ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作153〜157までの範囲でお送りします




 

死滅回遊攻略に向けて戦力を集める為に特異現象捜査部3年、秤アツコを勧誘に来たヒナとアリス。

アリスがアツコ主催のファイトクラブの賭け試合に挑み内側から接触を試みようとしている間、別行動を取っていたヒナは同じくアツコに接触しようとここに来ていたペロロと合流していた。

 

「ふ〜ん?それで、どうして秤先輩と顔見知りなのに会えないのよ?」

「場所自体はこの廃ビルの屋上にあるモニター室だという所までは突き止めているのだがな。部屋に踏み入ろうとすると何故か扉に近付けなかったんだ。恐らく天見先輩の秘儀だろうが…彼女とは交流が無いから詳しくは知らん」

「天見先輩…ちょっと私も面識無いわね…まあそれで深追いするよりかはあそこで情報集めしてたと」

「客寄せペロロだ、よろしく頼む」

「客寄せペロロ」

 

どことなく間抜けな響きの言葉に思わずヒナも復唱する。

いつもはあんなに落ち着いていてクールな先輩なのにどうしてこうもあれなのだろうとジト目を向けるヒナの視線にも気付かず、ペロロはアリスを心配していた。

 

「アリスが上手く説得出来れば良いが、難しいだろうしな。アリスの交渉術はともかくアツコがあまり人を信用しない性格だからな。まあアリスの人たらしな性格ならそれなりにアツコとも相性は良いと思うが…アリスは嘘をつくのが下手だろう?」

「下手というより、嘘をつくっていう発想が出にくいタイプよ、あれは。一応事前にある程度指示は出してるわ」

「ともかく、アツコの説得を確実なものにする為にアリスが部屋に入ったのを見計らって私達でも動いた方が良いだろう。あの廃ビルを制圧して、モニター室の前のドアを固めてアリスがアツコを説得するまでの時間を稼ぐんだ」

 

どうも食わせものらしい秤アツコ。

余程の悪党でさえなければ誰とでも打ち解けられるようなアリスですら説得が難しいと言わしめるアツコの攻略の為に色々と提案するペロロだったが、ヒナは眉間に皺を寄せて難色を示した。

そも、潜伏場所がモニター室ならば廃ビル内の監視カメラは全て見られるようになっているのだろう。

何か異常が発生すれば直ぐに気付かれる筈だ。

 

が、ペロロはフッと笑うと羽を動かして自分の胸に当てた。

 

「その辺りは私を信頼しろ。既に監視カメラの位置や見張りの配置、人数の情報は集めている。懸念事項は天見先輩の秘儀だが…それは今はもうどうしようもない。彼女の秘儀の効力がこちらの想定を遥かに超えてくるようならば諦めるとしよう」

「そう、ね…あ、アリスから連絡来たわよ。トーナメント勝ったって…1時ちょうどぐらいに会いに行くそうよ。ついでにボコボコにした対戦相手を横に並べてツーショット撮ってるわ」

「…少し不安になってきた」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

賭け試合トーナメントに快勝したアリスはヒナに連絡を送った後、ノドカの案内で廃ビルの屋上…秤アツコがいるというモニター室に連れられた。

案内をするノドカは上機嫌な様子で、案内中もアリスに親しく接してくれている。

 

「アリスちゃん凄いね!アツコちゃんをあんなに楽しそうにさせちゃうなんて!」

「そうでしょうか?」

「うん、それにアツコちゃんが楽しそうにしてると私も楽しいんです!数少ないお友達だから!」

「そうなんですか!それは良かったですね!」

 

何となくノドカが楽しそうなのを見てアリスも元気に笑い、それに好印象を抱いてくれたのか無事そのまま部屋の中へとアリスは通される。

 

 

 

 

その頃、アリスとノドカが部屋の中に入ったのを確認したヒナは影の中から顔を出し、背後から見張りに組み付いて声を上げさせることもなく絞め落とす。

さらに他の階にも移動して次々と見張りを片付けている間…また別の場所ではペロロがパタパタと羽と足を動かしてステップを踏んでいた。

 

