アリス達が死滅回遊攻略に動き、レンゲがその裏で暴れ回る魑魅一座の制圧を成し遂げていた頃…
連邦生徒会によって拘束された特異現象捜査部 本部部長である明星ヒマリは、隔離された部屋の中百鬼夜行支部部長 調月リオに尋問を受けていた。
「ヒマリ、貴女の秘儀である『傀儡操術』は他に存在するものとは一線を画しているわ。メカペロロのように天与宣誓によってその範囲規模が拡大された例はあれど…そっちのペロロのような特殊な例は貴女だけ。貴女は…一体どうやってあれを作ったの?」
「…それを聞いて、連邦生徒会は一体何をしたいんでしょうね?まさか皆さんもあの着ぐるみを着てみたいのでしょうか」
質問に飄々と返すヒマリにリオは目を細め、手元の端末を操作すると部屋の中のモニターにレンゲやミノリと行動していたペロロの写真が映し出された。
「あら、これは彼女達が1年の頃の。懐かしいですね」
「話を逸らさないでちょうだい。ペロロ…もとい、人工生命人形。あれは間違いなく人工の存在で…その神秘の出処は貴女ではなくあれ自身で補完されている。連邦生徒会は今貴女を特級に認定して、無期限拘束を正式に下そうとしているわ」
「…その心は?」
「貴女があれを意図的に作ったのであれば、容易に軍隊を生み出すことが出来るからよ。普通『傀儡操術』で作る傀儡は術者が事前に込めた神秘を消費して動いて、それが尽きれば機能を停止する。でもあれは自身で神秘を作り出して完全に自律した行動が行えるもの。それを複製されたらたまったものじゃないわ」
わざわざスライドを作ってきたのか、モニターを使って丁寧に図解するリオにヒマリは話を聞きながら苦笑する。
その生真面目な性格をもっと別のことに活かせばいいのに、と。
それと同時に、連邦生徒会に呆れ返っていた。
それを知ったとして連邦生徒会はどう利用するつもりなのか…その裏に見えるのは明らかな下心で、教えればろくな事に使われないだろう。
リオの話が終わると、ヒマリは神秘で補強されたガラスの向こうにいるリオと向き合い答える。
「0から神秘を生み出せる存在、それの製法…答えなさい、ヒマリ」
「知りませんよ、そんなもの。あれはたまたま出来た偶然の産物…どうやって生まれたのかなど、てんで検討もつきません」
暫くして、一旦監禁が解除されサンクトゥムタワー内のみに限り行動を許されたヒマリは車椅子を操作して、一面ガラス張りからD.U.の夜の街並みが見渡し、S.C.H.A.L.Eのある方角を眺める。
この辺りは未だミレニアム事変の余波を受けていないが、それでも元ミレニアム自治区方面では溢れ出した特異体による被害が活発化していると連日ニュースで取り上げられているのを見ていた。
連邦生徒会は特異体やミレニアムで起こった出来事を発表すると矢面に立って直接発表を行った防衛室長に批難が集中し、防衛室長は辞任に追い込まれることになる。
同時に有力な行政官も連邦生徒会を辞任し、それぞれ後釜を巡って内輪揉めが起きているという噂すらある現状、連邦生徒会が平時通りの機能が出来ているとは言い難い。
「なんて愚かなんでしょうね。そんなくだらないことをしている暇があれば事態の収束に動くなり住民達の避難や保護に尽力すれば良いものを、結局そうやって真面目に動いている人だけが割を食うことになる…実にナンセンスです」
幾つか連れてくることを許可されたヒマリの傀儡…お世話ロボットであるAMASから受け取ったコーヒーを啜ったヒマリは、何を考えたのか車椅子を動かしてエレベーターを目指した。
同時刻、重要参考人として連邦生徒会に拘束されていたペロロの元をS.C.H.A.L.Eの監督官の1人である合歓垣フブキが訪ねていた。
「やあ、ペロロ。ドーナツの差し入れいる?」
「頂こう…と言いたいところだが、身動きが取れなくてな。気遣い感謝する」
「そっか…ちょっと巻き込んじゃうかもだから固めててね」
「?」
檻の向こうで縄で簀巻きにされたペロロにそう注意を促したフブキは檻の扉に何かを仕掛け…バチン!と炸裂音と共に檻の鍵が吹き飛んで扉が開いた。
なんのつもりなのかと呆然とするペロロに近付いたフブキはペロロを縛っていた縄をカッターで切り、解放した。
「何故…」
