ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作245〜246話までの範囲でお送りします


人外魔境D.U.決戦─漆─

 

アリス達がKeyと熾烈な死闘を繰り広げている最中、それより幾らか離れた位置で巨大な氷塊が街を破壊しては砕かれていた。

 

滞留する冷気により生じた霧を突き破って吹っ飛ばされた無名の司祭は、後方を凍結させて作り上げた氷塊を足場にして霧の奥から迫ってくる相手を仮面越しに睨んだ。

 

(王女から随分と離されてしまった…早くお助けせねば…!)

 

「させないよ」

 

Keyとの合流を図ろうとする司祭を阻むのは、テンションも上がり上着を脱ぎ捨て覚悟の決まったインナー1枚でキレッキレの動きを見せるアツコ。

鳴り響くのは賛美歌…ではなく気分転換にと変更された某白目を剥いてそうな音楽だ。

アツコは適当に銃弾をばらまいて司祭を牽制すると、盾として作られた氷の板の上から司祭の顔面を殴り飛ばし、マスクの奥で「ハッ」と笑った。

 

「調子に、乗るなぁっ!」

 

翻弄される司祭は怒りのままに追いかけてくるアツコに冷気を放ちその右半身を凍結させ、身動きが出来ない所に殴りかかってアツコの凍った右半身を粉砕した。

右腕から肩、お腹近くまでが粉々にされたアツコは軽く呻き声を上げるが…領域での賭け(ギャンブル)で大当たりを引いていた今のアツコは溢れ出る無限の神秘により常に肉体が再生され、砕かれた部位も逆再生されたかのように瞬時に復活する。

 

司祭の想定以上の速度で再生したアツコはそのまま司祭の顔面を鷲掴みにすると、その状態で飛び上がり、落下の勢いを乗せてビルの外壁に叩きつけてすりおろすように擦り上げた。

 

周囲を冷気でまとめて凍結させることでアツコから逃れた司祭は頭上に鋭い氷の槍を作りながら、アツコの無尽蔵の再生について思考を巡らせる。

 

(あの再生速度、尋常ではない!その1点のみであれば王女をも凌駕し小鳥遊ホシノにさえ匹敵する!それにふざけた情報ばかり流し込んで来おって、忌々しい!)

 

「下郎が、去ねぇ!」

 

射出された氷の槍が迫るアツコの脇腹を貫き抉り取る。

だがそれでもアツコは損傷を瞬時に再生すると怯むことなくむしろ加速した。

 

(止まらない…!)

 

「ヒヤヒヤするね。ああ肌寒いって意味ね」

「貴様ァ!」

 

加速した勢いを乗せた飛び蹴りを腕で受け止めた司祭は触れた部分からアツコを凍結させようと冷気を解放するが、それもものともせずにアツコの力が勝り、司祭の顔面を蹴り飛ばした。

街を破壊しながら吹っ飛んでいく司祭を見送りながらアツコが身体に付いた氷を払い落としていると、まだまだ元気な様子の司祭が戻ってきて手の上に浮遊させた黒い立方体の形をした遺物…『万象器』の出力を上げた。

 

「認識を改める」

「うん?」

「今この時代に生きる者達は人であろうとする心が強い。人間性を保つ為に己の中に膨らむ異能を抱えながら壊せるものを壊してはいけないと言い聞かせるのだ。だが、その人間性こそが孤独を恐れる弱さだ!」

「ごめん話が長いし何言ってるか分からないから簡潔にお願い出来る?」

「…フンッ」

 

司祭は鼻を鳴らすと周囲に冷気を放出し…地面に走った亀裂から水が噴水のように噴き上がる。

吹き上がった水は雨のように周囲に降り注いで互いの身体や足元を濡らし、濡れた部分から氷の膜が広がっていく。

 

(地中の水道管を凍結させて破裂させたのかな…これはちょっと面倒かも)

 

「ならば端的に言おう。貴様にはその人間性が欠如している。故に私は貴様を人とは思わない」

「そっか。まあ人間らしく生きれるような環境で育ってないからね」

「…全力で潰させてもらう」

「…それにしても、人間性かぁ。後輩にも似たような話を聞いたことがあったかな」

 

