D.U.第1
そんな水を建物の上に飛び上がって逃れたユキノは武器を取り回しの良い
咄嗟に目元を手で覆うことで光を直視するのを防いだヒナだが、その一瞬の隙に距離を詰めたユキノが組み付こうと腕を伸ばす。
「っ!満象!」
「む…そう簡単には行かないか」
それに気付いたヒナは指示を飛ばし、満象が長い鼻を横に薙ぎ払うことでそれを妨害する。
満象の鼻を避ける為に下がったユキノへ再度放水が行われ、放水を避けたユキノへヒナは呼び出した『脱兎』の群れで撹乱しながらその後方から弾幕を張った。
対してユキノはハンドガンを
そこにネットランチャーを変化させた
(…無駄だな。あの兎の式神は他のと比べて特殊なようだ。終わりはあるのかもしれないが神秘の無駄か。それに加えて水責めでこちらの武装の無効化も狙っていると来た)
「神秘どうこう以前に対人に慣れているようだな。治安維持組織に務めていた時期があったりしないか?」
「あら、よく分かったわね。神秘無しの銃と肉弾戦オンリーでもそれなりに自信はあるわよ」
「だと思った。ならばこういうのはどうだろうか?」
「!」
次にユキノが変化させた武器は…
「勝手に掃射を…!?」
「私の秘儀は、『武器』だ。私の知識にあるあらゆる武装を再現し、対象の規模に応じた神秘の消費と引き換えに具現化させる。そうして具現化させたものには簡単な命令も与えられるんだ」
「ここで秘儀の開示…!嫌らしいわね!」
ご丁寧に自分の秘儀を語ったユキノ。
それにより不利を背負う代わりに対価を得るという契約が成立し…同型のもう一つの固定機関銃がユキノの隣に出現し、ヒナを狙って掃射を始めた。
単純に弾幕の密度が倍になり、次第に避けるのも防ぐのもままならなく成程に消耗が積み重なっていく。
(さっきからそうだけど、あいつが具現化させた武器は弾切れが起こらない。神秘の消費は1度具現化させた際だけか、具現化している最中はずっとするのか…後者に期待するような楽観は出来ないわね。持久戦は無理、となると被弾覚悟で強引に突破してみる?)
「分かっているぞ、お前の考えが。その怪我、神秘の消耗、集中力、そして先程から複数の式神を併用してどれも万全とは言い難いのだろう?お前では私には勝てない」
「…」
実際、ヒナも限界が近いのは確かだった。
特にユキノ達と遭遇して間もなくのニコによる爆撃から続いたFOX小隊による連携攻撃。
今思い返してみても見事と賞賛できるあの巧みな連続攻撃はヒナの神秘と体力をごっそりと削り、今こうして意識を保っているだけでも倦怠感に襲われる。
その上、本来ヒナの技量ではまだ単体でしか扱えない満象を無理矢理他の式神と併用しているせいで力のリソースも分散し、自身の身体強化や保護に十分な神秘を回せないでいた。
「加えてお前はよく式神を出したり消したりしているが、一度傷付けられた式神は回復に時間を要するのだろう?走攻守揃った高性能なあの犬は当分は出せないようだな。お互いに出力の高い大技を持たない消耗戦…それに耐えられるだけの余力がお前にはあるのか?」
「そうね、まあ無理でしょう。だから…ここいらで退散させてもらうわ」
「ん…?」
ユキノの問にヒナはあっさりとそう答えると、鵺を呼び出し…その脚に捕まって連れ去られるように真後ろへとすっ飛んで行った。
2機の固定機関銃もそれを追おうと照準を合わせるが、それを満象が踏み潰して妨害、直後に破壊されないように満象が解除され影に沈むようにして消える。
啖呵を切った割には簡単に引いたヒナに一瞬呆気にとらわれたユキノだったが、少し考えて追うことを決めた。
満象に潰された機銃を武装ドローンに変化させ、それに空を逃げるヒナを追跡させながらユキノも屋根伝いに追いかける。
そうしてしばらくの追いかけっこが続くと、ヒナはこの辺りの建物の中でも一際目立つ建物…D.U.総合体育館の中に姿を消した。
(籠城する気か誘い込んでいるのか…火で炙り出しても良いが、また追いかけっこをするのは面倒だな)
