ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作151〜152話までの範囲でお送りします



葦を啣む─弐─

 

まだ幼かったあの時。

才能を持て囃され、皆が自分を認めて口々に褒め讃えたあの頃。

きっと自分には傲りがあったのだろう、調子づいていたのだ。

周りを見下すようになって、自分が1番だと思って…けして良い環境とは言えなかったが、その自尊心だけが自分の心を支えていた。

 

そんなある日、噂を聞いた。

魑魅一座に所属する人物の中に、神秘もなく遺物に頼らなければ特異体にも為す術がない者がいるのだと。

誰もが口を開けば彼女を馬鹿にするように言い、誰もが彼女を否定していた。

幼心にその噂に興味を引かれ、どんな人物なのかと彼女が隔離されているという離れの屋敷を見に行き───そこで()()を見た。

 

全てに関心を持たない冷たい瞳、しかし静かに立ち上る全てへと向けられた怒り、自らの傲りを打ち砕く程の強者としての気配。

彼女は、自分に一瞥もくれることもなく姿を消す。

 

それを見て私は、この上ない憧れを持った。

どうすればあのようになれるのだろうか。

どうすればあのようにカッコよくなれるのだろうか。

どうすればあそこまで強くなれるのだろうか。

 

それから幾度となく修練を重ね、以前よりも厳しい修行を嘆願し血反吐を吐く思いで研鑽し、己を高めて…いつしか自分は魑魅一座の誰よりも強くなった。

だが、まだ足りない。

あの日見たワカモ(あの人)にはまだ届かない。

 

手を伸ばせど届かない”あっち側”に、自分はまだ至れていないのだ。

普通の修行や鍛錬では伸びを感じなくなり、焦りが逸った。

このままではあの高みに至ることなく終わってしまうと…だがもうそこにいる誰よりも強くなってしまった自分に稽古を付けられる者などいない。

ならばどうするか…自分を高めるのに実戦に勝るもの無し、命を賭けたやり取りを通じて、ありとあらゆる感覚を磨いていくことにした。

 

修行に明け暮れ頼まれても行かなかった暗殺の仕事も頻繁にこなすようになり、相手によってはその際隠密性度外視で敢えて直接戦闘に持ち込んでは勝利を重ねた。

そのせいで組織として魑魅一座が目立って思うように動けなくなったと叱られることもあったが…そんなもの知ったことでは無い。

ただひたすらに稽古と称して戦いに挑み、強者や大軍と死闘を演じてひたむきに前に進み続けた。

 

 

 

 

誰もワカモ(あの人)の強さを理解していない。

だから皆弱いのだと、だから誰も自分を導けないのだと、再び周りを見下すようになった。

自尊心とは違う…弱さを嫌って、強さを尊んで、自分を導ける強者に敬意を払う。

だからこそ、小鳥遊ホシノは強かったのだろう。

自分は、狐坂ワカモと、小鳥遊ホシノという”あっち側”の存在を心から尊敬し、いつかそれに追いつく為に精進を続ける。

 

いつか憧れたあの背中に、手が届くように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(弱者の罪は強さを知らないこと。誰もワカモ殿を理解しようとしなかった。だから…皆弱いんですよ)

 

魑魅一座制圧の為にS.C.H.A.L.Eや百鬼夜行支部から送り込まれた生徒達と、協力に当たったヴァルキューレの生徒達延べ100人以上が積み重なった死体の山。

その上からレンゲを見下ろすイズナは、レンゲが特異な神秘を宿したあの剣を構えたのを見て足元の死体を1つレンゲに向かって蹴り飛ばした。

 

飛んでくるそれをレンゲは咄嗟に受け止めるが…その死体に苦無が1本刺さっていることに気が付き…次の瞬間に苦無が爆発し爆炎がレンゲを巻き込む。

 

「死体なんてわざわざ受け止めるものではありませんよ?どうせ大切にする意味なんてないんですし」

「ハッ、勝手に言ってろ!」

「!」

 

