Key
「ハァ…冷蔵庫に特級遺物保管するとか馬鹿すぎるでしょ…は?ないんだけど」
『え?』
「だからないんだけど。空っぽよ、冷蔵庫」
『あっはっは、お散歩にでも行ったのかな〜』
「殴るわよ」
『うへ〜、回収するまで帰ってきちゃダメだよ〜?』
「ねぇ、ちょっと…今度マジで殴りましょう」
相談もろくに取り合わず通話を切ってしまった先輩に悪態を着きながらも、モップのような白い長髪の少女は良くない気配の漂う校舎を見渡し、ため息を吐きながら目的のものを探して歩みを進めた。
「始めますよ…本当に良いんですね!?佐々木先輩、井口先輩!」
「うん…」
「…」
「それでは…行きますよ!」
暗い教室の中、蝋燭の明かりのみ灯るぼんやりとした光の中に集まるのは、三人の少女。
一人は白い髪に白衣を羽織る、一人は黒髪に眼鏡の、一人は床まで届く長い髪が特徴的な生徒。
彼女達は緊張に喉をゴクリと鳴らすと、長い髪の少女の掛け声で行動を開始した。
「「「こっくりさ〜ん!こっくりさ〜ん!生徒会長がギリ負ける生き物を教えてください!」」」
揃って唱えられた質問。
三人が指で押さえるコインは、あいうえお表の上を滑り順番に『ク』『リ』『オ』『ネ』の文字を辿った。
「く、クリオネ…www」
「うわーん!生徒会長が雑魚過ぎます!」
「いっそ可愛いよwww」
「うるさいわよオカ研!!」
「あ、ふともも先輩!」
三人が爆笑し騒ぎ立てていると、教室の扉が勢い良く開けられて青髪をツインテールにした少女が怒鳴り込んできた。
少女は三人の目の前にバンッと書類を叩きつけるように置くと、鬱憤をぶつけるかのように早口で捲し立てる。
「活動実態のない研究会には事前通告通り部室を明け渡して貰うわよ!ミレニアムプライスにすらなんの出展もしてない癖に…!」
「ウチの先輩を舐めてもらっちゃ困るよ先輩」
「…何がよ?」
白髪の少女が誇るように言うと、それを受けて眼鏡の少女が席を立ち不敵な笑みを浮かべる。
「ふっふっふっ…ラグビー場が閉鎖されているのはご存知ですね?」
「…ええ、体調不良で入院した部員まで出てるし、しょうがないわよ」
「おかしいと思いませんか?あの屈強なラガーマン達が」
「屈強?」
「うわーん!ウチの運動部が揃って雑魚過ぎます!」
「さっきから誰よアリスに良くない言葉教えたの!」
「実は彼女達が体調を崩す直前、奇妙な音や声を聞いたらしいですよ…そこでこの30年前の吉田さんの行方不明事件です!」
今度のようなやり取りにキレる青髪の少女を無視して、眼鏡の少女は話を続け、その証拠だとでも言うようにパソコンを操作すると、保存されていた古い記事を青髪の少女に見せつける。
「最後の目撃情報はここ、ミレニアム運動場第三区画…今のラグビー場です。カイザーの闇金に追われていた吉田さんはPMCやブラックマーケットの追手にも追われていたそうです。つまり!一連の騒ぎの原因はラグビー場に埋められた吉田さんの怨霊だったのです!」
勝ち誇るような笑みを浮かべ、テーブルに登る眼鏡の少女に白髪の少女がそれをライトで照らし、長髪の少女…アリスがパチパチと拍手をして無駄に演出を付ける。
それに対して、青髪の少女はバッサリと一言。
「いやマダニが原因だそうよ」
「部長!?」
一撃で持論を粉砕された眼鏡の少女は崩れるように倒れ、それを白髪の少女が支えて必死に名前を呼びかける。
アリスは彼女達をかばいながら青髪の少女に抗議の視線を向けた。
「だからなんだというのですか!オカ研がオカルトを解き明かそうとするのならば、それは立派な活動報告の筈です!」
「あのね、アリスちゃん…子供のお遊びじゃないのよ?そもそもアリスちゃん!貴女部活の籍がオカ研じゃなくて運動部に入ってるからオカ研は同好会規定の3人に達してないの!」
「「アリス!?」」
「え、えぇ!?アリスはちゃんとオカ研に入部すると…!」
