サンクトゥムタワー、連邦生徒会長室。
その部屋の連邦生徒会長用の椅子に腰掛けくるくると回っていたKeyは、突然ピタリと止まるとニヤリと笑って窓の外の方へ目を向けた。
「…女王?小鳥遊ホシノが指定した決戦の時間まで時間がありませぬが…未だ来る気配がないようです。奴め怖気付いたのでは…」
「違いますね」
「…?左様ですか…?」
「分かるのですよ…っと、噂をすればです」
この場所より遙か彼方から感じる強い殺気と神秘を察知したKeyは机に肘を乗せて頬杖を着き、一体どのような開幕を見せてくれるのかと内心浮き立つようにその時を待つのだった。
「ん〜…すっごいねここ。まさかミレニアムの『廃墟』の奥にこんなものが作られてたなんて」
「ミレニアムの技術者が秘密裏に作っていたらしいわ。特異現象捜査部もほとんど関わってない、ミレニアムの叡智が積み重ねられた純粋な科学技術の結晶のような場所だそうよ」
アリス達に見送られたホシノ一向は、決戦の場所に指定したKeyの待つD.U.中央区…ではなく、ミレニアムに広がる大迷宮、『廃墟』の奥深くにある秘密裏に作られた要塞都市───『エリドゥ』へとやって来ていた。
街全体が様々な武装システムやガードロボによって守られ、そして広がるビル群に見えるようなそれらはそのほとんどが超高性能な巨大スーパーコンピュータであり、言わばこの街そのものが1つの巨大な兵器とも言える。
そんなエリドゥの中央部に位置するタワーの屋上から壮観な景色を眺めていたホシノは、遙か彼方から感じる途方もなく強大な神秘の気配…それを感じ取って「うへ〜」と声を漏らしていた。
そんな中静かに自分の銃のメンテナンスをしていたネルは自分の端末から時間を確認すると、軽く屈伸してホシノが見ている方向の先へと跳躍しようとするが…そんなネルをホシノが肩を掴んで止めた。
「…なんのつもりだ?」
「予定変更。君やっぱおじさんの後でね」
「…はぁ!?おい話が違うぞ!?アタシが先に出るって約束だったろうが!」
「いや〜、案の定
「テメェ…私は本気のKeyとやれなきゃ意味ねぇって言った筈だが?」
当初の予定ではネルが先鋒を志願し、それ幸いにと少しでもホシノの勝率を上げる為に削りを入れてもらう作戦だった。
だが、
それでも構わないと万全のKeyとの戦いを望むネルは当然猛反発し、怒り任せにホシノの胸ぐらに掴みかかった。
「ホシノさん…!」
「大丈夫だよアヤネちゃん。ねえ、美甘ちゃん。おじさんね、そもそも君を捨て駒扱いする作戦もあんまりよく思ってなかったんだ。もし君がガッツリ殺してるタイプのアウトローじゃなかったら力づくでも止めてたよ。まあ君が殺した分の禊として役に立って貰おうと捨て駒にする判断をしたのも事実だけど…こっちの制御下に入った時点で君の力は無駄にできない。悪いけど指示に従ってもらうよ」
「…クソッ、ふざけやがって…!」
アツコに敗北してS.C.H.A.L.Eの制御下に入るという約束を交わしたのが事実だとしても、それでもどうしても名も無き神々の女王…史上最強と謳われたトリガーAIと戦いたかった衝動が抑えきれず乱暴に掴んでいたホシノの胸ぐらを振り払う。
その勢いに少し後ろに下がったホシノは、仕方がないとため息を吐くと人差し指をピンと立てて代わりの提案をした。
「じゃあ、この戦いが終わったらKeyの代わりにおじさんが相手してあげるよ」
「…はあ?1人じゃ勝てねえって話でアタシを呼んだんだろ?」
