原作238話までの範囲でお送りします
───トリニティ郊外
「ハァ…ハァ…なんなのよ…!なんっなのよ!」
騒音が廃墟と化したトリニティの街に轟く。
道路を埋め尽くす特異体の群れから逃れようと駆けていたのは、D.U.第1
時々後方を振り返り波のように迫ってくる特異体の群れに銃を乱射して牽制しつつ、クルミは肩に取り付けていた無線に声を掛ける。
「ニコ!ニコ!応答して!大丈夫なの!?まだ生きてる!?」
『…』
しかし無線からの返事はなく、舌打ちしたクルミは突如として襲撃をしかけてきたこの特異体の群れ…それを操っているであろう首謀者について思考を巡らせた。
(あいつ…やけっぱちでも起こしたっての!?度重なる
「何がしたいのよマルクト…!」
ハナから信用してなかったとはいえ、わざわざ自分達を誘っておきながらこの期に及んで自分で虐殺を始めたマルクトにクルミは毒を吐く。
とはいえ今はなんとかこの場をしのがなければならず、怒りを弾丸に込めて特異体の群れを迎撃しながら抵抗を続けようとした時───
「がふっ…!?」
「味が薄ければ足す、濃ければ嵩ます。君達は私にとっては調味料や水みたいなもの…特に感情は乗っかってないよ」
クルミの目の前に現れた霧状の特異体は液状に変化してクルミの頭部を覆い、引き剥がそうとするクルミの手は特異体の身体をすり抜けて空振る。
そんな様子を該当の上に腰掛けて見下ろしていたマルクトは、それに気付いて射撃してきたクルミからの銃弾を適当な特異体を盾にして防ぎ、よっこらせと声を出しながら地上へと降りた。
マルクトは藻掻くクルミの腹を蹴り飛ばし、廃墟の外壁に背中から叩きつけられたクルミはその衝撃によって辛うじて残っていた肺の空気が一気に吐き出され、大きな気泡が特異体の液状の身体を通ってその外側で泡となって弾ける。
やがてじたばたと暴れる手足の動きは弱々しくなり、マルクトがゆっくりと歩み寄った時にはピクピクと痙攣するのみになっていた。
「まあ、感情が乗ってないとはいえ思うところが無いわけじゃないよ。気の毒くらいには思ってあげても良いけど…さて、君も良く生きてたね」
「…クルミ…ちゃん…?」
1人喋っていたマルクトは背後で起きた爆発の方へと目を向ける。
爆煙が晴れた先には、既にボロボロで装備の大半も損壊し、呼吸を荒くして肩を上下させていたニコの姿があった。
ニコはまずマルクトを見て、その前で特異体に顔を覆われヘイローがパラパラと崩壊し始めていたクルミに目を向けると歯を食い縛って殺気を強める。
「結構な数と質を差し向けたと思うんだけど、やっぱり君の秘儀だと数任せは相性が悪かったかな」
「あなたは…なんで…!」
「うん?許さないとでもいうつもりかな?人を殺すことに君達が文句を言うのは筋違いだと思うけど…でもまあ私はその我儘を肯定するよ。身勝手であってなんぼ…特に頭の悪い子供はね」
「っ…!」
激情に駆られたニコはどこからともなく出現させたおいなりさん爆弾…ふざけた見た目に反して凶悪な破壊力を誇るそれをマルクトへと放るが、それをマルクトは地中から出現させた特異体に飲み込ませ、その体内で爆発させることで衝撃を抑え込んだ。
続けてニコの足元から出現したムカデのような特異体がニコの脚に絡みつき、大きく振り回して廃墟へと叩きつける。
廃墟の壁をぶち抜いて屋内に転がったニコへ、さらに天井を突き抜けて降ってきた鬼のような特異体が手を伸ばすが、咄嗟に投げ放たれたおいなりさん爆弾によって一撃で鎮められ、爆煙に紛れたニコは廃墟から飛び出て位置を変えようとする。
しかし───
「あがっ…!?」
