ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作185〜187話までの範囲でお送りします

書いてて自分でも情緒がおかしくなった回


D.U.第2結界─参─

 

『こっちだよ、ヒヨリ、ミサキ。ここに隠れよう』

『さ、サオリ姉さん…』

『しーっ、静かに。もっと頭を下げて』

『は、はいぃ…ところで、あの中央にいるのは誰ですか?す、すごく綺麗な服を…き、着てるけど…』

『私もよく知らない。えらい人なんじゃないかな』

『お姫様なんだって。高貴な血を引いてるとかなんとか』

『お、お姫様!?お姫様なんですか!?よ、世の中にはお姫様もいるんですね…わ、私たちみたいな底辺と違って…飢えたりもしないだろうし…怪我もしないだろうし…み、道端で寝たりもしないんですよね?そうですよね?』

『う、うん…そうなんじゃない?』

『この世には苦しみしかないと思っていたのに…あんなにきれいで、幸せに過ごせているお姫様もいるんですね…なんだか感動です。うわあぁぁんー!』

『きゅ、急に泣かないで!バレるでしょ!』

『す、すみませんサオリ姉さん…うわあぁぁん!でも…うわあぁぁん…!』

『…お姫様って言っても、私たちと同じ境遇か、もしかしたらそれ以下の扱いだと思うよ』

『…?』

『パレードに見えるけど、あれは人質を敵に送る行列だよ。内戦中だからなのかな…こんな事もあるんだね。きっとあのお姫様も、監獄で飢えることになる。食べ残しを貰えたらラッキーなくらいの生活になるよ』

『あ、あうぅ…』

『…やめてミサキ。ヒヨリが怖がってるでしょ』

『…で、どうするのサオリ姉さん。ここまで来たのに見物だけして帰るつもり?』

『いや、当然襲うよ。あの人だかりに紛れ込んで、役立ちそうなものを拝借する。さあ、行こう』

 

 

 

 

 

 

『やめろ!!』

『どけ、第8分隊長』

『ヘイローを壊すつもりか!やめろ!』

『ど、どうか…どうか、もうやめてください…うっ、うぅっ…』

『あいつは我々に抵抗したから当然だ。どかなければお前らも同じ目に会うぞ』

『ゲホッゲホッ…笑わせないで…誰が…』

『コイツ、よくも…!』

『待て!…私が、指導しよう』

『…指導?』

『…また無駄なことを』

『ヒヨリも、ミサキも、私が指導した生徒だ。姫も同じく…皆成績が良いだろう?だから任せてくれ…私が責任を持ってこいつ指導する…!』

 

 

 

 

 

 

 

『…痛い』

『ミサキ…二度と、二度とそんなことをするな!絶対にだ…!』

『…どうして?』

『…何?』

『どうしてダメなの?なんで、こんな意味の無い苦痛の中で生き続けなきゃいけないの?…寒くて、辛くて、空腹で。ただ苦痛が繰り返される日々なのに。どうして姉さんはこの無意味な苦痛を私達に強制するの?それに一体なんの意味があるの?』

『そ、それは…それ…は…』

『ほら、答えられないじゃん。なんでも知ってるフリをして、姉さんだって私達と同じくせに』

『…み、ミサキ!待て…待て!わ、私は…』

 

 

 

 

 

 

『許してください…申し訳ございません…二度と、二度とこのようなことは…二度と、大人の言葉を破りません…反抗しません…将来に希望を抱かないよう努めます…二度と幸福を望みません…祈りません…だから、どうか…どうか…慈悲を…』

 

 

 

 

 

 

 

 

『なあ、ヒヨリ、ミサキ。私の体は暖かいか?…ふふっ、そうだろう、冷たいだろうな。3人寄り添っても全員の体温が低かったら世話ないな。こんな寒い日は薪も湿気って堪らない。どうせもう私達には居場所なんてないんだ…だから、これからは3人でずっと一緒だ。気がかりがあるとすれば…姫はあの後大丈夫だったのか…まあ、姫なら大丈夫だろう。案外強かな奴だ。今頃元気にやってるに違いない…これからの話をしよう。将来のこと…今なら、話せると思うんだ。だから…ヒヨリ…ミサキ…声を、聞かせてくれ…』

