ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作144〜146話までの範囲でお送りします


あの場所

 

 

死滅回遊

 

総則(ルール)

1.泳者(プレイヤー)は秘儀覚醒後、19日以内に任意の結界(コロニー)にて死滅回遊への参加を宣誓しなければならない。

2.前項に違反した泳者(プレイヤー)からは秘儀を剥奪する。

3.非泳者(プレイヤー)結界(コロニー)に侵入した時点で泳者(プレイヤー)となり、死滅回遊への参加を宣誓したものと見做す。

4.泳者(プレイヤー)は他泳者(プレイヤー)の生命を断つことで(ポイント)を得る。

 

5.(ポイント)とは管理者(ゲームマスター)によって泳者(プレイヤー)の生命に懸けられた価値を指し、原則秘儀を持った者を5点、秘儀を持たない者を1点とする。

6.泳者(プレイヤー)は自身に懸けられた(ポイント)を除いた100(ポイント)を消費することで管理者(ゲームマスター)と交渉し、死滅回遊に総則(ルール)を1つ追加出来る。

7.管理者(ゲームマスター)は死滅回遊の永続に著しく障る場合を除き、前項による総則(ルール)追加を認めなければならない。

8.参加または(ポイント)取得後、19日以内に(ポイント)の変動が見られない場合、その泳者(プレイヤー)からは秘儀を剥奪する。

 

 

 

 

 

 

「死滅…回遊…」

 

ヒナから伝えられた今キヴォトス全土を巻き込んで起こっている特異現象…その詳細を聞いたアリスは理解が追いつかないながらも、第一に『とんでもないクソゲー』だと言うことを感じ取る。

 

「私の後輩も、このクソゲーに巻き込まれてるのよ。だからアリス。贖罪をしたいっていうならまずは私を助けなさい」

 

「…Keyが、何かを企んでいます。もし次にアリスがKeyと変わったら、迷わず殺してください。クロコ先輩なら…出来ると思います」

「…分かった。ベストを尽くす」

 

その答えを聞いて満足したのか、アリスはヒナの方に向き直って深呼吸すると覚悟を決めたように瞳に活力を戻した。

 

「アリスは何をすれば良いのでしょうか?」

「直近でやるべき事は、S.C.H.A.L.Eに戻って『クズノハ様と接触すること』よ。今は緊急事態だってことでS.C.H.A.L.Eからでも直接百鬼夜行にある”黄昏宮”に行けるらしいわ。そこでホシノ先輩を封印したっていう特級遺物…『神名結晶』の解き方、そしてユメの偽物の具体的な目的と今後の出方を聞きに行くの」

「なるほど…ミカさんはその2つの答えを知らなかったのでしょうか?」

「そもそもこの案を出したのがミカさんの案だからね。クズノハ様に会いに行くには色々結界とか鍵とか面倒な障害が沢山あるけど、ミカさんの手回しのお陰で黄昏宮に入るのだけなら簡単に出来るそうよ」

 

そこまで話を聞いて頭の中で内容を咀嚼し飲み込んだアリスは…そこで話を途切れさせて、声を震えさせながらずっと気になっていたことを聞くことにした。

 

「ヒナ…カズサはどうなりましたか…?」

「…」

「っ!…分かりました…」

 

ヒナの反応から事の次第を察したアリスは、吐き気や頭痛を覚えるも頭を押さえて何とか現実を飲み込む。

その場には気まずい空気が流れ…しかしそれを断ち切るように少女が1人、ヌッ、と効果音が出そうな勢いでひょっこりと顔を出した。

 

「アリス大丈夫!?」

「うわぁ!?モモイ!?」

「え…誰…」

 

「ん、聞いてたんだ」

 

クロコに気絶させられたモモイはその後アリスと同じように介抱を受けていたらしく、アリス達が話している間も寝ていたそうだが丁度今飛び起きたようだ。

割と強めにど突いて起きながら普通に話すクロコにモモイは恨みが増しくジト目を向け、事情をよく知らないヒナはクロコが普通にモモイを受け止めていることに若干ドン引きする。

 

