ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作209〜212話までの範囲でお送りします


特異胎天─参─

 

11月14日 深夜、百鬼夜行自治区某所。

時はミカとマルクトの戦いより前のこと。

 

無名の司祭と共にとある場所の通路を歩いていたマルクトは、キヴォトス中に解き放っている特異体を使い各地の様子の観察を行っていた。

 

「…そちらの調子はどうだ?」

「良い感じかな。どこもかしこもてんやわんや、皆混乱してるだろうね」

「しかし、折角の特異体…それも秘儀を持つ程の力がある個体すら大盤振る舞いとは、この後一大決戦が控えている者がする浪費とは思えんな」

「どうせ特級…聖園ミカ相手には一定以下の特異体じゃ歯が立たないからね。それに時間の問題もあるしやるなら並行で、かつ最短を目指していかないとやってられないよ」

「ふん、貴様も随分と難儀なものよな」

「あー、ちょっと馬鹿にしたでしょー?まあいいけど…それより、ここはどう?」

 

道中何故か転がっていた死体を適当な特異体に処理させながら、長い通路を歩いていたマルクトと無名の司祭は通路の先にあった随分と開けた部屋へと出る。

無名の司祭は部屋の中を軽く散策すると、取り出した遺物…『万象器』を作動させ、不可思議な力が働いて部屋の中央が四角に陥没してそこそこの深さの穴が出来上がった。

 

「うむ…悪くない。ここならば名も無き神々の王女にも満足のいく”浴”が出来るであろう」

「それは良かった。わざわざ探索向きな特異体を使って探させた甲斐があったよ。さて…結界(コロニー)の方はどうなってるかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

D.U.第1結界(コロニー)

 

突如その内部に侵入してきた無数の特異体は見境なく暴れ回り、逃げ遅れた一般人や力の弱い泳者(プレイヤー)を数の暴力で、或いは一部の秘儀を持った特異体によって蹂躙していく。

 

そんな地獄のような状況の中、街中で暴れ回っていた一際強力な特異体。

一般人達が逃げ込んだビルと同等の体躯を持つそれは建物へと腕を突っ込み彼女達を引きずり出そうと、もしくはビルごと破壊して叩き潰そうとしたが…そんな特異体はふと強い神秘の気配を感じ振り返る。

すると、振り返った目の前で巨大な爆発が起きて特異体の頭は消し飛んだ。

 

「何が起きてるんだろう…まったく…」

「ニコー!?ビルの方巻き込んでないわよね!?」

「あ、うん。逃げ込んだ人達は大丈夫だよ!」

 

ヒナとカヤとの戦いに敗れ、小隊の仲間であるユキノとオトギを失ったニコとクルミは活動の方針を変更し、結界(コロニー)内の一般人の保護に奔走していた。

火力と攻撃範囲に優れるニコの秘儀は特異体達の殲滅において十分な効力を発揮し、細かなところはクルミによるフォローで補えていた。

 

そしてニコの背後に回り込んで襲いかかろうとした特異体を降ってきたかのように跳んで来たクルミが盾で特異体を押し潰してひとまずの周囲の安全を確保すると、疲れたように地面に置いた盾の上に腰掛けた。

 

「これって…マルクトの仕業よね…」

「確かあの人の身体…特異体を操る秘儀を持ってたんだよね…思えば、ユキノちゃんを唆したのもあの人だ…人の弱みに漬け込んで…こんなことまでして…絶対に許さない…」

「…私もあいつは許せないけど、落ち着きなさいよ。アンタ、本当に最近らしくないわよ」

「…ごめん。まだ、動揺してるのかな…」

「私だって信じられないし、胸にぽっかり穴が空いた気分だけど…今はやれることをやりましょう。ユキノやオトギだってきっとそう望んでるわ」

「…うん。少し休んだらあっちの方も見に行こっか」

 