爆発の煙に紛れて回り込んだレンゲは死体の山の上にいるイズナに迫り首を目掛けて剣を振るが、それをイズナは振り向きざまに右手の苦無で弾いて剣の軌道を逸らすことで避け、返しに左手の苦無で逆にレンゲの首を掻っ切ろうと振るう。

 

が、その手を掴んで止めたレンゲは腕を引っ張ってイズナを屋敷の方へと投げ飛ばした。

 

「ととっ、乱暴ですね。技もなにもあったものでもない力任せとは面白みがありません」

「お前を殺すのには充分だろ?」

「身体能力の高さを否定することはありませんが…レンゲ殿はワカモ殿のようにはなれません。レンゲ殿では、イズナに勝てません!」

 

言うや否や、イズナは後ろに跳ぶと壁を突き破って屋敷の奥に姿を消した。

一瞬追うか迷ったレンゲだったが、万が一にでも逃がす訳にはいかないとそれを追って屋敷へと飛び込む。

 

だだっ広い屋敷の中は迷路のように入り組み、至る所に先程の交戦で出来た戦いの跡や魑魅一座の構成員の死体が散乱し、建物が崩れている部分も多い。

それらを尻目にイズナを追って屋敷の廊下を駆けるレンゲは、その最中に足元に糸がひっかかる感覚を覚えた。

 

「…チッ」

「ここがどこだかお忘れですか?魑魅魍魎、悪鬼の館…魑魅一座の忍者絡繰屋敷へようこそ!」

 

トラップを踏んだのか、何処かから聞こえたイズナの声と共に天井が開いてそこから無数の苦無が降り注ぐ。

剣の一振でそれらを弾き返したレンゲだったが、今度は隣の壁をぶち抜いてイズナが飛び蹴りをかけてくる。

レンゲはそれを腕でガードして直撃を防ぐも、反対側の壁を突き破って隣の部屋まで吹っ飛ばされた。

さらにイズナがその部屋の畳を踏み抜いて何かを作動させると、その部屋の壁や天井に穴が空いてその向こうから無数の銃口が除き、レンゲに向かって一斉に掃射される。

 

「何が忍者屋敷だ…!びっくりハウスに改名しろ!」

「趣というのは大事ですので」

 

イズナに斬り掛かるついでに部屋を脱出し弾幕から逃れたレンゲは、剛力を活かした自分の剣戟を両手の苦無で巧みに捌くイズナにやりづらさを感じていた。

何より狭い室内、レンゲの足元から首ほどまである長さの剣を振り回すのはコツが必要になり、逆にイズナの得物はコンパクトな苦無故に支障なく取り扱えている。

この屋敷の仕掛け含め、圧倒的な地の利が向こうにある現状、レンゲも攻めるに攻め切れない。

 

斬り合いの最中さらに部屋を移動し、今度は修練場として使われていたと思われる広い部屋に出る。

ようやく存分に剣を振り回せるかと思えば、イズナは羽織を翻すと何かを部屋中にばらまいた。

 

「撒菱か!んなもんどっから取り出してんだよ!」

「当然屋敷の中ならば幾らでも調達は効きますよ」

 

下手に歩けば足に突き刺さり機動力を削いで来るであろうそれらに注意して足の踏み場を探しつつ、それでも動きやすくなった分攻め手を強めるレンゲだったが、防御に回っていたイズナは何かを引っ張るような動作を見せ…次の瞬間にはレンゲは逆さに宙へと吊り上げられていた。

 

「宙吊りの術、ですよ!」

「しゃらくせぇ!」

 

レンゲは足に絡み付いて宙に拘束する糸を剣で斬るも、床に落ちるまでの滞空時間を狙って再度イズナが飛び蹴りを行い、吹っ飛ばされたレンゲは床を転がって散らばっていた撒菱が身体中に突き刺さる。

何とか顔は守り痛みを堪えて立ち上がるが、ニャン天丸に斬られた腰の傷は治っている訳ではなく今も血を流し続け、撒菱の損傷も相まって出血が酷いことになっている。

長引けば長引く程不利…そしてイズナはそこを的確に突いてくる。

 

(反撃を恐れて及び腰になってたらこっちが先に削り切られる…なら!)