「それはですね、私が書き換えたのです!」
「スミレ先輩!?」
「貴女は運動部の期待の新人です!」
(オカ研以上の問題児が来てしまった…)
話に割り込んできたのはスポーツウェアを着た長身の少女…スミレ。
何の気なしにとんでもないことを言う彼女に一同声を上げ、青髪の少女も彼女の登場に内心頭を抱える。
スミレはアリスの肩をガシッと掴むと、訴えかけながら肩を揺さぶった。
「スミレ先輩!しつこいです!何度も断っている筈です!」
「ダメです!」
「ダメなんですか!?」
「ですが、私も鬼ではありません!私が負けたら諦めましょう!正々堂々陸上競技で勝負です!」
「これがイベントバトルと言うやつですね!望むところです!」
(((入部届けの書き換えは正々堂々じゃないんじゃ…)))
勝手に熱くなっている二人以外は冷静に内心でツッコミを入れるが、巻き込まれては溜まったものでは無いのでそれを口に出す事は無かったのだった。
「…何このラグビー場。死体でも埋まってるの?」
ミレニアム某所に存在するラグビー場に訪れたモップ髪の少女は愚痴を零しながら周囲の様子を伺う。
今は無人で人の気配は無いが、確かにそこから感じる不穏な気配に警戒を強め慎重に辺りを探りながら目的のものを携帯で確認する。
(それにしてもこのレベルがうろつくなんて…恐らく2級相当?例の遺物の影響かしら…チッ、気配が強過ぎて探れない。すぐ隣にあるようで遥か遠くにあってもおかしくない。厄介ね、特級遺物)
「一体何処に…!」
調査を進めていたモップ髪の少女だが、離れた方にある運動場が騒がしい事に気が付き、気配を隠しながらそちらを確認する。
そこには、長髪の少女と髪の長い少女が何かを競い合い、それを多くの生徒達が観戦しているようだった。
「ふんっ!」
長髪の少女は美しいフォームで鉄球を放り、鉄球は綺麗な放物線を描いてすっ飛んでいく。
砲丸投げの結果は…二十五メートル。
スミレが自信満々に髪をかきあげると、観戦していた生徒達からは歓声が上がった。
「スミレ先輩凄い!」
「流石ミレニアム随一の運動キチ…」
「アリスちゃん大丈夫かな…?」
「アリスちゃんって有名なの?」
「眉唾だけど、光輪大祭を個人優勝したとか、連邦生徒会長の生まれ変わりだとか…」
「一年生でしょ!?それに少なくとも連邦生徒会長と同時期に生きてるし!眉唾どころじゃないって!」
「そう言われるくらい凄いんだよあの子。着いたあだ名は『ミレニアムの重機』」
「女の子になんてあだ名つけてるのさ…」
観戦してる生徒が口々に言う中、アリスはスミレから砲丸を受け取りよろよろと足をもたつかせる。
「投げ方は適当で良いですか?」
「構いません。ファウルは取りませんので好きに投げてください」
「分かりました!」
了解の意を示したアリスは投擲地点の円の中に入ると、本来の砲丸投げのフォームとは違う…どちらかと言えば野球のピッチャーのような姿勢で振りかぶった。
「すみません、アリス。貴女の専門外をあえて選んだのは、それだけ私が本気だということを伝え…」
「ふん!」
スミレが言い切る前に投げられた砲丸は、弾丸のように飛んでいくと反対側に置かれていたサッカーゴールの枠にめり込み、そのまま貫いて奥の壁に突き刺さり、壁を崩壊させた。
興奮と困惑の入り交じる歓声が上がり、アリスは笑顔でみんなへピースサインを向ける。
「重機っていうかキャノン砲じゃ…」
「ピッチャー投げであれ?」
「…アリス、君運動部の方が向いてるよ。無理してオカ研に残らなくて良いんだよ?」
後ろで言葉にならない、しかし何処か嬉しさが滲み出る叫び声を上げているスミレを無視して眼鏡の少女と白髪の少女は遠慮がちに声をかけた。
しかしアリスは苦笑すると、横に首を振る。
「先輩達怖いものを好む癖にアリスが居ないと心霊スポットも行けないじゃないですか」
「むぅ…好きだから怖いんだよ」
