無名の司祭の攻撃からアリス達を庇うようにして現れたのは、背後に機械的な蛇のような式神を従えた女性。
このキヴォトスにおいて、特異現象捜査部の与える区分の中でも4人しか存在しない”特級”を冠する生徒…聖園ミカ。
ミカは軽く辺りを見回してアリス達の無事を確認すると、偽ユメ達の方に見を向けた。
「さて…真打ち登場ってところかな☆…ねえ、ユメちゃんは覚えてる?このキヴォトスから特異現象をなくす方法を。どんな手段を取るにしろ、人類を1つ上の段階に押し上げることになっちゃうよね」
「懐かしい話だね。それで、結論は出たのかな?」
「私が考えるに人類のネクストステージは即ち───神秘からの”脱却”だよ」
「う〜ん、私の考えは違うね。神秘の”最適化”だ」
「…え?何の話をしてるんですか?」
「あはは、ごめんごめん☆」
ミカと偽ユメの何やら難しい会話に混乱するアリス。
振り返って軽く手を振って少し静かにするようにと口元に人差し指を当てたミカは、背後に従えていた式神をさりげなくアリス達を守らせるように動かした。
それを警戒するでもなく、偽ユメは顎に手を当てて考え込む。
「ふむ…そのプランは7年前に狐坂ワカモが死んだ時に捨てたと思ってたけど…」
「私はユメちゃんに話しかけたつもりだったんだけど…まあいいや」
ミカは偽ユメの額の縫い目を見てそれがとっくに別人に肉体を操られているのだと悟ると、ミカの手元に可視化された神秘が集い地球儀のようなものを作り出されると、それを指差して解説を始めた。
「初心に帰ったんだよ。それにそのプランには大きな穴があるからね。外の世界ではキヴォトスに比べて特異現象や神秘の発生が極端に少ないんだ。最適化プランにはクズノハの結界が必要不可欠…するとどうなると思う?」
「…キヴォトス全域を覆う程の結界、それを神秘の最適化の為に変質させるとなると、今の大結界が作用させている『外の世界から神秘を隠す』っていう効果を上書きすることになるだろうね」
「つまりは外の世界に神秘の存在が露顕するってことに他ならないよね?そしたらどうなるか…ただでさえ何人か悪い大人が介入して騒動に発展したことがあるんだから、欲深い大人達は神秘を手に入れようと確実に戦争を起こすだろうね。そも、私達みたいなのが普通に生活していると知られた時点で良い顔はされないはずだよ。それは私の理想からかけ離れちゃうんだ」
「一理あるね。けれど…それがどうしたの?」
「…何?」
偽ユメは指をくいっと動かすと、ミカの手の上にあった神秘で作られた地球儀のようなものを引き寄せ、それを両手で叩いて破壊する。
それによって飛び散った神秘の粒子を操り、代わりに渦のようなものを作りあげた。
「そもそも私と君じゃ目的が違うんだ。私は特異現象の存在しない世界も牧歌的で平和な世界も望んじゃいない。子供、大人、特異体…それらは全て可能性なんだ。人という神秘の形のね。だけど、まだまだこんなものじゃないはず…人の可能性は、こんなものじゃ終わらないはずなんだ」
偽ユメがそう語ると、神秘の渦…まるで銀河のようなそれの中に一番星の如く光る輝きが現れ、それが渦から独立して偽ユメの目の前に浮く。
神秘の渦を握り潰すように破壊した偽ユメは、その輝きを愛おしそうに手のひらに納めた。
「私から生まれるものは、私の可能性の域を出ない。答えはいつだって混沌の中で黒く輝いてるものなんだよ…分かるかな?分からないかな?私が作るべきだったのは、私の手を離れた混沌だったんだ」
「…!まさか…!ムツキっていうアウトローがいたはずだよ!ヘイローに干渉出来る秘儀を持った…!」
「あ、さっきアイツが取り込んでました!」
「…わーお」
時既に遅かったと諦めたように呆けるミカを前に、偽ユメが手を開いてその中に収められていた輝きが空へ上がると同時に…偽ユメは地面に手を着いて、ムツキから抽出した秘儀を発動させた。
「『ム為転変』」
その瞬間…空へ上がった輝きが花火のように破裂すると、空に巨大な紋章が浮かび上がった。
ミカは紋章を起点に、キヴォトスの各地へと神秘が迸り何かしらの影響を広範囲に与えたのを看破する。
「これは…クズノハの結界…いや、秘儀の遠隔起動!?」