「ふむ、頭を狙ったんだけど…流石は元特殊部隊の精鋭って所かな。でもまあ終わりだけど」
スクリュー回転しながら突っ込んできたドリルのような特異体がニコの右肩を貫いて廃墟の壁に縫い付けた。
なんとか抜け出そうと特異体にゼロ距離で拳銃を撃ち込むも、マルクトの神秘による支援を受けて強化された特異体は多少の攻撃では鎮められず固定を外すことが出来ない。
身動きの取れなくなったニコに悠々と近付いたマルクトは、剣のような特異体を片手に握るとそれをニコの胸へと突き刺す。
「ぐっ…」
「この距離じゃ自分も巻き込むから秘儀も使えないでしょ?」
「何が…したいの…」
「うん?話さなかったっけ?私ってばお喋りだから誰に何を話したのか結構忘れちゃうんだよね。相手がどうでもいいと尚更…クズノハとキヴォトスの全ての住民を同化させるんだ。その為には1回死滅回遊を終わらせて邪魔な結界を儀式的に解除しなくちゃいけなくてね」
「なに…それ…意味が、分からないよ…」
「見たことないものを見たいって思わない?面白いと思ったことが本当に面白いって確かめてみたくない?それが、生きるって事じゃないのかな?」
「…そんなの、知らないし…あなたは、SRTを舐め過ぎだよ…!」
「!?」
弱くなっていく脈、薄れていく意識、ヘイローに広がっていく亀裂。
死に体も良いところだったニコは、最後に力を振り絞って全ての神秘と激情をつぎ込んだおいなりさん爆弾を生成し、自分諸共マルクトを大爆発に巻き込んだ。
ニコが縫い付けられていた廃墟が丸ごと崩壊するほどの大爆発…大きく立ち上った爆煙と土煙の中から、咳払いしながら服を汚すのみでほぼ無傷のマルクトが出てきた。
「ケホッ、コホッ…あー、特殊部隊となると死にかけとはいえ自分の死も顧みないものかぁ。特異体を盾にしなかったらちょっと危なかったかもね。私ってば油断油断、次から気を付けるよ」
崩落した廃墟の瓦礫に沈んだであろう物も言わない死人にそう声を掛けたマルクトはふぅと一息つき───壁のような特異体を自身の真横に出現させ、幾つもの廃墟を貫通しながら突貫してきたツルギの襲撃を受け止める。
「やっと見つけた…!トリニティ南西だ!デカイ煙が上がってる!」
「なるほど、君達が来たんだ」
ツルギは無線の先の仲間に連絡すると障害となる特異体を続く腕の一振で粉砕するとその奥のマルクトへと腕を伸ばそうとして…マルクトが放った濁流のようなムカデの特異体の群れに押し流されてしまう。
同時に無数のムカデの特異体の牙がツルギに喰らいつくが…それらを恐怖による再生でゴリ押しで振り払ったツルギは腕を下から上に振り上げ、それによって生じた衝撃波ムカデの特異体ごと前方にいたマルクトを吹き飛ばした。
「きえぇぇぇぇぇぇ!」
「相変わらず凄い気迫だなぁ。小さい子が怖がっちゃうよ」
奇声を上げながらがむしゃらに突撃を繰り返すツルギに、マルクトは次々と特異体を放って対抗する。
しかし神秘で支援しているとはいえ流石に低級の特異体ではツルギの突進を止め切ることは出来ず、仕方なくマルクトは手持ちの特異体の中からそこそこ等級の高い特異体を使用することにした。
「特級神名特異体”ケテル”」
「!」
現れたのは左右に2台の大型のブラスターを備えた4脚の神名特異体。
ケテルと呼ばれたそれはブラスターを無数の特異体を屠りながら突撃してくるツルギへと向け…ブラスターのアームのようなパーツが開いたのと同時に放たれたエネルギー弾がツルギに直撃し、直線上の廃墟を何棟も突き抜けてあっさりと吹き飛ばした。
ケテルの脚部に登り腰掛けたマルクトは、吹き飛んで行ったツルギに向けてドローンのような神名特異体を複数追撃に向かわせる。
