ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作において空白の1ヶ月間の出来事を作者がオリジナルで補完した話になります。



season4
サブクエスト─前編─


 

「ホシノせんぱ〜い!」

「お〜、よしよし」

 

ホシノがマルクトやKeyに喧嘩を売った翌日。

S.C.H.A.L.Eに戻ってきたホシノに真っ先に出迎えたアリスが飛びつき、ホシノは宥めるようにアリスを抱き返して頭を撫でた。

そんなアリスに続いてS.C.H.A.L.Eに待機していた面々…セナやアヤネ、クロコやレンゲも追いかけてきた。

 

「やあやあ皆…今はこれだけしかいないの?」

「キヴォトス各地で暴れる特異体は未だ健在ですので、大部分がそれらを鎮める為に出払ってますよ。昨日の内に帰ってきてくれたら皆いましたけれど。どこで油を売っていたんですかホシノさん」

「うへ〜…ごめんねセナちゃん。ちょっとユメ先輩の所にね」

「!」

 

『神明結晶』からホシノを解放した直後に何処に行っていたのか疑問だった一同だが、ホシノの話を聞いて…特にセナとアヤネは息を飲む。

さらにはユメの肉体を乗っ取り操っているマルクトとヒナの肉体に乗り移ったKeyにまで喧嘩を売ったとまで聞いて目眩を起こしたような感覚に陥り、セナはホシノに抱きつくアリスを優しく引き剥がすとホシノの肩を掴んでどこかへと引き摺って行ってしまう。

そんな様子を呆れたように見ていたレンゲとクロコは、混乱もあるがそれでも変わらぬ調子のホシノにほっと安堵の息を吐いた。

 

「ったく…あのクソバカピンクは心配ばっかかけやがって…」

「ん、でも元気そうで良かった」

「はい!ホシノ先輩がいればもう安心です!それに、決戦が決まったのなら準備をしなくては!」

「勝手に決戦日を決められるのもどうかと思うけどな…アヤネさん、頼めるか?」

「あ、はい。動ける人から声を掛けて、なるべく戦力を…」

「なら私もアテがある。少しS.C.H.A.L.Eを離れるけど…ここの守りはレンゲに任せても良い?」

「ああ、それにクソバカピンクもいるから何とかなるだろ。アリスはどうする?」

「アリスは…はい。アリスも頼れそうな人に心当たりがあります。明日には出ようかと」

「そうか。何があるかも分からないから、気を付けて行って来いよ」

 

「ん」

「はい!」

 

レンゲから激励を受けた2人。

クロコはセナに説教を受けているホシノと少し話すと、一足先にどこかへと駆けて行った。

アヤネはS.C.H.A.L.Eのオペレーションルームへと戻り、百鬼夜行支部の方とも連絡を取るようだ。

そしてアリスは明日外に出る為にメンテナンスに出していたレールガンを受け取り準備を整えていると…そこに立ち寄ってきたモモイが声を掛けてきた。

 

「ねえ、アリス。ホシノって人…帰ってきたんだよね…?」

「あ、モモイ!そうですけど、どうかしましたか?」

「いや、その…私あの人の前でいっぱい殺しちゃったし…会うの気まずいなって…もしかしたら顔合わせた途端にって考えたら私も外に出た方が良いかな…?それとも、やっぱりここで…」

「…そうですか!では一緒に会いに行きましょう!」

「ちょっ…アリス!?」

 

心配そうに、しかしどこか罰されることを望んでいたかのように自らの思いを吐露するモモイの心情を見抜いたアリスは、モモイの腕を引くと本人からの制止も無視してホシノを探し回った。

しばらく歩いている内に話し声が聞こえた部屋の扉を勢いよく開け放つと、レンゲと話しているホシノの姿があった。

 

「うん?どうしたのアリスちゃ…なんでその子がここにいるの?」

「っ…!」

 

モモイの存在に気付くなり殺気を立ち登らせるホシノにモモイはビクッと肩を震わせるが、ホシノが何か行動する前にアリスはモモイの前に庇うように立った。

その様子に訝しげに首を傾げたホシノは、横に置いていたショットガンに伸ばそうとしていた手を止めてレンゲの方を見遣る。

レンゲは肩を竦めて頷くと、ホシノは殺気を納めて改めてモモイの方を向いた。

 

「どういう風の吹き回しかな?」

「ホシノ先輩!確かにモモイはたくさんの人を傷付けて…命を奪ってしまったのかもしれません。ですが、それはアリスも同じです。ミレニアムの人を大勢…それに、前のゲヘナでの一件でモモイの妹も殺してしまいました。それでも…モモイはあの時アリスを助けてくれました。モモイに罪があるというのなら、アリスも同じです。ですから、ホシノ先輩…!」

「…で、君はどうなの?」

「…私は…許して欲しいなんて、言わないよ…言い訳もするつもりなんてない…でも、アリスの事が大切だから。全部が終わったら、どんな罰だって受け入れる。だから…今は、アリスの為に戦いたいんだ」

「ふ〜ん…まあ、子供を導くのは人生の先輩の務めだからね。本人に反省の気があるならこの件は一旦は見送るよ」

 

