『まもなく〜1番線にD.U.中央区行きの電車が参ります〜』
駅のアナウンスの音、人々の喧騒の音。
賑やかで、まさに都会と言うべき高層建造物の建ち並ぶ通りで、少女は太陽の登る青空を見上げてこれからの生活に思いを馳せた。
(レイサ…来たよ。D.U.に)
「やはり、一年生が三人しかいないというのは少ないと思います」
「じゃあ貴女、特異現象が見える人に会ったことあるの?」
「うむむ…そう言われるとありませんね…」
「それだけマイノリティってことよ。特異現象捜査部も目立たないように活動してるとはいえね」
アリスとヒナは、ホシノに言われて今日D.U.にやってくるという同期の生徒をお出迎えするためにD.U.中央区にあるターミナルの前で待っていた。
暑い日差しの中二人で二つに割れるタイプのアイスを分けて食べながら、この辺りにに来たアリスは周囲を物珍しそうに見回す。
「S.C.H.A.L.Eの周辺よりも賑わってるんですね」
「連邦生徒会のお膝元だからそりゃあね。色んな学園の中継地点にもなるから観光業も盛ん、血気も盛んな連中が度々銃撃戦を繰り広げていることを除けば良い街よ」
キヴォトスにおいて住人が銃を所持してそれを日頃から発砲しているのが日常。
銃を持たない生徒より裸で練り歩いてる生徒の方が多いと言われる程全体的に治安が良いとは言えない。
だからこそ、各地での特異現象の発生件数も増加しているのだが…それを根本的に解決出来る段階は既に超えてしまっているため、地道に特異現象捜査部がそれを鎮めているのが現状だ。
「…といいますか、ホシノ先輩はアリスが三人目と言ってませんでしたか?何故お出迎えを?」
「入学は随分前に決まってたそうよ。こういう学校だし、何かしら事情があるのかもね」
「お待たせ〜」
談笑しながら二人が待っていた時、聞き覚えのある声と共に、先にホシノが手を振りながら合流した。
「聞きたかったのだけれど、どうして
「本人がここが良いってさ」
「あっ、アリスあの屋台に行ってみたいです!」
「観光に来たわけじゃないのよ」
好奇心旺盛なアリスはクレープの屋台を見つけて駆け寄り、ヒナは肩を竦めて、ホシノはあはは〜と笑いながら集られる事を悟り既に財布の準備をしながらその後を追いかける。
と、そんな道の先にスカウトらしきロボットの住人が周囲の生徒に声をかけているのが一同の目に付いた。
「そこのお嬢様、今お急ぎですか?」
「え…?い、いえ、そんなことはありませんけど…」
「そうですかそうですか!実は今モデルさんを探していまして、自分こういうものなのですけどご興味はありませんか?」
「あ、いえ…その、迷惑ですので…」
「そう言いなさらず話だけでも…」
気弱そうな一人の生徒に執拗に絡んでいるその姿を見たアリスは真っ先に銃…レールガンはここに持ってくるのは目立つ為今は普通のアサルトライフル…を手に取り、照準をスカウトの頭に向けて…それを、ホシノが銃口を掴んで止めた。
「ホシノ先輩?」
「ちょっと待ってなよ」
抗議の目を向けるアリスだったが、じっとホシノが前を見ているのでその視線を追うと、しつこく生徒に迫っているスカウトの肩に手を置く人物がいた。
「良いでしょう…って、なんですか?」
「私は?」
「は?」
「私はって聞いてんの。モデル」
「あ…い、いえ、自分今急いでますので…」
「は?逃げんなし。待てコラ」
「ひ、ひぃ〜〜!!」
猛獣のような鋭い眼光を受けたロボットの住人は情けない声を上げてどこかに走り去ってしまい、後にはそれを行った猫耳の少女と、絡まれていた生徒が残る。
ちなみにこういった事は日常茶飯事なのでわざわざ一連の出来事に注目する者はほぼいなかった。
「…あんた、大丈夫?」
「え?あ、はい…ありがとうございました…」
「礼なんて良いって。気を付けてね〜」
「は、はい…!」
猫耳の少女に頭を下げた生徒はパタパタと人混みの奥に消え、その姿を見送った猫耳の少女はふぅと息を吐くと道を進もうとしてその様子を眺めていたアリスとバッチリと目が合う。
「…」
「…」
「おーい、こっちだよ〜」
凄んでスカウトを追い払っていた姿を見られたことが恥ずかしいのか、途端に猫耳の少女は耳をピンと立たせ顔を真っ赤に染め上げる。
対して、アリスはその行動に目を輝かせる。
見ていられないとホシノが声を掛けた事で両者がハッとし、おずおずと猫耳の少女は三人の前まで歩いてきた。
「その…改めて、杏山カズサ。よろしく」
「空崎ヒナよ」
「天童アリスです!ミレニアムから来ました!…」
(何か、凄い睨まれてる気がします…!)
