ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作226〜228話までの範囲でお送りします


人外魔境D.U.決戦─弐─

 

ホシノとKey。

余人の介入を許さないほどに隔絶した実力を持つ両者の激しい戦闘はそれぞれの切り札たる領域での勝負となり…Keyの『アトラ・ハシース』が”閉じない領域”というその特性によりホシノの『アイ・オブ・ホルス』の領域の結界を外側から分解し破壊するという方法でKeyに軍配が上がった。

 

領域が破壊され、神秘解放直後の秘儀が焼き切れた状態となったホシノは『アトラ・ハシース』より発される絶え間ない分解の力を無防備に浴びて腕の先から急速に分解が始まり───

 

 

 

「ふんっ!」

 

「おや?」

 

肘まで分解されていた右腕、それをホシノは自らの神秘を反転することにより得る恐怖を用いた治癒で再生してみせる。

その再生速度は分解が進むより早く、『アトラ・ハシース』によって腕、足、胴体、頭部、内蔵、それらを常に襲い続ける分解に対して全身に恐怖を循環させ、分解されたそばから再生するという荒業で凌いでみせた。

 

(ですが…それだけ無理な恐怖の運用、果たしていつまで続きますかね?)

 

(マズイね…『ウジャトの目』は消費した神秘を再生させられるから平然とあの防御が出来るけど、恐怖をぶん回して同じことしようとすると一瞬で神秘が尽きちゃうなぁ…私の秘儀が回復するのが先か、その前に死ぬのが先か…勝負だよ)

 

絶え間なく分解され続ける肉体を恐怖で再生させ続ける事で耐えようとするホシノだが、それによってみるみるホシノの神秘は消費されていく。

そしてKeyもその好機を逃すはずもなく、『アトラ・ハシース』によって出現した構造物の上からホシノへとありったけの神秘を込めたマシンガンを乱射し、弾丸の雨を降らせた。

1発1発が地面を穿ち穴ぼこに変えるそれらを跳んで避けるホシノだったが、やはり明らかに動きは鈍っておりキレが精彩を欠いている。

 

「ちょっと!おじさん裸んぼになっちゃったし装備も全部無くなったんだけど!?」

「実に無様な姿ですね、死体が残れば椅子としてでも利用してあげても良いと考えていましたが…残念です」

「ん〜…ここはちょっと戦略的撤退…」

「させるとでも?」

 

分解はホシノの衣服やショットガン、盾やその他補助装備までの全てを分解してホシノは完全に丸腰となる。

このままでは堪らないと一旦ホシノはくるりと振り向いて『アトラ・ハシース』の構造物から距離を取ろうとするが、それを見越したKeyはホシノの進路に割り込むように着地すると、ホシノの腕を掴んで地面に投げつける。

 

背中から強打し血を吐くホシノだったが…後ろ手に地面に手を着くと、押し上げる勢いで真上に蹴り上げKeyを打ち上げた。

空中に放り出されたKeyは虚空を蹴るような不自然な空中での高速機動で直下のホシノにかかと落としを入れようとするが、それを転がって回避したホシノはKeyの足を掴むと乱暴に振り回して何度も地面に叩き付け、さらに顔面に向けて拳を振り下ろそうとする。

が、Keyはホシノに掴まれた足とは別のもう片方の足を掴んできているホシノの腕に絡めると、腰の力だけでホシノの腕を引いて体勢を崩して拳を空振りさせた。

 

振り下ろされた拳は地面を叩き、それによって地盤が崩壊したのを利用し地面を潜るようにして拘束から脱したKeyはホシノの退路を断ちながら徐々にホシノの神秘が目減りしていくのを感知していた。

 

(あれだけ急速に神秘を消耗する感覚は如何程か、なんにせよそれでも尚あれだけ動けるのは流石ですね)

 

(この感じ…やっぱり『アトラ・ハシース』の中心はあの構造物であってKeyじゃないね。基本は神秘解放による領域に出現するオブジェクトはただのシンボルとか飾りみたいなものだけど…壊したらどうなるのかな?)

