ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作198〜199話までの範囲でお送りします


百鬼夜行自治区結界─肆─

 

「───神秘解放『飯綱不忍御殿』」

 

 

巨大な狐の姿から手足のみを獣のように変異している以外は生前と同様の姿で産まれ落ちたイズナが神秘を解放し、領域が展開される。

ミチルやレイを巻き込んで広がった領域内に具現化したのは、*1畳や襖が滅茶苦茶に配置された立体的な空間だった。

 

「何これ!?なんか忍者のからくり屋敷っぽい!」

「ガチめの領域ですねこれ…何かされる前に畳み掛けますよ!」

「う、うん!」

 

領域の中心にある舞台のような場所に立つイズナへ、ミチルとレイは速攻を仕掛けようとする。

だが…それよりも先にイズナが秘儀を起動させる方が早かった。

 

「忍法『金縛りの術』」

 

「「!?」」

 

イズナが高速で掌印を結ぶと、次の瞬間駆け出そうとしていたミチルとレイの身体の至る所から血が吹き出る。

2人は感じた痛みに直感で動いては行けないことを察してピタリと静止した。

一体何が起きたのかとミチルはよく目を凝らすと───自分の四肢や首、胴体等にとてつもなく細く強靭な糸が絡み付いているのに気が付いた。

 

「これ…ワイヤートラップ…?」

 

「なるほどなるほど。対象に細く鋭い糸を絡ませて、動くだけで糸が締まって身体を切断するわけですか。アハハッ!良い領域じゃないですか!気分も良いですよ!」

 

自身の領域の性質を確認するとイズナは邪悪に笑って身動きの取れないミチルとレイを見下ろした。

糸に絡み取られた時点であらゆる動きが阻害され、また糸の性質上一方的に対象を切り刻むのみで対象の方からは干渉を受けず、糸を切ったり焼くなどでの対処は不可能。

つまりこの時点でミチルとレイは詰みであり…動かないようにして糸によって切断されるのを防いだとしてもイズナが攻撃を仕掛ければ防ぎようがなく、被弾によって動けばどちらにせよ糸に切り刻まれてしまう。

 

(クソッ、ここなんですか!?私の死に場所は…!)

 

(まだ…まだこんなところで…!)

 

「足掻いても無駄ですよ。糸は解けませんしあなた達は死ぬんですから。散々コケにしてくれた分、じっくりと痛めつけてやります。さて…あとはレンゲ殿の方ですかね?一体何処で野垂れ死んでるのでしょうか」

 

ミチルとレイが手詰まりと見るやイズナは2人と共に領域に巻き込んだレンゲを探して辺りを見回す。

領域内は縦横無尽に複雑に入り組んでおり、物陰などで倒れられたりしていれば神秘により探知出来ないレンゲは発見しにくい。

しかし糸に気付いてまだ生きていたとしてもどうせ身動きは取れず、イズナに発見されればそれで終わりだ。

 

(ふ〜ん…少し複雑な構造にし過ぎましたかね…?相変わらず気配だけは捉えられないんですから───いやおかしくないですか?イズナの領域ですよ?いくらワカモ殿と同じで神秘がないと言っても、居場所が分からない事なんて…!)

 

「…!野球の人、動ける?」

「いえ…無理矢理動こうとしても腕でももげたら私野球出来なくなって存在意義が無くなるのですが…」

「まあ野球は腕が大切だろうね。仕方ないな…ここは私が…!」

 

レイに確認を取ったミチルはため息を吐くと覚悟を決めて目を見開き、明後日の方向へと手に持っていた刀を投げつけた。

糸に絡みつかれた状態で無理に腕を動かしたが為に、ミチルの右腕は肩から切断されて飛んだ腕もバラバラになった。

腕以外も左手や両足、首などに糸がくい込み、血の滲む赤い線がミチルの身体中に走った。

 

「はぁ?今考え事してるんですけど…余計なことしないでくださいよ───」

 

レンゲの行方を探っていたイズナは1人勝手に変な方向に刀を投げて自滅しているミチルに毒を吐く。

集中を乱されるのも面倒だとさっさと始末してしまおうかとイズナは掌印を結ぼうとして───

 