 

 

 

 

 

 

 

 

『大丈夫ですか?サオリ』

『…はい』

『そうですか…()()サオリですか』

『それは…どういう…』

『…2()()は、いつも貴女の中にいます。いつだって、貴女に力を貸してくれるでしょう』

『私の…中…?』

『いつか分かりますよ。だからどうか…皆、仲良くしてくださいね』

 

 

『あなたは…?』

『私ですか?私は…特異現象捜査部の誇る超天才病弱系美少女、といったところでしょうか。今はあなた達の保護者ですよ。よろしくお願いします、サオリ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…んだよ、湿気た面しやがって」

「…」

 

霞むような白昼夢に浸っていたペロロ。

その外装…着ぐるみをネルは無惨に引き裂いて、その中からは長身の長い髪が特徴的な少女…サオリが姿を現した。

着ぐるみの中から一緒に出てきた対物ライフルやスティンガーミサイルなどの武装はネルによってすべて破壊し尽くされていて、サオリにはもうネルへと抵抗する手段はない。

そんなサオリを見下ろして、ネルは興味深そうに口元に手を当てて唸った。

 

「ん〜…確実にあたしの放電はお前の腹に穴開けたと思ったんだがな。血の跡はある。軽い火傷も…だが治ってる。まさか”恐怖”が使えるわけじゃないよな?」

「…そうか、最後まで私は…」

「あぁ?」

 

サオリは察する。

自分の中にいた、ヒヨリとミサキ…2人の存在が消えていることを。

最後に、2人は自分達のヘイローを犠牲に…完全に消費するという”契約”でサオリを救ったのだということを。

それを理解して…サオリは目元を腕で覆い、その隙間から雫を滴らせた。

 

「結局、答えられなかったな…ミサキ。結局、幸せにしてやれなかったな…ヒヨリ」

 

「何をごちゃごちゃと…ほら、せっかく生き残ったんだ。さっさと吐けよ、Keyのことを」

「うがっ…」

 

ネルが苛立ったようにサオリの腹を踏みつける。

胃の中のものが湧き上がりそうになるのを堪えたサオリは、腕で目元を拭うと鋭く光らせた瞳でネルを睨み付けた。

 

「悪いな、ペロロは口が堅いんだ」

「もうペロロ要素ねぇだろ。だったら…二度と口が開けねぇようにしてやるよ」

 

 

 

 

 

 

ズドンッ!

 

 

 

「「!」」

 

ネルがサオリにトドメを刺そうとしたその瞬間。

近くにあったコンテナが凄まじい音を立てて踏み潰された。

それを行ったのは…見せびらかすように莫大な出力から放出される神秘を緻密に自身の周囲で渦巻かせるパフォーマンスをしながら現れたアツコだった。

 

「少し痩せた?さっちゃん」

「アツコ…!」

 

アツコは外装が破かれ完全に生身が露出しているボロボロのサオリを見るや冗談を飛ばし、次にそれを足蹴にしているネルへと視線を移すと目を細め、静かに懐から取り出した顔全体を覆うマスクを装着する。

同時に、アツコの登場にネルもまたニヤリと口角を上げた。

 

「おい、あんまワクワクさせんなよ」

 

 

 

 

「───神秘解放『スコルピウス』」

 

「おっ!?」

 

ネルが2丁の銃を両手に構えた途端、アツコは掌印を結び神秘を解放する。

初手での神秘解放にネルは『簡易領域』でそれを凌ごうとするが…アツコの領域はカンナが使っていたものと同様、攻撃力の大部分を落とされた必中に極振りされた領域。

また領域の恩恵を受けるのもランダム要素に振り回されるというデメリットを負う分、神秘解放時の領域の発生が早く、領域同士の押し合いにも強いという特性がある。

その発生速度はミレニアムでムツキが使ったような領域をも凌駕し…ネルは対処が間に合わず強制的に領域のルールが頭へと叩き込まれた。

 

