ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作203話〜204話までの範囲でお送りします(少し短め)


桃と夢─弐─

 

マルクトが黄昏宮へと侵入する数日前のこと、それを見越していたクズノハはミカとモモイを和室のような空間へと招きその対策について話し合っていた。

一通りの概略を伝えたクズノハは迎撃の先鋒をどうしようかと尋ねると、真っ先にモモイが手を挙げる。

 

『私が一人でやる』

『…モモイちゃん、死ぬよ』

『じゃあ2対1でマルクトとやるの?』

『…』

『ほら、邪魔なんでしょ』

 

手札の読めないマルクトを相手に初手全力投入はあまりにもリスクが大きい。

その他にもモモイではまともにミカとマルクトの戦闘に着いていけない可能性が高いだろう。

それはつまりモモイとマルクトの間にも圧倒的な開きがあるのを自ら肯定しているのと同義ではあるが…それでもモモイは先陣を譲らなかった。

 

『私が先に出て、少しでもマルクトが持ってる特異体や秘儀の情報を引き出す。その後にミカさんに繋いだ方がいいはずだよ。もし…神秘を解放させられればそれで…』

『解放直後の秘儀が焼き切れて使用困難な状態のマルクトを私が急襲する…ね。もう一度言うけど、死ぬよ?』

『あいつさえ倒せればそれでいいよ。私と…妹達と…皆の為に。そして───』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

モモイが放った『生苦』

銃に込められた弾丸を圧縮した血の噴出によって推進力を増加させて放つ奥義。

その弾速は音速を遥かに超えてマルクトの脳天目掛けて飛ぶが…それをマルクトは上体を逸らして避けると、お返しとばかりにムカデのような特異体をモモイへとけしかけた。

 

対してモモイはもう一度引き金を引くと、今度は神秘が籠っただけの通常の弾丸が横薙ぎにばらまかれ迫る特異体も撃ち落とす。

ただの神秘が籠っただけの弾丸と侮るなかれ、モモイが放ったそれらは着弾地点の地面を粉砕し瓦礫を巻き上げる程の破壊力を発揮する。

しかしそんな攻撃もマルクトは掠りもせずに簡単に避け、巻き上げられた瓦礫を1つ掴み取るとモモイに向けて投擲する。

 

「馬鹿にして…!」

「どうかな?」

「っ!」

 

その程度の投石を本気で当たると思っているのかと腹を立てるモモイだったが、マルクトが薄ら笑うと投げられた瓦礫は独りでに崩壊…瓦礫を目くらましにその真後ろから追従していたムカデのような特異体の群れがモモイへと奇襲を仕掛ける。

意表を突かれた事に面食らうモモイだったが、冷静に銃口から1つの血の雫を特異体の群れへと放ち…群れに衝突したその小さな雫は全方位に向かって散弾銃のように炸裂して特異体の群れを一掃する。

 

「『超新星』」

「綺麗な技だね。で、それがどうしたの?」

「尽く舐めてくれるね…!」

 

特異体が消滅した際に飛び散った肉片に紛れ距離を詰めたマルクトが大袈裟に右腕を振りかぶる。

見え見えの攻撃に1度防いでからカウンターを決めようと銃身でガードしようとするモモイ。

が、マルクトはモモイが盾にした銃を掴んで強引にガードを引き剥がすと、無防備になった顔面へ強烈な右ストレートを叩き込む。

脳を直接揺らされているのかと錯覚する衝撃に後退したモモイへマルクトはさらに追撃しようと駆け出す。

 

「…あ」

「『超新星』!」

 

だが顔を殴られた時に飛び散った鼻血に紛れていた血の雫が、マルクトのすぐ側で炸裂する。

鼻血を拭うモモイは特異体を盾にしてそれを防いだマルクトを睨みながら、時間稼ぎがてら怒気の籠った声で質問を投げかけた。

 

「…答えて。アリスに何をさせるつもりなの?アリスを使って何を企んでるの?」

「うん?君がそれを聞くんだ。困ったなぁ、さっきも言ったけど私達ってそこまで因縁がある訳じゃないと思うんだ。ミドリちゃんとユズちゃんを殺したのは天童アリスでしょ?その上そうなる過程を作ったのは紛れもない君達の自業自得なんだから」

