ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作181〜182話までの範囲でお送りします


D.U.第2結界

 

「限界が来るのはあなたの方ですよ、砂狼さん。私はトリニティの古書館を漁った時にそれを見たんです。太古より記された古い文献で、文字に滲んだ筆者の圧倒的なまでの恐怖を…自己のみで完結した、他を顧みない災いを」

 

それを思い出すだけで震えが止まらないと、ハナコは残った右腕で二の腕から先が飛んだ左の肩を抱いた。

そんな話を聞いていたのは、先の戦いでの勝者であるクロコ───そして生き残ったハルナとツルギであった。

クロコはともかくとして、ハルナとツルギは居心地悪そうにクロコ達と席を共にしている。

というのも場所が場所であり…4人は仲良く結界(コロニー)内にあった露天風呂に肩を並べて浸かっていた。

 

「ハナコさんも普通に話してますが…クロコさん、何故…?」

「ん、ツルギと後で一緒に温泉行こうって約束した。だからついでに皆も一緒に入るべき」

「…了承した覚えはないぞ…」

「あら、ツルギさん普通に喋れたんですか?いつも血塗れで目立ちませんでしたけど意外と魅力的な体付きをしてるんですね♡」

「な、なんだぁ…」

「こら、怖がらせない」

「…皆さん納得しているのならそれ以上は何も言いませんわ」

 

死闘とも言えるあの乱戦の後、クロコはスタジアムに避難させていた一般人達の無事を確認して改めて結界(コロニー)の橋の方へと避難を済ませて戦場へと戻ると、意識を取り戻したハルナ達をクロコは強引に誘って温泉へと連れ込んでこの状況になっていた。

勿論一同はそれに困惑したが今更文句を言う体力も気力もなくなあなあでそれに付き合っている。

そんな中でも真っ先にクロコのノリに順応したハナコは、先程のクロコへと向けていた怒りが嘘かのように普通に話しているものだからハルナも呆れが隠せていない。

 

「それに今の私が言うものでもありませんが…甘すぎますわ、クロコさん。1度敵対した相手を生かすなど…それに私達は貴女方の宿敵である凶悪なアウトローですのに」

「ハナコは私の知る限りでは一般人に被害を…建造物への被害とかはさておいて、関係ない人を巻き込んで怪我させたことはないし。それは死滅回遊でもそう、でしょ?」

「まあ、そうですね。私はあくまで自分の全てをさらけ出して己のままに外を出歩いていただけですから。捕まえに来る悪漢達は返り討ちにさせてもらいましたが、殺したことはありませんよ?」

「じゃあいい」

 

あっさりとハナコを認めたクロコに何よりハナコ本人が目をぱちくりとさせて驚いていたようだった。

その後に暫く目を閉じて何かを考えると、納得するように1人頷き始めた。

 

「そう、ですよね…そうですよね。砂狼さん、貴女の出身校は?」

「ん…初等部はアビドス。途中で高等部まで田舎の学校に転校して、高等部からはS.C.H.A.L.Eの特異現象捜査部に入った」

「やはり…砂狼さん、大変申し訳ありませんでした」

「?」

「何を焦っていたのか、貴女に理不尽な怒りをぶつけあまつさえ砂狼さんをあのような腐敗し悪意に満ち満ちた学園の人達と同様に扱うなんて…」

「トリニティが余程嫌いなのですわねハナコさん」

「私も元出身校だから知ってるがあそこは色々と生きづらいからな」

 

ハナコの懺悔に茶々を入れる者が約二名いたが、それを無視してクロコはハナコの話を咀嚼し頬に指を当てて湯煙の立つ空を見上げるが…結局なんのことがさっぱりといった様子で首を傾げた。

ハナコは「えぇ…」と引いているが、クロコと全てをぶつけあったハルナは他2人よりはクロコの人となりを理解していると謎のマウントに溢れたドヤ顔を見せる。

 

「クロコさんらしいと言えますわ。そも、クロコさんにかの学園の陰湿な方々のような知恵は回りませんもの」

「ん、今馬鹿にされた気がした」

「お前最後クロコにまんまとしてやられてなかったか…?」

「なんで覚えてるんですかツルギさん。気持ちの良い決着だったから良いんですわ」

「そっか。それで、次はツルギの方の話もそろそろ聞きたいんだけど」

「…私は昔から顔が怖いってよく言われる。それが嫌だと感じたことは無い。むしろ都合が良いと思う時さえあった。ただ…それが行き過ぎてやっても無い事件の犯人だと勘違いされたのは心外だ」