アツコの脳裏に思い浮かんだのは、初めてあった時はそれはそれはくよくよしていて陰気な狼の少女。

自らの価値に悩み、苦悩していた情けない後輩。

 

「でも…言う時はやるしやる時はやる子だったよ。あんなに熱い子はそうそういないからね。皆頑張ってるんだから、私もとっくに熱くなってるんだ。止めたきゃもっとキンキンに冷えたの持ってきなよ!」

 

「っ…驕るなぁぁ!」

 

決戦外の乱闘もまた白熱し、互いの信念と熱をもってぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

時を同じくして決戦の場。

必殺足り得る領域の中で、カンナは勝利に向けた詰めを行う為に領域のルールに従った進行を行っていた。

 

『天童アリスは20XX年10月31日、ミレニアムにて大量虐殺を犯した疑いがある』

 

「彼女は殺していない。二審での自白は重い責任感に駆られ出た虚偽のものだ。真犯人はお前だ、Key。ジャッジマンは領域内の者の全てを知っている。だが私にその情報は共有されない。判決はあくまで我々3人の主張を元に下される」

 

(…よし、ここまでは順調。ジャッジマンから提出された証拠も以前アリスを相手にした時のものと同じだ)

 

領域のルールを説明するという工程を進めながら、カンナはジャッジマンから受け取った証拠の中身を読み取って内心ほくそ笑んでいた。

証拠の内容はアリスの中のKeyについて、アリスの肉体を乗っ取った経緯と史実としての残虐性の記録。

ミレニアムでの大量虐殺はKeyの技量があって初めて成立するものであり、Keyの主張でKey自身の刑事的責任能力が減衰した心身状態や能力のない心神喪失が認められない限りは”死刑”を取ることが出来る。

最悪Keyが自己弁護出来たとしても、”有罪”からの”没収”は確実に取ることが出来るだろう。

 

(小鳥遊ホシノが大きく削った。美甘ネルが私達へ繋いだ。私達でさらに追い込んだ。今この期を逃せば…もう二度と勝てなくなる。だから、今ここで…!)

 

「証拠は必ずしも───」

 

 

 

 

「長いです」

 

「!」

 

カンナが領域のルールを進めていたその時、何やらウズウズしていた様子のKeyは何かを諦めるようにため息を吐くと、そう言ってカンナの説明を中断させた。

 

「小娘の中でもうこの領域のルールは聞いていました。少し遊んで見たい気がなかった訳でもありませんが、まあ良いでしょう───ミレニアムでは私が殺し尽くしました。これで満足ですか?」

 

 

『”有罪(ギルティ)”、”没収(コンフィスケイション)”、”死刑(デスペナルティ)”』

 

 

ジャッジマンが縫い合わせられていた片目を開き、刑が下される。

それと同時にカンナが持っていたガベルが輝き、十字架を模したような輝く剣へと変化した。

 

領域が解除され、元の空間に放り出されるアリスとカンナとKey。

Keyはカンナの構える『処刑人の剣』を見て獰猛に笑い、この窮地すらも楽しもうとしているのが見て取れる。

 

 

(その虚勢を引き剥がしてやる!)

 

 

Keyと言えども『処刑人の剣』の絶対性から逃れられる筈がないとカンナはそれを命中させるべく決死の白兵戦に臨む。

攻撃範囲(リーチ)は普段扱っている巨大化させたガベルに劣る為その分近づくことのリスクも高まるが…その一手を押し通す為に、特異現象捜査部も総力を挙げる。

 

「…おっ、来ましたね」

 

カンナを援護するべく駆け出したアリス。

それと共に戦場に現れたのはKeyに”武器”があったが為に前に出れずにいた予備戦力だ。

 

「もう、なんで私がこんな前線に…!」

「こういう時ぐらい気張ってくださいフブキ先輩!」

 

ここまで削れてようやく出ていけると判断したフブキとセリカが打って出た。

セリカは射撃によりKeyを牽制し、フブキはカンナよりも少し前に出てカンナを守ろうとする。

アリスは誰よりも早くKeyに迫撃を仕掛け、それを超遠距離からサオリが狙撃を差し込むことでサポートする。

 

