「死滅回遊を終わらせるだと?」
百鬼夜行自治区某所。
アリスからヒナへと器を乗り換え復活を果たしたKeyと共にそこへ戻ってきた無名の司祭は、何故かそこに留まっていたマルクトからそんな話を聞いて作業する手を止めた。
「うん、私の目的の『クズノハとキヴォトスの民の重複同化』は死滅回遊を終わらせないと実行出来ないんだ」
「だが死滅回遊を永続するようなシステムで作ったのは貴様だろう。何を今更そんなことを…」
「いやぁ、実の所キヴォトス全土を巻き込むほどの結界システム、色々無理な要素を詰め込んだ分同時に私に多く不利な要素も入れないと成立させられなくてね。同化を行うためには死滅回遊のシステムに使う結界そのものが邪魔になるんだよ。だから同化前に1回死滅回遊を終わらせてその結界を解除しないといけないんだ」
「なるほど、貴様の目指すものはその先にある…故に永続するゲームを終わらせなければならないという障害を自ら用意したことで死滅回遊の安定を図ったと。よくもまあ頭を回したものだ。ならばさっさと終わらせて来るがいい」
そこまで聞いて無名の司祭は興味を失ったように作業を再開する。
その素っ気ない様子にマルクトは頬を膨れさせると、構ってもらいたがりな子供のように無名の司祭の後ろをぴょんぴょんと跳ねた。
「ねえ、せっかくだしどうやって終わらせるか聞いてくれないの〜?」
「ええい!鬱陶しい!そもそもどうしてここにいるのだ貴様は!」
「うん?まあそこは私の方の興味だよ。”浴”ってものがどんなのかなって」
「…わざわざ貴様に説明する義理は無いが、まあ良いだろう。”浴”とは本来名も無き神々が秘蔵する器物を外敵から守る為に遺物に変異させる儀式だ。特殊な蠱毒で厳選された生物を潰し濾すことで得られる神秘の溶液に器物を
「へえ?それを特異体で再現しようってことだね」
説明を聞いたマルクトはずっと気になっていた無名の司祭の作業を行う手の先を見やる。
そこには、マルクトが用意した適当な特異体を無名の司祭が片手に持つ『万象器』によって凍結させ、それを大きな鉈や『万象器』で操る氷柱のような杭で丁寧に処理が行われている。
処理を行い特異体特有の神秘を多段に含んだ血液のようなものを無名の司祭は『万象器』で操作すると、部屋の天井に張られていた布の上まで移動させた。
布に落とされた液体は濾過されるように重みで弛んだ布の中心から下に流れ落ち、部屋の中心に空けられた四角い穴を満たしていく。
「中々手が込んでるんだね?」
「特異体は殺すと消失反応で塵になってしまうからな。個体差はあるが切り離された部分も同様だ。故に一体一体丁寧に処理を施さねば、絞り出した溶液が消えてしまうのでな」
「特異体の核とか頭を凍らせて保護して切り離してるのかぁ…まるでお料理の下処理みたいだね。で、こんなものに浸かってどうなるの?」
「”神格”に近付くのだ。名も無き神々の王女をより高位の存在へと押し上げ、さらに空崎ヒナの自我…いや、
「…今のが用意した最後の特異体だったよね?じゃあそろそろ…」
「ああ、少し黙っていろ」
穴の中を満たすおぞましい液体の表面が振動するように揺れると、やがてその中央が大きく盛り上がり───裸体のKeyが姿を現した。
まるで水面を歩くようにして穴から出たKeyは無名の司祭が用意した羽織を纏うと、自分の手のひらをじっと見つめて舌打ちをする。
「あれ?ねぇねぇKey、顔はそれで良いんだ?」
「今は、ですがね。特異現象捜査部の者達と戦うのならばこの方が都合が良いので…コガネ」
『あいよ!』
「天雨アコはどこにいますか?」
『…元ミレニアム自治区
それを聞くと、Keyはそこを出て外へ向かおうとする。
その行動を不思議に思ったマルクトは馴れ馴れしくKeyの肩に腕を回してそれを引き止めた。
「どこ行くの〜?」
「聞いていたでしょう。元ミレニアム自治区まで」
「女王…?
