ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作190〜191話までの範囲でお送りします


百鬼夜行自治区結界

 

ネルが漏出を抑えていた神秘を敢えて一気に解き放ったことにより、電気質のそれが海水に伝わる前に熱エネルギーとなり生じた極大の水蒸気爆発。

それによって立ち上った巨大な水柱は周囲に雨のように雫を降り注がせた。

 

海は荒れ高波が防波堤を打ち付ける中…海面から伸びた腕が岸を掴み、陸に上がったのはネルだった。

 

「コホッ…ゲボッ…ぁぁ…クソが…神秘がすっからかんじゃねぇかよ…」

 

仰向けになって呼吸を荒くし、薄い胸を何度も上下させたネルは先程の神秘の放出で余力がなく、もはやまともに動けるだけの体力も残っていない。

その状態でもゴロンと転がって四つん這いになり移動しようとしたが…視線の先の人物を見て乾いたように笑った。

 

「…ハッ…ちくしょう…」

 

そんなネルの顔面を殴り飛ばしたのは、左腕がちぎれ飛びながらも余力を残していたアツコ。

吹っ飛んで行ったネルがコンテナにぶつかって動きを止めたのを見て、アツコは残った右腕でガッツポーズをとった。

 

「ははっ…なんで、生きてんだよ…普通バラバラになるだろ…」

「あなたはとにかく私に神秘解放を使わせたくなかったんでしょ?これ以上続いたら確実にそっちがすり潰されるだろうしね。だからさっきの爆発で私を殺せなくても、腕だけは持っていこうとした…掌印を結ばせない為に」

「チッ、読まれてたか…自分から左腕の防御捨てて、左腕を保護する分の神秘を他に回して凌いだってわけか」

「ついでに言うと爆発で飛ぶ前に自分で左腕を捨てるっていう即席の”契約”をして硬くなってみたんだ」

「よくやるよ、まったく…」

 

アツコからのラッシュを受けた時も、海中に落とされた時も、先程のトドメの強打を受けた時も、結局最後まで銃を手放さなかったネルは、この時初めて自分の負けを認め銃を地面へと落とすと、仰向けになって空を見上げた。

先程上がった巨大な水柱の影響か、空には大きな虹が架かっている。

 

「…煮るなり焼くなり好きにしろ。殺すなら殺せ」

「やだ。せっかくの100点が消えちゃうから」

「あー…そういやそういう約束だったっけな」

「それに私はあなたに勝てたって思ってない。領域の時の事もそうだし…それにあなた、秘儀を使ってないでしょ?」

「…なんで分かった?」

「勘」

「そうかよ…あたしの秘儀は1回こっきりだからな。Key以外には使うつもりはなかったんだ」

「…ねぇ、取引しない?」

「あぁ?」

 

何事かと疑問符を浮かべたネルだったが、その後のアツコの話を聞いて表情がみるみる真剣になっていく。

やがて話が要点に入ると、好戦的な笑みを浮かべて頷いた。

 

「…本当なら願ったりだな。その時が来たら邪魔すんなよ」

「勿論…だけど、これはあくまで私個人の取引」

「?」

「禊は必要だからね。あなたは手を出しちゃ駄目だよ」

「何を…ああ、お前か」

 

「…アツコ…勝ったのか…」

 

アツコに釣られてネルが視線を向けて先には、体力が戻ったのか歩ける程度には回復したサオリだった。

サオリはまずアツコの無事を見てほっと肩を撫で下ろし…そしてネルを見てじりじりと焼き付くような殺気を飛ばす。

肩を竦めたアツコは1度ネルから離れて適当な瓦礫の上に腰掛けて2人の様子を傍観しだした。

 

「よう、さっきのことなら謝らねぇぞ」

「…必要ない。ただお前のせいでわたしは大切な仲間を2人も失った…妹同然の仲間をだ」

「そうか、じゃあお前が代わりに殺すか?抵抗はしねぇよ。謝るつもりもなきゃ言い訳するつもりもねぇからな」

「…こっちを見ろ」

「あ?…ぶべっ!?」

 

無抵抗に座り込むネルに、サオリはネルの胸ぐらを掴み上げると全力の右ストレートを顔面に打ち込んだ。

宣言通り一切の防御もせずに殴られたネルは元気に吹っ飛び、コンテナに上半身が突き刺さって下半身だけが外に出る間抜けな状態になっている。

その様を見て小さく笑ったサオリは手をパンッパンッと払うとアツコの隣に腰掛けた。

 