「…乗るか」
一方、体育館の中でヒナは何かを確かめるように内装を見回していた。
「…悪くないわね、広さも丁度良いわ」
「何をしているんだ?1人でこんな場所を」
そこに、観戦席からやってきたユキノがヒナを見下ろす。
また武器を変形させたのか、今は
「さあ、どうかしら?貴女こそ何か仕掛けてきたんじゃないかしら?」
「まあな。戦闘に駆け引きは付き物だ」
「…チッ!そういうのもいけるのね!」
次の瞬間…体育館の壁をぶち破って2台の装甲車が突入してきた。
先程のユキノの「お互いに大技を持たない」という言葉が無意識に頭に残っていたが為に大それたものは出せないのかと思っていたヒナは、予想外の奇襲に反応が間に合わず跳ね飛ばされ体育館の反対側の壁まで吹っ飛ばされる。
身体を壁に打ち付け倒れるヒナに、ユキノは装甲車を消してリソースを戻すとサブマシンガンを
「終わりだな。一応聞くが、お前の
「…結界術ってのは難しいわよね。いつまで経っても現実空間にスケールの異なる擬似空間を重ねる感覚が掴めない。だから…」
「…まさか…使えるのか…?」
死に瀕して、ヒナが語り出した内容にそれが示すものに察しが付いたユキノは直ぐにヒナを始末しようとする。
だが…焦ったユキノは物陰から伸びてきた『蝦蟆』の舌に気付けず、ガトリング砲を絡め取られて射線を逸らされてしまう。
咄嗟に取り出したナイフで蝦蟆の舌を切って今度こそヒナを狙おうとするも、その間にはもうヒナは掌印を結んでいた。
「この体育館の空間をそのまま、私の領域として転用するわ」
(そのステージの生徒だったとは…!)
「───神秘解放『イシュ・ボシェテ』」
ヒナを中心に影が広がり、体育館という広い空間の壁や天井、床がそのまま領域の結界の境として機能する。
ヒナの背後に浮かび上がった脊椎のようなオブジェクトが溶けるように領域内に広がると、領域内の影が蠢き始める。
だが、それを見たユキノはヒナを狙うことを諦めて神秘解放への対抗策を打った。
「残念だったな…『彌虚葛龍』」
「!」
それは、SRT特殊学園を設立した前連邦生徒会長が復活させた『簡易領域』の原型。
SRT特殊学園はS.C.H.A.L.Eや連邦生徒会に寄らない、裏向きでは連邦生徒会長直轄の対特異現象部隊としての側面を持っていた。
精鋭を募り、神秘や特異現象に対する知識や対処法を生徒達には教えていたが、その際前連邦生徒会長は『神秘解放』に対抗する方法をどう教えようかと頭を悩ませていた。
シン陰流に伝わる『簡易領域』は専門の門下に習う必要があり、あまり多くの者に広めることが出来ず、SRTに所属する生徒全員に教えようとするにも手間がかかりすぎてしまう。
そして考えついたのが、かつてKeyや名も無き神々が存在していた時代、現代よりも習得者の多かった神秘解放から身を守る為に考案された『簡易領域』の原型、『彌虚葛籠』。
『簡易領域』と比べて1部利便性は落ちるが、神秘解放により展開される領域に対抗するには十分な代物だった。
…
「ぐっ…!?な、何故…!?」
ヒナの領域を無効化したと思ったユキノは今度こそ反撃に移ろうとするが…その時、領域に広がる影から浮上した蝦蟆の舌がユキノの脚に巻き付き動きを阻害している。
『彌虚葛籠』は、『簡易領域』と違い秘儀そのものを中和しない。
秘儀が付与された領域の結界を中和することで、付与された秘儀の必中効果を防いでいるのだ。
ヒナの領域は未完成であり、体育館の空間を自らの領域として転用することで無理矢理閉ざされた領域には必中の秘儀は付与されておらず、『イシュ・ボシェテ』は現時点で『十種影法術』を拡張し、潜在能力を120%引き出すためのものに過ぎないのだ。
だが、その半可がユキノの虚を突いた。
「表情に焦りが見えるわよ?余裕がなくなってきたんじゃないかしら」
「クソッ…!まだ終わりでは…っ!」
脚に絡みつく蝦蟆の舌を力技で引きちぎって抜け出そうとしたユキノに、領域の影を利用して作られた2体の分身を合わせた3人のヒナが襲いかかる。
