ブルア廻戦   作:天翼project

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今回はアニメ4話までの範囲でお送りします。
昨日から連続での投稿ですが、やる気がある内に書かないと忙しい時が怖いので、もう暫く頑張ろうと思います。


特異戴天

 

「改めて自己紹介を…特異現象捜査部、監督オペレーターの奥空アヤネと申します」

「よろしくお願いします!」

 

緊急事態だと急行を依頼され、今回の件の補助をしてくれるという眼鏡の少女…アヤネの操縦するヘリで現場に向かった一年生トリオ。

到着したのはトリニティ自治区の一角にある古聖堂で、アリスは気合いを入れ、ヒナは淡々と準備をし、カズサは露骨に機嫌を悪くしていた。

 

「…?どうかしましたか、カズサ」

「いやぁ…トリニティ出たいつってS.C.H.A.L.Eに入ったのにまさか直ぐ戻ってくるとは思ってなくて…ここの管轄は確かシスターフッドだからまだマシだけど」

「任務に私情を挟むのは…まあ私も人の事言えないけど…程々にしなさいよ?」

 

「それでは、今から状況の詳しい説明をした後、皆さんには内部へ突入、取り残された生徒の確認と救出をしていただきます」

 

突入の準備が一通り済んだところでアヤネは今回の件を簡潔にまとめた資料を三人に渡すと、周辺の避難状況や取り残された生徒についての説明を始めた。

 

「観測官が特異体の胎卵を確認したのが5時間程前、避難誘導9割の時点で現場の判断により施設を閉鎖。現在半径500m以内の生徒や住人も避難させています。現在確認できる限り古聖堂地下に取り残されている生徒は五人、共に潜んでいる特異体は変態を遂げるタイプの場合、特級に相当する特異体になると予想されています」

「特級…すみません。アリスはまだそういった区分がよく分からないのですが、要は強さのランクという認識で合っていますか?」

「そうですね。簡単に説明すると、通常兵器が特異体に有効と仮定した場合最低の4級はバットの1本でもあれば撃退は容易、3級は銃火器で武装していれば苦戦はしないでしょう。2級はガトリングやキャノン砲等の高火力な武装でギリギリ倒せるかどうか、1級ともなると戦車等の大型兵器があっても打倒は困難でしょう。特級にまでなってしまえば、サーモバリック爆弾等の大規模破壊兵器を大量に用意してようやく、でしょうか」

「それは…大丈夫なのでしょうか…」

「本当は特異体と同等級の生徒を派遣するものなのよ。それこそ今回の場合はホシノ先輩とかね」

 

改めて特異体の脅威を聞かされて気を引き締め直すアリスだったが、ヒナとカズサは今回の件がどれだけ異常な事かを既に察し、そのきな臭さにも気が付いていた。

どう考えても、特級案件を一年に任せるのはおかしい事だと。

 

「…それで、そのホシノ先輩は今日来ていないのですか?」

「出張中よ。そもそもあれでも私達に構ってプラプラしてていい人材じゃないのよ、あの人」

「ヒナさんの言う通りです。この業界は人手不足が常、手に余る任務を請け負うことだって珍しくはありません。ですが、今回は緊急事態であり、異常事態です。会敵した場合絶対に交戦はしないでください。特級との遭遇時の選択は逃走か、死か、です。自分の恐怖には従ってください。皆さんの任務は、あくまで生存者の確認と救出ですので」

 

アヤネによる警告で、今回の件がどれだけ重いものなのかを改めて感じさせられたアリスはごくりと息を飲み、その特級の特異体が潜んでいると思われる古聖堂に目を向ける。

確かに、その内部から発される神秘と威圧感はこれまでにアリスが体感してきたものとは比べ物にならず、気を抜けば間違いなく死が待ち受けていると外からでもよく分かるものだった。

深呼吸をして遂に三人は内部に潜入しようとして…封鎖中の古聖堂の門の前で生徒の喧騒が聞こえてその足を止めた。

 