「もういいの?」

「ああ、スッキリした。アツコもあいつを使って何か考えているのだろう?利用できるのなら利用する、ここで始末するには勿体ない…合理的だ」

「…ミサキとヒヨリはもういないんでしょ?今はさっちゃんしか…それに外装も破れちゃったし、大丈夫なの?」

「あいつらの置き土産だ。今なら外装(あれ)を着ていなくても私のヘイローは安定する。これからは…錠前サオリとして生きていくことにするさ」

「そっか…」

「…それで、どうやってあいつを利用するつもりなんだ?」

「Keyと戦わせる」

「そうか…そうか?今なんて…」

「あ、私ちょっと行くとこあるから待ってて」

「おい!?アツコ!?もうちょっと詳細を…!」

 

マイペースなアツコはサオリの呼びかけを無視して有り余った体力で大きく跳躍し、その場から姿を消した。

アツコの消えた方向の空に伸ばした手は虚空を掴み、サオリはコンテナに突き刺さったままのネルの方を見ると気まずさに大きく息を吐くのだった。

 

 

 

 

 

───D.U.第2結界(コロニー) 平定

 

 

 

 

 

総則(ルール)10、”泳者(プレイヤー)は他泳者(プレイヤー)に任意の(ポイント)を譲渡することが出来る”が追加されました』

 

「あ、アリスちゃん達当たりかな?丁度いいや」

 

同時刻、D.U.第1結界(コロニー)にてカンナからの協力を得たアリスが(ポイント)の譲渡総則(ルール)を追加していた頃。

結界(コロニー)内の観覧車の方に戻ってきていたアツコは目的の人物を見つけて声をかけた。

 

「調子はどう?」

「…なんで、戻ってきたんですか…っていうかその腕はどこに置いてきたんですかぁ?」

「心配ないよ。後で治すから」

「治るもんなんですかぁ…?まあいいです。で、なんの用で?」

「聞きたいことがあったんだ」

 

花壇の縁に項垂れるように腰掛けていたシュロは、相も変わらずマイペースなアツコに呆れたように鼻で笑った。

 

「手前に人生でも説きに来たのならやめた方がいいですよぉ?大切なことは全て怪談で学んでますからねぇ」

「でも一通り暴れてスッキリ出来たでしょ?なんでもかんでも言葉の積み重ねだけが正解じゃないんだよ」

「…そういうもんですかねぇ」

「それで、なんて言うの?」

「はぁ?」

「だから、あなたの本。教えなよ、買って読んであげるから」

「何を勘違いしてるか知らねぇですが、手前はデビュー前の新人なのでまだ書籍化出来てねぇですよ…って、いだだ!?」

 

あれだけ仰々しく語っていた割に出てきた事実にアツコは無言で道中回収した自分の銃で…弾に神秘は込めず…『稲生物怪録』を解除し無防備なっているシュロへと乱射する。

神秘で身体を保護できる相手には神秘が篭ってない銃弾など豆鉄砲もいいところだが、あくまで嫌がらせ目的なので特に深い意味は無い。

シュロもほとんど痛みは感じてはいない筈だが、まともに銃撃戦をしたことも無いのか衝撃と音に驚き大袈裟に反応する。

 

「新人が一丁前に悩んでる暇があるなら早く書きなよ。もうすぐ殺し合いは終わらせるから、殺される気にでもなって書きな」

「いいこと言いますね手前さん…いや1回それ止めやがれですよ!」

 

喋っている途中でも発砲を止めないアツコにシュロもキレ始めたその時───アツコは不意に空を見上げると、見覚えのある人物が箒に乗って空から降り立った。

 

「あなた、秤でしょ!」

「うん?あなたは確か百鬼夜行支部の…愛清ちゃんだったかな?」

「なんですかぁ手前」

「あ、こんにちは…えっと、ごめん直ぐ本題!」

「?」

 

制服の上から外套を羽織り現れたフウカは居合わせたシュロに少し驚きながらも軽く会釈して挨拶すると、時間が無いのか詳細を巻いてここに来た理由を話し始めた。

 

「100点獲った!?」

「うん、実質ね。それがどうしたの?」

「あんた達が結界(コロニー)に入る前にそっちのヒナが色々結界(コロニー)に入った後の予定とかを後続の為にまとめてくれてたんだけど、100点で追加する総則(ルール)…その内にあった『結界(コロニー)の中での連絡手段を確立する』ってやつは後回しにして!」

