ブルア廻戦   作:天翼project

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今回も原作の空白の1ヶ月のオリジナル補完話となります


サブクエスト─後編─

 

Keyやマルクトとの決戦に向けてカンナに協力を取り付け、その他クロコやアツコも死滅回遊を経て仲間に加えた人達に挨拶回りをしていたアリスとモモイ。

そんな2人は元ミレニアム自治区結界(コロニー)近郊で一般人の捜索活動をしていたミノリと合流しその手伝いをすることになったのだが…その最中に踏み込んだ病院で発見したのは、アリスの数年来の友人であるセイアだった。

 

ひとまずセイアの身柄を保護して病院に巣食っていた特異体を殲滅したアリス達は一息着くと、図太く本を読んで待っていたセイアを呼んでもう安全だと伝える。

 

「ふむ…さて、色々聞きたいことはあるが…取り敢えずは無事で良かったと言わせてもらおう。なんせこちらも夏頃から君の姿が見えなくなって随分と心配したものだ」

「無事…とはちょっと言えませんけど、ごめんなさい…」

「構わないよ。そちらはアリスの友人かな?」

「アリスのお姉ちゃんだよ!」

「…アリスは一人っ子だと聞いているが」

「お姉ちゃんだよ!」

「…生き別れとかそういう複雑な事情が…」

「別にないけどお姉ちゃんだよ!」

「…それは生物学上赤の他人」

「お姉ちゃんだよ!」

「そうか、了解した」

 

ゴリ押ししてくるモモイの勢いにセイアは自分が苦手なタイプの人間だと悟り訂正を諦める。

次にセイアはミノリに目を向けて…

 

「デモ!」

「よし、個性的な友人が増えたようで私としても嬉しい限りだ」

「うわーん!絶対ろくな奴がいないって思われました!」

「冗談だよ。君に友と呼べる存在が増えていることが嬉しいのは本当だとも」

「個性的の部分は?」

「…すまない」

 

割と本気で謝ってくるセイアに否定しきれないアリスは気まずくなりながらも、数ヶ月会わなかっただけとはいえその間に起きた出来事の濃さのせいでこの再会が何処か涙腺を刺激するような感覚を覚えた。

何を話せば良いのか、ヒナと出会ってKeyが受肉したあの運命の日からの出来事を話せばいいのか…募る話はあるが、思うように言葉を捻り出せない。

 

そんなアリスを気遣って、丁度読み終わった本を膝の上に置いたセイアは寝転がっていたベッドの隣を叩いてアリスに座るよう促した。

恐る恐るそれに従ってベッドに腰掛けたアリスに、セイアは咳払い1つして目を合わせる。

 

「アリス…君がこの4ヶ月程の間何をしていたのかは想像もつかないが、それでも最後にあったあの日と比べると随分と変化が起こっただろうことは一目見ただけで察するよ」

「セイア、アリスは…」

「前に私が言ったことを覚えているかい?」

「…アリスは強いから、人を助けろって…」

「実際、どうだっただろうか?」

 

セイアの問いかけにアリスは言葉を詰まらせる。

アリスの傷口を抉るような質問に2人の会話を見守っていたモモイは文句を言おうとするが…それをミノリが制して止める。

ミレニアム事変以降、ずっとアリスが抱え続けてきた罪。

一度は押し殺し、一度はヒナに諭され、一度はカンナに赦しを与えられた罪。

 

それでも、アリスにとっては自分の信念を踏み躙ることになった消えることの無い罪。

その事実をセイアは知っている訳では無いが、アリスの反応を見ておおよそどのようなことにアリスが囚われているのかは察しがついていた。

 

「嫌なことを聞いてしまったかい?」

「いえ…いい加減、向き合わなければとは思っていました。迷いを残していては、この先やっていけませんから」

「そうかい?なら…何があったのか、君の口から話してくれはしないかな?話せるのなら、出来れば君が姿を消したあの日からがいいね」

「…分かりました。とても長くなりますし、信じられないような話でもありますが…」

 

 

そうしてアリスは語る。

 

Keyの機器部品(モジュール)を取り込んだあの日の出来事、

 

連邦生徒会より死刑を言い渡されたこと、ホシノやヒナ、カズサ達特異現象捜査部との出会い、古聖堂で一度死に、生き返ったこと。

 

