ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作167〜169話までの範囲でお送りします


D.U.第1結界─参─

 

アリスの精神性に心打たれ戦意をなくしたカンナは、アリスからの嘆願を受けて自身の所持していた100(ポイント)を使い死滅回遊に新たな総則(ルール)を追加していた。

 

「『泳者(プレイヤー)泳者(プレイヤー)(ポイント)の受け渡しを可能にする』…勿論これは総則(ルール)8の”変動”に含まれるものとする」

 

『…承認されました。総則(ルール)10、”泳者(プレイヤー)は他泳者(プレイヤー)に任意の(ポイント)を譲渡することが出来る”』

 

カンナに憑いていたコガネは総則(ルール)の追加を承認すると、アリス達がアツコの拠点で聞いた時のように鐘が鳴り響くような音を鳴らすと、その総則(ルール)を死滅回遊に参加する全ての泳者(プレイヤー)へと通達した。

それを見届けると、無事に総則(ルール)の嘆願が通ったことに安堵するアリスを尻目に、カンナはもうひとつコガネに嘆願をする。

 

「コガネ、天童アリスに私の所持(ポイント)から1(ポイント)を譲渡しろ」

「カンナ…良いんですか?」

「必要なんだろ?ともすればこれで当分お前は誰も殺さずに済むからな」

「そう、ですか…そういえば、カンナの(ポイント)は102(ポイント)でしたか…」

「…秘儀を持つ泳者(プレイヤー)が5(ポイント)、秘儀を持たない戦う力の無い一般人が1(ポイント)。お前みたいな常識離れした奴を除いてな。お前の考え通り、余った2(ポイント)は横柄に振る舞うセキュリティガードの者を殺した分だ。私は、決して綺麗な人間ではないことを忘れるな」

 

自分を気遣い(ポイント)をくれ、心にしまっておきたかったであろう自らの罪を辛そうに語ったカンナにアリスは深く目を瞑って考え込むと、ダメ元で提案することにした。

 

「カンナ、よろしければアリスのパーティに入りませんか?」

「ふむ?私の力が必要なのか?」

「はい。死滅回遊を終わらせるには、まず各地で起こっている殺し合いをやめさせて平定しなければならないので…」

「…確かに、私が相対してきた泳者(プレイヤー)の中には好戦的で積極的に戦闘行動を行う輩が一定数いた。そんな泳者(プレイヤー)がいる限り死者は増え続けるだろう。そんな輩を制圧する為に私の力を借りたいと?」

「はい!カンナの手を借りられるのであれば心強い…」

「だが、すまない。悪いがそれは出来ない。それにお前なら私の力が無くとも十分立ち回れるだろう」

「…」

 

カンナにとってアリスはあまりにも眩しく、共にいることも烏滸がましい程に自分とはかけ離れた人間であると思っていた。

謙遜するように協力を断ったカンナは名残惜しそうにホールの出口まで向かうと、退室する間際にアリスの方を振り返って穏やかに笑い、それを告げる。

 

「また会おう」

「…はい、また」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たな総則(ルール)が追加されるより少し前。

結界(コロニー)内に転送された直後に襲撃してきたクルミを下しカンナの元へ案内させようとしていたヒナは、結果としてクルミの仲間が待つ場所へと誘導されていた事に気が付き、露骨に不機嫌になっていた。

現れた狐耳の黒い髪の少女…ユキノに対してヒナは掌印を結び玉犬の『渾』を呼び出しどう憂さ晴らししてやろうかと考えていると…唐突に、ユキノはヒナに向けていた銃を降ろした。

 

「…?何のつもり?」

「いや、いい。その式神、相当のものだな。相手の強さを見くびるほど私の目は曇っているつもりは無い。弱く単純な相手であればそのまま刈り取っていたところだが…」

 

(ちょっとユキノ…勝手に話進めないでよ…)

 

ヒナと『渾』を見てそう話し出したユキノに困惑するのはヒナだけではなく、挟み込むように位置取っていたクルミも同様であった。

本来ならばいつものように相手を誘い込み袋叩きにするところだが…ユキノはヒナと戦うことのリスクを悟り、試すような質問をする。

 