(『これは確信だ。奴は…マルクトは、強者のみが残った回遊に”爆弾”を落とし死滅回遊は役割を終えることになる』…か。これがそうなの?ユキノちゃん…)

 

生前のユキノがマルクトの目的について推測していた時の話を思い出し、一体どのような思惑が渦巻いてこのような事態になっているのか、想像もつかないニコは夜の寒さかその恐ろしさか、特殊部隊の精鋭とは思えないような震えを感じ、情けなさに耳をぺたんと垂れさせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…思ったより抵抗が激しいけど、それはそれでまあ僥倖だね」

「死滅回遊の泳者(プレイヤー)と解き放った大量の特異体、それらを共倒れさせることで生じる神秘を回収し結界(コロニー)を活性化、クズノハとの同化前に慣らしを終えるといったところか。くだらん目論見だな」

「面白くないの、そこはもうちょっとふざけた答えを出しても良いんだよ〜?」

 

マルクトが貴重な手持ちの特異体を浪費してまでしたいことを無名の司祭はそう推察するが、遊びのないその答えにマルクトはやんわりと貶して適当な特異体を一体手元に呼び出し、それを握り潰した。

潰された特異体はその瞬間に一瞬神秘を膨れ上がらせ…マルクトの手の中に吸い込まれる。

 

「D.U.と元ミレニアム自治区を除いたら確かに各結界(コロニー)の神秘は十分じゃない。その保険として強めの特異体を大量に結界(コロニー)に侵入させて、一般人や泳者(プレイヤー)、そして特異体がそれぞれ死ぬ瞬間に生じさせる大きな神秘を回収したいってのは読み通り…でも言うほど盛り上がんないと思うんだよね。今更特異体を暴れさせても」

「ほう?まあ余程強力なものは貴様がまだ持っているだろうとは思っていたが…それほど放ったものは貴様にとって期待が沸かないものだったか?」

「それもあるし、さっき言った通りあれらじゃ多分聖園ミカの足切りラインを越えられない。かといって『うずまき』に使うだけなら低級の特異体がある程度いれば問題ないし、結界(コロニー)に放った分はまあ弱い泳者(プレイヤー)を幾らか減らせればってところかな」

 

マルクトは無名の司祭の前に適当な特異体を放り出し、無名の司祭もまたそれらを『万象器』を用いて氷漬けにし何か作業を行いながら話を続ける。

一通り必要な分の特異体を出し終わったマルクとはもう一度各結界(コロニー)の様子を観察してほくそ笑んだ。

 

「ふふっ、好きなだけ殺し合うと良いよ。君らが勝とうが負けようが私の手のひらの上なんだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

結界(コロニー)内に侵入してきた大量の特異体の気配を察知し夜の街へと繰り出していたアリス達に、先導するミネが現状の分析を語った。

 

「恐らく、マルクトの目的は結界(コロニー)内の泳者(プレイヤー)や特異体の”死”を利用した神秘の活性化でしょう」

「何故ですか!?」

「人でも特異体でも”死”という現象が訪れれば星が終わる時に莫大なエネルギーを解き放つように、それらもまた死せる瞬間その内の神秘を爆ぜさせます。皆さんも、特異体を鎮めた時に一瞬神秘が膨れ上がるのを見たことはありませんか?」

「それは、確かに…じゃあこの特異体の侵入もそういうことよね」

「おや、この超人に引き寄せられて来たのでしょうか!そこら中に化け物が!」

「うっさい!で、だとしたらこれ鎮めるのはマズイんじゃないの?」

「D.U.の結界(コロニー)は尾刃カンナや美甘ネルによって多くの泳者(プレイヤー)が葬られ、既に神秘で満ちています。例えここの特異体を全て鎮めたとしても他の結界(コロニー)の神秘が満ちていなければ意味は無いでしょう。それに…」

「はい!巻き込まれた人達を守らないわけにはいきません!光よ───!」

 