そこに通りがかった2人の見張りは、ペロロファンだったのか好奇心旺盛にその様子を眺めている。

 

「わあ…可愛い」

「つーかさっきトーナメントに出てた奴じゃね?…餌付けとか出来るものかな…」

「いや着ぐるみになにしようとしてんのさ。ゴホン…ちょっと君、迷子になったの?この辺入り組んでるから仕方ないけど、そういう時は呼んでくれたら案内ぐらいするのに───がふっ!?」

「な、何を…ぐぇ!?」

 

その愛らしい(?)振る舞いに警戒心を絆された2人の見張りはペロロを連れ出そうと近付くが…その瞬間に見た目からは想像出来ない機敏な動きを見せたペロロは片方を手刀で意識を刈り取り、もう片方も応援を呼ばれる前に鳩尾を蹴り上げてノックダウンさせる。

彼女達が持っていた銃を着ぐるみの中に回収したペロロはそのまま上階へと上がりヒナと合流する。

 

「っていうか今更だけど、ここ制圧したら秤先輩と揉めるんじゃないの?」

「大丈夫だ、問題ない。アツコがアリスを気に入って協力してくれるのであればこれぐらいは許してくれるだろう。逆にアリスの説得が失敗するようならどうせもう協力を求められる機会は訪れない。だから暴れても支障はでないさ」

「そういう問題かしら…」

 

割とゴリ押し気味な作戦に不安を覚えるヒナだったが、今はこれが最善手と信じて屋上のモニター室前を固めようと廃ビルを駆け上がった2人。

予定通りそこに陣取ろうとするが…予期せぬ事態が2人を襲う。

 

「っ!ペロロちゃん!?」

「天見先輩…!」

「あれが…いや、秤先輩と一緒じゃなかったの?」

 

アリスと共にモニター室に入っていたと思われたノドカが、下の階から姿を現したのだ。

ヒナ達が下の階の制圧を進めている間に入れ違いになったようで、ペロロと一緒にいるところを見てノドカはヒナがS.C.H.A.L.Eの関係者だと見破った。

それと同時にヒナと一緒に来たアリスも同様だろうと考え…アツコの身を案じて端末を取り出し連絡を取ろうとする。

 

「チッ…玉犬『渾』!」

 

それを見たヒナは掌印を結び玉犬の『渾』を呼び出すと、それにノドカを襲いかからせる。

勢いよくノドカに飛びかかった『渾』は牙を剥いてノドカの端末を狙い…見えない力で弾き返されたかのようにヒナの方へと吹っ飛ばされる。

 

「うそっ…!?」

「ヒナ!?」

 

「やばっ、端末が…!」

 

しかし眼前に迫った『渾』につい手を前に出して防御しようとしたノドカはその拍子に端末を放り投げてしまい、結果としてはアツコに連絡されるのを妨害することは出来ていた。

とはいえその不可解な挙動にヒナはノドカの秘儀を攻略しなければ制圧は困難だと判断し、思考を回転させる。

 

先程の『渾』の動きと、ペロロがモニター室の扉に近づけなかったという話から『渾』は吹き飛ばされたのではなくノドカに近づけなかったのではないか…そこまで推察を進めていると、不意にヒナと『渾』、そしてペロロとノドカの頭上に何かが光ったのを見た。

 

「これは…?」

「なんだ?今のは…」

 

(ペロロちゃんにはもうマーキングしてるから…)

 

その正体に思い至る事も出来ず、ヒナは続く不可解な出来事を察知する。

先程吹っ飛ばされた『渾』を受け止めてからあの光が発生して以来、ヒナは『渾』から離れることが出来ず常に密着した状態を強いられていたのだ。

 

(天見先輩に近付けないだけじゃない…どういう秘儀?)