「1つ、お前はこの死滅回遊というものについてどれだけ知っている?」

「…?儀式でしょ。結界内の泳者(プレイヤー)の神秘を利用してキヴォトスの住民を慣らして別のものへ変化させる為の…」

「む?なんだ、マルクトと知り合いだったか?」

「!」

 

クズノハのことを隠しつつ1部はぐらかしながら答えるヒナだったが、それを聞いたユキノから出てきた予想外の名前に動揺を隠せなかった。

マルクトが言っていたという『契約相手』、過去に存在した名も無き神々や特異体など、どこかにいるだろうとは考えていたが…直接接点を持っているという相手に出会いヒナは少しでも相手から情報を引き出す方針へと切り替えた。

 

「貴女、現代人じゃないの?」

「生憎普通に通校していれば高等部3年の18歳だ。お前が考えているような大昔の存在などでは無い。ただ私達は奴に提案されただけだ」

「提案…?」

「それを答える前に、私からも指摘することが幾つかある。先程お前は奴が『泳者(プレイヤー)の神秘を利用するつもり』だと言っていたが、それは恐らく嘘だろうな」

「なんですって?」

「いや、正確には保険と言うべきか、第2第3のプランなのだろう。根拠は3つだ」

 

それからユキノが並べ立てた根拠というのは、ヒナも薄々感じていた違和感と同じものだった。

即ち、”泳者(プレイヤー)の数”、”泳者(プレイヤー)の実力差”、”結界の法則”

 

マルクトは1000人分の泳者(プレイヤー)を仕込んだというが、キヴォトスに出現した9の結界(コロニー)に均等にそれらを割り振るとしても100とそこら。

泳者(プレイヤー)の中には美甘ネルや尾刃カンナのような頭抜けた強者が存在し、例に挙げた2人だけでも合計60人以上の泳者(プレイヤー)を葬っている。

似たような強者が各結界(コロニー)に存在するとして、早い段階で強者だけが残り死滅回遊は膠着するだろう。

 

(確かに結界(コロニー)に入った時から思っていたより静かだとは思っていたけど…強い泳者(プレイヤー)以外は既に殆ど全滅してるっていうの?)

 

「既にこのD.U.第1結界(コロニー)は、な。加えて結界(コロニー)に侵入した際の転送。人を散らす目的もあるのだろうが、1番は奴によって秘儀を配られた泳者(プレイヤー)の早期2次覚醒を促すためのものだろう。転送された時点で死亡する者もいるぐらいだ」

「確かに、本当に泳者(プレイヤー)の神秘を利用したいならより多くの泳者(プレイヤー)にダラダラと長い期間戦わせた方が効率的でしょうね。なら…総則(ルール)の指す”永続”は建前…?」

「本当の計画を隠す為の隠れ蓑なのだろう。これは確信だ。奴は…マルクトは、強者のみが残った回遊に”爆弾”を落とし死滅回遊は役割を終えることになる。その”爆弾”が具体的に何かまでは想像がつかないが…それに備える為に我々は(ポイント)を貯めているんだ。どうだ、お前も協力しないか?戦力はあるだけいい、取引した身だがマルクトを胡散臭く感じているのは我々も同じだ」

「…」

 

ユキノの語った話とマルクトの”爆弾”。

それらの情報を頭の中で精査しまとめながら、ヒナとしてはユキノの提案は確かに悪くないものだとも感じていた。

だが…ユキノがマルクトを胡散臭いと言うように、ヒナにとってもユキノ達が胡散臭いのは同じだ。

故に…

 

「1つ聞いてもいいかしら。貴女達は…マルクトと何を取引きしたの?なんで、貴女達は死滅回遊に参加したの?」

「…それを答える必要はあるのか?」

「歩み寄りってのは大切よ。答えられないのなら…信用に値しない。丁度近々死滅回遊には新しい総則(ルール)が追加されるのよね。泳者(プレイヤー)間での(ポイント)の譲渡を可能にする総則(ルール)。つまり───」

 

話を聞くために下げていたマシンガンを再びユキノへと向け、傍で待機していた『渾』が唸り声を上げる。

それを見てユキノは目を伏せると…同じように片手で銃を構えた。

 

「───貴女達の(ポイント)を全部寄越しなさい。それなら協力してやっても良いわよ」

「交渉決裂だな。やれ」

「っ!」

 