ユウカと共に任務に趣き、その最中に出会ったコハルのこと。

凶悪なアウトローによって変異させられた生徒を殺めてしまったこと、コハルがそのアウトローによって喪ってしまったこと。

 

仲間との再会や百鬼夜行支部との交流会のこと、その際に襲撃してきたアウトローとの戦いのこと。

 

任務の途中で鉢合わせたアウトローと戦い…明確に生きている生徒を殺めたこと。

 

ミレニアムでホシノが封印されたこと、最初はモモイと殺しあっていたこと、モモイに敗北しKeyに自我を乗っ取られ…罪もない大勢の人を殺めてしまったこと、ユウカやカズサを例の凶悪なアウトローによって殺され、戦いの果てにそのアウトローを打ち倒したこと。

 

死滅回遊が始まり、カンナと戦ったりミネやカヤと出会ったこと…そして、Keyがヒナに乗り移ってしまったこと。

 

 

 

とても高等部の1年生が4ヶ月程度の間に経験していいものとは到底思えない激動の日々を黙って聞いていたセイアは、話に区切りが着いたのを見計らってミノリから貰ったお茶を一啜りした。

 

「アリスは…たくさんの出会いと別れというものを経験しました。セイアに守れって言われたのに…たくさんのものを失ってしまいました。アリスは…どうすれば良いのでしょうか?」

「…そうだね。普通ならば話そのものに現実味はないが、君の変化を見るに現実に起きたことなのだろう。さもなければあのミレニアムが一晩で壊滅するなどということはないだろうしね」

「…」

「ふむ、ここ最近の事でも相当参ったようだが、特に君の心に深く刻み込まれた傷はミレニアムの出来事かな?Key…とやらが君の身体で虐殺を行ったとして、それで自分を責めてしまうのは分からないことは無い。それも人を助けることを是としている君のことだ。ならその業を背負わせた私には君を諭す責任があるわけだ」

「…セイア?」

 

1人で話を進めようとするセイアにアリスは首を傾げる。

暫しの間言葉を探したセイアは、深く息を着くとアリスへと語った。

 

「あの時の私の言葉をもう一度君に贈ろう。『君は強いのだから人を助けるんだ。救える人は救え。手の届く範囲でもいい、感謝されなくてもいい。とにかく一人でも多く救ってあげるんだ』」

「ですが…アリスは…」

「人を殺めてしまったのならその数より多くの人を救え。それを罪だと悩むならその時間を人を救うことに使え。いつか自分自身を赦せるその日まで…アリス。君は”勇者”になるのだろう?」

「…アリスには、勇者なんて…今のアリスの役目は、”剣”です。皆が平穏で過ごせるよう敵を切り払って、未来を切り開く為の…」

「なるほど。君がそういうのならばそうなのだろう。そも、君はもうその罪を注ぐ為に不必要に自ら命を絶つようなことは考えていないのだろう?」

「あ、はい…それでは死んでいった皆に申し訳が立たないと…」

「ならやることは変わらないじゃないか。深く考える必要がないとは言わない。だが、元から答えは出ているのだろう?君は何度も向き合って、向き合って、どれだけ周りが赦しても君自身が自分を赦さなかったというのがこの話の肝だ。ならばその締め方はこれが良い───アリス、君は『人を助ける勇者』になれ。勇者の旅路が、ハッピーエンドで終わらなくてどうする?アリス…君にも幸せな未来があっても良いんだ」

「…そう、ですね。まだ全てを納得出来たわけではありませんが…」

「『初心忘るべからず』だ。本当に迷って、前に進めないような暗雲が立ち込めた時…君の原点を思い出すといい。それが私からのアドバイスだ」

 

セイアらしい回りくどい言葉から贈られる、不器用なエール。

それで積もり積もってきた罪の意識が消える訳でもないが…少なくとも、今のアリスならば万全で決戦に挑むことが出来るであろう、そんな穏やかな表情を浮かべていた。

ミノリに止められ黙ってその様子を見ていたモモイは「世話が焼ける」といった雰囲気を出して腕を組み、一方のミノリはその内失った腕の真実を伝えても問題ないかもしれないと今のアリスを信じることに決める。

 