 

「ふふん、そう来るしかありませんよね?」

「うるせぇ!」

 

1歩足を踏み出して起こった衝撃で足元の撒菱を吹き飛ばし、足元の安全を確保したレンゲは強気に攻勢に出た。

全ての防御を打ち破るつもりの一閃はひょいと跳んで避けられ、流れるように繰り出された斬り上げは苦無で受けられ、その反動を利用して部屋の壁まで下がられる。

ついでとばかりにイズナが壁を叩くと、またもや何かの仕掛けが作動して細く鋭い鉄線が部屋中に張り巡らされた。

 

「…ははっ、安全性補強してテーマパークでも作ったらどうだ?ここまで出来るんなら良い興行になるだろ」

「生憎イズナの絡繰は殺生を目的としたもの専門ですので厳しいと思いますが」

「全部お前が作ったのかよ。通りで他の連中が誰もこれ利用してなかった訳だ」

 

その無駄な器用さを別の事に活かせと毒づき、視認しにくい鉄線を避けながらイズナに斬り掛かる。

対して、イズナは鉄線を利用してレンゲの動きを封じつつ、自分はそれらを無いものかのようにするりするりと避けて機動力を落としていない。

脚力を利用した直線での速度に優れるレンゲと、柔軟性と瞬発力を活かした小回りの効くイズナの違いが如実に現れることになる。

 

ならばと強引に鉄線を斬り払って空間を確保していくレンゲだが、そちらに意識を向けていると今度はイズナが攻めに回ってきて大袈裟にレンゲを弾き飛ばし、強引に鉄線に押し付けてくる。

やはり少し触れるだけで肉に食い込み切られるほどの鋭さのそれを煩わしく思い、鉄線の隙間を抜けたレンゲはその部屋を脱出した。

 

壁を突き破って次の部屋へ…今度の部屋は、大きな棚が立ち並ぶ広々とした物置きのような場所へ出た。

 

「おや、よりによってこの部屋ですか」

「如何にも色々ありそうな部屋だな…どうせこの部屋にも色々仕掛けてあるんだろ?」

「分かってきましたね、勿論その通りですよ」

 

イズナが部屋の電灯のスイッチをパチパチと何度か動かすと、部屋の中の棚が全て移動して壁際まで寄り、動き回るのに十分な空間が出来上がる。

最早どうやって1人で作ったのだと内心呆れ返るレンゲを他所に、イズナはさらにスイッチを弄ると…部屋の床下の至る所からランダムに刃が突き出しては出入りし始めた。

 

「…もぐら叩きみてーだな」

「叩かれる…というより刺される側はこの部屋にいるイズナ達ですがね」

「なんだ、お前もどこから出てくるか分からないのか」

「良いんですよ、いつ出てくるかも分からない刃に神経を割いて感覚を研ぎ澄ませるのはそれなりの修行になります」

 

規則性もなく、一度に出てくる数に決まりもなく、突然床下から刃が突き出てくる地獄のような部屋で死闘が再開される。

足元に注意を払いながらイズナの苦無による猛攻を捌くレンゲは、上手いこと部屋の仕掛けを利用してイズナに当てられないか画策するも、丁度足元から突き出た刃にその直前に聞こえた駆動音を察知して避けるという異常な反応速度を見て早々にそれを諦めた。

 

「おかしい、だろ!」

「つい最近反応が間に合わずに1杯食わされる事がありましたので。あれからさらに反射神経を鍛えさせて貰いました!」

 

踊るような剣戟、レンゲの剣とイズナの苦無がぶつかり合い火花が散る。

足元から咲き乱れるように突き出る刃を花と見立てれば、傍からは舞踊にも見える美しい戦い。

 