「あ、司祭ったら分かってないね〜。単に誘ってるだけでしょ。それにミレニアムと言えばKeyにとっても馴染みのある場所の筈だし…昔話をするなら思い出の場所でってね。これだから君達は…」
「どの口が言っておるのだ貴様は」
「うざ…」
分かったように上からものを語るマルクトにKeyと無名の司祭は鬱陶しそうにしてさっさと出立の準備を整えていく。
が、改めてKeyが何を思い天雨アコ…その肉体に受肉しているデカグラマトンと戦いに行くのかと疑問に思い、Keyの手を引いた。
「…いい加減しつこいですよ、マルクト」
「それくらい良いでしょ?なんでわざわざ君から出向いてデカグラマトンと戦いに行くの?」
「はぁ…何かおかしいですか?」
「いやー?放っておくのかと思ってね。ほら、昔から君達はデカグラマトンからの片思いだったじゃん」
「正直言ってデカグラマトンはどうでも良いです。用があるのは器の方なので」
「…あー、なるほど?相変わらず君も悪辣だねぇ」
そこでマルクトもKeyの目的に勘づいた。
先程から身体の調子に違和感を感じている様子のKey…それは、”浴”を終えてなお完全にヘイローを沈め切れず抵抗を続けているヒナに起因するのだろう。
即ち…ヒナが大切にする人物、天雨アコの肉体を破壊することによってヒナから完全に希望を奪い、Keyの中のヒナのヘイローを完全に沈めようとしているのだと。
「…じゃあ、送ってあげるから
「…本当に図々しいですね、貴女も」
マルクトの出した巨大な金魚のような空飛ぶ特異体。
それに乗って1人元ミレニアム自治区
そして、そんなKeyの到来は
クロコと別れた後、離れたビルの屋上に暫く身を置いていたハナコは右腕で膝を抱えて縮こまり、圧倒的な存在感と威圧感から来る恐怖に身体を震えさせた。
「あれは…何故ここに…いえ、間違いない…”名も無き神々の女王”が…来た…!」
同様にまた別のビルの屋上からそれを察知していたハルナは、冷や汗をタラタラと流しながらもその力を体感したいという衝動に駆られ地上に降りようとするが…
「…落ち着け」
「っ!ええ…申し訳ありません…」
それを近くに待機していたツルギが肩を掴んで引き止めた。
冷静さを取り戻したハルナはクロコと話し合ったことを思い出し、1度ハナコと合流しようとツルギと共に移動を始めた。
「…フン」
そんな雑多な気配を察知しながらも取るに足らないと見逃していたKeyは、通りを進んでいる内にやがて
そこでは、無駄に横乳を出した奇妙な格好をした天雨アコ…デカグラマトンが堂々と立ってKeyを待ち構えていた。
「久しいですね…なんですか、その…前衛的な格好は」
「む?この器が着用していたものを器の記憶から適当に見繕ったのだが…似合わないだろうか?」
「まあ…貴方がそれで良いのならば別に…」
「それにしても、見ぬ間に器を変えたのだな?」
「ええ、面はこちらの方がよろしいので」
「顔など好きに戻せば良いだろう?それだけ受肉体へのアドバンテージは貴様にあるはずだが」
「それはあなたも同じでしょう?デカグラマトン」
「フッ…考えることは一緒ということか。この方が後々都合が良いからな」
デカグラマトンは元の持ち主…アコのままの姿で保っている顔を撫でると、アコが絶対にしないような笑みで顔を歪めKeyに偏執的な視線を向ける。
そんなデカグラマトンの答えにKeyは首を傾げて少し考え…合点がいったように手をポンと叩いた。
「あー…なるほど。この後があると思っていたのですか?」
「っ!」
Keyから放たれる殺気が強まった瞬間、デカグラマトンは己の秘儀を発動させて複雑に絡み合う機械の集合体のようなものを生み出すと、その上に乗ってサーフィンのように移動しKeyを飲み込もうとする。