辺り一帯、隙間がないほどに大量の特異体の気配が満ちて逆に神秘での探知が難しくなっている。

ならばとアリスは適当にレールガンをぶっ放して直線上の特異体を建物ごと貫いて一掃する。

が、それに刺激されたように特異体の数々も動き出してアリス達へと殺到した。

 

「ちょっ、なにやってんのよ!?」

「え!?いえ、ごめんなさい!焦りました!」

「どうせもう少し進めば同じ結果になったでしょう!ならば先手を取れた分逆に有利です!いざ、救護!」

「「「!?」」」

 

四方八方、意地でも逃げ場は作らないとばかりに密集して迫ってくる特異体の群れ。

竜巻の中心にいるかのような感覚にヒナは面倒だと掌印を結ぼうとしたが…それより先にミネが高く飛び上がると、不自然な軌道で急降下して地面に着地。

衝撃によって地面が割れ…同時に発生した光の衝撃波が迫っていた数百を越える特異体を全て消し去り鎮めてしまった。

 

「…何、今の…」

「救護です」

「いや動きとかおかしかったし…」

「救護です」

「あの光なんなのよ…」

「救護です」

 

「うわーん!この人botになっちゃいました!」

「なるほど…超人ならば衝撃波も出せるようにならなければいけませんね!参考になります!」

 

込み上げる疑問に「救護」の一点張りで乗り切ろうとするミネにヒナは諦めたように乾いた目をして、アリスは若干面白がりながらそれに突っ込んで、カヤは1人呑気なことを考えている。

そんな中でも容赦なく特異体達は襲ってくるが、第1陣を乗り切ったことで迎撃するのに十分な余裕が出来たアリス達は各自でそれらの対処を始めた。

 

「行きます!光よ───!」

 

ビルの上から姿を現した巨大なロボットのような特異体。

それらは武装していた大量のランチャーやバルカン砲を撃ち下ろしながら落下してきたが、弾幕の全てをアリスが放ったレールガンによる極大のエネルギーが飲み込んで消滅させる。

 

「アリス、あんまり壊し過ぎないようにしなさいよ。後から大変なんだから…『鵺』」

 

ヒナは掌印を結んで式神『鵺』を呼び出す。

鵺は帯電した翼をはためかせ高速で空を飛翔し、飛行能力を持つ特異体に突っ込んでは次々と撃ち落としていく。

さらにヒナ自身も愛用のマシンガンを空へと乱射してそれを援護する。

 

「あわわ、ですからこう話の通じない輩は苦手なんですよ…!」

 

カヤはわちゃわちゃと逃げ回るばかりだが、しかしどれだけの特異体が暴威を振るってもカヤはケロッとした様子で無事を保ち続けている。

それがイラついたのか特異体の一部のヘイトがカヤへと集中し、アリス達が戦いやすくなっている。

カヤの妙なタフさに気にかけることを辞めたヒナは新たに『蝦蟆』を呼び出すとその背中に捕まり、蝦蟆の跳躍力を利用してビルの外壁の高いところまで飛び上がって壁に張り付くと、地上へマシンガンを掃射して特異体の群れを鎮めていく。

 

アリスもヒナも多くの困難を経験しそれらを乗り越えてきたことで急激に成長を見せ、カヤのタンクとしての機能もあってか数百数千の特異体を相手にしてなお有利に立ち回ることが出来ていた。

だが…それだけ上手くことが行っているのは、戦況を何よりも大きく動かしている無法の”飛車”がいるからに違いない。

 

「救護の必要な場所に、適切に!救護を!」

 

戦場を爽快と駆け回るのは美しい青髪を靡かせ、天使のように綺麗な翼を揺らす”白衣の天使”、蒼森ミネ。

ミネはライオットシールドを全身を使ってぐるんと振り回すと、向かってきた特異体はその盾に衝突しただけでバラバラになって飛び散った。

 