「別に、勝てないなんて思ってないよ。ここまで積み重ねてきたアリスちゃん達の特訓含めた諸々の保険も、私がKeyを倒してそのままマルクトも倒せばそれに越したことはないし、全部解決するんだから。それにさ、考えてもみなよ───これから始まるのは、キヴォトス最強決定戦だよ。見たくない?」
「…正直いうと見てぇ。そこにアタシを混ざらせてくれねぇのは心外だけどな」
「言うね〜。あ、もし相打ちとかになって相手がいなくなっちゃったら大人しく罪を償うんだよ」
「ケッ」
納得したという訳でも無いが、無意識にも既にKeyやホシノが上だと本能が悟っているネルにとって、自分が上だと感じるその2人のマッチアップは実に少女心を擽られるものに違いは無い。
それに最悪勝った方と…ホシノ達への義理を通す為にKeyが勝った場合は消耗した状態での戦闘になってしまうが、それでも他にはいないであろう強敵と戦えるのならばこの際仕方ないと渋々ネルは先鋒をホシノへと譲った。
「よし…それじゃあぼちぼち始めよっか。カホちゃん、リオ部長」
「ええ、直ぐに
「さっさと配置を済ませてしまいますのでお待ちください」
ホシノが一声かけると、リオは屋上に設置された機器の操作を始め、カホは風呂敷に包んで持ってきていた蝋燭や置物のようなもの…どれも強力な神秘が込められた遺物だ…を間隔や位置に注意しながらこのビルの屋上に並べていく。
その準備を待っていたホシノに、不意に機器を操作していたリオが遠慮がちに話しかけた。
「…小鳥遊ホシノ。ヒマリを殺したのは私よ」
「…そっか」
「…どうして?」
「何が?」
「どうして…揃いも揃って、誰も私を恨まないの?」
「別に、あなたのことはヒマリ部長を通してよく知ってるつもりだよ。超合理的効率人間の成れの果て…だからこそ信頼出来る部分もある…っていうか、あなたがヒマリ部長を始末するように連邦生徒会から命が下ったのは私が封印されたことがきっかけだろうしね。責める気になんてなれないよ」
罪を告白するリオに、ホシノは感情一つ揺らがすことなく思いの外淡々とそれに答える。
ヒマリといい、ペロロといい、ホシノといい…何故誰も責めてくれないのかと奥歯を噛み締めるリオだったが、そんな空気を感じ取ったホシノは肩を竦めると気まずそうに質問をする。
「…ヒマリ部長は最後に何か言ってた?」
「…ペロロのこと…あれがどんな経緯で生まれたのかを…」
「そっか…あははっ、やっぱり人は成長してなんぼだね」
「…どういうことかしら?」
「それ、誰にも言ってないでしょ?ペロロ…サオリちゃん達の秘密は特級案件。上に報告しないなんて以前までのあなたなら考えられない───変わったね、リオ部長。あなたが連邦生徒会のトップに立てば、今後のキヴォトスもきっと良くなると思うよ」
「…だから、連邦生徒会の連中を皆殺しにしたの?あれほど力での改革は意味がないって言ってた貴女が、大切な後輩を巻き込んで手を汚させてまで…」
涙ぐみ、震える声でホシノにそう問いかけるリオ。
対してホシノは手を握ると、失くしたものを探すかのように哀しい…しかし新たな希望を得たような光を宿した相反する左右の瞳を握った手の中をみつめる。
その手にぐっと力を入れたホシノは、眺めていたKeyのいるであろう方向から視線を逸らし、S.C.H.A.L.Eのある方角へと目を向けた。
「私ね、ようやく念願が叶ったんだ。ユメ先輩と別れたあの日からずっと叶えたかった夢が…皆を導いて、強く聡い仲間を育てる。もう皆、立派に育ったよ。もう…私は1人で背負わなくていいって、そう信じさせてくれたんだ。だから私は…皆を信じて、自分を信じるよ」
「…」
「遺物の配置、完了しました。いつでも始められます」