「私の友達は…!」

「ダメです、下がってください」

「やだ、サユリちゃんが中に…!」

「落ち着いてください!危険ですので下がって!」

 

内部に取り残された生徒の友人だという半狂乱の生徒が、門を封鎖している監督オペレーターの人に止められていた。

その様子を見たアヤネはその生徒の前にまで行くと、厳しい表情で引取りを命じる。

 

「お引き取り下さい。何者かによって内部に毒が撒かれた可能性があります。現時点ではそれ以上の事は申し上げられません」

「そんな…なんで、こんな事に…」

 

その生徒はその場に崩れ落ち、監督オペレーターの人に手を引かれて少し強引にその場を退避させられた。

その様子を心痛な面持ちで見ていたアリスは、正式に装備を許可されたレールガンをもう一度点検し、古聖堂に向かって歩き出す。

 

「ヒナ、カズサ…絶対に助けますよ」

「「…勿論」」

 

決意を新たに、三人は死の気配が待ち構える古聖堂へと潜入を開始した。

 

 

 

 

「私はここまでです。ここで”帳”を降ろしておきますので、この先の行動は皆さんの判断に任せます」

 

古聖堂の地下に続く階段の前まで三人に着いてきたアヤネはそう伝えると、その場に残りブツブツと何かを唱え始める。

すると、古聖堂の直上を起点に空を塗り替えるように膜が広がり、それは古聖堂の周囲を完全に覆い尽くした。

 

「おお、バリアというやつですか?」

「あれは帳っていう結界の一種。内部の様子を外部から観測されない事を目的としたものだから、アリスが想像するような防御機能とかは無いと思うよ」

「今回は住宅地も近いしね…『玉犬』」

 

移動しながらヒナは手印を結び、それに合わせてヒナの影からそれぞれ白と黒の体毛を持つ二匹の犬が姿を現した。

 

「特異体が近付いたらこの子達が教えてくれるわ」

「凄いです!ヒナは召喚術師(サモナー)だったんですね!」

「う〜ん、どっちかと言うと獣使い(ビーストテイマー)じゃない?」

「私貴女達の例えよく分からないのだけど…はぁ。行くわよ」

 

二匹の玉犬を連れ地下に続く階段を降りた一同は、暗い地下を進んでいく。

靴音が、衣擦れが、銃がカチャカチャと鳴る音が響き、その度に各員の緊張感も増していく。

既に外から感じたあの濃厚な死と威圧感の気配のど真ん中に入り、この先いつ特異体と遭遇してもおかしくない状況。

 

「…止まりなさい!」

「「!」」

 

その恐怖を紛らわすように次第に足を早めていたが、ふとして真っ先に異変に気が付いたヒナが声を荒らげて足を止めるよう促した。

それに直ぐに反応してアリスとカズサは得物を構え周囲を見渡し…同じように異変に気が付く。

 

「な、何ですかこれ…」

「嘘でしょ…」

「神秘による生得領域…こんな大きいの初めて見た…」

「生得領域とは何ですか?」

「誰しもが持つ心象風景の事で、それは神秘を用いることでこうして現実に反映させることも出来るわ。それでも、ここまで大規模なのは…」

 

そこに広がっていたのは、縦も横も果てなく続く広々とした聖堂の広間らしき空間。

薄暗い通路を歩いていた筈の三人だが、いつの間にか特異体の生得領域に引きずり込まれていたのだ。

ヒナは後方を確認するが、やはり今まで歩いてきていた通路は消え代わりに闇の広がる広間が延々と続いている。

 

「…まあ大丈夫よ。生得領域は無限には広がらないし、幾ら大規模とはいえ1kmも歩けば突き当たりはあるわ。それに、出口の方向はこの子達が覚えてるしね」

 

そう言ってヒナが黒い玉犬を撫でると、玉犬も自信満々に鳴き声を上げる。

その微笑ましさにアリスも白い方の玉犬を撫で、カズサも控えめながらも参加してちょっとの間三人で可愛がった。

とはいえ遊んでる暇も無いので直ぐにまた移動を開始し、奥に進むこと数分。

 