 

未だ分解の力が猛威を振るう中、それによる苦痛や恐怖を使い続ける疲労すらも押し殺してホシノは思考に集中する。

神秘も残り少なく、あと1分でも『アトラ・ハシース』の影響に晒され続ければ神秘が尽きて死に至るだろう。

そしてKeyの余裕を見る限りそれまでの間に領域が終了する保証は無い。

ならばどうするか…

 

 

「『簡易領域』」

 

(…太古に名も無き神々が使っていた彌虚葛龍の改良品とやらですか。必中効果を防ぐことで神秘を節約するつもりですか?ですが、本物の領域に対して簡易…時間稼ぎとしては心許ないでしょうに)

 

ホシノを中心に半径50mは超えるであろう円が広がる。

その内側では領域の必中効果が消失し、Keyの秘儀もある程度中和される。

だがそれよりも遥かに強力な『アトラ・ハシース』という領域がそんなホシノの簡易領域すらも急速に剥がし、このままではせいぜい10数秒程度しか持たないだろう。

 

Keyはより簡易領域の維持を短縮させようとホシノに攻撃を仕掛け、適当にマシンガンから弾幕をばらまいて牽制すると急接近して殴り掛かる。

それを腕の軌道を逸らすことで捌いたホシノはカウンターの肘をKeyの胸に叩き込み、横腹を蹴りつけるも受け止められ、先程捌いたKeyの腕がホシノの後頭部を掴んで頭を引き寄せられ、Keyからの痛烈な頭突きを受ける。

そのダメージも相まってホシノの簡易領域は完全に剥がされ…直後に再び分解の力が襲いかかった。

 

完全に分解されないよう恐怖を全力で循環させ再生し続けるホシノだが、なおもKeyからの追撃は続き上段蹴が側頭部を捉えてホシノの体勢がよろめく。

 

 

「…『簡易領域』」

「またですが、くどいですね」

 

 

しかし踏みとどまったホシノは再度簡易領域を展開し、必中効果から逃れる。

悪足掻きだと嘲笑したKeyはいい加減引導を渡そうと手のひらをホシノへと向け…ホシノの身体が先程分解の力に晒された時から一部回復していないのに気が付いた。

致命傷は免れているが、それでも皮膚の一部や筋肉の一部が崩れ肉体の内側が露出し夥しい血が流れ続けている状態。

まさかもう神秘が尽きて回復できなくなったのかと首を傾げるKeyだったが、Keyの視点ではまだホシノには多少の神秘が残っているように見える。

 

(少しでも神秘の浪費を抑える為に致命傷以外は敢えて治していない…?絶え間なく分解に対して恐怖で再生し続けることに比べればその程度の節約など焼け石に水にもなりませんが…)

 

疑問は残るが、反撃してくるホシノの動きの鈍りから限界が近いことを悟ったKeyはこのまま押し切ろうと広げていた手のひらを握り締め、その拳をホシノへと振るう。

強烈な打撃に腕を交差して受け止めるホシノだが、その圧倒的な膂力によって衝撃を受け流しきれずに押し込まれ、地面に足裏を引きずりながら後退させられる。

さらに追いかけてきたところにカウンターの回し蹴りをするが、Keyはそれを首と肩で挟むようにして受け止めつつホシノの足を固定し、動けないホシノの鳩尾に膝を叩き込んだ。

 

身体が浮き上がるも足を固定されているため吹き飛べなかったホシノにKeyは容赦なく顔面にも何度も拳を叩き入れ、そして遂にホシノの簡易領域も維持出来なくなり完全に剥がされようとしている。

固定していた足を離したKeyはそんなホシノの前髪を掴み顔が目の前に来るように持ち上げ、トドメを刺す為に空いている方の腕を後ろに引いて勢いよく振りかぶった。

 

 

シュンが操る烏達が、『アトラ・ハシース』の効果範囲外から心配そうに鳴き声を上げる。

烏の首に取り付けられたカメラの奥から状況把握の為に監視していた者達は、誰もが一様に同じ思いが脳裏を過ぎっただろう。

 

小鳥遊ホシノが負けるのか、と。

 

 

 

(…これで終わりですか、小鳥遊ホシノ───うん?)