アリスとセイアの長く続いた話はすっかり日を落とし、既に外は夜の闇に包まれている。

ミノリはアリス達に休むように伝えると、1人不寝の番を請け負ってくれるという。

勿論遠慮するアリスとモモイだったが、ミノリの押しに折れお言葉に甘え、セイアを交えて3人で話をしながらその夜を明かしたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、セイアが使っていたベッドの隣にあったもう1つのベッドでモモイと並んで寝ていたアリスは、目を覚ますなり飛び起きると丸椅子に腰掛けしれっとセイアの本を膝の上に乗せて読んでいたミノリにまだ寝ている2人を気遣いながら小さな声で挨拶をする。

 

「ミノリ先輩…おはようございます…」

「デモ…」

「はい…?」

 

アリスが起きた事に気付いたミノリは挨拶を返しながら窓の外の方を顎でしゃくった。

何事かと外を見ると、そこには見覚えのある装甲車が…その窓荷台からひょっこりと顔を出したイチカがアリスに向けてひらひらと手を振った。

 

外に出て出迎えたアリスに、イチカがよしよしと頭を撫でて可愛がる。

 

「セイアのことお願いします」

「任せるっす。アリスさん達はどうするっすか?」

「もっとミノリ先輩のお仕事をお手伝いしたいところですが…」

 

アリスがミノリ達がいる病室の方を見上げると、窓から見下ろしていたミノリがふるふると首を振るのが見える。

ミノリとしては可愛い後輩に久しぶりに会えただけでも十分だったらしく、アリス達は元の目的通り挨拶回りを続けて恋との事だ。

 

「そうっすか。アヤネさんには連絡取ってるっすよね?」

「あ、はい。昨晩も一応」

「じゃあ、準備が出来たら護送するんで後で救助者を連れてきてくださいっすよ。ちなみに次はどこに行くっすか?」

「そうですね…百鬼夜行の方を予定しています」

「百鬼夜行…あっちの方では百鬼夜行支部の皆さんが救助活動に励んでるって聞いたっす。良ければ労ってあげて欲しいっすね〜」

「はい、分かりました!」

 

イチカと話し病室に戻ったアリスは、丁度起きたセイアとモモイと共にミノリが持ち寄ったレトルト食品で朝食を済ませ、着替えや持ち物の確認をしたところで表で待つイチカの装甲車までセイアを送り届けた。

装甲車に乗せられる直前、セイアは振り返ってアリスの方を見る。

 

「…アリス、また会えるかい?」

「はい。決戦はまだ先なので、少なくともそれまでは会う機会はあると思います」

「では、その後は?」

「…」

「迷ったのなら、何度でも昨日の私の話を思い出すと良い。君は大丈夫だ、アリス。モモイと言ったかな?アリスの事、頼んだよ」

「うん!言われなくてもアリスは絶対私が守るよ!」

 

モモイの元気な宣言にセイアも表情を綻ばせると、別れの言葉は言わずに車へと乗り込みその場を後にした。

走り去っていく車を見送ったアリスとモモイはここで捜索活動を続けるミノリとも別れ、百鬼夜行自治区の方に向かう。

アヤネへの定期連絡を入れつつ遠方には結界(コロニー)の結界が見える中、2人は百鬼夜行支部のある学園の方に赴いた。

先に訪問する事を連絡したからか校門の前にはお出迎えが待っていて───

 

 

「待っていたわよ!シスター!」

「アオイ!」

 

 

両手を…片腕はムツキとの戦いの際に無くしているが…広げて待ち構えるアオイの胸にアリスが飛び込み熱い抱擁を交わす。

アオイと会うのは初めてなモモイは流れについていけず暫くの間フリーズするが…2人の会話を理解した途端アオイからアリスを引き剥がし、対抗するようにアリスの腕を上げ抱きしめた。

 

「あら、その子は?」

「えっと、モモイです」

「アリスのお姉ちゃんだよ!」

「…なるほど、私はアリスのシスターよ。よろしくね、アリスのお姉ちゃん」

「む〜!」

 

姉妹(シスター)を名乗る不審な女に対抗しようと自分がアリスのお姉ちゃんであることをアピールするモモイだったが、それをあっさり受け入れるアオイの度量に敗北感を感じて唸り声を上げるも、アオイはモモイの反応が理解出来ずに頭に疑問符を浮かべる。

そんななんとなく予想していた2人のやり取りに苦笑したアリスは、遅れてやってきた百鬼夜行支部の部長…リオの姿を見つける。

 

