ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作222話までの範囲でお送りします


予兆

 

 

「申し訳ありません、女王。どれほど探しても最後の1つを見つけることは叶いませんでした。如何様にも罰は受けます」

 

キヴォトスのどこかにある薄暗い室内。

無名の司祭はホシノが提案した期日までの間にキヴォトス各地に散らばるKeyの機器部品(モジュール)を集めて回っていたが、どれほど目を血眼にして探し回っても20個目の機器部品(モジュール)を見つけられないことをKeyに謝罪した。

それを、マルクトを相手にゲーム画面に集中したままKeyは特に気にする様子もなく首を振る。

 

「構いませんよ。どうせ最後の1つは小鳥遊ホシノが持っているのでしょう」

「…!左様でしたか…それは…」

「まあ恐らくですがね。小鳥遊ホシノは小娘の死刑を延期する為に『Keyの機器部品(モジュール)を全て取り込ませてから』という条件を連邦生徒会に出していました。ですがあの女が何もせず待つとは思えない」

「つまり…既に女王の機器部品(モジュール)を1つ手中に収め天童アリスの死刑を実質的に無かったことにしていたと…?」

「そもそも私達にもわざわざ準備時間を与えたのですから、機器部品(モジュール)を集められるのは想定内のはず。その上で私に勝てると踏んだのでしょう…舐められたものですね」

 

(…小鳥遊ホシノめ…1度ならず2度までも我に恥を…クソ、あの時受けたダメージがまだ恐怖でも回復しきれていない…!)

 

あの時ホシノにあっさりと退場させられた無名の司祭はその事を恨み手を固く握りしめる。

それとは別にホシノの慢心にKeyは目を細め、コントローラーを操作する指の動きが鋭くなる。

それは結果として画面の奥でマルクトの操作するキャラクターに八つ当たりするようにK.O.を決め、隣で頬を膨らませるマルクトに勝ち誇ったようにドヤ顔を浮かべた。

 

「むぅ…容赦ないなぁ。そもそも君と私じゃ演算機能の時点でスペックが段違いなのに」

「フン、当然です」

「…ねえ、Key。実は天童アリスの中で結構満喫して…」

「そんな訳ないでしょう殺しますよ?」

「あ、うん」

 

暇つぶしにこうしてビデオゲームでKeyと対戦していたマルクトだが、演算能力のスペックを抜きにしても初めてとは思えないその操作の上手さにもしやと思うが、食い気味に否定されてこれ以上深堀りしてはいけないと悟る。

そんなマルクトの気遣いも他所にもう1戦をせがんで相手してもらうKeyは片手で器用にコントローラーを動かしながら無名の司祭が集めた機器部品(モジュール)を一つ一つ取り込んでいった。

 

「はむ…んくっ…ふう。それに、機器部品(モジュール)一つ分程度ならば()()で補完出来ますので、気に負う必要はありませんよ」

 

そう言ってKeyは部屋の端っこに横たえられていた少女の肉体を見る。

その容姿をじっくりと見つめたKeyはフッと鼻で笑うと、ひらりと手を振ってその少女の肉体を光の粒子に分解し、自分の内へと取り込んだ。

 

「まったく、皮肉のつもりですか?わざわざ似せてあれを作るなど趣味の悪い」

「見た目だけは良いんだから別によくない?…って、本当に強いね〜」

 

Keyからの嫌味に飄々と答えたマルクトだったが、それに苛立ったKeyが両手を使い始めて画面内であっさりとマルクトのキャラクターがK.O.される。

やってられないと無名の司祭にコントローラーをパスしたマルクトは、隣に座るKeyを押しやるように横になって自分の肩を揉み始めた。

 

「おい貴様、女王になんたる無礼を…そもそも死滅回遊の泳者(プレイヤー)を殲滅するのではなかったのか?こんな場所で油を売っている暇があるのならさっさと去ね」

「仕方ないでしょー?決戦までの間にKeyから離れたら私小鳥遊ホシノに殺されちゃうよ。まあ勝手に死んでる連中もいるけどね」

「?」

「ん〜とねぇ…コガネ、死滅回遊の泳者(プレイヤー)でありながら開始から一度も結界(コロニー)に入場せず秘儀を剥奪されて死んだ泳者(プレイヤー)を表示して」

 

