ブルア廻戦   作:天翼project

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今回からアニメ範囲外のお話になる為アニメ勢はネタバレ注意となります。

そんな訳で今回は原作138話〜140話までの範囲でお送りします。


season3
魑魅一座


 

「なるほど、あの人亡くなったんですね〜」

 

百鬼夜行連合学園自治区、某所。

木造の屋敷のような建物の廊下を歩きながら、狐の耳と尾を持つ少女がたぬきの耳と尾を持つ少女に報告を受けていた。

たぬきの少女はそんな狐の少女の軽い反応にフンッと鼻を鳴らしてまくし立てるように言う。

 

「あの桐藤ナギサが死んだんだぞ?散々あたしらを睨んできやがったあの邪魔者が!その上連邦生徒会とS.C.H.A.L.Eはこの前の騒動でてんやわんやって話だ。となれば魑魅一座の天下も目の前ってもんよ!」

 

 

───指定アウトロー集団、魑魅一座 アラタ (アウトローとして1級に区分)

 

 

「ほうほうなるほど」

「おい今適当に相槌打ったな?本当にお前って奴は…とにかく、その事でニャン天丸の奴が呼び出してきてるんだから仕事の前振りだと思っとけよ?」

 

ご機嫌に語るアラタを尻目に愛用の苦無の手入れをしている狐の少女に、アラタは呆れたようにため息を吐く。

そうして2人が歩いていくと、屋敷内でも特に広い部屋…魑魅一座の現在の拠点であるこの屋敷における会議室に辿り着く。

畳張りの和室には二人の分の座布団とお茶、そして茶菓子が用意してあり、部屋の奥には猫型の人物が座布団の上に胡座をかいて待っていた。

 

「来たか、おぬしら。だいぶ前に呼び出しておったのに随分と待たせよって」

 

 

────魑魅一座 首領、ニャン天丸 (アウトローとして1級に区分)

 

 

「こいつが呼んでも全然こねーんだよ!」

「いえいえ、アラタ殿の声が小さくて小さくて少々聞き取れなかったもので」

「ふざけんじゃねぇ!あたしのせいにするつもりか!」

「こんな所で喧嘩はやめろ。そんなくだらない事の為におぬしらを呼んだわけではないぞ。特におぬしの勝手は度が過ぎる。あまりにも弁えないようであれば───」

 

「え?あまりパッとしないニャン天丸殿がどうすると?それにアラタ殿もちょっとちんまいですし…ワカモ殿ぐらい体格が良ければ良かったんでしょうけどね!」

 

 

───魑魅一座 久田イズナ (アウトローとして特級に区分)

 

 

ヘラヘラとした狐の少女…イズナのあからさまな煽りに、アラタは担いでいたアサルトライフルを乱射する。

が、それをひょいと避けてアラタの背後に回り込むイズナ。

そこへさらにニャン天丸が抜き身の刀を振るって首を狙うが…それを首に触れる直前で寸止めしてもなおイズナは動じることなく飄々と首を横に振った。

 

「いやですね、冗談じゃないですか」

「…おぬし、調子に乗るなよ。儂が止めねばその首断ち切っていたぞ」

「出来もしないことを吹聴するのは…おっと、これ以上はやめておきますね!それよりお話があって呼び出したのでは?」

 

「チッ…」

「フン…」

 

抜け抜けと座布団に座りお茶を啜り始めるイズナにアラタとニャン天丸は眉間に皺を寄せるが、まともにやり合っても敵わないことを自覚しているからこそこれ以上事を荒立てることも無く鉾を納める。

そも、先程の攻撃も避けられること、防がれることを見越して戯れだと認識してくれるが故の鬱憤晴らしに過ぎない。

この気まぐれで温厚な女狐とてちょっかいをかけ続ければ噛まれるかもしれないのだ。

 

とはいえ気分を害されたのは事実であり2人は乱雑に座布団に座ると、ニャン天丸が本題を切り出した。

 

「知っての通りかつて儂らの主要拠点の1つを潰し魑魅一座に大損害を与え、それ以降儂らの動向に目を光らせ続け牽制してきていた桐藤ナギサが死んだことによって、儂らは再びキヴォトス征服に乗り出す好機を得たというわけだ」