「ん、確かに最初見た時1000人は殺ってるって確信した。勘違いだった」

「…」

 

先程の戦闘時の荒れ狂った怪物のような雰囲気はどこへやら、落ち着いた様子で意外と口数の多さを見せるツルギにハルナとハナコは興味深そうにし、クロコが語った事実にツルギは若干ショックを受けている様子だった。

なんなら自分達も初見の際は同じように思ったなどハルナとハナコは口が裂けても言えやしない。

 

「それにツルギは(ポイント)見る限り一般人は殺してないんでしょ?稼いだ(ポイント)も多分自衛のために襲ってきた連中を返り討ちにしただけ。違う?」

「ああ…そうだな。それでも人を殺す感覚はいいものだとは思わないが」

「ん、私だって悪いアウトローならバンバン殺してるから気負わなくていい」

 

「だとすれば、クロコさん。尚更何故私を生かしたのですか?私は元々の活動でも多くの方に被害を与え、死滅回遊が始まってからも少なくとも何度か攻撃範囲に関係の無い方々を巻き込んで殺めております。ならば私を確実に始末するのが安全だったはずですわ」

「それは…ハナコとツルギにも言えることだけど」

「「?」」

「さっき死滅回遊に新しい総則(ルール)が追加された。コガネ」

 

『あいよ!総則(ルール)10!”泳者(プレイヤー)は他泳者(プレイヤー)に任意の(ポイント)を譲渡することが出来る”』

 

「ってわけで、(ポイント)ちょうだい」

 

3人の前に犬かきで泳いで向き直ったクロコは、両手を前に出してそうせがんだ。

呆気にとられる3人だったが、揃って苦笑すると敗者からの簒奪は勝者の特権と、それぞれが保持していた(ポイント)をクロコへと譲り渡した。

これによりクロコの(ポイント)は元々の(ポイント)35点にハルナ77点、ハナコ70点、ツルギ55点の(ポイント)が加わり…占めて247点となった。

2回分は総則(ルール)を追加できる程度に集まった(ポイント)にクロコはホクホクとした様子で追加する総則(ルール)の詳細を詰めていた所に、(ポイント)を全て渡して素寒貧となったハルナがおずおずと聞いた。

 

「クロコさん。つまりは(ポイント)目当てで私を…そしてハナコさんとツルギさんを生かすことを決めたと?」

「ん…どうだろうね───私の仲間に感謝するべき」

 

「…くひっ」

「うふふ…♡」

「あらまあ…」

 

嫌味のない柔らかなクロコの笑顔、そしてその奥に感情として存在する地獄の圧迫のような殺意を感じ取り、3人はそれはそれは恐ろしいと笑い出す。

結界(コロニー)内は覇を争っていたプレジデント、ツルギ、ハナコ、ハルナによって殆どの好戦的な泳者(プレイヤー)が狩り尽くされていたがためにこうしてクロコ達が呑気に温泉に浸かっていても平穏なもので、4人はそれぞれの身の上話や今後の死滅回遊の攻略に向けた立ち回りを裸の付き合いをしながらまるで戦友同士かのようにわちゃわちゃと話し合うのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「怪談とはぁ、何を持って”風流”な怪談だと考えますでしょうかぁ?話の怖さ?いえいえ、ただの怖さで怪談の善し悪しは決められないでしょう。物語に登場する怪異?同じ題材でも怪談の面白さなんて話によって千差万別でしょうねぇ。それか、おどろおどろしい雰囲気さえあればそれは良い怪談と言えるのでしょうかぁ?」

「…普通に席に着いて話そうね」

「あ、はい」

 

死滅回遊が開催されるより何日か前のこと。

D.U.のとある出版社に原稿を持って押し掛けた小柄でボロボロの衣装の少女は、テーブルの上に座って何やら得意げに語っていた所を編集者に諌められて素直に椅子へ座り直した。

しかしどこか上からな態度はそのままで、少女は原稿を編集の人に見せている間も手の先で万年筆をクルクルと回して弄ぶ。

 

「ふ〜ん…君、その格好は百鬼夜行の出身かな?」

「えぇえぇ、()()さんの見た通りですよぉ。人間目に見えるものが全てなんですからぁ、視覚という情報は大事にしやがり下さいってわけですよぉ」

「はい…?えっと、何か気に障ることでも…?」

「まさかぁ、お気にならさずに」

 