「感謝するよ、天童アリス。特異操術で取り込んだ特異体の秘儀の精度は取り込んだ時点でその成長が止まっちゃうんだ。君との戦いでムツキちゃんは成長して…その秘儀もより強力なものへと昇華された。なんとかムツキちゃんを利用してアルちゃん辺りも特異体に変えられないかなーって思ってたけど、そっちはガードが硬かったからまあ仕方ないね」
「…何をしたの?」
険しい表情で質問するミカに、偽ユメは空に浮かび上がる紋章を見上げながら両手を広げて両手を広げ、このキヴォトスの変革を喝采するかのように声高に語り始めた。
「マーキング済みの2種類の生徒に遠隔で『ム為転変』を施したんだ。天童アリスのように遺物を取り込ませた子は、その遺物に適応して器となれるように。下江コハルのように秘儀は所持していても脳の構造の関係で神秘を扱えず秘儀の力を引き出せない子は、神秘を理解し扱えるように…それぞれの身体を作り替えて整える。そして今、その封印を解いたんだから…どうなるかは、推して知るべしだよ」
空の紋章は輝きを増し…そして全ての標的に『ム為転変』による施しを終えたのか、空に溶けるように消失する。
それを見届けると偽ユメはアリスの方をじっと見つめた。
「…?」
「まあマーキングの際に私の神秘に当てられて寝たきりになった子も直に目を覚ますだろうね。その子達には、これから神秘への理解を深めてもらう為に殺し合いをしてもらうんだ。私が厳選した子や遺物達だからね…悪意を持った1000人の天童アリスが世に放たれたと思ってくれればいいよ。あと、それに加えて事前に声をかけていたアウトロー達も暴れさせる予定だね。ぶっちゃけて言うと私としてはこっちの方が興味があったりするかな。今は中々面白い時代になったものだよ」
「1000人ねぇ…随分控えめだね?それに人の理性を舐めすぎだよ。アウトロー連中はともかく、力を与えただけで人々が殺し合いを始めるって、本気で思ってるの?」
「まあまあ、物事には順序があるからね。その程度の仕込みを私が怠るわけないでしょ?質問が軽くなってきてるし、時間稼ぎもそろそろ苦しくなってきたんじゃないかな、聖園ミカ」
「かっ…もうあいつムカつく!皆でボコボコにしない!?」
「えぇ…というか動けないんですけど…」
会話を引き伸ばして情報の引き出しや時間稼ぎを図っていたことが見抜かれていたことを知り、ミカは子供っぽく腹を立ててアリス達を誘う。
立ち向かいたいのは山々だが無名の司祭が持つ遺物から放たれた氷結攻撃により身体が凍り動けずにいたアリス達だったが…その時、突如アリス達を固めていた氷が氷解して水に戻り、アリス達は氷の拘束から解放される。
それと同時に無名の司祭が膝を着いて息を荒くしているのを見て、モモイがほくそ笑んだ。
「うん?どうしたのかな、司祭」
「ぐっ…これは…!恐怖で肉体は再生させたというのに…!?まさか、毒か!?」
「あれは…」
「私の銃弾には毒を混ぜてるからね。アリスはすっごい毒に強かったから分からなかったかもしれないけど」
「あれそんな殺意高かったんですか…?」
「ごめん!」
「…ねえ、さっきからキキョウちゃんの援護がないんだけど、あいつらの仲間がそっちに行ったとかないわよね?」
「ああ、あの子と離脱しようとしてた2人、あとアオイちゃんなら私が遠くに連れ出してあげたから安心しなよ☆…なんせ場違いだからね。今はもう、そういう次元の問題じゃないから」
同じように氷結から解放さるていたフウカは離れた場所で待機していたキキョウを気にかけるが、ミカが首を振って安心するように伝えた。
遠回しに戦力外通告を与えたのと同義ではあるが…それでも無事だと知ってフウカは安堵の息を漏らす。
「…動けるか?」
「キキッ、私を誰だと思っている?体温調節ぐらいわけないに決まっているだろう」
(私はもういいや…)
またペロロも氷結から復帰し、マコトは秘儀により体温を上げることで氷による感覚の鈍りを防いで戦線に戻ろうとしていた。
ちなみにフブキは氷にやられた振りをして仰向けに倒れている。
しかし反撃に出る気満々の一同に偽ユメはやれやれと肩を竦めると、背後に巨大な黒い靄を出現させ威嚇した。