「これは…!チッ…!」

 

脳内に叩き込まれた情報にネルが一瞬フリーズしたその瞬間、アツコの蹴りがネルの脇腹を捉えた。

軽く吹っ飛ぶも直ぐに体勢を戻したネルだったが…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アリアリアリアリアリアリアリアリ有吉ゼミの錠前サオリだ。

年頃の乙女ならば着飾ってみたくなるのも当然だが、基本私は機能性重視であまり着込むことをしない。

だが心のどこかにたまにはフリフリとした衣装を纏ってみたいという願望があったのだろう、今度この領域の演出にそれっぽいのを追加出来ないかアツコに試してみて欲しい。

 

今回は前回から引き続き第3段階、ゲーム内容は                                  

全てを虚無だと思い込み1人塞ぎ込む少女への説得が成功すればゲームクリアだ。

このゲームには参加者からの介入はできず、完全に運で成功か失敗かが決まるぞ。

成功確率は7分の1…だが、第2段階と違ってチャンスは1度きり、『演出』を引かない限り失敗すれば第1段階からやり直しとなる。

幸運の女神は微笑む相手を選ばない、真に勝機を掴んだ者にこそ幸福が訪れる。

では、ゲーム開始だ。

 

 

 

 

 

雨の中、壁際で膝を抱える少女が1人いました。

少女は泣いていましたが、それは雨水と区別がつきませんでした。

少女は全てに救いを見出さず、全てが虚しいものだと思っていました。

そんな少女に、ペロロが好きな1人の少女が話しかけました。

 

ペロロ好きの少女は聞きました、『どうしたの?』と。

膝を抱える少女は答えました、『空は空、全ては空である』と。

ペロロ好きの少女はカバンから1つのペロロのぬいぐるみを取り出すと、膝を抱える少女へと渡しました。

膝を抱える少女は聞きました、『これは何?』と。

ペロロ好きの少女は答えました、『ペロロ様』だと。

 

ペロロ好きの少女は言いました、『たとえ全てが虚しいことだとしても、それでも努力が報われるようなお話が好きだと』

膝を抱える少女は顔を上げ、ペロロ好きの少女は手を伸ばしました。

膝を抱える少女は─────その手を取りました。

 

 

 

 

 

 

 

「説得成功、大当たり」

「にしては演出弱くないか?」

 

思っていたよりしんみりとした空気で話が進んだことにネルは困惑するも、それがハッタリでもなんでもないというのは目の前の山のような神秘を溢れさせるアツコを見てよく理解していた。

ならばその力はどれ程かと、ネルは2丁ののサブマシンガンを無造作に乱射して牽制し、アツコが顔を腕で守ったのに合わせて肉薄する。

だが…稲妻のようなその動きにアツコは完璧に反応して逆に殴り飛ばしてみせた。

 

それと同時にアツコが領域を解除すると吹っ飛んだネルはコンテナ地帯へと突っ込んで幾つものコンテナを突き抜けていく。

吹っ飛ぶ途中で足の裏を地面に着け靴底を擦りながら静止するネルだったが、そこへ追いついてきたアツコが身体を捻りながら飛び蹴りを仕掛け、ネルは仰け反ってそれを躱すがアツコの足が鼻先を掠め、その鼻からはツーっと血が垂れる。

飛び蹴りを終えた状態から着地する前にネルはアツコの腹へと膝蹴りを叩き込むも、アツコはそれを腕でガードするとくるくると回りながら後方へと着地した。

 

「ちょっとびりびりしたね?変なの」

「テメェ…」

 

(コイツ…あたしの神秘の特性をほぼ完全に無視できてやがる…!)