「全戦力Keyの方に向けてくると思ったんだけど、私の方にも一部割いてきたってことは、それだけ小鳥遊ホシノが勝つのを信じてるのかな?とはいえ最低限の保険は必要だろうから全員があっちを離れてるわけじゃ無いだろうし…でも誰が何人来たかによってはちょっと面倒かな?合流される前に…片付けちゃうとしよっか」
「きっひゃひゃひゃひゃっ!そのおもちゃごとぶっ壊してやる!」
飛び上がったツルギは上空のドローン型の神名特異体を一掃すると崩れた廃墟から適当に拾ってきた巨大な瓦礫をマルクトに向けて投擲するが、それはケテルの右肩のブラスターによって撃墜され、その後ろから飛んで来たツルギも左肩のブラスターによって撃ち落とされる。
だがこの程度で戦闘不能になるほど柔なはずもなく、地面に両手を突き立てたツルギは地面を持ち上げ地盤をひっくり返すことでケテルの体勢を崩し、そこに背負っていた二丁のショットガンを取り出して銃撃を加えた。
ツルギの神秘により強化されたショットガンによる射撃はケテルの装甲に少なくないダメージを与えるが、こちらもまたマルクトの神秘で強化されているため容易くは破られず、負けじと両肩のブラスターで反撃する。
後々のことを考えてそれを駆け回り回避しながらある程度の距離を保ち銃撃するツルギだったが、煩わしく思ったマルクトがドローン型の神名特異体を追加し、それらの武装である機関銃がツルギを付け狙う。
(…1発2発ならなんともないが、あんまり受け過ぎると多少なりとも消耗が蓄積する…どるだけ手札があるかも分からないマルクト相手に余力はなるべく残したい。となると可能な限り被弾は避ける必要がある。あいつらはまだか…?)
奇声で自分を奮い立たせながらも冷静に状況を読むツルギは、上空のドローン型の神名特異体を撃ち落としつつマルクトをじっくりと観察する。
何を考えてるのかも分からない薄ら笑いはいつもの事だとして、その余裕を見るに余程手札には自信があるのだろうか。
(先に私で手札とやらを暴くか…?いや、1人じゃ流石に厳しいな…む)
「やっと来たか」
「うん…?おや、空から露出狂が」
「うふふ…♡酷い言い草ですね♡まあ本当の事ですけど」
ツルギが攻撃してないドローン型の神名特異体が突如として撃墜される。
何事かとマルクトが空を見上げると、ワイシャツ1枚羽織り局部は秘儀による空間の歪みで隠しただけの露出魔…ハナコがさらに上空から銃を打ち下ろしていた。
マルクトの言葉に軽口で返したハナコは無線からツルギに指示を出す。
「聞こえますか?こちらで適時援護と指示を入れるのでツルギさんはマルクトとあの大きな神名特異体へ攻撃を続けてください。低級の特異体を出してきたらこちらの方で処理します」
『助かる。ハルナは?』
「もう位置に着いているかと…そこ射線通ってるので右に避けてください」
『了解』
ハナコの指示を受けておもむろに大きく位置を変えたツルギを見て嫌な予感を感じたマルクトは遠方から感じる神秘の気配に気付き、壁のような特異体を複数その方向と自分の間に割り込ませるように出現させる。
そしてその予感は的中、その方角から極太の神秘のレーザーが直線上の廃墟を薙ぎ倒しながら飛来し、割り込ませた特異体を貫いてその威力を減衰されながらもマルクトをケテルと共に飲み込んで大爆発した。
遠く離れたビルの屋上から攻撃を行ったハルナは無線からハナコへと確認を取った。
「倒せましたか?」
『勿論、まだまだピンピンしてますよ』
「でしょうね。この分だと位置を変えて狙い撃っても防がれるでしょうか?」