秘儀を使わせないように3人の内誰かが常に張り付くように肉弾戦を仕掛け、1人が後方からマシンガンで援護、残る1人は一撃離脱を繰り返して前衛の補助を行う。
神秘解放により感覚が研ぎ澄まされ運動の精度も向上したヒナを相手にユキノは何度も打撃や銃撃を受け口や鼻から血を流すが、一瞬の攻め手の緩みを見つけるとポーチから手榴弾を取り出して足元で爆発させる。
それによって自分を巻き込みながらも前衛の分身がよろめいた所に蹴りを入れて引き剥がし、ガトリング砲を
「何っ…!?」
に変化させ逆転を試みようとするが…足が領域の影に沈みバランスを崩し、そこに2体の分身が殴りかかろうと腕を振るう。
ユキノは直前にショットガンをライオットシールドに変化させてそれらを防ぐが、横から撃たれた本体のマシンガンが直撃して地面を転がる。
(…なるほど、この分身も式神も私に当たる前から実体がある。つまりこの結界には必中の秘儀は付与されていない!領域による秘儀の性能の向上が半端なものではないな、単純な領域よりずっとやりづらい!)
ユキノの脳裏に浮かぶ”敗北”の二文字。
ただでさえ劣勢の状況、ここでさらに式神を追加され畳かけられれば間違いなく手数で押し潰されるだろう。
故にユキノはそれまでに培ってきた経験、知識、勘を総動員して打開策を模索し…思い付いたそれを実行に移す。
「こんな所で…挫けるものか!」
「!」
ユキノがライオットシールドから変化させたのは…FOX-74式戦車。
その巨躯が領域内に出現し、そして領域の影に沈み込む。
途端、ヒナは上から何かに押し潰されたかのように地面に叩き付けられ、同時に2体の分身もぺしゃんこになって消滅した。
「く、うぅ!」
「ふぅ…やはり、先程から神秘で強化しなければ足場に吸い込まれそうになっていたんだ。この領域の下は全部お前の影なのだろう?自分を出し入れ、式神を出し入れ、その機関銃のリロード用の弾倉も影から取り出していたな?だが気になっていたんだ。そんなに便利な物ならば、もっと武装をストックしておけばいいのにと」
這いつくばり圧力に押し潰されないように堪えるヒナを見下ろしながら、ユキノは影に沈めた戦車を維持したまま新しく
「だから考えたんだ。影の収納のキャパシティが少なく影に潜る用に自分一人分の容量を空けなければ行けないのか、或いは…収納した物の重さをお前が自分で引き受けなければ行けないのか。後者が当たりだったようだな」
ユキノの推察通り、ヒナは影に物を収納するとその物の重さが常に自分自身に負荷されることになる。
その為普段は最低限の弾倉を収納して動きに支障が出ないようにしているが…ユキノが沈めたFOX-74式戦車はその質量が38tにも及ぶ。
それだけの質量を背負えば、幾ら神秘で身体強化出来るとはいえ当然動けるはずも無い。
むしろ即圧死することもなく暫く耐えられているのがおかしいとそれを実行したユキノも末恐ろしさを感じていた。
「足元はもう油断しない。私の残る神秘の全てを注ぎ込んで、お前が自重に耐えられなくなるまで重さを足し続けてやろう」
「…結局ここまで来てお話に興じる余裕があるなんて、貴女も大概抜けてるわね」
「…?」
「未完成でも領域は領域…
「…!まさか…!?」
ユキノが勝利を確信したその時、領域の天井に広がる影から『満象』が落下し、ユキノを下敷きにする。
領域による秘儀の精度の向上で性能を引き上げられた満象は本物さながらの重量をほぼ完璧に再現し、6tにも及ぶ質量が降り掛かった。
何とか神秘で身体を保護して圧力に耐えたユキノだったが、自分を守るのに精一杯で他に神秘を回す余裕もない。
「どっちが先に潰れるか、我慢比べと行きましょうか!」
「ぐ、うおぉぉぉ!」
(またか…これで何度目だ…!終わりかけていたのに…!まだ私は…!いや、まだだ!影に沈めた戦車はまだ辛うじて維持できている!質量の差で先に潰れるのはお前の方だ!)