「怪我とかしてない!?あの…おっきい子に変なことされなかった!?」

「されたと言えばされましたけど…どう説明しましょうか…」

「歩きながら話そう。まずはS.C.H.A.L.Eに…皆待ってるから」

「アリスの方も色々聞かせてもらうわよ」

「はい。臨時パーティ結成ですね!」

 

ひとまず打ち解けた一同は、その後互いのことを紹介しあったりここしばらくの出来事を話し合って、S.C.H.A.L.Eを目指したのだった。

 

 

 

 

 

 

それからしばらくして、すっかり夜が明けたS.C.H.A.L.E本部の一室。

到着したアリス達を待っていたのは、ひらひらと軽い調子で手を振るミカと…折れた角と至る所に火傷跡の残ったレンゲだった。

 

「レンゲ先輩!?その怪我は…!」

「レンゲ…大丈夫?」

「よおアリスと…クロコ。これのことならまあ大したことねーよ」

「流石にセナちゃんの恐怖による治癒でも跡は残っちゃうからね。でも生き残ったこと自体が奇跡みたいなものだし。レンゲちゃんが生き残ったのは、天与宣誓による肉体の強さがあったから。最後に頼れるのは神秘への耐性じゃなくて生来の肉体の強度ってね。ナギちゃんのことは残念だったけど…」

「その件は悪かった…友達だったんだろ?」

「う〜ん、友達って言うとどうかな…随分前にトリニティを出てフラフラするようになった時から長いこと会ってないし、結構一緒にいた期間は短いから。よく口にロールケーキ突っ込んで来るから一緒にいて面白かったのは覚えてるけどね」

 

知人の死にわりかしドライな反応を見せるミカにレンゲは少し眉を顰めるが、自分達が口を出す問題でもないかと話を変えることにした。

これからクズノハに会うために緊急で繋げられた黄昏宮直通の特殊な門をくぐることになるわけだが…やはりと言うべきかその前にレンゲの興味がよく分からない新顔へと向いたのだ。

 

「で、お前誰だ?」

「アリスのお姉ちゃんだよ!」

「なるほど。アリス、こいつ誰だ?」

「うわーん!アリスに聞かれても困ります!」

「レンゲさんって言うんだ!その角カッコイイね!」

「貴女私にもそうだったけど結構ずけずけ来るわね」

「アリスの友達ってことは私の友達でもあるからね!」

「あっはは、モモイちゃん面白ーい!」

「いや結局何もんなんだよ…」

 

頑なに姉と言い張るモモイに気恥ずかしくなったアリスだが、答えなければレンゲが納得しそうにないので咳払いで騒がしくなった場を沈めると、改めてモモイを紹介する。

 

「その…取り敢えずアリスの、お姉ちゃんということで納得してくれませんか…?」

 

 

 

「アリスぅぅぅぅ!!」

 

「さあ行きましょう!」

 

アリスの紹介に感極まって泣き出すモモイにこれ以上恥ずかしい思いをするのを避ける為にアリスはヒナとレンゲの手を引いて目的の門へと向かうことに。

 

S.C.H.A.L.Eの他の職員や生徒に鉢合わせないように慎重に進みながら、地下深くにあるその門へ辿り着いた一同。

門があるその空間は周囲に雪が積もった不思議な部屋で、人払いが済んでいるのか元々居なかったのか、門番の姿は見られなかった。

 

「ここ、ですよね…この先に…」

「ん。この先にも先客の気配は感じない。行ける」

 

先に門の奥の様子を見てきたクロコが安全を確認し、アリス達も続いて門の奥へと進んでいく。

門を抜けた先には石レンガ造りの屋内のような場所に出て、そこからしばらく一本道の通路が続いていた。

通路の奥へ進むと今度は複数の通路が繋がった広間に出て…アリスはその部屋の床に付着した古い血痕を発見する。

 

「これは…?随分前のものみたいですが、何があったのでしょう…?」

「そっか…あれも7年も前の話だったかな。今思えば…全ての歪みはあの時に始まったのかもね」

 

アリスの言葉に反応して、ミカが懐かしむように呟いた。

その話の意味を理解出来るものはミカ意外その場には居なかったが…アリス達は知る由もない、7年前の戦い。

かつて狐坂ワカモによって当時の巫女である勘解由小路ユカリが殺害され…そして小鳥遊ホシノが狐坂ワカモを打ち破ったあの日の出来事。

 