「ホシノ先輩…ありがとうございます!」

「ただし!私が許しても遺族や亡くなった人達の友人達はそうはいかない。彼女達への誠意は自分で示しなよ。そこら辺は…アリスちゃん共々よく考えるようにね」

「…うん」

「はい、分かっています」

 

ホシノからの忠告に深くアリスとモモイが深く頷くと、ホシノが雰囲気を緩めたことにより途端に緊張感が緩和され、見守っていたレンゲは2人に親指を立てて笑った。

 

「いや〜、それにしてもレンゲちゃんのことといい、アリスちゃんやモモイちゃんのことといい…委員長ちゃんのことといい、おじさんが寝てる間に色々起きすぎじゃない?」

「あっさり封印されたお前もどうかと思うけどな」

「それに関しては本当に不甲斐ないや…」

「いえ、ホシノ先輩がいなければもっと被害は大きくなっていた筈です!それに、ホシノ先輩を頼る為にアリス達も頑張ったんですから!」

「その為に被害を出し過ぎた…ってのが悔やまれるね。あの後の事は大方聞いたけど、結果として私のせいでユウカちゃんやヒマリ部長達が死んだんだし」

「…」

 

自分がもっと強ければ、あの時マルクトの策略に嵌り封印されなければ。

そのせいで自分の為に多くの人が死んだことにホシノは苦い顔をするも、それを見たアリスはおもむろに駆け寄るとバシバシとホシノの背中を叩き出した。

 

「…何かな?」

「悪いと思うのなら勝ってください!その為に、皆で頑張ったんですから!」

「…そうだね。後悔するなら全部終わってからでも遅くないか…ごめんね、何度も心配させちゃって。ところでアリスちゃんも一度S.C.H.A.L.Eを出るって聞いたけど…」

「あ、はい!明日結界(コロニー)の方に行こうと思っていて…」

「付いてこうか?」

「いえ、ホシノ先輩はレンゲ先輩と一緒にS.C.H.A.L.Eをお願いします。アリスは1人で…いえ、モモイと一緒に行くので大丈夫です!」

「アリス!?」

 

不意に自分も一緒に行くことにされてモモイは驚きの声を上げる。

勿論そこに行きたくないという感情はなく、むしろ「いいのか?」という嬉しさも滲み出ている。

確かに以前見ただけでもモモイの実力は中々のものだと知っているのでアリスと共に行動するならば大抵の相手ならば問題ないだろうとホシノは考えるが、その”大抵”の範疇を超える相手…マルクトやKeyが何処にいるかも分からない現状危険は拭えないとも考える。

 

(あの時もうちょっと練った契約でも結んでおいたら良かったかな…今さらか。クロコちゃんも出払ってるし、レンゲちゃんは私だけじゃ手が回らなくなる可能性も考えて残ってて貰いたいけど、でもやっぱりアリスちゃん達が心配だし…)

「…じゃあ、アヤネちゃんのところに行ってサポートしてもらって来なよ。常に連絡が取れるようにして、何かあったらおじさんが駆けつけるからさ」

「分かりました!この後に相談に行ってきます!」

 

その後少し話して部屋を出ていくアリスとモモイ。

それにに笑って手を振り見送ったホシノに、レンゲが苦笑して隣に座った。

 

「ただでさえアヤネさんもこの前ので怪我したばかりで、その上それからもずっと働き詰めだってのによく仕事を増やす気になったな?」

「それくらい頼れるのが悪いんだよ。今の時代事務仕事とか裏方仕事が得意な子は貴重だよ〜?」

監督官(お前)の仕事でもあるだろ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホシノの言葉に従いオペレーションルームを訪ねたアリスとモモイ。

今度は静かに扉を開けて入室した2人が見たのは、忙しなく端末やパソコン、電話を用いて色々と連絡を取ったり情報をまとめるなどの仕事に勤しんでいるアヤネの姿だった。

誰かと通話していたらしいアヤネはアリス達に気が付くと会釈だけして一度待たせ、通話に一区切り着いたところで仕事の手を止めて改めて2人を出迎えた。

 

「こんにちは、アリスさん、モモイさん。どうかされましたか?」

「はい、明日モモイと結界(コロニー)の方に行ってくるのですが、ホシノ先輩がアヤネさんからサポートを受けてこいと」

「あの人また私に押付けたんですか…いや良いですけど…えっと、ではこちらから専用のインカムと無線、非常事態を即座に伝えるための緊急連絡スイッチ…S.C.H.A.L.Eが管理している中から手軽に使える遺物と、移動用の車も手配しましょう」

「あ、ええと…良いんですか?そこまで至れり尽くせりで…」

「構いませんよ。今回の件でS.C.H.A.L.E含む特異現象捜査部の生徒の母数がかなり減ってしまったので…その辺のサポート物資が有り余ってるんです」

「それは…あまり喜べないというか…」

「アヤネさんって強かな人なんだね…」

 

壊滅的な被害を受けた特異現象捜査部の現状でもめげずに前を向くアヤネに2人が感心していると、アヤネは申し訳なさそうに頬を掻いた。

 