さらにビルの上階の窓を破って姿を現した特異体が大量の卵のようなものを撒き散らし、それらは地上に落ちるのと同時に爆裂しミネは絨毯爆撃に飲まれるが、次の瞬間には爆煙を突き破ってその特異体の下まで飛び上がり、首根っこを掴むとビルの外壁に擦り付けながら落下。

トドメに地上に叩きつけて鎮めてしまう。

 

次に現れたのはビル群の屋上に脚をかけて一行を見下ろす巨大な蜘蛛にも似た多脚戦車のような特異体。

それは腹部にあたる部分から展開された機銃でアリス達を撃ち下ろすが、ミネは背中合わせとなるアリスとヒナのすぐ横に移動すると、盾を上に向け…それを起点にドーム状のバリアのようなものが発生。

降り注ぐ弾幕を全て跳ね返し、攻撃が収まった瞬間に飛びかかってきていた適当な特異体を掴み、頭上の巨大な特異体へと投げつける。

投げられた小さな特異体は投擲の勢いによって音速の壁を突破し、ソニックブームを生じさせながらあの巨大な特異体を貫いて双方共に鎮められる。

 

「…あれが無双ゲームの主人公というものですね!」

「やっぱりおかしいわよあの人…あっちのピンクより余程超人してるわよ…」

 

「聞き捨てなりませんね!この不知火カヤがキヴォトスに君臨する”超人”だということを知らしめてぎゃぁ!?」

 

「あ、飛んだ」

「まあ大丈夫でしょう」

 

ヒナに反論しようとするカヤに崩れたビルの瓦礫が落下して下敷きになってしまったが、気にかけるのも無駄だとアリスとヒナは特異体の対処を続ける。

案の定直ぐに瓦礫の隙間からカヤが抜け出してくるが、そこにさらにヒナによって撃ち落とされた特異体が降ってきてまた下敷きになっている。

 

「もうギャグね」

「アリス知ってます!天丼というものですね!」

 

「貴女達が笑ってくれるのならもうそれで良いですよ…」

 

若干弱々しく特異体の下からカヤの声が響くが、まだまだ余裕はありそうなのでヒナは再び暴れ回るミネの方へと目を向けた。

相変わらず怪力乱神の如き暴れっぷりで次々と特異体の群れを薙ぎ倒し、先程見せたのと同じように天高くまで跳び上がり、直角軌道での落下による着地、それと同時に発生した光の衝撃波が見渡す限りの特異体を飲み込んで消滅させ鎮めていく。

その圧倒的な力にアリスは目を輝かせ、ヒナももうあの人だけでいいのでは無いかと少しばかり自信を無くし始めたりはしていたが…

 

その後各々の活躍やその他各地での抵抗もあり、夜明け頃には少なくともD.U.第1結界(コロニー)に侵入してきた特異体の波は一時的に鎮圧されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

だが特異体の群れが鎮圧されるのもマルクトにとっては予想通り、ミカとの戦いを勝ち抜いたマルクトは各結界(コロニー)に十分な神秘が満ちていることを確認すると、それらを回収…各結界(コロニー)を起点に神秘を結び、キヴォトスに未だ残っている住民達に同化前の慣らしを施していく。

 

「あー、しんど」

「手伝うか?」

「いいよ、こういうのは自分でやってこそ苦労した甲斐があるんだから」

 

サンクトゥムタワーの頂上で取り込んだクズノハを利用して結界(コロニー)やキヴォトスを覆う大結界、それらのシステムを調整したマルクトは、ミカとの戦いで負ったダメージを気にしつつも同化前の慣らしを完了させた。

 

「ふぅ…さて、雑に種をばら撒くだけで成果を挙げられるんだから『特異操術』ってのは便利で良いねぇ。これからはずっと持ち越しておきたいくらいだよ」

「勝手にやっていろ。我々は名も無き神々の王女が復活すればそれで良いのだ」

「そう?だとしたら…もうすぐなんじゃないかな?」

「!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───11月16日、正午

 