自己紹介を交わす三人。
ヒナは淡々と、アリスは元気よく、猫耳の少女…カズサは当たり障りなく。
性格の出た挨拶で何となく各員の人柄を察し合い、そして同時に気まずさと面倒臭さを感じ合う。
(こっちのモップは根暗そうだしノリ悪そう…こっちの子は…何となくあいつに近い感じがして恥ずい…)
「はぁ…」
「人の顔見てため息吐かれました!?」
「それで、これからどうするのよ?」
「ん〜?そうだね〜、せっかく一年が三人集まったんだし…行こっか?観光」
「はい!探索クエストですね!」
「クエスト…?いや、まあうん。私もちょっとこの辺見て回ってみたかったし、案内してくれっていうなら…スイーツショップとか行ってみたいかも…」
「アリスはモモフレンズランドとやらに行ってみたいです!」
「ほらほら落ち着いて〜。もっと楽しいところだからさ」
あまり興味がなさそうなヒナを除き、アリスとカズサはホシノからの提案に積極的に乗ろうとする。
そんな二人を諌め、ホシノが連れていったのは…
「…いるわね。特異現象」
「うわーん!騙されました!」
「スイーツ…食べたかった…」
「これが済んだら連れてってあげるから、まずは話を聞いて欲しいな〜?」
D.U.の郊外まで歩いて辿り着いたのは、見るからに不穏な空気の漂う二階建ての廃墟。
外にまで溢れ出す邪気を孕んだ神秘を、Keyの
「近くに大きな霊園があって、廃墟に残るものと合わせて特異現象が発生したってわけ」
「やはり、お墓等はそういったものが生まれやすいのでしょうか?」
「あんたもあんたで切り替え早いね…」
「墓地そのものだけで特異現象というのは生まれないわ。発生要因はあくまで墓地への恐れとかの、人の心の問題に寄よるわ」
「確かに、学校も似たような理由でしたね」
「…え?待って、てかあんたそんなことも知らなかったの?」
「あ〜、この子って実は…」
カズサからの疑問にホシノがアリスがS.C.H.A.L.Eに所属するまでの経緯を事細かに話す。
黙って話を聞いていたカズサだが、話終わって一言。
「特級遺物飲み込むとか…馬鹿?」
「罵倒が直球過ぎます」
「ちょっとばっちぃ…え〜?マジ…?」
「気持ちは分かるわ」
「ヒナ!?」
「あはは、じゃあ取り敢えず、アリスちゃんとカズサちゃんは二人でこの廃墟の特異現象を鎮めて来てよ。どれくらいやれるのか知りたいしさ」
「げ…」
「ですが、ホシノ先輩。アリスはまだ神秘というものの扱いは…」
「大丈夫大丈夫、アリスちゃんはもう半分特異現象みたいなものだからね。普通に殴る蹴るだけでもその攻撃に神秘が乗って特異体にも有効な打撃を与えられると思うよ。まあ不安なら持たせたその銃を使いなよ」
アリスはレールガンの代わりに持たせられたそのアサルトライフルを見る。
パッと見は市販のどこにでも手に入るようなものと同じそれだが、様々な補助が加えられたり特別な素材を組み込まれたそれは発射する弾丸に自動的に神秘を込めて特異体にダメージを与えることが出来る。
最終的には装備そのものに細工をしなくても自分自身で武器や弾丸に神秘を込められるようになって、特異現象捜査部では一人前と言える。
「チュートリアルの専用武器ということですね」
「ああそれと、Keyは出しちゃだめだよ?あれを使えば確かにその辺の特異体なんか瞬殺しちゃうだろうけど、近くの人も巻き込まれたり余計な破壊を振り撒く可能性もあるからね」