 

「はいはい、バックアップは任せて」

 

 

 

───泳者(プレイヤー)、オトギ

 

 

ユキノが空いた方の片手を挙げると、それを合図に遥か遠方の高層ビルの一室から狐耳を持つ狙撃手の少女…オトギがヒナのこめかみ目掛けて精確に撃ち抜いた。

得物である対物ライフルの火力もあり並大抵の泳者(プレイヤー)ならば今の一撃で脳味噌をぶちまけることになる必殺の不意打ちだったが…狙撃された衝撃でヒナは多少頭を揺らすも、弾丸は頭を貫くことなく弾かれて地面に落ち、ヒナは狙撃手の方向を睨んだ。

 

「そこね…!」

 

『え、嘘?仕留めらんなかった?』

「ッ!オトギ!直ぐにそこを離れろ!」

『な、何FOX1…ちょっ…!?』

 

咄嗟に無線でオトギに警告するユキノだったが…それよりも早く、ヒナは待機させていた鵺をオトギのいるビルの部屋へと突撃させ…そのビルの部屋の一室が吹き飛び、鵺と共にオトギがビルの外へと投げ出されていた。

 

(あの式神!途中から見無くなったから消してたと思ってたのに…さっきは出した素振りがなかった!ずっと何処かに隠してたの!?)

「ごめんなさい!FOX1、FOX4!私が索敵ミスったわ!」

『い、いや良いよ!見逃してた私も悪いし…ふぎゃっ!?』

「ちょ、大丈夫!?ちょっと!?」

 

落下しながらも律儀にフォローしてたオトギだが、高層階から地面に叩き付けられた衝撃で通信が乱れたのか無線の断絶音と共に連絡が途絶えたようで、クルミは必死にオトギへと呼びかけている。

向こうが混乱している隙にヒナはさらにユキノへと『渾』をけしかける、が…

 

「そうか、お前は(ポイント)が欲しいのか。故に我々を殺せないと…舐められたものだな」

「っ!」

 

ユキノが手に持っていたアサルトライフル…それが突如としてロケットランチャー(FOX-ジャベリン)に変化し、放たれた弾頭が大口を開けた『渾』の口内に直撃、爆発して『渾』はアパートの外まで吹っ飛んでいく。

元々ユキノが持っている武器程度『渾』ならば問題ないと高を括っていたヒナは油断を自覚し、一気に攻め立てようとマシンガンを掃射しようとする。

 

「殺す気で来ないならば、後悔することになるぞ」

「え…?」

 

しかし…ヒナが引き金を引くよりも早く、アパートの上から落ちてきたそれ───おいなりさんが激しく爆発し、ヒナは爆炎に飲み込まれた。

 

 

 

「…FOX2、私もいるんだが」

「ごめんね。ユキノちゃん…FOX1なら大丈夫だと思って」

 

 

───泳者(プレイヤー)、ニコ

 

 

爆弾を投下して更なる不意打ちを仕掛けた狐耳に桃色の髪の少女…ニコは、アパートの屋根の上から身を乗り出して下のユキノに手を振った。

やれやれと肩を竦めたユキノは、煙の中から無事な状態で出てきたヒナに対して持っていたロケットランチャーをサブマシンガン(FOX-31式短機関銃)に変化させて射撃する。

それをしゃがんで避けるヒナに、さらに向かいにいたクルミが盾を構えながら無造作に銃弾をばら撒き牽制を行う。

 

場所が悪いと外に降りようと飛び出したヒナだったが…屋根の上から姿を現したニコがヒナをアパートの中の方に蹴り飛ばして押し戻し、どこからか取り出したおいなりさんをヒナが転がり込んだ部屋に投げ入れ、おいなりさんは激しく爆発して部屋を木っ端微塵にした。

 

「FOX2、目標は?」

「爆発の直前に窓から逃げられたね。でも結構削れたんじゃないかな?」

「そうか。FOX4、聞こえていたら援護しろ」

 

ニコの見立て通り、最初の爆撃を受けた時防御が間に合わずモロにダメージを負ってしまったヒナはアパートの外に脱出した時点で足取りがフラつく程に消耗してしまっていた。

神秘の余力で言えばまだ余裕はあるが、ダメージは無視できるものでも無い。

更に厄介なのはダメージのみならず…

 