 

「───は?」

 

 

ミチルの投げた刀を受け取ったレンゲが、背後からイズナの胸を刺し貫いていた。

何が起きたのか、確かに気配が無かった筈なのにどこから現れたのか、そもそも何故無事に動けているのか…理解不能な状況にイズナは硬直する。

 

 

初めて神秘解放を行使し領域を展開したイズナはまだ知る由もないが、レンゲやワカモのように一切の神秘を持たない存在は結界術において建造物などと同等の扱いとなり、レンゲが結界(コロニー)を素通りできるのと同じように領域の結界もすり抜けてしまう。

故にヒナがD.U.第1結界(コロニー)で行ったように実物を決壊の外殻として利用するか、レイの簡易領域に招かれた時のように本人の了承を得る、或いは自らの意思で領域に侵入しない限り、レンゲを領域に閉じ込めることは出来ない。

 

イズナが領域を展開した時その空間に囚われなかったレンゲは、領域内部突入時の出現位置を計算してイズナの直ぐ真後ろに現れて奇襲を仕掛けたのだ。

 

イズナを刺し貫いたレンゲは、ミチルから渡された…返却された刀の中に宿る旧友の意志を感じ取っていた。

 

 

 

 

 

 

小さな茶室のような空間で、お茶を一啜りしたキキョウはレンゲの瞳の奥を覗き込むようにして口を開いた。

 

『分かったでしょ?私の事。どこの誰とも分からない子に握られてまでお手本見せてあげたんだから…ちゃんと、壊せたね』

『…うん、ありがとう』

 

 

 

 

 

キキョウが残した刀は、かつてワカモが所持していた特級遺物『釈魂刀』のレプリカ。

どこで目にしたのか、何故それを選んだのかは疑問が残るがその模造品としての精度は実物に劣らず、『釈魂刀』はその性質によってあらゆるものを硬度を無視して切り裂くことが出来る。

その切れ味は(ヘイロー)にさえ干渉し、生物に対して絶対的な攻撃力を誇る。

しかしその真価を発揮する為には無生物の魂すら観測するほどの研ぎ澄まされた”目”が必要になるが、レイとの対話を通じて進化を果たした今のレンゲにとっては…それは造作もない事だった。

 

(いや、まだ終わりません!一撃で仕留め無かったあなたの負けです…!)

 

胸を貫かれようとも、今のイズナは特異体。

人間の時と急所が同様のはずも無くその一撃で即死することは無い。

前に跳んで胸を貫く釈魂刀から逃れながら、空中で反転したイズナはレンゲに向かって掌印を結んだ。

 

「忍法『金縛りの術』!」

 

(これでもう身動きは出来ません!今度こそ終わりです!)

 

糸に絡め取られもう動けなくなったであろうレンゲに、イズナは嬲り殺そうと新たに掌印を結ぶ。

 

「忍法『雷遁の術』」

 

宣言と共に出現したのは雷を束ねたような1本の槍。

激しく迸り発光するそれをイズナはレンゲへと投げ放って───着弾した槍は爆ぜるのと同時にまるで雷が落ちたかのように轟音を領域内に響かせた。

視界を真っ白に染め上げるほどの閃光に思わず目を瞑るイズナだったが、それでもさしものレンゲも身動きが取れない状態であれを受ければ死んだだろうと確信する。

その死体を拝もうと視界が戻ってきたイズナは雷の槍の着弾地点を見るが…そこには塵1つ残るものは無かった。

 

「アハッ、完全に消滅させちゃいましたかね?残念です、苦痛で歪んだ顔が見たかったのに───いっ!?」

 

乾いたように笑うイズナは、しかし悪寒を感じ取ると咄嗟に真上へと跳び上がる。

それとほぼ同時に…いつの間にか背後に回り込んでいたレンゲが釈魂刀を振るい、イズナの両脚首を切り落とした。

避けていなければ首を落としていたであろうその軌道に戦慄したイズナは瞬時に脚を再生させると頭上の逆さまになった床の間に脚の爪を立て、天井に立っているかのように身体を固定する。

 

「なんで、なんで動けるんですか…!」

「さあ、何もしてこなかったのかと思ったんだがな。腕が鈍ったんじゃないか?土壇場で失敗するなんてよ」

「そんなわけ…!」

 

(領域は結界に付与した秘儀を必中させるんじゃなかったんですか…!?なんでレンゲ殿だけ…いや、そうか!ワカモ殿と同様に神秘を一切持たないレンゲ殿は、それこそその辺の石ころと同じなんだ…!)