 

 

 

トドメの拳をホシノの顔面へと入れたのと同時に簡易領域が完全に剥がされ、Keyが決着を確信したその時───Keyはその硬質な、ビクともしない手応えに違和感を覚える。

何が…その正体を探るまでもなく、Keyに掴まれて力無くされるがままにしていた筈のホシノの腕が動いて、前髪を掴んでいるKeyの腕を掴み返す。

 

「なっ…!」

「───『宵』」

 

さらに、いつの間にかもう片方のホシノの手には『アトラ・ハシース』によって分解されたはずのショットガンが握られていて…その銃口が赤い光を発すると、直後に放たれた”破壊”の力がKeyを吹っ飛ばして『アトラ・ハシース』の構造体へと直撃、そのまま構造体を貫通した。

 

受けたダメージ、消耗した神秘、そして体力を全て回復した『ウジャトの目』で再生させたホシノは、その再生の力を利用して分解された衣服や盾、その他装備の全てを復活させて纏い直すと、大袈裟に首をコキコキと鳴らした。

 

「あ〜…しんど」

 

(先程肉体を治癒していなかったのは…恐怖を”秘儀”の回復の為に回していたから…!?そんな芸当が可能だとは…神秘を解放した後に生き残った相手を見たことがないので初めて知りましたね…)

 

普通、神秘解放によって秘儀が焼き切れるのは肉体が損傷するのとは訳が違い、故障していなくとも機械がオーバーヒートすれば動かず冷却を待つしか無いのと同じように、一部の特殊な条件を除いて時間経過以外で焼き切れた秘儀が回復することは無い。

しかしホシノはそれをどうやってか、最低でも2〜3分はかかるであろう秘儀の回復を恐怖を利用して早めたのだ。

 

(いや、何か種がある。それとも何かしらの大きな無理を通してそれを行っている)

 

ホシノの回復手段について考察を巡らせるKeyだったが、その間にホシノは大きく飛び退いて『アトラ・ハシース』の必中効果範囲から離脱する。

Keyは今回ホシノの領域をより早く破壊する為にミレニアムの時より必中効果範囲を絞った分、分解の威力を引き上げていた。

故に現在は200m程度の範囲にしか分解の力は及ばず、Keyは仕方がないと領域の必中効果範囲を最大にまで広げようとして───それと同時にホシノが掌印を結んだ。

 

 

「っ!?」

 

「神秘解放───『アイ・オブ・ホルス』」

 

(…正気ですか?先程と同じことを繰り返すつもりなので?いや、そこまで馬鹿な筈は…)

 

再びホシノの神秘が解放され、領域が展開される。

『アトラ・ハシース』の構造物を丸ごと飲み込んだホシノの領域によって互いの必中効果は打ち消し合い、拮抗状態になる。

だがそれも先程同様領域範囲外にまで効果の及ぶ『アトラ・ハシース』ならば外側から結界を破壊して終わりだが…先程よりも明らかに結界の崩壊に時間がかかっているのを見て、Keyはホシノが施した対策に勘づいた。

 

(なるほど…領域の対内条件と対外条件を逆転させることで内側を脆く、外側を強くなるよう調整したのですか)

 

「仕切り直そうか、お嬢さん」

「結構、そうでなくてはつまりません」

 

必中効果の主導権を巡って、相手の領域の維持を崩す為にホシノとKeyは互いに攻撃を仕掛け合う。

ホシノが放ったショットガンからの弾丸をKeyが腕を振るうことで起こした風圧で叩き落とす。

さらにホシノは盾を構えながらKeyへと飛びかかると、身体を捻りながら盾を地面に叩き付け、それによって生じた衝撃波がKeyの身体を煽り体勢を崩した。

 

そこにホシノは蹴りを放つが、崩れた体勢からでもそれを防いでみせたKeyは銃口を押し当てゼロ距離でマシンガンを乱射してホシノをよろめかせると、胸を狙って正拳突きを繰り出した。

それをモロに受けたホシノは…回復した『ウジャトの目』によって”不変”を維持しているのにも関わらず感じた手応えに驚愕を隠せなかった。

 

「うっ!?」

(痛った…マジで?領域と展延を同時に使えるの?展延の出力も上がってる…これは慣れかな?確かに肉体の秘儀と領域の結界に付与された外付けの秘儀は別枠だろうけど…その調整も難しいはずなのにさあ…)

 

「…まあでも、だからなんだって話だけどね!」

「っ!」

 

その恐るべき神秘を扱う技量に舌を巻きつつ、ホシノは追撃として放たれた腕を潜り込むようにして避けると、カウンターの拳がKeyの脇腹を捉え、ミシミシと骨が軋む音が領域内に鳴り響く。

苦痛に顔を歪めるKeyは…脇腹にめり込んだホシノの腕を掴むと、社交ダンスでもするかのようにその腕を引いてホシノに対して背中を合わせた。

 

(…何?何をした…?これは…『アイ・オブ・ホルス』の中で、Keyの領域の()()()()()()()になってる!?)