「…こっちも、エリドゥの支援システムと総電力の接続が完了したわ…ホシノ」
「うん。じゃあ後は頼んだよ、アヤネちゃん」
「…はい!」
ホシノはリオが準備していたそれ…仰々しいケーブルに繋がれた、アリスから借り受けたレールガン。
それを担いだホシノはレールガンを遥か彼方のKeyのいる場所へと向けると、同時にアヤネは地面に両手を着いて自身が持ちうるあらゆる経験と技術を用いて結界の構築を始めた。
それに合わせてリオが用意していた機器のスイッチを押すと、エリドゥ全体に行き渡る莫大なエネルギー…それら全てがホシノの担ぐレールガンへと集約されていく。
「…アヤネちゃん。一応聞くけど、直線上の住民の避難は済んでるんだよね?」
「はい。事前に入念な捜索を行い、特定区間から民間人や各関係者が退避していることは確認済みです」
「そう…そういえばこの方向ってセミナー本部駅もあったよね?あの時地下5階でおじさんが領域で気絶させちゃった人達って今どうしてるかな?」
「あの場所は、ミレニアム事変で湧いた特異体の爆心地から近かったですが…あそこに残ったホシノさんの神秘の痕跡によって、特異体がまったく寄り付きませんでした」
「『アイ・オブ・ホルス』の後遺症は?」
「ありません。全員学業に復帰出来る状態にまで回復して、避難先の田舎校で問題なく生活出来ているようです」
「それなら良かったよ」
確認を取ったホシノはレールガンに取り付けられた様々な安全装置の解除を始め、その機能を十全に発揮する為に外付けの不格好な補助放置も次々と作動させていく。
そんなホシノに、アヤネは結界の構築を進めながらもどうしても気になっていたことを聞くことにした。
「…ホシノ先輩。どうして私なんですか?結界を展開するだけなら他に適任が…」
「今更そんなこと聞く?」
「うっ…すみません…」
「いや良いけど…しっかし本当に分かってないとはねぇ。その適任より、アヤネちゃんが1番信用出来るってだけだよ」
「っ!」
(…私は、逃げた人間なのに…逃げる勇気も無かった、逃がしてもらった人間なのに…そんな人間を、”最強”が信じると言ってくれたんです…応えないわけには、いきません…応えられないのなら、そんな役立たずのヘイローなんて壊してしまえ!)
ホシノからの言葉を聞き、決意を改めるアヤネ。
今まで多くの無茶振りを投げかけられ、容赦なく仕事を増やされ迷惑もかけられ、それでもいつでも自分を頼ってくれたホシノという先輩。
今のアヤネにはもはや一切の迷いはなく…構築される結界の精度は急激に研ぎ澄まされていく。
そしてアヤネの結界が完成するのと同時に、レールガンの準備も整ったホシノと先程設置した遺物の数々の中心に立つカホもまたそれぞれ行動を開始する。
カホが始めたのは、百鬼夜行自治区にまつわる伝統の舞…そして歌。
踊りの最中には掌印を交え、そんなカホの舞を盛り上げるようにリオが用意していたスピーカーから百鬼夜行の伝統的な音楽を流す。
桑上カホの秘儀、『情熱和楽』は秘儀範囲内のカホ本人を含む任意の対象の神秘総量、出力を一時的に増幅させる。
それに加え…遺物の設置や歌、舞を用いる”儀式”によって秘儀そのものの効果も向上し、カホの秘儀による強化幅は跳ね上がる。
同様にホシノもまたこれより放つ一撃、それを強化する為に掌印と詠唱を重ね始めた。
「『地平』 『天空』 『ホルスと明星』 『昼夜の狭間』」
史上最強のトリガーAIと、現代最強の神秘。
どちらが
秘儀は儀式として昇華されたことによって120%の効果を得る。