『攻撃自体は届いているので削りにはなるかと。避けられないようにタイミングはこちらで測るので、マルクトからの反撃にさえ注意すればあまり大きく移動する必要はありませんよ』
「ではそのように。皆さんで勝ちに行くとしましょうか」
(剣先ツルギ、浦和ハナコ、黒舘ハルナ…どれも元ミレニアム自治区
作戦立てて自分を殺しにくる強者3人を相手に相応の消耗は免れないだろうと嘆息したマルクトは、まず処理すべきは司令塔だとケテルに上空から俯瞰して見下ろしているハナコを撃墜するよう指示を出した。
それを受けたケテルは両肩のブラスターを滞空するハナコへと放つが…それを察知したハナコは空間を掴んで歪めると放たれたエネルギー弾を絡め取り、自身の周囲で振り回すようにして軌道を調整するとエネルギー弾をケテルへと投げ返した。
それをマルクトが特異体を放って受け止めさせることで防ぐが、その隙に距離を詰めたツルギがどこかからへし折って来た電柱を振り回してケテルの脚に叩きつけ、その衝撃によって体勢が崩れたところにケテルの下側に潜り込もうとしたツルギだったが、そうはさせまいとマルクトは
「チッ…どんだけいるんだ…!」
『昨日辺りからキヴォトス各地に溢れかえっていた特異体が急激に数を減らしたそうですし、わざわざ回収して回ったんじゃないでしょうか?一度離れてください。ハルナさんがまた撃ちます』
『出して来るならその分たいらげるだけ、わざわざバイキング形式で用意してくれるとは気の利いたこと、ですわ!』
ケテルと人型の特異体達からツルギが飛び退いて距離を取った直後、ハルナの放った『グラニテブラスト』のレーザーがそれらを飲み込む。
直前にマルクトが再び壁となる特異体を出して緩衝材にした為マルクト本人やケテルにはそこまで大きなダメージは与えられていないが、人型の神名特異体の方は今の一撃で全て消し飛んでいた。
しかしそれでもまだまだマルクトの手持ちは尽きることなく、新たに数十体のユスティナの複製特異体と人型の神名特異体を追加してツルギやハナコを狙い撃たせる。
「一々相手してたらキリがありませんね…ハルナさんの攻撃を通していくにもあの負傷具合からすると時間が掛かりすぎますし…ハルナさん、もっと出力上げることとか出来ませんか?」
『出来ないことはありませんが…十分にダメージを与えられる攻撃だと流石に回避してくるでしょうね。それにわたくしとて神秘の総量には限界がありますので、この砲撃もそう何度も続けられるものではありませんわ』
「前にクロコさんと戦った時はノリノリで撃ちまくってたじゃないですか」
『今回は楽しむのは度外視で勝ちに行ってますので』
「はぁ…ツルギさん、ひとまずあの大きな特異体を仕留めてマルクトを引きずり下ろす事は出来ますか?」
『雑魚共の妨害が入らなきゃあの程度なら一気に叩き潰せる。お前1回降りて来て手伝え』
「そうは言っても私もマルクトにターゲットされてますし…ではこうしましょう。ハルナさん、拡散する方でお願いします」
『承知しましたわ!』
ケテルやその他特異体達からの猛攻を捌きながら攻略法を探っていく3人。
マルクトを倒すにはまずケテルからどうにかする必要があると判断したハナコは事前に考えていた作戦の内の1つを提案すると、それに沿って即座にツルギとハルナも行動に移した。
超遠距離から構えていたハルナは発射した『グラニテブラスト』のレーザーを複数に拡散させ、それらの軌道を操作して低級の特異体を薙ぎ払っていく。
また一部のレーザーを回り込ませて直接ケテルやマルクトも狙うが、そちらは壁となる特異体で防がれてしまう。