「本当は私がもっとしっかりしていればアコさんの件だって…」

「ホシノ先輩にも言いましたが、今はKeyやマルクトを倒す為に集中しましょう。アリス達には、アヤネさんの力が必要なんです」

「…はい、そうですね。今は自分達に出来ることを精一杯やりましょう。他に何か必要なものは?」

「アリスからは特に…」

「あ、じゃあ情報だけ欲しいな。今のキヴォトスの情報とか特異現象捜査部は把握してないの?」

「それでしたら、今朝にシュンさん…監督官の方から報告書が上がっています。簡潔にまとめると、昨日の時点で全ての結界(コロニー)において敵対的な泳者(プレイヤー)は全て制圧、平定が完了しています。未だ多く潜んでいる特異体については現在出払っている皆さんやまだ機能を保っている各支部との連携で掃討中、魑魅一座等の凶悪なアウトロー集団はレンゲさんの活躍で壊滅したので、こちらの活動も今のところ滞りなく進んでいます。また、今は結界(コロニー)に取り残された一般人の救助も進めていますので、アリスさん達が出向いた先で活動中の生徒と遭遇するかもしれませんね」

「では、もし会ったらお手伝いもしますね!」

「はい、お願いします」

 

アヤネから現在の結界(コロニー)の様子や今動いている特異現象捜査部の生徒達の状況を確認し、お礼を告げてオペレーションルームを後にするアリスとモモイ。

サポート用の装備は明日までに用意してくれるらしく、その日は2人とも寮で休憩に努め、何気ない会話をしながら身体を休めるのだった。

 

 

 

 

 

 

そして翌日、天気は良く絶好の探索日和。

朝早くに起床したアリスは隣の部屋で寝ていたモモイを叩き起すと、さっさと朝食を済ませてアヤネから指示されたS.C.H.A.L.Eの玄関口に向かう。

そこでは色々な機器の確認をしていたイチカが待っていた。

 

「お、来たっすね」

「あ!イチカさん!怪我はもう大丈夫なんですか?」

「はい、お陰様で。仲正イチカ完全復活っすよー」

「それが例の装備?なんか特殊部隊みたいでカッコイイ!」

 

イチカが整備していた機器類に興味津々なモモイに、イチカは微笑ましいものを見るように笑うとそれらをアリスとモモイに装着させていく。

各種通信機器、閃光弾や手榴弾等の補助武器、アリスには最近開発したばかりだという、レールガンの欠点であるオーバーヒートを解消するために急速に冷却出来る機能を作動させる為のバッテリーを。

モモイには『生苦』の制度と威力をより高められるように専用のカスタムが施されたライフルが渡される。

 

「まあ今回はあんまり戦闘にならないかもしれないっすけど、この先の戦いには必要になると思うので使う機会があればテストがてら試してみてってとこっすね。連絡はオペレーションルームのアヤネさんに、緊急用の信号はホシノさんに繋がるようになってるっすから、必要な時に使うっすよ。一応私の方でもアヤネさんと連絡は取ってるからこっちと繋いでも良いっすけど、二度手間になるんでアヤネさんの方を利用した方がいいっすよ。あ、結界(コロニー)内では通信が通らないんで中での用事を済ませたら直ぐに結界(コロニー)の外に出るっすからね」

「こんなに色々…ありがとうございます!」

「車の運転もイチカさんがしてくれるの?」

「そうっすよー。私は荒事が苦手なので、申し訳ないっすけどなにかあったら任せるっす」

「はい!アリスが守ってみせます!」

「私も頑張るよー!」

「それは頼もしいっすね」

 

2人の意気込みを聞いたイチカは早速車…念の為強度の高い装甲車に案内して発進する。

行先はアリスが指定していて、まず向かうのはD.U.第1結界(コロニー)だ。

道中、一応アリスはコガネを呼び出して確認を取る事にした。

 

「コガネ!尾刃カンナさんはまだD.U.第1結界(コロニー)に居ますか?」

 

『あいよ!まだ留まってるぜ!』

 

「ありがとうございます。居るとしたら…イチカさん、セントラルパークのD.U.芸術場に向かってください」

「了解っす」

 

戦闘や特異体の影響で多少道は荒れているが、この辺を何度も走行したことのあるイチカは荒れている道を避けると的確に最短ルートを探ってD.U.芸術場へと向かう。

幸いこの辺りの避難や特異体の掃討は既に済んでいるのか何事もなく車は進み、それから十数分程度で目的地へと到着した。

 

場内に入る前に念の為特異体や人の気配を確認し…1人しかいないことを確認すると、イチカは車の中で待機…車にも神秘的な防御を施している…モモイと共にアリスが突入する。

警戒は怠らずに場内を進み、人の気配があるホールに続く扉を開けるとそこには───ステージの上に敷かれた毛布の中に包まるカンナの姿があった。

 

「…」

 

「えっと…何あれ?」

「カンナ!顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」

「ああ…アリスか。いや、この前服を着たまま風呂に入っていただろう。あの後普通に風邪を引いたんだ」

「え、怖…」

「カンナは死にたいんですか?」

「まあもう治ったが念の為安静にしてただけだ」

「というか何故まだここに…」

「元々ここを拠点にしてたからな。お前が出ていった後に戻ったんだ。あんな別れ方をしておいて締まらない姿は見せられないだろう?」

「その締まらない姿が今目の前にあるのですが…」

 