「ミレニアムは全入部制ですし…それに、アリスはあのようなのはとても…」
アリスが振り返った先には、敗北の悔しさをバネにその場でスクワットを始めているスミレと巻き込まれたのか強引に付き合わされている生徒達が汗を流していた。
なんとなく察した二人は苦笑すると共に、少し照れ臭そうに顔を赤くする。
「あ、アリスは今日は用があって5時までに帰還しなくては行けないので…先輩方がよろしいのならこれからも居させてください。アリス、オカ研の事をとても気に入っていますから!」
「アリス…」
「フッ、そういうことなら私達は別に…」
(…凄いわねあの子。神秘の使用は無し、素の力であれ?レンゲと同じタイプかしら)
その様子を観察していたモップ髪の少女は面白そうにアリスに目を付けるが、しかし今の目的は別だとその場を後にしようとする。
「あっ、もうこんな時間…アリスはもう行きますね!」
そこに、アリスが駆けてモップ髪の少女の横を通り過ぎ…
「っ!遺物の気配!?ちょっと貴女…って速!?」
声をかけようとした時には既に遅く、異常な走力を持つアリスは遠方の曲がり角に姿を消してしまっていた。
「来るなと言っただろう。わざわざ花も買ってくる必要は無い」
「いつも通りです!それに、セイアにではなく看護師の方にです。贈り物を送ると好感度も上がってイベントのフラグが立つと聞きました!」
「尚更だ…それより部活はどうしたんだい?」
「5時には終わりますし特に目立ったイベントも起きません。アリスも暇でなければ来ませんので」
「君も随分図々しくなったものだね…」
とある病院の病室で、アリスは小柄なキツネ耳の少女…セイアの見舞いに来ていた。
軽口を叩き合う程度には気心が知れた相手で、アリスはふてぶてしくセイアからの軽いお説教も聞き流す。
そんなアリスにため息を吐くセイアだったが、少し考えた素振りを見せたかと思えば、真剣表情でアリスを見つめた。
「…ならばそんな暇なアリス。私の話をよく聞くんだ」
「嫌です。セイアの話は長くてつまりません!動きのない無駄に長いテキストが続くゲームは嫌われます!」
「…いいから。アリスの両親についてだ」
「…セイア、格好つけようとしないでください」
「良いだろう別に。伊達に大天使と持て囃されてないんだ、友人への助言ぐらい訳無いさ…良いかい、アリス。君は強いのだから人を助けるんだ。救える人は救え。手の届く範囲でもいい、感謝されなくてもいい。とにかく一人でも多く救ってあげるんだ」
「それは…」
「ならアリスが好きな言い方をしよう。勇者とは人に対価を求めず人を救うものだ」
「!」
ゴロンと寝返りを打ってアリスから顔を背けるように横向きになったセイアは、表情を見せないまま小さな声で、しかしアリスにはギリギリ聞き取れる声量でぼそりと呟く。
「…アリス、たくさん友達を作るんだよ」
「…セイア?」
セイアからの言葉を頭の中で繰り返しリピートしながらその真意を考えるアリスは、しかし何度考えても分からないと結局諦めて病院を後にしようとした。
もう日は落ち暗くなり人の気配が少ない通路を一人歩いていたそんな時、突然背後から声をかけられた。
「天童アリス、よね?」
「!」
「特異現象捜査部の空崎ヒナよ。話したいことがあるの」
「…なんでしょうか。今、アリスはあまり気分が良くありません」
アリスに声をかけたのは、スミレとの一見を観察していたモップ髪の少女…ヒナだった。
ヒナが迫るとアリスはその気迫に若干気圧されるが、相変わらずふてぶてしい態度で受け答えする。
「悪いけど時間が無いの。あなたが持っている遺物は非常に危険だから、今すぐ渡しなさい」
「遺物…ですか?」
「これよ」
「これですか。確かに拾いました」
ヒナがその遺物…木箱の中に収められた小さな
ヒナは知る由もないが、アリスはその所在を知っていたからだ。