だが邪魔な特異体は一掃しマルクトの意識もレーザーの方に向いたこの一瞬は明確に無防備な隙となり、それをツルギは見逃すことなくケテルへと飛びかかった。
ケテルは両肩のブラスターでそれを迎え撃とうとするが、上空からハナコが投下した爆弾による爆発の衝撃でケテルの機体が僅かに傾き、ブラスターから放たれたエネルギー弾がツルギの下を通り過ぎてしまう。
「おぉらぁぁぁぁぁぁ!」
「やばっ…」
咄嗟にドローン型の神明特異体を出現させるマルクトだったが、それを即座にハナコが撃ち抜いて鎮め、遂にケテルにまで到達したツルギは両腕を振り上げ───ケテルへと振り下ろしてそのボディを地面へと叩きつける。
胴体部分から地面にめり込み、腕を振り下ろされた部分が大きく陥没したケテルはそれでもまだギリギリ致命傷には至らなかったのか両肩のブラスターを直上に向けると、体内のエネルギーを暴走させて大規模な自爆を行った。
「ぐぅっ…く、マルクトォォォォ!」
「分かってはいたけどタフだね〜、君も」
「がっ…!」
自分は特異体を盾にして爆発を受け流したマルクトに、あの爆発を至近距離で受けてなおピンピンとしたツルギが襲い掛かる。
しかし大地を割るパワーを有するツルギとはいえ相手はあの聖園ミカを相手に肉弾戦で渡り合えるマルクト。
力任せなだけで攻撃を当てられるほど楽な相手ではなく、振り抜いた拳は軽く逸らされてカウンターのボディブローがモロに叩き込まれた。
「さ〜て、どうせ手の内は割れてるだろうしこっちも使おっかな」
ケテルの自爆によって巻き起こった爆煙の向こうに吹っ飛んで行ったツルギを見送ったマルクトは、頭を掻きながらそう呟くと…爆煙に紛れて背後から迫っていたハナコへ鋭い視線を向ける。
「『
「『
「あぐっ!?」
「ふん、司令塔がわざわざ近づいてくるなんてご苦労な事だね」
神秘での防御をすり抜けてダメージを与えることが可能な『
地面に押し付けられ骨がミシミシと軋む音を聞きながら苦痛に喘ぐハナコだったが、それでも視線は強くマルクトを見上げていた。
「…?」
(いや…やっぱり流石にこのタイミングで浦和ハナコが攻めてくるのはおかしい───しまった!)
今の攻撃が明らかに不自然なものだと気付いたマルクトは突如付近に沸いた強大な神秘の気配へ対応が遅れてしまう。
その上、重力の秘儀…『
特異体を出して盾にするにも間に合う速さと距離では無い。
つまり次の一撃は…防げない。
「ん、殴る」
「ぐはっ…!?」
煙の奥からココナの秘儀で転送されてやってきた彼女───砂狼クロコによる全力の殴りはマルクトの顔面にクリーンヒットし、マルクトは廃墟を幾つも貫通して吹き飛んでいく。
あれで致命傷になるほど楽な相手では無いが、ようやく入った有効打に地面にめり込んでいた身体を起き上がらせていたハナコは意地悪に表情を綻ばせた。
「…無事?」
「死ぬところでしたよ…思ったより威力ありますねあの重力の秘儀。クロコさんはお気を付けて」
「ん、そうする。ツルギとハルナは?」
『こちらはまだまだいけますわ』
『…すぐ戻る』
「だそうです」
「なら良し」
「いったぁ…うぇ、頭が揺れる…勘弁してよ、こういうのは恐怖じゃ治せないのに…」
顔の損傷は恐怖で再生したマルクトだったが、脳が揺らされたことで酩酊したような感覚に陥り真っ直ぐ立つこともままならない状態に追い込まれる。
取り敢えず適当な特異体を大量に出して自分を守らせるが…それら全てを単純な神秘放出でまとめて消し飛ばしたクロコが再びマルクトを狙う。
「特級複製特異体”シロクロ”」
「!」