前に会った時と比べて何処と無く憑き物が落ちたようにひょうきんに振る舞うカンナの様子に困惑しながらも少し安堵するアリス。

一方話の流れが掴めず混乱しているモモイを見て巫山戯るのもこれぐらいかとカンナは毛布から出ると犬の肉球のような模様があしらわれた寝巻きから、カッチリとしたスーツへと手際よく着替えてホール内の適当な椅子に座り、アリス達にも腰をかけるように促した。

お言葉に甘えてアリスはカンナの隣に座り、続いてモモイもアリスの隣りに座る。

 

「さて…今回は何の用だ?」

「前にも話しましたが…今のアリス達にはカンナの力が必要です。手伝ってくれないでしょうか?」

「…お前なら、私の力が無くとも十分に立ち回れるだろう…と前も言ったはずだが、最早そういう段階ではないと?」

「はい…今は、少しでも皆の力が必要なんです」

「…すまない。私は、お前の思うような頼れる人間などでは無い。今更私にはお前と肩を並べる資格なんて無いんだ」

「カンナ…」

 

神妙に、あの時と比べても確かに自分を必要とするアリスの思いが籠った表情を見てカンナはつい頷きそうになる。

だが、それでもやはり手を汚した自分がアリスの隣に立つことの烏滸がましさを思うとそれを踏み留まり断ろうとする。

だが…

 

「…難しいことなんて考えないでさ!アリスが必要だって言ってるんだから応えれば良いじゃん!ただ怖くて戦いたくないなら分かるけど…そうじゃないなら、せっかく求めてくれる人の思いを無下にすることは良くないよ!」

「…そういえば、こいつは?」

「えっと、モモイです!」

「アリスのお姉ちゃんだよ!」

「なんだ、姉妹がいたのか」

「あはは…」

 

微妙に答えづらく苦笑いで誤魔化すアリスを他所に、モモイは気を立てた様子でカンナの前に立った。

 

「あなたが何に悩んでアリスと戦えないって言ってるのかはよく分かんないけど、あなたが自分に自信が無いってのはよく分かるよ!でも、どれだけ大変でも、辛くても…行先は自分で決めなきゃ行けないんだよ!」

「っ!」

「…モモイの言う通りです、カンナ。アリスは知っています。カンナが優しいことを。こんな私に…赦しをくれたことを。無理強いはしません、ですがもう一度だけ聞かせてください。カンナ…アリス達と一緒に、戦ってくれませんか?」

「…」

 

 

 

『ヴァルキューレ生の憧れである局長が三流悪党だなんて…他の誰が認めたって、本官は絶対に認めません!』

 

 

 

「憧れ、か。私も最初はそんな風に…」

 

アリスとモモイの訴えかけに目を瞑るカンナ。

その思考時間数分を大人しく待っていた2人に、様々な自問自答を繰り返した果てに目を開いたカンナは1つ嘆息すると、改めて答えを出した。

 

「…良いだろう。私も丁度後輩の憧れをこれ以上穢したくはないと思っていたところだ。今の私に何ができるかは分からないが…アリス、私をお前と一緒に戦わせてくれ」

 

 

 

 

 

「パンパカパーン!カンナが仲間になりました!」

「やったねアリス!」

 

その答えを聞くや否や、席を立って大喜びを始めるアリスとモモイにカンナはポカンとするが、その無邪気さが嫌に目に染みるように感じてやれやれと肩を竦めた。

手を合わせて飛び跳ねるようにして喜んでいた2人はしばらくして気が済んだのか、カンナに準備をさせてS.C.H.A.L.Eへと送って貰うことに。

が、S.C.H.A.L.Eに行くのはカンナだけでアリスとモモイは一度結界(コロニー)を出たところで降車した。

 

「お前達は来ないのか?」

「はい、アリス達はまだ用事があるので…カンナのことは予め紹介しておきましたので直ぐに馴染めると思います!」

「…まるで私が手を貸すことを見越したようだな」

「はい、カンナのことを信じてましたから!」

「…そうか」

 

「じゃあアリスさんとモモイさんは本当に自分の足で第2結界(コロニー)まで行くっすか?他の監督オペレーターに車を手配してもらうことも出来るっすけど…」

「大丈夫です。今回はカンナを送り届けてもらう為に車を頼んだ所もありますし…クロコ先輩や秤先輩の方は自分達の脚で来るって言ってましたので」

「そうっすか…こまめに連絡は入れるっすよ?」

「はい!ではカンナ、また会いましょう!」

「…ああ、またな」

 

いつかの焼き直しのような一旦の別れに、しかしあの時のような漠然とした再会を願ったのとは違って直ぐにまた会えるという事実で幾分か心は軽くなる。

それでもこの先皆で向かうのが死地であることに変わりは無いが…それでも、それまではせめて。

 

 

イチカの運転する車でS.C.H.A.L.Eに向かったカンナを見送ったアリスとモモイは持ち前の身体能力で街中を駆ける。

速度だけなら車より速い今の2人の足はD.U.を瞬く間に横断し、小一時間で何事もなくD.U.第2結界(コロニー)へと到着した。

 

「ねえアリス。それで結局こっちには何しに来たの?」

「ふふふ…決戦前の挨拶回りは定番ですので!コガネ!D.U.第2結界(コロニー)に秤先輩とネルさんはいますか?」

 

『あいよ!どっちもいるぜ!』

 