「…っ!」

 

そこで見つけたのは、この空間の中に所々散乱しているボロボロの長椅子。

それにもたれ掛かるようにして倒れている、生徒の亡骸だった。

その顔は酷く恐怖に歪んでいて、壮絶な最期を遂げたのが視覚情報だけでもよく理解出来る。

 

「惨い…」

「この分だと、他の生徒も手遅れかもしれないわね…アリス、身元の調査、やってみる?」

「…は、はい。避けては、いけないこと、ですよね…」

「ここでの活動を続けるならね」

 

ヒナに促され、アリスは生徒の亡骸の前にしゃがみこみ、服のポケットや懐をまさぐって持ち物を確認する。

すると、服の内ポケットから学生証を見つけたアリスはそこに書かれている名前を見てフリーズした。

 

「…門前サユリさん、です…」

「サユリって…」

 

 

 

『やだ、サユリちゃんが中に…!』

 

 

 

「…この遺体、持ち帰りましょう」

「え?」

「あの人の友達という子ですよ!それに、顔には傷が少ないです。遺体も無しに亡くなったなんて、納得出来るわけないじゃないですか!」

「…やめなさい、アリス。あと4人確認しないと行けないのよ。その子は置いていきなさい」

「嫌です!この空間の中、進んでまたここに戻って来れる保証なんてありません!」

「だから、”後にしろ”なんて言ってないわ。”置いていきなさい”って言ってるの。特級が潜む場所で、そんなの運びながら移動することのリスクが分からない程馬鹿じゃないでしょう?」

「そんな…それでも!」

「ちょっ、ちょっと!いい加減にしてよ!馬鹿じゃないの!?こんな時に喧嘩なんて───」

 

珍しく声を荒らげて押し通そうとするアリスに、ヒナはいつものように冷たくあしらう。

口論もエスカレートして見ていられなくなったカズサが仲裁に割って入るが…その時、カズサは足元に出現した暗闇の中に引きずり込まれて行った。

 

「カズサ!?」

「なんで…?特異体が近付いたら玉犬が…!」

 

気付けば、二匹いるうちの白い方の玉犬が姿を消していた。

咄嗟に辺りを見回したヒナは、床に縫い付けられるようにして死んでいる白の玉犬を見つける。

残った黒い玉犬も突然相方が死んだ事に動揺していたが、直ぐに唸り声を上げて警戒を始めた。

 

「チッ!アリス、逃げるわよ!カズサを探すのはその後───」

 

 

『─────!!』

 

 

「「!」」

(…間違いないわね。特級…動けない…!)

(なんで…なんで動けないんですか…!なんで…!)

 

突如として現れたのは、黒い法衣を纏い、背後に後光のようなものを背負う人型に近い大型実体。

 

特級複製(ミメシス)特異体、アンブロジウス。

 

その出現によりまるで時が凍てついたかのようにアリスとヒナは動きを止めた。

二人を縛り付けているものは、特殊な術でも能力でもなんでもない。

…純粋な()()が、二人の本能を刺激して動けなくさせているのだ。

 

 

 

『君は強いから人を助けるんだ』

 

 

 

「う、うああぁぁぁぁ!!」

 

友人が送ってくれた言葉を思い出し無理矢理自分を鼓舞したアリスは、レールガンをアンブロジウスへと向け…レールガンを持っていた腕が、アンブロジウスから溢れた黒い影によって抉り取られた。

 

「え…?」

「…っ、アリス!」

 

 

 

 

 

 

 

「アリスー!?ヒナー!?…はぁ〜、どこよここ…それより、神秘の気配か…」

 

真っ暗な空間を一人歩いていたカズサは、それらの接近を感じ取り臨戦態勢を取る。

しかし、暗闇の奥から現れたのは…百近くはいるだろう程に大量の、銃で武装したガスマスクを付ける青白い人型の特異体の群れ。

 

(いや多過ぎ…勘弁してよ…)

 

 

 

 

 

腕を飛ばされたアリスを抱えて後方に飛び退いたヒナは、逃走のために思考を巡らせていた。

 

(この距離じゃ逃げきれない。かといって真正面から勝てるわけもない…!)