「がっ…!」

 

 

「う〜ん…まだ倒れない。FOX2の爆弾が直撃してる上に2度も撃ち込んでるのに…」

 

位置を変更したオトギが回復した通信でユキノからの指示を受けヒナの眉間を撃ち抜き…

 

「こっちみなさい!」

「また…」

「はい、チーズ!」

「!?」

 

ヒナが抜けてきた部屋の崩れた壁から飛び出してきたクルミを迎え撃とうとするも、それを見越したクルミが盾に仕込んでいたフラッシュライトを直視してしまい脳を殴られたような感覚と共に視界が奪われる。

そこに銃撃とシールドバッシュを受けて吹き飛ばされ…

 

「よいしょっと…FOX3、離れて」

 

「くっ、いい加減キツいわね…!」

 

吹き飛んだ先にアパートの屋根に登ったニコがおいなりさん爆弾を投下し、爆破する。

今度は爆撃を察して咄嗟に伏せたことで爆発の衝撃による被害を軽減するが、何度も受けられるような威力では無い。

そしてずっと伏せたままでいれば良い的なわけで、ニコから撃ち下ろされる弾丸の雨を転がりながら逃れるヒナだが…

 

「逃げ場などない。諦めろ」

「そんなこと、言われたって…!がはっ…」

 

逃げた先に待ち構えていたユキノにこの距離で撃ち合うのは難しいとマシンガンの銃身で殴りかかろうとするも、それを片手で掴んで止めたユキノはサブマシンガンをショットガン(FOX-870)に変化させ、ヒナの腹に押し付けてゼロ距離で発砲する。

至近距離からのそれはヒナに対して充分なダメージを与え、衝撃で吹っ飛んだヒナは再び地面を転がされる。

 

(こいつら…相当訓練されてる…!SRT…そっか、あそこの精鋭ならそりゃそうよね…)

 

ユキノ達を相手にするに当たってヒナを最も苦しめているのは、その連携能力の高さだった。

余程場数を踏んでいるのだろう、阿吽の呼吸とも言うべき互いに互いを信頼した迷いない行動はヒナに反撃や思考の隙を与えず一方的に押し切れる程に有効な攻め方であり、このペースで戦闘が進めば間違いなくヒナは敗北することになるだろう。

 

(4対1、流石にしんどい…でもこの手慣れてる感じ、こいつらも相当(ポイント)を稼いでる筈。なんとかその(ポイント)を確保して───!)

 

 

総則(ルール)10、”泳者(プレイヤー)は他泳者(プレイヤー)に任意の(ポイント)を譲渡することが出来る”が追加されました』

 

「「「「!」」」」

 

その時、一帯に鳴り響く鐘のような音と共にそれぞれに憑いていたコガネが総則(ルール)の追加を通達した。

ユキノ達は突如伝えられたそれに困惑しているようだったが…ヒナは、誰がそれを行ったのか、誰がそれを成し遂げたのかを察して口元を綻ばせた。

 

「…まずは」

 

「?あいつまだ…総員警戒!」

 

その通達を聞いたヒナが掌印を結ぶと、ユキノは他のメンバーに警戒を促しながらそれを妨害しようとショットガンをマシンガン(FOX-26式機関銃)に変化させ射撃しようとする。

だが…

 

「『脱兎』」

 

「何っ…!?」

「兎?」

「あら、可愛いじゃない」

 

『言ってる場合じゃないでしょ!?そこ離れて…』

 

ユキノの妨害よりも早くヒナが呼び出したのは、津波のように溢れかえる大量の兎の式神、脱兎。

脱兎の群れは瞬く間にヒナの周りを取り囲んでユキノ達も飲み込もうと殺到するが、それに対してユキノはマシンガンを火炎放射器(FOX-M1)に変化させてそれらを焼き払った。

尽くが焼き尽くされ次第に他の脱兎にまで燃え広がってそれらは消滅していくが…

 

「居ない…!FOX4!奴はどこに行った!?」

 

『いや、見えなかったよ!1回撃ってみたけど中まで貫通したかも分かんない───』

 

 

 