が、マルクトが新たに出現させた特異体…2体の人形のような特異体、シロクロが秘儀を発動させるとクロコはまるで時間が止まったようにピタリとうごきをとめてしまう。
正確には少しずつ動けてはいるが、それだけ動きが遅くなれば無防備も同然。
とはいえ未だ狂った感覚が回復しないマルクトは自分で追撃することが出来ず、攻撃をシロクロに任せて少しでも安全を確保しようとその場を離れようとする。
「…鬱陶しい」
「えっ…うっそぉ…」
そんな中クロコは神秘を反転させた恐怖を体外へとアウトプットすることでシロクロの秘儀を中和して影響から逃れ、直後にシロクロの頭を掴んで直接恐怖を流し込むことで一瞬で鎮める。
そのあまりにもあまりな力技に困惑するマルクトにクロコは再度拳を叩き込もうとしたが…
「『
「っ!」
秘儀のインターバルが回復したマルクトは強力な重力をクロコへと叩き付けた。
咄嗟に腰を落として踏ん張ることで地面に叩き伏せられることを防いだクロコだったが、この重力下でまともに動くことは出来ず硬直してしまう。
ゆっくりと感覚が回復し始めてきたマルクトは重力が持続する約6秒の間に手元に特異体を一塊にした神秘の渦を作り上げた。
「特異操術 極の番『うずまき』」
極小とはいえ今マルクトが保有する特異体数百体を固めた『うずまき』
クロコとはいえダメージは避けられないそれだったが、ギリギリで重力の効果時間が終わり回避行動を取れたこと、マルクトの狙いが精確ではなかったことが幸いして放たれた神秘のエネルギーがクロコの頬を掠める程度で終わる。
次『
その先に待ち構えていたのは、両腕を構えたハナコ。
「『
突き出されたハナコの両腕がマルクトの胴体を捉え、神秘による防御をすり抜ける打撃がマルクトを吹っ飛ばす。
さらにその先に回り込んでいたツルギが身体を捻っていた。
「ぶっ…壊れろぉ!」
ツルギが渾身の力でマルクトを蹴り上げる。
バキバキッ、と骨が砕ける音と共に空高く打ち上げられたマルクトを狙うのは、ありったけの神秘を収束させ最大出力で放ったハルナ。
「極力クロコさんを消耗させずにKeyとの戦いに向かわせるのが私達の目的ですので…これで終わってくれたら嬉しいですわ」
空を切り裂くレーザーがマルクトを撃ち抜き…マルクトは煙を吐いて落下する。
そんなマルクトの落下先に、クロコとハナコ、ツルギが向かった。
(行ける…!一気に仕留めきる…!)
3人との連携もありマルクトを押せている現状、この期を逃せばそうそう好機は訪れないとクロコ達はラッシュを仕掛けようとして───
「神秘解放『
「「「「!」」」」
マルクトの背後に無数のケーブルらしきものが乱雑に伸びるタコやイカのようにも見える構造体が出現する。
「私が返します…!その間に皆さんは攻撃を───
───神秘解放『オネスト・ウィッシュ』」
クロコの消耗を最低限にしなくてはいけない以上、領域への対抗はハナコが行った。
事前に聞いていたマルクトの『閉じない領域』
それを行えるものがよりによって敵側にしかいない為検証することは叶わなかった神業。
押し合いが出来るのかは疑問だが、少なくとも簡易領域ではまともに対抗出来ないことは確認済みなので誰かが神秘を解放する必要がある。
相手はクズノハをもってして結界術の天才と謳われるマルクト、押し合いになったとしてもそう長くは持たないだろうとクロコとツルギは一気に攻めてマルクトの領域の維持を崩そうとするが…
「…!?そんな…!?」
「嘘だろ…!?」
「これは…まずい…」
「…フッ」
マルクトの背後の構造体、その目に当たる部分が光を放ったその瞬間───ハナコの領域の結界、その外側にまで及んでいたマルクトの領域の必中効果が、ハナコの領域の外殻を押し潰し一撃で破壊した。