 

アツコの領域によるゲーム、その第3段階をクリアした際に得られるボーナスは『無制限の神秘』

常に身体の内から莫大な神秘が湧き上がり、それは第1、第2段階クリア時の段階移行の際に得られる『神秘出力の向上』と『神秘操作の精度向上、五感強化』のボーナスと合わせてアツコを無敵たらしめる。

莫大な神秘に裏打ちされた圧倒的な神秘出力が、本来通常の神秘による身体強化や保護では防げないネルの神秘の電気のような特性から受ける麻痺などのダメージをカットしているのだ。

 

自分の強みを1つ潰されたことに機嫌を悪くするでもなく、ネルはむしろ楽しそうに好戦的な笑みを浮かべた。

 

(あの圧倒的な神秘と出力、それを制御できるだけの精密な神秘操作。そしてどこからか流れるこの賛美歌…何もかもが面白い!)

 

「おい、お前名前は?」

「…秤アツコ。あっちゃんって呼んでもいいよ。あなたは?」

「美甘ネルだ」

「!」

 

(この人が100点持ちの…)

 

元々サオリの助けに入ったつもりのアツコだったが、思いがけず相手が目標の1人であった事を知ると少しの間悩むように首を捻った。

 

「う〜ん…ねえ、私が勝ったら(ポイント)使わせてくれる?」

「いいぜ、好きにしろ。お前はさっきのペロロの仲間なんだろ?あたしが勝ったらKeyについて知ってること吐いてもらうぞ…なんだ?」

「…あぁ、来た…神秘が滾る、漲ってくる…!」

 

話の最中、突然ボーッとし始めたアツコ。

何事かとネルは首を傾げるが───次の瞬間、アツコの服が弾け飛び、顔全体を覆うマスクはそのままにレオタード風のぴったりとしたインナー姿へと変化した。

 

「…は?」

「行くよ」

「ちょっ…」

 

なんの説明もなく起きた目の前の出来事に理解が追いつかないネルを他所に、アツコは急加速するとネルの顔面を殴りつけた。

動きの鋭さも拳の威力も先程よりも増しており、しかしネルも直ぐに体勢を戻すとマスク越しにアツコの顔を殴り飛ばす。

さらに体勢を立て直される前に側頭部へ回し蹴りを入れ、たたらを踏んだアツコの頭を押さえると下へと押し付け、地面の方を向いた顔に向かって強烈な膝蹴りをおみまいする。

マスクの隙間から血を流すアツコにネルは拍子抜けしたと言わんばかりに肩を落とした。

 

「んだよ、急に腑抜けやがって。ガッカリさせ───ぶっ!?」

 

そこへ、反応が間に合わないほどの神速の拳がネルの顔面を捉えた。

勢いよくぶっ飛ばされたネルにアツコはググッと膝を曲げ…戻す勢いをバネのように使ってまだ吹き飛んでいる最中のネルへと追い付き、腹を蹴り飛ばして地面へと叩きつけた。

何度か地面をバウンドしてからようやく踏みとどまったネルは歯を剥いて笑う。

 

「良いんじゃねーの?」

「フンッ」

 

ネルは鎖で繋がった2丁の銃、その片方を鎖をもって振り回すとアツコへと投げつけた。

それを上へ弾くアツコだったが…ネルの巧みな鎖の操作によって振り子のように戻ってきた銃身がアツコの脳天に叩きつけられる。

その威力もさることながら、銃の強度も余程なのかアツコの足が軽く地面に沈むほどの奇襲。

そこにさらにネルが鎖を操ってアツコの左腕へと巻き付け───鎖を激しい光が伝い、鎖が絡まっていたアツコの右腕を焼き落とした。

 

「っ…!」

「終わりだなぁ!」

 

ここぞとばかりに駆け出したネルは鎖を引いて銃を手元に戻すと一気に畳かけようとそれをアツコへと向け───鋭いカウンターの蹴りが横っ面に打ち込まれた。

あの状態からでも反撃できる根性に舌を巻きつつも1度下がって再度攻め込もうとするネルだったが…その視線の先で、確かに焼き落としたはずの腕が元通りになっているアツコの姿を見て驚きに動きがフリーズする。

 