『あいよ!』

 

何事かと首を傾げた無名の司祭に、マルクトは少し不機嫌そうな声色でコガネにそう指示を出してみせる。

了承したコガネはモニターを映し出し…そこには総数61名の文字と死んだ泳者(プレイヤー)の名前が表示される。

マルクト自身はそうして表示された泳者(プレイヤー)達には目もくれず、誰にともなく苛立ち混じりに語る。

 

「殺されることを恐れたのか殺すことを恐れたのか…違うね。彼女達にそんな直観的な感情はありはしない。尾刃カンナが追加した総則(ルール)があればどちらも回避出来たんだし。キヴォトスの連中は現実が不変恒常のものだって自ら暗示をかけるんだ。命も生活も常に瀬戸際を流れているのに…誰だって命をかける勇気があるわけじゃない。でも勝手に命をかけられたんだったら行動するしかないでしょ?現実や未来に希望がなくたって死ぬことはいつでも出来るんだから…まずは一歩踏み出す。自分の理想に一歩近づく。その実感を知らないまま死んでいく人を私は心の底から嫌悪するよ」

 

「…キッショ」

「話が長いぞ貴様」

「う〜ん、君も随分図太くなったものだね。一体誰に似たんだか…それに君達には言ってないよ。さてと…ちょっと御手洗に行ってくるね」

 

ぴょんと飛び起きたマルクトは一旦その部屋を後にする。

マルクトの話自体に特に興味はなかったのか、Keyは無名の司祭を誘ってゲームの対戦に付き合わせ始めた。

そんな2人の方を振り返りながら、誰にも聞こえないような声でマルクトはポツンと呟いた。

 

 

 

「君に言ったんだよ、クズノハ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うへ〜…それにしても、私達も遂に3人になっちゃったか〜」

 

S.C.H.A.L.Eの談話室に集まるホシノとセナ、そしてアヤネ。

ホシノにとっては今の交友関係の中では付き合いが長く馴染み深い面子ではあるが、昔に皆で集まっていた頃と比べるとすっかり広く感じるようになった部屋に哀愁を感じていた。

しかし、過去に耽りながら語るホシノにセナが淡々と訂正を入れる。

 

「…半端になっている人がいるでしょう」

「…そうだね。あっちは本当は私が行きたかったけど…全部が終わったらクロコちゃんに改めて感謝しないとだよ。はぁ、しっかし、ヒマリ部長は前から連邦生徒会に目を付けられてるのは知ってたからいつかこうなるんじゃないかって予想はついてたけどユウカちゃんはなんやかんや生き残るタイプだと思ったんだけどな〜…ままならないものだよ」

「すみません…私だけ生き残ってしまって…」

「ん〜?なんでアヤネちゃんが謝るのさ。聞いたよ、ミレニアムの時に大怪我したアヤネちゃんをユウカちゃんが助けたんだってね。生かされた命を無下にするのはユウカちゃんへの侮辱だよ?」

「…そうですよね」

 

ホシノに諭され俯くアヤネ。

そうは言われてもやはりユウカという頼れる人物の死に責任を感じてしまい、その上魑魅一座の件やアコの件で立て続けに多くの仲間を失いアヤネは自分に自信を無くしてしまっている。

それを見兼ねたホシノは肩を竦めると、俯くアヤネの背後にシュバッと回り込むと勢いよくアヤネの背中を叩いた。

 

「ひぃっ!?な、何するんですか!?」

「まだアヤネちゃんには大きな仕事が残ってるでしょ?大変だろうけど…気張りなよ。まだまだ頼りにしてるんだから」

「…分かってます。皆に頼られる限り、頑張るって決めたんですから」

「まったくもう、アヤネちゃんは君が思ってるより凄い子なんだから自信持ちなよ」

 

「…で、ホシノさん。今日はユウカさんの事でセリカさんから話があるそうですよ」

「うん?」

 