「…リオ部長、こんにちは!」

「ええ、こんにちは。小鳥遊ホシノが帰ってきたらしいわね…今日は何の用かしら?」

「Keyやマルクトとの決戦に向けて皆に挨拶をして回ってるんです!それと、先程ホシノ先輩からリオ部長には相談があるとついでに伝言も頼まれました」

「相談…ね。想像は着いてたわ」

「え〜と…多分リオ部長が思っているものと違うと思いますけど、12月の初週辺りで都合が着く時にS.C.H.A.L.Eに来て欲しいと」

「分かったわ。後で日付を伝えるけど、小鳥遊ホシノに直接連絡を入れれば良いかしら?」

「オペレーションルームの方で大丈夫かと思います」

 

「シスター!話は済んだかしら?挨拶回りなら私が皆の所に案内するわ!三姉妹で団欒と洒落込みましょう!」

「ちょっと!アリスには私以外にもミドリとユズっていう妹がいるんだから!」

「じゃあ五姉妹ね!」

「アリス!私この人怖いんだけど!」

「あはは…」

 

強引で豪快なアオイに振り回され困惑するモモイにアオイと会ったばかりの時を思い出して同情するアリス。

その後文字通りアオイに引っ張られ2人が最初に連れていかれたのは、百鬼夜行支部が拠点とする第六校舎だった。

その一室に当たる教室のような場所に入ると…

 

「ん…天童アリスさんですか」

「あ、アリスちゃん。こんにちは!」

「カホさん、ヒフミ、こんにちは!」

「百鬼夜行の支部の教室…こんな風になってるんだ…」

 

教室で何やら補習でもしてたのか、カホとマンツーマンで授業を受けていたヒフミの姿があった。

アリス達に気付いて授業の手を止めたカホは時計を見るとヒフミに「休憩がてらお話してもよろしいですよ」と告げる。

その計らいにお辞儀で礼をしたヒフミはトテトテとアリス達の元へと駆け寄った。

 

「聞きましたよ!ホシノ先輩が帰ってきたんですよね!?」

「はい!これでもうKeyもマルクトも怖くありません!皆で、魔王を倒すんです!」

「そっか…あ、そっちの子はミレニアムで見た…」

「アリスのお姉ちゃんだよ!そういえば、君もあそこで見かけた気がするね。アリスのことよろしく!」

「あら、ヒフミは知ってたのね。なら紹介してくれれば良かったのに」

「い、いえ、本当に見ただけなのでアリスさんとの関係までは知りませんでしたし…」

「…!」

(今アリスの人間関係のイメージが凄いことになっている気がします…!)

 

最早アリスは気にしてはいないが、よく良く考えれば姉妹を名乗る不審者が2人も身近にいるのは結構おかしな事だ。

某君と繋がる物語でしか見たことないような現実に危機感を覚えたアリスだったが、やかましく騒ぐモモイとアオイを押し退けてヒフミなアリスの手を握った。

 

「…ヒフミ?」

「アリスちゃん…ずっと伝えたかったんです。ミレニアムの戦いで…メカペロロ様…アズサちゃんの仇を取ってくれてありがとうございました…」

「…ムツキは、アリスにとっても多くの仲間の仇でした。ヒフミが礼を言うことではありません」

「それでも、ありがとうございました…私、本当に役立たずで何も出来ませんから…私が出来ない事を、代わりにやってくれたこと…心から、感謝します…!」

「…」

「賛辞は素直に受け取りなさい、シスター。ヒフミったら、ずっとお礼を言う機会を探してたんだから」

「あ、アオイ先輩そういうのは言わないでください…」

 

「…どういたしまして、です」

 

少し前までの様子をアオイに勝手に語られて顔を赤くするヒフミ。

とはいえアオイの言葉に後押しされたアリスははにかむように笑うとそのお礼を受け止めることにした。

後方姉妹面2名がうんうんと頷き、教室の隅の方ではカホが微笑ましくアリス達を見守っていたが…気恥ずかしくなったアリスはそんなカホの方を見ると勢いよく手を挙げた。

 

「カホさん!」

「…なんでしょうか?」

「ホシノ先輩からの指名で今度リオ部長と来るようにって言ってました!」

「げ…」

 

それを聞くなり打って変わって露骨に嫌そうな表情を浮かべるカホ。

それを聞いていたアオイは隣のモモイに何事かと聞いた。

 