掴みどころのない少女に編集者は困惑するが、原稿を持って出版社(ここ)を訪れたのならば大事なのはその原稿の出来栄えだと、改めて原稿とにらめっこを再開する。

それから十数分、少女に渡された分の原稿を一通り読み終わった編集者は、疲れたようにため息を吐いてコーヒーを一啜りした。

 

「仲良くしましょう、その原稿を読めば手前と長い付き合いになることがよく分かるでしょう」

「う〜ん…いや、ね?昔話とか古典を取り入れてアレンジしたホラー系ハチャメチャ友情コメディ忍者付きっていうのはありがちだけど悪くは無いんだよ?」

「…ありがち?」

「この主人公が親友を失って心折れた所に現れた怪異が主人公の恐怖を煽りに来るシーンは中々センスあると思ったけど、それと比べてその後の恐怖を乗り越えた主人公と対面した時に黒幕である筈の怪異が感涙してクソめんどくさい厄介ファンみたいな長文で語り始めた所はどうにかならなかったの?ちょっと読んでて情緒が追いつかないって言うか…騒動起こしておいて勝手に感動するのはカタルシスがないって言うか…」

「…いや流さないで下さい割と斬新な所を攻めたつもりなのにありがちってなんなんですかぁ」

「この後何度主人公側が黒幕を追い詰めても素晴らしいだの手前泣きますだので黒幕が無敵の人になって終わるから気持ちよさがないんだよね。それに描写不足。なんか突然主人公の仲間の1人が意味のわからない怪物に変わってたけどそれの前置きがないって言うか、本当に唐突なんだよ。普通お話を作るならこんな書き方ありえないって言うか…」

 

編集者は忌憚のない意見を連ね、少女が持ち寄った原稿の粗を指摘していく。

勿論それに少女自身を責めるつもりはなく、良いところを踏まえた上での指摘で将来性も感じていた編集者だったが…少女は羽織の内側から1冊のボロボロの本のようなものを取り出すと、適当にその中の1ページを開いた。

 

「…?それはなっ…あああぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

次の瞬間、本から溢れた黒い靄が編集者を飲み込み、やがてその全身を覆い尽くすと…靄が晴れたそこにはこけし人形のような1つの特異体が鎮座していた。

 

「ほぉら、現実に突然こんなことも起きるものじゃないですかぁ」

 

そんな特異体へと変質した編集者に背を向けた少女は、捨て台詞を吐くと不機嫌そうに出版社を後にする。

去り際に、少女は頭の中に編集者からのダメだしが反響し、それが胸の内に理解不能な激情が起こるのを感じた。

 

「一体なんなんですかぁ…!風流とは、怪談とは…!」

 

 

 

 

 

 

「あと手前よりも先にあれと同じアイデア出した人マジで誰なんですかぁ…!?」

 

 

────泳者(プレイヤー) 箭吹シュロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その答えを手前さんは知ってたりしますかぁ?」

「いや、まったく」

 

11月12日 12:21

アリス達と分かれD.U.第2結界(コロニー)へと足を踏み入れたアツコは、結界(コロニー)への侵入時に離れ離れになってしまったペロロとの合流を目指しつつ目標としている”白衣の天使”と(ポイント)を奪う予定の美甘ネルの捜索をしていたが…その途中に出会った小説家だという少女…箭吹シュロと共に何故か結界(コロニー)内にあった観覧車に同乗することになっていた。

そこて先程のような意味のわからない質問をしてきたシュロに、そもそも小説はあまり詳しくないとアツコがばっさりと切って捨てる。

 

「…電力が生きてて良かったですねぇ…こんな騒動でも都会というのはあなどれないもんです」

「私は良くないけどね、知りもしない人とこんな密室だなんて」

「じゃあ断れば良かったじゃないですかぁ」

「私はほら、下見だよ。今度さっちゃんとかノドカちゃんと一緒に来たいと思ってたんだ」

「…手前さんもお気楽ですねぇ。今更復興すると思ってるんですかぁ?このキヴォトスが。手前と真逆ですねぇ」

「うん?」

「分からないんですかぁ…百鬼夜行にも結界(コロニー)とやらが出現して物怪…特異体というのも大量に現れて荒れ放題。このD.U.の方でも、手前が尊敬していた怪談家や小説家の新作の出版や講談の話が全て中止されてました。つまりはそういうことなんですよぉ」

 