セナの紹介と共に青い覆面を片手にもって談話室に入室してきたのは、ミレニアム事変で現世に降ろされた狐坂ワカモによって重症を負わされつい先日まで寝込んでいたユウカのミレニアム支部の後輩、セリカだった。

 

狐坂ワカモとの戦いで潰れた右目を閉じたままにしたセリカは、重く息を吐くとホシノに要件を打ち明けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

S.C.H.A.L.Eに併設された運動場。

そこで激しく鳴り響く銃撃音と戦闘音、それらの発信源であるアリス達を見守りながら、シュンは端末の操作を行っていた。

 

「小鳥遊ホシノとKeyの決戦…大切なのはやはり情報の有無でしょうか?私の秘儀に感謝ですね。お陰で迅速な状況の共有が行えそうです」

「シュン姉さん!これで烏達に精をつけましょう!」

 

周囲に秘儀で操る烏達を侍らせるシュンは特殊な細工を施したカメラを烏達に取り付け、端末から映像の調子を確認すると烏達の餌を持ってきたココナの頭を撫でた。

何が起こるかも分からない死地において、本人が出張るまでもなく高い機動力を持った偵察を送り出せるのは大きなアドバンテージとなる。

とはいえそんな風に扱われる烏達も不憫なものだが…最近秘儀を使うまでもなくなつき始めている烏達にとっては本望なのかもしれない。

 

と、ココナの方に飛んできた流れ弾を咄嗟に掴みあげた銃を盾にして弾いたシュンは、激しく乱闘をしているアリス達の方に肝が冷えるような笑顔で注意を促した。

 

「気を付けてくださいねー!」

 

「は、はい!すみませんでした!」

「ん、アリスってば不注意」

「いや今のはクロコ先輩が撃った弾ですよね!?というかアリスのはレールガン(これ)ですし!」

「きひひひひ!余所見するなぁぁぁ!」

「ひえっ!?」

 

交戦中に呑気に話始めるアリスとクロコに容赦なく飛びかかったツルギは、異常な膂力により着地と同時に強力な衝撃波を発生させて周囲の地盤を捲り上げる。

それをクロコは単純に神秘で強化した腕を振るうことで生じる衝撃で相殺し、アリスはレールガンの銃身を地面に突き立てその後ろに身を隠す事で衝撃波の直撃から逃れる。

 

さらに間を置かずツルギはアリスへと襲いかかるが、アリスは引き抜いたレールガンで大袈裟に地面を叩くことで砂埃を巻き上げ、視界を奪われたツルギに───離れた物陰からモモイがライフルで狙い撃つ。

高圧の血の噴射による推進力を得た弾丸…『生苦』はツルギの首元に直撃するが、弾は皮膚を貫くことなく僅かに食い込むだけで地面に落ち、同時に撃たれた方角からモモイの位置を割り出したツルギがその方向に向かって2丁のショットガンを乱射する。

 

ツルギの暴力的な神秘で強化された弾の威力は生半可なものでは無く、モモイが隠れていた遮蔽物ごとその方向を更地に変えてしまう。

慌てて射線から逃れたモモイだったが、進路に跳んできたクロコによって蹴りが入れられ、アリスの方へと吹っ飛ばされてしまう。

それを受け止めようとするアリスだったが、吹っ飛んできた勢いを止めきれず一緒に吹っ飛ばされてしまい、吹っ飛んだ先に回り込んでいたツルギが2人まとめてショットガンで撃ち落とした。

 

「いてて…」

「うぇぇ…」

 

「ん、このくらいで情けない」

「ふぅ…そんなものじゃ、Keyには太刀打ち出来ないぞ」

 

「はい…次、お願いします!」

「アリスが頑張ってるんだから、私だって負けられないよ!」

 

地面に転がり目を回すアリスとモモイだったが、クロコ達に呼び起こされ立ち上がると続きを志願する。

そんな2人のやる気に小さく笑ったクロコとツルギは特訓を再開しようとするが…そこに、あくびをしながらホシノとフブキがやってきた。

 