 

 

 

 

 

 

ヒナ達がノドカの難解な秘儀に苦しめられていた時…アリスは案内されたモニター室で、目的の人物。

秤アツコその人と対面していた。

 

「ねえ、アリスちゃん…子供ってどうやったら出来ると思う?」

「…?…???」

「冗談だよ。じゃあ『1日1時間あることをするだけで100万クレジット貰える』、そう言われて信じる?」

「…その”あること”次第では?」

「うん、そうだね。でもその”あること”を知るには20万クレジットの情報商材を買わなきゃいけないの」

「ええ…それはちょっと信じるのは…」

 

当然その話に不信感を露わにするアリス。

それを見たアツコは気さくに笑うと、傍に置いてあったダーツバレルを手に取ると、それを壁にかけて合った的に投げつけて的の中心にピタリと当ててみせた。

 

「今のは典型的な詐欺で、大人がよくやるような悪どいやり口。だけど…ここで一発当てて人生を変えたいっていう『熱』のせいで騙される人は沢山いる。そして私は、そんな『熱』を愛してるんだ。『熱』がないと、奈落の底のような暗澹から抜け出すあの快感を得ることすら出来ないからね」

「『熱』…ですか…」

「よく分からないかな?じゃあ、ニュアンスだけ読み取って…1番単純で直接的な『熱』のやりとりはなんだと思う?」

「はい?えーっと…あ、賭け(ギャンブル)ですね!」

「正解」

 

望んだ答えを返したアリスにアツコは満足そうに感心すると、続けて持論を語る。

生きることはギャンブルであり、ギャンブルするつもりのない者は賭け事態ではなく敗北と破滅を憎んでいるのだと。

やけに見てきたような言い草のそれに少し疑問を持つアリスだったが、印象を悪くしないようにそれを表情に出すことはなく適当に相槌を打つ。

 

「私は『熱』が好きなんだ。そして人生は虚しいものだけど、ギャンブルはそんな虚無に刺激を与えてくれる。私はゆくゆくこの『熱』を皆に知って欲しいと思ってる。特異現象の存在が公表されて混乱の最中連邦生徒会もS.C.H.A.L.Eもロクに機能してない今がチャンスなんだ。障害を取り払って、混乱の先に来るキヴォトスの法改正の時にこの賭け試合(ファイトクラブ)の存在を公に認めさせるの」

「す、凄い野望ですね…」

 

雰囲気から感じ取れる印象とは正反対の熱い弁論を語るアツコに若干引き気味のアリスだったが、話に一区切りついたのかアツコが入れてくれたお茶を受け取って一息つく。

 

「それで、アリスちゃんも一緒に来ない?その為に優秀な仲間が欲しいと思ってたんだ」

「そう、ですね…」

(ヒナからはS.C.H.A.L.E関係の話は最後にするようにって言われてますし…適当にクッションを挟んでボチボチ本題を切り出すとしましょうか)

 

「うん…?」

 

と、そこにアツコの端末の着信音が鳴り響いた。

アツコは端末を一瞥し…手に取ることなく自分の分のお茶を入れて優しい微笑みでアリスに話しかける。

 

「ねえ、アリスちゃんは好きな物とかある?」

「アリスですか?アリスはゲームが好きですが…そういう意味ではゲーム的な賭けは結構好きかもしれません」

「そっか。ねえ、知ってる?小鳥遊ホシノは一時期オンラインの対戦ゲームにハマってたんだけど、熱中し過ぎて任務もサボったからヒマリ部長に没収されて以来拗ねてゲームやらなくなったんだよ」

「へえ〜、ホシノ先輩がですか。意外ですね」

 

適当にタイミングを見て本題に入ろうとしていたアリスはアツコからの話に自然に返し…それを聞いたアツコはスッとテーブルの上に置いてあった顔全体を覆う無機質なマスクを被った。

それを見て何事かとアリスは首を傾げるが───その返事とばかりにアツコはテーブルの下から銃を取り出すとアリス目掛けて乱射する。

 

「なっ…!?」

「小鳥遊ホシノを”先輩”って呼ぶのは特異現象捜査部の若い子だけ。どうして嘘ついたの?」

「あ、えーと…その、ですね…」

「言い訳はもう遅いよ。ノドカちゃんからのTEL番の着信は異常事態の合図って決めてたんだから」

「!」

 