 

「さて、どうなっているのでしょうね?」

 

困惑するホシノに、Keyはかつてホシノが強襲を仕掛けてきたアルに対して神秘を解放した時の事を思い出してほくそ笑んだ。

ホシノの領域、『アイ・オブ・ホルス』はホシノ本人とホシノが触れている相手には必中効果の影響が及ばない。

それをあの時授業として連れ出されていたアリスの内側で経験していたKeyはそれを利用し、領域の外側に及ぶ『アトラ・ハシース』の必中効果範囲を絞るのと合わせてホシノの領域内での必中効果を消すことによって、その分をさらに外側を攻撃する必中効果に上乗せして破壊力を上げていた。

その間Key自身はホシノに触れ続けることで『アイ・オブ・ホルス』の必中効果を凌ぎ───再びホシノの領域が崩壊する。

 

 

「くっ…!」

「仕切り直しですね、おじいさん」

 

 

秘儀が焼き切れたことで『アトラ・ハシース』による分解を恐怖で凌ぐしか出来なくなったホシノに、Keyは今度こそ秘儀が回復する前に仕留めようと攻め手を強めた。

必中効果範囲から出ないように立ち回りに気を使いつつ、目にも止まらぬ打撃の応酬でホシノの神秘を削っていく。

対してホシノは再び装備や衣服が分解されて丸腰になりながらもKeyからの攻撃を捌きつつ…繰り出されたKeyの腕を受け止めて捕まえると、振り回すように引っ張って遠くに投げ飛ばすことで引き離す。

 

距離を取られたことで必中効果範囲から逃れられることを危したKeyはマシンガンを連射し牽制するが、ホシノは逃げようともせずに腰を落とし構えを取ると───

 

 

「秘伝『紅茶花伝』」

「なんですかそのふざけた名前は」

「あ、やっぱりそう思う?私もそう思う」

 

 

ホシノが発動したのはトリニティの特異現象捜査部、支部長に伝わる対神秘解放の術。

必中効果を持った神秘が発動者に触れた瞬間、同時に神秘を放出することでそれを迎撃し弾いて身を守るというもの。

必中効果を持つ領域ならば大抵を防ぐことができ、領域に取り込まれた時点で効果にハマってしまう『アイ・オブ・ホルス』のような複雑な領域でもなければ基本的に有効な防御策となる。

『アトラ・ハシース』の分解のような外部から直接的な攻撃性を持った力が襲いかかって来るタイプならば尚更だ。

 

そして『紅茶花伝』による防御は確かに絶え間なく浴びせられる分解を弱め、恐怖での回復による神秘の消耗を押さえ込んでいた。

 

「前にナギサちゃんに1回見せてもらっただけだから成功するか不安だったけど…悪くないんじゃない?」

「秘伝とは何かとなりますけどね…その方も貴女に使われるつもりはなかったかと」

「名前のセンスがリオ部長並にダサすぎて君が相手でもなきゃ使う気もなかったよ」

 

軽口を叩き合いながらも互いの極まった体術による応酬が続き…ホシノが『アトラ・ハシース』を安定して耐えられる手法を編み出したことでそれだけでホシノの神秘を削り切るのが困難となり、Keyが追撃を加えようにもダメージが足りず先にホシノの『ウジャトの目』が回復する。

 

それによって消耗した神秘と分解された衣服、装備が再生されて再びホシノは万全へと戻った。

 

「せっかく削って追い詰めても全回復で振り出し…とんだクソゲーですね。ナーフはまだですか?」

「ねえ君結構アリスちゃんに影響されてるよね?」

「冗談にしても面白くないですね、貴女といいマルクトといい」

「…まあいいや───

 

 

 

 

───神秘解放『アイ・オブ・ホルス』」

 

