ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作240〜241話までの範囲でお送りします


バカサバイバー!!〜生き残れ〜

 

無数のムカデの特異体が走り、マルクトの指揮のもとで獲物を的確に追い詰め喰らいつく。

本来3級以下程度の力しかないこの特異体でも圧倒的な数の暴力とマルクトの神秘による支援での強化を受け、相手が特級レベルであろうと通じる攻撃力を持っている。

それでも…

 

 

「超人ですから効きませ…イダダダダ!?」

 

(…尽く私の秘儀が無下にされるなぁ)

 

 

統率の取れた、濁流のような攻撃を受けてなおカヤは痛がる素振りは見せるものの肉体に物理的な損傷は見えず、そのリアクションもふざけたようなものだ。

奇妙なのはカヤからマルクトに対しての攻め手が甘いことだが…それを差し引いてもあの説明不可能な尋常じゃない防御力に加え、何故か仕切り直そうとしても意識がカヤに吸い寄せられる謎の引き付け効果によってマルクトは完全に足止めを食らっていた。

 

「フフフ…あなたではこの”超人”に勝てませんよ!」

「…うん?」

 

マルクトは真面目に戦闘をしていたつもりでも、カヤはどこまでもふざけ倒し、カヤの秘儀と思われる力がマルクトにまで及んだのか気が付けばマルクトはウサギの耳状のアクセサリーを着けられていた。

それを取って放り捨て、カヤの「似合ってましたのに…」という何故か残念そうな呟きを無視しながらマルクトはカヤの秘儀について考察を進めた。

 

(恐らく彼女の秘儀は事象の創造…イメージの具現化と強制って所かな。下手をすれば私が培ってきた神秘のノウハウがまるで通じないし、このままじゃ永遠に倒しきれない。とんでもない秘儀に目覚めたものだね…でも、どんな秘儀にだって穴はある)

 

「…君、確か不知火カヤ元防衛室長だよね?失脚した後は大丈夫だった?」

「む、デリカシーのないことを聞いてきますね。ですが無問題!この私はちょっとやそっとのことではめげません!何故なら、私は…”超人”ですから!」

「君の威容だと下等超人がいいところじゃない?」

「誰も筋○マンの話はしてませんよ。あと身体的特徴の侮辱は今どきコンプライアンス的にNGです。控えなさいおっぱい星人」

「う〜んブーメラン。私だって初めてこの身体使った時こんな無駄に大きいものぶら下げてて困惑したよ。古代から生きてて一番のびっくりだよ」

「そうです。乳なんて大きくたって邪魔なだけ。つまりそんな無駄な枷をとっぱらった私こそ真の超人というわけです!」

「いや明らかにコンプレックスあるよね?羨ましいと思ってるよね?悪いことは言わないから、本当に邪魔なんだってこれ」

「うるさいですね!好き勝手身体を乗り換えられるあなたに私の何が分かるんですか!この同人誌向きキャラ!」

「とんでもない罵倒を受けた気がする」

 

(…なんか、この人思ったより話が通じますね)

 

マルクトの話から始まり、一旦戦闘が中断されて続く掛け合い。

カヤとしては当面時間を稼げれば良いので無理に戦闘を続ける必要はないので話に応じるが、事前に聞いていたよりは普通に話せる相手であることに親近感のようなものを覚えていた。

そうなってくるとカヤとしてもやりづらさが出てくるが…

 

「少し良いですか?」

「ん?何かな?」

「あなたは何故このようなことを?人に殺し合いなんてさせたり、同化?とやらをしようとしたり…」

「えーと、面白そうだから?この話今日2回目だから端折るけど、強いて言えば知的好奇心かな」

「では、もっと面白いことがあればそんな凶行には及ばないということですね?」

「どうかな。君に出来るの?」

「当然!超人とは人々を笑顔にするもの…つまり人を笑わせることに長けているわけです!あなただって顔に『笑わせてみろ』って書いてますしね」

「なんだって!?」

 

カヤの秘儀によって実際にマルクトの顔に『笑わせて』の文字が具現化し、マルクトもまたどこからか取り出した手鏡でそれを確認して大袈裟にリアクションを取っている。

本当にこの人ノリが良いなと思いつつ、カヤは構えを取って大きく息を吸った。

何をするつもりなのか、大人しくそれを眺めているマルクトの顔には『気になる』の文字が浮かぶ。

 

「良いでしょう、そんなあなたにこの一発ギャグを披露しましょう!著作権フリーですので何度でも擦って下さい───

 

 

 

 

 

 

 

 