「いや何、ヒマリ部長には色々恩があるからね。前に前線に出たくないって駄々こねた私に、指導とか引率でサポートに回ることの多い監督官を推薦してくれたり、サボりがちな私を見果てず逆にAMASをくれて快適な暮らしをさせてくれたり…今にして思うとちょっとヒマリ部長私に甘すぎるんじゃ?って思ったけど」
「…前に聞いたことがある。フブキ先輩は1年の頃任務で大怪我を負って大泣きして以来そんな感じになったとな。ヒマリ部長なりの優しさなのだろう」
「ん〜、黒歴史。だとしても過保護が過ぎると思うけど…でもヒマリ部長が甘いのはペロロも一緒か」
「?」
フブキは照れ臭そうに頭を掻くと、それを紛らわすかのように先程のブリーチングで人が来ていないかを確認し、ペロロをサンクトゥムタワーの外へと案内するのだった。
サンクトゥムタワーの敷地の外に車椅子で出ようとしていたヒマリに、近くにあった街灯の上から黒装束の生徒が声をかけた。
「どこに行くつもりですか?ヒマリ部長。お供も連れずに」
「…少し謝罪しに、ですよ」
「?…まあいいです。完全自律型人工生命人形の製法を明かせば死罪は免れますよ」
「小鳥遊ホシノがいなくなった途端随分強気なものですね、
「こちらには歴戦の猛者もついておりますので」
「…貴女でしたか、リオ」
「…」
覆面の奥から嘲笑混じりにそう言った刺客の言葉に付き従うように、暗闇の置くから1人の女性と巨大なロボットが姿を現す。
クソダサいデザインの大型戦闘ロボット、『アバンギャルド君』と、それを操作するリオだった。
リオは手元のリモコンを弄りアバンギャルド君に搭載された機関砲をヒマリへと向けると、それを起動する前に声を震わせて言った。
「…本当に、これで終わりなのよ?まだ、間に合うわよ…」
「まさか私がそこまで口の軽い女だと思っているわけではないでしょうに。むしろ貴女が1番理解しているはずですよ…私と貴女の仲なのですから」
「…アバンギャルド君、発進」
リオがリモコンのスイッチを押しアバンギャルド君がけたたましい駆動音を上げたのと同時に、ヒマリも秘儀を用い地中に待機させていた無数のAMASを呼び出してこれを迎え撃った。
少なくない怪我を追い、息を荒くするリオ。
しかし元より戦闘に向いておらず普段お世話ロボットとしての運用を主とするAMASの軍団に対して、戦略兵器としての側面を持つ広域殲滅戦闘ロボットアバンギャルド君。
その戦いの結果など見るまでもなく…
「ぐふっ…けほっ…」
「…もう下がっていいわ。後は私が始末するから」
「かしこまりました」
リオは待機していた刺客を下がらせると、ヒマリの姿を見上げる。
アバンギャルド君に搭載されたパイルバンカーがヒマリの腹部を貫通し、ビルの壁に縫い付けている。
AMASはひとつ残らず破壊し尽くされ、無惨にもその残骸が辺りに飛び散っていた。
貫かれた腹部からとめどない血が溢れ、身体の弱いヒマリではもう決して助からない致命傷。
しかし、息絶える前にヒマリは途絶え途絶えに口を開いた。
「肉体の情報から、ヘイローの情報を復元したんですよ…その情報を、本体と定める肉体に統合する…でも、それだけでは足りません…」
「…貴女、何を…!」
「相性のいい…親族や、心を許した友人同士の3つのヘイローを宿した肉体に、互いのヘイローを常に観測させ合って安定を図り…足りない部分は、着ぐるみに施した補助で支えさせるんです…」
口から血を吐き、身体の末端を震わせながらも語るヒマリにリオの内では言いようのない虚無感が湧き上がる。
その話の内容は、紛れもなくあの完全自律型人工生命人形の製法だったのだ。
「あの子達は…元々、私が中等部の頃に任務で赴いたアリウス自治区で見つけたんです…その時は、3人とも死にかけで…延命の為に、私の知識と秘儀を総動員して…2人の肉体は助からなかったので、残った1人の肉体に3人分のヘイローを重ね合わせて…前述のように…ペロロは…サオリと、ヒヨリと、ミサキは…私にとって、自分の子供のような存在でした…あれは、そんな気軽に生み出せるものではありませんよ…この私の…全知の知識があってこそのものです…」
「なんで…なんで、今更話したの…?もっと早く言ってれば…例えそれが貴女にしか出来ないものだったとしても、こんなになる前に言っていれば…殺す必要は無かったのに…生きられたのに…なんで!」
