ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作177〜179話までの範囲でお送りします


元ミレニアム自治区結界─参─

 

「来て、”センセイ”…全部だよ」

 

「「!」」

 

クロコが懐から取り出した黒く煤けたボロボロのカードを掲げたその瞬間…顕現したのは、仮面を着けた巨大な体躯の存在…”プレナパテス”。

これまで頭部や腕のみを顕現させていた時とは違う、全身とその全ての力を解放した完全顕現。

それと共にクロコ自身のかなり消耗していたはずの神秘も膨れ上がり、ハナコとハルナはそれぞれ警戒を強めた。

 

(式神?の完全顕現…今までは本気ではなかったとでも…!?)

 

(どういう理屈でしょうか…クロコさん自身の神秘もまた湧き上がってきてますわね。なんにせよ…そう来なくてはつまりませんわ!)

 

 

完全顕現したプレナパテスはボロボロのカードを懐に仕舞っているクロコの背後まで歩み寄ると、マントのような衣装の中に自らの腕を突っ込み、クロコに優しい声で話し掛けた。

 

”クロコ、どれがいい?”

 

そう聞いたのと同時にプレナパテスが衣装の中に突っ込んでいた腕を引き抜くと、先の見えない真っ暗な空間が衣装の中に広がって…そこから様々な銃火器や刀剣、補助武器等の多種多様な遺物が覗いた。

それらを見てクロコは少し思案すると、その中のガントレットのような遺物を指差した。

 

「それがいいな」

 

”うん、分かった”

 

クロコが選んだガントレットの遺物をプレナパテスは意気揚々とクロコの腕に装着し、クロコも手厚く世話を焼いてくれるプレナパテスを見て小さく微笑んだ。

 

 

『プレナパテス』は”先生”の成仏後クロコに残された、()()()の秘儀と神秘の備蓄。

カードを通してプレナパテスとのパスを繋いで接続する間のみクロコは『秘儀の使用』、『プレナパテスの完全顕現』、『プレナパテスからの神秘の供給』が可能となる。

この接続中のクロコはまさに無敵であるが…代わりにその接続可能時間は5分間。

 

クロコの腕にガントレットの装着を終えたプレナパテスがクロコの前に出て殺気を強めると…その対象であるハナコはツーっと背中を冷や汗が伝うのを感じながらも臨戦態勢を取った。

 

「ん、行こうか」

 

”うん”

 

 

「私から…!舐めてくれますね!」

 

まず先にプレナパテスが上空のクロコに向かって飛びかかった。

その巨躯に見合わない速度だが、それでも距離もあってハナコが反応できないほどでは無い。

ゆえにハナコは秘儀を発動し空間を掴んで歪ませることでそれを躱そうとするが…プレナパテスの背後でクロコが何かを喋ったのを見た。

 

 

 

『働くな』

 

 

 

「っ!?身体が…ぐっ!?」

 

クロコの発した言葉、それが耳に入った瞬間ハナコは防御をする前に身動きを封じられ、無防備に空中で固まったところをプレナパテスに足を掴まれてクロコの方へと放り投げられた。

自身を襲う金縛りのような謎の硬直を破ろうと頭を素早く回転させ体内の神秘も操って試行錯誤するハナコだが、対処法を弾き出す前に地上の黒子の元まで高度を落としてしまい…ガントレットを付けた方の腕で何度も全身を殴られた。

 

「ぶっ…がっ…!」

 

ガントレットの遺物によって強化されているのか、辛うじて全身に巡らせた神秘による保護が意味をなさない程の威力による乱打を受け、この戦闘が始まって初めてハナコは口や鼻から出血する。

さらに畳かけようとしていたクロコだったが、そこに近くの建物の上で神秘が高まるのを察知してハナコへの追撃を諦めプレナパテスを呼び戻し、バレーのレシーブでもするような形を作ったプレナパテスの腕の上に足をかけた。

 

そんなクロコへと、武装を構えたハルナがテンションを上げてそれをぶっぱなす。

 

「なんとも…!甘い展開ではないですか!」

 

 

「センセイ」

 

”うん”

 

ハルナが放った高出力の神秘による極太の光線。

それをクロコはプレナパテスによって空中に打ち上げられて回避し…残ったプレナパテスは迫る光線へと腕を突き出すと、頑強さのみでそれを弾き返して多少手の表面を焦がす程度のダメージで押さえ込んで見せた。

 

(効いていない!硬さはクロコさん以上というわけですわね!)