 

イズナの推察通り、結界(コロニー)という領域においてレンゲが泳者(プレイヤー)として認識されないのと同様、領域の必中効果は神秘を持たないレンゲを認識出来ない。

人の認識をすり抜け、結界の認識をすり抜ける今のレンゲは言わば不透明な透明人間。

あらゆる神秘的な探知に引っかからない、狐坂ワカモにも並ぶ”鬼神”。

 

奥の手の、神秘の極地である領域がレンゲ相手には意味を成さない事を悟ったイズナは怒りを膨れ上がらせてそれをレンゲへとぶつける。

 

「あなただけ!あなただけがワカモ殿と同じで!あなただけが特別だなんて!そんなの絶対、認めません!」

「キャンキャン吠えるなよ女狐が。飽き飽きしてきたのはアタシも同じだ…もう、終わりにしよう」

「終わるのは、あなただけですよ!」

 

イズナは高速で複数の掌印を結ぶと、青い炎の球と雷の槍が同時に具現化する。

青い炎の球の方はレンゲへと降り注ぎ、この領域の複雑な構造を利用して立体的に逃げるレンゲを執拗に追跡して炎を撒き散らしていく。

領域内に具現化したこの空間はそのほとんどが木造で構成されているのもあって炎は至る所に燃え広がり、地獄のような景色に変貌する。

 

「ちょっ!?私達動けないからこっちまで火が回る前になんとかしてくれない!?」

「助けられた身ですみませんがお願いします…」

 

「任せとけ!助けられたのはこっちもだ!もう少し耐えろよ!」

「誰1人、生きて返すわけないでしょうがぁ!」

 

領域内を駆け回るレンゲに掴んだ雷の槍の狙いを定め、レンゲの進路を読んで偏差を計算しそれを投げ放つ。

稲妻のように駆け抜け光の尾を引いて放たれた槍は綺麗にレンゲの進路と重なって直撃───するかと思いきや、空気の面を蹴って直角に移動することでレンゲはそれを回避した。

槍は壁を突き抜けた先で爆ぜ、閃光で一瞬視界が真っ白き染まる。

 

今度は光を直視しないように目元を手で覆ったイズナだったが、その間にもレンゲは移動を続けて次イズナが目を向けた時にはその姿を見失っていた。

 

(どこから来る!?いや、どこから来ても関係ありません!)

 

「忍法『鋼糸の術』!」

 

イズナが掌印を結ぶと、イズナの周囲に無数の細く鋭い糸が潜り抜ける隙間も無いほどに張り巡らされる。

この糸はミチルやレイを絡めとっているものと同じく一方的に生物を切り裂き向こうからは干渉を受けない性質を持つ、突破不可能な障害。

踏み込めば全身が細切れにされるだろうそれに、近接的な攻撃手段しか持たないレンゲがどうこう出来るはずも無い。

 

青い炎が回って燃え盛る領域の中で無事でいられるのは特異体であるイズナのみであり、このまま耐え凌げば人間であるレンゲやその他2人も勝手に命を落とすだろう。

だが相手はここまで何度追い詰められても突き返してきた仇敵、最後までイズナは気を抜こうとはせずどこからか突破される可能性を考えて周囲に意識を巡らせ───レンゲはイズナが立っていた天井の床の間をぶち抜いて、イズナを足元から襲撃した。

 

「なん…でっ…!?」

「ご丁寧に入り込めるところが多いんだよこの領域はよ!床下に空洞なんざ作るからそうなるんだ!」

 