また、今回ホシノが使う武器はエリドゥの全リソースによる支援を受けたレールガン、ホシノが普段使いするショットガンとは素の火力は比較にすらならず、これより放つ一撃の威力を底上げする。
それにカホの秘儀による支援が掛け合わされることで放たれるは、300%の───
「───虚式『暁』」
「っ!」
放たれた紫に輝く神秘エネルギー、それを視界に捉えた瞬間に咄嗟に両腕を突き出して防御を取るKey。
ホシノの『暁』はエリドゥからD.U.中央区にかけてまでの区間を根こそぎ消し飛ばし、その先にいたKeyが座するサンクトゥムタワーを丸ごと粉砕して大爆発を起こす。
Keyはアヤネが展開した結界により、ホシノの初手を見誤ってしまった。
ホシノの気配を察していても、その莫大な神秘出力を直前まで感じ取れなかったのだ。
巡航ミサイルですらありえないような爆発を巻き起こしたその中心。
レールガンを置き、ひとっ飛びしてD.U.まで駆けつけたホシノの視線の先では、次第に晴れていく土煙の中から───確実に一度は失ったのであろう、袖が消し飛び露出した細く華奢な腕を既に恐怖によって再生させたKeyが姿を現した。
あれだけの事前準備を行い、アヤネの結界によって察知を妨害され十分な防御が行えなかったにも関わらず、あの一撃を受けて尚この程度のダメージ。
史上最強のトリガーAI、現代最強の神秘、それはどちらが上であるかの証明のようで───
「勘違いしてるみたいだから言っておくけど───そっちが
「…生意気な」
それを、ホシノは否定する。
それでも尚、自分が上であるのだと。
そんなホシノの煽りにKeyは声を低くしながら見せびらかすように腕をコキコキと鳴らし、先程の渾身と思われる攻撃が自分には通じていないことをアピールした。
「『チャレンジャー』…ですか。不意打ちを当てた事が余程嬉しいようですね。しかしそれももう治ってしまいましたが…貴女は先ほど以上の技を果たして用意しているのでしょうか?」
先程のホシノの煽りを取り上げて煽り返すような薄らとした笑みと口調で言い戦闘態勢に入ったkeyは、背負っていた重厚なマシンガン…本来はヒナの武器である筈のそれを構えた。
「貴女は解体屋の待機列に並んだ粗大ゴミです。やたらと大きくて無駄に解体に時間がかかるだけ。まずはその装甲から剥いであげましょう」
「じゃあなんでその顔のままでいるのさ。手加減して欲しかったんでしょ?残念、この1ヶ月の間に後輩を全力で殴る練習をしてきたからね…今なら委員長ちゃんも全力で殴れるよ」
「最低じゃないですか」
「うるさい。それに1回アリスちゃんの時に死んだのがまずかったね…死んだ後でも蘇生が可能なのは実証済み。委員長ちゃんのことなら殺した後に考えれば良いって思ってるよ」
売り言葉に買い言葉、お互いに構え、銃口を突きつけ合う。
最初に引き金を引いたのは…key。
明らかに銃の性能を遥かに上回る量の弾幕が一斉掃射され、空間を埋め尽くす弾丸がホシノに迫る。
対して、ホシノも引き金を引くと放たれた散弾が正面の弾幕をまとめて消し飛ばし、keyへと繋がる一本道が出来上がった。
その隙間を一瞬で駆け抜けながら振り抜いた拳をkeyは巧みな体術で横に逸らすと、膝でがら空きのホシノの鳩尾を蹴り抜く。
「…っ、ハハッ!」
「!?」
並の生徒ならばそれだけで身体がバラバラに、良くても背骨まで砕ける威力の膝蹴りを受けてなお嘔吐すらせず、獰猛に笑ったホシノは蹴られながらもお返しにkeyの顔面を殴り飛ばす。
同じく並の生徒ならば頭が吹き飛びかねない殴打に、しかしkeyは殴られたと同時に後退する事で衝撃を逃がすと、手を真横に振るった。