再度神秘を解放したホシノ。

しかし今回展開された領域はこれまでのものと大きく様子が異なっていることにKeyは気付く。

 

(広い…『アトラ・ハシース』の必中効果範囲を完全にカバーしていますね。ですが…その分内側の精度は通常より劣る筈)

 

ホシノが広げた領域の結界は『アトラ・ハシース』の最大必中効果範囲である半径1kmにも達するほどに広く、とてつもなく巨大だった。

だがKeyが『アトラ・ハシース』の範囲を絞って威力を上げるのと逆で、これ程までに範囲を拡大すれば領域の強さが弱まってしまう。

外側から結界を破壊されることは防げても、内側の必中効果の奪い合いに負ければ意味は無い。

 

当然、ホシノはそれも理解していて───

 

 

(…押し勝てない。必中効果の主導権を奪えない…あの領域の広さならば20秒もあれば小鳥遊ホシノの領域を潰せる筈…何が───そうか、内側からは見えないだけで…!)

 

ホシノが神秘を解放してから不自然にその領域が保たれていることに違和感を持ったKeyは内側からは見えない領域の外側で、ホシノが結界を縮小していることに気が付いた。

その大きさはバスケットボール程度にまで圧縮され、これも『アトラ・ハシース』と同様の理屈で範囲を縮小することによりここでは結界の外側の強度を高めている。

 

ヒナが神秘解放を使う際に領域という現実とスケールの異なる空間を構築することに苦戦していたように、本来人が1人収まらないような大きさに結界を縮小するという想像ができない以上そのような芸当は不可能に近い。

だがホシノは神明結晶という小さな物体に封印されたことでその感覚を掴んでいた。

それにより限界まで縮小された『アイ・オブ・ホルス』の結界の外殻は『アトラ・ハシース』により攻撃されても強く外殻を維持できている。

 

(最初に大きく領域を広げたのは難易度の高い想像をしやすくするために段々と縮小するイメージから始めるため、といった所でしょうか?)

 

(やれるのならKeyの領域の必中効果を結界に納めたまま縮小できないかとも思ったけど、そんなに上手くはいかないかな)

 

「で、そっちはどう出る?」

「知れたこと…内と外から貴女の領域を破壊します」

 

すると、今度はKeyが『アトラ・ハシース』の必中効果範囲をホシノの領域外の半径1m程度にまで狭めることでその威力を極限まで引き上げた。

さらに領域の維持が出来なくなるまでダメージを与える為にホシノへと殴り掛かる。

 

受けて立つと反撃の構えを取ったホシノは、真正面からKeyと打ち合い捌き合い、顔を殴られれば反撃に横腹を蹴り、腹を殴れば反撃に側頭部を蹴り飛ばされる。

格闘はほぼ互角、展延でダメージを通されるとはいえ『ウジャトの目』で即座に再生できるホシノが削り合いでは優勢。

しかし領域そのものの削り合いならばKeyが優勢であり、ホシノも十分なダメージを与えられなければまた領域を破壊されてしまうだろう。

 

殴り、蹴り、時には組み付き、時には投げ技をかけ、Keyは常にホシノに密着することで領域内の『アトラ・ハシース』の必中効果をオフにしたまま『アイ・オブ・ホルス』の必中効果を凌ぎ、ホシノは必中効果を押し通さんと必死に引き剥がそうとする。

攻防は拮抗して暫く続き───隙を見たホシノの拳がKeyの胸に突き刺さる。

 

それによってKeyは吹っ飛ばされ、ホシノから離れてしまう。

本来ならばその時点で『アイ・オブ・ホルス』の必中効果に捉えられるところだが…間の悪いことに、それと同時にホシノの領域の外殻がダメージに耐えきれず崩壊した。

領域の外に解き放たれた『アトラ・ハシース』は再びホシノを蹂躙する───かと思いきや、先程のKeyへのダメージが決め手となって構造物が崩落、『アトラ・ハシース』も終了する。

 

(…私が神秘を解放してから3分9秒…領域を縮小してからは3分ジャストかな?私へのダメージを考慮しても3分前後はあの手法で領域を維持できる…なるほど)

「さて、これでお互いに秘儀が焼き切れたわけだけど…元気してる?」

 

「ええ、まだまだピンピンですよ」

 