「…ええと、アリスは構いませんが、先輩方が気に入っているので…それが危険とはどういうことですか?」
「キヴォトスにおける不可解な死亡者は年間一万人にも及ぶけれど…その殆どは”特異現象”によるものよ」
「特異現象?」
「信じるも信じないも貴女の勝手だけれど、それは紛れもない事実。特に人の多く集まる学園では特異現象は起こりやすいの。歓喜、安楽、後悔、憤怒、威厳…生徒の強い感情により生まれる神秘が特異現象の源になる。だから多くの学園には一種の魔除けの意味で遺物が置かれるのよ。貴女が持っているのもその一つ」
「魔除け…神聖な響きですね。それならば問題ないのでは?」
「最後まで聞きなさい。より強力な神秘を配置することで他の神秘が特異現象へと昇華されるのを防ぐ劇毒。魔除けとは名ばかりの悪習よ。年月と共にその封印が緩み、今ではその内から神秘をただ垂れ流して逆に特異現象の発生を促してしまっている。貴女が持っているものはその中でも特級に区分される危険なものなの。分かったらさっさと渡しなさい」
「で、ですから…先程も言ったように先輩方に聞かないと…その…あっ!?」
アリスの容量を得ない返事に痺れを切らしたヒナは、遺物のものと思われる神秘が漂うアリスな羽織るジャケットの内ポケットから有無を言わせず木箱を強奪し、その中身を確認する。
しかし…
「空!?中身は!?」
「で、ですから先輩方が持って…それで、今夜あれに着いていた御札を剥がすと…それって、マズイですか…?」
「…マズイわね。最悪そいつら死ぬわよ」
場面は変わって夜の校舎。
暗い教室の中で蝋燭を灯し白髪の少女と眼鏡の少女が集まっていた。
「中々取れないね…」
「わざわざ忍び込んでやること?それに電気つけないの?」
「こういうのは雰囲気が大事なんじゃん。スリルを楽しむのがオカ研魂、それにどうせ何も起きないから大丈夫だよ…あっ取れそう!」
不気味に蝋燭の火が揺れ、薄らと差す影が歪む。
雰囲気という意味では確かにオカルトチックな空間に包まれた教室の中で、眼鏡の少女は意気揚々と”それ”に貼り付けられている御札を剥がし始めた。
「…電子部品、だよね?でもこんなの初めて見た」
「なんだろう、ミレニアムにいる以上こういうのにはそれなりに詳しいつもりだったけど」
「これって…うわっ!?」
その時、教室に僅かな明かりを灯していた蝋燭の火が突如として消え…教室の天井で何かが蠢いた。
「御札ってそんなに簡単に剥がれるものなんですか!?」
「神秘が強くない生徒にはまず無理よ。普通は」
一方、アリスとヒナは例の遺物を回収する為校舎を目指して夜の道を駆けていた。
「今回は中のものが危険過ぎるわ。封印も年代物、最早紙切れ同然でしょう」
「そう言っても、特異現象と言われてもイマイチピンと来ないのですが…」
「そいつらどこ?」
「よ、四階の筈です」
「っ!見えた…けど、このプレッシャーはもう手遅れかしらね…」
校舎に辿り着いたアリスとヒナだったが、そこにはアリスでもハッキリと感じ取れる不穏な空気と恐怖感を煽られる雰囲気が広がっていた。
ヒナは眉間に皺を寄せてその発生源と思わしき校舎四階の教室の一つを睨む。
「…貴女はそこにいなさい」
「アリスも行きます!二ヶ月程の付き合いですが…友達なんです!放っておく事なんてできません!」
「いま〜なんじですか〜」
(…な、何あの化け物…)
教室の物陰の隅で涙目で蹲る眼鏡の少女は、恐怖で漏れそうになる声を手で押さえながら突然現れたそれの様子を伺う。
人型のそれは、しかし足元が透け不気味な粒子を漂わせ、そして何より異常なまでに青白い。
そこに、横から声を掛けられる。
「佐々木…」
「っ!井口!?良かった、どこにいっ…て…」
「助…けて…」
「ひっ…」
声を掛けてきたのは白髪の少女。
化け物が現れた時に無我夢中で逃げた為離れ離れになってしまっていたが、その声を聞き眼鏡の少女も安堵の笑みを浮かべる。