やらかしたと反省する暇もなく、アツコが手をスッスッ、と動かしたのに合わせて突如としてアリスを挟み込むように巨大なハサミが現れ、アリスを真っ二つにしようとそれが勢いよく閉じた。

ハサミを真上に跳んで避けたアリスだったが、続いてアツコが手を動かすと今度は上下にハサミが現れてアリスを挟み込み、咄嗟に刃を掴んで止めるもののその場から動けなくなってしまう。

 

「あなた、S.C.H.A.L.Eの回し者?」

「き、聞いてくだ…うぐっ!?」

 

アリスの話を遮ってアツコは椅子を手に持つと扉に挟まれ身動きが取れないアリスの頭に振り下ろし、椅子の方が砕け散った後回し蹴りで横っ面を強打する。

さらに腹に直接銃口を押し当てて乱射するが、持ち前の頑丈さでなんとかそれらを耐えるアリスは力づくでハサミを破壊して抜け出すと、アツコの肩を掴んで頭突きを食らわせた。

 

「っ…!」

「ですから、話を聞いてください!」

「…いやだね、冷めちゃったから」

 

(あくまでアリス達はお願いしに来ている立場…あまり何度も強引な手段は取れませんが…どうすれば、秤先輩を説得できるのでしょうか…)

 

アリスの頭突きにもまったく怯まず戦闘を継続しようとするアツコに確かにこの人は頼もしいパーティメンバーになってくれそうだと思いながらも、仲間にするためのフラグ管理も難しそうだとアリスは頭を悩ませるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、廃ビルの屋上、アリスとアツコがいる部屋の前。

ノドカの秘儀を見破れず膠着状態に陥っていたヒナとペロロだったが、戦闘が停滞している今が交渉のチャンスとヒナはノドカに必死に訴えかけた。

 

「私達は厳密にはS.C.H.A.L.Eの関係者じゃないわ!ミレニアム自治区で未曾有の大規模な神秘的テロがあったのよ!事態の解決には、秤先輩の協力が必要なの!」

「先に突き放したのはそっちでしょ!自業自得です!」

「…上と何があったのよ?」

「説明しよう」

「うわっ」

 

ヒナのその質問に答えたのは、質問を受けたノドカではなく横からひょっこりと顔を出したペロロだった。

 

「聞いた話だが、相当揉めたらしいな。アツコの厄ネタ絡みで私以上に連邦生徒会から睨まれて、去年の百物語の時に連邦生徒会の行政官に手を出して停学を受けたらしい」

「…アツコちゃんは何にも悪くないのに、勝手に怖がって否定して、そんなのだから負けるんですよ!けど、良いですよね、そっちはホシノ先輩に尻拭いして貰えるんだから」

「…ホシノ先輩なら封印されたわ」

 

その物言いに思うところがないわけではないが、それでもヒナはことの深刻さを簡単に表せるそれをとうとう伝える。

それを聞いたノドカの反応は───

 

 

「…?」

 

 

(信じてないわね…)

(気持ちは分かるがな)

 

何を言ってるんだこいつは、とポカンとしていた。

当然、小鳥遊ホシノの強さをよく知っている者ほど実際にそれを見たわけでもなければ信じ難い話だろう。

 

(けれど、少なくとも天見先輩はここで1番秤先輩に近い生徒…あの人を説得出来れば、秤先輩の説得も楽になるはず!)

「やってやるわよ…『脱兎』」

 

ノドカの秘儀を攻略するためにヒナが呼び出したのは大量の兎の式神、脱兎。

以前ミレニアムでの戦いから時間が経ち十分な数を取り戻した脱兎達は元気に跳び跳ねながらノドカへと殺到するが…脱兎達の頭上でチカリと光が起こったのと同時に、それらは先程の『渾』と同じようにノドカから弾かれるように吹き飛んでヒナへと向かってきた。

 

大量の脱兎が密着してきてその中に埋もれるヒナだったが、その直前に脱兎達の体に出現していたとあるものを見逃してはいなかった。

 