「嫌がらせ、ですよ…いつもみたいに…私から貴女への、嫌がらせです…」
「っ!」
(貴女がこれを知ってどうするのか…連邦生徒会に伝われば、なんとか再現しようと多くの犠牲を出すやもしれません…それを、貴女が想像出来ない筈がない…証明してみせてください、リオ…人は、変われるのだと…)
最期にそう言い残して、内心で心からのエールを送ったヒマリは瞼を重く閉じてしまった。
長きに渡って特異現象捜査部を支え続けた傑物の終わりは、それを知る者達からすれば酷く呆気ないものだった。
リオの言葉に俯き手を震わせるリオはその手でリモコンを操作し、ヒマリを貫くパイルバンカーを引き抜かせて地面に下ろす。
一体これからどうすれば良いのか…途方に暮れたように立ち尽くしていたリオだったが、そこにペタペタと大袈裟な足音を立てて迫ってくる人物に気付きアバンギャルド君を動かした。
そこにやってきたのは、ペロロだった。
ペロロは倒れるヒマリを見るなりリオとアバンギャルド君を無視して駆け寄り…その亡骸を抱き上げて運び出そうとする。
「…待ちなさい。何故戦わないの?私が…憎くないのかしら?」
「…あなたが連邦生徒会の指示でやった事だとは分かっている。それがあなたにとって本意ではないこともな。だが…これだけは覚えておけ」
リオに背を向け、ヒマリを抱いたままサンクトゥムタワーの敷地の外へ歩み出したペロロは、嗚咽混じりにリオへと訴えかけた。
「ペロロだって、涙は流すんだ」
着ぐるみの中から、他に誰も聞いたことがないようなペロロの啜り泣く声が夜の街に木霊した。
死滅回遊攻略に向けての戦力を集める為に特異現象捜査部3年、秤アツコを探すアリスとヒナは、クズノハの助言を得てゲヘナ自治区へとやって来ていた。
以前ゲーム開発部と…モモイの仲間を殺した場所として嫌な思い出があるアリスは終始複雑な表情で探索を行い、代わりにヒナが土地勘を活かして先導し、目的の場所を探す。
「確か秤先輩がいるのは…ファイトクラブ、というところでしたっけ?どんな場所なのでしょう」
「ゲームで言うところの闘技場ってヤツよ」
「なるほど!完全に理解しました!悪徳役人が木箱にクレジットを納めて代官に渡しながらライオンと戦う奴隷を眺めているあれですね!エリア外の水に落ちたらサメに食べられるんです!」
「多分なんか色々ごっちゃになってるわよそれ…この前の任務で探索中にチラッと噂を聞いたわ。確か生徒同士を戦わせて観客はどっちが勝つかに賭けるの。まさか胴元が秤先輩だったとはね。停学になる筈だわ」
その後ヒナの記憶とクズノハに伝えられた目印を元に2人は探索を続け…辿り着いたのは立体駐車場跡地。
敷地の入口と思われる場所には門番らしきヘルメットを被った生徒が2人佇んでいた。
接触する前にアリスとヒナはS.C.H.A.L.Eの関係者とバレて避けられることの無いよう制服から適当な格好に着替え、そこへ近付いていく。
門番はアリス達に気が付くと、銃を構えて立ちはだかった。
「止まれお前ら!ナニモンだ!」
「それ以上近付いたらこのトンプソンが火を噴くぞ!」
「この感じ…典型的なザコキャラですね!」
「誰が雑魚だゴラァ!」
「やめなさいアリス…」
「お前もだ!このクラブのルールその1、『この場所の事を口外してはいけない』…誰から聞いた、答えろ。お前らをぶちのめすのはその後だ」
片方の門番がアリスに舐め腐れられキレているのを仲裁しようとしたヒナの頭に、もう片方の門番が銃を突き付けた。
それに臆することもなく横目にじとっと目線をやったヒナの肝の強さを感じ取ったのか門番は一瞬ビクッと身体を跳ねさせたが、仕事意識が勝りヒナ達の素性を暴こうとする。
対してヒナは内心、強引に突破するのは簡単だと思いながらも、下手に騒ぎ立てて秤アツコと接触できなくなることを嫌い、仕方なく言葉を選ぶことにした。
「さあ、前にボコボコにした奴が口を滑らせてたわ。名前は覚えてないけど、威勢だけは良いクズだったわよ。不快だったから病院送りにしてまだ入院してると思うけど…あなたの知り合いにいたかしら?」
(確かにひと月前からめっきり来なくなった奴が…まさかこいつが…?)