「だからこそ、だよ。私はたくさん間違えた…ミドリを、ユズを…仲間を、大切な妹達を死なせちゃった…だから、アリスだけは守らなきゃいけないの!何がなんでも…答えて!マルクト!アリスに何する気なの!?」

「う〜ん…そうだなぁ…」

 

マルクトはモモイの『超新星』を防ぐために盾にした特異体を雑に投げ捨て消滅を見届けるでもなく唸ると、モモイの話自体にあまり興味無さそうにしながらも一応の答えを出す。

 

「あれに具体的な目的があるわけじゃないんだ。まあ強いて言えば器であることが役割で、既にそれは済んでるからね。天童アリスは始まりの狼煙なんだよ。あれがKeyと生き続ける限り不幸の連鎖は止まらない。新時代の台風の目…”不吉な未来”、それが天童アリスなんだ」

 

そう答えたマルクトの眼前に『生苦』により加速した弾丸が迫る。

それを当然のように避けながら、マルクトは呆れたように首を振った。

 

「アリスが生き続ける限り…?違うでしょ…あなたが生き続ける限りでしょ!マルクト!全部の不幸はあなたのせいだよ!絶対に、アリスなんかじゃない!」

「別にその辺は好きにすれば良いけど…興奮しすぎて足元がお留守だよ」

「!?」

 

激情を捻り出し慟哭するモモイの足に、マルクトが地面を這わせてこっそりと差し向けたムカデの特異体が絡み付く。

それを振り払おうとするモモイだが、マルクトが特異体を引き戻すとそれな合わせてモモイも地面を引き摺られてマルクトへ引き寄せられた。

マルクトはそんなモモイの腹を蹴り上げ、服の襟を掴んで乱雑に振り回して地面に叩きつけ、顔を目の前まで持ってくると全力で殴り飛ばす。

 

たたらを踏んだモモイは倒れないように踏ん張り『クリエイティブセンス』を発動、体内の血を高速で巡らせて身体能力を引き上げて再度マルクトに立ち向かう。

血管が浮き上がる拳を振るい、受け流されるのを読んでもう片手の銃を乱射するも、特異体を盾にされて本体には届かない。

ならばと特異体の上から叩き潰そうと蹴りを放つが、あっさりと脚を掴まれて頭を地面に脚を上にと逆さまになるように持ち上げられ、逆にモモイの顔面に蹴りが叩き込まれる。

 

容赦のない押収にモモイは地面を転がるも、痛む身体に鞭打ってなんとか立ち上がりマルクトと向き合った。

 

「はぁ…君が斥候だってことは理解してるよ。聖園ミカに私の秘儀を少しでも開示するつもりなんでしょ?残念、『特異操術』…それも低級の特異体しか使わないよ。使う必要がないって言っても良いね。なんせモモイちゃん達は揃いも揃って…お馬鹿さんだから!」

「ふざけっ…!」

 

マルクトの言いように激昂するモモイだが、冷静さを欠いて敵うはずもなし、怒りの弾丸は特異体を盾に防がれ反撃としてけしかけられた無数のムカデのような特異体がモモイを飲み込む。

それらはモモイを中心に球体を作るように寄り集まり、内側へと圧力をかけて押し潰そうとする。

脈打つように蠢いていた特異体は暫くしてその動きを止め…独りでに崩れ落ちて消滅した。

 

「ハァ…ハァ…!」

「傷付けちゃったらごめんね。でも無警戒に悪い人と取引に応じた君達も悪いと思うんだ。あんなガラクタ如きの為に釣られるなんて、子供が過ぎるって話だよ」

 

特異体の群れから脱出したモモイは、それでも明らかにあれらの等級に見合わない攻撃力によって削られ、服も身体もボロボロにして息を荒くしている。

マルクトは「まだまだいるよ〜」とおちょくるように自らの腕にさらにムカデのような特異体を絡みつかせた。

 