ヒナは影に沈んだFOX-74式戦車の38tという圧倒的質量を、姿勢を低くして下半身を重点的に神秘で強化することで堪える。
ユキノは、6tとヒナと比べれば負荷は小さいが満象の落下の衝撃を受け止めたことで右腓骨と踵骨にヒビが入っている。
次の1秒で、双方共にどちらが圧殺されてもおかしくない状況にあった。
(まだか…?まだ奴は潰れないのか…?何故耐えられる…!こうなれば、敢えて神秘での強化を解いて影に潜ってから
ヒナが死んだ時に影の中にいると、そのまま一生閉じ込められるかもしれない。
そもそも影の中の状況も分からず、先ほど足が沈んだ時の感覚から液体状だということは察していたが、中では呼吸が出来るのか、1度沈んだ後に再浮上は出来るのか、様々なリスクが思い浮かんでそれを実行することを否と突きつけられる。
リスクを恐れたユキノは満象を受け止めているこの体勢のまま秘儀を発動してそれを影に沈めようとするが…
「ぁ…」
悩んで時間を浪費してしまったが為に秘儀の発動は間に合わず、満象の質量に耐えきれなくなったユキノは影の中に沈んでしまう。
そして事前の予想通り影の中に酸素は無く呼吸は叶わず、浮力も抗力もなく藻掻くことしか出来ずにただ沈むのみ。
身体のダメージと疲労、そして無限に続く真っ暗な闇の中ユキノの意識は薄れて────影の中で見つけた戦車に捕まると、それに指示を出して影の入口まで浮上させた。
「ぷはっ…ハァ…ハァ…」
「チッ、そのまま死ねば良かったのに…!」
「ハァ…まだ…ハァ…ツキは残っていたようだ…!」
ユキノが秘儀で具現化する武装は簡単な命令を与えることが出来る。
機銃をタレットのように自動で機能させたり、ドローンを自動で飛ばして相手を追跡させたりなど、それを今回は影に沈んでいた車を真上に動くように指示を出したのだ。
ユキノと共に戦車が浮上したことでヒナはその分かかっていた質量から逃れることが出来たが影の中で戦車の代わりにまた別のものを沈めたのか、ヒナはまだ身動きが取れなかった。
「認めよう…お前は強い。だが…私の方が、強い!」
今度こそこの戦いに終止符を打つ為にユキノは戦車を消すと、残るリソースと神秘の全てを注ぎ込んで
領域内の空中に出現したのは────体育館をほぼ全て埋め尽くす程の巨大な戦車、P1000-FOX。
全長35m、全幅14m、高さ11mの陸上戦艦の異名を持つキヴォトス最大の戦車で、その巨大さ以外にも実際に砲塔に艦砲が搭載されているのが特徴である。
「
「考案した奴馬鹿すぎるでしょ!」
「私もそう思う!だが…これで終わりだぁ!」
馬鹿が考えたふざけたようなそれだが、質量だけはまさに戦略兵器であり当然そんなものを落とされればヒナであろうと抵抗の余地無く地面のシミとなるだろう。
全てを踏み潰してしまうようなそれがヒナを押し潰さんと落下して────
「!?」
(何だ、何が起こった…!?)