 

その後はミカの案内で迷路のように入り組んだ道を進んで行き、遂に一同は円状に建ち並ぶ幾つもの建物に囲まれた巨大な柱のようなものが聳え立つ空間に出た。

しかし、そこには人っ子1人の気配すらなく首を傾げるアリス達。

ただ1人ミカだけは思い当たることがあるのか内心毒を吐いていた。

 

(クズノハは普段現世に干渉しないけど、『ウジャトの目』が封印された今なら接触出来ると思ったんだけどなぁ…拒絶されてるのは”私達”じゃなくて”私”かな?本っ当に面倒くさい)

 

「…会えないならここに長居する意味もない。時間が惜しいし、戻る?」

 

姿を表さないクズノハにクロコがS.C.H.A.L.Eに戻ることを提案した、その時────突如として景色が切り替わり、アリス達は遠方に野山の景色が見える和室のような場所に放り出されていた。

 

「なっ…」

 

 

 

 

 

 

 

「ふぅむ、お客様かの?ここに妾以外が足を踏み入れるとは珍しい」

 

『!』

 

その時、アリス達に不意に声をかける存在があった。

一同が声の方へ振り向くと、そこにいたのは…全体的に白い装いをした、狐の耳と尾を生やした少女。

少女は煙管を片手に羽織を整えながらアリス達に近付くと、順番に一同を見やった。

 

「偉大なる先生の血筋、天与の娘、神秘の申し子、畏怖集める遺物の製作者…そしてKeyの器。如何してこの白昼夢に見えたのかはさておき、初めましてじゃのう───妾こそが大預言者、クズノハじゃ」

 

 

 

「…私に挨拶は無いのかな☆寂しいじゃんクズノハちゃん」

「お主は初対面ではなかろうて」

 

呼ばれなかった事に不満を覚えたのか、若干棘を含む物言いでクズノハに突っかかったミカだがクズノハはすげなく流す。

それでまたミカは不満を募らせ…苛立ち混じりにクズノハを問い詰める。

 

「なんで黄昏宮を閉じたのかな?」

「お主が”マルクト”に同調しているのではと勘繰ってしまってな」

「…マルクト?」

 

クズノハが出した名前に聞き返すアリスに、クズノハは知らなかったのかと少し驚きながらも次にはその正体を語る。

曰く…

 

「彼の特異操術の娘の身体を乗っ取っている者の名…其奴こそが、対絶対者自立分析システム…Keyと同様太古に作られしAI、”マルクト”じゃ」

「第10のセフィラ…王国を冠するAIか。穏やかじゃないね」

 

「アリス、気になっていました!クズノハ様からは凄く浮世離れした雰囲気を感じますが…どうしてそのような感じになっているのでしょう?」

「ちょっとアリス…」

 

ミカとクズノハの話に割って入るアリスにヒナが抑えようとする。

しかしクズノハはニコリと微笑むと、子供をあやすかのように優しい声でそれに答えた。

 

「それこそ妾は現におらんからの。不死ではあるが不老に非ず、久遠の時を生きようものならば存在そのものが崇高に至り肉体を高次元に押し上げる。お主も500年も生きればこうもなろう」

「そうなんですか!?」

「ああ。7年前に巫女との同化に失敗して以来、老化は加速して自我は薄れ、天地そのものが妾の自我となったのじゃ」

 

そう説明するクズノハに、話を聞いていたミカはかつて勘解由小路ユカリが殺害されたあの時のことを思い出し…何かに合点がいったのか誰にも聞こえないような声で小さく呟いた。

 

「…通りで声が増えないわけだ」

 

 

「ん、クズノハ様。私達はあなたに用事があってここに来た」

「そういえばアリスのせいで忘れかけてたわ…」

「アリスのせいなんですか!?」

「そのマルクトって奴の目的と、ホシノ先輩を封印する『神名結晶』の解き方を教えなさい」

「勿論教えるとも…但し────才羽モモイ、聖園ミカ、砂狼クロコ。お主らの内の2人が妾の護衛に着くと言うのならな」

 

快諾する素振りを見せたクズノハは、しかし途端に表情を険しくするとモモイとミカ、そしてクロコを指名してそう条件付けた。

クズノハが不死だということを理解しているクロコとレンゲは態々護衛が必要だというその条件に疑問を抱き、ミカは相変わらず機嫌悪そうに苦言を呈した。

 