「う、うぅ…ぐっ、Key!あなたも協力してください!」

『断ります。貴女が死ねば確かにその中にいる私も共に消滅しますが、切り分けられた私の分体はまだ18も残っていますので』

 

一方アリスはKeyの力に頼ろうと呼びかけると、機械音と共にアリスの片目の光が失われ、そこから響く声は小馬鹿にするような声色を含んでそれを断った。

だがその後に『しかし…』と続けられる。

 

『忌まわしい事にこの身体の主導権を持つのは貴女です。代わりたいのならお好きにどうぞ。ですがその時はその特異体よりも先にそこの娘を殺しますが。その後に先程どこかに消えていった娘も』

「なっ!そんなこと、アリスがさせません!」

『そうでしょうね。ですがいつまでも私に構っていて良いのですか?』

 

「!」

「アリス!避けなさい!」

 

Keyからの警告とヒナの掛け声で咄嗟にその場を離れたアリス。

直後、先程までアリスが立っていた場所を青白い炎が駆け抜け、その跡には直線上に抉り取られた跡が残った。

 

(秘儀でもなんでもない…ただの神秘の放出だけで、これを…?)

 

前戯のような、アンブロジウスにとっては手を振り払う程度でしかないそれですら、今のヒナやアリスにとっては致命傷足り得る威力を持っていた。

その事実に戦慄する間もなく、アンブロジウスは再び腕を振り上げる。

 

「…ヒナ!カズサを探してここから逃げてください!それまでアリスがあれを食い止めます!そうしたら何でもいいので合図をだしてください、そうしたらアリスはKeyに代わります!」

「はぁ!?出来るわけないでしょ!?特級相手に片腕で!」

「見てください、あいつ…今こうして話していても、こちらの様子を伺ってきています。恐らく、遊んでいるんです。アリス達の事を、玩具だとしか認識していないんです。だから、きっとそうそう本気は出してきません」

「…いや、ダメよ」

「ヒナ…」

「…!」

「お願いします」

「………くっ!」

 

酷く歯軋りをしたヒナはアリス達に背を向けると、玉犬を連れて真っ直ぐ走って行く。

それを微笑んで見送ったアリスはアンブロジウスに向き直り、残った腕でレールガンを何とか持ち上げる。

まるで待っていたかのようにアンブロジウスは振り上げたまま止めていた腕を薙ぎ払うと、同時に放射状に青白い炎が放出された。

 

「絶対に、追わせません!」

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜、困ったなぁ…かさばってでももっと弾薬持ってこれば良かった…」

 

一人で特異体の群れに奮戦していたカズサだったが、やがて数で押されジリ貧となり、とうとう最後の弾薬を使い切って追い詰められていた。

まだ特異体は数十体残っており、白兵戦で誤魔化すには無理がある戦力差だった。

 

「はぁ…アンタら顔覚えたからね見えないけど。祟ってやるから」

 

諦めて銃を降ろしたカズサに特異体は一斉に銃弾を浴びせようとして…地面を突き破って現れた巨大な蛇がカズサを飲み込むと、特異体の包囲を強引に突破してその奥で待っていたヒナと合流する。

 

「ヒナ!?アリスは!?」

「今はここから出るわよ!アリスならきっと…大丈夫!」

 

後方からの特異体による銃撃を背中に浴びながらも、ヒナと大蛇に飲まれたままのカズサは出口に向かって駆け抜けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「あうっ…!」

 

吹き飛ばされたアリスは長椅子に突っ込んで乱雑に地面を転がる。

荒い呼吸をしながら立て直そうとするも、目の前に降り立ったアンブロジウスはアリスの腹を蹴り上げ、浮き上がった身体を腕ではたき落として再び地面に叩き付ける。

 

(痛い…けど、まだ、耐えてください…少しでも、時間を…1秒でも、長く…!)