ヒナが適当に並べ立てた嘘に門番は勝手に脳内で辻褄を合わせると、何処かへと電話をかけた。
それを視線を動かさないようにして確認したヒナはダメ押しとばかりに話を続ける。
ちなみにアリスはヒナのやり取りを見て頭脳戦は向いていないと口を真一文字に閉じている。
「お金が必要だから、いなくなった奴の穴は埋めてあげるって言ってるのよ。なんなら、貴女達を胴元の前に転がしてやっても良いのよ?」
「テメェ…」
「そこまでだ。
「アリスがですか?」
(良し、好都合。試合はアリスの方が適任ね。なら後は不自然にならないように…)
「駄目よ、私が出るわ」
「テメェは食えねぇってよ。嫌ならこの話はナシだ」
「…分かったわ。それで構わないわよ」
交渉が終わり門番達に通される直前…ヒナは視界の端に監視カメラを捉える。
敷地の中に踏み込んだアリスとヒナは、離れた場所に見える廃ビルを眺めながら相談を始めた。
「それにしても、ヒナがあんなにハッタリが上手いとは意外でした!」
「アウトローじゃない一般の荒くれ者相手にした荒事には慣れてるのよ。暴力だけじゃなく言葉でも責められるのが一流よ」
「何の一流なのかはさておき…ヒナ」
「ええ、いるわね。防犯カメラで私達を見てたってことは秤先輩は十中八九あそこでしょう。アリスはこのまま試合に参加して内側から探りを入れてちょうだい。私はその間にあの廃ビルに潜入してみるわ」
「潜入クエストですね!分かりました!」
楽しそうに了承の意を示すアリスにヒナはそれが上辺の強がりでは無いのかとアリスの心情を心配するも、余計なお世話かと心の内に留め、端末で時間を確認する。
今は11月10日の17時、死滅回遊のルール的に参加を宣誓していない者が秘儀を剥奪され死亡するのは9日後となる。
大切な後輩であるアコを救いたいヒナは今日動くのが得策ではないと理解しながらも、時間惜しさにスムーズな解決を決意した。
「…私はきっと泳がされてるわ。私の潜入がバレた時点でアリスへの信用も0からマイナスになって、私達が秤先輩と接触出来る機会は無くなるでしょうね」
「となれば、力づくでしょうか?」
「本当の本当に最終手段ね。あくまで協力を頼むんだから今後の関係に影響が出るようなやり方は自重しないと…じゃあ後は頼んだわよ」
「はい、ヒナも気を付けてください!」
目的の立体駐車場がある廃ビルの前まで到着すると、そこでアリスとヒナは別れて別行動を開始した。
そして日が暮れてそこに出入りする客が集まってきた頃、アリスは先程の門番の1人からここで行われる賭け試合のルール説明を受けていた。
「ルールは主に2つ、『逃げない』ことと、『秘儀を使わない』ことだ」
「…?何故でしょう?アリスは別に使われても構いませんが…」
「客はほとんど一般の連中だからな。見えない試合をされて盛り上がるかってんだ」
「では逃げるなとは?」
「客の見える範囲で戦えってこと」
「お客さん第1なのですね!」
「ビジネスだからな」
一通り説明を受けたアリスは試合会場に案内されている途中、気になっていたのもあって調査ついでに秤先輩のことについて聞くことにした。
勿論、怪しまれない為にヒナに倣ってアリスは秤先輩の事を知らない体で聞き込む。
「ここの
「気になるか?まあ会えば分かるさ」
「会えるんですか?」
「ここの試合には2種類ある。今日お前がやるトーナメントのような”
「なるほど、つまり派手に暴れて好感度を稼げばいいということですね!」
「お、おう…」
そんなこんなでアリスが案内されたのは、天井がぶち抜かれ上階から見下ろせるようになっている駐車場。
上階からはいかにもなガラの悪い客達が見下ろしていて、見世物にされる感覚はアリスとしてもあまりいいものではなかった。
が、それはそれとして今は目的の為に賭け試合を勝ち進むことに集中しようとしたが…向かい側から現れた対戦相手を見てアリスはポカンと口を開けた。
「ははっ、驚いたか?私も初めて見た時ぶったまげたよ」