「狙うなら、まずは狙撃手からよね」

「っ!?」

 

ユキノが見た脱兎の群れが消えた先にヒナの姿はなく、先程の狙撃でオトギの位置を割り出していたヒナは脱兎に紛れて建物の屋根に潜んでいたオトギの背後まで迫っていた。

それに気付いたオトギは副武装の拳銃で対抗しようとするが…ヒナはオトギの顔を蹴り飛ばして建物の外に放り出し、その状態からでも銃口を合わせようとしてくるオトギに空中で馬乗りになるようにして飛びかかると、何度も顔面を乱打し地面に衝突するのに合わせて渾身の拳を叩き込む。

 

上下に挟まれるように衝撃を受けたのが大きなダメージとなったのか、着地した直後にヒナが距離を取った時には既にオトギは顔を血塗れにして頭蓋骨も損傷しているだろう重体だった。

それでも、なんとか起き上がろうとするオトギにヒナはマシンガンを向け…容赦なく乱射して蜂の巣にする。

既に致命的なダメージを負ったオトギにそれを耐えられる余力があるはずもなく、オトギのヘイローは砕け散り、肉体は力無く倒れ込んだ。

 

『5(ポイント)が追加されました』

 

「…何、やってるのかしらね…私は…」

(これからも(ポイント)は必要なのに…でも…もう、アコが殺し合いを強制されることはなくなった。私はただ、皆を信じればいい。こいつらの所持(ポイント)にこだわる必要は無い…今はただ、降りかかる火の粉を払えばいい)

 

当初のユキノ達の(ポイント)を譲り受ける予定を変更し、ヒナはアリス達の脅威となるだろうユキノ達の殲滅を決意した。

 

と、そこに銃撃音を聞いてユキノ達が駆け付けてくる。

 

「…嘘、オトギ…」

「そんな…」

 

「…FOX4、ダウン。狼狽えるな。こうなることは覚悟していた筈だ。狩りを続けるぞ」

 

明らかに狼狽するクルミ、呆然とするニコ…そして冷静さを保ちヒナに警戒を向け続けるユキノ。

厄介な狙撃手は撃破したもののあちらは3人が殆ど無傷であり、ここからヒナが勝利を収めるにはそれだけの決定力が必要になってくる。

 

(まだ数的不利は覆ってない。あいつらに勝つには…神秘解放を使う?いや、私のはまだ不完全、結界を閉じて相手を封じ込めることが出来ないし…逃げられて出し損の状態で再戦することにでもなったら目も当てられないわね…)

 

「…FOX2、落ち着け」

「大丈夫、ユキノちゃん…あいつ、許さないから」

 

「チッ…!」

 

逆転の目が見えないまま、目の据わったニコがおいなりさん爆弾をヒナへと投げつけた。

少し角度高めに投げられたそれは伏せても被害の軽減を期待することは難しく、近くに遮蔽物もない状況。

ならばと多少の神秘の浪費も覚悟して強引に身体を保護しようとするヒナだが────

 

 

 

 

 

 

「あぶなーーーい!!」

 

 

「「「「!?」」」」

 

そこに割り込んだ闖入者の存在に、その場の全員が困惑する。

闖入者はニコが投げつけたおいなりさん爆弾を顔面に受け、しかしその身体が遮蔽物となりヒナには爆発が直撃することはなかったが…

 

誰もが何が起きたのかと動けずにいる中爆発の煙が晴れると、そこに立っていたのは桃色の髪にアホ毛がくるんと巻いている少女だった。

そしてその顔を見てユキノ達やヒナは見覚えを感じ…その正体に思い至る。

 

「貴女は…カヤ、防衛室長…?いや待て、その制服は連邦生徒会長専用の…」

 

 

「3対1…貴女達はそれでも公平に分けたつもりですか!?貴女達のような人間をなんと呼ぶが知っているでしょうか?それ即ち卑怯者と!卑怯者の攻撃が、この私に効くことなどありません───

 

 

 

 

───痛くも痒くもありはしません!」

 

 

───泳者(プレイヤー)、不知火カヤ

 

 

両手を広げた大袈裟なポーズで頭から噴水のように血を吹き出している少女…カヤに、ユキノやニコも分かりやすく表情に戸惑いを見せていた。

また覚悟を決め険しい表情を浮かべていたヒナもポカンと間抜けのように口を開けて状況を飲み込むのに時間を要している。

 

そんな一同を置いてけぼりにして、カヤは話を続けた。

 

「助太刀しますよ、そこの少女」

「は?」

「これでも私人を見る目には自信があるので、一目見れば人の善し悪しぐらい…貴女も中々悪そうな面構えしてますね」

「ぶっ飛ばすわよ」

「まあ相対評価ですよ。ゆとりです」

「ゆとりは絶対評価よ」

 

(今の、私を庇ったのよね…?信用は…していいのかしら…?)

