ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作242〜243話までの範囲でお送りします
暖かい目で読み進めて頂けると幸いです


バカサバイバー!!〜さんざめけ〜

 

 

「特級複製特異体”ゴズ”」

 

 

再起した超人(カヤ)、対するは特級の悪意。

マルクトが出現させたのは、エンターテイナー風の装いをした人形のような特異体。

アミューズメントパークに現れる怪にして、観測されることなき芸術。

 

恐るべきショーが、襲いかかる───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぶなーーーい!!」

「うわぁぁぁぁぁ!?」

 

そこに駆け抜けた列車が、マルクト諸共ゴズを跳ね飛ばして一撃で屠ってしまう。

綿や布が辺りに散らばる中地に伏せピクピクと痙攣するマルクトに、列車の窓から顔を出したカヤがその身を案じた。

 

「大丈夫ですかー?でも急に飛び出してきたら危ないですよ」

「10:0で君が悪いよ…」

 

抜け抜けと言うカヤにマルクトはのっそりと起き上がると、いつの間にかヴァルキューレの警備局の制服に着替えて窓から半身を乗り出すカヤへと近付き、悪戯な笑みを浮かべて帽子のツバをクイッと上げた。

 

「だって君、免許持ってないでしょ?」

「うっ…」

「ほらほら身分証を出しなよ。列車運転免許証があると嬉しいなあ〜?」

「くっ…持っていきなさい泥棒!」

「泥棒て。どれどれ…いや大人のカード渡されても困るよ!」

 

カヤから受け取った黒く煤けたボロボロのカードを八つ当たり気味に地面に投げつけるマルクト。

しかし勢いが強すぎたのかカードが脆すぎたのか、地面にペチンと叩きつけられた大人のカードはボロボロに崩れて見るも無惨な姿になってしまう。

 

「…なんてことを!?救急医療部か救護騎士団を呼んでくださいよ!」

「事態は一刻を争うんだよ!?ええい、こうなったら私達でやるしかない!」

「カート持ってきてください!」

「ここにあるよ!大人のカードさん聞こえますかー!?」

 

トレイの上に拾い集めた大人のカードの破片を担架に乗せて緊急搬送するカヤとマルクト。

カヤは白衣に身を包みマルクトはナース服とお互いに気合を入れて処置に臨む。

 

手術台の上に乗せた大人のカードにスキャンを当てて状態を解析したカヤは、診断結果を基にどのような処置を取るべきかの最善策を導き出した。

 

「意識レベルFF X-II!電気ショックをお願いします!」

「除細動器、行きまーす!」

 

装置の動作を確認したマルクトは両手に持った除細動器をカヤに押し当てて起動する。

 

「なんで私ぃぃ!?」

 

電流が走りカヤのシルエットが瞬き、一瞬ガイコツが見える様を幻視するも直後にカヤがダウン。

そうしている内に大人のカードの心音が停止して心電図からツーと甲高い音が鳴る。

 

目の前の患者1人救えなかったことにマルクトは涙を流し、カヤは己の不甲斐なさに手術台を叩いた。

 

「間に合いませんでした…」

「現代医療の、限界…!」

「…仕方ありません。何事も過去に囚われるばかりではいけないのですから。それはそれとしてめっちゃ凹んだので私のことを尊敬してやまない後輩を集めてきてください」

「え?嫌だけど」

「凹んでるって言ってるでしょうが!」

「嫌でーす」

 

聴診器を振り回してマルクトを叩こうとするカヤだが、マルクトはそれをひらりひらりと避けて煽るように言い返す。

 

「なんですかそれはぁ!それが凹んでいる人に対する態度ですかぁ!」

「めちゃくちゃ元気じゃん」

「ならば仕方ありません。ここはフェアにジャンケンで決めるとしましょう」

「良いよ〜、私が買ったらモモフレンズのプレミアグッズ一式を譲ってもらうから」

「では行きますよ───」

 

軽くストレッチをし、腕を捻って準備を整えたマルクトとカヤは迫真の表情で向き合うと何か合図をするでもなく息のあったジャンケンを始める。

 