「皆やってるね〜、調子どう?」

「あ、ホシノ先輩!それがまだ満足行かなくて…」

「うへ〜、アリスちゃん達も気負いすぎないようにね?保険は用意しておくに越したことはないけど、おじさんが勝てば皆が戦う必要はないんだからさ」

「ホシノせんぱ〜い、それフラグってやつだから。皆頑張ってるんだから素直に応援してあげなよ」

「そういうフブキちゃんもちゃんと付き合ってあげなよ?」

「うぐっ…やればいいんでしょ…じゃあアリスは後で私のとこ来てよ?そんなに教えられることはないと思うけど…」

「はい!よろしくお願いします!」

 

フブキにお礼を言ったアリスは、改めてクロコ達と特訓を再開しようとするも思い出したようにホシノの方に駆けていくと、話があるとベンチの方に2人で話すように誘った。

それを聞いたホシノは全員分のペットボトルのお茶を渡して回って皆に休憩するよう伝え、アリスの誘いを了承して2人っきりでベンチに腰掛ける。

 

「それで…話って何かな、アリスちゃん」

「ヒナの事なんですけど…助けることは、可能でしょうか?」

「…なるほどねぇ。まあ予想してた質問ではあるけど…Keyの存在はキヴォトスにとっての瀬戸際。住民達の外の世界への避難は全然終わってないし、このままKeyを…あとマルクトを放置したらどれだけ多くの人が死ぬかも分からない。幾ら可愛い後輩だからって、何百万何千万の命と天秤が釣り合うわけじゃないんだよ。確実にキヴォトスを救うなら、Keyごと殺すしかない」

「それは、そうですが…でも…!」

「私だって助けたいよ。でも、私にはそんな無責任な事は出来ない。だから…もし委員長ちゃんを助けるなら、アリスちゃん達の手でやるんだよ。負けるつもりなんてないけどさ。それでも、もし私が負けたら…その時は、サブプランぐらいに委員長ちゃんを救える方法を用意しておくと良いかもね。まあ委員長ちゃんを助けつつKeyも葬れる絶好の機会でもあるならおじさんも狙ってみるよ」

「…ありがとうございます。こんなわがままに…」

「いいよいいよ、おじさんだって助けられるものなら助けたいし…」

 

うへ〜と鳴き声を上げて謙遜するホシノだったが、隣を見れば深くお辞儀をするアリスの姿が目につく。

そこまで真剣に向き合われてはふざけていられないと、ホシノはアリスの頭にポンと手を乗せてわしわしとその頭を撫で回した。

されるがままのアリスは気恥ずかしそうに顔を赤くするも、自分を気にかけてくれるホシノに頭を下げたまま誰にも見られないよう嬉しそうに笑顔を浮かべた。

 

「…っと、ここにいたか」

「…?か、カンナ!?いつの間に…」

「お、こんにちは〜カンナちゃん」

 

そこに、上着を肩にかけたカンナがやってくる。

今の状況の恥ずかしさに慌てて取り繕うアリスを他所にホシノは軽く手を振って挨拶を交わす。

会釈でそれに応えたカンナはアリスを見やると、親指で運動場の方を指差した。

 

「私も特訓とやらに参加したいのだが…どうだ?」

「!はい、皆でレベルアップしましょう!クロコ先輩達にも伝えてきます!」

「カンナちゃんの秘儀って確かデフォルトで神秘解放が備わってるんだっけ?ならちょっと特殊な練習をしないとかな。秤ちゃんとか当たりならいい練習になるだろうから後で声掛けとくね」

「…感謝します。私のような部外者を…」

「いいって。せっかく協力してくれたんだから、気楽にやろうよ〜」

「そうです!一度アリスのパーティメンバーになったからには、仲間外れになんてしてあげません!」

「…ありがとう」

 

元々完成されていたコミュニティに後から入ったことで肩身の狭さを感じていたカンナだったが、ホシノやアリスの暖かい言葉に改めて感謝を告げる。

そこに休憩を終えたクロコ達もやって来て、快くカンナを受け入れると全員がそれぞれの役割を果たす為に、今積み上げられるものを積み上げていこうと特訓を再開したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

そんな日の夜のこと、連邦生徒会の本部、サンクトゥムタワーにて。

その内部の薄暗い通路をランプを持って歩くクロコとミノリは、周囲を見回しながら話に興じていた。

 