 

 

「…どう見る、FOX2、FOX3」

「え…?いやマジで意味分かんない…」

「一応聞いてみる…?えっと…あなた、()()()?」

 

カヤが何しにこの場に来たのか、そもそもあれは本当にカヤなのか、伊達に知名度がある訳では無い以上本人かを確かめる意味合いでのニコの質問。

それを聞いたカヤはヒナの方からユキノ達の方へと向き直ると、無駄に溜めてから答えた。

 

「それはつまり─────私が”超人”か”凡人”かということですね?」

「うん、違くて…」

「この制服は!私に”超人”というものを教えてくれた恩人の制服を真似したものです!この制服に懸けて…私は凡人でいるわけにはいきません!」

「ユキノちゃん助けて」

「頼むから私に振らないでくれ」

「アンタが何とかしなさいよ隊長でしょ!」

「クッ…何か来るぞ、構えろ!」

 

「これは私が先程考えた一発ギャグです。意中の子の前で披露すると良いでしょう」

 

無駄に大袈裟に踏ん張るような姿勢を取ったカヤにユキノ達は困惑しながらも何をしてきても良いように迎撃体勢を取る。

ヒナは知り合いだと思われないように少し下がってその様子を眺めていたが…

 

 

 

 

 

 

 

「余計なお世WiFi!」

 

 

 

「…」

「…」

「…」

 

「…へくしゅん」

 

シーンと空気は静まり返り、風で木の葉が擦れる音が虚しく響く。

そんな静寂の中カヤはポージングを解き制服の襟を正して目をカッと開いた。

 

 

「凡人共がぁぁぁぁぁ!!!いるんですよね、自分は違うと思っていても結局他と変わらない、このセンスが理解出来ない凡人が!」

「いや貴女の問題でしょ」

「それでも!私は!そんな貴女達だって見捨てません!」

「ダメだこいつアオイと同じ臭いがする…」

 

「だって私は…!」

 

ヒナの呆れを他所に1人勝手に激昂するカヤはググッと膝を曲げると…凄まじい勢いで跳ね上がり、次の瞬間にはその靴裏がクルミの腹のすぐ目の前にあった。

 

「超人ですから!」

「ぐはぁ!?」

 

「FOX3!?」

「クルミちゃん!?」

 

腹にドロップキックを受け、異常な吹っ飛び方をしてクルミの姿が瓦礫の奥に消える。

それはユキノとニコの反応が追いつかない速度で行われ、2人が振り向いた時にはカヤは逆立ちのようなポーズでユキノとニコを睨んでいた。

 

「気をつけた方がよろしいですよ?私は暴力や恐怖も是とする前衛的な超人ですので」

 

(あいつ…何から何までふざけているが、急に神秘が跳ね上がったな。出力のブレも滅茶苦茶だが…本当にカヤ防衛室長なのか…?あの人あんなに強かったのか…?)

 

なんでこんなのに真剣に頭を使わなくちゃ行けないのかと元も子もないことを考えつつ、ユキノはカヤの能力や秘儀について考察を巡らせる。

少なくとも甘く見てはいけない相手だと判断しニコと連携しようとするが…

 

「さあ、どうしますか?少女よ」

 

「ッ!」

 

カヤの発言とその視線の先に目を向けたユキノは、そこにあった筈のヒナの姿がないことに気が付く。

一体どこに姿を消したのかと周囲を見回していると…真下からの気配に気が付き、その飛び上がって自分の影の中から伸びてきていた腕を回避した。

 