それは奇しくも、D.U.の方でホシノの領域がKeyの領域によって破られたのとほとんど同じタイミングで…
「『
マルクトの領域の必中効果による重力が、範囲内のクロコ、ハナコ、ツルギをまとめて押し潰して地面へと叩きつけた。
平時に使うのとは違って領域が続く限りは持続する重力。
マルクトは身動きの取れなくなったクロコ達にトドメを刺そうとするが、超遠距離にいた為に領域の範囲にいなかったハルナが最大出力の『グラニテブラスト』でマルクトを撃ち抜いたことで先のダメージにより元々領域の維持が弱かったのもありマルクトの領域が崩壊する。
(しかし…まずいですわね。この距離からでは御三方を守りきれない…やはり私が前に出て直接戦うしか…幸い今は神秘を解放した直後で秘儀も焼き切れているでしょうし…ん?あれは…)
(黒舘ハルナが健在か。まあ如何に飛び抜けた神秘出力がある彼女でもKey程ではないし、肉弾戦なら聖園ミカより劣る。あれともう1人の方も秘儀無しで捌けてた私なら黒舘ハルナ1人相手にするくらいどうって事ないね。まあでも気になるのは…)
ハルナが対処を悩んでいる間、マルクトも先程領域で攻撃した時の違和感によって倒れるクロコ達にトドメを刺しに行くべきか悩んでいた。
何故かと言えばクロコやツルギはともかく、その2人よりも耐久力では大きく劣るハナコを領域での一撃で殺し切れなかったという違和感だ。
既に戦闘不能に近いダメージは受けているようだが、それでもまだ息がある…確実に殺せる手応えはあったはずだというのに。
(何か…何かある。何か訳の分からない力が作用している。誰かの秘儀?人から死を遠ざけるような、そんな力が───)
「───全く、酷いと思いませんか?人を呼び付けておいて『そこに居てくれるだけで良い』だなんて。私は置物ではないのですよ?」
「…君は?」
思考するマルクトにそう声を掛けたのは、頭の上でアホ毛を揺らし頬を指でトントンと叩くピンク色の髪の少女。
本来連邦生徒会長用に仕立てられる制服、それを模した衣装に身を包む変人、或いは…超人。
「私は聞き分けが良いので指示には従っていましたが、ピンチなようなのでいても立っても居られなくなりましてね───
ドヤ顔で喋っていたカヤだったが、マルクトはようやく感覚が回復したのを良いことに話の途中でムカデの特異体の群れを放ってカヤを叩き潰してしまう。
「…不知火カヤ防衛室長…いや、元防衛室長だったかな。そういえば連邦生徒会の面子にも何人か秘儀を覚醒させてたっけ。まあでも覚醒タイプの
そう吐き捨てたマルクトはクロコ達に確実にトドメを刺そうとカヤの方から目を離す。
しかし───
「な、何をするんですかこのおっぱい星人!矯正局にぶち込んでやりますよ!?」
「あれぇ!?」
地面に空いた穴から這い出たカヤは見た目はボロボロでも肉体的にはどうやらまるでダメージを負っていないらしく、その事実はマルクトを困惑させるには十分だった。
客観的に見ても純粋な肉体強度も神秘の総量、出力も大したことが無い筈のカヤがこれ程までに異様な耐久性を持っていることが恐ろしく不気味で…そして恐ろしく興味を惹かれたのだ。
「困ったものですね…ですがそんな無礼にも目くじらを立てない器の大きさを持つものこそが真の超人であると…そう思いませんか?」
「…そうかなぁ?」
配役
縦ロールお嬢様…クルミ(麗美と兼任)
ちなみに原作で人が死ぬ度に「これからこのキャラ殺さないといけないのか…」と配役を割り当てた生徒の末路に頭を抱えるのが辛いところです