「護衛の期間も理由も教えずにただ『守ってください』なんて、フェアじゃないね?」

 

「…ではマルクトについて語ろう。奴の目的はキヴォトス全土を対象とした人類への進化の強制じゃ。当面はキヴォトスの全ての民に神秘への適正を持たせようとしておるのじゃろう」

 

ミカからの質問を無視し、代わりに答えたマルクトについての話を事細かに説明するクズノハ。

その話に不可解な点を覚えたヒナが手を上げると、ミカに向ける態度とは変わってクズノハは煙管でヒナを指し示して質問を許可した。

 

「マルクトとやらの目的がキヴォトス全員が神秘を操れるようにすることだとして、ならなんであの時に『ム為転変』でそれを行わなかったのか分かるかしら?」

「ふむ。理由は単純、純粋な神秘の不足であろうな。『うずまき』で作った神秘は術者に還元出来ない故、特異操術を扱う者でも特異体の神秘そのものを自由に運用することは出来ん。また1人1人に『ム為転変』を使おうにもあまりにも効率が悪いからのう。それにそこはあくまでもマルクトの目的成就の為の手順の1つ。最終的に奴が人類の進化の為に取る行動は───キヴォトスの民と妾の同化じゃ」

 

「…」

「クズノハ様との…同化?」

「どういうことだ?」

 

「まあ落ち着けい。ゆっくり話してやるわ」

 

話が掴めない一同を窘めたクズノハは、1つずつ噛み砕いて説明を始めた。

 

第一に、巫女以外がクズノハと同化することが出来るのか。

これは7年前に巫女との同化に失敗し進化し続けている今のクズノハとならば不可能では無いらしい。

 

第二に、1人しかいないクズノハとどうやって複数の人間と同化するのか。

これは先程クズノハが語った『天地そのものがクズノハの自我』という話に繋がるらしく、このキヴォトスを覆っている大結界そのものがクズノハであり、内側に存在する全ての民を対象とした同化を行えるとのこと。

ただどうやらこの方法でキヴォトスの民とクズノハが同化するのは「個としての境界がなくなる」というデメリットがあるようだった。

 

一通り説明したクズノハは煙管を一吸いするとふぅ、と煙を吐いてこう話を締め括る。

 

「天地そのものである妾と同化するということはキヴォトスの民全てもまた天地そのものになるということ。全ての者が繋がっている以上意志は統一されるが、その中に一つでも悪意が産まれたのなら…他の全てを侵食してこのキヴォトスは悪意に堕ち、穢れという名の神秘がキヴォトスの外にまで溢れてこの世界の全てがそれによって生じた特異体に飲まれてしまうじゃろう。その数は、ミレニアムに解き放たれた1000万という数では済まなくなるじゃろうな」

 

「でもそれって、クズノハちゃんが拒否しちゃえば同化は起こらない筈だよね?まさかマルクトに唆される程騙されやすいって言う訳じゃないし…」

「勿論今更妾が奴の口車に乗せられようはずも無い。じゃが…7年間進化し続け現世から肉体が解き放たれた今の妾はまさに特異現象…つまりは特異体に近い存在となっておる」

「…まさか」

「そのまさか…今の妾は────特異操術の、支配対象じゃ」

 

緊張が走る一同を置いてけぼりに、クズノハは話を続ける。

マルクトと自分の実力差を鑑みるに接触した瞬間にマルクトに取り込まれてしまうかもしれないこと、それを危惧して黄昏宮を閉じ誰とも接触しないつもりだったこと。

その上でマルクトがキヴォトス最高の結界術の使い手である自分に並ぶほどの結界術を扱える為、いつ黄昏宮の封印が解かれてしまうか分からないこと。

故に…強力な護衛が欲しいということ。

 

一通り話を聞いたミカは、クズノハに質問をする。

 