「チッ…貴女、協力してくれるって言うならこのままあいつらを分断するわよ」

「ほうほう」

「金髪の狐は…まだ良いとして、桃色髪の狐の爆弾は上手く受けないと神秘で防御してもごっそり体力を持ってかれるから、って近いわよ!」

 

顔を真横に置いて相槌を打ってくるカヤを押し退けたヒナは強引にカヤをニコの方へ向かせ、自分はユキノの方を向いて背中合わせになると念の為コガネに確認を取る。

 

「コガネ!尾刃カンナの情報を出しなさい!」

『あいよ!』

 

(…1点。(ポイント)を使ってるってことはやっぱり総則(ルール)を追加させたのはアリスね)

「…貴女達。私はもうこの結界(コロニー)に用がないから、退くなら見逃すわよ」

 

「…は?逃がすわけないでしょ…オトギちゃんを殺して…絶対に…」

「だから落ち着け、FOX2…しかしそれには同感だ。ここまでされておいて退く訳にはいかない」

 

カヤによって忘れかけていた怒りを思い出したニコが瞳に影を落としてヒナに突き刺すような視線を向け、それを宥めながらもカヤの登場で感情の抑制が乱れたのか若干声色に怒りを滲ませてユキノもヒナへと銃を構えた。

この戦いは決着が着くまで終わらないと悟ったヒナは頭の中で計算を済ませると、背中合わせになっていたカヤの腰をトントンと叩く。

 

「痴漢ですか?」

「違うわよ。貴女にはあっちの桃色髪の方を任せるけど…殺すなら、出来ればその前に(ポイント)を奪ってくれないかしら?」

「良いでしょう、少女。その願いしかと引き受けましたよ。ですが…私は”超人”です。人を笑顔にしてこその真なる”超人”、それを奪うような真似など出来ません」

「…勝ってくれればなんでも良いわ」

「ふっ、SUPERMAN!」

 

 

「ふざけた、ことばっかり…!」

 

カヤの好き放題にも苛立ち始めていたニコはカヤに向かって強肩を振るいおいなりさん爆弾を投擲するが、カヤが何処からともなく取り出したハリセンによって明後日の方向に打ち返されてしまう。

 

「物騒な秘儀ですね!しかし、超人の歩く道に…!」

 

空中でおいなりさん爆弾が爆発したのに気を取られつい視線を上げてしまったその瞬間、カヤは一気にニコへと駆け寄った。

それをニコは体術で迎え撃とうとする。

 

特殊部隊としてあらゆる技能を鍛え上げたユキノ達、”FOX小隊”。

その技能の中には格闘訓練も当然含まれ、ニコもまた下手な格闘家を凌駕する程の格闘技能とセンスを有しているのだ。

 

しかし…カヤはニコが降り抜いた腕を的確に逸らすと目元にハリセンを叩きつけて怯ませ、その隙を突いてニコの背後に回り込み─────スカート越しに尻を揉みしだいた。

 

「ひゃうっ!?」

「血など必要ないのですよ。それにしても、ここが弱いのですか?SRTの精鋭と言えど所詮生娘ですね」

「こ、のっ…!うあっ!?」

 

この期に及んでふざけ倒すカヤにニコは顔を赤くして回し蹴りをお見舞いするが、イナバウアーでもするかのようにそれを避けたカヤはニコの足を掴むとそのまま持ち上げてぐるぐると振り回し、近くの建物の中へと投げ込んだ。

 

「…貴女が敵じゃなくて良かったわ」

「なんと!1度は言われてみたかった台詞です!実に超人といった感じが出ますので!それでは少女よ、死なないようにしてくださいね!」

 

ハイテンションで投げ飛ばしたニコを追いかけていくカヤを適当に手を振って見送ったヒナは改めてユキノへと向き直る。

そんなユキノはニコの苦戦具合を見て眉間に皺を寄せていたが、ヒナの視線に気付くと持っていたマシンガンをアサルトライフル(FOX-47)に変化させて構えた。

 

「…早くFOX2の援護に入らなくてはいけないな」

「あら、自分の心配をした方がいいんじゃないかしら。言ったわよね、もうこの結界(コロニー)には用がないって。つまりもう目的は達したの───

 

 

 

 

 

 

───これで本気で戦えるわ」

 




配役
黄櫨…ニコ
針…オトギ
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