「さっきも思ったけど、小鳥遊ホシノは一体何を考えてるのかしら?」

「う〜ん…私も詳しくは知らないけど、何かしら派手な事でもやろうとしてるんじゃないかな?」

「ふむ…まあ小鳥遊ホシノらしいわね。さてアリス、時間が惜しいし次行くわよ」

「え?何故アオイがペースを握っているのかは知りませんが…その、失礼しました!」

「はぁ…行ってらっしゃい。ひとまず後でリオ部長の方には行ってきます…」

「その、せめて私も出来る限り応援します!」

 

 

 

ヒフミとカホに見送られ、アオイの案内の元次に向かったのは百鬼夜行自治区に存在する大きな墓場。

 

キヴォトスの民にとっては本来遠い概念である”死”が集まる場所だからか、そこには物々しい神秘で溢れているようだった。そんな墓場を進んだ先、一同は比較的最近建てられたと思われる2つのお墓を掃除していたフウカとマシロと出会った。

 

「こんにちは!」

「あ、アリスさん。ミレニアムの一件ぶりですね」

「…どうしたのアオイ。そんなに引き連れて」

「私のシスターが皆に挨拶回りがしたいってね。名も無き神々の女王との決戦を前に絆を育んできた皆との逢瀬…素晴らしいとは思わない?」

「言うほど私達絡みないでしょ…まあせっかく来てくれたんだし歓迎するけど…」

 

「フウカ、こちらのお墓は…」

「…片方はメカペロロの。もう片方は…レンゲから聞いてるでしょ?」

「…はい。ごめんなさい、こんなタイミングで来てしまって…」

「気にしてないわ。賑やかな方が2人も…いやどっちも静かな方が好きそうね…とにかく!手の一つでも合わせてくれればいいわよ!」

「は、はい!モモイも…」

「う、うん!」

 

2人のお墓の前にしゃがみ、両手を合わせて今だけは静かに黙祷するアリスとモモイ。

ついでにその横に膝を着いてアオイも同じように手を合わせている。

数十秒して、誰かが目を開けたのを合図に黙祷を終え、立ち上がるアリス達。

フウカとマシロは決して関わりが多かったわけではない筈なのにこうして真剣に祈ってくれたことが嬉しかったのか、表情を緩ませている。

 

「…はい、お疲れ様。それで、本当にここには挨拶しに来ただけなの?」

「そうですね。仲間達の絆を巡ってパワーアップでも出来れば良かったのですが、それでも決戦の前に皆さんの顔が見たかったというのもあります」

「そう…頑張ってね」

「はい!」

 

フウカからのエールを受け取って次に移動しようとするアリス達。

と、そんなアリスの肩をマシロが叩いて止めた。

 

「はい?なんでしょう?」

「その…アリスさん。ずっと謝りたかったんです。ミレニアムでのこと…カズサさんを、私の秘儀で期待させるだけして助けられなかったことを…」

「…大丈夫です。それに、マシロもあの時期待しないでと言っていたじゃないですか。カズサも、きっと地獄でその事をネタにしてスイーツでも貪ってますよ」

「…本当に、申し訳ありません」

 

「なんでナチュラルにあいつ地獄に行ったことにされてるの?」

「う〜ん…強いて言えば私の妹を殺したことを共犯だって言ってたらしいからアリス共々地獄に落ちる的な感じかな…まあでもアリスが地獄に落ちるなら私が先に行って住みやすい地獄に変えてくるけどね」

「お姉ちゃん根性極まってるわね…」

「流石アリスのお姉ちゃんね。私も負けてられないわ」

「あんたも張り合うな!」

 

墓場にも関わらずいつも通りの喧騒を響かせる一同。

しかしフウカはああ言ったが、キキョウもアズサもこんな騒がしい日常を望んでいたのかもしれないと思えば、これも悪くないのかもしれない。

何せ、一癖も二癖もある者が集まってはいたが…真に心の底から嫌い合っていた者はいないのだから。

 

 

それはそれとして関係ない人達のお墓もあるわけで、騒いでいた所をお墓の管理人に見つかりこってりと叱られたのは別のお話。

 

 

 

フウカとマシロと別れてから次に訪れたのは百鬼夜行結界(コロニー)の内部。

その中はどんな戦いがあったのか、地面が大きく隆起したような台地や尽くが焼け落ちた家屋が広がる地獄のような有様になっている。

そんな荒廃した結界(コロニー)の中で、今も一体、また一体と特異体を鎮めて回っているマコトを見つけてアオイが呼び止めた。

 