(今…脱兎にAcrux(アクルックス)の文字があった。それに加えて、さっき見えたあの扉に書かれてた文字…Gacrux(ガクルックス)。扉には反発して脱兎や『渾』は私にくっついてくる…となると…)

 

脱兎の一部を影に戻して脱兎達の中からなんとか上半身を抜け出したヒナは、『渾』の全身を確認し…そして脱兎同様Acrux(アクルックス)の文字があることを確認する。

それからもう一度新しく脱兎を放って散らばらせ…それらの頭上に光が見えてヒナの方に向かって飛んでくる直前に全てのdatを影に戻した。

 

「ペロロ先輩、脱兎はどうでした?」

「私の方には問題なく来れていたが、天見先輩とドアには近付けていなかったな」

「やっぱり…ペロロ先輩!その場で1周回って!」

「な、何…?こうか…?」

 

ヒナからの要請に困惑しながらもくるりとその場でペロロが回転し…そしてヒナはペロロの背中側に書かれたImai(イマイ)の文字を発見する。

ここまで見つけてきた文字、これまでのヒナ達に降りかかった不可解な挙動、近付けないノドカと扉…それらを総括して、ヒナはノドカの秘儀に当たりを付けた。

 

「”南十字星”、でしょ?」

「!」

 

ヒナの言葉にノドカの表情に目に見えて焦りが浮かぶ。

それを見て、ヒナはあくまで推測の域を出ていないカマかけに引っかかってくれたとほくそ笑む。

が、それでもそれが分かったところでまだノドカの秘儀の全容を掴めている訳では無かった。

 

(”Acrux(アクルックス)”、”Gacrux(ガクルックス)”、”Imai(イマイ)”…後は”Mimosa(ミモザ)”と”Ginan(ギナン)”だったかしら。それでここからどうするか…南十字星なんてこれ以上の知識はないわよ…!いや、よく考えるのよ…複雑な秘儀な分、何か規則性はある筈…なら)

 

1度ヒナはペロロの側まで行くと、扉の前を死守するノドカに聞こえないよう小声で話しかけた。

 

「ペロロ先輩」

「何か分かったか?」

「天見先輩の秘儀…対象に南十字星の星を割り振って適当な距離を取らせるものだと思ったけど、でも天見先輩は扉に近づけるし私はペロロ先輩とこうして近づけてるからきっとそう単純なものじゃない。ということは、この秘儀はルートが決められたすごろくみたいなもので、特定の順番で星に近づくことで次の星に近づけるようになる、ってことじゃないかしら?」

「ほう?」

「つまり、決められた順番通りに中間ポイントを経由すれば扉や天見先輩に近付けるんじゃないかってこと」

 

ヒナの予想は概ね当たっていた。

ノドカの秘儀…『星間飛行』でマーキングする星にはそれぞれ順番があり、1から4の星に直接近付くことは出来ないが、1から2、2から3、そして3から4と番号通りに星を辿っていくことで接近が可能になるのだ。

 

その予想を聞いたペロロはなるほどと頷き、周囲を注意深く観察する。

ヒナの予想が正しければ割り振られている星の数が4つの場合ヒナとペロロに1と2が割り振られているとして、だとすればノドカと扉に3と4が割り振られているはずだが、実際にはどちらかが2であるはずなのに2人とも扉にもノドカにも…次に繋がる3に近付けていないことから、3を割り振られたものがどこかにあると考えたのだ。

 

「探りながら聞いて。天見先輩が今もモニター室に逃げ込まないってことは、天見先輩は自分が見ていない所で秘儀を看破されるのを恐れてるってことよ。逆に言えば、秘儀を看破すればモニター室に入れるってこと」

 

「…あーもう!バレたんだったら…!」

「来るぞ」

「ええ、頼んだわよ」

 

ヒナとペロロの相談の様子を見ていたノドカは痺れを切らし、このままじっくり攻略されるくらいならばと攻勢に打って出る。

背負っていたサブマシンガンを構えると、牽制するように無造作に弾幕をばらまいた。

 