結界(コロニー)に大量の特異体が侵入してきた後、度々何度か特異体の群れが暴れ回ることもあったがそれ以上の”暴”でミネが鎮圧し、何とか事なきを得たアリス達。

そんなアリス達の元に、百鬼夜行結界(コロニー)の平定後結界を素通り出来る特性を利用して各地のメッセンジャーとして結界(コロニー)を出入りしていたレンゲが訪ねてきた。

 

ちなみにミネは同行しているが、カヤは一般人の救助に行くと言って聞かずこの場を外している。

 

 

「自称アリスの姉に話を聞いたんだが、クズノハ様がマルクトに獲られたらしい」

「!じゃあ、さっきのは…」

 

レンゲが訪ねてくる前に感じた悪寒。

神秘を使いこなせる者は無意識に体内の神秘が反応して慣らしを拒むが、そんな技術も無ければ神秘の弱い者達はそうはいかない。

キヴォトスの外に住民達を避難させる計画は現在も進行しているが、連邦生徒会や三大校を始めとした特異現象捜査部が機能を停止したことでそれも行き詰まり、キヴォトス全体での住人の避難は2割にも満たないのが現状だ。

 

「やはりマルクトは慣らしを終えていましたか…」

「その、レンゲ先輩。他の結界(コロニー)の平定状況は?」

「アタシが確認してきた限りだと百鬼夜行とミレニアム、トリニティにゲヘナ、D.U.の2つと山海経の結界(コロニー)が平定されてる。アビドスとレッドウィンターの方はまだ確認出来てないが…」

「慣らしが行われたってことは大勢死んでるのは間違いないでしょうね」

「クロコと同格の聖園さんがクズノハプラス1名と協力してなおやられたんだ。分かっちゃいたが…一筋縄じゃいかねぇな、マルクトは。『神名結晶:裏』は辛うじて守れたらしいのが幸いか」

 

と、言いつつもどこか落ち着いた様子のレンゲにアリスとヒナは違和感を覚えた。

少し前ならばもっと感情的になっていたであろうレンゲがアリス達と別れたたった数日の間にどれほどの修羅場を経験したのか、触れることすらはばかられて何があったのかも聞く気になれない。

 

仕方なく話を進め、今度は”慣らし”を終えたにも関わらず未だクズノハとの同化が始まらないことに一行は疑問を覚える。

同化を無意識に拒めるアリス達が気付けないだけで外では既に同化が行われている可能性も考えたが、結界(コロニー)を出入りできるレンゲによってどこのメディアでも同化関係の異常は起きていないと否定された。

 

「同化を始められないのか始める気がないだけなのか…なんにせよのんびりしてる時間はなさそうね」

「では、考えても仕方ないことは後回しにして今は先にヒナの後輩さんの方を優先するのはどうでしょうか?クロコ先輩達もまだ総則(ルール)の追加をしてくれてませんし…」

「あー、それなら聞いてきた感じだと…」

 

元々追加する予定だった4つの総則(ルール)、『(ポイント)の譲渡』、『結界(コロニー)の外との連絡手段の確立』、『結界(コロニー)の出入り』、『死滅回遊からの離脱』

(ポイント)の譲渡』は既にアリスがカンナに頼んで追加したが、他の総則(ルール)が未だ追加されていないことに疑問を抱いたアリス。

クロコやアツコの方にも訪ねてきたレンゲの話によると、死滅回遊の総則(ルール)においてそもそも連絡や出入りを禁止するような総則(ルール)はなく、結界そのものの性質によって電波が遮断されたり内外で隔離されている可能性が高いようだ。

そしてその可能性に思い至ったクロコとアツコは無駄に(ポイント)を浪費してしまう可能性を考え総則(ルール)の追加を渋っているとの事。

 