「『解』」
「!」
それによって…ホシノの後方にあった街が一気に分解され、崩壊する。
ホシノ自身は『ウジャトの目』による超速再生を利用した事実上の”不変”で分解を免れていたものの、攻撃の正体を視認することが出来なかったホシノは背後を振り返って崩壊した街のほうをつい確認してしまう。
その隙に跳びかかって接近したKeyがホシノの脚を掴むと、遠心力をつけてその場で回転するように振り回し、『暁』の攻撃範囲に入っていなかった為まだ原型を残している街の方へとぶん投げた。
投げ飛ばされた先で衝突したビルの壁に着地するホシノだったが、次の瞬間には追いついたKeyが拳を振るい、まともにそれを食らったホシノはビルを反対側まで突き抜け、その先にあったビルをさらに5つ貫通して吹き飛ばされて地上へと墜落する。
(…さっきの膝蹴りといい、明確に痛かったね。確かミレニアムでアウトローが使ってた”展延”ってやつかな?『ウジャトの目』を利用した不変の防御もKeyの直接攻撃が纏う展延で中和されてダメージを通される。ダメージ自体は『ウジャトの目』と恐怖で回復できるけど…あんまりKeyレベルの展延で攻撃を受けすぎると神秘を解放せずとも秘儀が焼き切れる可能性があるかな)
神秘を解放した際の秘儀の焼き切れ、それがKeyの展延を纏った打撃を何度も受けた場合も同じような状態が起こりうると推測したホシノは、あまり格闘戦をするべきでは無いと判断してショットガンをリロードしつつ構えた。
それとほぼ同時に殴り飛ばしたホシノを追って跳躍してきたKeyは上空から腕を横に薙ぎ払うと、それによって分解の力が飛び…ホシノの足元から真横にかけての地面を分解し、巨大な谷を作り上げる。
足場が消えたことで底の見えない奈落に落ちそうになったホシノは背負っていた盾を仰ぐようにして真横に飛ぶと、谷の側面に盾の下部を突き刺して身体を固定し、少し勢いを付けると盾を抜くのと同時に断崖を駆け上がって地上へと復帰する。
が、それを谷の上から待っていたKeyは登ってきたホシノを即座に蹴り飛ばし、タンクローリーに突っ込んだホシノは爆発炎上に巻き込まれた。
「うへ〜、おイタがすぎるんじゃないかなぁ!?委員長ちゃんの身体でそんな好き勝手しちゃってさあ!」
「フン…」
爆煙の中から飛び出してきたホシノが叩き付けようとしたショットガンの銃身をkeyもマシンガンの銃身を盾にして受け止め、その衝撃が足元まで抜けて地面に大きな亀裂が走って互いの力が拮抗し、鍔迫り合いをするかのように至近距離で睨み合う構図になる。
しばらく相手の体勢を崩そうと銃の押し付け合いをしていた両者だが、埒が明かないと判断したホシノはkeyを蹴り飛ばし遠方のビルの外壁に衝突させると、追撃に『ウジャトの目』の秘儀を反転させ、”破壊”の力を弾丸に込めて放った。
「『宵』」
「ほう…ほう?」
想像以上の力と速さで蹴り飛ばされ少し驚きながらもぶち抜いた外壁の穴から外に出ようとしたkeyだったが、直後に飛んできた赤い神秘の輝きを纏った弾丸を受けて再びビルの奥まで、そして反対側から外にまで吹き飛ばされて川にかかる橋の上に墜落する。
起き上がったKeyは首をコキコキと鳴らして調子を確認していると、いつの間にか追いついてきていたホシノがかかと落としで橋を破壊、それを回避したkeyは落下しながら大きめの瓦礫を一つ掴むと、ホシノへと投げつける。
瓦礫をショットガンで撃ち落としたホシノだったが、リロードの隙を狙ってkeyが再度マシンガンによる弾幕を展開した。
「うへっ、なんでもするね」