「分かりました。Keyは出しません」
「…じゃあさっさと終わらせよ。今日はもう早く休みたい気分だし」
廃墟の入り口から中の様子を確認していたカズサは、ホシノとアリスの会話が終わったのを見計らって中に入るように促す。
アリスも頷き先に進んでいくカズサを追い、その様子をホシノは少しだけ悪い笑で見送るのだった。
「ふふふ、いってらっしゃ〜い」
「…やっぱり私も行った方が良いんじゃないの?」
「無理しないの。病み上がりでしょ?」
「でもアリスは要監視でしょうに」
「まあね〜。でも今回試されてるのはカズサちゃんの方だよ。D.U.はキヴォトスでも人口密度は屈指、その分感情は多く募って、強力な特異体が生まれやすい。トリニティはトリニティできな臭い感じはあるけど…まあ大都会の特異現象のレベルの違いってのを知ってもらう良い機会だよ」
「ほんっと、性格悪いわね…」
「それほどでも〜…さて、二人はどうするかな?」
「効率よくやるよ。私が二階行くから…アリスだっけ?は一階お願い」
「分かりました!気を付けて下さい!」
「あんたに心配される程弱くないから。それより最近まで普通の生徒だったアリスの方がこっちは心配だけどね」
「大丈夫です、勇者は負けませんから!」
「…もう行くから、何も無かった方が合流に向かうように」
カズサは長いこと人の手が入っていないボロボロの階段を上がり建物の二階に姿を消す。
その後ろ姿を心配そうに眺めていたアリスだったが、頬を叩いて気を引き締めると、建物の奥に向かおうとして…
真上で蠢くものを察知し、前に転がってその奇襲を回避した。
「いきなり…出ましたね、特異体!」
「う”ぁ”…」
襲いかかってきたのは、特異体の中でも
キヴォトスの住人の感情の具現であり、基本的に青白い体色と若干透けているのが特徴的な最も一般的な特異現象の形である。
ちなみに、以前ミレニアムの校舎でKeyの
その中でも生まれたてなのか形状が不安定で、虫のような姿をしたそれにアリスはアサルトライフルを向けると、躊躇いなく掃射を行う。
銃弾を浴び青い血を吹き出しながら怯む特異体に、一弾倉打ち切ったアリスはリロードはせずに突貫し、向かってくるアリスを叩き潰そうと振り下ろされた特異体の腕を避けて背後に回り込む。
「大丈夫、アリスは戦えます!」
振り向きながら薙ぎ払ってきた特異体の腕をしゃがんで回避したアリスは特異体の身体の下に潜り込むと、強引にその図体を担ぎ上げ、バックドロップの容量で特異体の頭を床に叩き付けた。
グシャッ、と生々しい音と共に特異体の身体が大きく跳ねると、藻掻いていた手足の動きが止まり徐々にその肉体が崩壊していく。
廃墟の外で二人を待っている間、ホシノはヒナにアリスの異常性について話していた。
「アリスちゃんはさ、おかしいんだよ」
「アリスにホシノ先輩が悪口言ってるって教えてあげようかしら」
「いや悪口言ってるわけじゃないよ?むしろ褒めてるんだよ。異形とはいえ生き物の形をしたものを、自分を殺そうとしてくるものを躊躇いなく、殺す気で攻撃出来る…委員長ちゃんみたいに昔から特異現象に触れてきた訳でもない普通の女の子がだよ?」
「…」
「才能があっても、この嫌悪と恐怖に打ち勝てず志半ばで挫折した生徒を見たことがあるでしょ?今日は、カズサちゃんのおかしさもみたいんだよ」
