膂力による投擲の勢いが加わったそれを止めることは出来ないと判断して跳び退き、足元の肉塊を集めると巨大なムカデのようなものを作ってその上に乗った。
それを駆け上ったアリスは飛び蹴りをするも、ムツキに足を掴まれ明後日の方向に投げ飛ばされてしまう。
「くふっ…ん?思ったより早かったね」
「全くよ。つくづく貴女は私を仲間外れにしたいようね」
「アオイ…」
幾輪異性体を片付け戻ってきたアオイが投げ飛ばされたアリスをキャッチする。
少し怪我はあるが大きな外傷は無いことに安堵したアリスは深呼吸を挟んで体勢を立て直す。
こうなるとムツキとしても2人の攻略難度が跳ね上がってしまう。
(何よりミミトガリちゃんに攻撃を当てるのがハードルが高いからなぁ…かといって確実に当てようと神秘解放を使えば…また、Keyが出てくるかな)
トリニティでの戦いの時の事を思い出したムツキはあの時生得領域の中で出会ったKeyの威容を幻視して肩を震わせる。
結界術というものは複雑で、1度領域から除外するという手札を晒している以上それにアリスが対応できないと見積もるほどムツキは今更アリスを侮ってはいない。
故にアオイのみを領域に引きずり込むことは困難で…生物としての格の差、神秘を扱う技量においての格の差、それらは少なくとも今のムツキにとって埋めようが無く、次Keyのヘイローに触れれば確実に殺されてしまうだろう。
普通に、触れたのならば…
(大丈夫、私なら出来る。お手本なら目の前で見たんだから…ねえ、小鳥遊ホシノ)
「───神秘解放『トリック・オア・トリック』」
(一か八か、0.2秒の神秘解放!)
「「!」」
肉塊で作られた腕がムツキの頭上で掌印を結ぶ。
以前はそれが敗因になったという情報を聞いていたからこそムツキの本体の前では常にアリスの近くに位置取っていたアオイは、来ないだろうと切り捨てていた可能性をひっくり返されて尚冷静に行動する。
アオイは神秘解放から身を守る為に師匠である聖園ミカから伝授された簡易領域を発動する。
それよりも早くムツキがム為転変を発動する前にそれを妨害しようと駆け出すアリス。
それらを嘲笑うかのように、ムツキは神秘の解放と同時に領域に付与した秘儀を起動。
本来2段階に分けられる工程を一度にまとめるという、黒閃を経験し、ホシノの絶技をその目で見たからこそ為せる早業を実現させた。
そして一瞬とはいえアリスを領域に入れたことによって────ムツキはKeyの生得領域へと飲み込まれる。
地面を無数のケーブルが這い、至る所に歯車や壊れた機械のようなものが落ちている摩訶不思議な世界。
そしてムツキは機械の残骸の山の上にある、無数のケーブルが繋がった椅子の上に座るKeyと対峙する。
「…セーフって事で良いのかな?」
「…」
ムツキの言葉に、Keyは何も答えずただ不敵な笑みを浮かべる。
「アンタのことだから、どうせ天童アリスとの間に保険でも作ってるんでしょ?させないよ。変わる間もなく天童アリスは殺す。黙ってそこで見てなよ、クソったれ」
「…」
明らかな暴言、侮辱にも関わらずやはりKeyは何も言わない。
そしてムツキを生得領域の外へと突き放し───
───意識は現実へと戻る。
「っ…!」
一瞬で展開された領域は次の瞬間に消失し、しかしその一瞬の間に発動した『ム為転変』がアオイを侵食する。
ムツキの秘儀を受けて左腕が膨れ上がったのを見たアオイは…身体強化用に左手に流していた神秘の供給を断つと、侵食が全身に広がる前に右手による手刀で左腕を切り落とした。
「アオイ!」
「どいてなよ!天童アリス!」
「ぐぅ…!?」
アオイに意識を向けたアリスを殴り飛ばし、もう秘儀を発動される為の腕を無くしたアオイに嬉々としてムツキが駆け寄る。
トリニティでの戦いで神秘解放を使用した直後は秘儀が焼き切れ一時的に秘儀の使用が困難になることを理解していたムツキは、また翻弄される前に秘儀を使わず決定打を与える手段として…自らの拳を選んだ。
アオイが距離を取ろうとするよりも早く眼前まで迫り、構えた拳が突き出されて────黒閃
「がふっ…」
「せっかくオシャレにしてあげたのに、そんな直ぐに捨てられちゃったら傷付いちゃうよ。にしても…」
(こいつ…山勘でお腹に全身の神秘を集中させて威力を和らげた…!)