時間が経つ程にレンゲは血を流し消耗する一方、イズナは多少レンゲの剣が掠ることはあれど致命的なダメージは避け続け、着実に形勢が傾き始めていた。

ダメージレースで言えば確実にイズナが押し、レンゲは圧倒的に劣勢に持ち込まれていた。

だが…

 

横一閃、続けて振り上げ、斬り降ろし、反撃を弾いて回転しながら斬り払い、跳んで避けたイズナの落下しながら振り下ろされる苦無を受け流す。

乱れぶつかり合う打ち合いの中で、少しづつレンゲの動きが研ぎ澄まされてきていた。

 

(…動きに無駄が無くなってきてる?イズナの動きに、対応し始めているとでも?いや、それだけじゃない。これは…)

 

「なるほどな…分かってきたぞ」

「…へえ?何が分かったのか、教えてもらうとしましょうか!」

 

(…調子に乗って動き過ぎましたかね…この前の傷が開いて…)

 

見栄を張るように言うイズナだったが、レンゲはそんなイズナの脂汗を見逃していなかった。

レンゲはその話を聞いていた訳では無いが…今回の激しい戦闘は、普段ならばイズナにとって苦になるものでは無い。

だが、以前モモイとの戦いの際にイズナの身体を貫いた『超新星』による傷は完治しておらず、それが今回の戦いに影響しイズナに不調を齎し始めていた。

既に大量の出血をして今にも死んでもおかしくないレンゲがここまで戦えていることに、その耐久力に終わりが見えなくなっていたイズナはこの傷が敗因となりうるほどに響く前にレンゲを排除することに決める。

 

足元から突き出た刃…それを蹴りで折ってレンゲの方へ飛ばし、レンゲが剣でそれを弾いた直後の隙を狙って深く斬り込む。

腹を突き刺すつもりで向けられた苦無を…レンゲはイズナの腕を蹴り上げて苦無を手放させた。

 

「くっ…!」

「どうした、焦ってるのか?お前は受けに回ってれば良いはずだろ?アタシがこんなに血を流してるのになあ?」

「なんのっ!忍者を、甘く見ない方が良いですよ!」

 

手放してしまった苦無を回収することを諦め、代わりに腰に差していた短刀を引き抜く。

斬り合いは激しさを増し、互いに限界が近付いているのを感じながらも億さず怯まず攻め続ける。

 

イズナの苦無に肩を貫かれるも、レンゲはお返しに剣の柄でイズナの側頭部を殴りつける。

レンゲの蹴りを脚に受け骨に響くダメージを負いながらも、追撃に振られた剣を弾いてレンゲをよろめかせ、足元から突き出る刃にレンゲの足を貫かせる。

 

「ハッ!ご自慢の身軽さはどうした!どんどん鈍くなってんぞ!」

「そちらこそ、動きに精彩を欠いてきてますよ!先程は一体何が分かったんでしょうかね!」

 

お互い強がるように口論を交わし、被弾を防ぐよりも相手により多くダメージを与えることを優先とした捨て身の戦いへと移行した。

ただ…そうなると、どちらが有利となるかは火を見るより明らかだった。

 

 

(なん、で…なんで倒れないんですか…!そんなに血を流してるのに、イズナより元々消耗していたはずなのに…!)

 

 

天与宣誓で得られた肉体能力も、神秘による身体強化でその差を埋めれば良いとイズナは考えていた。

如何に素の肉体が頑丈でも、押し切れると思っていた。

それなのに…まるで不沈艦のようにレンゲはイズナと打ち合い続け、今もこうして互角に戦えている。

そして着実に、元々あったダメージの差が埋まり始めていた。

 

モモイとの戦いの傷が癒えていないとはいえ、その事実に段々と焦りを覚えたイズナは鬼気迫るレンゲの気迫からいつか見たあの鬼神の姿を幻視する。

 

(いや!違う!あなたなんかが、ワカモ殿に追いつけるわけが無い!”あっち側”に行くのは…このイズナなんです!)