 

「───光よ!」

 

 

アリスは痛む身体に鞭打ち、片腕だけで持ち上げたレールガンの引き金を引き、膨大なエネルギーの放出がアンブロジウスへと襲い掛かり…それを遮る六角形が連なった半透明の障壁に阻まれ、エネルギーは霧散した。

 

「なっ…バリ、ア?」

 

『──────』

 

アンブロジウスは何かの言語にも聞こえるようなけたたましい叫び声を上げると、腕をアリスへと向け、そこから放った青白い炎でアリスを飲み込もうとした。

 

「うぐぅぅぅ…!こ、のっ…!」

 

それをアリスはレールガンを地面に突き立て、巨大な銃身そのものを盾にしてそれを凌ごうとする。

頑丈な素材で作られたそれは予想以上にアリスを炎から守ったが、しかし浴びずとも左右から抜ける高熱はじわじやとアリスを焼き、体表を焦がしていく。

肉の焼ける臭いが漂い始め、ジュ〜という音がアリスの耳にも聞こえ始める。

 

(熱い、熱い、熱い、辛い、痛い、苦しい…!なんで、こんな事を…逃げたい、怖い、嫌だ…)

 

「いや、今は、何も考えなくて良いんです…!考えないで、耐えれば…!」

 

 

『人を助けるんだ』

 

 

「…アリスは、こんなに弱かったんですね…調子に乗っていました。死に時は、自分で選べると…でも、違いました。アリスは…弱いです。死にたくないです。怖いです。でも…」

 

 

『特異現象捜査部の生徒に、悔いの無い死はありません』

 

 

「…生き方はもう決めたと、言いました。例え後悔しようとも、この生き方が正しかったと言えるように…本物の勇者に、なれるように!」

 

レールガンを引き抜き、再度アリスはアンブロジウスへ向けてそれを放つ。

放たれたエネルギーの塊はやはり展開された神秘のバリアによって弾かれ、お返しとばかりにアンブロジウスはまたあの青白い炎を放射しようとして…

 

 

 

遠くから、犬の遠吠えのような音が鳴り響く。

広い広いこの空間にもよく響いたそれを聞き届けたアリスは、ふっと笑って息を漏らした。

 

「…つくづく、不愉快な小娘です」

 

『──────!?』

 

突如アリスの気配がまるで別物に変わったことで、放射を止めてたじろぐアンブロジウス。

 

 

「ああ、待っていてください。少し考えます。どうすればこの小娘を困らせられるのかと」

 

そんなアンブロジウスに構うことなく顎に手を当て首を傾げるKeyは、アリスが使っていたレールガンに腰掛けうんうんと熟考を始めてしまった。

そんな明らかな隙を晒している状態でも、アンブロジウスは存在としての格の差を感じ取り安易に仕掛けることが出来ず硬直している。

 

(あちらを追ってもまた入れ替わられておしまいでしょう。となると、この特異体を引き連れて合流するのが最善でしょうか。振り出しに戻されればその絶望も相当な筈…)

「決まりました。着いてきなさい。彼女達を殺しますよ」

 

ヒナ達の方向を指差したKeyはアンブロジウスに背を向けたまま歩き出す。

しかし今しかないと判断したアンブロジウスは両腕の中に青白い炎の球体を作り出すとそれをKeyの背中に向かって投げつけて…振り向いたKeyが伸ばした腕によっていとも容易く掻き消される。

 

『────!?』

「おや、間違えて全部治してしまいました。はぁ…散歩は気に入りませんか?仕方ありませんね。本来特異体というものは生まれた場所に根付くもの…気にする必要はありません…でしたらここで死んでください」

 

跳躍してアンブロジウスの頭まで跳び上がったKeyは、アンブロジウスの頭を掴むとそのまま勢いに任せて後ろに引き倒し、頭を地面にめり込ませるように叩き付ける。

 

『─────…』

「どうしましたか?まさかそれで終わりではないでしょう」

『─────!!』

「そうです、どうせならもっと頑張ってください」

 