黒閃により威力の跳ね上がった打撃はアオイの肋骨を砕いたが、貫通させるつもりで放ったそれを耐えられた事にムツキは舌を巻く。
だが口からマーライオンのように血を垂れ流す今のアオイにこれ以上の継戦が出来るはずもなく、アリスが戻ってくる前に確実にトドメを刺そうと腕を伸ばした。
(もう秘儀も回復した、叩く腕も無い、終わりだよ!)
今度こそ『ム為転変』で殺そうとするムツキだったが…
その時、アオイが首に掛けていたロケットの紐が切れたのを見た。
重力に従って落ちたロケットは地面にコツンと当たって開かれて────その中に、片面にアリス、片面に連邦生徒会のリン行政官の写真が入っているのを見てしまった。
「…?…え…は?…え…?」
意味が、分からない。
アオイがずっと大事そうにしていたからこそ、それがなんなのか興味を持ちつい視線を向けてしまったムツキはありとあらゆる狂喜や憎悪を忘れて混乱に飲まれた。
勿論ロケットに写真を入れるものだということは知っているが、この女のこれは本当に理解が出来ないと思考が真っ白に染まる。
随分と仲良さそうにしていることからアリスの写真が入っているのはまだ分かる。
リン行政官…その冷たい目付きにファンも少なくないという噂を聞くことからその写真が入っているのも分からないでもない。
これが同時におなじロケットに入れられているということに理解が追いつかず…一瞬身体を硬直させたムツキの手のひらを、アオイの右手が叩いた。
「あっ…」
アオイの秘儀、『不義遊戯』の発動条件は手を叩くこと。
自分の手を用いていれば…片方が別の者の手でも発動するのだ。
入れ替わる対象は、見るまでもない。
「うおりゃぁぁぁぁぁ!」
「クソッ…ぐあぁ!?」
手が触れるほどの距離でアオイと入れ替わったアリスの拳を、ムツキは避けることが出来なかった。
結果叫びながら放たれたそれはムツキの顔面に入り────黒閃
錐揉み回転しながらぶっ飛んだムツキは瓦礫の山に突っ込んだ。
(…一瞬でも触れたのだから、これで済んだだけ奇跡ね)
アリスと入れ替わる為にムツキの手を叩いたアオイは、ムツキの手と触れた右手の表面がボロボロと崩れているのを見て苦笑する。
先程受けたダメージもあってもう前線に立つ事は出来ず…故に、後の事はアリスへと託す。
「頼んだわよ、シスター」
(後は任せてください、アオイ…ありがとうございます、アオイ!)
アオイの献身を胸に、アリスは吹き飛ばしたムツキを追う。
対して、今の一撃で歪んだ顔を修復したムツキは自身のヘイローの耐久値の限界も感じ取っていた。
(このタイミングでモロに黒閃を食らうなんて…ふざけやがってミミトガリちゃん…!でも、だけど…ようやく掴んだよ。私の、アウトローとしての本質を…自由を!)