目的の人物が結界(コロニー)にいることを確認したアリスは意気揚々とD.U.第2結界(コロニー)へと踏み込んだ。

面積の半分以上を海で占めるこの結界(コロニー)は潮風がよく通り、普段ならば市場で海産物が並ぶ港町として賑わっていただろう。

それも死滅回遊の影響ですっかり荒廃してしまったわけだが…そんな結界(コロニー)の中でも特に目立つ建造物である観覧車の方に向かったアリスとモモイは、観覧車の下で談笑するアツコとネル、そして灰色の髪の小柄な少女…シュロを発見した。

 

「秤先輩!」

「うん?なんだアリスか。どうしたの?」

「今モモイと一緒に挨拶して回ってるんです」

「そうなんだ。えっと、じゃあアリスが会うのは初めてだろうから紹介すると、こっちが怪談家かぶれの小説家のなり損ないの箭吹シュロちゃん」

「なんでそんな酷いこというんですか手前さぁん?」

「でこっちのチビメイドが美甘ネルちゃん」

「誰がチビメイドだコラ」

 

「チビメイド先輩とチビですね!」

 

「ぶっ飛ばすぞテメェ!」

「張り倒しますよ手前ぇ!」

 

「やめなよアリス!直ぐに人を煽るのは恥ずかしいことなんだよ!」

 

初対面の相手にもナチュラルに舐め腐った態度を取るアリスをモモイが諌め、今にも飛びかかろうとするネルとシュロをアツコが抑える。

双方落ち着いたところで改めて、アリスはネル達のことについて聞いた。

 

「それで、チビメイド先輩とチビはどうするんですか?」

「その呼び方続けんのかよクソが」

「やっぱり一発殴らせてくれませんかぁ?」

「まあまあ。取り敢えず美甘ちゃんにはKeyに一番槍で突っ込んで貰うよ。ホシノ先輩が挑む前に幾らか削ってくれると思う」

「捨て駒作戦ですか?確かにボス相手に挑む前の弱体化ギミックは定番ですが…」

「アタシが負けるの前提で話が進んでるのすげぇムカついてきた」

「仮だからね。先鋒請け負ってくれてありがとう」

「そりゃ万全のKeyと戦いたいから良いけどよ…負ける気はねぇぞ。お前らの出番なんざくれてやらねぇ」

「なるほど…正直悪い気もしますが…そちらの方は?」

「箭吹ちゃんは前線には出ないよ。ちょっとだけ協力してもらうことはあるけどね」

「ふん、手前に感謝するですよぉ」

 

生意気さが抜けないアリスに意趣返しの如く自慢げに胸を張るシュロ。

そんなシュロに少し頬を膨らませてむすっとするアリスだったが、ネルからの値踏みするような視線に気付くとそれどころでは無いと身を引いた。

 

「あの…なんでしょうか…?」

「いや…そういやお前が話に聞いてたKeyの器なんだよなって」

「今はもう出ていってしまいましたが…」

「なるほどな…パッと見筋肉の付き方とか体内の神秘はよく鍛えられた奴のそれだが、実際のパワーとかはそれを凌駕したものが出ると。見ただけで分かんのはそんくらいで何か特別な構造でもしてるのかどうかは分からん」

「…分かるんですか?」

「ほんとにパッと見だ。大体そんな立場なら特異現象捜査部で精密検査くらい受けたことあるだろ。だが実際に見るとこうも普通なのかってな」

 

念願叶ってKeyと戦う機会を得ることが出来たネルはその器だったというアリスに興味を持つが、こうして会ってみると一体何が特別だったのか分からないという。

ネルの言う通りS.C.H.A.L.Eでセナによる肉体の細かな検査も受けたことはあるが、確かに肉体の頑強さや膂力的な面で他の生徒を画すものはあってもそれらだけでKeyの遺物としての毒性や自我の支配力を封じ込められるかと言うと疑問が残る。

外から見たどのろか内側をよく調べても分からない…ならば今の今までヒナにKeyの器としての才能がある事が分からなかったのも当然だが、逆にKeyはヒナの何から器としての才能を見出したのか。

 

「…Keyは、器になる人とそうでない人が分かっているようでした。一体どうやって見分けていたと思いますか?」

「ふ〜む…肉体、神秘、秘儀…或いはヘイローとか?」

「うわーん!全然分かりません!」

「悪かったな!アタシだってそんなの分かんなら悩まねぇよ!」

「でも、少なくともアリスについてはマルクトが関わってるらしいから何かしら専用のステータス的なものは持ってると思うんだけどねぇ…」

 

「「え?」」

「は?」

「?」

 

「うん…?」

 

何気なくそう語ったモモイの言葉に、アリスとアツコ、ネルが間の抜けた声を上げ、あまり話に理解が追い付いていないシュロは首を傾げる。

 

…実の所、モモイはアウトローとしてマルクトやアル達と協力していた時に聞いたアリスの器としての概要、ミレニアム事変でのマルクトとのやり取り、そして黄昏宮でマルクトが語ったアリスの役割…それらからマルクトがアリスの出生に絡んでいることは大方予測できていた。

だがそれら殆どの話についてはアリス達にとっては初耳となる。

 

そう、モモイはそのことをこれまで誰にも!伝えていなかったのである!