───余計なお世WiーFii(わいふぁーーーい)!」

 

 

「…はぁ」

「そのため息は失礼じゃありません?」

「あのさぁっ!」

「!」

 

露骨にガッカリしたような態度を取るマルクトにカヤは苦言を呈するが、それを跳ね除けるようにマルクトは遊びのない声色でカヤにダメ出しを始めた。

その先程までとの雰囲気の変わりように、カヤも思わずビクッと肩を跳ねさせる。

 

「それって多分喫茶店とかで電波クソ弱なWiーFiに勝手に繋がりそうになった時に生まれたギャグなんだろうけどさぁっ」

「めちゃくちゃ分かってるじゃないですか!」

「まあこっちもそれなりに超人やってるつもりだからね」

「ま、まさか…悪魔超人…?」

「筋○マンの話じゃないって言ったのそっちでしょ。じゃなくてさあ、さっきのギャグってどう考えても普通の大衆には伝わりにくいよね?」

「ギクッ」

「例えば一時期プチブームになった小鳥遊ホシノの『暑くて干からびそ〜、動いてないのに暑いよ〜』ってギャグあるじゃん?」

「あれ本人ギャグのつもりで言ってないと思うんですけど」

「あれって『暑くて干からびそう』、『動いてないのに暑いよ』っていうコンパクトなフリとオチでまとめられてるから理解しやくすて、その上で本人の言い方も相まって面白いんだよね。君の『余計なお世WiーFi』はオチの部分しか無くて勢いで誤魔化そうにもよく分からないからあんまり面白く無いんだよ」

「くっ、ロジカルに否定してくるから否定できない…!」

 

話の主導権を完全にマルクトに持っていかれたことでメンタルにダメージを負ったカヤ。

そるがきっかけとなったのか、カヤの秘儀の効力はマルクトに都合がいい方向に誘導され気が付けばカヤはサンクトゥムタワーでよく見た連邦生徒会の会議室の空間に立っていた。

向かいの椅子には連邦生徒会の役員用の制服に身を包んだマルクトが座っており、頬杖を着いてカヤにダメ出しを続ける。

 

「君ってさ、独りよがりなんだよねぇ」

「…っ!」

「超人だのなんだの言い訳並べるよりも、もっと大衆を意識しなよ。人を笑わせたら幸せにできるかもだけど、人に笑われても幸せになる人ってあんまりいないよ?」

「そんな、こと…!」

「ってわけでお疲れ様ー!」

「ぐふっ!?」

 

度重なるダメ出しでカヤのメンタルが揺らいだ所を狙い、マルクトは勢いに任せてカヤの腹に肘打ちを叩き込んだ。

先程まではどんな攻撃もふざけながら受けて無効化していたカヤだったが、この攻撃は堪えたのか苦痛に表情を歪めて吹っ飛んで行った。

 

「おや、今回は手応えがあったね。秘儀の発動条件は本人の自信と確信かな?」

 

カヤの秘儀を紐解き、その性質を暴いていくマルクトは精神攻撃が有効だと判断して方針を決めると、吹き飛んで行ったカヤの後を追った。

対して咳き込みながらも何とか立ち上がったカヤは迫ってくるマルクトを見てまだ強気を保とうとしていた。

 

「私は、超人なんですよ…!?笑わせられなくたって、笑われたって…!人々を笑顔にして、幸せにするのが私の超人としての使命なんです…!あなただって、笑顔になれるような…!」

 

「…私が言うのもなんだけど、自分の立場分かってる?私は君達を皆殺しにしようとしてる敵なんだよ?そういう所が独りよがりだって言ってるの」

「…!…っ〜〜〜!にらめっこしましょう!」

「うん?」

 

「笑うと負けですよ…あっぷっぷ!」

 

 

威勢は、虚勢に。

少しずつ積み上げてきた精神性が崩れていくのを実感したカヤはそれを誤魔化そうとマルクトににらめっこを仕掛け、目を見開いて特徴的なヤギのような瞳孔を晒し、更に頬を膨らませて渾身の変顔を披露する。

 

対してマルクトは…寄り目と鼻下に舌を届かせるような変顔に加え、額の縫い目を解き持ち上げた頭からは脳の代わりに詰まっていた球状の機械が展開されていた。

 

「ぶっ…」

「あっちむいてホーイ!」

「ぶべらっ!?」

 

そのあまりにも予想外な変顔(?)に思わずカヤは吹き出してしまい、頭を縫い直したマルクトはすかさず拳を振り抜いてカヤの顔面を強打する。

地面を転がったカヤは殴られた痛み以上に、あんなにも面白いマルクトの事が認められず悶えていた。

 

「なん、なんですか…超人ってびっくり人間のことだったんですか…あんなのズルいじゃないですか…!」

(あの人の方が…超人…?私より…?よく考えたら人の体を乗り移って何千何万年も生き続けてるって馬鹿じゃないですか?そんなの凄いに決まってるじゃないですか。なんなら胸も超人級ですし…いや超人級の胸ってなんなんですか、エロ本の話でもしてるんですか?)