「今更こんな細々活動しておいて大それたこと言いますね」

「黙れイズナ!」

「おい話ぐらいは静かに聞け…あんたももう諦めろ。で、あたしらを呼んだってことはそれに関係あるんだろうな?」

「はぁ…ああその通りだ。連邦生徒会とS.C.H.A.L.Eからの監視も薄まっている今の内にやれることはやらなければいけない」

 

話さえ黙って聞いてくれないイズナに毛を逆立て再び襲いかからんとばかりに威嚇し始めたニャン天丸をアラタが諌め、本題に引き戻す。

多少冷静さを取り戻したニャン天丸は着物の内側から取り出した写真を空中に放ると…それをイズナが投げ放った苦無が部屋の壁に縫い付けた。

写真に映し出されていたのは、現在連邦生徒会が指名手配中である話題の少女…天童アリスの顔だった。

 

「あの子を暗殺するんですか?」

「ああ。儂らとて連邦生徒会にも伝はあるからな。桐藤ナギサの目が無くなった今内通も楽になった。天童アリスの暗殺を完了すれば指名手配での懸賞金以上の金を受け取れる予定だ」

「ほう、そりゃまた腕が鳴るな。Keyの器なんだろ?さてどうやって狩るかね…」

 

「では行ってきますね!」

「おい待てイズナァ!おぬしやる気があるのか無いのかハッキリせんか!」

「名も無き神々の王女、神秘の権化たるKeyを宿した生徒…さぞ強いんでしょうね!イズナの修行相手にはもってこいです!シュバババ!」

「おい1人で行く気か!?ちょっと待て…!クソッ!」

 

部屋の壁に向かって走り…そのまま壁を突き破って退出するイズナを捕まえようとアラタが飛びつくが、その瞬間にイズナは床に煙幕玉を投げ付けて爆ぜさせ、煙が晴れた時にアラタが抱き着いていたのはただの丸太だった。

見れば、一直線上に壁がぶち抜かれ建物の外までそれが続き、イズナはあの調子で天童アリスの元へ向かったらしい。

 

「…あいつ…いい加減…毎度毎度壁抜けと称して壁を破壊していくのをやめろ…!」

「あーあ、もうあたし知ーらね…どうせあいつが行ったなら1人で片付くだろ。あたしの出番ねぇ〜」

 

ピキピキとはち切れんばかりに青筋を浮かべるニャン天丸を見てアラタはそそくさと退室し、その後屋敷内にはニャン天丸の怒号が轟いたという。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

偽ユメを取り逃した後、ミカが仲間達を安全な場所に送ると伝えられた際、自分はどうするのかと聞かれたアリスはミレニアム自治区内に留まることを選んでいた。

 

それを了承しミカが皆を連れて行き…適当な建物のロビーにあった階段に腰掛けていたアリスに、共に残ったモモイが声を掛けた。

 

「ねえアリス。怪我の具合はどう?」

「はい…1度Keyに身体の主導権を奪われた際に治されたのか、モモイとの戦いで負った傷はすっかり。その後のムツキとの戦いでも黒閃を受けた部分以外はまあ平気です」

「そっか…アリス、私には気を遣わなくていいよ。S.C.H.A.L.Eに戻っても良いからね。私も前に『TSC』のアルファ版を押収された時に一緒に持ってかれた機材とか回収したいと思ってたんだ」

 

優しい言葉を投げかけてくるモモイに、しかしその場合は明らかにS.C.H.A.L.Eまで着いてくるという意図が見え透いてアリスは苦笑する。

第一、既にモモイの中ではアリスがモモイに気を遣っていると確定している事自体が変な話だが…それほどにモモイはアリスを優しい子だと認識していることの裏返しでもある。

 

「…気を遣ってなんかいませんよ。アリスが戻りたいかどうかの問題ではありません…Keyはヒナを使って何か企んでいるようですし、アリスはたくさんの人を殺してしまいました───アリスは、もう皆と一緒にはいられません」

「アリス…」

 

Keyが身体の主導権を握っていた時の記憶を思い返したアリスは、周りに与えうる被害、自らの罪、それらを省みて自罰的に結論付ける。

話を聞いたモモイは目を細め何かを言おうとしたが、今度はそれを遮ってアリスが質問した。

 