「精が出るわね、マコト」

「あ?なんだ、アオイじゃないか…と、天童アリスか。そっちのは?」

「お姉ちゃんだよ!」

「誰のだ!?」

「うわーん!遂にモモイが主語を飛ばし始めました!」

「私のシスター達よ」

「やめてくださいアオイ余計拗れます!」

 

いよいよふざけだした2人に思わずツッコミに回るアリス。

ギャグでもやってるのかと思う程に滅茶苦茶な紹介に混乱するマコトだったが、何とかアリスからの丁寧な説明が入って状況を把握すると休憩も兼ねて適当な瓦礫に腰掛け、足を組んでアリス達を見下ろした。

 

「それで、このマコト様に会いに来たということは余程の案件なのだろう?小鳥遊ホシノが復活したという話は聞いた、Keyのこともな…つまり!今貴様らが私に頼みたいことというのはKeyとの決戦に参加して欲しいと…!」

「いえ、普通に挨拶に来ただけです」

「なん...だと…?」

「ふざけてないでしゃんとなさい」

「先にふざけたのは貴様らだろうが」

「それはそれとして、マコトも随分雰囲気が変わりましたね?」

「む…まあな」

 

アリスは以前までの自分の風格をひけらかすような髪を下ろして広げていたスタイルから一変、今の後ろでひとまとめにしたマコトの髪型に興味を持つ。

百鬼夜行自治区結界(コロニー)に乗り込む前のゲヘナに赴いた時の出来事以来このスタイルを取るようになったマコトとしてはそれを掘り起こされるのはあまりいい気分では無いが、モモイとアオイからの無言の圧力に押されて渋々事の経緯を話すことに。

 

 

「…それで、まあ力を誇示する相手もいなくなったというだけだ。先程はああ言ったが、正直私はKeyに挑むつもりは無い。今はただ…イブキに会いたいんだ。だがそれは、仲間も見捨ててこれまでの責任を投げ出すようで、とんでもなく卑怯じゃないか…」

「マコトが卑怯なのは今に始まったことではありません!アリス、交流会の時に袋叩きにされそうになったことを覚えています!」

「フォローのつもりで言ってるのなら相当性格悪いな貴様!?」

「アリスはそういうとこあるよね」

「分かるわ」

「ええい!仮にも姉妹を名乗るなら貴様らが始末を付けろパチモンシスターズ!」

「ゲームのタイトルみたいな語感ですねパチモンシスターズ」

「略してパチモン?」

「それは略せてるのか!?」

 

扱いを心得たとばかりに好き放題するアリス達に、ツッコミが追いつかなくなり肩で息をするように呼吸を荒くするマコト。

アオイはそんなマコトの肩にポンと手を置くと、落ち着いた声色でそれを諭した。

 

「ほら、マコトにシリアスは似合わないのよ。やっぱりあなたにはオチ要因ぐらいのキャラが丁度いいわ」

「結局馬鹿にしてるな?要件がそれだけならさっさと帰れ馬鹿共!」

 

額に青筋を浮かべ銃を乱射するマコトに、アリス達は大袈裟に頭を抱えて逃げるように走り去って行った。

残されたマコトは深くため息を着くとゆっくりと銃を降ろし、1人とぼとぼと歩いて結界(コロニー)を出ると、既に誰も居なくなっている墓地へと向かった。

 

「…悔しいなぁ」

 

仲間の名前の刻まれた墓を見て誰にでもなく呟いたマコトは、残酷なまでに照りつける11月の日差しに目を細めるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら、もう帰るの?」

「はい!久しぶりに皆と会えて楽しかったです!」

 

一通り面識のある百鬼夜行支部の面々に挨拶を交わしたアリスは、そろそろS.C.H.A.L.Eに戻ろうという旨をアオイに伝えていた。

それを聞いて名残惜しそうにするアオイだったが、流石というべきか直ぐに切り替えて笑ってアリスを見送ろうとする。

 

「安心なさい、シスター。私があなたを1人になんてさせないわ。Keyとの決戦、私もあなたの隣で…!」

「駄目に決まっているでしょう。片腕のない人を死地に送り出すほど特異現象捜査部はイカれてませんよ」

 