「はあ…話は途中だよ?私が配った遺物は名も無き神々の時代から私がコツコツ集めてきたもの…かつての名も無き神々や司祭の成れの果て。だけど、私が契約していたのは生徒達だけじゃないんだ。まあそっちの契約はこの肉体が手に入った時に不要になったから破棄したけどね」
「…特異体?」
「ふふ、正解…これが、これからの世界だよ」
偽ユメの背後の黒い靄から、次々と姿を現すのは古い神秘を滲み出させる強力な特異体の数々。
おぞましく、恐ろしく、そしてどこか神秘的な魑魅魍魎。
一体一体ならばともかく、それを全て相手にするとなれば処理が楽では無い特異現象の大行軍。
そんな特異体を足止めに、偽ユメは無名の司祭を担がせた特異体と共に、また別の特異体の開いた巨大な口の中へと入っていく。
「っ…!待ってください!ホシノ先輩を…!」
「じゃあね、天童アリス。君には期待しているよ」
逃がすまいとモモイやペロロ、マコトやフウカも総攻撃を仕掛けようとするが、その尽くが偽ユメが放った特異体達に阻まれ押し返されている。
アリスもまた偽ユメを捕まえようと伸ばした腕を特異体に掴み取られ、地面に叩きつけられていた。
「聞いてるかな、Key。また始まるよ…神秘全盛、忘れられた名も無き神々の時代が」
特異体を押しのけてまたもやアリスが伸ばした腕は遂には偽ユメに届くことはなく、完全に特異体の口の中に入ったかと思えば特異体は口を閉じたのと同時に中に入れた偽ユメ達ごと姿を消し…ホシノは完全に連れ去られてしまう。
残ったアリス達は後を追うにも無数の特異体の処理に手間取られ────結果的に特異現象捜査部の敗北という形をもってミレニアムでの一連の事変は幕を閉じることとなる。
そしてそれは…キヴォトスの新たな時代の幕開けでもあった。
─────報告書
ミレニアムでの騒動は一般のメディアにも大々的に取り上げられ、連邦生徒会の圧力を持ってしても隠蔽は不可能。
これによって特異現象の存在を一般に対して公表する案が検討される。
尚混乱を避ける為、現状は特異現象の発生はミレニアム自治区内のみであると伝えるものとする。
今回の騒動における被害として、ミレニアム自治区内に人的、物的、共に甚大な被害を確認。
人的被害において、死者、行方不明者は確認された範囲で最低でも5桁を上回るものとされるが、その大半の遺体が見つかっておらずヴァルキューレ警察学校との連携の元捜索を継続中。
直接現場に赴いた監督オペレーター曰く、複数の仮設避難所がKeyの暴走に巻き込まれて消滅したとのこと。
また今回回収した遺体を検分した氷室セナによる報告は以下の通りである。
『特に酷いのは改造された生徒でしょう。術者が死亡したことで秘儀の支配から外れたのはいいものの形状を取り戻すことは出来ず、大半が液状の肉塊の状態で回収されました。複数の遺体が混ざりあってもはや誰のものとも判別できないものさえあります。まあ今回の事件の規模の割に霊安室がパンクせずに済んだのは不幸中の幸いですが…失礼、ブラックジョークにも限度がありましたね』
物的被害において、ミレニアム自治区中央区を中心に壊滅的な損害、最終的な被害範囲はおおよそ直径2km弱に及び、ミレニアムの本校舎は消滅。
それに伴ってセミナー、ミレニアムの特異現象捜査部の支部も共に消滅。
各関係者は未だ消息不明。
ミレニアムは自治区としての機能を完全に喪失し、連邦生徒会はミレニアム自治区の放棄を決定、今後一切の復興支援を行わないものとし、部外者の一切の立ち入りも禁止するものとする。
また、自治区の境界に規制を引いて隔離を行うことを決定する。
自治区内の生き残りについて、本騒動の被害範囲外かつミレニアム自治区内で保護された生徒達は速やかに疎開先の誘導を行うものとするが、一部交通やインフラの麻痺によって現状膠着状態となっている。
現在連邦生徒会はD.U.のホテルやキャンプ地、廃村を利用して受け入れる体制の確立に努め、その他レッドウィンター連邦学園、オデュッセイア海洋高校、百鬼夜行連合学園が疎開の受け入れを表明。
先んじて児童を優先的に海外に疎開させていた春原シュンによる報告は以下の通りである。