「認めません!絶対に認めません!」

「お前に認めてもらいたいなんざ思ったことねぇよ!」

 

最早動揺を隠すことすら無くなり、余裕を失くしたイズナのやぶれかぶれとなった攻めにレンゲは勝機を見出した。

交差させるように振るわれた短刀と苦無を屈んで避け…鳩尾に肘を打ち込む。

 

「がっ…!」

 

それによって宙に浮き上がったイズナの首目掛けて剣を振るが…ギリギリで短刀で防がれて仕損じる。

受けた衝撃を利用して後ろに下がったイズナは羽織から2つの球体を転がし…それが爆ぜて部屋を爆煙が覆い尽くした。

それによって床下の装置も壊れたのか刃が突き出てくることはなくなり動きやすくはなったが、煙に紛れて回り込んだイズナの蹴りがモロにレンゲの胴体を捉え、幾つもの壁を突き破って吹っ飛ばす。

 

吹っ飛ばされたレンゲは最終的には屋敷の外まで突き抜け…出た場所は、奇しくも戦闘の始まりと同じ死体の山が積み重なった庭だった。

 

「ハァ…いってぇ…」

「いい加減幕引きとしましょうか。あなたと戦っても楽しくありませんので…ここからは、稽古ではなく抹殺対象として挑ませていただきます」

 

口から溢れる血を拭うレンゲに、追いついてきたイズナがそう告げる。

互いの消耗的に、これ以上長引けば共倒れしかねない。

故にそれを聞いたレンゲも立ち上がり、最後の衝突を覚悟して剣を構える。

 

一陣の風が吹き、先程の爆発で火が回ったのか屋敷から焦げ臭さが漂う不穏な空気。

イズナは腰を落として前傾姿勢となり、レンゲはどっしりと両足を踏ん張って迎撃姿勢を取る。

 

永遠のようで、一瞬の膠着。

屋敷の方から火で建物の何処かが崩れる音が響き───それと共にイズナが踏み込んだ。

 

疾風迅雷、疾く駆ける韋駄天、その速度をレンゲは様々な語彙で評価する。

消えたと錯覚する程の、この戦いが始まって以来最高速のそれに合わせ、レンゲは既に剣を振り下ろしていた。

今のイズナには完璧にカウンターを入れなければ攻撃が当たらないという判断、姿を現すであろう場所に先んじて攻撃を置き…狙い通りに剣の振り下ろす先にイズナが姿を現した。

 

剣は吸い込まれるようにイズナの頭上をかち割ろうとして───その直前に、煙がイズナを覆って振り下ろされた剣が空を斬る。

 

「!」

「あなたは、あなたは!ワカモ殿ではありません!」

 

憧れの者と同じ肉体を持つレンゲを、イズナは頑なにそれをワカモと同じだとは認めない。

ワカモはもっと強いのだと、ワカモはもっと凄いのだと、幻想が神格化したそれと目の前の小娘が同じ筈がないのだと。

 

攻撃を外し明らかな隙を晒したレンゲの胸に、徹底的に否定を突きつけるように短刀を突き刺した。

 

「コフッ…」

「…ようやく短刀(こっち)が入りましたね。終わりですよ。あなたは…ワカモ殿の偽物なんですから」

 

咳き込むのと同時に大量の血を吐いて遂に倒れたレンゲに背を向け、イズナはその場を去ろうとした。

 

 

 

 

 

 

「何処に行く気だよ」

 

「…はっ?」

 

聞こえるはずのないその声に振り向いたイズナは、放り投げられたのか目の前に迫っていた誰かの死体を咄嗟に短刀で両断し───それを目眩しに死体の背後から飛んできていた苦無に右目を貫かれた。

 

「うぎゃっ!?」

「おいおいどうした、死体は大切にするべきだぞ。ちゃんと受け止めないからそうなんだよ」

「なっ…なんで…!この苦無…いつの間に…!それに、なんで生きてるんですか…!短刀(これ)には…毒が…!」

「落し物は返してやらねぇとだろ?ついでに、アタシがガキの頃何処に所属して地獄みたいな扱きを受けてたのか忘れたのかよ───毒耐性ぐらいは持ち合わせてるさ。ちなみに心臓はギリギリ外した。セーターに安全ピン刺されたみたいなもんだ」