と、そんなアオイにどこからともなく現れたカホが釘を刺す。

当然不満そうに反論しようとするアオイだったが、それよりも先にアリスは両手を広げるとアオイの首に腕を回して抱き着いた。

 

「…シスター?」

「アオイ、ミレニアムでのこと、ありがとうございました。あの時アオイが来てくれたお陰で、今のアリスがあるんです。それに、馴染みの友達にも会いました。特異現象捜査部で出会った仲間達とも話せました。頼れる先輩も付いています。それに、頼れるお姉ちゃんも」

「…!アリス!もう1回呼んでみて」

「ちょっと後にしてくださいモモイ。アオイ…アリスはもう、大丈夫です。だから、信じてアリスの帰りを待ってください。1人にならないなんてものじゃありません。アリスには…たくさんの仲間がいるんですから」

「…そうね、野暮なことを言ったわ。だからといって大人しく帰りを待つつもりも無いけれど…戦地での花はあなたが飾りなさい、アリス」

「はい、アオイ。後は任せてください」

 

アオイから離れたアリスは、大きく手を振りながらモモイと共にその場を後にする。

姿が見えなくなるまで手を振り続けたアリスの姿を見送ったアオイに、律儀に隣でそれを待っていたカホが声をかける。

 

「…止めた私が言うのもあれですが、良かったのですか?」

「ええ、無理をしているのならあなたを引きずってでもついて行くけれど…その心配は要らないようだからね」

「いやもっと監督官を敬ってください」

 

 

 

 

 

 

 

百鬼夜行自治区を出てそろそろS.C.H.A.L.Eへと戻ろうと帰路に着いたアリスとモモイ。

そんな2人は帰りをアヤネに報告しながら道はD.U.近郊まで差し掛かっていたところ…突如として脇のビルの合間から巨大な特異体が姿を現し襲いかかってきた。

とはいえ今のアリス達に並の特異体が相手になるはずも無く、モモイが露払いをしようと特異体に銃口を向け…モモイが引き金を引くより先にどこかから飛来した弾丸が特異体を蜂の巣にして鎮めてしまう。

 

「うん?誰だろう?」

「む…アヤネさん。今のアリス達がいる辺りをパトロールしてる人っていますか?…あ、そうでしたか」

 

「…お〜?アリスとモモイじゃん。そういえば出払ってるって聞いたっけ。今帰り?」

 

射撃してきた方向からぴょんぴょんと瓦礫の上を身軽に飛び跳ねてやってきたのは、S.C.H.A.L.E所属の特異現象捜査部の監督官…フブキだった。

さらに、それを追って走ってきたペロロ…もといその中身であるサオリの姿もあった。

 

「フブキさんと…サオリ、この辺に来てたんですね。アリス達は百鬼夜行に行った帰りです」

「そうか。てっきりまだ逃げ遅れた一般人がいたのかと思ったが…なんにせよ無事で良かった」

「ふん、別にあなた達の助けがなくても問題なかったけどね」

「まあそうだろうな。出しゃばった真似をした」

「う…そんな素直に謝られると居心地悪いんだけど…」

「あははっ、サオリは堅物だから真面目に相手しないとこっちがいたたまれなくなるよ〜?」

 

まともにサオリと絡むのが初めてなモモイはその生真面目さに思わず面食らう。

そんなモモイを差し置いて、サオリとフブキに挨拶をしたアリスは周囲を見渡し特に問題がないことを確認すると、2人も一緒に帰らないかと誘った。

それをフブキが食い気味に了承し、4人でS.C.H.A.L.Eへと戻ることに。

 

「いやぁ、さっきの特異体がたまたま撃ち漏らしてた奴で他にこの辺りに特異体が居なかったから暇だったんだよね〜」

「フブキ先輩の簡易領域術を学びたかったが、見ただけであれは真似出来んな」

「ふふん、サボる為に鍛え続けた私の気配察知能力が絡んだ技だからね。そう簡単に追いつかれちゃ監督官としても立つ瀬がないってものだよ」

「簡易領域術?なんのことですか?」

「サボる?」

「あ〜…いやなんでもないよ。にしても、アリスと会うのは久々かな。正直前まではKeyがいたから怖かったけど、今のアリスとならようやくまともに話せそうだよ」

「ちょっと、アリスに変なこと言わないでよ。これで結構繊細なんだから傷付いちゃうでしょ」

「あはは…大丈夫ですよ、モモイ。怖がられるのは当然のことですから」

「ん〜…サオリといい、なんでこうも皆そんなに直ぐ謝るかな…まあいいや。ドーナツ食べる?」

「はい!食べます!」

「良いの?ラッキ〜」

 