『ミレニアムに隣接する学園は勿論のこと、もはやキヴォトス全域が危険区域になると考えた方がよろしいかと。しかし海外に連れ出すにも幾つか問題はありますが…ひとまずは小規模な結界に児童達の身を隠させています。その他かつて連邦生徒会長と先生が外に作り上げていたキヴォトスの住民の為の緊急避難用結界が複数構築されていますので、子供達を優先させて避難させてください。まさか連邦生徒会の皆さんが我先にと職務を放棄して逃げ出すなどということはありませんよね?』
世論では今回の事件についてテロや自然災害、その他陰謀論を唱える者が現れ混乱が拡大中。
上記の特異現象の公表を速やかに進めるものとし、また細かい情報の統制の為にクロノススクール上層部との交渉を検討。
報道の際は連邦生徒会の主導となるが、どの行政官を矢面に立たせるかは現在議論中である。
流通、経済への被害において、キヴォトスでも大きな影響力を誇っていたミレニアムの壊滅に伴い物価、一部素材、製品の希少価値の上昇。
財務室は長期に渡ってクレジットの価値の暴落が起こるとの見込みを表明し、多くに渡って学園間での貿易が凍結。
慢性的な物資不足が拡大、連邦生徒会からの支援も行き届かないのが現状である。
本騒動収束時点で新たに放たれた特異体の数は1000万にも登り、その多くがミレニアム自治区内を闊歩している現状。
特異現象捜査部の各支部がそれらの活動範囲をミレニアム自治区内で食い止めようとしているものの、ミレニアム支部の消滅、そしてトリニティ支部の部長兼ティーパーティーのホストである桐藤ナギサの死亡により鳴りを潜めていた派閥争いが激化、その対処に追われ実質的にトリニティ支部も機能停止となった為人手不足の現状。
特異体の封じ込めは困難を極めている。
封じ込めの為の包囲網が瓦解し各地に特異体が溢れ出た場合に備え、可能な限り人員を総動員し各自地区の警護に当たらせるものとする。
また現在監禁中の一部アウトローについて、連邦生徒会及びS.C.H.A.L.Eへの協力を条件に監視の元での釈放も検討中。
連邦生徒会及び特異現象捜査部が対応に追われているのをこれ幸いと、息を潜めていたアウトロー達が活発化。
『魑魅一座』を初めとした指定アウトロー集団、そしてこれまで確保出来ずにいた5人の特級区分に認定されたアウトローの活動を確認。
後日人員を派遣し対処に当たるものとする。
────特異体の封じ込めは完全に失敗、現在被害範囲は拡大中。
ミレニアムでの騒動から1週間、確認できる範囲で死傷者は6桁を超え、一般生徒、住民による暴動も多発。
連邦生徒会から各学園の生徒会の代表者及び特異現象捜査部支部の部長を招集し緊急会議を開くに至る。
連邦生徒会は百鬼夜行、黄昏宮直上の結界を無理やり自治区の境界まで拡大することを決定。
またD.U.の放棄案が提出、活動本部は百鬼夜行に移転することを計画している。
廃墟となったミレニアムの1区画。
人のいないコンビニで、幼い少女が1人放置された弁当を漁っていた。
「…うん…?」
そんな時、不意に感じた気配に振り返ると、物陰から靄が少女に手招きをしている。
『おい、で…おい、で…あぶ、ないよ…』
「…だれ?」
『あったかいお風呂、あるよ…お歌もおしえてあげる…』
「お母さんは…?」
『お母さんも、お父さんも、お姉ちゃんも、弟もいるよ…先生だっているよ…』
「私に弟はいないよ。先生はもう何年も来てないんだって」
『弟、いない…先生…来てない…』
「大丈夫?」
段々と様子がおかしくなっていくそれに首を傾げた少女は、興味本位で近付いていくが…少女が物陰に近付いた瞬間、姿を現した巨大な特異体が少女を喰らわんと大口を開いた。
それを、建物の上から降ってきた少女が踏みつけ、特異体の脳天に銃弾を乱射して鎮める。
何が起こったのか理解出来ず呆然としている少女に、それを助けた…狼のような耳と長い銀髪が特徴的な黒い衣装の少女───クロコは安心させるように微笑みかけると少女の頭を撫でた。
「ん…シュンさんが現地に避難誘導に来たって聞いたけど…子供を見逃すなんて珍しい…っと、ごめん。びっくりしたよね?もう大丈夫だよ」
「?」
「…怪我は無い?保護者の人は?」
「…分からない」
「…」
(周りは商業ビルばかり…この辺の子じゃないのかな…?)