神秘の出力そのものは大したことの無いノドカのそれでは当たった所でヒナ達にとってはまともなダメージにはならないが…ばらまかれた弾丸が周囲に転がっている瓦礫に当たると、それらの上で発光が起こり…瓦礫にAcrux(アクルックス)Imai(イマイ)の文字が出現し、それらが一斉にペロロとヒナへとすっ飛んで来た。

 

「ペロロ先輩!」

「いや、問題ない!ここは私が引き受ける!」

 

次々と迫ってくる瓦礫を撃ち落として破壊していくペロロだったが、その度にノドカも周りに落ちている瓦礫を撃ってマーキングし、ヒナやペロロへと引き寄せた。

ペロロの援護を受けながらそれを捌いていくヒナは、ノドカの秘儀を攻略するためにどこかにあるはずの3を割り振られた星のマーキングを探す。

 

(私や脱兎は天見先輩に触れる前にマーキングされてた…となると、遠隔でマーキングする時は対象の神秘を目印にしてる。元々神秘のない物体にマーキングする時は、ああして神秘を込めた弾丸を撃ち込むなり直接接触するなりして神秘を込めてからじゃないといけないようね。となると、どこかに天見先輩の神秘を込められた物が…!)

 

瓦礫を捌きながら屋上を駆け回っていたヒナは、瓦礫に埋もれるように隠れていた鉄の杭に書かれた最後の星…Mimosa(ミモザ)を発見し、杭を掴んで接触する。

 

(扉を守りたいなら必然的に扉に割り振られているのは5番目の星、扉に近付けていた天見先輩は消去法で4番目の星になるから…3番目の星を辿った今なら近付ける!)

 

「王手よ、天見先輩」

「ぐっ…絶対に、アツコちゃんの邪魔はさせない!」

 

ノドカは再び周囲の瓦礫に弾丸を撃ち込んでマーキングしヒナに向けて引き寄せようとしたが…

 

「な、ない…!?」

「銃弾でも瓦礫でも、残弾には気を遣うべきだったな」

 

散々攻撃に用いた瓦礫はその殆どがペロロによって撃ち落とされており、まだマーキングしていなかった瓦礫も先んじて破壊されていた。

もう、十分に攻撃として利用できるだけの瓦礫は残っておらず…飛びかかったヒナはノドカの手首を捻った銃を取り落とさせ、そのまま地面に押し付けて拘束する。

 

「話を、聞いてください」

「うぐっ、ぐ…後輩が可愛げない…」

 

関節を締められ苦悶の声を上げるノドカだったが、ヒナは少しして拘束を解くと、それにノドカが困惑しているのを他所にその場に両膝を着くと…頭を地面に擦り付け、土下座をした。

 

「え…?」

「お願い…時間がないから…」

 

あれだけ邪魔をした相手にまで低頭するその姿に呆気にとらわれたノドカだったが、後輩にそこまでされては仕方がないとため息を吐く。

 

「はぁ…しょうがない…話って?」

「!それが───」

 

 

 

 

 

ドォン!

 

と、先程までノドカが死守していた扉が開い内側から吹き飛び…同時にアリスが飛び出てきてゴロゴロと地面を転がった。

 

静まり返った空気の中、それに続いて部屋から姿を現したのは無機質なマスクで顔を覆ったヒナ達の目標…秤アツコだった。

ヒナとペロロは一触即発の空気を感じ取り銃を構えるが、それを起き上がってきたアリスが両手を広げて制止する。

 

「2人とも、手を出さないでください」

「…舐めてるの?余裕の表れ?そんなのただ虚しいだけ」

 

そんなアリスにアツコは軽く助走を付けると、乱暴に銃を振りかぶってアリスの顔面を殴りつけた。

それが余程の威力だったのかアリスは鼻血を撒き散らしながら仰け反るが…倒れることなく踏ん張ると、再びアツコへと向き直る。

 

「…さっきから私の攻撃避けてないよね?ガードもしない。反撃もあの頭突き以来無し。もしかして、ずっとそうして殴られ続けてたらそのうち私が折れるとでも思った?そっか…じゃあどれだけ耐えられるのか試してあげる」

 