 

プレナパテスの強大さに昂りを隠せないハルナは嬉々としてプレナパテスへと迫り、莫大な神秘出力を活かした身体強化による豪腕を振るった。

それはプレナパテスすら軽々と吹っ飛ばして屋根の上に着弾するが、それでもプレナパテス自身は大してダメージを負った様子もなくハルナをじっと見つめている。

 

「まだまだ食べ盛り…完食には程遠いですわ!」

 

 

 

 

ハルナがプレナパテスの相手をしている間、離脱したクロコはハナコと交戦していた。

クロコはガントレットをつけてもらった際にプレナパテスから受け取っていた4つの小型ドローンを起動すると、それをハナコに向けて飛ばした。

小型ドローンはハナコの周囲を縦横無尽に飛び回り、それをハナコは鬱陶しそうに回避する。

 

(あのドローン、砂狼さんの神秘が込められて式神化していますね…!壊そうとしてもそれなりに強く攻撃しないと壊せないはず…なら、本体を狙うまで!)

「いつだってそうです!トリニティ(貴女方)は!そうやって利己的で、他人を自分にとっての利用価値で測る!人の心も思いも踏み躙って、上辺でしか人を見ない無関心さも!嫌いな相手には直接それを伝えることもせず裏で手を引いて陥れる陰湿さも!もううんざりなんですよ!そんなに恐ろしいですか!?自分が何かを失うのが!」

 

激情を顕にして、それによって高まる神秘を言葉と共に存分にクロコへとぶつけるハナコ。

1人の少女にそれ程までの怒りと憎悪を抱かせるまでに陰謀と策謀に塗れ、陰湿なイジメが横行するトリニティという学園。

良くも悪くも派閥に目を付けられれば周囲の機嫌を取りながら生きることを強制され、時に誰かを貶めるような行動すら取らされる魔窟。

そんな地獄の中で周囲の悪意に染まりきれなかったハナコはハジけることを決め、自分を隠し偽ることを止め全てをさらけ出すという意味で露出に目覚めてしまった。

 

(私はもう、自分の好きに生きるんです!1度諦めた楽しい青春を、今度こそ掴む為に…!)

「…っ!?」

 

途端、空中を跳ね回るように移動していたハナコの身体に突如として複数の切り傷が走る。

まるで張り巡らされた鋭いワイヤーに触れてしまったようなそれの正体がこの結界(コロニー)内でハナコが見たことがあるとある人物の秘儀であることに時間はかからなかった。

 

(あの式神化したドローン…あれの軌跡が領域になっている!?プレジデントの秘儀のように!?…思えば先程動きを止められたあれは『言霊』という由緒ある秘儀だったはず…砂狼クロコは式神使いじゃない、砂狼クロコの秘儀は…『模倣(コピー)』!)

 

「ん、捉えた」

「うっ…!」

 

ドローンによって張り巡らされた不可視の領域、それを観測できない以上下手に動くことも出来ず、行動範囲が制限されたハナコへとクロコは跳躍するとガントレットを着けた方の腕を振り抜いた。

強烈な打撃はハナコを吹っ飛ばし…その際にドローンが張っていた領域に引っかかり切り傷がさらに増えていく。

全身を血で赤く染め出血も増えてきたハナコは忌々しそうに舌打ちすると、これ以上領域を広げられるのも面倒だと空間を掴んで歪めると、それに4つのドローン全てを巻き込んで1箇所に集めるように絞り、そこへ両手を突き出した。

 

空間がひび割れ、それによって生じた衝撃によって全てのドローンが粉砕される。

だがドローンへ意識が割かれたことでクロコへの警戒が弱まってしまい、追いついてきたクロコは容赦なく腕を振り抜いて…ハナコもまた迫る腕に両腕を突き出して迎え撃った。

 