 

「「アリアリアリアリアリアリアリアリ───

 

 

 

───ヴァニタスジャンケンジャンケンポン!」」

 

それぞれが出したグーがお互いの顔面を捉え、仲良く反対方向へ元気に吹っ飛んでいく。

脚を地面に擦りながら踏みとどまったマルクトは、口と鼻から流れる血を拭って錐揉み回転してどこかへぶっ飛んでいくカヤを睨みつけた。

 

(この秘儀…!術者のイメージの具現化と強制どころの話じゃない!私のイメージすら取り込んで反応(フィードバック)させてくる!言うなれば…(ヘイロー)の共鳴!)

 

 

 

 

『問題です!』

 

デデン!とSEが鳴る中、司会のハナコに向かい合うようにカヤとマルクトは解答席の前に立たされる。

なんか巻き込まれたことに若干戸惑いながらもノリの良いハナコは直ぐに状況を理解し、手元に出現していたカンペに従って進行する。

 

「ふふふ、クイズでわざと間違えるなんて寒い真似はしませんよ」

「同感だね。私も嫌いなんだ〜…バカの振りをしたバカが」

 

『伝奇小説”青春物語”にて登場する覆面水着団のメンバー5人の内S.N社の令嬢という設定を持つ人物の名は…はい、マルクト選手!』

 

「簡単!クリスティーナ!」

 

『で〜す〜が〜』

 

「なっ!?」

「フッ、馬鹿ですね。お約束というものをご存知でないと見受けられます!」

 

『私の好きな四字熟語はなんでしょう?』

 

「知りませんよぉ!」

 

答えようの無い問題を出されたカヤは解答席のマイクをハナコへと投げつけるが、ひょいと避けたハナコは2人とも答えられないと見ると手元のスイッチを押してブッブー!というブザーを鳴らす。

 

『残念、時間切れです!答えは酒池肉林でした。ちなみに間違える度に私が1枚ずつ脱ぎますので気を付けてくださいね』

 

「いやそもそもあなた1枚しか来てないじゃないですか!」

「っていうかなんで秘儀解いてるの!?いつも大事な部分は秘儀で隠してたでしょ…ちょっ、その状態で脱いだら色々見えるって!」

 

『えー、激しい抗議があった為脱衣は辞めるとして、次からは代わりに罰ゲームとしてファラリスの雄牛の刑に処しますので悪しからず』

 

「「落差!」」

 

カヤとマルクトからのツッコミを受けシャツを脱ごうとするのを諦めたハナコはスイッチを操作してデデン!とSEを鳴らすとカンペを読み上げた。

 

『えー、次は一般常識問題です。司会は変わって…』

 

 

 

『私が担当しますわ!』

 

ハナコからマイクをパスされたハルナがパチンと指を鳴らすといつの間にかテーブルの前に座らされていたカヤとマルクトそれぞれの目の前に、銀色の蓋を被せられた皿が置かれた。

渋々といった様子で茶番に協力するツルギは2人に目隠しを付け、それを確認したハルナは用意されたカンペを読み上げる。

 

『これからお2人に挑戦して頂くのは味覚センスを確かめる問題ですわ!片や一般的な格安業務用マグロ!片や超レア物であるゴールドマグロ!AとBの2種のマグロを目隠しを付けた状態で食べていただき、どちらがゴールドマグロなのか当ててくださいな!』

 

「どうだいカヤちゃん。舌は肥えてる方かな?」

「これでも元防衛室長、会食の場に出ることなどザラにありますのでね。それなりに高級なものは食べてきたつもりですよ」

「私はジャンクフードとかも結構好きだけど、分析には自信があるからね。この勝負貰ったよ」

「ふん、ほざきなさい!」

 

『それでは実食スタートですわ!』

 

ハルナの合図でツルギが順番にカヤとマルクトの口にAとBのマグロを運ぶ。

2人はじっくりと口の中でそれぞれを味わい、舌触りや食感、口当たりの良さなどから普通のマグロとゴールドマグロを判断していく。

 

(Aは溶けるようななめらかさと脂の乗った旨みがあるのに対して…)