「そうですね…まさに客寄せというわけです」
会場中に響くゴングが鳴らされる。
それを合図に上階の客達は口々に野次を飛ばしアリス達を捲し立てた。
そんな盛り上がりに合わせてスピーカーのモスキート音が騒がしく響くと、放送席からの実況が始まる。
『さあ今夜も始まりましたガチンコトーナメント!実況はお馴染みシノッチ☆がお送りします!早速ご機嫌な対戦カードを発表しますよ!突如現れた刺客!三角の次も刺客!デンジャラスちびっ子ガール!”天童アリス”選手!そして───立てばペロロ、座ればペロロ!歩く姿はマジペロロ!”ペ・ロ・ロ”選手だぁ〜!』
会場の様子を監視カメラからモニター越しに見ていた白いフードを被る少女は、その対戦カードが発表されるとやる気を無くしたようにソファの背もたれに体重を預けて天を仰いだ。
少し離れた場所でホットミルクを入れていた厚着の少女は白いフードの少女のその様子を見て首を傾げる。
「どうしたの?」
「冷めた…結果の分かりきってる試合なんてつまらないだけ。はぁ…Vanitas Vanitatum…こんな試合虚しいだけ…野良でさっちゃんに勝てる骨太なんてまずいないから…」
「…そうでも無いみたいだよ?」
「うん…?」
厚着の少女に言われて白いフードの少女が改めてモニターに目を向けると…そこには、会場の立体構造を利用して空中でのアクロバティックな肉弾戦を繰り広げるペロロとアリスの姿があった。
『おおっと!これは確実に私の実況人生のベストバウトだぁ〜!まだ実況初めて半月ですが!』
見る者に迫力を与える激闘、実況と観客のボルテージも上がっていく最中アリスは戦闘中に周りに気付かれないようペロロと小声で相談を行っていた。
「ペロロ先輩は秤先輩に会えましたか?」
「いや、知った仲だから警戒はされてないが避けられている。後はもう1人の3年の秘儀が厄介でな」
「…どうかしましたか?ペロロ先輩」
「ん…?…いや、なんでもない。せめてただ自分に出来ることを精一杯やろうと決意しただけだ。心配するな。ともかく、この後は分かるな?」
「はい!」
以前と少し雰囲気の変わったペロロに疑問を持つアリスだったが、心配はいらないと言う言葉を信じて話を合わせ、殴り合いの激しさを増して会場の盛り上がりが頂点に達したその瞬間、アリスが強烈なボディブローを入れてペロロを吹っ飛ばす。
地面を転がったペロロは大袈裟にお腹を抑えると、わざとらしく叫び出した。
『おおーっと!これは、勝者は天童アリスだぁ〜!』
「ぐわぁぁ!?なんて力強いパンチだ!動けん…ペロロファンが黙っていないぞ!」
(うわーん!ペロロ先輩の演技が下手くそ過ぎます!)
生来の天然が発動し絶望的な演技力を見せるペロロに内心で迫真のツッコミをするアリスだったが、あれだけ盛り上げた分客達や実況の人もその不自然さに疑問を持っていないのかスタンディングオベーションでアリスとペロロの健闘を讃えていた。
そんな中その試合を観戦していたこのファイトクラブの従業員の元に1本の電話がかかる。
「はい、もしもし」
『トーナメントが終わったら天童アリスを屋上に上げて。どうせ勝ち残るだろうし』
「はあ…ではもう1人のガキはどうしましょう?」
『そっちは警戒を続けて。応援は寄越すから』
「…」
そんな通話を秘儀で影に潜って盗み聞きしていたヒナは、その従業員の後を追うのだった。
「あの子、上の階のお客さんを魅せる為に意識して立体的に動いてた。きっといい脚本が描けるよ。熱は熱いうちにってね」
───特異現象捜査部 3年、秤アツコ(現在停学中)
「熱じゃなくて鉄ね。アツコちゃんがそういう言い間違いしてたら笑えないんだけど…」
───特異現象捜査部 3年、天見ノドカ(同じく現在停学中)
蓄音機から賛美歌を大音量で響かせながら、アツコはモニターを見渡してクスリと笑った。
「良いね…こんなにザワつくのは、間宵ちゃんがお酒の密造で矯正局にしょっぴかれた時以来だよ」
「シグレちゃんの話やめて虚しくなるから」
配役
綺羅々…ノドカ