「っ!」
追いついたアリスは、一帯の地面を覆っていた肉塊がムツキへと集まっていくのを目にする。
街を飲み込むほどの物量のそれらが、たった1人に集まって圧縮され、完成したのは肉の繭。
それは蕾のように開いて…中から現れたのは、進化を果たした忌むべき怨敵。
「『偏殺即霊体』」
「ムツキ…」
顔の上半分を覆う白い仮面を被り、スカートにステンドグラスのような模様が施された黒いドレスを纏って現れたムツキ。
ステンドグラスのようなガラス細工に見えたその模様は、目を凝らせばこれまでムツキが殺して取り込んできた幾千の生徒のヘイローの欠片だった。
己のおぞましい所業を誇るかのようなその衣装にアリスは吐き気を催したのと同時に、それがただの着替えや飾りでは無いことを悟る。
塵も積もればなんとやら…ヘイローは神秘の源泉。
1人当たりの生徒の神秘は弱くとも、それが何千も集まった神秘の総量は馬鹿にできるものではない。
「ハッピーバースデーってやつだよ、天童アリス」
(…あの衣装そのものが何千人分の生徒の神秘の集合体…それに加えて恐らくさっき集まっていた肉塊もあれに、或いはムツキ自身に圧縮されている…)
冷静に分析を進めるアリスに、これまでの狂気の混じっていたものから打って変わって、清々しい声でムツキは話しかけた。
「黒閃を経て理解したんだ。私の本当の…アウトローとしての自由を」
「…驚きましたね。あなたが自分探しをするタイプだったなんて」
「くふふ、そうだね…何年か前の私はそんなことまるで考えたこと無かったよ。でも…仕上げはこれからなんだ。アンタを殺して初めて、私はアウトローとしてこの世に生まれ落ちるんだから」
「…」
鼻を着く悪臭が風に吹かれて、それだけで体調を崩してしまうような淀んだ空気。
お互いに限界が近いのは変わりなく、それでも目の前には1段階上に登ったムツキ。
アリスは腰を落として構え───
「ふっ、ははは!」
「!」
ムツキが腕を振ると、二の腕までを覆っていたロンググローブの肘部分が変形して長大なブレードのようになる。
突然の変形を咄嗟にかがんで回避するも、ブレードはアリスの長い髪の一部をざっくりと切り落とした。
だが乙女の命と言えど今更髪を気にする訳もなく、アリスはムツキへとレールガンを放った。
しかし…
(効いてない…!?)
放たれた極大のエネルギーの塊は確かにムツキに命中したが、バチン!と弾かれて有効打を与えなかった。
ムツキが纏うドレスは強力な神秘の結晶、それに圧縮されている以下の神秘の弱さではまともなダメージを通せない。
手応えの薄さで言えばアリスの不意打ちを防いだモモイの時以上だとアリスはあの時の敗北が脳裏を過ぎる。
それによって動きが鈍った所をムツキが肘のブレードで斬りかかり、アリスの肩が切り裂かれる。
直前に身を引いた為に傷は浅いが、この程度のダメージでも何度も負えばもうアリスは耐えられない。
(そういう、ことですか…ムツキは…もうアウトローとして、別次元の存在へと進化している…!)
ここぞとばかりにムツキの仕掛ける猛攻に、アリスは少しづつ傷を負い、隙を見て反撃しても効きやしない。
既に戦いの天秤はどちらかへと傾いていた。
「がっ…」
「堕ちろ、天童アリス」
ムツキの手がアリスの顔を掴み、地面へと叩き付けた。
ドレスを纏った事で身体能力も引き上げられているのか、その衝撃によって地盤が崩壊し、2人は地下の下水道へと落下する。
浅い水溜まりに着地して互いに距離を取り合い一呼吸置くと、アリスは逆転の一手を撃つために全神経を集中させた。
(今のムツキに攻撃を通すには…アリスの最大神秘出力の黒閃を出すしかない…!)