「いっぱい歩いた?」
「…うん」
「そっか、頑張ったね」
クロコが優しい声で少女を抱きしめると、少女はそれに安心感を覚えたのかうとうとと表情を蕩けさせ、疲労も相まったのか身体の力を抜いてクロコへともたれかかった。
クロコはその少女を抱き上げて避難させようとするが…別の特異体が近くの建物の壁を突き破って姿を現し、クロコを背後から襲いかかろうとして────真横から現れた巨躯によって一撃で消し飛ばされ、鎮められる。
少女はそれを行った存在を目にして目をぱちくりとさせ…クロコは手のひらを少女の目の前にかざしてそれを隠した。
「見えてるんだっけ。あまり見ない方が良いよ…駄目、”センセイ”。やり過ぎは」
クロコが目を向けた先には…壁一面に無惨に特異体の血が染み付いた凄惨な光景が広がっていた。
ミレニアムでの救助活動を行って回った後、サンクトゥムタワーに呼び出されたクロコはそこで待っていた議員達に冷たい視線を向ける。
『ご苦労様です、砂狼クロコ様』
「労う気なんかないんでしょ?さっさと本題に入って。これで私があなた達の指示に従うって分かったと思うけど」
『特異体を幾ら鎮めたところで、何の証明にもなりはしません』
「じゃあ契約でもなんでも結んだらいい。ホシノ先輩の教え子だとしても、そんなの私には関係ない。彼女はミレニアムでミノリを巻き込んで腕を落とした」
『…では本当に?』
「ん、天童アリスは私が殺す」
───連邦生徒会より通達
一、特級区分のアウトロー、梔子ユメの生存を確認。
同人に対して再度の死刑を宣告、キヴォトス全域での指名手配を行う。
二、ユメを殺害したと虚偽の報告をした小鳥遊ホシノをミレニアム事変での共同正犯とし、キヴォトスから永久追放。
かつ、封印を解くいかなる行為も罪とすることを決定する。
三、特異現象捜査部の本部部長、明星ヒマリを監督責任不行き届きとして責任を取るものとし、死罪を認定する。
四、今回の事件から天童アリスの危険性を再確認、執行猶予を取り消し速やかな死刑の執行を決定。
これを庇うものを同様に罪とする。
五、天童アリスの死刑執行役として、特級生徒”砂狼クロコ”を任命する。
「ふぅー…」
懐中電灯を片手に、レールガンを背負って夜明け頃のミレニアムを歩くアリスは川にかかる橋の上に立つと、深呼吸をする。
思い起こすのは、偽ユメが足止めに放った特異体をなんとか掃討した後、別行動を取ると別れたミカの言葉だった。
『ごめんね、実はあの時迷っちゃったんだ。ここまで事態が進んじゃったのなら、いっその事泳がせて様子を見るべきなんじゃないかって…あ、気付いた?私って君達の味方って訳じゃないんだよね。ミカだけにってね。え?そういうのいらない?そう…ともかく、ただキヴォトスから特異現象をなくしたいだけのしがないお姫様だから。お詫びと言ってはなんだけど、今回ミレニアムに踏み込んで生き残った皆は私が責任をもって安全な場所まで送り届けるよ。私も…いい加減クズノハと向き合わないとね。君はどうするの?』
パンッ!
アリスが頭上で手を叩き合わせ軽快な音を鳴らす。
そしてそれに触発されたように、川の中から巨大な3体の特異体が姿を現し、橋の上に乗り上げてきてアリスに襲いかかった。
「…まだ、諦めてはいません。アリスは───
────勇者になるんですから」
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