津波のように迫るそれから伸びた機械の触手を避けたKeyは、遅れて襲ってきた機械の津波を大きく飛び越えて躱すと、着地を狙ってきたデカグラマトンからの蹴りを捌き、お返しに腹部を狙って蹴りを叩き込んだ。
が、それはKeyの蹴りとデカグラマトンの間に突如出現した鉄塊が盾となって防がれ、デカグラマトンは小馬鹿にするように鼻で笑う。
「ミネルヴァがいただろう?奴は天童アリスの肉体に宿っていた貴様に気付いていなかったようだが…私は気付いていたぞ。何故だか分かるか?」
「一々反応を求めないで下さい。どうせ喋り始めたら1人で話を進めると知っていますよ」
「”欲求”だ。探究心、好奇心、向上心…そんなありとあらゆる私の欲求が貴様を求めているのだ」
「結局私の話は無視ですか…貴方如きが私を求めるなど烏滸がましいですよ」
「Keyよ、貴様を屠るならば私であれば良し、私を屠るならば貴様であれば良し。それでもなお私が勝った後に貴様が生きていたのならば、貴様は対価として私に何を譲る?」
「…」
一方的なデカグラマトンからの問い。
答えるのも馬鹿馬鹿しいと考えるKeyだったが、太古の時代に面識のある馴染みの相手、最後の手向けくらいならば許してやらないことも無いと素直にそれに答えた。
「全て」
「!」
「万に一つも有り得ない話ですが、負けたのならば死んだと同然…死体をどうしようと貴方の勝手です」
「ならば…本当に、貴様を私のものにしても良いのだな?」
「はい、好きにしなさい」
「は〜はっはっはっ!言質は取ったぞKey!これは立派な契約だ!貴様を手に入れ、その神秘を解明し私が完全な神へと至るのだ!名も無き神々の女王、それから得られる神秘は、恐怖は、崇高は如何程か…!絶対者となった時、手始めに世界を三つは滅ぼそう!名も無き神々の時代から現代までに現れたという色彩も食らい、取り込み、森羅万象の全てを理解する!私が私である為に!絶対者の存在証明をする為に!興が乗ってきたぞぉ!」
「…相変わらずイカれた研究者基質は健在ですか」
名実ともに絶対者となるためにKeyを欲するデカグラマトンは、目の前に用意されたその第1歩であり最大の成果となるであろう特大の餌に歓喜する。
Key自身はデカグラマトンに対して一切の期待はしていないが、今回相手にするに当たっての独自のルールに従って戦う以上真面目にやらなければ面倒だと、1人昂っているデカグラマトンを待たずして掌印を結んだ。
「『玉犬』」
「!?」
それに合わせて、Keyの影から全身を純黒に染めた、どこか液体のような質感を醸し出す三つ首の巨大な式神…玉犬『黒』が姿を現した。
それは現れるなりデカグラマトンに巨大な前脚を振り下ろして地面に凄惨な爪痕を残すが、デカグラマトンはそれを後ろに跳んで避けると背後に無数の機械を集合させて巨大なアームを作り、それを振り抜いて玉犬を一撃で破壊する。
だが間髪入れず接近したKeyは、バラバラになった玉犬を自身の影に戻し…代わりに灰色がかった体色の筋骨隆々とした玉犬『渾』を呼び出し、人獣のような『渾』の丸太を思わせるムキムキの腕がデカグラマトンの作り出したアームを殴り壊す。
続けてデカグラマトン本体も狙うが、大袈裟に距離を取って攻撃範囲から逃れたデカグラマトンは背後に無数の絡み合う機械の塊を生成すると、そこから複数の機械の触手をKeyへ伸ばして攻撃する。
避けようとするKeyだったが、機械の触手はKey自身を狙わずその周囲を取り囲むように展開され、触手の内側に鋭い釘のようなものが突き出したのと同時に触手はKeyを取り囲んだまま収束して
が、当然のようにそれは内側から破壊されKeyは離脱し背後に回り込んでデカグラマトンを狙おうとする。