(Bは歯応えも悪く歯に引っかかるような繊維質の強さを感じますね。どちらが美味しいかと言われれば一目瞭然。つまり答えは───)

 

「「A!」」

 

『残念不正解Bですわ』

 

「「なんでぇ!?」」

 

『ゴールドマグロは超レア物とは言いましたけど別に美味しいとは言ってませんので。そして美食の何たるかを理解出来ない方に生きる価値なし、eat or die!という訳で不正解のお二方はファラリスの雄牛の刑ですわ』

 

「淡々と処刑を実行しようとしないでくれませんか!?」

「異議あり!異議あり!こんなバイオレンスな企画倫理委員会が黙ってないよ!」

 

抗議する2人を他所にどこからかツルギが持ってきた大きな鉄製の牛の形をした像が用意され、ツルギの馬鹿力によつまてカヤとマルクトは問答無用でその中の空洞へと詰め込まれる。

蓋を閉めて密閉した後、ハルナは火炎放射器で像を炙り始めた。

 

『それでは次の企画は脱出ゲーム、頑張って下さいね』

 

「熱い熱い!なんかトントン拍子に進んじゃってますが!?」

「干からびるどころじゃないよこれ!動いてないのに炭になっちゃうよ!」

「動けるスペースもほとんどありませんけどぉ!?」

 

外側から加熱され阿鼻叫喚のカヤとマルクト。

像は20分程熱され、そろそろ限界かとツルギが像を叩き壊すとその中からアフロになって全身真っ黒に煤けた2人が転がり出てきた。

急ぎツルギがドラム缶一杯の水を2人にぶっかけたことで何とか事なきを得る。

 

「あ〜…酷い目にあった…」

「もうクイズ番組は懲り懲りですよ…」

「途中から趣旨変わってた気がするんだけど」

「それはそうですね…む?あれは…」

 

シャワーを浴びてシンプルな学校の制服に着替えた2人が下校路に着いて仲良く歩いていると、不意にカヤが足を止める。

カヤが見つけたのは交通量の多い道路のど真ん中でビチビチと跳ねる金ピカのマグロ…ゴールドマグロで、今にも車に轢かれそうになっていた。

 

(ゴールドマグロ…あなたの味が悪いせいで焼かれた恨みはありますが、それでも失われようとしている命を見捨てるほど私は薄情ではありませんよ!)

 

正義感に駆られたカヤは肩に掛けていた鞄を放り捨て、自分の身の安全も省みずに駆け出していた。

クラクションが響き渡る中車を避け戦車を避け、どこかから飛び交う弾丸を避けてすぐ目の前にトラックが迫るゴールドマグロへと手を伸ばす。

 

「間に合えぇーーー!!」

 

 

 

 

 

「残念私でした!」

 

「ぐあぁ!?」

 

ところがどっこい、道路上で跳ねていたのはゴールドマグロではなく全身を金ピカに塗装したマルクトだった。

それに気付いた時には時既に遅し、マルクトはぴょんと飛び退いてカヤだけがトラックの前に放り出される形になり、哀れ不知火カヤは遙か彼方まで跳ね飛ばされて星になってしまう。

 

最後まで誰かを思い空の上に行ってしまったカヤに敬礼したマルクトは余韻に浸ることもせずに帰ろうとして───橋の下の川、そこで溺れようとしているゴールドマグロの姿を見つけてしまった。

 

「くっ、仕方ないね…!今助けるから待ってて!」

 

何故か川に大きくそそり立つ波に乗ってサーフィンしながら藻掻くゴールドマグロへと手を伸ばそうとするマルクト。

 

「お返しですよ!」

「びでぶっ!?」

 

が、同じように波に乗り水上バイクで後ろから追いかけてきていたカヤがサーフィンするマルクトに突撃し、水上バイクは爆散。

川に半身を浸かる事になったカヤとマルクトはフッと笑い合い立ち上がると、思い思いに水を掛け合った。

 

「やってくれたね…!」

「そちらこそ…!」

 

夕焼けを反射しオレンジ色に輝く水面を掬い上げ、それを掛け合う様はまさに青春。

そもそもがAIであるマルクトが経験することのなかった、友と馬鹿をやり合う得難い経験。

待ち望んでやまなかった…一夏*1の思い出。

今この瞬間に、マルクトは思いを馳せる。

 

(ああ、楽しいなぁ…何百年、何千年ぶりだろう…こんなに心が踊るのは。やってよかった、死滅回遊!)