「へっくしゅん!…噂された気がする…あ、見つけた」
そんなホシノの考えは露知らず、廃墟の二階を調べていたカズサは特異体の神秘を感じ取り、それが潜んでいると思われる部屋の扉をゆっくりと開ける。
銃を構えながらその部屋に入ったカズサは室内を見回し、そして目標を見つける。
部屋の奥に並んでいる複数のマネキン。
その一つから漏れ出す、神秘を。
「ちょっと、そこの特異体…真ん中のマネキン。バレてるから出てきなさいよ…出てこないなら、こっちから行くよ」
銃の調子を確認したカズサは銃口をそのマネキンに向ける。
すると、マネキンは独りでに動き出すと頭部に複数の眼球が浮き上がり、両手を前に出してカズサに襲いかかった。
しかし、それよりも早く引き金が引かれ、銃弾がマネキンの頭部を貫いた。
「…ぎゅ”…う”ぅ”あ”」
「終わりかって?」
神秘の込められた弾丸に頭部を貫かれるも、倒れることなく踏みとどまるマネキンは意味をなさない奇声を上げる。
挑発と読み取ったカズサは銃口をマネキンから逸らして肩を竦め…挑発し返すように勝ち気に笑った。
「食い込んだ弾丸、早く抜いた方がいいよ」
「ら”ぁ”や”?」
「私…遠隔で神秘を流し込むのが得意なんだ」
「…!?」
ボンッ!とマネキンの頭部の中にまで貫通していた弾丸は、カズサが神秘を流し込んだ事で弾け、内側からマネキンの頭部を破壊した。
マネキンはその場で崩れ落ち、表面に浮き上がっていた複数の眼球は一斉にひっくり返って白目を向き、瞼を閉じるようにして消えていく。
そこには、元に戻ったマネキンだけが転がっていた。
「…ふん、決まった」
ドヤ顔を浮かべ小さくガッツポーズをして勝利の余韻に浸っていたカズサ。
しかし、部屋の隅から聞こえた物音に反応して直ぐさまそちらへ銃を向けた。
そこにいたのは…
(…子供?遊びにでも忍び込んでさっきの特異体に捕まってたの?)
部屋の隅で涙目で蹲るまだ中等部にも満たないであろう小さな少女は、カズサが近寄った事でさらに小さく身体を丸める。
その事にカズサは若干ショックを受けながらもかける言葉を探し、優しい声で話しかけた。
「…その、君。ほら、もう大丈夫だから…」
「…」
(え〜…)
手招きするもカズサから溢れる凄みを恐れたのか少女は首を振ってそれを拒否する。
立て続けのショックで一瞬固まったカズサだが、アリスならば流石に怖がられないだろうと、アリスを呼ぶ為に一旦部屋を出ようとする。
だがその時、慌てて少女が立ち上がってカズサに手を伸ばそうとして…その身体が浮き上がった。
「何っ…!?」
「ま、待って…行かないで…」
「い”い”ぃ”ぃ”」
(あの子の後ろに隠れてたの!?クソッ…!)
少女を掴む特異体に照準を合わせるカズサだったが、特異体は掴みあげている少女を射線を遮る位置に動かして攻撃を躊躇わせようとする。
(コイツ、人質に…!知性があるの…!?)
特異現象、特異体、そのレベルというのは、何も神秘の強さや特異現象そのものの強さだけとは限らない。
すなわち狡猾さであり、知恵を付けた獣は敵対者に残酷な天秤を突きつける。
…命の重さをかけた天秤を。
「クソッ、クソッ、クソッ…」
(コイツ自体は大したことない…せいぜい4級、良くて3級の下も下。コイツは自分の弱さを自覚してるからこそ、人質を使ってるんだ…!)