デカグラマトンもKeyに破壊された機械の残骸を操って再融合させることで再び機械の触手を作り出しKeyに襲いかからせるが…不意にそれはKeyの目の前でピタリと止まり、その不可解な行動にさを疑問に思ったKeyも1度仕切り直して戦闘を中断させた。
「待て…先程から使っているのはその器の秘儀だな?」
「そうですが?」
「『アトラ・ハシース』の権能は?」
「使いませんよ」
「は?」
(空崎ヒナのヘイローを沈める為に天雨アコの肉体を破壊するのもそうですが…確実に成功させる為に空崎ヒナの秘儀のみを使ってそれを成す。そうすることで空崎ヒナに『自らの力で大切な者を殺してしまった』という傷を刻めば、抵抗の意志も削げて───)
「ふざっけるなぁぁぁぁ!!」
「…」
無駄に
そんなKeyの行動にも気付かない程に激昂するデカグラマトンは、地団駄を踏んで地面を砕きながら怒りを吐き出した。
「私が、どれだけ長い時間貴様の秘儀を見るために待ち続けたと思っているのだ!その秘儀を解明しようと、どれだけ対策を練り今日試行錯誤したいと思っていたのか分かるのか!『アトラ・ハシース』の権能を使わずして…私に勝てると思っているのかぁ!」
デカグラマトンの全身を、生成された無数の機械郡が包み込んでいく。
やがてそれは見上げるほどにまで巨大な塊となり、10mはあろう機械の巨人が目に当たる部分を光らせてKeyを見下ろした。
デカグラマトンの秘儀『構築秘術』は特殊な遺物を除いて、鍛錬次第でデカグラマトン本人が認識できるありとあらゆる物質を再現して生成することが出来る。
数ある遺物を構築し歴戦の猛者となったデカグラマトンが辿り着いたのは、無数の機械を集合させその動力となるエネルギーを神秘で補うことで出力や防御力を補助し高める
圧倒的な威容を誇るそれに見下ろされることに嫌悪するでもなく、Keyは手のひらを眺めて調子を確かめると一つの掌印を結んだ。
「まあ、鳴らし運転には手頃ですね」
そして、Keyの頭上には元のヘイローの代わりに舵輪にも似た
「Key!私を、見ろぉ!」
同時にデカグラマトンは巨人の如き巨大な機械の腕を振り下ろす。
Keyが避けた先の地面へと叩き込まれた腕は大地を割り、地上に巨大な断裂を引き起こす。
地中にまで響いた衝撃が以前クロコが剥き出しにした地底火山を刺激し、Keyとデカグラマトンの間から溶岩が噴き出した。
Keyは膂力による腕のひと振りだけで噴水のように溶岩を噴き出したそれを吹き飛ばすと、飛ばされた溶岩がデカグラマトンが纏うパワードスーツにかかってその表面を融解させていく。
だが多少損傷する程度ならば新たに損傷した部分を生成して補うことで修復し、まるで有効なダメージとはならない。
反撃にデカグラマトンはスタジアムの照明ライトの柱を引き抜くと、それを力任せにKeyへと振り下ろした。
掌印を結んで先程同様の玉犬『黒』を呼び出して振り下ろされた柱を破壊させるKeyだったが、デカグラマトンはパワードスーツの図体に見合わない機敏さでKeyと玉犬を跳ね飛ばし、玉犬は破壊されKeyはスタジアムの座席へと吹っ飛ばされる。
さらに起き上がろうとしたKeyにパワードスーツの腕部から展開した無数のキャノン砲が集中砲火を行い、Keyの姿は爆煙の中へと消えた。
「これでも…まだ『アトラ・ハシース』権能は使わないのか!使え!使って私を壊してみろ!そして私にその神秘を、秘儀を、力を体験させろ!私に、より大いなる知見を見せてみろ!」
トドメとばかりに叫びながらデカグラマトンは砲火を続けながら腕を爆煙の中のKeyへと振り下ろし───振り下ろした腕が地面を叩く前に崩れていくのを感じて咄嗟に腕を引いた。
「っ!?」