 

「フンッ!」

「ゴボボボボ…!?」

 

我に帰ったマルクトはカヤの頭を掴んで川の水面へと押し付ける。

呼吸が出来ずじたばたと手足を暴れさせるカヤだったが、根性で浮上してくると1度マルクトを制止した。

 

「ちょっと待ってください!これ飲んで見てくださいよ!」

「?」

 

何事かと誘われるがままに川に指をつけそれを舐めたマルクトは驚きに目を見開いた。

この味は、そう───

 

 

 

「「妖怪MAXだぁーーー!!」」

 

 

 

(…だけどこのままじゃ私は負ける)

 

馬鹿みたいな茶番にノリ続ける身体に反して、時々冷静になった思考は現状のマズさを残酷なまでにマルクトへと突きつけていた。

カヤにとっては模倣(シュミレーション)でしかない数々の状況(シチュエーション)で、マルクトには着実にダメージが蓄積していた。

これはカヤの『マルクトを幸せにしたい』というエゴが満たされるまで終わらない。

戦いは最早暴力では決着が着かない段階にまで至っていた。

 

(だったら…!)

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

カヤは困惑の声を上げる。

目の前ではマルクトが連邦生徒会用の制服に身を包み、ネクタイをキッチリと整えていた。

 

「ほら、行くよ”超人”。大円団までもう少しなんだから」

「…はい!」

 

通路の先に進んでいくマルクトをカヤも追いかける。

やがて横に並ぶと、通路の先には大きな扉が見えた。

 

「…ねえ、カヤちゃん。人を幸せにすることってなんだと思う?」

「私が出した結論は、人々を笑顔にさせることです。人は楽しい時、幸せな時、そんな時はきっと笑っているものですから。作り笑いなんてさせません。私が本当の意味で幸せな笑顔を届ける…その為に、ネタというもので人を笑わせるのはその近道だということに気付いたんです」

「そっか。なら、やることは変わらないね」

「…はい」

 

胸の動悸も、絡みつくような緊張も、今のカヤならば乗り越えることが出来た。

何故なら、今のカヤは…1人ではないのだから。

 

扉を開けると眩い光が差し込み、その奥にはクロノスの報道陣を初めとした記者達が並んで席に着いている。

彼女達の視線やカメラが一斉に自分らへと向いた時、カヤはドキッとした感覚を覚えるが、それも一瞬のことで直ぐさま軽く深呼吸をすると横に目をやってマルクトと視線を合わせた。

 

語り合うのに、最早言葉は要らなかった。

 

 

(皆を楽しませて、笑わせて、幸せにする。それが私が届きうる”超人”としての人々への笑顔の送り方)

 

 

「…ご清聴ください!不肖、不知火カヤ最後の舞台を!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうもお世話になっております!毎度おなじみ不知火カヤと!」

 

「彼女の相方マルクトと申します。はい硬い言葉終わりフランクに行こう。水曜空いてる?」

 

「早いんですよ展開が。もうちょっと前置きとかあるじゃないですか普通。で、なんの用ですか…?」

 

「いやぁ、最近のキヴォトスってしょっちゅう特異現象が起こってるでしょ?そんな今だからこそ肝試しなんてどうかなって」

 

「今である必要はさらさら無いと思いますが、まあ良いでしょう。肝試しってどこへですか?」

 

「ほら、トリニティに大きな地下墓地(カタコンベ)があるでしょ?あそこなんていいと思うんだ」

 

「ほうほう」

 

「なんでも、前に同じように肝試しに行った1万人の生徒がいて」

 

「多い。無駄にスケールがデカイんですよ」

 