クロコが振るったガントレットで覆われた腕とハナコが引き起こした空間のひび割れによる衝撃は拮抗し、クロコの腕はハナコの両手に収まる形でピタリと止まる。

 

「あなたが言ってることはよく分からないけど、1人で何かをするのはきっといつか限界が来る。背負いすぎちゃダメだよ」

「っ…!何が、ですか!散々私を利用して、散々私に手を汚させて…それではまだ足りないというのですか!まだ、私を自由にはしてくれないと言うのですか!」

「いやだから…!」

 

何か話が食い違っている事に気付いたクロコはより激情を昂らせるハナコを何とか諌めようと対話を試みようとするも、ハナコが両手で左右の空間を掴んで腕を交差させるように引っ張って空間を歪ませ、歪んだ空間によって視界が悪くなったのを目くらましにしてその裏から放たれたハナコによる蹴りが歪んだ空間越しにクロコを蹴り飛ばした。

 

空間の歪みがクッションになってダメージ自体はそこまででは無いが、代わりに異常な程にノックバックを受け建物を何棟も貫通して吹っ飛ばされる。

 

「ん…さっきからやたらと吹っ飛ばされてる気がする…いい加減背中痛い…ん?」

 

「あら、奇遇ですわね!」

 

吹っ飛んだ先では、丁度ハルナがプレナパテスを攻め立てている所だった。

プレナパテスはハルナの如何なる攻撃も寄せ付けず純粋なフィジカルのみでハルナを圧倒しているが、それすらもハルナは楽しみながら戦闘していた。

そこにクロコを吹き飛ばしたハナコも追いついてくるのを見るやいなや…ハルナはプレナパテスを殴り飛ばした後に距離を取ってクロコとハナコの間に割って入ると、武装を置いて掌印を結んだ。

 

「「!」」

「皆さんも使えるのでしょう!?ここまで来たのならば、最早言葉などでは終わらせませんわ!」

 

ハルナの言葉と結んだ掌印、それが何を表しているのかを理解したクロコとハナコは、それに倣って自分達も掌印を結んだ。

 

 

 

「神秘解放っ!」

 

「神秘解放」

 

「神秘解放ですわ!」

 

 

三者三様の神秘解放。

領域の押し合いになればそれぞれの領域の必中効果は打ち消し合うことになる。

その間にハルナとハナコは押し合いの主導権がクロコへに譲らない為に結界内にプレナパテスを入れないという選択肢を取る。

 

(後から結界に侵入されようと…!)

 

(ダラダラと押し合いをするつもりはありませんわ!甘い決着と行きましょう!)

 

直前にハルナによって殴り飛ばされていたプレナパテスは2人が策を弄するまでもなく結界の構築に間に合わず、領域内への侵入が叶わない。

だが、クロコと隔離されたという事実がプレナパテスに残った”先生”の意志を刺激し、プレナパテスは出力(ギア)を1段階上昇させた。

 

 

”クロコを、1人にはさせない”

 

 

パワーも速度も増したプレナパテスが3人の重なった結界へと殴りかかったのと同時に───周囲に奇声が響き渡り、それが結界の上に着地するように降り立つとその衝撃によって結界の外殻に大きな亀裂が走った。

 

 

「私のぉぉ…!青春はどこだあぁぁ!!」

 

 

降り立ったのは、悪鬼羅刹の如き凶相を浮かべる破壊神。

漆黒の翼を広げ血の滴るようなヘイローがよりその凶悪さを引き立てる、血に飢えた悪魔のような怪物。

クロコによって地底火山の噴火に巻き込まれ溶岩に飲まれ、地割れの底の地脈へと叩き落とされた剣先ツルギはそれでもなお生還し、それによって受けたダメージも完全に回復した状態で再びその猛威を振るう。

 

二者で行うよりもより煩雑な三者の神秘解放。

各々の結界の構築時の対内条件と対外条件の相違。

ツルギとプレナパテスのからの外殻への攻撃。

 