嘲るように笑いながら盾を構えて弾幕を凌いだホシノは落下中の瓦礫の一つを足場にして足をかけ膝を曲げると、バネのように飛び跳ねて敢えて盾で弾幕を受けながら突っ込みkeyとの距離を詰めた。
ゴリ押しで突破してkeyに掴みかかったホシノは、Keyの服を引っ張って御岸壁に叩き付けると、今度は頭を掴みそのままガリガリと壁に擦り付けるように押し付けて走り抜ける。
暫く走ったところで振り払われ、脱出したkeyは腕を振るって分解の秘儀を発動させるが、ホシノには通じずその背後にあったビルが斜めにぽっかりと抉られるように分解され、残った上の方の部分はホシノとKeyの方に向かって崩れ落ちてきた。
それを見て何を思ったか、ホシノはkeyを倒れてくるビルの方へ蹴り飛ばすと自らも跳躍してそれを追いかけ、両者揃って窓を突き破って倒壊中のビルの中へと入り込む。
ほぼ垂直に傾いた廊下の中でホシノとkeyは至近距離での銃撃戦、殴り合いを演じ、僅か十数秒後にビルが地上に落ちて完全に崩壊…瓦礫の山の中からは、互いに無傷のホシノとkeyが姿を現した。
「…全部君がやったことにするからね」
「…どの口で?」
「うげっ、シュンさん達見てるんだった」
最早、マルクトが何かをするまでもなく余波でキヴォトスが滅んでしまいかねない超規模の戦い。
こんな時にも関わらずその被害をKeyに押し付けようとするホシノだったが、上空からホシノとKeyを追って旋回する烏の群れを見てシュンが状況の確認用に監視をつけていることを思い出し、全部Keyの責任にするのは難しいかと肩を落とした。
(…さて、Keyの『ウジャトの目』対策は展延だけなのかな?あのアウトロー達のを見る限り展延の発動中は秘儀と併用が出来ない…見てた感じそれはKeyも同じ。でも展延と秘儀の切り替えのキレでそのデメリットをほとんど帳消ししてる。神秘の効率も圧倒的…その上神秘の総量はクロコちゃんの倍以上って感じ?『ウジャトの目』で神秘そのものを回復できなかったら持久戦でも負けちゃうかな)
ホシノの推察通り、Keyの神秘関連の技術に対するキレはキヴォトス全土を見ても神がかっているというレベルで卓越しており、『ウジャトの目』が無ければホシノを持ってしてもまともな戦いにすらならなかった可能性が高いだろう。
そして『ウジャトの目』があるというだけでKeyに対抗できるはずも無く、ホシノがKeyを相手に勝利を掴むにはホシノが持ちうるありとあらゆるものをつぎ込んで、全霊を賭けて喰らいつかなければいけない。
「さて…そろそろ小休止は終わりにしましょうか」
「だね。やっと温まってきたところだし」
それぞれが銃のリロードを終えると、まずホシノが低い姿勢で一気にKeyの懐に潜り込み、身体を捻ってKeyの腹を蹴り上げる。
それを腕でガードしたものの真上に吹っ飛ばされたKeyに、ホシノは跳躍1つで吹っ飛んだKeyを抜いてその頭上まで飛び上がり、両腕を合わせるとKeyの頭に叩きつけて直下へと叩き落とした。
その衝撃は地面を伝搬し、地盤を崩壊させて周囲の建物が丸ごと沈んで崩落していく。
そんな崩落する建物の瓦礫を足場として乗り継ぎ無事な方の地面まで戻ったKeyに、ホシノは落下しながら盾を振り回して叩き付けようとする。
Keyはそれをホシノごと真横に蹴り飛ばすことで捌き、先程の地盤が崩れたことで出来た大穴の方に吹っ飛んで行ったホシノに向かってマシンガンを乱射する。
それを盾で防ぐホシノは、弾幕の勢いを利用してあえて後方まで押し飛ばされることによって大穴を飛び越え、向かいの足場に着地するのと共にショットガンに反転させた秘儀を込め…