 

突きつけられた相手の凄さ、自分の未熟さ。

それでもカヤはまだ折れず、”超人”を貫き通そうとする。

自分が目指したあの連邦生徒会長(超人)はこんなことでは挫けないと、もっと上手くやるはずだと。

 

(そうです、私はまだまだ大丈夫です…!私は超人…)

「私は───」

 

そう自分に言い聞かせ、顔を上げたカヤの目の前に転がっていたのは───かつてD.U.第1結界(コロニー)で戦い、僅かな時間ではあったが確かな絡みのあった相手である、瓦礫の下に倒れるニコの死体。

 

それを見た途端カヤは息が詰まるような思いを抱き…カヤの後ろからゆっくりと歩いてきたマルクトがそんなカヤに声を掛けた。

 

「どうしたの?笑いなよ───超人なんでしょ?」

 

(笑え…ませんよ…)

 

残酷な現実、非情な事実。

幸せになれなかった人がいるという目の当たりにしたカヤは、自分の中で何かが音を立てて崩れていくのを聞いた。

 

 

 

(私は…どうして超人を目指しているんでしたっけ…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『キヴォトス安全化政策!これで行きましょう!』

 

カヤが連邦生徒会の防衛室長として会議に出席していたある日のこと。

各々の室長が政策を提案し、それを吟味し合う場でカヤが提案したのはキヴォトスにおける銃火器の所持の規制や破壊行為、迷惑行為を厳しく取り締まるというものだった。

外の世界ならばあって当然の政策…というより法律だが、ここはキヴォトス、その提案はそう受け入れられるものでは無かった。

 

『お言葉ですが、カヤ防衛室長。既に住民の99.9%以上に普及しているそれらを規制するなど不可能ですし、銃火器は私達にとっても文房具と変わりない程にありふれたもの。当然市民からの反発は強いでしょう』

『それに今更このキヴォトスで安全を謳うなんて…夢物語もいい所ですね。お高い椅子の上でふんぞり返っていると視野が狭くなるものなのでしょうか』

『なっ…ぐぅ…』

 

役員からの指摘に反論出来ず、カヤは歯噛みする。

実際、常日頃から銃撃戦が行われ一部のぶっ飛んだ生徒によって爆発事故が起きるのは日常茶飯事、それに加え特異現象による被害だって増え続けている今の世の中このキヴォトスに安全と言える場所などほとんどないだろうし、新しく作ることも簡単では無い。

 

それをココロの何処かで理解していながらも、カヤは平和というものに憧れていた。

何故なら、平和ならきっと皆が幸せになれるだろうから。

 

 

 

『…平和なんて、誰もが望むはずです。なのに何故こうも理解されないんでしょうか…』

『そういう世界だからじゃないですか?このキヴォトスが。平和を謳うには今のキヴォトスはあまりにも無法が溢れかえりすぎていますから』

『解せませんよ…』

 

休憩室で同席するリンに愚痴を吐き出すカヤは大きく息を吐くと椅子をくるくると回すと窓の方を向いてピタリと止まった。

今こうして外を眺めるだけでもチラホラ銃撃の光や誰かが暴れたのかボヤが起こっているのが見える街並み。

これが日常なのだからたまったものでは無い。

 

『それでも、連邦生徒会長がいた頃はもっと穏やかだったはずです!あの人の手腕なら、より多くの人が幸せに…!』

『ですが、あの人はもう居ません。そして私達はあの人にはなれません。私達には私達に出来る範囲で最善を尽くすしかないんですよ、カヤ防衛室長』

『…それは違います、リン行政官。誰かがやらなければ、誰かがならなければいけないんです。あの人のような”超人”に』

『…それを否定はしません。ですが、何度も言うようにあの人はあの人です。それをゆめゆめ忘れないように』

『…』

 

 

 

 

 

『ですからぁ、良いですかカヤ防衛室長?そんな無理な政策通るわけないじゃないですか』

『やってすらいないのに無理だなんて、誰が決めるんですか!』

『どう考えても無茶で損にしかならないような政策なんて試すことも出来るわけないでしょう!人の理性に夢見すぎなんですよ貴女は!』

 