気付けば、ユキノは水の中に沈んでヒナに首を締め上げられていた。
一瞬また影の中に沈められたのかと錯覚したが、実際は押し潰される前に影に潜ったヒナがユキノに組み付くのと同時に領域を解除し、P1000-FOXが落下した衝撃で床が抜けて2人は地下にあったプールへと落ちたのだった。
なんとかヒナを振り払いプールから上がったユキノは、P1000-FOXを具現化させるのに神秘を使い果たし息も絶え絶え、四つん這いになってなんとか呼吸を整える。
そこに、ユキノが影に沈めていた重りを排出したヒナが崩れた体育館の瓦礫から見つけた鉄筋を拾ってユキノへと近付く。
「全く、水に使ったせいで弾が駄目になっちゃったじゃない…神秘もカラカラだし。でもそれは、貴女の方も同じでしょう?」
「…ああ、分かっている。ここからは…」
ユキノも腰に差していた警棒を取り出してヒナと相対する。
ここからは、単純明快な白兵戦。
(いや、奴にはまだ微量だが神秘が残っているな。一瞬だけなら式神を顕現させられるだろう。そうして不意打ちしようとしてくるところを…カウンターで仕留める!)
先にヒナが鉄筋を振りかざし、それをユキノが警棒で受け止める。
それぞれが得物に格闘を織り交ぜ、互いにそのセンスを発揮しての白兵。
ユキノはヒナが振り回す鉄筋や合間に差し込まれる蹴りを捌きながらも常にヒナが何処かのタイミングで呼び出してくるであろう式神に注意を向けていた。
それでも極限まで追い込まれた状況で逆にユキノの思考は活性化し、動きは鋭さを増している。
ヒナではユキノの格闘に付いて行けず次第に押され始め、鉄筋を警棒で上に弾き上げられた事で空いた無防備な身体に連続の蹴りが叩き込まれた。
(強い…!神秘も使わない体術でこれとか…流石ね。でも…)
(来るなら来い!使ってこい!今度は私が、お前の気が緩んだその瞬間を────)
「───終わりか…」
疾風のように駆け抜けた影が、ユキノの左肩を抉り取った。
影の正体は、アパートでの戦闘の時に吹き飛ばした筈の玉犬『渾』。
ある程度ダメージを受けた式神は暫く出せないと見抜いていたが故に、最初に吹き飛ばした『渾』を使ってくるという意識が抜け、神秘の無い今のユキノに『渾』の速度と力を凌げるはずが無かった。
「この子は、あれぐらいで動けなくなるほどヤワじゃないってことよ。同じイヌ科なら分かるでしょ?」
「ああ…よく知っていたさ…待っていたんだな、私の頭から『
「自分で言ったんでしょ?戦闘に駆け引きは付き物ってね」
ヒナからの意趣返しのようなそれを聞いて、ユキノは苦笑すると仰向けに倒れ込む。
『渾』によって肩と共に内蔵まで抉られ、大量出血どころではない損傷を負ったユキノのヘイローはひび割れ、いつ砕けてもおかしくは無い。
ユキノ自身もまた動く体力も、その気力もないらしく、力無く穴の空いた天井を見上げていた。
「…まさか特異現象捜査部如きに負けるとはな…私も相当付け上がってたらしい」
「ああ、やたらと油断することが多いと思ってたら…終始自分の方が上っていう驕りがあったのね」
「SRTはエリートだからな…無意識でもお前達を見下していたのは否定しない…」
今度こそ完全に決着が着いたのだとヒナは一息つくと、せっかくなのでマルクトと直接やり取りを交わしたらしい相手、残った時間で聞けるだけの情報を聞き出すことにした。
「…結局貴女、マルクトとはどんな取引をしたの?」
「…私は、私達はただ、SRTを復活させたかったんだ…皆の為に厳しい訓練に励んで、見識を深めて、持ちうる全てを使って特異現象を鎮めて皆を守る…その為に、戦ってきたというのに…連邦生徒会長が失踪した途端に私達は積み上げてきたものを奪われた…積み上げてきた力そのものを疎まれて、連邦生徒会長無き連邦生徒会はSRTを解体した…あんまりじゃないか…」