 

「っ!このっ、にせも───」

 

魑魅一座は、所属する子供にも過酷な修練を強制する。

その内容には、毒物を摂取することによる耐性の獲得も含まれていたのだ。

すっかり頭から抜け落ちていたそれに自分の間抜けさに怒りが湧き上がり、イズナは激昂して右目を貫く苦無を引き抜くとそれでレンゲへと襲いかかるが…レンゲはイズナの苦無を持つ手を切り飛ばし、言葉の最中に腹を蹴って屋敷の中の方まで吹き飛ばした。

 

「悪い、もう1回言ってくれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァ…ああ…なんで…ハァ…こんな、終わり方…」

 

全て木造が故に屋敷の中は激しく燃え広がり、吹き飛ばされたイズナはそんな周りが炎に包まれた部屋の一室に倒れていた。

片腕を失い、右目を失い、出血に加え最後の蹴りがトドメとなって肋はバキバキに折れ砕け、最早立つこともままならない。

息苦しさと炎の熱によって苦痛に苛まれ、イズナは畳に爪を食い込ませた。

 

「ふざけ…な…イズナ、も…あっち側に…」

 

敗北を認められず、ワカモの紛い物に追い詰められたことに激しい激情が湧き上がり、イズナは藻掻くように天に向かって腕を伸ばす。

しかし無情にも炎は建物の柱を焼け落とし…天井が崩れ、イズナを下敷きにして燃え盛る屋敷は完全に崩壊した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋敷の崩壊を見届けたあと、レンゲはアラタ達が使っていた隠し通路の出口から再び屋敷の地下通路に入り、改めてキキョウの死体を回収して屋敷から離れた場所で待機しているアヤネ達監督オペレーターの元へ向かっていると…キキョウが今回の任務完了に参加したことを聞いて急行してきたフウカと鉢合わせた。

 

「…キキョウ…?レンゲ…キキョウは…」

「…」

「…!」

 

レンゲの表情を見てフウカはキキョウの死を察し、ぽろぽろと大粒の涙を流した。

酷く顔を歪め泣き喚くフウカにレンゲは寄り添って背を撫で、しばらくそうしてようやく泣き止んだ…未だ目端に雫を浮かべてはいるが…フウカにキキョウの死体を預ける。

 

「キキョウは…これからどうするの…?」

「…」

 

その質問にも答えず、レンゲは瞳に影を落として歩みを進めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────報告書

 

連邦生徒会より依頼された魑魅一座制圧作戦にて、魑魅一座の構成員324名、内1級に区分されていた首領のニャン天丸と幹部のアラタ、そして同じく幹部として特級に区分されていた久田イズナの死亡を確認。

魑魅一座が拠点としていた屋敷は全焼、しかし直前に逃走を図っていた者達が持ち出そうとしていた物資の中から1部資料を回収。

後に検分されたし。

 

突入班はS.C.H.A.L.Eから派遣された特異現象捜査部の部員30名の内29名、百鬼夜行支部から派遣された22名全員、協力に当たったヴァルキューレ警察学校の生徒60名が死亡。

今回の損失は今現在キヴォトス全土を襲う特異現象の鎮圧を行うにおいて致命的なものであり、今後の派遣に深刻な影響を来すことが予見される。

 

尚、今回の作戦に参加し唯一生還した不破レンゲは現在S.C.H.A.L.Eにて氷室セナの元療養中、同時にメンタルカウンセリングを実施中。

 

現場から回収した資料以外の遺物などの証拠品については一度百鬼夜行支部に回収された後、調査後に連邦生徒会へ引き渡されるものとする。

 

今回の作戦において一般人への被害、目撃者共になく、事態の隠蔽は連邦生徒会に一任する。

 

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