「モモイこそ良いのですか?アリスは…あなたの妹を、仲間を殺したんですよ?」

「…いいよ。あれは事故なんだから。ミドリも、ユズも、私の立場ならきっと同じようにすると思う。赦すとか赦さないとかそういうのじゃないんだよ。姉妹って」

「そうですか…アリスは行きます。少しでも特異体を減らすために」

「もちろん私も一緒に行くよ」

 

今自分に出来ることを精一杯する為に、立ち上がったアリスは地獄と化したミレニアムの街へと繰り出す。

モモイはそれに追随し…2人は戦いへと身を投じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

パンッ!

 

 

アリスが頭上で手を叩き合わせ軽快な音を鳴らす。

そしてそれに触発されたように、川の中から巨大な3体の特異体が姿を現し、橋の上に乗り上げてきてアリスに襲いかかった。

 

特異体が追ってきているのを確認したアリスは予め決めていた方向に駆け出し、一本道のトンネルの中に逃げ込んだ。

どれも巨躯の特異体達はそのトンネルの狭さ故に1列に並ぶ形となってアリスを追うが…ご丁寧に特異体が一直線に並ぶこの状況はモモイにとっておあつらえ向きの的だった。

 

「モモイ!」

「任せて!生みの苦しみを味わえ!『生苦』!」

 

モモイが構えた銃から高圧の血の噴射によって推進力を増した弾丸が放たれ、縦1列に並んだ特異体を一直線に貫いて一掃する。

それらの特異体はせいぜい2級程度とはいえ、その速度と貫通力の凄まじさはアリスから見てもあらゆる秘儀の仲で飛び抜けていると感じた。

 

と、モモイはそれらの巨躯の特異体に紛れていた小さな特異体が不利を悟ってトンネルの外へ逃げるのを発見する。

 

「アリス!」

「はい!」

 

逃げた特異体の存在を伝えられたアリスは一蹴りで空に逃げた特異体の直下まで移動すると、次の一蹴りで追いついて特異体を殴り飛ばしていた。

それこそモモイの弾速にも劣らぬ閃光の如き機動は以前から鋭さを増し、振るわれる拳は”敵”への殺意が溢れた殺傷力の高いものへと成長していた。

 

(前に私と戦った時のパワフルさに繊細さが加わってる…淀みない神秘の操作に桁違いの膂力で特異体を鎮めて回る今のアリスは、間違いなく最高に”勇者”してるよ)

 

ムツキとの戦いを経てまた1段階成長した今のアリスならば、次同じだけの力を持つ特異体やアウトローと相対したとしても遅れを取ることは無いだろう。

余程強力な秘儀を持っているか…アリス以上に戦闘センスに長けている者でもなければ。

 

「ふふん、流石私の妹だね!」

「…まだ言うんですか?」

「何度だって言うよ!アリスは私の可愛い妹で───」

 

 

 

 

 

 

「おや?知らない方がいますね」

 

「「!」」

 

話していたアリスとモモイの背後から聞こえた声に2人は距離を取りながら振り返る。

一切の存在も気配も悟らせずに背後を取っていた相手に、アリスはタラタラと冷や汗を流していた。

 

「それにしてもそこまで隠密に気合いを入れた訳では無いのですが…鈍すぎやしませんか?あまり期待外れですとわざわざ来た意味が無いのですが…」

 

(あの人は一体…)

 

アリスを見て顔を顰める狐の少女…イズナは、アリスの指名手配書の顔写真と目の前のアリスの顔を見比べて本人であることを確認すると、ふっと息を吹きかけて手配書を燃やし尽くした。

手品のようなその芸当に驚く間もなく、次の瞬間にはアリスとモモイの間に割って入るようにしてイズナが現れる。

 

「くっ…!」

「何あんた!」

 

「正直拍子抜けですね…Keyの器がどれほどのものかと思えば、目立ち過ぎで逃げる気もまるで感じられないとは。アリス殿?でしたか。連邦生徒会から指名手配を受けて死刑を言い渡されているというのに」