「だからまずは死滅回遊からの離脱総則(ルール)から始めるぞ。さっきクロコ達の所に行った時にヒナに(ポイント)を譲渡するように伝えたはずだが」

「!コガネ」

 

『あいよ!』

 

「…あ、本当ね。いつの間に…じゃあ追加するわよ。コガネ、『泳者(プレイヤー)の死滅回遊からの離脱を可能にする』っていう総則(ルール)を追加しなさい」

 

『…却下されました。総則(ルール)7.”管理者(ゲームマスター)は死滅回遊の永続に著しく障る場合を除き、前項による総則(ルール)追加を認めなければならない”に抵触します』

 

「まあ予想通りね…なら、『泳者(プレイヤー)は身代わりとして新たな泳者(プレイヤー)結界(コロニー)外から招くことで死滅回遊から離脱できる』ならどうかしら?」

 

『…却下されました』

 

「む…」

「うわーん!管理者(ゲームマスター)とやらがケチです!」

「ちょっと静かにしてなさい…じゃあどんな条件なら認められるのよ?」

 

『…”泳者(プレイヤー)は身代わりとして新たに結界(コロニー)外から泳者(プレイヤー)を招き、100(ポイント)を消費することで死滅回遊からの離脱が出来る”なら承認可能です』

 

「…なるほどね」

 

コガネが提示した条件は確かに以前ヒナ達も考えていたものだ。

だがそのよく考えればその条件にも穴がある。

身代わりの人数だけならばプラスマイナスで0だが、100(ポイント)を得るためには最低でも20人以上の泳者(プレイヤー)を殺す必要があり、その分死滅回遊の終わりは加速する。

しかしそれを言い出せばそもそも死滅回遊のいつか必ず終焉を迎えるシステムそのものが死滅回遊の永続に抵触している。

故に、ヒナは訝しみながらもコガネの提案を了承することにした。

 

「分かった、それでいいわ」

 

 

『了承しました。泳者(プレイヤー)による死滅回遊への総則(ルール)追加が行われました!総則(ルール)11.”泳者(プレイヤー)は身代わりとして新たに結界(コロニー)外から泳者(プレイヤー)を招き、100(ポイント)を消費することで死滅回遊からの離脱が出来る”』

 

 

「…じゃあレンゲ先輩。アコをここに連れてきてもらえる?」

「おう、ただ私は一緒に結界(コロニー)には入れないぞ。結界に引っかからないから結界(コロニー)侵入時の転送の対象にならないから必ず離れ離れになっちまう」

「神秘があっても転送は別々の場所に飛ばされるからそれはまあ関係ないわ」

「ヒナの後輩さんにはパラシュートを渡すことをおすすめします!」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

───16日、15:00

 

結界(コロニー)の外に出たレンゲはココナの協力を得てアコと、その身代わりとして泳者(プレイヤー)になると立候補したアヤネを回収し、結界(コロニー)へと向かっていた。

アコはオドオドとした様子で結界(コロニー)の不気味な外観を見上げており、不安に駆られているのが見て取れる。

 

「心配しなくても大丈夫ですよ、天雨さん」

「奥空さん…本当に大丈夫でしょうか…?やはり私が自分で…」

「あはは、天雨さんの宣誓期限の19日以内にこの状況に持ち込めたのが奇跡なんですから。私がもたつくわけにはいきません。それにイチカさんなどもまだいますし、監督オペレーター周りの業務なら私1人いなくなったくらいではどうってことありませんよ」

「…働きすぎなんだよ、お前は」

 

ミレニアムの事変で重症を負ってから早16日。

セナの治療を受けたとはいえ病み上がりには違いなく、それでも尚魑魅一座や今回の件の為に奔走するアヤネにレンゲは呆れる。

 

「確かに無理し過ぎているというのは否めませんが…」

 

 

 

 