「…なんで今マルクトは行動を起こしたの?」

「…『クズノハ()』、『巫女』、そして『ウジャトの目』、それらは全て因果で繋がっておる。マルクトはかつて2度『ウジャトの目』を持つ生徒に敗れてきた。1度目は単純に戦い敗れ、2度目は『ウジャトの目』も『巫女』も生後一月以内に殺害しおったが、それでも妾が同化を必要とするその日にその両方がまた生まれた。『ウジャトの目』の持ち主は一度に2人生まれることがない故、マルクトは『ウジャトの目』の殺害から封印に切り替えたというわけじゃな」

 

切っても断ち切れぬ因果。

運命に敗れたマルクトはその後神名結晶を手にし、計画を遂行する為にありとあらゆる遺物や手駒を集めていたそうだが…7年前に予期せぬ事が起こったらしい。

 

即ち、狐坂ワカモの介入である。

完全に神秘から脱却した存在である狐坂ワカモはキヴォトスを取り巻く神秘という因果から完全に解放された存在であるが故に、狐坂ワカモが勘解由小路ユカリを殺害したことでそれらの因果が断ち切られ、以来巫女が産まれることがなくなってしまった。

それに加え同時期に特異操術を持つユメが存在してしまったことで、マルクトが目的を達成するのに必要なピースが揃ってしまったのだとか。

 

「奴が死滅回遊を行うのも、妾とキヴォトスの民との同化を行う為の慣らしじゃろう。しかし死滅回遊という本来実現不可能な大きな儀式を行うに当たってマルクトは自らに不利な多くの契約を結んでいるはずじゃ。その1つとして、マルクトは死滅回遊の管理者(ゲームマスター)ではない。つまりマルクトを打ち倒そうが死滅回遊は終わらない」

 

「…なら、ヒナが守りたいっていう子を助けるならルールの中で手を打つしかないかな。100点取って離脱できるルールを追加するとか…」

「なら、それに加えてホシノ先輩の解放も同時進行で進めましょう」

「あ、ではクズノハさんに聞きたいことがあるのですが…」

 

「待たんか、その前に妾の護衛の話じゃ。先程挙げた中で誰が残る?」

 

クズノハの話を聞いて口々に相談を始める一同だったが、約束を忘れられては堪らないとクズノハがそれを遮る。

一瞬空気が静まり返ったが…その中で、モモイとミカが名乗りを上げた。

 

「「私が残るよ」」

 

「モモイ…?」

 

「アリスには私より強いミカさんかクロコさんの助けが必要だろうからね。それに私としてもユメ…じゃなくて、マルクトには恨みがあるから」

「私はクズノハちゃんに問い詰めたいことがまだまだあるからね。護衛ついでに質問攻めを受けてもらうよ。クロコちゃんはそれでいい?」

「ん。もう皆と離れたくない」

 

 

「…決まりじゃな。では小鳥遊ホシノを救出する方法を教えよう。これこそがその鍵となる…『神名結晶:裏』じゃ」

 

クズノハが羽織から取り出したのは、紫色をした六角形の結晶のようなもの。

ほのかに輝きを放つそれはマルクトが所持する『神名結晶』の対となる遺物らしく、マルクトが持つものは以前まではキヴォトスの外にあったようでクズノハもその所在を掴めなかったが…この『神名結晶:裏』はずっとクズノハが手元で管理していたとか。

 

「これはマルクトの持つ『神名結晶』を解放するための遺物じゃが、本来ならばこれを解放する権限は本家の『神名結晶』の所有者にある。それ以外の方法で解放するとなるとあらゆる秘儀を強制解除する『天逆鉾』、またはあらゆる秘儀の効果を乱し相殺する『黒縄』のどちらかが必要となる。じゃが天逆鉾は既に小鳥遊ホシノが破壊されるか、封印されておる」

「何やってるんですかホシノ先輩」

「そして黒縄はかつて小鳥遊ホシノに使用された際に全て破壊し尽くされた」

「なにやってんのよホシノ先輩!」

 

頼みの綱である遺物が既に手に入らない状況にあると知り自分を救うためのアイテムを自分で処理してしまっているホシノにアリスとヒナが愚痴をこぼす。

 

「ん…フィーナと海外まで黒縄の残りを探しに行ったけど、そっちも無駄足に終わっちゃった」

「…もう手は無いって答えるつもりで条件を提示した訳じゃないよね?」

「無論じゃ。現状存在する小鳥遊ホシノを解放できる唯一の手段───死滅回遊の泳者(プレイヤー)の中に、”白衣の天使”を名乗りあらゆる秘儀を消滅させる秘儀を持った名も無き神々の一柱───ミネルバの転身、『蒼森ミネ』という者がおる。其奴ならば『神名結晶:裏』を解放することが出来るじゃろう」