それらの要因が重なり合い、領域は崩壊する。

外に弾き出されたクロコ、ハナコ、ハルナ。

各員何が起きたのかを把握するのに務める中、真っ先に状況を理解したハナコは自身と相性の悪いツルギへと注意を向け先手を打って対処を試みようとする。

 

 

そして、その隙をクロコは見逃さなかった。

 

「ん、落ちて」

「ぐあっ!?っ、この、ふざけないでください…!」

 

ハナコはクロコによってツルギの方へと蹴り落とされ、クロコへ毒を吐くがツルギの殺気が自分に向いているのに気付き空間を掴んで歪ませ防御しようとするが…神秘解放の使用直後は秘儀が焼き切れ使用が困難になる。

何度も変化を繰り返す戦況に思考が周り切らなかったハナコはそれを失念し、空間を捉える秘儀が維持出来ず歪んでいた空間はハナコの制御を外れて元の状態に戻ってしまう。

 

「しまっ…」

「ぎえぇぇぇぇぇ!!」

「ああっ!?」

 

結果襲いかかってくるツルギへの対処が出来ず、ツルギはハナコの肩と腕を掴むと力づくでそれを二の腕あたりから引きちぎって放り捨てた。

そこに、放り捨てられた腕をプレナパテスが掴みあげると、それを衣装の中の空間へと収納する。

 

「くっ…!砂狼さん…っ!」

 

「ふぅ、徹底していますわね」

 

ちぎられた腕を回収された事にハナコは憤り、ハルナは万が一ハナコが”恐怖”による治癒を使えた場合の腕を修復される可能性を減らす為にプレナパテスへと指示を出したのだろうと見抜いて感嘆する。

如何に恐怖を使えたと言えど、普通は無い腕を生やすなど出来はしないのだ。

 

そしてそれを見たハルナは落ちていた武装を拾うと、それに神秘を込めてハナコへと向ける。

 

「よくも、あなたはっ…!」

「もう良いでしょう、ハナコさん。あとツルギさんも…貴女方はこのテーブルに呼ばれていないのですから」

「っ…!」

「ぎあぁ!?」

 

 

「『グラニテブラスト』」

 

ハルナの秘儀は、神秘の放出による攻撃を行う際にそれに対象への追尾性能や射程強化、拡散等の様々な補助を付けるというもの。

神秘の放出による攻撃の威力そのものはハルナの自前の神秘出力によるものであり…単純な攻撃力だけならば、ハルナは秘儀が焼き切れていようと遜色なく叩き出すことが出来るのだ。

 

ハルナの放った極太の光線。

秘儀による対処が不可になり、出血や披露、ツルギに腕をちぎられたことによる運動能力の低下も合わさって今更ハナコにそれを回避することが出来るはずもなく…近くにいたツルギ諸共それに巻き込まれて吹き飛ばされ、遂にハナコはその意識を落とした。

 

「きひ、ああぁぁぁぁぁ!!」

「ん、だから話すのは後で温泉で」

「あぁ!?」

 

巻き込まれたツルギはそれでもなお立ち上がるが、怪我や損傷は回復できたとしても神秘の消費や蓄積した疲労はそうはいかない。

ハルナの『グラニテブラスト』を受けて回復中の今が好機と見たクロコによって頭を捕まれ、地響きが起きるほどの威力で地面に叩きつけられ今度こそ完全に気絶する。

 

「…私達で最後ですわね、クロコさん」

「ううん、君で最後。残るのは私」

「ふふっ、言ってくれるじゃないですか!さあ…卓に着くとしましょうか!」

 

ハルナは武装を構え、それにありったけの神秘を込める。

ハルナにとってのメインディッシュでありデザート、苦戦の末にようやく作り上げた、待ちに待ったご馳走。

後のことは考えないような、次の一撃で雌雄を決するとでも言わんばかりに砲口に集っていく莫大な神秘を前に…クロコは背後にプレナパテスを立たせると、片腕を前に出してハルナへと向けた。

 

「行くよ、センセイ」

 

クロコの手の先に、溢れんばかりの膨大な神秘が収束していく。

クロコとプレナパテスの絆の深さを表すような、どこまでも深い桃色のエネルギー。

プレナパテスの完全顕現中にのみ可能となる、無制限の神秘を存分に活かした神秘の高出力放出。

 