「はあ!?」

「そうですか…やはり…」

 

予想はしていた事だがそれが事実であると俯いたが、一方知りもしない相手に大切な妹が死刑が決定したことを伝えられてモモイはイズナに対して殺気立たせる。

それを感じ取ったイズナは興味をアリスからモモイへと移し、不敵に笑って羽織の懐に手を入れた。

 

「今はそちらの方の方が良い修行相手になりそうですね。あ、それに一応依頼という名目できてますのでアリス殿の遺体は綺麗に持ち帰りますから安心してください!」

「こいつ…!」

「…あなた、何者ですか?」

「しがない忍者ですよ、イズナこれでも修行中の身でして」

 

そう言ってイズナが懐から苦無を取り出した瞬間、アリスとモモイは先手を打って攻撃を仕掛ける。

アリスが放ったレールガン、モモイが放った弾丸…それらは交差して空を切り、気付けばモモイは足元を払われ転ばされ、アリスは鳩尾に肘を入れられていた。

 

「かはっ…」

「うぎゃっ!?」

 

「ふむ…おや?手応えが…」

「ぐっ、なん、なんですか!あなたは!」

「!」

 

かなり強めに入れた筈の一撃に、しかしアリスは踏みとどまって即座に反撃の回し蹴りを行う。

しゃがんで避けたイズナだったが、そこに背後から起き上がってきたモモイが銃のストックで殴りかかろうとする。

それを真上に跳んで避け、地面に閃光弾を投げ付けて炸裂させると落下の勢いでアリスに苦無を振り下ろす。

 

アリスは閃光を直で浴びて朦朧とする視界と意識の中直感でレールガンを盾にそれを弾き、流れるようにフルスイングに繋げて薙ぎ払う。

 

「っと、なるほど?少し侮っていましたね。強いじゃないですか」

 

(身軽過ぎる…それに、さっき攻撃を受け止めた時に手に伝わった衝撃からしてパワーもかなりのもの…これは、厄介ですね。何よりこの人かなり戦闘慣れしてる…!)

 

「アリス、大丈夫!?」

「はい…問題ありません」

 

「そうですね…このまま遊んでいても修行になりませんし、すこし本気を出すとしましょうか」

 

閃光から視界と意識を取り戻し体勢を立て直すアリスとモモイの強さを素直に認めたイズナは、軽く屈伸をするとふところからもう1つ苦無を取り出して両手に構えた。

これは苦戦を強いられるとアリスとモモイが気を引き締めてそれを迎え撃とうとして───

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ?一人じゃないんだ?」

 

「「「!」」」

 

3人からそこそこ離れた建物の上…そこから現れたのは、ホシノレベルだがどこか不気味な感覚のある神秘の気配。

その主は、連邦生徒会より直々に天童アリスの死刑執行を委託された執行人───特級生徒、砂狼クロコだった。

 

暗く冷たく瞳に影を孕んだその少女の登場に、アリスとモモイはクロコから感じる重圧に脈拍が激しくなって呼吸が荒くなり、一方イズナは「ほう…」と感嘆の声を上げて見入っている。

 

クロコは立っていた建物から大きく跳躍すると…一瞬でアリス達のすぐ側まで落下して、威嚇するかのようにその衝撃で地面を割った。

豆粒のように見える程の距離からここまでを1度の跳躍で詰めてきたその身体能力とクロコから溢れ出る途方もない神秘に戦慄アリスは、撤退を考えてモモイの手を引く。

意図を察したモモイも頷いて逃げる隙を伺うが、その場にいる全員の一挙一動に意識を巡らせているクロコが簡単にそんな好きを与えるはずも無く、3人へ歩み寄った。

 

「それで、誰がアリスの何?」

 

 

「あなた、クロコ殿ですね!」

「…あなたは手配書を見たことがある。魑魅一座の…」

「久田イズナですよ!ニンニン!」

 

わざわざ素性を晒したイズナにクロコが殺気を向ける。

イズナは飄々とした調子を崩さないが、アリス達の前ではへらへらしていたのに対して流石にクロコを前にして表情には真剣さが見て取れた。

クロコはそんなイズナをどう対処しようかと考え込む素振りを見せたが…一息着くと視線をアリスの方へ戻した。

 