「なっ…!?」

「痛かったよ。お返し」

 

その隙を突いて肉薄したアツコがネルの顔面を狙って拳を放つが、間一髪のところでクロスされた腕に防がれた。

 

アツコの『スコルピウス』の領域、これによって第3段階をクリアした事で得られる『無制限の神秘』

この状態は大当たりから流れる『Kyrie ミサ曲3番”天使の詩”』の演奏時間4分13秒の間継続する。

アツコは神秘を反転させる”恐怖”での治癒を会得していないが、無限に溢れる神秘でアツコ自身が壊れないよう、肉体が反射で神秘を反転させ、”恐怖”での治癒を行う。

 

つまりアツコは───大当たり直後4分13秒間不死身となる。

 

 

「楽しませて、くれんじゃねぇか!!」

「人をもてなすのは得意なんだ」

 

そこから始まるのは怒涛の攻防、ネルは銃と鎖、そして素早い身のこなしと電気のような特性を持った神秘による手数での猛攻。

アツコは無限に修復を続ける肉体を活かした肉弾戦特化のゴリ押し。

互いに1歩も譲らない、常人には理解不可能な応酬。

 

ネルの蹴りを膝裏で挟むように止めたアツコは、ネルの脇を掴んで固めるとトンッとその場で跳ねるとネルを下敷きにするようにして着地するのと同時に腰に力を入れ、着地の衝撃を強引に引き上げて地面を割った。

下敷きにされたネルは自ら関節を外してアツコの拘束から抜け出すと、無理矢理関節をはめ直して鎖を掴み銃の片方を振り回す。

そしてそれを地面へ叩きつけて瓦礫を巻き上げると、その1つをアツコの方へと蹴り飛ばした。

 

飛んできた瓦礫をキャッチして逆に投げ返された瓦礫を鎖で絡め取ったネルはその状態で振り回して遠心力を付けた上で再び瓦礫を投げつける。

先程よりも速度を増したそれをもろに頭部に受けるアツコだったが、それによって負った怪我を瞬時に回復すると距離を離されると厄介だと判断してネルとの間合いを詰める。

 

「ハッ!どうした!傷が痛むか!?」

「傷なんて…全部治ってる」

「そう来なくっちゃな!じゃあこれはどうだ!」

「!」

 

まるで複数人の武術家を相手にしているかのような濁流のような乱撃を捌いたネルはアツコの顎下を蹴り真上へ打ち上げると、浮き上がった脚に鎖を絡めて数回振り回した後に地面へと叩きつける。

さらに鎖を解かれる前に神秘を流して鎖を雷撃が迸り、絡まっていた脚を焼き落とした。

 

片足を失ったアツコは腕の力だけで起き上がるとから傘お化けスタイルで片足立ちし…焼け落ちた脚もみるみると再生されて元の状態へと戻った。

このままではネルに攻め切れる手札は無いかと思われたが───ちょうどその時、空間に響き渡っていた”Kyrie”の演奏が終了する。

 

「あ」

「もう終わりか?」

 

演奏の終了と同時にボーナスが途切れ、無制限の神秘や出力、操作精度の強化を失ったアツコをネルは容赦なく蹴り飛ばした。

後方に吹っ飛んでいくアツコがその最中…空中で掌印結ぶのをネルは見た。

 

 

 

 

「───神秘解放『スコルピウス』」

 

「っ!マジかよ…!」

 

アツコが領域のゲーム、その第3段階をクリアした際のボーナスである『無制限の神秘』

その副作用で生じる事実上の不死身による耐久…そしてボーナスの終了と同時に、アツコは神秘解放後の秘儀の焼き切れが回復するのだ。

即ち不死身終了と同時に回復した秘儀で再び神秘を解放すれば…始まるのは相手にとっては堪らない無限嵌め。

 

「おもしれぇ、景気良いじゃねぇか!だが…今お前不死身じゃねぇだろ?」

「うん、文字通りの出血大サービス。適度な博打なんてつまらないだけ」

「御立派な考えだよ。死んでも同じ台詞が…吐けるんならなぁ!」

 