「そこで5万人の落ち武者の幽霊に遭遇して誰も帰ってきた人はいなかったんだって」

 

「だからスケール。赤壁の戦いか何かですか?あと誰も帰ってこなかったのなら誰がその話を伝えたんだってツッコミいります?」

 

「まあ冗談は置いておいて、なんでも布切れ1枚纏っただけの露出の多い不審な霊が出たらしいよ」

 

「…なんか既に正体に心当たりあるのでいいですよこの話はもう」

 

「えー?肝試しはだめかぁ…じゃあ無人島行かない?やってみたくない?サバイバル」

 

「ちょっと興味はありますけどそういうのはキャンプくらいが丁度いいんですよ。余程アウトドア技巧者じゃないと無人島なんて楽しめませんから」

 

「そう?私は良いと思うよ〜、澄み切った青い空、皆で選んだ水着で楽しむ海、呼吸する度に出る白い息、よちよち歩く可愛いペンギンの親子達」

 

「なんで氷海の方の無人島なんですか。せめて夏島行きましょうよ。あと氷海で水着になろうとしてませんでした?人体としての排熱機関が狂ってないと死にますよそれ」

 

「あとはあとは〜、海辺で拾った発泡スチロールとかのゴミと島の中に生えてる竹とかを組み合わせてイカダを作って有人島を目指したり」

 

「テレビで見るやつ!出演者が毎回サバイバル豆知識披露していくけど多分普通に生きてたら絶対必要ないやつじゃないですか!流刑にでもされない限り使う機会ありませんよあの知識」

 

「もう、我儘ばっかだなぁ。それなら銀行強盗はどう?」

 

「ショッピングに誘う感覚で犯罪の片棒を担がせようとしないでください」

 

「片棒っていうか銀行強盗までいくと全棒背負ってると思うけどね」

 

「なんですか全棒って。ない言葉を作らないでください」

 

「まあ確かに全棒って言葉はないかもね。でもあるかもしれない。このキヴォトスにはまだまだどんな謎があるのか分からないんだから。いつかその()()を見てみたい、ってね」

 

「上手いこと言った雰囲気出さなくて良いんですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

「…どうしたの?」

「いえ…私は、人々を笑顔に出来るような超人になれたのでしょうか…」

「何言ってるのさ、ほら。見てみなよ。皆笑顔だよ。君が笑わせたんだ。誰がなんと言おうと、君は立派な超人だよ」

「そう、ですか…今はただ、この時間が愛おしいんです」

「ふふっ、人前で泣かないでよ。超人なんでしょ?それに、どんなものにだって必ず終わりはあるんだから」

「…ええ───

 

 

 

 

───ご清聴、ありがとうございました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

白装束に身を包み、棺桶の中で横になるカヤ。

胡散臭さも怪しさも抜け落ちたすっきりとした瞳を開いたカヤは、自分を見下ろすマルクトに穏やかに微笑んだ。

 

「…ありがとうございます」

 

「───うん、最高に楽しかったよ。凄いね、君」

 

そんなカヤの微笑みにマルクトは心からの笑顔で返し───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…っ!」

 

いつの間にか真後ろに接近していたクロコの強打がマルクトの横っ面を捉える。

吹っ飛ばされ廃墟を1つ貫通してから体勢を建て直し着地したマルクトは最初にクロコ達へ放った領域、受けたダメージに対しての恐怖での治癒で目減りした神秘では十分な出力を発揮出来ないことを感じ取っていて、それに加えカヤの秘儀に巻き込まれた際に蓄積したダメージ…それもヘイローへの負荷によって大きく神秘出力も削がれている。

 

(あっちも消耗しているとはいえ今から砂狼クロコ達と戦える余力は残ってない。今は撤退して…!)