「悪いけど、今はあなたに構ってる暇じゃない」

「そうですか?連れないですねえ…まあイズナとしてもあなたと殺り合うならもう少し万全の状態で挑みたいですし」

「…私達特異現象捜査部の生徒に付けられる”特級”と特異体やアウトローに付けられる”特級”は基準が違う。あまり自惚れない方がいい」

「それはそれは手厳しいですね、クロコ殿」

 

(クロコ…ヒナが以前言っていた2年の…)

 

アリスは会話からその少女の正体が”特級”を冠する生徒の一人であるアリスの先輩である気付き、通りでこの威圧感と圧倒的な神秘を持っているわけだと納得する。

そしてそれが分かった以上敵う相手なはずがなく、モモイがアリスに提案をした。

 

「いい?アリス。私があっちの狐耳の方を足止めするから、後で昨日の場所で合流しよう」

「…」

 

(アリスを戦わせずに、かつ私に引け目を感じさせないように…世話が焼けるね、まったく。それにしても、クロコって言ったかな…あの時の小鳥遊ホシノと同じ、戦ったら死ぬタイプだねあれは…)

 

耳打ちでそんな話をしている2人を横目に、イズナもまたクロコに提案をしていた。

 

「クロコ殿もアリス殿の暗殺ですか?」

「まあ…」

「でしたら今は利害が一致するかと」

アウトロー(あなた達)の企みに乗る気は無い。言っておくけどこっちが片付いたら次はあなただから」

「じゃあこうしましょう!イズナはクロコ殿の事を邪魔する気はありませんので、代わりに後で遺体だけ譲っていただければと」

「ん、それは困る。遺体が欲しいのはこっちも一緒」

「うーん、それは困りましたね…はあ、仕方ありません。ニャン天丸殿には謝るとしましょうか…では互いに停戦協定を結ぶ代わりにお互いの邪魔をしないということにしませんか?イズナはアリス殿の隣の方をお相手しますので」

「…分かった。私としてもここで天童アリスを絶対に逃がしたくないからね。だからこれは契約…そっちはお願い」

 

「なんでそうなるんですか…!」

「行って!アリス!」

 

淡々とイズナと話して何やら決めているクロコに思わずアリスも毒を吐く。

モモイはアリスの前に出ると決死の覚悟で2人を足止めしようとするが…イズナの素早さに翻弄され、アリスから引き離されるように蹴り飛ばされてしまう。

アリスがそれを気にかける間もなくクロコが駆け出し、アリスはモモイの意志を無駄にしない為にも逃げ出すことにした。

 

((速い…!))

 

そうして始まった壮絶な鬼ごっこ、最初に2人が考えたことは同じだった。

互いに互いの身体能力に驚くも、クロコは冷静に走りながらアリスを狙って銃を撃つ。

しかしそれをアリスは進路上にあった車に手をかけて乗り越えながら新体操のような動きでそれを回避してみせた。

 

(絶対当たったと思ったのに…レンゲみたいな動き…)

 

その動きにかつてレンゲと戦闘訓練をした時の、予想外の動きで不意を突いてくるレンゲの戦闘スタイルを思い出してクロコは懐かしむように薄く笑う。

 

それによって僅かにクロコの動きが鈍った一瞬の隙にアリスは車を殴り飛ばしてクロコごと後方へ吹っ飛ばした。

戻ってくる前に見通しの良い屋外では分が悪いと適当な建物の中に入ろうとしたが…直後、アリスの進路に先程殴り飛ばした車が投げつけられた。

 

「っ…!」

「ん、逃がさないよ」

 

あの華奢な細腕のどこにそんな力があるのかと自分にも跳ね返ってくる事を思うアリスだったが、先程から感じていた感覚におおよそクロコのその異常な身体能力の要因に当たりを付ける。

そしてそれを肯定するようにいつの間にかアリスの正面に回り込んでいたクロコが語った。

 

「気付いた?私、ホシノ先輩より神秘の量は多いんだ。まあ、私には限界はあるけどホシノ先輩は『ウジャトの目』で神秘も再生して消耗した分を帳消しにできるから実質的な持久力はあっちが上だけど。本当にあの人は色々と凄いよね」