「それで、マルクトが何かしら貴女達を唆して復活させてあげるとでも?まさか本気で信じてた訳じゃないわよね?」
「当たり前だ…それに例えそれが叶ったとしても、キヴォトスの秩序は崩壊して、どの道SRTの存続は困難だろう…」
「じゃあ、なんで?」
「それは…」
強く問われた質問に、ユキノは迷うように言い淀む。
何かを探すように、何かを掴むように、何かを求めるように…そしてユキノの濁っていた目に光が灯り、雫が目の端から滴った。
「ああ、そうだ…私は…ニコと…クルミと…オトギと…皆と、戦いたかったんだ…」
「…」
ユキノは天井に残った右手を伸ばし、しかし届くはずも無く落ちる。
そんなユキノにヒナは背を向けてその場を後にしようとするが…
「…コガネ、あいつに私の
『あいよ!』
『…七度ユキノから41
ユキノは自分のコガネにそう伝えると、それを了承したコガネを介してヒナのコガネが報告する。
ヒナは振り返ってユキノを見下ろすと、ユキノは胸元から取り出した手帳…それに貼り付けてあった写真を凝視していた。
「…何のつもり?」
「今際の際の善行さ…すっかり忘れていたがな…お前、名前は…?」
「…空崎ヒナよ」
「そうか、空崎ヒナ…私やオトギを殺したんだ…せいぜい運命に翻弄されて、死ねばいい…」
最期にそう言い残すと、手帳を持っていたユキノの手が横に垂れ、手帳はプールの中に沈んで行く。
確かにユキノのヘイローが砕けたのを見届けたヒナは、ため息混じりにその場を去った。
『5
「…全く、正義のSRTの遺言とは思えないわね…はぁ…私も、無理し過ぎたかしら…」
しかしヒナもまた満身創痍、外に出てどこか休める場所を探し路地裏に入るも、先程の戦いで体力も神秘も使い果たし、遂には倒れ込んでしまう。
それでもヒナはまだ戦おうと這いずってでも動こうとするが…
『委員長、またそんなに仕事ばかりして…ワーカーホリックが改善するまで何度だってお小言は言わせてもらいますからね』
「…あなたも、風邪…引くわよ…」
寝かしつけられる子供のようにヒナは意識を目を瞑り暗転させて─────意識を失ったヒナの目の前に、”白衣の天使”が地面を割砕きながら降り立った。
ユキノと分断されカヤの相手をしていたニコは、大量のおいなりさん爆弾を使いカヤがいる建物の中を大爆発させる。
「やったかな!?」
「いいえ!彼女はしぶといですよ!」
「…もうやだぁ!」
何事も無かったかのような横に立っているカヤにビンタをかますニコだったが、ビンタはカヤの肌をぬるんと滑って受け流されてしまう。
ここまでカヤの相手をしてきたニコは、いい加減カヤの謎の耐久力に辟易としていた。
ニコが秘儀で生成するおいなりさん爆弾の威力は神秘で保護された生徒の肉体にすら絶大なダメージを与える威力を誇るが、カヤはそれらを受けてもアフロになったりアホ毛が燃えるぐらいの被害しか受けることはなく、それらも目を離すといつの間にか元の状態に戻っていた。
(あれだけ爆撃したらもう5回は殺せてる筈なのに…!最初の怪我も治ってるし、まさか恐怖を使えるの…!?いや、だとしても何回も神秘を反転させられるほど総量が多いようには見えないし)
『ニコ様』
「あーもう!何!?」
どうやったらカヤを倒せるのかと思考に耽っていたニコに、コガネが話かける。
思考を邪魔されて苛立ちながら何事かと聞くニコだったが…コガネの話を聞いて心臓が止まったのかと錯覚するほどの寒気を覚えた。
『七度ユキノ様がお亡くなりになりました』