そう言うとアツコはアリスへと駆け寄り、無防備な腹に膝蹴りを入れ、頭を掴んでさらに顔面にも膝蹴りを入れる。

よろめいたところに頭に銃弾を数発撃ち込んで…それでもアリスは倒れない。

 

「…なんで初対面の私を頼ったの?」

「先輩が…秤先輩のことを、強いと言っていました、ですから、パーティメンバーに必要なんです」

「はぁ…命が懸かった現場に誘うなら『一緒に命を懸けてください』っていうのが前提でしょ?あなたは、今。私に命を懸けさせるだけの『熱』をここで伝えなくちゃいけないの。そるが言うに事欠いて人に言われて来た?ヒマリ部長はいつもの圧迫面接はしなかったの?自分の道を自分で選んでそれに責任も持てない癖に…」

 

 

「アリスには『熱』なんてものはもうありません。あるとすれば、『勇者』の…その『剣』になることなんです。アリスが勇者である必要はありません。最終的にハッピーエンドを迎えられるのならば、アリスは喜んでそのための『剣』になるんです」

「…本気?」

 

それは、アリスがミレニアムでの事変を通して得た確信。

正しさを押し付け、アリスが望むハッピーエンドを手に入れるために戦い続けること。

戦って、戦って、戦って…いつか誰もが青春を脅かされることが無いように、戦い続けることが今のアリスの信念であり役割。

それを聞いてアツコは…心底がっかりしたようにアリスを殴り飛ばした。

 

「つまらない、冷たい、虚しい…vanitas vanitatum, et omnia vanitas.『熱』のない人生になんの意義があるの?寒くて、辛くて、空腹で…ただ痛みが繰り返されるだけの世界に、生きる意義が。あなたはただ虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい、虚しい…ただ、それだけ」

 

アツコに殴り飛ばされたアリスはピクリとも動かず、それを見て終わりだとアツコはアリスに背を向けてその場を立ち去ろうとする。

 

「…さっちゃんと…そこの白モップちゃん」

「白モップちゃん…?え、私?」

「アツコ…」

「天童アリスを連れて消えて。二度と───」

 

言いかけた時、アツコは背後に気配を感じて咄嗟に振り返りながら跳び退く。

そこには、倒れていた筈のアリスが両足を地につけて立っていた。

ノーガードで何度も攻撃を受けて、アツコ程の強力な神秘で殴られて…それでもアリスは立っていた。

 

「何で出来てたら人間そんなに頑丈になれるんだろうね…」

 

「『剣』です!アリスは、勇者の『剣』なんです!『剣』として特異現象を鎮めて、アウトローを打ち破って、皆の平穏と青春を守る為の、その礎に…!それに秤先輩が必要なら、アリスは何度だって立ち上がってみせます!あなたが、首を縦に振るまで、付き纏ってみせます!秤先輩───あなたの役割は、なんですか?」

「…」

 

拳を固く握りしめそう豪語するアリスに、その瞳に…アツコは確かな『熱』が宿っているのを見た。

それが、それこそが…アリスにとっての『熱』なのだと、アツコはようやく理解した。

 

その途端に、マスクの裏で口元を綻ばせているのが自分自身でもよく分かった。

 

「…良いよ、何度だってあなたが折れるまで───」

 

 

 

 

「アツコちゃん!」

「!」

 

そこに、ヒナとペロロと共に2人を見守っていたノドカが呼び掛けた。

それにアツコはアリスへと向けていた銃を下に降ろし、続く言葉を待つ。

 

「アツコちゃん…楽しくなってきてるんじゃないの?」

「…さっちゃん、そこの子も連れて降りてきて。取引しよう」

「「!」」

 

あれだけ頑なだったのに何事かとヒナとペロロは顔を見合わせるが、最後のノドカの言葉が決め手になったのかと揃って頭を下げた。

それにノドカは軽く手を振って返すと、フラフラのアリスに肩を貸しマスクを外して穏やかに微笑んでいるアツコを見て呟いた。

 

「上の人達は嫌いですけど…特異現象捜査部で人助けをしてたアツコちゃんが、1番カッコよかったから」

 

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