ギリギリとゴンドラ内に響く歯軋りの音を立てたシュロは力無く俯いて負の感情を掻き立てていた。

しかし数回深呼吸をして落ち着いたのか、怒りと絶望に滲んでいた声を悪戯な少女のものに戻すとアツコへと向き直り1つ頼んだ。

 

「手前さん…手前に、戦う理由をくださぁい。この死滅回遊(遊戯)は戦う理由が後ろ向きなんですよぉ。殺陣のお噺を書きたいのなら観衆が前のめりになるだけの理由が必要。頼みますから…殺したい程手前さんが憎いと思わせてくれませんかぁ?」

「…良いよ、分かった。顔を上げて」

「…!」

 

優しく穏やかな声にシュロは顔を上げて…その先に到底憎めるはずのない美しい少女の微笑みがあった。

 

 

 

 

 

 

「文字ばっかり書いてて何が楽しいの?漫画とかアニメーションの方がずっと面白いのに飽きないんだ。相当暇なんだね。その暇な時間で戦えば?」

 

「なんでそんな酷いこと言うんですかぁ!!」

 

その微笑みからガラスのハートを木っ端微塵にする勢いで突き出してきた棘に胸を射抜かれたシュロは、涙目で羽織からボロボロの本を取り出した。

 

「『稲生物怪録』」

「!」

 

 

ドンッ!とゴンドラ内の空気が弾けるように衝撃が起こり、アツコとシュロはゴンドラの外へと放り出される。

何が起きたのか理解出来ないながらも落下しながら体勢を整えたアツコは、冷静に背負っていたサブマシンガンを取り出してシュロへと乱射する。

 

「無駄ですよぉ!そんな攻撃、効きやしません!」

 

不思議な事にアツコが放った弾丸は全てシュロに命中することはなく、実体のないものを攻撃したかのように尽くがすり抜けていた。

面倒な秘儀を持っているようだとアツコは懐から顔全体を覆うマスクを取り出して装着し、真面目にシュロの相手をすることを決める。

 

体勢を制御することで落下の軌道を逸らしたアツコは観覧車の鉄骨の上に着地すると、それを追ってシュロもアツコの頭上にあったゴンドラの屋根へと降りる。

そこから下のアツコに対してシュロはボロボロの本…シュロの秘儀の本質である『稲生物怪録』の内の1ページを開いた。

すると、そのページから溢れた無数の黒い靄がそれぞれ固まって形を作り、やがて傘のような特異体となって顕現した。

 

「『特異操術』…?いや、違うね」

「”私にできるのはせいぜい演技だけ。今も何とかここに立って偽りの自分を演じてる。でもこんな私でもみんなのことを助けられるなら、どれだけ滑稽に見えても演じ続けてみせる”」

「うん…?それは?」

「手前お気に入りの、とある少女の決意の言葉ですよぉ。人は皆なれないものに憧れたとして、本物を目指すだけが全てではないと、本物になれなくとも、偽物だとしても必要ならばそうなろうとすることが大切なのだという決意です」

 

シュロは本から無数の特異体を生み出し続けながら、アツコは次々襲い来るそれらを撃ち落とし、ねじ伏せ、排除していく。

お互い状況は余裕であり、だからこそシュロも呑気に話を続けた。

 

「ですがぁ、実際に手前に降りてきたのは偽物ですらない神秘(怪談)、手前が望んだのは物語の中の創作物だというのに!…手前はもう、読み手としても書き手としても熱意というものを失ってしまったんですよぉ!」

「あっそう、一緒に漫喫にでも行く?」

「行きませんよぉ!」

 

確実にシュロの物量に押され銃弾を浪費しているはずだというのに余裕の態度を崩さないアツコに、シュロは苛立ちを滲ませて巨大なこけしのような特異体を顕現させると、それを高所から落下させる質量爆弾として用い、観覧車の鉄骨を粉砕。

結果幾つものゴンドラや鉄骨と共にアツコは地上へと落ち、それを追ってシュロも傾いた観覧車の支柱を滑り降りるように降下して地面に足を着けた。

 

先に落ちたアツコは既にシュロが出した特異体の群れを一掃していたようだったが、それがどうしたとシュロもさらに数十体の特異体を追加した。

 

「あれだけ弾をばんばん撃って、もう残り少ないんじゃないですかぁ?このまま続けて一体どれだけ持つんでしょう?」

「言っておくけど一体一体が弱すぎる。これだったら弾を使うまでもない…特異体(こいつら)にも、貴女にも」

「っ!何を強がりを…!手前に、この心が分かりますかぁ!?」

「だから”暇”ってことでしょ?」

「”絶望”してるんですよぉ!」

 