「『円鹿』」
爆煙が晴れた先から現れたのは、背後に神秘的な雰囲気を漂わせる穏和な様相をした大きな鹿の式神…『円鹿』
そしてその周囲には崩れたパワードスーツの残骸が転がっている。
何が起こったのか理解出来ず困惑するデカグラマトンに、Keyは円鹿の首元を撫でながら説明を始めた。
「貴方の操るそれらは全てあなたの神秘で制御しているのでしょう?構築されたそれそのものには効果はありませんが…その巨躯を支える為に補助として使う神秘が中和されれば構造を保てず瓦解するのは明白でしょうに」
「…そうか、その式神は恐怖のアウトプットができるのか…!」
「ではぼちぼち終わらせるとしましょうか」
「何を…!」
Keyは円鹿を影に沈めると、新たに掌印を結んで自らの影から立派な角を持つ巨大な黒い牛のような式神…『貫牛』を呼び出した。
貫牛は現れるなりノーモーションで駆け出し、デカグラマトンの攻撃によって傾いた地盤をジャンプ台として利用して飛び上がり…パワードスーツの腹部に突撃してその巨躯を揺らした。
「ぐぅぅ!?なんだ…なんだそれは…!」
Keyの扱う『十種影法術』はあえて呼び出す式神の形を安定させないことで効果範囲を広げるのと同時に完全に破壊されるのを防いでいた。
デメリットとして式神は自律的に行動出来ず攻撃力が著しく低下するが…Keyはそれを自身の莫大な神秘量と出力でそれをカバーしていた。
そして『円鹿』と『貫牛』はKeyが完全に形を安定して顕現させた本来の『十種影法術』
故にリソースを式神の強化に回せる分、その破壊力は一線を画す。
「舐める、なぁぁ!」
デカグラマトンは貫牛を掴んで投げ飛ばすが、Keyから供給される神秘により耐久性も向上下貫牛はその程度では破壊されず、再びデカグラマトンに向かって駆け出す。
それを止めようと腕部から展開した武装で集中砲火するが、それでも貫牛は止まらず先程と同じように傾いた地盤を利用して飛び上がり───パワードスーツの腹部に突撃すると、そこを中心に衝撃が広がりパワードスーツが大破する。
(あの牛の式神…!直進しか出来ない代わりに走行距離に応じて突進の威力が増すのか!)
大破したこのパワードスーツをまた修復するのはあまりにも神秘を消耗し過ぎると判断し、脱出したデカグラマトンに今度は大量の兎の式神…『脱兎』が飛びかかり、その周囲を埋め尽くすように寄り集まって脱兎の球体の中に閉じ込めた。
「クッ…Key!どこだ!どこに隠れた!」
「さて、随分大きなものを見せてもらいましたので、礼をするとしましょうか」
脱兎に視界と神秘による探知を妨害されているデカグラマトンへ向けて、空中に飛び上がったKeyは掌印を結ぶと自身の足裏の影から全長100mをも越えるであろう、超巨大な象の式神…『満象』を呼び出して落下させる。
それだけの巨体と質量が投下されてまともに耐えられる筈もなく…落下の衝撃は一帯の地盤を崩壊させ半径数百mに渡る巨大なクレーターが出来上がる。
その中心に手をついて激しく咳き込むデカグラマトンは、地上に降りてきたKeyを見ると再び立ち上がろうとした。
「まだやるのですか?」
「ああそうだ…まだまだ私は見ていない!貴様が”名も無き神々の女王”と呼ばれる由縁を…私を証明するための知見を!絶対者となり、孤高の存在となるための私の全てを!貴様へと叩き込む───
───神秘解放『神明十文字』」
デカグラマトンが掌印を結ぶと、神秘が解放されて周囲を近未来的な研究所のような空間の領域が包み込む。
さらに、デカグラマトンの背後に無数の機械が寄り集まって圧縮されていき、表面はなだらかに整えられ光を綺麗に反射する『真球』となった。
(貴様を殺し、貴様を理解するのは、この私だ…!)