イズナの領域に広がる立体的に入り組んだ、まるで街のようにも見える無数の和室や畳の部屋。

イズナがぶら下がるように立っていた天井の床の間、その裏側にも部屋があり、レンゲは糸の張り巡らされていないそこを通って来ていたのだ。

 

足場を崩されて空中に放り出されたイズナは掌印を結んで青い炎の球を浮かべ、それを真上から一緒に落ちてくるレンゲへと放つが…それらは全て釈魂刀により切り捨てられる。

ならばと雷の槍を顕現させそれを掴み取り、直接レンゲを迎え撃とうとする。

 

レンゲが渾身の力で振るう釈魂刀と、イズナが怒りと憎悪を全て乗せた雷の槍が衝突し───釈魂刀は雷の槍ごとイズナを袈裟斬りに両断した。

 

「なんでなんですか…おかしいですよ…なんで…」

 

「知るか馬鹿」

 

下の足場に落下する直前、落下の勢いを乗せてレンゲはイズナの額に釈魂刀を突き立て、床ごと貫いて串刺しにする。

それがトドメとなってイズナの身体は崩れるように消失し…それと連動して領域も崩壊する。

 

領域が崩壊したことで元の空間にレンゲ達は放り出された。

ミチルとレイに関しては全身に絡みついていた糸も解けているようで、動きを封じられた分ストレッチをして身体を解している。

 

「ふぅ…いやぁ、命拾いしたね!」

「そうですね…しかし、よくあなたも腕を捨てる決断なんか出来ましたね…」

「ふふん!忍者は腕なんてなくても忍者だからね!それに、腕って無くなったらなんか色々な機能が付いた新しいのと取り替えてくれるんでしょ!漫画で見たんだもん!」

「そういう問題ですかね…?それにしても、本当に最初に見た時と見違えましたねあの人も」

「ね、元々気迫はあったのに…今は鬼みたい」

 

「失礼な言い草だな、お前らも…さて、あっちは無事かな」

 

全身から血を流すレイと、右腕を失いその上レイよりも全身の傷が深いミチルはそれでも元気に無事を喜びあっている。

そんな2人の様子に苦笑したレンゲは、燃え盛る結界(コロニー)内を駆け回り…適当な場所で仰向けに倒れていたマコトを発見した。

 

「よお、大丈夫か?」

「…勝ったのか?」

「まあな。あいつらのお陰だ」

「そのあいつらはどうなった?」

「どっちも重症、お前と同じかそれ以上だがあの調子なら直ぐに手当すれば助かるだろ。直ぐに救急道具でも探しに行くつもりだが、お前も来るか?動くのが辛かったら担ぐぞ」

「大怪我してる奴を貴様の荒さで揺らされたら堪ったものではない。私は後で良いからさっさと連中の処置をしてくるんだな」

「ケッ、素直じゃねぇなぁ…なあお前、今回全体的にらしくなかったな?」

「…」

 

無愛想なマコトにレンゲが今回の戦いで感じていた違和感を指摘すると、マコトはおもむろに黙り込んで俯いた。

その姿にレイとの野球で悩みを晴らすまで柄にもなく考え込んでしまっていた自分の姿を重ね、レンゲは景気付けにマコトの背中を軽く蹴り飛ばす。

 

「痛いっ!?なんだ貴様ぁ!?」

「本当にめんどくせぇ奴だなお前も。考えるなら動け、まず行動しろ馬鹿野郎。関係ねぇ奴の為に自己犠牲を是とするなんざお前らしくねぇってんだよ。悩みがあるなら相談しろ、案外清々するぞ」

「…フンッ、誰が貴様なんかに…」

「ははっ、それぐらい生意気な方がお前らしいよ、マコト。ほら立て」

「…」

 

レンゲが伸ばした手を、マコトは少し躊躇いながらもやれやれと肩を竦めて掴み取る。

レンゲに引かれて立ち上がったマコトは自分の力で歩き、ひとまずの安全な場所を目指す。

周囲の危険性がないことを確認したレンゲはそんなマコトの後ろ姿を見送って、全員分の救急道具を探しに向かうのだった。

 

 