「ん…言うの?」

「デモ」

「…まあ、今のアリスなら大丈夫かな。そもそもあれはKeyがやった事だし、アリスが負う責任じゃない」

 

ミレニアム事変で一度Keyがアリスの肉体の主導権を得た時のヒナが呼び出した死路虚との戦いで、天変地異と見紛うKeyによる分解に巻き込まれ消滅したミノリの左腕。

その事実はクロコがアリスの抹殺任務に任命されるために連邦生徒会には伝えられたが、諸々の手回しもあってアリス本人には伝わっていなかった。

それは一重にアリスが不要な責任を負わないようにする為であったが…今のアリスならばそれも受け止められると信じてミノリはそれをアリスに伝えることを決意していた。

 

勿論念の為話すのは全てが終わった後になるだろうが…と、クロコは壁越しに射撃を行ってその奥にいた役員を始末すると、丁度向かい側から歩いてきたホシノと鉢合わせた。

 

「いや〜、ごめんね。クロコちゃん、ミノリちゃん。こんな事に付き合わせちゃって…手を汚すならおじさんだけで良いんだけど、おじさんってば強いけど万能って訳じゃないからね。何人取りこぼしちゃってたかな?」

「12人。しっかりして欲しい」

 

薄暗さのせいで分かりにくいが、よく見ればクロコとホシノは所々返り血を浴びているのが分かる。

 

というのも、今回サンクトゥムタワーに乗り込んだホシノ達はマルクトの傀儡と化した連邦生徒会の役員の殲滅に赴いていた。

S.C.H.A.L.E側の同行をこれ以上マルクト達に知られたくないというのが1点、そして全てが済んだ後にキヴォトスを導くのがあの腐敗した連邦生徒会ではいけないと、体制を入れ替える下準備という目的もある。

 

ホシノはともかくクロコにもアウトローではない生徒を殺させミノリもそれに加担した形にはなるが…それが皆の為だと信じているからこそ、それを重く受け止める者はいなかった。

 

「…まああんまり気分がいいものじゃないのは事実だし、後片付けだけしたら帰ろっか。またアリスちゃん達の特訓を手伝ってあげないといけないし」

「ん、ビシバシ鍛える」

「労働!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

────12月24日 D.U.

 

決戦の日、住民の完全な避難が終わった中央区に聳え立つサンクトゥムタワーの連邦生徒会長室の椅子に堂々と腰掛けるKeyは、窓の外のキヴォトスの街並みを見下ろしていた。

人っ子1人街に居ないがらんとした景色は普段の賑わいを知っている者からするとそれはそれで壮観で、Keyも面白そうに外を眺めている。

 

そんなKeyが座る連邦生徒会長用の椅子の前に置かれた執務机に腰掛けるマルクトは、時計を見ると机から降りて外へと向かった。

そんなマルクトにようやく離れられると無名の司祭が鼻を鳴らす。

 

「む…司祭ったらひどーい」

「黙れ、鬱陶しい。この1ヶ月と少しがどれほど貴様が煩わしかったことか…さっさと消えろ」

「だから言ったでしょ?Keyから離れられないんだから仕方ないって…まあ、どの道今日まで動く気はなかったけどね。小鳥遊ホシノが負けたらKeyを倒せるチャンスはその直後しかないわけで、他の特異現象捜査部の連中…特に砂狼クロコを初めとした主戦力は君達から目を離す訳には行かないだろうし。その間は私はフリーで動けるってわけ」

 

「…私が負ける可能性は考えなかったのですか?」

「女王!?」

 

Keyの発した思わぬ言葉に無名の司祭が半ば悲鳴混じりに驚愕の声を上げる。

対して、マルクトはそれを聞いて目を丸くし…直後に吹き出したように笑い始めた。

 

「あっはっはっ!Keyも面白い冗談を言えるようになったものだね!君が負けるようなら私の野望はとうに潰えてるよ。それとも、まさか名も無き神々の女王ともあろう方が勝てる自信がないとでも?」