 

 

 

 

 

 

「アリスを…マルクトが…?」

「うん、間違いないと思う…確信したのは黄昏宮の時だけど…」

 

モモイが知る限りのマルクトが語ったアリスについての話を聞いたアリスは、イマイチ現実味が湧かない話にただ呆然とする。

アツコはそんなモモイの話をメモにまとめ、ネルは腕を組み黙ってそれを聞き、話に興味が無いらしいシュロは離れたところで秘儀で生み出した稲生特異体と戯れている。

 

「アリスは親のこととか覚えてるの?」

「親…いえ…お父さんの方は顔も思い出せますが、お母さんの方はそもそも会った記憶すらありません」

「そっか…マルクトが関わってるとしたらその辺りに関係があるんじゃないかな?」

 

「アタシもマルクトに会ったのは死滅回遊に誘われた時の1回だけだが、あの薄気味悪い奴の事だ。何を企んでてもおかしくは無い。お前は出来ればマルクトに会わない方がいいんじゃないか?」

「私もそう思うよ。Keyは取り敢えずネルとホシノ先輩に任せるとして、マルクトはクロコが倒したいって息巻いてたし。アリスちゃん達に出番があるとしたら”保険”としてだけ。まずは頼れる先輩を信じなよ」

「はい…そうですね。事が終われば、調べる時間だって幾らでもあるでしょうし!」

「うん、アリスは前向きじゃなきゃね!」

 

何の因果があるのかは分からないが、十分な情報が無い以上分からないものを今考えても仕方がない。

それに今のところ何も問題がないのならば…この話は一旦後回しにして、アリスとモモイはアツコ達に別れを告げてD.U.第2結界(コロニー)を後にするのだった。

 

 

 

 

 

 

次に2人が向かったのは元ミレニアム自治区結界(コロニー)

今はクロコによって平定されているが、今回死滅回遊に参加した泳者(プレイヤー)の中でも上位の実力者が複数ひしめき競い合ったという魔境のような結界(コロニー)だったとか。

そこにクロコがいることを確認して2人は結界(コロニー)へと突入…する前に一度アヤネへと連絡を入れることにした。

 

「アヤネさん、聞こえますか?」

 

『…はい!どうかしましたか、アリスさん』

 

「定期的に連絡を入れた方が良いかと…」

 

『あはは、気遣いありがとうございます。ではせっかくですしこちらからも報告を。アリスさん達の同行は装備に取り付けた発信機で追っているので結界(コロニー)の外にいる間は把握出来るようになっているのですが、そこは元ミレニアム自治区結界(コロニー)ですよね?その近辺でミノリさんが逃げ遅れた一般人がいないか捜索活動をしているところなので、後で挨拶してあげてください』

 

「ミノリ先輩が…分かりました!それではこれで!…行きましょう、モモイ」

「うん。ここはクロコさん達がいるんだったよね?」

「はい!クロコ先輩が組んだとても強いパーティですよ!」

 

そうして元ミレニアム自治区結界(コロニー)へと侵入したアリスとモモイ。

2人は結界(コロニー)に入るなり、上空を漂っている人物の存在を察知して空を見上げた。

そこに浮いていたのは…長い桃色の髪を靡かせる、前の空いたワイシャツ1枚を羽織るだけという過激な格好をした少女…ハナコだった。

 

ハナコもまた結界(コロニー)に入ってきた2人に気付くと、不可思議に歪んだ空間をトランポリンのように利用してアリスとモモイの前まで勢いよく降りてきた。

 

「あなた方は…話に聞いていた天童さんと才羽さんでしょうか?」

「わっ!?あ、アリス…なんか破廉恥な人が来たよ!?」

「…!閃きました!」

「やめなよアリス!」

「うふふ♡可愛らしい子達ですね♡クロコさんでしたら、スタジアムの方で待ってますよ。案内しましょうか?」

「はい!お願いします!」

 

ハナコの案内を受けて結界(コロニー)の中でも目立つ建造物であるスタジアムを目指す。

道中、以前の戦いによって作られたあちこちの地割れや大規模な破壊痕を目にして、アリスはこれだけの戦いを制したクロコの凄さと自分達が未だそのレベルには遠いことを実感する。

今のままで本当にKeyやマルクトと戦えるのだろうか、と。

そんな自分の力不足に苦悩するアリスの様子を見たハナコは、優しく微笑むと世話を焼くことを決めた。

 

「…天童さん。ことのあらましはクロコさんに聞きましたが…あれだけ無茶苦茶をやれるのはほんの一握りだけ。殆どの人はあなたと同じ気持ちを味わっているものですよ」

「それは…分かっています。ですが、アリスはもっとレベルアップして強くならなければいけません」

「レベルアップ…ですか。では聞きますが、レベルアップをするというのはただ単に『STR(パワー)』や『AGI(スピード)』が上がるだけですか?」

「!」

「違いますよね?能力の伸ばし方は人それぞれ…力でどうしても敵わない相手ならば『INT(知力)』や『DEX(器用)』を上げるという手もあります。相手が大ボスならば様々な役割を揃えて、得意を分別した上で挑むのが定石では無いでしょうか?」

「確かに…そうですね…アリスが勇者になる必要は無いのですから、アリスは勇者の剣として出来ることをやりたいです!」

「…ありがとね、ハナコさん」

「うふ…どういたしまして♡それに、力の強い相手に無理に挑もうとすればどうなるのかは身に染みて実感していますから」

「!」

 