アンブロジウスはKeyの脚を掴み、ゼロ距離で炎を放射しようとする。

しかし、瞬き一つの間にKeyは姿を消していた。

起き上がったアンブロジウスがその行方を探すと、背後から声をかけられる。

 

「特異体といえど…腕は惜しいですか?」

『─────!?』

 

アンブロジウスが自分の腕に目を向けると、右腕が綺麗に無くなっていた。

先程Keyが姿を消していたのと同時にもぎ取られていたのだが、あまりの早業にもぎ取られた事に気が付いていなかったのだ。

 

「このままでは、私が飽きてしまいますよ?ですから…もっと、頑張ってください」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「避難区域を10km広げてください」

「ヒナさんは?」

「ここに残るわ」

 

地下のアリスへ合図を送った後、ヒナは地上で待っていたアヤネと合流し状況を擦り合わせていた。

もしアリスがKeyに入れ替わるのが間に合わず、あの特級の特異体が地上に出てこれば…或いは、アリスがKeyを制御出来ず、Keyがその力を地上に振りまこうとすれば…万が一に備えより広い範囲に避難勧告を出すことになった。

 

「…分かりました。私も、カズサさんを病院に送り届けたら直ぐに戻ります」

「必要無いわ。貴女がいてもあまり意味はないから。それよりも、1級以上の生徒の応援を呼んで」

「善処します…くれぐれも、無理はしないでくださいね」

 

アヤネが操縦するカズサを乗せたヘリが離脱するのを見送ったヒナは、古聖堂の入口へと目を向ける。

 

(…もしも、貴女がKeyを抑えられなかったら…私には、貴女を始末する責任がある)

 

 

 

 

 

 

 

 

「知っていますか?私達はどうやら同じ特級とやらに区分されているそうですよ。私と、あなたが、です」

 

四肢をもぎ取られ、倒れ伏すアンブロジウスをKeyは不遜に見下ろす。

その事に屈辱を覚えたのか、アンブロジウスは四肢の切断面から青白い炎を吹き出すと、それが消える頃にはもがれた四肢を全て再生していた。

 

『──────』

「嬉しそうですね。褒めてあげましょうか?ですが人と違って貴女は特異体、神秘による治癒は簡単な事でしょうに。あなたもこの小娘も、神秘のなんたるかをまるで分かっていない」

 

破れかぶれにKeyへ向けて炎を放射したアンブロジウスに対して明らかにテンションの下がった声色を出したKeyは、両手を合わせるようにして印を結んだ。

 

 

「良い機会です。特別に教えてあげましょう。本物の神秘、その秘儀を────

 

 

 

 

 

 

 

────神秘解放『アトラ・ハシース』

 

 

詠唱と共にKeyの背後に顕現したのは、円環状の中心に塔のようなものが浮かんだ構造体。

それが顕現した瞬間…炎諸共、アンブロジウスの肉体が一瞬で分解され、跡も残らずに消滅する。

 

 

「…まさか跡形も残らないとは。弱いですね、あなた…ああそうそう。これはいただいて行きますね」

 

Keyはアンブロジウスが消滅した際に体内から落とした小さなそれ…Keyの機器部品(モジュール)を拾うと、そのまま飲み込んだ。

アンブロジウスが消滅したことにより古聖堂の地下を覆っていた生得領域が崩れ、地下は本来の姿を取り戻した。

そこには乱雑に散らばる生徒の遺体もあり、Keyはそれを踏みつけながら進むと内にいるアリスに呼びかける。

 

「はぁ、終わりましたよ。不愉快です、戻るならさっさと戻ってください…うん?どうしましたか?」

 

しかし、Keyが何度呼びかけてもアリスは肉体の主導権を取り戻す気配がなく、暫く静寂が辺りを満たす。

少ししてKeyは首を傾げ…

 

 

 

 

 

「…フッ」

 

そして、邪悪に笑った。

 

 

 

 

 

 




配役
伊地知…アヤネ
虫の特級呪霊…アンブロジウス
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