今日も会議はカヤの提案から荒れ始める。

懲りずに銃火器の規制や取り締まりの強化を実施しようとするも、上手くいく筈がないと他の行政官達は切り捨てる。

連日これが続き遂にはカヤの部下すら不信を口にし始める始末だ。

 

『連邦生徒会長は出来ていたじゃないですか!完全に犯罪や騒動を無くすことは無理でも、今よりずっと抑制出来ていました!』

『それは連邦生徒会長がいたからこそです!貴女は連邦生徒会長ではありません!』

『後任すら未だ立てずに席を持て余している凡人がたむろしていれば当然そうなるでしょうね!導く人がいないからこうなっているのです!なんなら、私が後釜に着いても良いのですよ!』

『そんな簡単な役職では無いから後任が決まらないんでしょう!いい加減にしてくださいよカヤ行政官!私達の手は貴女が思っている以上に狭く小さいんです!誰もが連邦生徒会長のような”超人”の如き手腕を振るえる訳では無いのですよ!平和なキヴォトス?一体いつまでそんな甘い楽園のような理想論を語るつもりなんですか!』

 

議論と言うには名ばかりの口論は時間をかけて諌められて、結局今日の会議はそれに話題のほとんどを持っていかれたことでまるで進展もなく終わりを迎える。

誰にも理解を示されることなく否定され続けたカヤは八つ当たり気味にカツ、カツ、と靴音を立てて帰り道に着いた。

 

『何故誰も着いてこないのですか…何故誰も分かってくれないのですか…!平和を願い、目指すことの何がいけないんですか…!あの人と私…一体何が違うんですか…!』

 

自宅に帰り、乱暴にソファに腰掛け制服の上着を脱ぎ捨てたカヤはしばらく背もたれに体重を預け項垂れていたが、壁にかかった連邦生徒会の室長達の集合写真…かつて健在だった連邦生徒会長が中心となって映るそれに目を向ける。

 

『…いつまでって…まずは馬鹿みたいに毎日繰り返される銃撃戦を減らして建物や住人への流れ弾での被害が無くなるようにして…せっかく皆さん頑丈なんですから危ないことをせずに健やかに生活出来るようにして…特異現象の対策には全霊で取り掛かって、少しでもそれらに脅かされる人が居なくなるようにして…それで…それで…』

 

あの時、突如として連邦生徒会長が失踪した日。

あの日から連邦生徒会は大きく変わってしまった。

或いは、火種は既にあったのかもしれない。

連邦生徒会長という偉大な超人が、それを抑え込んでいたのだろう。

 

カヤは考える。

果たして自分はあのような超人になれるのだろうか。

連邦生徒会長といえど人間であり、あれが人間の行き着く先ならばカヤにだって辿り着けない道理はない筈だ。

彼女には出来て、自分には出来ない。

そんなことが、ある筈が…

 

『いつまで…そうですね。皆が幸せになれるような…皆が笑顔になれるような、そんなキヴォトスを作るまで…』

 

 

 

(なんで、私は超人を目指したんでしたっけ…)

 

 

 

カヤは思い出す。

自分の夢を、自分の志した原点(オリジン)を。

 

 

(そう、ですね。私は元々真面目で正義感が強く、人に厳しい嫌な子供でした。当然沢山嫌われて…それが寂しくて、だから自分を変えたくて。自分なりに皆に貢献して、喜ばせて、ありがとうって言って貰えて…私は悪者じゃないんだって分かってもらえて、それが嬉しかった。友達もどんどん増えて…でも私には本当の意味での理解者は出来なかった)

 

 

カヤは懐古する。

あの日自分に手を差し伸べた、”超人”を。

 

 

『そこの君、どうしたの?1人でこんなところで…寂しいの?人を喜ばせたい?人を幸せにしたい?そっか…難しいことだよね。でも、その意気があるならきっと出来るよ。だって誰かを想ってあげられるのって、すごく立派な事でしょ?』

 

 

(そんなあなたが、眩しかった。私は、そんな崇高な精神の持ち主なんかじゃなかったのに…私は自分が認められたかっただけ…自分を知ってもらって、もっと皆に凄いと思われたくて、寂しくなりたくなかっただけの…”凡人”なのに)

 

 

カヤは問いかける。

否…問いかけたのは、在りし日の小さかったカヤだった。

 

 