「…?結界(コロニー)を出入りする総則(ルール)の前には必要になるでしょ?どっちにしろ最優先事項だと思うけど…」

「レンゲが結界を素通り出来るの。今はシュンさんの妹さんと協力して色んなところの結界(コロニー)を平定して回ってる。レンゲなら連絡要員になれるから…」

「待って、なんでレンゲが結界を素通り出来るの?」

 

捲し立てるように言うフウカの話についていけなくなったアツコが待ったをかけると、フウカも焦っていたのを自覚したのか深呼吸して落ち着きを取り戻す。

暫くして冷静になると、神妙な面持ちでアツコの質問に答えた。

 

「それは…()()()のよ」

「何に…?」

 

 

 

 

 

 

「”怪物”に」

 

 

 

 

 

 

 

 

───11月14日 15:05 百鬼夜行結界(コロニー)

 

 

まるで全てを破壊し尽くす嵐が通り過ぎた跡のように、そこには無惨に解体された特異体やアウトローの死骸がバラバラになって転がっていた。

駆け抜けた破壊は山道を通るトンネルを通過すると、トンネル内にいた特異体の群れを一体と残らず粉砕する。

 

やがて土煙の中から現れたのは…一振の剣を抱えたレンゲだった。

取り残しがないことを確認したレンゲはゆっくりと道を歩き…近くにあった建物の上を見上げる。

 

「交流会の時とは随分変わったようだなぁ、不破」

「…お前に言われたくねぇよ、マコト」

 

建物の上で膝立ちでどこかを狙っていたマコト…いつもと違い長い銀髪は後ろで束ねられており、威容を誇示するような雰囲気から一転さっばりした印象を与える。

軽口を叩きながらも引き金を引き、スコープの先の獲物を仕留めたマコトは銃をリロードしながらレンゲを見下ろした。

 

「キキッ、貴様は強くなったのだから良いだろう?まあ桐生のことは残念だったとは思っている。あいつも大切な仲間だからな…だが私は大切なものは守れたが代わりに戦う意味を無くした。イブキはキヴォトスの外に逃がせたのは良いが、そうなると私自身がキヴォトスに残る意味も見い出せないんだ」

「ハッ、不器用な奴だなお前も…何があった?」

「色々だ…そう、色々だな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

すっかり荒れ果て人気のなくなったゲヘナ学園の本校舎を駆けるマコトは、人の姿を探して見知った顔を探し回っていた。

 

『おい!誰か居ないのか!?誰か…っ!お前イロハか!良いところに…!』

 

そんな中、かつてゲヘナに身を置いていた時に共にイブキを可愛がってくれた旧友…イロハの後ろ姿を見つけてマコトは安堵の笑みを浮かべる。

マコトに気が付き振り向いたイロハに駆け寄ると、その肩を掴んで揺さぶった。

 

『イロハ良かった!その制服、まだ万魔殿でやってたんだな!万魔殿なら特異現象捜査部…ゲヘナの支部と連絡が取れる筈だ!頼む、今あいつらを動かせなければ…イロ、ハ…?』

 

しかし、話の途中にイロハの様子がおかしいことに気が付いたマコトは言葉を途切れさせる。

いつもなら…余程昔と性格が変わっているようでもなければ、この辺りで「そろそろ話してください」と宥めてくるイロハが未だに自分に文句の一つも言わないことに疑問を抱いたマコトは改めてイロハの顔を見る。

少しは成長したが小さな体格に見合った幼げのある顔立ち…しかし、その目は恐ろしい程に冷え切っていて、目の前にいるマコトを見ているようにはとても思えなかった。

 

『…あなた、誰ですか?』

『は…?お、おい。冗談はよせ。時間がないんだぞ…!キヴォトスが…!』

『どこから入ったんですか。まったくゲヘナの結界も随分とザルになりましたね。こんな塵芥の侵入も許すなんて』

『何を…お前は一体何を言っている…?イロハ…答えろ!イロハ!私の顔を忘れたのか!』

『謀らないでください。いくらサボりがちな私といえど知り合いにそんな失礼な態度は取りませんよ』

『だから…いや待て、待て待て…まさか…!』

 

マコトはイロハの目の奥…そこに宿る不吉な神秘に勘づくと、舌打ちをしてイロハを突き飛ばし廊下を疾走する。

無駄に入り組んだ廊下を駆け抜け、辿り着いたのはやたら贅沢に装飾が施された大きな扉…万魔殿の議長室がある部屋。

意を決してマコトがその扉を開くと───だだっ広い部屋の先、議長のみが座ることの許された豪華なチェアに腰掛けていたのは、額に縫い目がある発育の良い水色の髪の少女、ユメ。