「…ユキノ、ちゃんまで…」
「…おや?どうかしましたか?」
それを聞いて暫く、カヤも心配そうにニコの顔を覗き込むが…ニコはカヤに背を向けるとやる気をなくしたように歩き始めた。
「あの、何処に…?」
「もう、いい…クルミちゃんを回収して、帰る…もう、意味なんてないから…」
「…そうですか。ちゃんとお風呂に入って歯を磨いて健康を保ってくださいね。人生長生きするのが1番です!」
「…」
瞳に深い影を落としたニコは、カヤに蹴り飛ばされ瓦礫に埋もれたクルミを引っ張りあげると、担いで何処かへと姿を消した。
取り残されたカヤはその後ろ姿を見届けると、ヒナの様子を見に行こうと辺りを探し回る。
「ふんふ〜ん…しかしあれだけやっても私は無傷…やはり私は”超人”だったと言うことですね!」
不知火カヤ、その秘儀は『カヤが”ウケる”と確信したイメージを実現させる』というもの。
本来は全ての事象を思いのままに改変させることすら可能な秘儀だったが、カヤが『超人とは即ち”人々を笑顔にさせるもの”』という答えに至ったが為に自らの秘儀そのものの効果によってグレードダウンし、現在のような形に落ち着いたのである。
ちなみにカヤは自分の秘儀のことを何も知らない。
───D.U.第1
───元ミレニアム自治区
元ミレニアム自治区
優雅に椅子に腰掛けるロボットの男が、端末を操作して
「トドメは刺すなよ?瀕死の状態で連れてこい。ククッ、この
───
かつてキヴォトス征服を目論んだ大企業のトップ、死滅回遊の混乱に乗じ2度目の征服へと乗り出す。
カイザーPMCとオートマタ、2種の兵隊を使役し、それらが歩いた軌跡を自らの領域とする秘儀を持つ傑物。
良家の令嬢にも見える悪魔のような片翼を持った少女は、華奢な手足に見合わない大型の武装を携えてビルの屋上から
「足りない、足りない、満ち足りません…究極の美食はまだ…!」
───
美食を追求し、お眼鏡に叶わなかった飲食店は問答無用で破壊、数々のテロ行為を繰り返して指名手配、あらゆる追手も退け連邦生徒会にも甚大な被害を与え、現在アウトローとして特級に区分。
全
前な全開となったシャツが風ではためくと、その下に見える局部は不自然に透明のインクが塗られたように消えていた。
「ふふふ♡…もっと激しくしましょうか♡」
───
元トリニティ総合学園の生徒だったが、度重なる人間関係のストレスに露出趣味に走り、度が過ぎて学園を追放。
その後も公然猥褻を繰り返し捕縛にやってきたヴァルキューレや連邦生徒会の私兵、特異現象捜査部を尽く返り討ちにして、現在アウトローとして特級に区分。
幾つもの崩壊したビルの残骸と無惨に解体された特異体の山の上を奇声を上げながら歩くのは、地獄の悪鬼のような形相をしたおどろおどろしい少女。
「きぇぇぇ…ギエェアァァァァァ!」
───
その形相の恐ろしさから幾度となく職質され続け、果ては特異現象被害によって生徒が死亡した事件で近くに通りかかっただけで加害者を疑われ、捕縛されそうになるも奇声を上げて逃走。
その後連邦生徒会や特異現象捜査部からの刺客も圧倒的な戦闘力でねじ伏せ、危険視された結果現在アウトローとして特級に区分。
同盟はなく、拮抗した実力と相性による三竦みの四巴。
だが…その一角が、落ちる。
「バカ、な…」
「…ん」
もぎ取ったカイザー・プレジデントの頭を放り捨て、身体に着いた埃を払い落とすは黒衣の少女。
───
去年ユメの引き起こした百物語後、3ヶ月で特級に返り咲いた…小鳥遊ホシノに次ぐ現代の、異能。
配役
ドゥルヴ…カイザー・プレジデント
石流…ハルナ
烏鷺…ハナコ
黒沐死…ツルギ