だが、それでも一度に出せる最大量には限界があり…その最大出力はハルナにもやや劣るだろう。

故に、クロコはハルナが神秘のチャージを終わらせる前に先に神秘を溜めて出力が最大に達する前に放つ…つもりだった。

 

「…!」

 

「出し切りましょう、クロコさん」

 

クロコが目にしたのは、味わったことの無いような美食を追求し、長い旅を続けてきた求道者の渇望。

求めど求めど見つけることの出来なかった乾きを前にしたハルナの熱い眼差しが…おそらく今後二度と戦いそのものに熱を見出すことの無いクロコの、心を動かした。

 

「…1回だけだよ」

「っ!そう来なくては…!」

 

速射を止め、結果が分かりきっているとしてもクロコは苦笑してハルナとの撃ち合いに乗った。

ハルナの武装にチャージされていく神秘、クロコの手の先に集まる収束する神秘。

それらが互いに臨界点を迎え────同時に放たれた。

 

クロコが解き放った神秘エネルギーの塊を、ハルナが放った極太の光線が撃ち貫いてクロコへと直撃、あえなく吹き飛ばされて後方の建物に突っ込んだ。

 

「クロコさん…実に美味でしたわ…あら?」

 

崩壊した建物の瓦礫に沈むクロコへ最大限の賛辞を述べるハルナだったが…巻き上がった土煙、その内側から感じる莫大な神秘の収束を感じ取りハルナはクロコがまだ戦える状態であることを察する。

そしてその神秘の収束は先程クロコが放った高出力の神秘放出と同様のものであり…ハルナは再び武装に神秘をチャージした。

 

「そうですわね…何度だってやりましょう!お腹がはち切れるまで、何度でも!」

 

「いや、もう終わり」

「!?」

 

クロコの言葉と共に荒れ狂う神秘の収束によって生じた風圧が土煙を吹き飛ばして晴らし…そこには腕の中に神秘を収束させているプレナパテスの姿のみがあった。

ならばクロコはどこに行ったのかとハルナは見回すと、土煙に紛れてハルナへと距離を詰めようとしていた。

 

(神秘の放出はあのデカブツ単体でも出来るのですか。ですが…!)

 

想定外の手札を切ってきたことにハルナはむしろ興奮し、プレナパテスが放った神秘放出を片手で受け止め、そして弾いた。

ハルナの『グラニテブラスト』をクロコが弾けるのならば、それより神秘出力の高いハルナがそれより神秘出力の低いクロコのそれを弾けない道理は無い。

だが実際にプレナパテスとの絆の結晶である渾身の一撃を易々と弾かれたことにクロコは微妙な表情を浮かべるも、やることは変わらずハルナへと肉薄する。

 

「貴女方に出来ることは私にだって出来ますわ!威力もお粗末です!」

「それは結構、でも愛の結晶は素直に受け止めるべき。弾かれたりお粗末って言われたりで傷付いた」

「それについては失礼しましたわ!クロコさん!」

 

この期に及んでのアホな会話に付き合ったハルナは、この戦いに決着を着けるために武装にチャージした最大出力の『グラニテブラスト』をクロコへと放った。

何度も行われた”恐怖”による治癒、領域の使用、ハルナとの撃ち合いでの大量の神秘の消費…今のクロコには、それを受けた上で十分な回復が出来るほどの余力は残されていなかった。

 

直撃すれば間違いなく致命傷となり勝負が決する『グラニテブラスト』の光線。

終幕の一撃がクロコの眼前へと迫り────クロコは()()()()()と、それを歪ませて迫る光線を真上へと逸らした。

 

「なっ…!?それは、ハナコさんの…!?」

「ん、使って分かる。良い秘儀」

 

クロコの秘儀は既に回復していた。

だがそれが分かったとしてハルナの脳裏には疑問が残る。

プレナパテスの相手をしていたが為にクロコがプレジデントの秘儀を使った所を見ていないハルナだが、クロコがただの式神使いだとは思ってはいなかった。

 