 

 

 

 

 

 

 

キヴォトスに展開された結界(コロニー)、それぞれの配置はD.U.に2箇所、トリニティ自治区、ゲヘナ自治区、元ミレニアム自治区、百鬼夜行自治区、レッドウィンター自治区、山海経自治区、元アビドス自治区に1箇所ずつの計9箇所に設置されている。

小鳥遊ホシノ解放に必要な標的である蒼森ミネは、クズノハによるとその9箇所のうちD.U.にある2箇所の結界(コロニー)のどちらかにいるとの事だった。

 

「マルクトがキヴォトスの民を妾と同化させる慣らしを終えるのに二月もあれば十分じゃろうて。今は11月の9日…泳者(プレイヤー)達の秘儀が覚醒したのが10月31日の24時頃じゃったか。期限は年明けといったところかのう」

 

「加えて死滅回遊のルール通りなら秘儀を剥奪されるのは秘儀覚醒後から19日以内…つまりアコが巻き込まれてから10日と15時間。あとおおよそ9日以内に何とかしないとってことね…」

「そういえば、その秘儀が剥奪されるというのは…単にヒナ達が持っている秘儀がなくなってしまうだけなのですか?」

「ああ、それなら事前にセナさんにも相談して見解を聞いたけど───」

 

 

 

 

 

『剥奪はム為転変で行われるわけではないかと。”使用禁止”ではなく”剥奪”ということは、契約というわけでもありません。となるとヘイローになにかしら直接作用させることになるでしょう。ヘイローに根付く秘儀を強引に引き剥がすとなると、それだけヘイローにも負担がかかる訳ですから…まず間違いなく秘儀の剥奪という現象が起こればその者は命を落とすでしょうね』

 

 

 

 

 

「らしいわ」

「マジですか」

 

ただ一方、秘儀の剥奪によるヘイローの負担で命を落とすということは秘儀を持たない者…アリスやレンゲのような者はリスクなく死滅回遊に参加できるのか?という疑問も残っていた。

しかし今ある材料で考察するには情報が足りず、ひとまずは死滅回遊のルールを読みといていくことになる。

 

「死滅回遊の管理者(ゲームマスター)はそのシステムそのもの…言わば管理AIが取り仕切っている。それと同時に、各泳者(プレイヤー)には『コガネ』という案内用の式神が憑くようじゃの」

「Siriみたいなものってことですね!」

 

「このルール、100点でルールを追加できるってやつでルールを取り消せたりしないかしら?」

「難しいと思うな〜。まあ遠回しに否定することならできるかもだけどね」

 

管理者(ゲームマスター)は死滅回遊の永続に障るルール以外は認めなきゃいけないってルール、これ正当性ちゃんとしてんのか?屁理屈つけりゃ適当言えるようにも思えるぞ」

「ここまでのルールを強いる以上、死滅回遊というシステムそのものの正当性はある程度公正に機能しておる筈じゃ」

 

「…点の移動が無ければ秘儀を剥奪…死ぬということは、また人を殺さなければ行けないんでしょうか…」

「いや、それについては考えがあるわ。上手く行けば…」

 

死滅回遊のルールについての話し合いが一通り終わって、次は役割分担の話へと移った。

それぞれの担当を確認することとなり、モモイとミカはクズノハの護衛、アリスとヒナとクロコは結界(コロニー)に侵入して死滅回遊の攻略、そしてレンゲは…

 

「アタシは先に外のゴタゴタを片付けてくる。この混乱に乗じてアウトローが好き放題やってるらしくてな。お前らを待ってる間にS.C.H.A.L.Eに人員派遣の要請が来たからその手伝いに行く」

「では、しばらくレンゲ先輩とも別行動ですか」

「ん…レンゲ、気を付けてね」

「こっちの台詞だ馬鹿野郎。ある程度鎮めて回ったらペロロ辺りと合流してアタシも結界(コロニー)に入るからな」

 