「連邦生徒会が特異現象捜査部の生徒に割り振る”特級”が何を意味するか知ってるかな?…『単独でのキヴォトスの転覆が可能であること』、小鳥遊ホシノは言わずもがな、ユメも『特異操術』で異形の軍隊を保有できるわけだからね。塵も積もればなんとやら…低級の特異体でも私の神秘で強化して群れを成して指揮に従えば、1級に区分される生徒に匹敵するであろう君もこうなるわけだ」

 

出していた特異体を収納したマルクトは這いつくばるモモイをこれまでだと、次に出てくるであろうミカを待ち構える。

しかしそんな戦闘の様子を観察していたミカは…

 

 

 

「…行った方が良いのではないかの、聖園ミカ」

「いや、まだだよ。あんまり人の思いを舐めないで」

 

 

 

 

 

 

(…私はお姉ちゃん失格だよ。妹達を守って…背負って…お手本になって…それが”お姉ちゃん”のはずなのに)

 

 

『面白いと思ったから』

 

 

(…私は、面白くない)

 

頭に響くのは大切な仲間であり妹の1人であるアリスの仇敵。

ただ1人残ったアリスへと魔の手を伸ばそうとするモモイにとっての最大の敵。

それなのに、一撃さえ入れることも出来ず一方的に嬲られているのが現実だ。

 

(でも…妹達を面白くないなんて言わせない。だから…!)

 

 

「…?」

 

マルクトは物音に気付いて振り返ると、そこにはボロボロになった上着を脱いで気合いで立ち上がったモモイの姿があった。

モモイの周囲には流動する血が渦を巻き、モモイの激情に呼応するように激しく波打っている。

 

(皆の力を…貸して!)

 

 

 

「ゲーム開発部…ファイヤーー!!」

 

 

 

モモイは、誰かに背中を押されたような感覚を覚える。

背中を押した相手は、今のモモイには振り返るまでもなくよく理解出来る相手で…

 

『お姉ちゃん!』

 

『モモイちゃん…』

 

『モモイ!』

 

 

 

『頑張れ!』

『頑張って…!』

『頑張ってください!』

 

 

 

(ミドリ…ユズ…アリス…)

 

「うん、任せて!」

 

モモイは自分の周囲を巡らせていた血を手元に圧縮して両手で包み込むように収めると、手の先をマルクトに狙いを定める。

この期に及んでやることがそれかとマルクトは肩を竦めた。

 

「それは『穿血』だね。その技は初速がトップスピード…1度躱せば───」

 

モモイの手から高圧縮された血が勢いよく噴出され、レーザーのようにマルクトを貫かんとする。

だがそもそもそれよりも速度の速い『生苦』にも対応出来るマルクトがまともに受けるはずもなく、噴出中は制御の小回りが効かない『穿血』の血のレーザーでは軌道を修正したとしても捉える事は困難。

 

「ちっとも怖くないね」

「好きに言いなよ!」

「うん?」

 

マルクトが避けた『穿血』は薙ぎ払うように付け狙ってくるかと思えば、血のレーザーそのものが蛇のようにうねってその先端が追尾を始めた。

その攻撃方法に覚えがあったマルクトは記憶を洗い…あの日ゲヘナでの戦いでアリス達に殺された内の1人、ユズが使っていた秘儀に酷似していることに気が付く。

 

追尾してくる血は初速のような音速に至る程では無いが、マルクトはそれを普通に避けようとすると面倒だと判断し、飛行能力を持つ特異体の上に乗って空中へと逃れる。

うねる血のレーザーは途中で拡散して複数に分かれ、それぞれが意志を持つかのようにマルクトを執拗に追跡した。

段々と距離が縮まり遂にはマルクトが乗っていた特異体を貫くが、その際に一瞬減速した隙に離脱したマルクトはモモイに蹴りを入れて血の制御を解除させる。

 

「ユズちゃんの真似事かな?『赤血秘術』は確かに応用が効くけど、本職には遠く及ばないんじゃない?」

「器用貧乏だって、良いんだよ!あなたに勝てれば!『翅王』!」

 

ユズが秘儀で作り出していた血の翼を再現し、ユズほど立派では無い小ぶりなそれをはためかせたモモイはマルクトへと殴りかる。

それと同時に血の翼を弾けるように拡散させ、飛び出るように放たれた複数の血のレーザーが回り込んでマルクトを背後から狙う。

初手の打撃を防いだマルクトは特異体を呼び出しながらバク宙し、背後から迫る血のレーザーを特異体で受け止めた。

 

(っ!特異体の消失反応で気配が…!)