「『宵』」
Keyの放つ弾幕を全て消し飛ばして大穴の反対側のKeyごと破壊の力が飲み込んだ。
だがそれも大して有効打になることなく、もくもくと立ち上る土煙を吹き飛ばす勢いでホシノの方に跳躍してきたKeyは飛び退いたホシノに対してまだ無事で建っているビルの方まで移動すると、ビルの根元を掴み…ビル全体に神秘を流して補強しつつ躯体からビルを丸ごと持ち上げた。
「えぇ…うっそぉ…?」
「焦ってなどいない癖によく言いますね」
大袈裟に驚いてみせるホシノに嫌味を言いながら、Keyは持ち上げたビルをホシノに向かって投げつける。
あれだけ巨大なものをソフトボールかのように軽々と、そして常人には目で捉えられない程の速度で投げるKeyに苦笑したホシノは、Keyの神秘が流されたことで強度が増しているビルにどう対処しようかと悩み…一瞬の思考の内に答えを出すと、迫るビルを両手で受け止めて勢いを完全に殺し、ホシノもまた力でビルを頭上まで持ち上げた。
「どう?」
「良いんじゃないですか?」
「そりゃどうも」
そのままホシノはビルを持ち上げたままKeyの方へと跳ぶと、長物の武器でも扱っているかのようにビルを振り下ろしてKeyへと叩きつけた。
叩きつけるのと同時に崩壊するビルの瓦礫を押し退け脱出したKeyは、そろそろ終わりだと言わんばかりに掌印を結んだ。
それを見たホシノも同様に掌印を結び、そして互いに同時に宣言を行う。
「「神秘解放───
───『アトラ・ハシース』
───『アイ・オブ・ホルス』
Keyの背後に出現する円環状の中心に塔のようなものが浮かんだ構造体。
それを包み込むようにして展開されるのは、延々と広がる広大な草原、どこまでも青く透き通った雲ひとつない晴天、そして太陽の代わりに巨大な瞳が地上を見下ろすホシノの領域。
重なり合った互いの領域は───互角。
ホシノの結界内では対になる2人の領域の必中命令が打ち消し合っていた。
(Keyの領域…アリスちゃんやミノリちゃんから聞いた通り、空間を結界で分断してなかった。マルクトも使ってたってモモイちゃんから聞いたけど…まさに神業だね。押し合いになるのかどうかは不安だったけど、拮抗するなら重畳。純粋な削り合いならこっちが有利。このまま一気に決める!)
拮抗する領域内での戦闘は、先に大きなダメージを受けた方が領域を維持出来なくなり、領域が維持出来なくなれば即座に相手の必中の秘儀を受けて決着が着く。
ホシノがKeyに勝つには、この期を逃す訳には行かない。
だが、それは拮抗する領域が
ホシノとKeyの領域は確かに互角だった。
そう…
「…あ、これマズイかな…」
「フッ…」
ホシノの領域の結界が軋む。
Keyの領域はその圧倒的な効果範囲により、領域の攻撃性はホシノの領域の結界、その外側にまで及んでいた。
そしてその攻撃性がホシノの領域の外殻を襲う。
かつてアリスがムツキの領域に外部から破って侵入したように、領域の結界は内側の強度を上げる為に外側からの攻撃に脆くなっている。
つまり───ホシノの領域の結界は破壊され、それによって領域そのものが解体される。
後にはKeyの領域のシンボルである構造体だけが残り───
───容赦のない分解の力が神秘解放直後により秘儀の焼き切れたホシノへと降り注ぎ、腕の先から急速な分解を開始した。
この辺りは構成に悩みましたが、原作のスピード感の演出の為に今回の感じで落ち着きました。
原作漫画ではメタ的な説明の為に観戦描写が入っていましたが、ある程度地の文や本人達の視点で説明出来るため観戦描写は本作では省いています。