わざわざアリスにも分かりやすい例えで諭したハナコに、なんとアリスに声をかけようか迷っていたモモイが感謝を伝える。

そんなハナコがワイシャツの袖をまくってモモイに見せたのは、二の腕辺りに後から接合されたようにも見える痕の残った右腕だった。

 

その後ハナコの案内の元足場の悪い中を歩き…見えてきたのはこれまた以前の戦闘によって一部が崩落したスタジアム。

そのスタジアムに併設された休憩室にクロコ…そしてハルナとツルギが紅茶を嗜んでいた。

 

「ん、いらっしゃい」

「ごきげんよう、貴女方がアリスさんとモモイさんですね」

「…よろしく」

 

クロコはいつもの調子で、ハルナは上品に、ツルギは無愛想に2人を迎える。

アリスはその内ツルギから何処と無くネルに似たような雰囲気を感じ取り、モモイの背後に身を隠した。

 

「アリス…気持ちは分かるけどさぁ…失礼だよ?」

「チビメイド先輩はまだ下に見れましたが、ちょっとあの人は威圧感が比にならないです…」

「いい…怖がられるのは慣れてる」

「大丈夫だよ、アリス。ツルギも良い人だから」

「そうですわ。この方、これでいて中々頼れる方ですし」

「それに、砂狼さんにキスされた時は随分と可愛らしいウブな反応をしていましたし…」

「おいその話は…」

 

「え!?なんですか!?ちょっとその話詳しく聞かせてくれませんか!?」

「うわぁ露骨に食い付いた!?」

 

気になる話題があれば先程まで怖がっていたのはどこへやら、食い気味に詳細を聞こうとするアリスにツルギが拳骨を落として落ち着かせ、ついでに余計なことを言ったハナコを頭から地面に突き刺して黙らせることで収束する。

 

改めて全員を部屋のソファに座らせ、今後のことについて話し合いが始まる。

 

「クロコ先輩はマルクトに挑むって聞きましたけど…」

「ん。あいつの身体は、ホシノ先輩の大切な人の身体だから。2度もホシノ先輩に大切な人を手にかけさせるなんてことはさせない」

「わたくし達はそのサポートですわ。罪を犯してきた禊としてせめて平和に貢献しなければというものです」

「作戦指揮は私にお任せ下さい♡」

「思う存分憂さ晴らし出来る相手だ…きひっ、ぶっ壊してやるよ」

「ん、頼れる仲間達」

「うわーん!このパーティ癖が強いです!」

「色物系かぁ…アリだね」

 

この濃い面子を下して仲間に加えたクロコを尊敬しつつも一周まわって恐怖を覚えたアリスがモモイへと泣き付く。

そんなアリスを受け止めながら本業(ゲーム開発)のことを思い出したモモイは今度ゲームを作る時があったらこれをネタにしようと決めた。

その後はハルナが用意した紅茶や茶菓子を振る舞われ、ハナコがセクハラ紛いの発言をする度にツルギに埋められる等の出来事があったりしたが、つつがなく決戦に向けての確認が進んだところでアリスとモモイは結界(コロニー)を出ようとする。

 

そんな2人を、クロコとツルギが呼び止めた。

 

「ねえ、待って」

「はい…?なんでしょうか、クロコ先輩」

「ハナコから聞いた。レベルアップしたいんだってね」

「確かにそんな話をしましたが…」

「私達が特訓に付き合おうか?」

「…!良いのですか?ツルギさんも…」

「ああ、トリニティにいた時は部下の訓練なんかもやった。戦闘訓練は勿論色々な連携とか後方の仕事もな…教えられることは多いと思う」

「私も、特に神秘の扱いなら自信がある。今はまだこの結界(コロニー)でやることがあるけど、それが済んだら皆を連れてS.C.H.A.L.Eに行くつもりだからその時に一緒に特訓しよう。モモイもするよね?」

「勿論!私だって、今度こそはマルクトを…!」

 

黄昏宮での敗北を思い起こしたモモイも情けない姿は見せられないと本心を隠してはいたものの、アリス同様力不足を感じ焦りがあり、そんな中特級に数えられる生徒であるクロコ…そしてアウトローとして特級に区分されていたツルギからの教導を受けられるというのならば願ったりだった。

アリスは今回の話し合いの最中に初めは怖がっていたツルギに対して打ち解けてきており、世話焼きな内面を感じ取ったのか早くも信頼を寄せるようになっていた。

そもそも、元々が冤罪のような形でアウトローとして扱われるようになっただけで善性の強いツルギにハナコやハルナよりも早く馴染めるのは当然と言えば当然なのだろう。

 

「クロコ先輩もツルギも…ありがとうございます!ハナコとハルナにもよろしく伝えてください!アリスも頑張りますから!」

 

見ず知らずの自分にまで気にかけてくれたツルギに感謝を伝えたアリスはめいいっぱいに手を振って元ミレニアム自治区結界(コロニー)を後にした。

 

 

「…良い奴だな」

「でしょ?でもハナコは出来るだけ合わないようにして欲しい。変なことを教え込まされたら困る」

「それは同感だ…ハルナの奴も駄目だ」

「ん…アリスの舌が肥えちゃう。これ以上生意気になられても困る」

 