否…マルクト。

 

マルクトはマコトの姿を見るとニコリと微笑み、きさくに手を振った。

 

『やあ、君は確か元万魔殿の議長候補だった羽沼マコトちゃんだね』

『貴様…イロハに何をした!』

『うん?ああ、彼女なら今は私の傀儡になってるよ。気にしないでよ。ちょっと記憶が混濁してるだけだからさ』

『…何が、目的だ』

『簡単なことだよ。先日のミレニアムの事変で特異現象捜査部のミレニアム支部が消滅した。桐藤ナギサの死でトリニティ支部が瓦解した。ならせっかくだからゲヘナ支部も壊滅させようと思ってね。人員が勿体ないから一部は手駒として貰ったけど…楽しんで貰えたかな?』

『ユメ…貴様…!』

『ああ、その名前はもう捨てたから忘れてもらって構わないよ。私の正体はもう聞いてるんでしょ?』

 

抜け抜けと言うマルクトにマコトは銃のグリップを握り締める手に力を込めるが、マルクトが放つ圧倒的な存在感に攻撃をすることが自らの死に繋がると本能が訴えるが故に、それを構えることが出来ないでいた。

己の不甲斐なさにギリギリと歯を噛み締めるマコトを面白そうに見ていたマルクトは、十分それを堪能したのか部屋の窓の外…遠方に見えるサンクトゥムタワーに目を向けた。

 

『未曾有の特異現象テロ、小鳥遊ホシノの封印と死滅回遊の開催。今やS.C.H.A.L.Eも連邦生徒会もガタガタで、少しでもそれらを自分のネームバリューを利用してまとめるために君は奔走してたみたいだけど…特に連邦生徒会はそれほど信用無かったかな?実際連邦生徒会の殆どは私の手中にあるけど…でも残念、ガワとはいえ”ユメ”にまで殺害命令が出されたんだよ?よくよく考えれば連邦生徒会も一枚岩じゃないと気付けたんじゃないかな?』

『…つまり貴様の手の内にないまともな連中もいたと?』

『まあね。腐敗行為だって一部のものだし、曲がりなりにもキヴォトスを維持する為に立候補した子達だよ?悪い子しかいないんだったらとっくにキヴォトスは立ち行かなくなってるよ』

 

嘲るように語るマルクトは、窓に映るサンクトゥムタワーにそっと指を触れ…不可思議な力が働いて窓の中のサンクトゥムタワーが崩壊する。

結界術の応用でモニターのようにその景色のイメージを映しただけなのは一目瞭然だが、それはマルクトなりの暗喩に違いない。

 

『君は立派だよ。万魔殿の権力を蹴って自分の道を進んで、これだけの騒乱が起きた後も一学生の身でありながら事態の収束の為に努力する…実に健気だね。でも見通しが甘かった。残ってたまともな行政官達はもう始末しちゃったよ』

『…ユメの死刑を推した連中をか?』

『天童アリスの死刑に砂狼クロコを推した子達もね。そういうわけで、連邦生徒会も万魔殿…及びゲヘナの支部も全て私の手の中さ。ここに君の居場所はないよ。二度と会うこともないだろうね』

『っ…!』

 

その言葉に殺らなければ殺られると判断し臆する身体に喝を入れて銃をマルクトへ向けるマコトだったが…一切その動きを捉えさせることなく接近したマルクトは銃口を掴んで自分から射線を外すと、触れそうな距離までマコトに顔を近付けた。

 

『違う違う、二度とってそういう意味じゃないよ』

『…私を、殺さないのか…?』

『殺す必要がない。意味もない。君が生きてても何も変わらない。せっかく綺麗な部屋が汚れるのも忍びないし、どこへでも好きなところに行くといいよ。どうせ…もう何もかも終わりなんだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…私がここにいる意味はあるのだろうか。キキッ、らしくない話だとは思わないか?」

 

飄々とした態度は相変わらずだが、レンゲはマコトの声がほんの微かに震えているのを聞き逃さなかった。

嫌なところを突いてくると目を伏せるマコトに鼻で笑い飛ばして煽るも、キキョウの死やマコト自身が語った話のこともあって明らかに普段の威勢の良さがない。

あのマコトがここまで腑抜けたことに改めて世も末だと実感するレンゲはマコトが立つ建物の上に跳び上がると、山頂付近という関係で見渡しのいいそこから結界(コロニー)内を観察した。