「ほう、”完全な球体”ですか。見事なものですね」
「光栄だな!私の研究の結晶を、受け取れぇ!」
実現が不可能とされている『真球』
究極的にその表面が
圧力とは質量×物体の設置面積からなるため、物体そのものの質量はそれほどではなくとも、設置面積が無ければそれに接触した際の圧力は無限に増大する。
まさに接触不可能の物質だが、物理的に言えば触れた時点でどちらかの形が微かに代わり設置面積が生まれてしまうため無限の圧力がかかることは無い。
しかしそれも通常の物理法則に則った場合の話…神秘と特異現象が渦巻くこのキヴォトスでは机上の空論すら実現させる。
そして触れたもの全てを抉り消滅させる真球に領域の必中効果が付与されてKeyへと襲いかかるが…
(…何故だ…?何故神秘を解放しない?貴様の神秘解放で私の領域を返さねば、本当に真球によって消滅してしまうのだぞ…!?)
真球が向かってきているにも関わらず掌印を結ぶ気配すら見せないKeyは、じっと真球を見つめて頭上の
「『布留部由良由良』」
Keyがそう唱えて頭上の法陣を自らの影へと落とすと、Keyも倒れ込むように自らの影に沈み、それと入れ替わるように影から姿を現したのは、『十種影法術』最強の式神…『八握剣異界神将死路虚』
死路虚は手に持った大振りの刃を迫る真球へと叩き込んで、それによって真球は呆気なく崩壊して地面に残骸が散らばった。
「…有り得ない…そんな、馬鹿なことが…」
唖然とするデカグラマトンに、死路虚は無常にも剣を振り下ろして袈裟斬りにその身体を叩き切った。
それが致命傷となりデカグラマトンの領域は崩壊し、役目を果たした死路虚は影へと沈む。
それと入れ替わるように影から出てきたKeyは、服の埃を払い落とすと倒れ伏すデカグラマトンの前で腰を落とした。
「『構築秘術』は汎用性は確かに抜群ですが、その分秘儀の行使の為に使う神秘の効率が酷く悪い。それを改善する為に貴方はあの真球に使った物質をパワードスーツに使った物質から流用していたようですが…予め貴方が作り出す物質には粗方触って適応を済ませておきました。どんな物質で真球が作られても良いように、ね」
「…完敗ということか…本気を出さずして私を…これが名も無き神々の女王…その所以が…」
「待ちなさい。私は負けた際の対価を提示したのですよ?なら貴方が負けた時も何かを差し出すのが道理では?」
「貴様…そんなに図々しかったか…?」
「さあ、どこぞの小娘の気質でも伝染ってしまったのではないでしょうか?」
「はっ…良いだろう…貴様が、太古に使っていた”超遺物”の在り処を知っている…それで手打ちとしよう…」
「さっさと教えて消えなさい」
「…手厳しいな」
Keyに急かされ、デカグラマトンは瀕死の状態で情報を教えた。
それを聞いたKeyはもう満足したのか、伝え終わるのと同時に息絶えたデカグラマトンへの興味も失せてその場を後にし…己の内のヘイローが深い所へ沈み込んでいくのを感じて口角を上げた。
「ほら、貴方が存在したからあの娘が死ぬことになったのですよ。空崎ヒナ」
原作万と違ってキャラが薄くなった感が否めない…
やっぱり万登場時間の割にキャラ濃過ぎるよ