観覧車の上にいたこけしのような特異体がアツコ目掛けて加速しながら落下してくる。

その奇襲を気配だけで察知したアツコは見上げることもせずぴょんと前に跳んで避けると、最後までそれに振り返ることすらせず後方へ肘を打ち込んで鎮めた。

今度はシュロを下そうと駆け出し蹴りを入れようとするが…それはシュロの身体をすり抜けてアツコは接触することなくシュロを通り過ぎてしまう。

 

「…それ、どうなってるの?」

「言ったでしょう?無駄なんですよ、手前への攻撃は、ぜーんぶ無駄!初めから手前さんに勝ち目なんてなかったんですよぉ!」

 

シュロ本人の身のこなしは素人に毛が生えた程度のもの、神秘による身体強化の補正がある分ある程度の素早さはあるが、戦闘向きの機動力は発揮できていない。

故にアツコの拳は簡単にシュロを捉えるが…やはり触れることなくすり抜けてしまう。

その隙を狙おうとしてくる傘のような特異体の頭部を掴んで地面に叩きつけて鎮めたアツコはポーチから閃光弾を取り出すと、それを爆ぜさせた。

 

「うわっ…!?この、小癪な真似を…!」

「ふぅん、光は聞くんだ。じゃあ音は?」

「なっ、何を…ぎゃあっ!?」

 

閃光をモロに直視してしまいよろめくシュロに近付いたアツコは今度はシュロの足元に音響爆弾を転がした。

それは爆ぜるのと同時にミサイルでも撃ち込まれたのかと錯覚するほどの大音量を発生させ、すぐ近くでそれを鳴らされたシュロは堪らず耳を両手で塞いだ。

それによって思わずシュロは持っていた本を取り落としてしまい────その瞬間をアツコは見逃さず飛び蹴りを仕掛け、シュロを背中から蹴り飛ばした。

 

「わぁっ!?い、稲生物怪録が…!」

「おっと」

 

落としてしまったそれをシュロが回収に走り、呼び出されていた特異体がシュロの援護の為にがむしゃらにアツコへと突撃してくる。

それらを片手間で鎮め落ちている本を先に拾おうとしたアツコだったが…間一髪で先にシュロの手が届き、アツコの手は本とシュロをすり抜けた。

 

触れようとしていたものがすり抜ける感覚に無茶な前のめりの体勢もあって転倒したアツコは受身を取りながら一回転して持ち直すと、背後で立ち上がるシュロの方を振り向いた。

 

「で、結局それどういう秘儀?ただの無敵ってわけじゃなさそうだけど」

「分かりませんかぁ?手前は今まさに怪異、現世に顕現する怪談!手前には物理的な干渉はできやしません!音や光はその限りではないですがぁ…もう油断して稲生物怪録を落とすなんてヘマは二度としませんよぉ。今!手前さんは手前に勝てる最後のチャンスを失ったんですよぉ!」

 

高らかに勝利宣言し勝ち誇るシュロ。

それをアツコはマスクの奥で真顔を浮かべながら黙りこくり分析を進め…そして最後に「面倒臭い」という結論に至ると、腰を落として一気に踏み込んだ。

 

(速いっ…!分かってはいましたが、この身体を強化する術の精度も手前より遥かに上ですか!)

「けれどぉ…それがなんだって言うんですかぁ!」

 

高速の突撃もシュロの身体をすり抜け、背後に回ったアツコへシュロは2体のこけしのような特異体を顕現させて襲わせる。

それらは稲生物怪録より顕現する並の特異体よりずっと強力なものであり、耐久力もパワーも段違いの性能を誇る。

しかしそれでもアツコはそれらを腕の1発で粉砕し、再度シュロへと殴りかかった。

 

「だからぁ、理解してるんですかぁ!?無駄なんですよぉ!」

「あなたみたいな世間を舐め腐って見下すような子は、軽くお説教してもまた理屈を捏ねて自分の為に周りを攻撃するようになる。だから…折るね」

「っ!?なんですかぁ!その構えはぁ!?」

 

どんな攻撃もすり抜け際限なく特異体を顕現させるシュロの『稲生物怪録』

それの攻略に手を焼いたアツコは一気に決着を着けるために掌印を結んだ。

 

 

 

 

「───神秘解放『スコルピウス』」

 

 

 

 




配役
シャルル…シュロ
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