黒閃を狙って出せる者は存在しない。
しかしその一縷の賭けに打って出るしかないアリスだが、極限の集中状態の中これまでのダメージが身体の表層に出て膝が震え、それを抑えるために自分の腹を殴って気合いを入れ直す。
一方ムツキも今になってこれまで受けてきたダメージが身体に響き、血を吐き出していた。
ドレスによる防御と身体強化があるとはいえ、それでも目の前の宿敵を倒すには全霊を賭さなければいけない。
(領域直後の神秘を大量に消費したところに黒閃を食らったのがマズったかなぁ…でも…消耗してるのは天童アリスも同じ)
「くふふっ…お互い元気いっぱいだね!」
「…」
アリスの目が未だ戦意を灯して自分を見据えているのを見たムツキは、お互いに向けた皮肉を言って口元の血を拭った。
アリスはレールガンを構え、ムツキは前傾姿勢を取って…ムツキが腕を振り下ろした衝撃で足元の水が舞い上がり、アリスの目の前に濁った水の壁が出来上がる。
それにも動じずアリスはじっとその水の壁之向こう側を見つめ───それを突き破って肘のブレードを振ってきたムツキの奇襲を避けてレールガンを腹へと押し付けた。
「!」
「光よ────!」
アリスがレールガンの引き金を引く。
黒閃を狙って出せる者は存在しない。
しかし、ムツキは今のアリスには黒閃を打つと確信させるものがあると感じ…故に対策を打った。
レールガンを押し付けられた腹、その部分のドレスに模様として刻み込まれていたヘイローの欠片を炸裂させ、ダメージを相殺するのと同時に衝撃をズラすことで黒閃を防いだ。
押し付けられていたレールガンは弾かれ、ありったけの神秘を込めた渾身の一撃は透かされ…もうアリスに打つ手は無い。
勝利を確信したムツキはブレードでアリスの首を落とそうとして────
「う、ぐっ!?」
アリスはレールガンそのものをムツキに投げつけた。
アリスが扱う為に威力、出力を引き上げられたそれはとてつもない重量を誇り、火事場の馬鹿力による投擲で一定効果のある鈍器として働く。
だがつい受け止めてたたらを踏んでしまったものの、至近距離だったが故に勢いが乗らず僅かにトドメを遅らせる時間稼ぎにしかならない。
受け止めたレールガンを横に捨てたムツキは今度こそとブレードを振る…が、
「ふんっ!」
「なっ…!?」
もうまともに動けないはず、そう思っていたアリスはムツキの予想に反して軽快にブレードを躱すと、腕を引いて振りかぶった。
「アリス、気付いたんです────
「今更!?」
この期に及んで当然のことを言い出したアリスについ突っ込みを入れたムツキだったが、まだアリスが黒閃を決めてくるという予感は消えていない。
先程よりも動きの鋭さは増しているものの、まだ速度では自分に部があるとムツキはアリスよりも早く拳を入れようとして…2人が落ちてきた地上の穴から、高らかな声が響いた。
「そこのアウトロー、貴女が知らない筈が無いでしょう?腕なんて飾り…拍手とは、
「っ!」
姿を現したアオイがまだ残っている右手と、切断した左手の断面を叩き合わせる。
散々アオイによって引っ掻き回されてきたムツキは向き合う自分とアリスの位置が入れ替わり、背後にアリスが来ると予想して振り返りながらブレードを薙ぎ払った。
しかし───
(入れ替わって、ない!?)