お詫びの代わりにフブキはいつも携帯しているドーナツを1つずつアリスとモモイ…ついでにサオリに振る舞う。

歩きながらそれを食べつつ、雑談の話題としてフブキは連邦生徒会の現状についてを語った。

 

曰く、マコトからの報告で大部分がマルクトの支配下にあるということが分かった連邦生徒会。

まともな役員も既に始末され、完全に傀儡となった今の連邦生徒会に対してホシノがクロコにも声をかけて何かしらのアクションを起こそうとしているのだとか。

 

「特級2人が結託して悪巧みしてるんだよ?怖くない?」

「連邦生徒会…そういえばリン行政官は大丈夫でしょうか?あの人に何かあればアオイが発狂してるので多分無事だとは思いますが…」

「うん?リン行政官か…確かカヤ防衛室長が立場を追われた時ぐらいに辞任してたし、マルクトの干渉は避けられたんじゃないかな?多分その後はハイランダーの知り合いを頼って住民の避難に協力した後キヴォトスを出たって噂も聞いたよ」

「あ、辞めてたんですか…でしたらアリスの知らない所で1回ぐらいは発狂してそうですね」

 

何処ぞのハイセンスミミトガリがくしゃみをしてるのは置いといて、その光景を見たかった気がしないでもないと半ば畜生なことを考えるアリス。

そんな邪気を感じ取ってチョップを入れたモモイは、ふと気になったことをサオリに聞いた。

 

「ねえ、サオリさんだっけ…あなたってミレニアムの時にあのキモイ着ぐるみの中に入ってた人なんだよね?」

「キモイ…だと…」

「あ、ごめん…えっと、あれって戦闘用のスーツ的なあれなの?今とか持ち運んだりしてる?」

「…あれは今の私には不要な物だ。もう私は私としてやって行ける。一皮剥けたのはお前だけじゃないぞ、アリス」

「…はい。サオリも、一緒に頑張りましょう!」

 

「いや〜良いねぇ、青いなぁ。私も高等部の間にもっと青春楽しんどけば良かったよ」

「…ホシノさんの時も思ったけど、フブキさんとかもそのタッパで実年齢どうなって」

「殺すよ」

「うわぁ!?どストレートな殺意向けられた!?」

「はっ!?ド級のストレート…!」

「やめなよアリス!キヴォトスではド級構文は恥ずかしことなんだよ!」

「なんの話なんだ…?」

「教育に悪いからサオリは知らないままでいいよ」

 

勝手に有害図書に指定された再チャレンジ本はともかく、何気ない世間話や今のキヴォトスの情勢を交えながら帰路に着いていた一同は程なくして無事S.C.H.A.L.Eへと辿り着く。

と、あの時出迎えたのとは逆にホシノが玄関口の前に立ってアリス達を待っているのが見えた。

 

「やあやあ、お帰り。カンナちゃんなら寮に住んで貰ってるから後で会いに行きなよ。それで、アリスちゃん。何か実るものはあったかな?」

「はい、お陰様で今のアリスは無敵です!普段の2倍は強いです!」

「ならそれをもっとも〜っと引き上げられるように、ビシバシ鍛えてあげるよ。クロコちゃん達とも特訓の約束したって聞いたし…あ、勿論講師はフブキちゃんにも手伝ってもらうよ」

「ええ!?なんで私が…!?」

「フブキちゃんだってそれなりに強いでしょ〜?今度シュンさんも帰ってくるし、皆で強化合宿と行くとしようか。あ、モモイちゃんも参加する?」

 

「勿論!アリスのお姉ちゃんに相応しいのは私だって見せつけてあげるんだから!せいぜい応援席から見てろって言ってやる!」

「ごめんなんの話?」

「あはは…」

 

未だにアオイに対して対抗心を燃やしているらしいモモイに苦笑したアリスは、この2日間の挨拶回りで得たものを通してKeyとの決戦に向けた心持ちを新たに、できることを積み上げて行こうと決意したのだった。

 

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