「それこそまさかです。どうぞ、貴女の好きなようにすると良いでしょう。ただしやるからには私が退屈するような世界は御免ですよ」

「もっちろん…と言いたいところだけど、何が起こるかは私にも分からないけどね。まあ楽しいかは分からないけど荒れるのは間違いないかな〜?」

 

何が面白いのか1人飄々と笑いながら去っていくマルクト。

無名の司祭はしっしっと手を振り、Keyは呆れたように嘆息すると、窓の外の景色…ここからは見えない遥か遠くを見据えて目を暗く輝かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頑張れ?死ぬな?しっくり来ねぇな…」

「今まで勝って当たり前の人だったからな」

「心配しよう、応援しようって気が湧かないよね」

 

遂にKeyとの決戦を迎えた当日。

恐らくキヴォトスの歴史上最大の戦いとなるだろう死地に赴くホシノに、なんと声をかけて送り出そうかとS.C.H.A.L.Eに集まっていた面々…S.C.H.A.L.E所属の2年や3年連中は唸っていた。

なんせ送り出すのは最強、小鳥遊ホシノなのだ。

勝つことが当然のホシノにとってはどんな応援もホシノへの侮りに思えてしまうのだから逆に言葉が浮かんでこないのがままならない。

 

「ん…でもきっと何でも喜んでくれる」

「ストライキ」

「『当たり前でしょ〜?』とか言われたらKeyの前にぶん殴っちまいそうだ…あ」

 

そうしてS.C.H.A.L.Eの玄関口にたむろしていた一同の前に、リオとカホ、ネルを伴ったホシノがやってくる。

知らぬ間に特徴的だった桃色の長い髪は短く切り揃えられ、獲物を前にした猛禽類のような鋭い目にはいつものおちゃらけた雰囲気やふざけた様子は一切なく、殆どの者が見たことの無い小鳥遊ホシノの”真剣”そのもの。

 

ただ、セナやシュン等の昔のホシノを知る者はその容姿や雰囲気に懐かしいものを覚えていた。

 

ユメの形見である変形式の盾は既に展開された状態で背中に背負っており、愛用のショットガンは余程入念にメンテナンスをしたのか新品同然に整えられている。

一同は自然に左右に避けて道を空け、ホシノ達はその道を通ってS.C.H.A.L.Eの外に出ようと歩む。

 

すると───

 

 

 

 

 

「ホシノ先輩!盾邪魔です!」

 

「…!ふふっ…ばっちこーい!」

 

人垣を超えて身を乗り出して駆け寄ってきたアリスに、ホシノはかつての青春時代の時のような穏やかな笑みを浮かべると、背負っていた盾を降ろして背中をアリスへと向けた。

アリスは助走の勢いでそんなホシノの背中を思いっきり叩き、良い音を響かせながら喝を入れる。

 

そんなアリスの明るさに緊張感が緩まった生徒達は、それに続いて次々と横を通り過ぎるホシノの背中を叩いていく。

 

 

 

「行ってこい!クソバカピンク!」

 

レンゲがぐるぐると腕を振り回し勢いをつけて背中に叩きつけ…

 

 

 

「愛嬌だけの先輩じゃないって証明してよ?」

 

アツコが慈母のような微笑みから毒舌と共に背中を叩き…

 

 

 

「また色んなことを教えてください…!」

 

ノドカが控えめにペチンと背中を叩き…

 

 

 

「デモ!」

 

ミノリがいつもの語彙で雑に背中をげしっ、と蹴り…

 

 

 

「任せたぞ、ホシノ先輩」

 

サオリがシンプルかつ、爽やかな言葉と共に背中を叩き…

 

 

 

「ん、しんどかったら代わってあげる」

 

クロコがホシノを気遣う余裕を見せつつ信頼と共に背中を叩き…

 

 

 

ホシノに付き添うリオやカホ、ネルはやれやれと苦笑する。

今回の作戦に携わる一同が見守る中、そんな皆が作った人の道を抜けたホシノの背中に、最後にアリスが大声で声を掛けた。

 

 

 

「勝ってください!ホシノ先輩!」

 

 

 

 

 

 

 

「うん、おじさんに任せなよ」

 

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