しかしそれも束の間、暗がりで隠れていた白髪の少女の全貌が顕になると、眼鏡の少女は声を掠れさせてその場にへたりこんだ。
白髪の少女の顔にまとわりつく、おぞましい異形の姿を見て。
「いまなんじですかぁぁぁぁ」
そして、背後から別の異形に襲いかかられる。
「特異体が放たれてる!相変わらず気配が滅茶苦茶よ!」
校舎四階を目指して走っていたヒナの前に、大きな熊のぬいぐるみのような化け物…特異体が現れる。
それをヒナはマシンガンを乱射して怯ませると、銃を置いて掌印を結んだ。
「『玉犬』」
それによって現れたのは、白と黒の体毛を持つ二匹の大きな犬…玉犬。
玉犬は特異体に向かって唸り声を上げ威嚇し、ヒナは置いた銃を拾うと玉犬達に指示を出した。
「食っていいわよ」
(…あの人に言われたように、ただ待つだけで良いのですか、アリス…)
結局あの後ヒナに説き伏せられそこに待たされることになったアリスは、自問自答を繰り返す。
友達が危険に晒されているというのに、自分は何を恐れているのか、と。
恐れが無ければ…ヒナの静止も聞かずに強引に校舎に押し入っていた筈だと。
『そいつら死ぬわよ』
(そう…ですね。死ぬのは…怖いです。ですが…)
『アリス。君は強いのだから人を助けるんだ』
「…くっ!」
「見つけたわよ!」
校舎中に溢れる特異体を蹴散らしながら、ヒナはようやく四階に辿り着き、この校舎に存在する特異体の中でも最も強力と思われる特異体と対峙していた。
その個体は複数の人間の顔が張り付き、大きな口を開いて生徒を一人咥え、身体から生えた無数の腕で眼鏡の少女…今は眼鏡を落としてしまっているが…を絡めとっている。
(アイツらが邪魔で私の武装じゃ下手に攻撃出来ない…人質にする知恵が?いや…生徒ごと遺物を取り込む気!?)
「チッ、間に合わない!」
特異体が生徒を飲み込もうとし、ヒナはそれを見ているしか出来ず…そこに、窓をぶち破って突入してきたアリスが特異体に殴りかかった。
「アリスは…勇者です!」
その小柄な体格の、華奢な細腕が振り下ろされて…特異体の頭部は大きく陥没し、眼鏡の少女を掴んでいた腕が緩み、飲み込みかけていた白髪の少女を吐き出す。
彼女達を回収し担ぎあげたアリスはヒナの方へ飛び退くと、二人を優しく地面に下ろした。
「これが…特異現象、ですか?思ってたのと違いました」
「なんで来たの…と言いたい所だけど、良くやったわ。褒めてあげる」
「何故偉そうなんですか…」
潰れた特異体を二匹の玉犬に食わせて掃除しながら、ヒナは上から目線でアリスに遠回しな感謝を告げる。
複雑な気分に苦笑するアリスだったが、バクバクと特異体の残骸を食らっている犬に興味を引かれたのかそちらをじっと眺めた。
「…あれは?」
「私の式神よ。見えるのね、特異現象っていうのは普通は見えないのよ。死に際とかこういう特殊な場所は例外だけど」
「確かに、アリスは幽霊とやらは見た事がありません」
「…怖くないの?」
「怖くない…と言えば嘘になります。ですが、アリスは勇者です!…っと、これですか?」
「ええ。特級遺物、『Keyの
アリスは眼鏡の少女のポケットの膨らみをまさぐり、小さな何かの機械の部品のようなものを取り出す。
ヒナも確認し、それは間違いなく探していたという遺物なのだとか。
「これを食べるんですか?美味しいのでしょうか?」
「な訳無いでしょ。より強力な神秘を得るためよ。さっさと渡しなさい」
「分かりまし…」
「逃げなさい!」
ヒナに言われそれを手渡そうとしたアリスだったが…その時、天井を巨大な腕が突き破りアリスに襲いかかった。
ヒナの呼びかけで咄嗟に転がって避けることが出来たアリスだったが、ヒナは突如現れた特異体…その巨体による腕の振り払いで吹き飛ばされ、壁にヒビを入れる威力で叩きつけられた。
「かはっ…」
「ヒナ!」