(クロコさんがハナコさんに使っていた動きを止めるあれ…『言霊』。あれがクロコさんの秘儀だとしてあのデカブツの方もクロコさんとは別の秘儀を持っていると推測していましたが…違った!クロコさんの秘儀は『模倣(コピー)』!ですが無条件でコピー出来る訳では無いはず!何か条件が…一体いつ…まさか───)

 

そうしてハルナが思い浮かべたのは、プレナパテスがちぎれたハナコの腕を回収した時。

衣装の奥の暗闇、あれがプレナパテスの体内に通じているならば、プレナパテスが対象の身体の一部、または縁の深いものを取り込むことでその対象の秘儀をクロコが使えるようになると予想する。

だが、そこまでの思考に意識の大半を割いてしまったが為に迫るクロコへの対処が間に合わず…クロコは合わせた両手をハルナの腹へと突き出した。

 

「『薄衣(うすらい)』」

「ごふっ…!?」

 

クロコの両手がハルナの腹に打ち込まれたのと同時、生じた空間の歪みとひび割れが強烈な衝撃を生み出し、それがハルナの莫大な神秘出力による強力な保護を貫通して肉体にダメージを与えた。

派手に血を吐きその場に膝を着いたハルナに、クロコの背後から飛び上がったプレナパテスが腕を振り下ろしてハルナを地面に叩き付ける。

しかし丁度その時、クロコがプレナパテスと接続した時から5分が経過、プレナパテスとの接続が絶たれた。

 

それによってプレナパテスの動きが鈍った瞬間…勢いよく飛び起きたハルナの拳がプレナパテスの顔面へと突き刺さる。

完全顕現でも持て余す一撃にプレナパテスは顕現状態を維持出来ず、限界を迎えて影に飲まれるように消失する。

だがクロコはそれに動じるでもなく、攻撃直後の無防備なハルナへと蹴りを入れた。

 

「ふんっ…!」

「うっ…ぐっ…!ふふ、ふふふっ!知りませんでしたわ!出し切った後があるだなんて…!」

 

プレナパテスが使えなくなり神秘の供給も途絶え、本人の神秘も殆ど消耗しているクロコにハルナは残る力の全てを振り絞って迎え撃つ。

この距離では、そして残る神秘では『グラニテブラスト』を十分に活用出来ないと判断すると武装を放り捨て、ハルナは体術のみでクロコへと食らいついた。

莫大な神秘出力による身体強化の完成度は健在、みるみる内にハルナの神秘は減っていくもののそれもどこまでも昂る激情によって緩和し、殴り合いは身体強化の差でハルナが優勢。

 

(全てを味わい尽くしたと思った先にまだ存在する美食…これこそが、私が求め続けたデザート!)

 

あと1分でもこの殴り合いが続けばハルナに軍配が上がるだろう。

目前の勝利を確信したハルナがクロコの顎下を蹴り上げて浮き上がった身体に渾身のボディブローを入れる。

 

「…っ!?」

「そう何度もお腹ばっか殴られたら食べたもの吐いちゃう。だからこれで終わり」

 

クロコはそんなハルナのボディブローを両手で受け止めたかと思えば、ハルナの肩と腰を掴むとハルナをその場に縫い付けるように体重を真下にかけた。

足が地面に沈み込み踏ん張らなければそのまま埋められそうな圧力になんのつもりかとクロコを睨むハルナだったが────次の瞬間、空から一直線に落下してきた光線が身動きの出来ないハルナを飲み込んだ。

 

「カハッ…」

(な…今、のは…私の…ああ、なるほど…ハナコさんの秘儀で、逸らした私の『グラニテブラスト』の軌道を私に向けて戻していたのですか…)

 

自身の渾身の一撃が自分へと返され、煙を吐いてハルナは仰向けに倒れ込んだ。

しかしその表情は妙に爽やかで…ハルナは自身を見下ろすクロコに微笑むと、目を閉じて感謝を告げる。

 

「ありがとうございました…満腹ですわ」

「ん、ごちそうさま」

 

 

 

───元ミレニアム自治区結界(コロニー) 平定

 

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