 

逃走の択を取ろうとしたマルクトだったが、その思考を阻害するように遠方に見えるハルナが放ってきた『グラニテブラスト』のレーザーを横に転がって避け、牽制する為に適当な特異体を放とうとする。

だが…

 

「返し、ます!」

「しまっ…!」

 

マルクトの後方に控えていたハナコがマルクトの横を通り過ぎたレーザーを空間の歪みに巻きんで軌道を曲げ、マルクトの無防備な背中へと跳ね返した。

モロに直撃を受け空中に吹っ飛ばされたマルクトの視線の先には廃ビルの壁を駆け上がってそれを追従してくるツルギの姿があった。

壁を蹴って跳躍してきたツルギを迎え撃とうと『重力機構』を発動出来るように準備したマルクトだったが、予想に反してツルギの進路はマルクトよりやや上に逸れており、マルクトの頭上を通り過ぎたツルギは…直下に向かって2丁のショットガンを同時に放ちマルクトを真下へ撃ち落とした。

 

「ぐっ、この…!」

 

地面に全身を強打しつつも直ぐに起き上がって次の攻撃に備えようとするマルクトは前方から駆けてくるクロコを迎え撃とうとして───

 

 

 

 

 

───どこから現れたのか初めから潜んでいたのか、モモイの銃口がマルクトの後頭部を狙っていた。

それに気付いた瞬間にマルクトは振り返って脊髄反射、反応、秘儀、神秘、防御…自らが持ちうるありとあらゆる手段を用いてそれに対応しようとするが…散々消耗させられた今のマルクトでは間に合わず、その額に圧縮された血の噴出の勢いに押されて加速した弾丸の先端が食い込み───そして次の瞬間には貫いていた。

 

「…ミカさん。今度こそ、出来たよ」

 

「なん、で…」

(砂狼クロコの奇襲を受けた時から、狂った。あの時どうして、気付けなかった…?どうして反応が遅れた…?どうして…ああ…そっか)

 

身体から力が抜け、どれだけ意識して支えようとしても倒れる身体は止まらない。

そんな中穏やかな表情で眠りにつくカヤの姿が視界に入ったマルクトは、己の敗因を悟った。

 

(邪魔されたく、なかったのかぁ…)

 

遂にマルクトは倒れ、頭に空いた穴からはバチバチと火花が散る。

肉体は動かないが辛うじて動かせる眼球で辺りに目を向けると、クロコやツルギ、ハナコやハルナも健在の様子だった。

乾いた笑い声を上げたマルクトは急所を貫き行動不能にした自分にまだ油断なく銃口を構えているモモイを見上げた。

 

「やられたね…まさか同じ手で来るとは思わなんだ。道半ばとは残念だけど、でもまあ最後に彼女と遊べたから───」

「うるさい」

 

最期に少し話そうとしたマルクトの声を、怒気を孕んだモモイの声が遮る。

 

「あなたの想いも気持ちも、苦悩も葛藤もどうでもいい!そんなのアリスの物語に必要ない!あなたの扱いなんて、所詮物語を展開して最後に倒されるだけの()()()()でいいんだよ!いい加減に、もう消えて!」

 

「…」

 

モモイの慟哭を聞いている間に言葉を話す余力すら無くなって、熱をあげる頭の中の本体(コア)が着々と機能を停止していっているのを感じながら、マルクトは辛うじて残る思考領域で最期の想いに耽ることにした。

 

(…こんな終わりも、また1つの結末だからね。最後まで見届けられないのは残念だし、満足したとは言わないけれど…それでも…悔いのない生涯だった。面白い超人にも、巡り会えたことだし…それに、物語自体はまだまだ終わらないんだから)

 

モモイやクロコ達も理解しているのだろう。

神秘の権化、名も無き神々の女王、Keyが存在する限りキヴォトスを取り巻く悲劇は終わらないのだと。

 

そしてそれ以上にまだ…マルクトの残した火種は潰えていないのだから。

 

 

*1
12月24日




小ネタ
ツルギ「なんかとんでもない状況に巻き込まれたんだがなんだこれ」
ハナコ「カヤさんの秘儀でしょうか。凄いですね〜、私も全裸になってしまいました」
ツルギ「お前は初めからほぼ全裸だろ。というか最後の1枚まで脱ぐな」
ハルナ「くっ、なんという恐ろしい力でしょう…美食家になってしまいましたわ!」
ツルギ「最初からだろ!」
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