 

 

────百鬼夜行自治区結界(コロニー) 平定

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

D.U.第1結界(コロニー) 11月14日

 

 

「おはようございます、よく眠れましたか?空崎さん」

「…」

 

痛みの響く頭を抑えながら、深い眠りから目を覚ましたヒナはどこかのホテルらしき場所のふかふかのベッドで自分が寝ていることを確認すると、部屋の窓辺の椅子に座る水色の髪と白い翼が綺麗な女性の姿を見て困惑する。

だが少なくとも特に身体に異変も感じられず怪我も包帯が巻かれていたりで手当されているのを見て敵ではないと判断し…先程から部屋の隅でゲームの音をピコピコと鳴らしている友人の方を見やる。

 

「私はどれくらい寝てたのかしら…アリス」

 

「…!ヒナ!目を覚ましたのですね!死んでしまうとは情けないです!」

「生きてるわよ。で?どれくらい?」

「大体2日ほどでしょうか。今は14日の夜ですよ」

 

部屋のテレビにどこから持ってきたのかゲーム機を繋いで呑気に遊んでいるアリス。

見るとゲーム機からはアリスの持つコントローラー以外にももう一本線が伸びていて…その線を辿ると、もう1つのコントローラーを持ってアリスとゲームに興じていたカヤの姿があった。

 

「あら。無事で良かったですね、アリスさん」

「はい!ヒナは寝起きに弱いので心配でしたが、杞憂だったようです!」

「そうです!無事を祝って何か作りましょうか?ヒナさん、昼に色々と食料をかっぱらって来たのですが、一通りの食材は集めたのでなんでも作れますよ。リクエストがあれば是非!」

「はい!アリスはハンバーグが食べたいです!」

「私は構いませんよ。自分で紅茶を入れますので」

「…なんで貴女達皆仲良くなってんのよ取り敢えず…私は御手洗とお風呂に入ってくるからその間に状況をまとめておきなさい」

「「「はい!」」」

 

自分が眠っている間に何があったのか、アリスとカヤはともかく初対面のあの女性は何者なのか…その風貌からおおよその見当は着いていたが、寝起きというのもあって1度冷静になるためにヒナは部屋のシャワー室へと駆け込んだ。

 

 

それからしばらくして戻ってきたヒナはアリス達に促されるままに席に着き、ヒナが眠っていた二日の間の出来事を説明する。

 

「カヤさんがなにか凄い爆発を起こす派手な方と戦っていましたので、様子を見に駆けつけたんです!」

「そしたらアリスさんがヒナさんを探すのを手伝って欲しいと頼んできたので、行動を共にすることにしたんですよ」

「そうして2人が探しているところに偶然ヒナさんを安全な場所まで運んでいた私がばったりと遭遇して今になった次第です」

 

「なるほど…じゃあやっぱり貴女が?」

「はい、今世での私の名前は蒼森ミネ…ヒナさん達が探していた”白衣の天使”に違いありません」

 

胸に手を当て上品に自己紹介するミネに、ヒナはほう、と息を飲む。

天使と自称するだけあってその雰囲気は慈愛に溢れていて、あらゆる諍いや争いを許さないとばかりの優しさに満ち溢れているように見えた。

 

「確かにいい人そうだけど…そんなあっさり仲良くして、貴女達に警戒心とかないわけ?」

「「まあまあ!」」

「…ごめんなさい。助けてくれてありがとう」

「「まあまあ!」」

「ふふっ、要救護者を救護することこそが私の使命ですのでお気になさらず」

 

アリス達に苦言を呈するは良いものの、助かったのは事実でありそのお礼を言うとアリスとカヤは茶化すように、ミネは2人とは違って上品に応える。

 

その後細かい状況のまとめを終えたアリスだったが、思い出したようにコガネを呼び出した。

 

「そうです!ヒナ、これを見てください!秤先輩が100(ポイント)を取ったんですよ!それだけじゃありません、クロコ先輩も247(ポイント)、そこにアリス達の(ポイント)を合わせれば…416(ポイント)!ノルマ達成です!これでヒナの後輩も助かりますよ!」