 

「まだまだそんなじゃつまらないよ」

「ぐぅっ…!」

 

血のレーザーに貫かれ消滅する特異体。

その際に霧散する神秘に紛れてマルクトの動きを読めなくなったモモイは腹に掌底を受け、続けて呼び出されたムカデのような特異体に喰らいつかれてマルクトから引き離される。

首や腰に噛み付いてくる特異体を叩き潰したモモイを、マルクトは転がっている瓦礫の1つに腰掛け嘲るように笑った。

 

「”追尾”を付与したところで『穿血』…どころか『生苦』だっけ?あれほどの速度も無い技。それに加えて当たったところで君が技に混ぜてる毒だって対策してないわけじゃないよ。それで、今の一連意味あったかな?」

「ユズみたいに…精確に…」

「?」

「ミドリみたいに───冷静に!」

「!」

 

どこからともかく殺気…モモイからだけでは無い、また別のどこからか攻撃の接近を察知したマルクトは周囲を見渡し、そして最後に足元を見ると嫌そうな表情をして後ろに跳び退いた。

その直後…いつの間にか地面を潜ってきていたのか、足元から突き出てきた血のレーザーがマルクトの鼻先を掠めて前髪の一部が消し飛んだ。

さらに血のレーザーはマルクトの周囲をぐるりと取り囲むと収縮して締め上げ、鞭のようにしなってマルクトを振り回して地面を引きずり回す。

最後にマルクトを投げつけて、その方向に回り込んでいたモモイは拳を構えた。

 

「アリスみたいに───パワフルに!」

 

飛んできたマルクトの顔面目掛け、モモイは拳を叩き込む。

今出せる全ての力を込めた一撃はマルクトを地面に叩き付けて衝撃が地面を割る。

だがマルクトはそれすらも特異体を緩衝材にすることでダメージを最小限に押さえ込んでいた。

 

「終わり?」

「どうだろうね!?」

 

マルクトの足払いを避ける為にモモイが跳び上がった隙にマルクトは体勢を立て直すが、逃すまいとモモイは再び背後に血の翼を作り、それを弾けさせて追尾する血のレーザーを放つ。

 

「だからそれじゃ速度も威力もお粗末だって…!?」

 

(…良いんだよ。これは”運河”なんだから。圧縮した血を、あなたに運ぶための…!)

 

マルクトへと向かう複数の血のレーザー、それらの先端から小さな血の雫が独立してマルクトの周囲を取り囲む。

この距離ならば逃げようがない。

 

「『超新星』!」

 

モモイの宣言と共にそれらの雫は全方位に弾け───それとほぼ同時にマルクトが腕を振ると、炸裂した血の散弾は不可視の圧力を受けてその全てが真下へと落ちた。

マルクトの足場のみを残してその周囲は陥没し、落ちた血の散弾が地面に無数の深い穴を穿っている。

 

「…チッ」

 

(不発…?いや違う。確かに炸裂した…全部落とされた!でも…)

「ハァ…ハァ…ははっ、使ったね!『特異操術』以外の()()を!」

 

ここぞとばかりに煽るモモイに、マルクトはようやく苛立ちという感情らしい感情を見せて顔を顰めた。

 

直後、空間に亀裂が走る。

空間の一部が六角形のタイル状の破片を巻きながら崩れ、そこから姿を現したのは───機械的な蛇のような式神を背後に引き連れた桃色の髪の女性。

 

 

「私は一人っ子だけどさぁ…最高だよ☆お姉ちゃん!」

 

 

姉妹の絆が掴んだ情報という名のバトン。

繋ぐは”特級”、聖園ミカ。

 

その姿に圧倒的な安心感を覚えたモモイはダメージと疲労による限界を迎え意識を手放し、離脱の用に開かれた背後の空間の穴へと落下した。

 

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