 

「…大方片付いたか?」

「ああ、今ので攻撃的なアウトローや特異体は排除しただろうな」

「ご立派だな、自分の支部のある自治区を掃除して回るなんざ」

「本当はイブキと共に私もキヴォトスの外に出るつもりだったが、仲間が死ぬ程の惨状だ。今更見て見ぬふりなど出来るものか。それより、貴様は身体の調子は大丈夫なのか?それに泳者(プレイヤー)として登録されていないようだが?」

「むしろ前より絶好調さ。ココナの秘儀で色んな結界(コロニー)を連れ回して貰ってる。もう3つは結界(コロニー)を平定してきた。今の私は便利なことに結界を素通り出来て死滅回遊の総則(ルール)にも引っかからないからな」

「そうか。ならここも片付いたんだ。さっさと次の結界(コロニー)に行ってこい」

 

除け者を払うかのように言うマコトにいつもの調子が戻ってきたのかと苦笑するレンゲは、やれやれと肩を竦めて結界(コロニー)を出ようとして───遙か天空から感じた強大な気配にマコトと揃って天を見上げた。

 

「…なんか来る」

「キキッ、そう簡単には終わらないということか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

雲の上の天空から落下する巨影。

加速しながら高度を落とすそれは下方の結界(コロニー)を確認すると、落下の軌道を調整して円柱状に立ち上る結界(コロニー)の壁へと近づいていく。

ある程度巨影と結界(コロニー)が近付いた時…巨影の側に出現したコガネが注意を呼びかけた。

 

 

『よお!俺はコガネ!この結界の中では死滅回遊って殺し合いのゲームが開催中だ!1度足を踏み入れればお前も泳者(プレイヤー)!それでもお前は結界に入るのかい!?』

 

「煩い、邪魔です。殺しますよ?」

『ちぇっ』

 

 

未知の巨影は、さらに加速して結界(コロニー)へと突入した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…あれ、特異体か?」

「だろうな。せっかく片付いてきたってのに…」

(マコトが戸惑うのも分かる。特異体なのは間違いないが、何とも言えない気配だな)

 

結界に突入してきた特異体、それから滲み出る異様な気配に緊張感が高まる2人は、下手に暴れ回られる前に対処しようと動き出そうとする。

しかし…丁度その時、特異体もまたレンゲとマコトを捕捉していた。

 

 

「あー…アハハッ!」

 

 

特異体はクレーターを作る勢いで地面に着地すると、駿馬の如き健脚で建物を蹴飛ばしながら2人を目掛けて一直線に駆けてきた。

迎え撃とうとそれぞれが構えるが───特異体の姿が一瞬揺らぐと、次の瞬間に特異体は目で追えない程の速さまで急加速した。

その圧倒的な速度はソニックブームを引き起こして進路付近の全ての建造物や木々を薙ぎ倒し、地面をも抉りながら反応すら出来ずにレンゲが特異体の突進に巻き込まれて連れ去られた。

 

「不破…!?」

(なんだ今のは…!?速すぎる…!)

 

 

 

 

特異体からの突進を受け山の絶壁と巨体の間に挟まれたレンゲは、辛うじて片腕を振るって特異体へと叩き込もうとしたが…腕が触れるよりも速く消えるような速度で跳び退いた特異体は、一瞬でレンゲへと()()の鋭い爪を振り下ろす。

ギリギリ剣でそれを防いだレンゲだったが、衝撃までは受け流しきれずに吹っ飛ばされ、地面から突き出た大岩に背中を叩きつけた。

 

「…ペッ」

 

口の中を切って滲んできた血を吐き出したレンゲは、初めて襲撃してきた特異体の全容を視界に納める。

 

それは、白に薄い桜色の混じる体毛を持つどこか神々しさすら感じる巨大な狐のような姿をしていた。

特徴的なのは首周りに巻かれたマフラーのようなものと…頭上に浮かぶ桜のような構造をしたヘイロー。

そのヘイローの構造は、レンゲにとってはつい先日見た覚えのあるもので───巨大な狐の特異体は、見せつけるように鋭い牙を剥きながらそこ大きな口を開いた。

 

 

 

 

 

「こんにちは、レンゲ殿」

 

「その声…お前、イズナか!?」

 

「アハッ!そうです!イズナも来ましたよ───()()()()

 

 

───泳者(プレイヤー) 特級複製特異体 久田イズナ

 

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