モロに受けて負ったダメージにより術が乱れ、二体の玉犬が維持出来なくなり影に溶けるように消えてしまう。
大型の特異体はヒナに追撃するように突撃し、校舎の壁を突き破ってヒナ諸共外へ放り出された。
吹き飛ばされた勢いで反対側の校舎の屋上に落ちたヒナは柵によりかかり意識を朦朧とさせながらも、マシンガンを向けて反撃しようとする。
そこへ大型の特異体が喰らいつこうとして…追って飛び出してきたアリスが特異体の頭に銃と呼ぶには大き過ぎるそれを振り下ろした。
特異体は悶え身体を振り乱し、その間にアリスはヒナに駆け寄る。
「大き過ぎて邪魔になるので普段持ち歩かないのですが、部室が近くて助かりました!」
「アリス!あの二人を連れてさっさと逃げなさい!」
「ヒナだって危ないです!」
「特異現象は強力な神秘でしか鎮められない!貴女じゃ勝てないのよ!」
「そんな事を言っている場合ではありません!ここで逃げてはヒナが死んでしまいます!それに…アリスは、勇者は絶対に人を見捨てません!」
威勢よく言い放ったアリスはその巨大な武器を特異体に向かって発射する。
それ…所謂レールガンと呼ばれる武器。
ミレニアムの頭の良い馬鹿集団がノリと勢いで作り上げ、実用的では無いと死蔵していたが、見た目に似合わない怪力を持つアリスならば使えると送った一品。
その破壊力は折り紙付きだが…しかし神秘の無い攻撃では特異体に致命傷を与えることは出来ず、衝撃で吹き飛ばされそうになるのを耐えた特異体はアリスへと敵意を移し襲いかかった。
それをアリスもレールガンを持ちながらも抜群の運動神経で巧みに躱し、隙を見てレールガンの質量そのものを活かした叩き付けで反撃を図る。
だがやはりそれでもろくなダメージを与えることは叶わず、避け続けるのにも限界が来る。
数分粘ったアリスだったが、その動きに対応し始めた特異体はついにアリスを捉えてしまう。
「ぐぅっ…!」
「馬鹿!遺物をこっちに渡しなさい!そうしたらそいつの狙いを移せるわ!」
「嫌…です!ヒナをこれ以上傷付けさせません!用は…私にも神秘とやらがあればいいのですね!パワーアップイベントです!」
「っ!やめなさい!」
特異体に捕らわれ今にも食われそうになっているアリスは、持っていたそれ…先程回収した遺物を自分の口に放り込み、飲んでしまった。
それそのものが強力な神秘を持つ遺物…それを取り込んだのならば、確かに相応の神秘を得ることが出来るだろう。
(でも、特級遺物よ!?人間には猛毒…確実に死ぬ。だけど…万が一…万が一…)
次の瞬間…特異体が弾け飛んだ。
強力な神秘をその身から放ちながら、顔に紋様が浮き出たアリスは…いや、最早アリスでは無くなったそれはやけに響く小さな笑い声をあげ始めた。
「ふふふ…やはり、光は生に感じるに限りますね」
(…最悪、最悪の万が一が出た。特級遺物が…受肉した!)
「特異体などつまらない。人は?文明は?…良い時代に成りましたね。壊すべき営みがゴミのように広がっている…素晴らしい。蹂躙を始めましょう」
明らかに正気を失ったかのように、物騒な事をつらつらと述べるそれにヒナは戦慄し、溢れ出る気迫にろくに身体を動かせずにいた。
だが…突然様子が変わり、まるでそれは自分の首を絞めるように自らの腕で首を掴んだ。
「人の体で…何をしているんですか、返してください…貴女、何故動けるのですか?…いえ、アリスの身体ですし…」
(…抑え込まれる?)
一人で会話をしているようなその光景に呆気に囚われていたヒナだったが、痛む身体を無理矢理起こして立ち上がると、アリスなのか遺物の方なのか不安定な彼女の前に立ちはだかる。
「…アリス、貴女はもう人間じゃない」
「え?」
「…特異現象捜査部の規定に基づいて貴女を鎮めるわ」
今回の配役
虎杖…アリス
伏黒…ヒナ
宿儺…Key
陸上顧問の高木…スミレ
じいちゃん…セイア
佐々木先輩…眼鏡のミレモブ
井口先輩…白髪のミレモブ