「それには大いに同意しますが…このままホシノ先輩の良いところで古今東西ゲームでもしません?」

「ん、今はいいや」

「ですよね…」

 

ばっさりと話を切り上げられ再びクロコが襲いかかってくる。

体術に銃撃を織り交ぜた怒涛の攻めに防戦一方となるアリスは、クロコの身体能力以上にその動きの読みづらさから戦いにくさを感じていた。

 

アリスは以前アオイから「一流の生徒ほど動きが読みづらいものだ」と指南された事を思い出す。

普通ならば攻撃の際それを行う部位に神秘を集中させるためある程度神秘を察知する能力が動きを読むのは難しくないが、一流ともなると神秘の緻密な操作でそれを相手に悟らせないようにすることができる。

 

だが、それとは違ってクロコの場合は常に全身からその膨大な神秘を立ち登らせることで体内の神秘の動きを覆い隠しているのだ。

 

「そろそろ終わらせる」

「うぐっ…!」

 

銃弾をばら撒きながら横に薙ぎ払われた腕を避けるも、避ける方向を予測していたかのように避けた先で蹴りを食らってアリスがよろめく。

そこに追撃の掌底が胸に叩き込まれてぶっ飛ばされ、肺を圧迫され激しく咳き込むアリスは、そんな中でも冷静に状況を分析していた。

 

圧倒的な神秘での身体強化による膂力で、アリスが受ける打撃はその全てが致命打になりうる威力。

対してアリスが辛うじて反撃を差し込んでもやはりクロコは圧倒的な神秘で身体を保護してダメージを最小限に抑え、結果的に一方的にアリスにダメージが蓄積している。

どう考えても敗色濃厚…それでも、アリスはユウカに託された言葉を胸に決して諦めることをしなかった。

 

 

 

『後は頼んだわ』

 

 

 

(アリスは、もう諦めません…なるんです、勇者に!)

 

今のアリスは、自分が死ぬ事でリスクを減らすこと以上に…自分自身が多くの特異体やアウトローを鎮めることで人を救う気持ちの方が強くなっていた。

故に、もう…自分が死ぬ事で解決するという選択肢はもうアリスの中にはなかった。

 

「クロコ先輩…悪いですが、アリスはここで死ぬ訳には行かないんです!」

「…」

 

そんなアリスの決意が籠った言葉と目に、クロコはじっとそれを見つめ返した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方、イズナによってアリスから引き剥がされたモモイもまた苦戦を強いられていた。

放つ弾丸は異様な身軽さを誇るイズナに当たることはなく、逆にモモイはイズナの攻撃を捌き切れずに傷を負い続ける。

 

(あの子の秘儀…万魔殿が相伝としている『赤血秘術』でしょうか?確か彼女はゲーム開発部というアウトロー集団(同業者)の一員でミレニアム出身だと記憶していましたが…まあだとしても怖いものはありませんね)

 

モモイが自身の周囲に浮かべた血の球体、それから放たれる音速にも至る血のレーザーを軽々と避け、苦無を投げ付けて防御に差し出されたモモイの腕を貫く。

『赤血秘術』はその界隈では有名な秘儀であり、故に情報も多く出回っていてネタが割れているのだ。

 

「以前同じ秘儀の使い手の暗殺任務を受けたことがありましたが、『赤血秘術』は『穿血』が脅威なぐらいで他は大したそれほど怖くありませんし、秘儀の起点になる『百斂』はちょっと隙が大き過ぎますからね…速さで勝ってるイズナを相手にするには相性が悪いのでは?」

 

「…だから何?」

「はい?」

 

暗に詰みであると告げるイズナに、モモイはアリスと敵対していた時に出したような低いトーンの声で言い返すと、地獄の悪鬼も逃げ出すような殺気でイズナを睨みつけた。

 

「あなたこそ、私の妹に手を出して生きて帰れると思わないで」

 

イズナを倒してアリスを守る為に、モモイは姉としての使命を果たさんとするのだった。




配役
直哉…イズナ
扇…ニャン天丸
甚壱…アラタ

この先は物語としての大筋は変わりませんが、所々アレンジが加わる場合があります。
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