『アヤネちゃんさ、向いてないから前線に出るのはもうやめなよ。裏方…監督オペレーターの方がずっと良いって。免許とか取っといてくれるとおじさんも楽で嬉しいな〜』

 

 

 

 

「…私だって、裏方なりに命を張ることが出来るなら、それ以上に嬉しいことはありませんよ」

 

「奥空さん…」

「…はぁ、勝手にしろ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っとと!?」

「うわ!?この人ですか!?そんな丁度よく…」

「アコ…」

 

どこにアコが転送されてもいいように結界(コロニー)の中心近くにあったビルの上から監視を行っていたヒナとアリス。

そこに、ピンポイントでアコが転送されてきてアリスは驚き転げそうになった。

見るとアリスの忠告通り一応パラシュートを背負ってきてるようで、転送されたアコはその重量もあって転びそうになるのをヒナが支えた。

 

「あ…委員長…その、すみません…」

「別に…」

「良かったですね!ヒナ!」

 

「私の出番がなくて良かったですね」

「あの方は…?」

「ミネさんです!アコさんが空中に転送されてきた時のために空から見張っててくれたんですよ!」

 

綺麗な翼をはためかせアリス達のいるビルの屋上に降りてきたミネ。

それを見てアコは微かに目を細めたが…直ぐに元の柔らかい微笑みに戻ると気恥ずかしそうにしてヒナから離れた。

 

「…さっさと済ませちゃいましょう。コガネ」

 

「アコさんの前で淡白になるのカッコつけてる感じがしますね」

「そういうお年頃なのでしょう」

 

「そこ黙ってなさい」

 

場を和ませようとしているのか茶々を入れてくるアリスとミネに余計なお世話だと一喝するヒナ。

それはそうと、ヒナのコガネがアコのコガネへと100点分の(ポイント)を譲渡し、アコは事前に聞かされた打ち合わせ通りその(ポイント)を消費して死滅回遊から離脱する───

 

 

 

 

 

 

 

 

───筈だった。

 

 

 

 

 

 

「コガネ、総則(ルール)追加。結界(コロニー)を自由に出入り出来るようにしろ」

 

 

 

「…?」

「は…?」

「!?」

 

予定にない、総則(ルール)の追加。

何の意図が、なんの目的が、何のために…困惑が脳内を埋め尽くし、それでもなおヒナは言葉を絞り出して目の前の薄ら笑うアコに問う。

 

 

 

「あなた…誰…?」

 

 

 

 

 

 

「私は私。これ以外に、私を説明する術は無い。だが敢えて名乗るのなら───絶対者”デカグラマトン”」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミレニアムでの事変の後。

アリスを探しに行く前にヒナはS.C.H.A.L.Eに保護されていたアコの元を訪れていた。

座る車椅子をイチカに押されて久方ぶりに会ったアコは、まだ混乱が抜けていないのか少しオドオドとしているように見えた。

 

『ヒナ委員長…その、何年ぶりでしょうか…?私はあまり時間が経ったような気がしないのですが…』

『1年と…7ヶ月ってところかしら。大体』

『なるほど…それだけ寝込んでいれば確かに1人で歩くのは大変でしょうね…』

『…死滅回遊のことは聞いてるかしら?』

『は、はい。それに、小鳥遊さんのことも…S.C.H.A.L.Eに転校した時はお世話になりましたが…』

『あんたは何も心配なんてしなくていいわ。私と私の仲間がなんとかするから』

『…その、ヒナ委員長!』

『?』

 

『…お身体に気を付けて、しっかりとお休みをとってくださいね?』

 

 

 

 

 

 

 

『承認しました!総則(ルール)12.”泳者(プレイヤー)結界(コロニー)を出入りできる!”』

 

(いつから…あの時から…?)