「ひ”っ”い”い”や”ぁ”」
「いやぁ…!やだっ…!」
悩み歯噛み、銃を持つ手を震わせるカズサを、特異体は嘲笑い掴む少女の首に爪を食い込ませて出血させる。
少女が痛みに声を上げるのも楽しみ、より強くその爪を食い込ませていく。
どちらにせよ、もう時間をかける余裕は無かった。
(落ち着け落ち着け、考えろ!私が死んだらどの道あの子も殺される。武器を捨てたってあの子を解放なんてしてくれるわけが無い。大丈夫、あの子だって子供とはいて幾らか銃弾食らっても死にはしないはず。銃での攻撃なんかより特異体から受ける傷の方が深刻になる…そうと決まれば…)
銃の引き金に、手をかける。
この銃の精度では特異体のみを撃ち抜くことはまず出来ないため、少女事特異体を撃って鎮める事がこの場での最善。
そう自分に言い聞かせ、苦悶の声を上げる少女諸共特異体に銃弾を浴びせようとして…
「えい!」
「…え?」
「り”ゃ”?」
特異体の背後の壁を腕が突き破ったかたと思えば、その腕は特異体の首を捕まえて壁の方に引っ張り、そのまま壁をぶち破って奥まで引きずり込んで行った。
小さなその腕からは想像もつかないほどの力が加えられたのか特異体は苦しむような呻き声を上げると掴まえていた少女を離してしまい、カズサは急いで駆け出してその子を保護する。
壁の奥に引きずり込まれた特異体は逃げようとするも、下手人…アリスによって蹴り飛ばされ、壁に勢いよく叩きつけられた。
「あ、カズサ!大丈夫ですか!?」
「え…うん…」
「や”ん”ん”ん”!」
「っ!逃がしません!」
「アリス、待って!」
「カズサ!?」
窓の外に飛び出た特異体を追いかけようとするアリスを制止したカズサは照準を合わせて発砲し、特異体の脳天を撃ち抜く。
ぐらっ、と身体を傾かせた特異体だがそれだけでは致命傷に至らず、廃墟の外で待っていたヒナはそれを迎撃しようとするが、ホシノがそれを止めた。
「逃がすわけ、無いでしょ!『共振』!」
カズサの得意とする遠隔で行われる神秘の操作。
それは特異体の頭に食い込んだままのカズサの銃弾を起点に炸裂し…特異体は弾け飛び、ようやく鎮められるに至ったのだった。
「…勝った」
「カズサ!?大丈夫ですか、?」
確かな手応えと共に緊張の糸が解けた事で全身の力が抜け、仰向けに倒れ込むカズサにアリスが慌てて駆け寄る。
そんなアリスの心配声掛けを聞き流しながら、カズサは自らの
中等部一年の頃、カズサはハッキリ言うとグレていた。
それはもう大暴れして、伝説のスケバンだのキャスパリーグだの今思い返せば恥ずかしいあだ名を付けられ…中等部二年ぐらいの頃辺りか、いつしか落ち着いた日常が欲しいと身なりも整え”普通”に溶け込もうとしていた。
そんなカズサに、ある日やかましく話しかける生徒が現れた。
『見つけましたよ!杏山カズサ!数々の不良を震え上がらせた伝説のスケバン!あなたは今日、この宇沢レイサが打ち倒してみせます!』
『…は?』
その生徒は、何度も何度もカズサに絡み、勝負を挑んで来た。
その度にカズサは理由を付けては逃げ、時に直接言葉で突き放し、逃げようもない時は力づくで追い返してきた。
それでも、その生徒は諦めずに何度もカズサに突っかかり続けた。
『今日こそ!あなたを倒します!このトリニティのスーパースター宇沢レイサが!』
『はいはい…』
そんな平穏な日常とは言い難い日々が続きながらも、しかし段々とカズサはそれを楽しむようになっていた。
ウザイ、しつこい、やかましい。
そんな彼女の事を、心のどこかで気に入っていたのだ。
彼女のカズサへの絡みは中等部三年に進学してからも暫く続いていたが…ある日ぱったりとそれが途絶えた。
(…あいつ、もう随分来なくなったな…体調でも崩したのかな…いやいや、あの馬鹿が風邪なんて引くわけ…)