「生憎様、私の
「終わりです、ムツキ」
「こっの…うごっ…!」
手のひらと手のひらを叩き合わせなければ『不義遊戯』は発動しない。
まんまとブラフに引っかかったムツキは振り返ったまま体勢を戻すことが出来ず、防御も間に合わず、アリスの拳が一直線にムツキの顔面に叩き込まれ─────黒閃
散っていった仲間達に託された全ての思いを乗せて放たれた一撃により、ムツキは纏っていたドレスを崩壊させながら吹っ飛ぶ。
模様として刻み込まれていたヘイローの欠片がキラキラと瞬いて空へ登って消えていく様は、ムツキに囚われていた生徒達が解放されたようにも見える…幻想的な光景だった。
水溜まりの上に倒れたムツキは自らのヘイローにヒビが入るほどのダメージを受けながらも、まだ立ち上がろうとする。
そこにアリスが歩み寄ると、ムツキは激昂し近くに落ちていた石をアリスに投げつけ…もはやそれでダメージを与える余力すらないことを自覚しながらも、心の底からの感情をぶつけた。
「認めない…認めない、認めない!なんで、私は全部失くしたのに…なんでアンタにはまだ残ってるのさ!あんなに奪ってやったのに…!あんなに否定してやったのに…!なんで、まだ…!」
「…ムツキ」
「許さない、絶対にアンタを許さない!アンタの仲間も、平穏も、守るものも、全部を壊して、私は…!」
「ムツキ」
「!」
力の籠ったアリスの声に、びくりと身体を震わせてムツキはアリスを見上げる。
ムツキと目が合うと、大きく息を吸ったアリスは声を張り上げて言った。
「アリスには、夢があります!」
「たくさんのものを失って、たくさんのものを守れなかったアリスですが…この夢だけは、諦められません!」
「仲間と共に困難に立ち向かって…!皆の思いが報われて…!いつか、皆の平穏と青春が脅かされることがなくなって…!散っていった仲間達に、皆のお陰で守れたのだと、笑顔で感謝出来るような…!」
「そんな、ハッピーエンドにアリスはしたいんです!」
「誰がなんと言おうと、どれだけ道を阻まれようと、何度だって目指し続けてみせます!」
「アリス達の…
「終わりになんてさせません!いつか報われるその日まで、戦い続けていくんです!」
「私達の物語───
───私達の、青春を
「…ぁ」
地上の穴から降り注ぐ月明かりが、スポットライトのようにアリスを照らす。
まるで今、アリスがこの世界の中心に立っているように…アリスが今、この世界の主人公であるかのように。
「ふざ、けるな…ふざけるな!私だって…私達だって!報われたいのは同じなのに!アンタだけが青空の下にいるつもり!?何がハッピーエンド…何が夢だって!?その勘定に、私達はどうでもいいんでしょ!」
「…はい。アリスはもう、
「…!」
「だからアリスは…私の正しさをあなたに押し付けます。私の夢の為に…ムツキ、あなたを殺します」
アリスは冷たくムツキを見下ろすと、拳を固く握り締めて近付いていく。
「ぁ…ぁ…やだ…嫌だ…」
その時初めて…恐れるものなど無いと思っていたムツキは初めて…目の前に迫る死に”恐怖”した。
これまでずっと捕食者であったムツキは…今日この時、被食者の立場に落とされたのだ。
1歩、1歩と近付いてくるアリスから何とか逃れようと身体を汚しながら這いずる。
居た堪れなさすら感じる無様を晒すムツキを、アリスは容赦なく地上まで蹴り上げる。
コンクリートの上に転がって咳き込むムツキを追ってアリスもレールガンを拾って地上に上がり、ムツキへと向けた。
「これで本当に終わりです、ムツキ」
「嫌だ…嫌だよ…終わりたくない…終わらせたくないよ…せっかく皆でここまで来たのに…助けて…カヨコちゃん…ハルカちゃん…アルちゃん…助けて────」
「助けてあげようか?ムツキちゃん」
「!」
「ユメ…!」
這いずるムツキの前に姿を現した、額の縫い目と水色の髪が特徴的な…ユメの皮を被った女は、慈母のような微笑みを浮かべた。
ブルア廻宣言ってね(台無し)
今回の話は作者がこの小説を書き始めた時からずっと書きたかったお話でした。
語感が良いと言葉遊びとして名付けられた『ブルア廻戦』という概念は、今回の話をもって『
勿論それも作者の自己満足に過ぎませんが、好きな概念だからこそそれをより大きくしたいという思いがあったんですよね。
自分なりの解釈と描写の肉付けで進めていく物語ですが、よろしければこれからも応援よろしくお願いします。