 

 

 

 

 

結界(コロニー)の外に出たアリスとモモイは、先程アヤネに聞いた情報を頼りに結界(コロニー)周辺を散策し…救助活動を続けていたミノリを発見した。

 

「ミノリ先輩!」

「…!デモ?」

 

見つけるなり突っ込むアリスを受け止めたミノリは、少し遅れてやってきたモモイの方を見ると少し前にアヤネから来たことを思い出し、周囲の捜索を続けながら2人を歓迎した。

ホシノを『神名結晶』から解放した時に少しだけ会ったアリスだったが、改めてミノリから失われた左腕を見て表情を曇らせる。

ミレニアム事変の時に失くしたとしか聞いておらずアリスは詳細を知らないが…

 

実際のところ、ミノリはKeyと死路虚の戦いの際にKeyが放った分解の力に巻き込まれて左腕を失っていた。

が、それをアリスに伝えるときっとアリスは自分自身を責めてしまうだろうとミノリはその事実をほんの一部の人にしか伝えていなかったのだ。

 

そしてミノリはアリスをこれ以上不安にさせないように抱き着くアリスの頭を撫でると、口元がマフラーで隠れていても分かる清々しい笑顔を浮かべた。

 

「デモ!」

「…そうですか、元気そうで良かったです」

「アリスもよくその人の言葉が分かるね…私全然法則性が分からないんだけど」

「あはは…取り敢えず”デモ”が肯定等のポジティブな意味で、で”プロレタリア”が否定などのネガティブな意味だと捉えていればなんとかなります」

「大丈夫かな…」

「デモデモ」

 

「それで、ミノリ先輩はここで救助活動をしていると聞きました!近くを通りがかったのでお手伝いをしたいと思ったのですが…」

「…労働」

「もう知らない語彙が出てきたんだけど」

 

それなりに付き合いがないと対話の難しいミノリを前に混乱するモモイを置き去りにして、言葉の意味を読み取ったアリスはミノリが指差した方向…机替わりに使っていたらしい瓦礫の上に置かれていたペンと手帳を見つけ、手帳の方を手に取って中身に目を通した。

そこに描かれていたのはこの辺りの簡易的な地図と近くにあった避難所、そして避難所以外に一般人が隠れていた場所を記録したものだった。

 

「労働、休暇、ストライキ」

「あ、これもアヤネさんに協力してもらってたんですか…」

「何言ってるのかは分からないけどあの眼鏡の人働きすぎじゃない?」

「それは本当にいつも思ってます」

「プロレタリア…革命」

「はい?次はあっちですか?分かりました、一緒に行きましょう!」

 

ミノリが手帳に描かれている地図の中でまだ捜索していないのか印の無い地帯を指差し、意図を汲んだアリスは背負っていたレールガンを構えて皆でその場所へ向かうことになった。

しばらくは特に何事もなく進んでいた一行だったが…目的地らしき場所に見つけたボロボロになった病院とその中から感じる特異体の気配を察知すると警戒を強めて中へと踏み込んだ。

 

「…ミノリ先輩」

「デモ」

「特異体以外にも…人の気配?どこかに隠れてるのかな?」

「早く特異体を片付けて救出しましょう」

 

電気系統がダウンしているのか明かりもつかない薄暗い通路を進み、何処かに隠れているらしい生存者を案じて特異体を刺激しないように一体一体慎重に音を立てないよう肉体のみで鎮めていくアリス達。

一体、また一体と不意を突いて悲鳴を上げさせる間も無く一撃で仕留めていき…病院の3階辺りで生存者と思われる者の気配が近くなり、より一層慎重に行動を進める。

 

そして人の気配のある病室の前に蹲るようにして鎮座していた特異体を鎮め、アリス達が病院の扉をゆっくりと開けるとそこには───

 

 

 

 

 

 

「ある時摩訶不思議な、まるで白昼夢のようなものを見て夢と現実の間を彷徨っていた私だが、夢の案内人に連れられてあの巨大な柱のような…結界とでも言うのかな?あれの外に連れ出されたかと思えばあちこちで連邦生徒会が公表した特異現象などというものが多発して避難した人々は散り散りになったわけだが…あれから早21日。この病院に他の避難民と身を隠したものの特異現象がここに入り込んできて他の皆も逃げてしまって…残された私は辛うじて残っていた物資で生き延びてきた訳だがそれも底を突きかけたところで今のこの状況だ。そろそろ浮世離れしたような感覚が誤魔化せなくなってきたところで聞きたいのだが、果たして君は私が現実逃避の為に見ている幻だったりはしないだろうか?」

 

荒れた病室のベッドの上で開口一番本を読みながらまともに聞くのも馬鹿らしくなる長話を披露したのは、金髪と狐の耳が特徴的な見るからに病弱といった様子の少女。

少女は病室に入ってきた3人の内…アリスに目を向けると数度瞬きをして優しく微笑んだ。

 

 

 

 

 

「やあ、アリス。久しぶりだね」

「…セイア」

 




最近非常に忙しいのと原作の展開も待ちたいのも合わせて、2〜3日に一度ぐらいのゆっくりとした投稿になるかと思います。
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