ホシノからの煽りに不敵に笑って返したKeyは、領域の必中効果範囲内という限られた空間での戦いをしていたことへのフラストレーションを晴らすかのように大きく跳躍し、ホシノもそれを追跡する。

2人はまだ無事な方の廃墟街まで移動すると、パルクールもびっくりな壁走りや屋上間移動で街中を駆け周り互いに射撃で牽制しながら攻撃の隙を狙い合っていた。

 

途中、建物の屋上から廃ビルの中に突っ込んだKeyは内部の壁をぶち抜いて反対側から外に出ようとしたが、ビルの外から壁をまとめてぶち抜いて自分のいる位置を狙い撃って来たホシノの弾丸に弾き飛ばされてビルの外に放り出され、ビルの壁を駆け上がってきたホシノに服の襟を掴まれるとそのままビルの屋上まで連れていかれ、屋上へと叩き付けられる。

さらにKeyを屋上に残したままさらに真上へと飛び上がったホシノは、直下のKeyにショットを向けると銃口から赤い光を輝かせた。

 

 

「『宵』」

 

「チッ…!」

 

 

回復した秘儀を反転させて真下へと放たれた破壊のエネルギーはKeyを巻き込んでビルを上層から下層にかけて丸ごと粉砕し、地上にも大きな亀裂を入れる。

落下しながら盾を団扇のように振り回すことで巻き上がった砂埃を吹き飛ばしたホシノは瓦礫を押し退けて脱出していたKeyを見つけると、意地の悪い笑みを浮かべて復帰したばかりのKeyを蹴り飛ばし、廃墟を複数巻き込んで崩落させながら突き抜けていくKeyに銃口を向けた。

 

「もう一発…『宵』

 

放たれた赤く輝く破壊のエネルギーが瓦礫の先のKeyを撃ち抜く。

衝撃波は一帯の廃墟を沈めて更地に変え、ただ唯一立つことが出来るのは飛び抜けた強度を持つKeyのみ。

口から流れた血を服の袖で拭い「やってくれたな」と言わんばかりに獰猛に笑ったKeyに接近したホシノは掌印を構え神秘を解放しようとするが…構えた手をKeyは的確にマシンガンの単射で撃ち抜いて妨害した。

 

(やっぱり領域で対抗出来ない間は掌印の方を邪魔してくるか…背中見せて腕を隠しながら神秘を解放すれば通るかな?…その間に領域の範囲外まで逃げられて終わりか。それにしても、なんでKeyは頑なに領域に付与されてる秘儀以外を使おうとしないんだろう…?)

 

ホシノは先程Keyが『アイ・オブ・ホルス』に対して領域内の必中効果をオフにすることで外側の破壊力を上げ、その間はホシノに触れることで『アイ・オブ・ホルス』の必中効果を防ぐという、どう考えてもリスクの高い手法を取っていたことに引っかかっていた。

例えば2回目の神秘解放でホシノが内側の結界の強度を下げる代わりに外側の強度を上げた時、Keyはその方法でホシノの領域を破壊したが、そんなリスクを背負うよりも普通に秘儀を使って内側から結界を破壊した方が楽かつ安全だったはずなのだ。

にも関わらずKeyは内側からの結界の破壊を試みることすらしなかった。

 

領域内でお互いの必中効果が打ち消しあっている間の必中効果の主導権の巡り合いは展延以外でダメージを与える術を持たないKeyに対してホシノは有利を取ることが出来る。

実際に先程の領域内での戦いでも領域が破壊されるまでの3分間での格闘はホシノが有利で進んでいた。

 

(にも関わらず、Keyは領域内で『十種影法術』を…”死路虚”を使ってこない。受肉体は器の記憶を読み取れるらしいし、Keyは私と委員長ちゃんの会話の記憶を持っていて、私が死路虚のことを知っていることを知っている…?一撃で死路虚を破壊されることを怖がって出してこないのかな…?)

 

Keyは相も変わらず不敵な笑みを浮かべており、一体どんな策を用意しているのかを考えるホシノは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───ガコンッ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どこか、深い深い水の底のような場所で鳴った音に気付くことも無く───

 

 

 

 

 

 

 

「…うへ」

 

ホシノのヘイローに、小さくヒビが入った。

 

 




格闘の描写が難しくなってきた今日この頃
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