「…そう」

 

(…良かった…後は総則(ルール)を追加した後に何点で死滅回遊から離脱できるか次第…絶対に助けるわよ、アコ)

 

当面の目標を達成したことに内心喜びながらも冷静に次を見据えていたヒナは、しかしよく考え直してカヤとミネの方を見回す。

2人はそんなヒナからの視線に疑問符を浮かべて首を傾げた。

 

「…貴女達は、良いの?私達のために(ポイント)を譲って」

「はい、ぜんぜん構いませんよ。アリスさんの総則(ルール)追加のお陰で私も人を殺める必要がなくなったのでむしろ助かりました」

 

ヒナの疑問にカヤは快活に応え、礼をする。

 

ちなみにカヤの持っていた1(ポイント)はニコと別れた後にまた追いかけて(ポイント)をねだって渋々譲り受けたものというのはまた別のお話。

 

そしてカヤの話にミネもまたうんうんと頷いて優しく微笑んだ。

 

「私も人を殺めることなく当分活動を続けられることに感謝しています。それに、(ポイント)を持っていても特に使う予定もありませんので」

「そう…ねえ、貴女はどうして私を助けたの?」

「…先程も言いましたが、要救護者の救護こそが本来の私の生きる使命。マルクトによって不本意に現世に呼び起こされ私を宿された肉体が沈んでしまったことは心苦しいですが、ならばせめて私の使命を全うしより多くの人々を救うことこそが今の私の使命であり贖罪なのです!」

「おお!ミネは良い人ですね!」

「自ら進んで救命活動とは素晴らしいですね。是非今後とも仲良くしたいものです」

 

ミネのまさに天使とも言える慈愛の心と行動理由にアリスは感動し、カヤも感心している。

ヒナはそんなアリス達を見て自分だけはもっと疑り深くならなければと思うが、ミネの言葉に裏も見えなければ何かを謀っているようにも見えず、どちらにせよ協力してもらうことが探していた目的な以上とりあえずは信じることにした。

 

「貴女、秘儀を消滅させる秘儀が使えるんでしょう?その力でちょっと助けて欲しいことがあるのだけれど…」

「救護に繋がることならば喜んで…と言いたいところですが、実は私にもやらなければ行けないことがあるのです」

「…それは?」

「マルクトが現世に復活させた”名も無き神々”の掃討…私は私の手の届く範囲で誰かが命を落とすことは良しとしませんが、彼らだけは別です。彼らは復活するやいなや今のこの地の者達の事も考えず力を悪戯に振りまいて死をもたらす厄災。器となった者達の自我を沈めて殺した彼らに慈悲は必要ありません。これ以上の被害を食い止めるためにも、私は救護を続けなければならないのです…とはいえ彼らも全盛期の力を引き出せず、この時代の者達に屠られる名も無き神々もいるようですが」

 

熱弁するミネの感情の中に、太く力強い芯があるのを感じ取ったヒナ達だったが、素直にその考えを賞賛するアリスとカヤと違いヒナはその裏に何かに向けた強い執着があるように見えた。

 

「…ねえ、ミネさん。私達としても、あなたの力を借りられれば大勢の命を救うことが出来るわ。それこそ名も無き神々だって敵じゃない…貴女の救護活動だってより円滑に進むはずよ」

「なるほど?では貴女は私に何を求めるのですか?」

「神名結晶…私達の先輩を封印するあの遺物を解除して欲しいの」

「遺物の解除ですか…それならば確かに私の秘儀で可能でしょう。助けたいのは山々ですが…では私にも少し協力して頂けませんか?」

「…分かったわ、内容によるけど…いや全部の名も無き神々を殺せとかだったらちょっと…」

「そこまでがめついお願いをする気はありませんよ。この死滅回遊の中に、何としても屠りたい者がいるのです。彼女を打ち倒せとまでは言いません。発見に協力していただけるのならば、私も協力は惜しまないと約束しましょう」

「その、探してる相手っていうのは…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「名も無き神々の王女、Keyです」

 

「「!」」

「?」

 

*1
だいたい某無限城

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