展開されるは領域内での殴り合い。

アツコの振るった腕を逸らしたネルは逆に肘で顔を殴りつけ、反撃の蹴りも掴んで止めるとそのまま脚を振り回して適当に投げつける。

さらに着地したアツコの背後に回り込むと、無防備な後頭部へ裏拳を入れた。

 

「がっ…」

 

その衝撃によって脳を揺らされたアツコは立つこともままならず倒れ込みそうになり────

 

 

 

 

 

ᓀ‸ᓂばにたすばにたーたむ

たとえ全てが虚しいことだとしても、それは努力を続けない理由にはならない

 

 

 

 

 

 

「復活」

「毎回クソみたいな演出挟みやがって!」

 

ᓀ‸ᓂばにたすカットインによってアツコへのダメージがなかったことになる。

演出はアツコが領域内でダメージを負った際にも発生のチャンスがあり、基本はダメージの軽減を。

ᓀ‸ᓂばにたすカットインに限ってダメージを完全に無効化することが可能となる。

 

一々脳内に流し込まれる演出と大音量の賛美歌に戸惑うネルへ、アツコの強烈なボディブローが決まった。

 

「ぐっ…くはっ、まだまだぁ!」

「いや、次はこっちのターン」

「っ!そういやお前の攻撃が決まるとあれが来るのか…!」

 

 

 

 

 

 

 

アリアリアリアリアリアリアリアリありがとうと伝えたかった錠前サオリだ。

アリと言えば働きアリの法則というのは知っているだろうか?

1つのアリの巣では6割のアリが普通に働き、2割がよく働き、残る2割がサボりがちになるという法則のことだ。

では実際の社会でもこの法則は当てはまるのか…一般的な家庭と裕福な家、そして貧乏な家の割合で見れば案外同様の事が言えるのではないかと私は思っているぞ。

 

それではそろそろ第1段階のじゃんけんを始めよう。

行くぞ…

 

ヴァニタスじゃんけんじゃんけんぽん!

 

 

 

 

 

 

予告:Music 『Unwelcome school』

 

 

 

 

ドーーーーーン!!

 

 

 

 

 

これが裏社会のやり方か…やはり全ては虚しいだけだ…

 

 

 

 

 

 

「爆発オチエンドの演出だね。全ての段階をすっ飛ばして無制限の神秘のボーナスだよ」

「ちょっと待てやごらぁ!なんだ今の!?」

 

意味不明な演出に思わず声を荒らげるネルだったが、アツコは済ました顔で領域を解除するとすぅーっと息を大きく吸い込んだ。

その雰囲気の変調に文句を言おうとしていたネルも気合いを入れ直して銃を構える。

 

「演奏開始」

 

(…始まったな。4分13秒間の不死身…神秘の制限を解除した全自動の”恐怖”。だが今回の演出は第1段階と第2段階のボーナスをスキップして第3段階クリア時のボーナスを得るもの。さっきみたいな出力の向上とあれを扱い切れるだけの神秘の操作精度への強化は無い。今回のボーナスは耐え切れる。そしてボーナス終了から神秘を解放してまた大当たりを引くまでのラグ…今度はその隙を逃さない。この4分13秒をいなせばあたしの勝ち───それは雑魚の思考だ)

 

アツコの宣言と共に、途方もない神秘がその身の内から溢れ出す。

山を思わせるほどに威圧的で、嵐のように荒々しい神秘の漏出はそれだけで突風を起こし周囲のコンテナを軋ませる。

そんな無敵を体現しているかのような状態にあるアツコを前にして、ネルもまたそれに対抗するかのように、久しく見なかった強敵を相手に感情を昂らせ、込み上げる激情がその神秘を膨れ上がらせて轟雷のように荒れ狂う。

 

「音量上げろよ!生前葬だ!」

 

「ふふっ、慈悲を求めなよ。主が憐れんでくれるよ」

 

(この4分13秒の間に、不死身のテメェを殺してやる!)

 

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