『超人ってなあに?』

『皆を幸せにして笑顔にする凄い人のことですよ』

『じゃあ、皆が喜んでくれてるし私も超人?』

『それは…違うんでしょうね。きっとそこは重要じゃないんでしょう。もっと奥深い話…他の人には関係ない、裏の話なんですよ』

『…それって楽しいの?なんで超人になりたいの?』

『結果だけが全てではないんでしょう。そう思うことが…そう願う強い心を持った人が、本当の意味での超人なんです』

 

 

 

(それなのに、私はチグハグで…大勢を傷付けて不幸にする悪役(マルクト)すら私は敵として立ち向かえないでいる。私自身に、その覚悟がないままで…)

 

 

 

『…あの人は、連邦生徒会長は、そんなことを言いたかった訳じゃないと思うんです。あの人なら敵も味方も巻き込んだ大円団を作れるのかもしれません。あの超人なら…ですが、私はあの人のようにはなれません。どこまで行っても私は私なんてわすから』

『じゃあ…どうするの?』

『あの人の言葉を都合のいいように解釈して、盲信して、諦めていた。私は超人というものに向き合えていなかったんです。いつからか、真面目にそれを目指すことをしなくなっていました…自分が傷付きたくなかったから。でも、それも───今度こそ、終わりにします』

 

 

 

 

 

 

 

 

「…?」

 

逃げ惑うカヤを追っていたマルクトは、視線の先で綺麗なフォームで土下座をするカヤの姿を見てその足を止めた。

 

(なんて綺麗な土下座…私があの域に至ったのは20代後半だったかなぁ…いや、私は一体何を考えて…)

 

 

 

「ごめんなさぁぁぁい!!」

 

不可解な自分の思考にマルクトが困惑していると、土下座をしていたカヤが声を張り上げてマルクトに謝罪した。

思考を中断しそちらに意識を移したマルクトは、カヤが顔をくしゃくしゃにして情けなく涙と鼻水を垂らす様を見て「ふぅん?」と感心したように唸る。

 

「嘘吐きました!私には誰も彼もを平等に幸せにすることなんで出来ません!皆が幸せに過ごせるようなキヴォトスを作れるような、誰もを平等に幸せにできるような超人になることなんて私には出来ないんです!それなのに見栄を張って、自分勝手にあなたを認めさせようとして…皆の苦労も無駄にしてあなたの幸せまで願った!私がどこまでも甘くて、有り得ない楽園みたいな理想論を抱いてるから!」

 

「…そっかそっか。超人カヤちゃんの本当の姿は何にもできない凡人だったって事だね。後世に残したい程の無様さだよ」

 

「それでも…」

 

「…ん?」

 

カヤの激情の吐露に感心しつつもそれはそれで失望しようとしていたマルクトだが、続く言葉に興味を惹かれ話の続きを待つことにした。

一つ一つ、飲み込むようにして自分の本心を受け入れたカヤはゆっくりとその言葉を紡いでいく。

 

「それでも、私は…私なりの超人に、なりたいんです…あの人のような完璧な超人になれなくても…私以外には出来ないような、私だけがなれる、そんな超人に…!」

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「皆を笑顔に、幸せにする。それを目指し続けることを、ただひたむきに…例え成せなくとも、後悔のないように…目標に向かって真っ直ぐ進めたんだって、自分を認められるように…」

 

 

 

(私が本当に認められたかったのは、私自身だったんです)

 

 

 

震える身体に鞭打ち、立ち上がったカヤは土で誇りの制服を汚しながらも力強く拳を握り締めた。

泥に塗れようと、その誇りは誰にも恥じないものだと信じて。

連邦生徒会長のような完璧にならなくてもいい、泥臭い超人になれると信じて。

 

 

「私は、それでも!あなただって幸せにしてみせます!あなたを倒す為に戦った皆の思いも無駄にはしません!」

「…それ、矛盾してるってこと分かってる?」

「超人ならそんな矛盾だって両立させられるんですよ…良いですか───」

 

 

 

 

 

 

 

 

───最高に幸せになって死んでください!あなたがもう要らないと言うまで楽しませた上で倒してみせます!他の皆さんはきっと納得出来ないでしょうけど…私に出来る、不平等に平等な幸せを与えられる、そんな超人になるんです!」

 

「…出来るの?君に」

 

 

顔に『わくわく』という文字を浮かべて、マルクトは再起した超人(カヤ)と向き合ったのだった。

 





小ネタ

>>>カヤ「誰もを平等に幸せに出来るような超人になることなんて私には出来ないんです!」

連邦生徒会長「え、誰それ怖…」
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