内心小馬鹿にしてそのほんのりとした寂しさを紛らわせていたカズサだったが、いつまで経っても姿を表さない彼女に痺れを切らし、交友関係が広い知り合いにその生徒の事を尋ねると、このように聞かされた。
『あぁ、あの子なんか煩いし、皆鬱陶しいって言ってたよ。それになんか不良の子と喧嘩して怪我させて、その不良の高等部のお姉さんが報復にその子の家とかに悪戯したりその子の友達を脅して交友関係を無理矢理切らせて、執拗に嫌がらせ続けてたんだって。それでその子…この前転校しちゃったらしいよ』
『…』
それを聞かされた時、カズサは怒れば良いのか、悲しめばいいのか、やりようのない気持ちに苛まれ、その後ずっと虚無的に過ごしていた。
しつこく絡んできたその生徒がどこに転校したのかまでは掴めず、会いに行こうと思っても会えない。
決して仲が良いなどという単純な言葉では表せない関係だっただけに、転校のきっかけを作ったという高等部の連中に報復する気にもなれない。
ただ、そこが…トリニティがどのぐらい陰湿な場所だったのかを思い知り、いつしかトリニティを出るのが当面のカズサの夢になった。
その際グレていた時代の人脈を漁っていた時に目を付けたのが、特異現象捜査部だった。
トリニティにもその支部はあり、そこの支部長からの推薦でD.U.の本部、S.C.H.A.L.Eに籍を移す事でようやく念願が叶ったのだ。
「良いね、ちゃんとおかしい」
「褒めてるのか貶してるのかどっちなんですかそれ…」
廃墟を出た途端ホシノに言われた言葉に微妙な表情を浮かべるカズサ。
そんなぐったりとした背中をアリスは叩くと、珍しく叱りつけるように大声を上げた。
「カズサ!もう無理をしては行けませんよ!」
「いやどっちかって言うと無理してたのそっちじゃん…何食べてたら素手で壁ぶち敗れるのよ」
「鉄筋でしたら危なかったです!」
「鉄筋じゃなくても危ないから!」
「えぇ…そういえばこんな時ですが、何故カズサは特異現象捜査部に?」
「あ?…トリニティを出たかっただけ、あんなクッソ陰湿でギスギスした所から抜け出したかったの!」
「え〜…そんな事の為に命をかけられるんですか?」
「…かけられるよ。私が私である為に、ね」
(…レイサ。また会えたら、いつもみたいな喧嘩でも吹っ掛けてきてほしいな)
「あっはっは、またまた面白い子が来たね〜」
「そうね…」
「…何故ヒナはそんなに元気が無いのですか?」
「出番なくて元気ないんだってさ」
「そんなこと言ってないわよ!」
「…あっ」
「「「あっ…」」」
そんな時、カズサのお腹からグゥ〜と音が鳴る。
顔を背け耳を赤くするカズサだったが、アリスとホシノは大笑いし、ヒナもクスクスとそれを笑う。
「…何よ!私お腹減ると機嫌悪いんだから、スイーツでも奢ってくれないとぶっ飛ばすわよ!?」
「もちろん、約束だからね。高いものでも多いものでも、おじさんが好きな物を奢ってあげるよ〜」
「本当ですか!アリス、クレープというものを食べてみたいです!女子高生のマストアイテムだと聞きました!」
「わ、私D.U.の有名店調べてたから、そこのパフェを…」
「…これ私も着いていかなきゃいけない流れかしら?」
「そりゃあね。委員長ちゃんも好きなの食べていいんだよ?」
「別に何でもいいわよ」
「いらない、とは言わないんだね。やっぱり女の子はそうでなくっちゃ、おじさんも奢り甲斐がないよ」
「…」
日が落ち始める夕暮れの中、同期三人はホシノの引率の元D.U.のスイーツ店を巡り歩くのだった。
記録───20XX年、某日
トリニティ自治区、第四校舎付近
古聖堂地下
「…?なんでしょう、あれ?」
「あれって、どれですか?」
───特級
その胎卵を複数の生徒の目視で確認
「ですから、あれです!浮いているあの…」
「そんなの無いですよ?一体貴女には何が見えて…」
───緊急事態のため特異現象捜査部より一年生が三名派遣
───内一名、死亡
配役
釘崎…カズサ
沙織…レイサ