「じゃあそれぞれどこの結界(コロニー)に入るかだけど…」

「効率よく進めるなら戦力は分散させた方が良い…けど、Keyの事もあるからアリスちゃんの近くにいた方がヒナも安全だけど…」

「心配しなくて良いわよ。私とアリスでD.U.第1結界(コロニー)に行くから、クロコ先輩1人で他の結界(コロニー)の制圧を任せたいわ」

「そう…?多分結界(コロニー)に入ったら電波は繋がらなくなる。しばらく連絡が取れなくなると思うけど…」

「そうですよ、ヒナ…もしヒナにまで何かあれば…」

「その時は私が死んだ後にしっかり殺してもらいなさい」

「…」

 

自分の身の安全を省みようとしないヒナに文句を言いたげなアリスだったが、今は効率を重視するべき場面だとそれをグッと飲み込む。

それぞれの今後の動きも決めたところで、クロコはこの後直ぐに適当な結界(コロニー)に突入するらしく、アリスとヒナもそれに続こうとした所をレンゲが止めた。

 

「お前達、その前に秤先輩を呼んでこい」

「秤、先輩ですか?」

「今停学中の3年の秤アツコ先輩。ムラっけはあるけど乗ってる時は私より強い。きっと頼りになるよ」

「それはない」

 

フォローするクロコだったが直ぐ様レンゲがそれを否定する。

その反応の時点でもう嫌な予感しか感じないアリスとヒナは、しかし今は少しでも戦力が必要だと了承し、そしてそれぞれが自分の役割を果たす為に行動を開始するのだった。

 

そしてアリス達がクズノハによってこの空間の外に出ようとする前に…ここに残るモモイが心配そうにアリスを見送った。

それを見たアリスはふっと笑ってモモイに声をかける。

 

「モモイ!」

「!」

 

 

 

「ありがとうございます!助かりました!」

「…死なないでよね」

 

そんなアリスからの感謝に、モモイは精一杯のエールを送るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───サンクトゥムタワー、会議室

 

そこで、1人の役員が他の役員に責任の追求を受けていた。

 

「な、いえ、私は…」

「言い訳など不要です、”カヤ防衛室長”。此度のミレニアムの陥落、特異体の食い止めの失敗、アウトロー達の暴走…あなたがその責任を担うべき立場であるはずでしょう?」

「特異現象の存在の発表についてもあなたに任せますよ。矢面に立つ分非難はあなたに集中するでしょうが、どうせ追放される身。最後ぐらいは辞任の意を見せて民衆を納得させるのが献身的な立ち回りと言えるかと」

「そんな…何故私が…」

 

その役員…カヤは追求、もとい責任の押し付けから逃れることが出来ず、あれよあれよと反論する間もなく会議が進み、全ての責を背負わされることになって会議は終わってしまう。

他の役員は皆会議室を出ていき…そして魂が抜けたように呆然と座り込むカヤの隣に、会議中ずっと黙り込んでいたリン行政官が腰掛けた。

 

「災難でしたね」

「…ふ、ふふ…災難…?今までこの私が積み重ねてきたものを全て奪われて災難という言葉一つで済むとでも…?」

「むしろ早々にここを降りれて楽かと思いますけどね。私も近頃連邦生徒会を見限るつもりです。責任の放棄、と言えばそうなのでしょうが」

「!…驚きましたね。リン行政官はもっと責任感のある人物かと思っていましたが…」

「私もそのつもりでしたが…どうしようも無い嫌な予感がします。内輪から蝕んでいくような嫌なものが今の連邦生徒会にはある。今行政官を辞任することは非難を浴びるでしょうが、融通の聞く知人に頼んで住民の外の世界への疎開に協力するなり出来ることはするつもりです。貴方も外に出ますか?」

「私は…私、は…」

 

諦観したように言うリン行政官に、カヤはしどろもどろとして答えを出すことが出来ない。

そうこうしている内にリン行政官は時間を気にして席を立つと、去り際に一言だけ質問を残していった。

 

「貴方にだって、できることはあるのではないですか?貴方は…一体何を目指したのですか?」

「…私は…このキヴォトスを正せるような────

 

 

 

 

 

 

 

────そんな、”超人”に…」

 

 




配役
髙羽…カヤ
天使…団長
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