 

受肉した名も無き神々は器となった人物から現代の知識を得る…故に、Keyやミネも太古から蘇ったのにも関わらず現代に適応出来ているのだ。

ならば、器の記憶を読むことで器本人としての受け答えをすることも可能となる。

その可能性に思い至らなかったのは、一重に最悪の事態から目を背け続けていたが為に。

 

(なんで私はアコが…秘儀を目覚めさせられた覚醒タイプの泳者(プレイヤー)だって決めつけて…!)

 

「ヒナ…?あれは、なんですか…ヒナ!」

「これは…救護が必要そうですね…!」

 

「待て、ミネルバ。昔馴染みだ、話をしようではないか」

「言うほどあなたと関わった覚えはありません。直ぐにその身体から出ていきなさい」

「そんなことが出来ればより良い器を探している。これで妥協するしか無かったのだ。さて…今貴様と戦うつもりは無い。蘇って初めての相手とするならばやはりKeyだろう。では、待っているぞ」

「待ちなさい…!」

「ヒナの後輩に、何をしているんですか…!」

 

機械で作られた羽のようなものを生み出したアコ…その身体の主導権を握っているデカグラマトンという人物。

デカグラマトンは機械の翼をバサリと揺らすと、空へ飛び上がってどこかへと飛翔する。

それをミネとアリス、そして激しく動揺しながらもヒナが追跡しようとするが…

 

 

 

 

 

 

 

 

『Key 闊』

 

 

 

 

 

 

「条件は2つ、私がKey闊と唱えたら身体を一分間明け渡すこと。そして、この約束を忘れること…ふふ」

「!?」

 

かつてアリスが死亡した時、蘇らせることを条件に結んだ契約。

それを実行したKeyは瞬時にアリスの身体の主導権を奪うと、並走していたミネを外傷を与えないように慎重に絞め落とし、気絶させる。

ヒナもミネも反応できない程に鮮やかな手際で障害を排除したKeyは、度重なる展開の連続に最早まともに思考することすら出来ないヒナの目の前に立った。

 

「な…にを…」

「小娘との契約で、この一分間は誰も傷付けても殺してもいかないのです」

「Keyが…なんで…!」

「最も、ここからは賭けですがね」

 

Keyは自らの腹に腕を突き刺し、臓物を引き裂いて身体の内側から機器部品(モジュール)…複数が寄り集まり完成に近付いている、『Keyの機器部品(モジュール)』を取り出した。

穴が開けられたアリスの身体はKeyの恐怖によって直ぐに回復しているが…問題は、『誰も傷付けてはいけない』という契約にアリスが”自分自身”を含めていないこと。

 

「クックッ…つくづく愚かな小娘です!」

 

「くっ…『布留部由良由良───」

 

Keyが何かを企んでいることを察したヒナは掌印を結び、最強の式神…死路虚の調伏にKeyを巻き込むことでそれを阻害しようとする。

しかし一瞬の間にヒナと詰め寄ったKeyはヒナの手を掴んで掌印を崩させると、次に顎を掴んで強引に口を開かせた。

 

「がっ…あっ…」

「さあ、終わりの始まりですよ」

 

そして、Keyは身体の内から取り出したKeyの機器部品(モジュール)をヒナの口へとねじ込み────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…?」

 

身体からKeyが離れ、目を覚ましたアリスの目の前には項垂れるヒナの姿があった。

気絶しているのか、ヘイローは今は消えているが…

 

「覚えていますか?」

「!」

 

と、機械音のようなものと共にヒナの頭上にヘイローが出現する。

だがそれは、いつものヒナの凶器じみた厳ついそれではなく…まったく別物の、丁度アリスが生得領域で出会ったKeyと同じようなヘイローで…

 

 

 

 

「言ったでしょう、小娘。面白いものが見れると」

 

「ぁ…」

 

ヒナが顔を上げると…無機質に赤く色付いた眼光が、鋭くアリスを見据える。

何が起きたのかを察し唖然とするアリスを見て、Keyは満足そうに笑ったのだった。

 

 

 

 




配役
万…デカグラマトン
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