「光よ───!」

「貴女も芸がありませんね」

「ぐっ…!」

 

アリスの放ったレールガンのエネルギー砲を避けたKeyは回し蹴りを叩き込んでアリスを引き離すと、続けてチマチマと射撃してくるセリカの方に目を向け、足元の瓦礫をセリカに向けて蹴り飛ばし回避させることで射撃を途切れさせる。

一泊遅れて迫ったフブキは簡易領域を展開、その範囲の内側に入ったKeyに脊髄反射を利用した正確無比な射撃を行うが、スーパーノヴァの砲身を盾にそれを防いだKeyはシールドバッシュの要領でフブキを吹き飛ばし、そこを狙ってきたサオリからの狙撃を鼻先を掠めながらも回避する。

 

一連の連撃を捌かれるも、ここまでは繋ぎに過ぎない。

狙撃を避けた直後で体勢が整っていないKeyにカンナが『処刑人の剣』を振るう。

対して、Keyはスーパーノヴァの砲口をカンナへと向けた。

 

(秘儀が封じられようと、今はこちらがあれば十分───)

 

 

 

 

(やはり、あの時D.U.第1結界(コロニー)で私の領域を1度経験しただけのKeyは、この領域の詳しい()()を知らない…!)

 

目の前で死の光が瞬く中、カンナの思考は驚く程に冷静だった。

それはカンナですらつい最近知った『マッド・ドッグ・コート』の特性。

 

 

「消えなさい」

 

 

スーパーノヴァの砲口に収束した光が解き放たれ────光線がカンナの上半身を飲み込んだ。

 

 

「…っ!?」

 

「うおおぉぉぉぉぉ!」

 

 

だが、Keyは驚愕する。

スーパーノヴァの一撃を受けて耐え切るばかりか勢いを落とさぬまま突撃してくるカンナに。

そして同時に気付いた。

スーパーノヴァの()()()()()()()()ことに。

 

 

(何故…!?いや、まさか…!)

 

 

それはカンナの領域『マッド・ドッグ・コート』により発動する”没収(コンフィスケイション)”に関するとある性質。

”没収”は、裁判の対象となる人物が秘儀を宿した凶器(遺物)を携帯している場合、それに適応されるのだ。

元々Keyの秘儀を封じるつもりであったカンナ達だが、小鳥遊ホシノとの戦いで取り出したスーパーノヴァという強力極まりない出力を持った遺物。

そして小鳥遊ホシノとの戦いで最終的に肉体を回復したもののヘイローの損傷により大きく神秘の出力が低下した今のKeyが扱う秘儀…分解の出力は強く神秘で保護すれば耐え切れる程度にまで威力が落ちている。

 

本人の出力の低下に伴い圧倒的に弱体化している分解と、Keyの状態に関わらずその圧倒的な火力を発揮出来るスーパーノヴァ。

現状どちらが脅威となるかは、言うまでもない。

 

そしてD.U.第1結界(コロニー)での経験から秘儀が封じられたと勘違いしたKeyはまんまとその思惑に乗せられ、スーパーノヴァの火力の起点となる秘儀が封じられている事に気付かず火力が低下したそれを放ってしまい、それは決定的な隙となった。

 

「これで終われぇ!Key!」

 

己の全霊を賭けてカンナが振るった『処刑人の剣』はKeyへと届こうとして…触れる直前、咄嗟にKeyが足元を分解して地面に窪みを作り、そこに足を引っ掛けてしまったカンナは狙いが逸れて『処刑人の剣』はKeyのスレスレを空振った。

 

「チッ…」

「惜しいですね」

 

予想外の損失に驚きながらも、目の前に迫る『即死』を攻略するべくKeyは思考を回転させ、感覚を研ぎ澄ませる。

小鳥遊ホシノを相手にしたのと同様、理不尽なクソゲー程意欲を掻き立てられるものは無い。

 

「さあ、次は?」

「アリス!」

 

「光よ───!」

 

Keyに蹴り飛ばされてから復帰してきたアリスが、Keyの背中を狙いレールガンを放つ。

背後から迫るエネルギー砲を身を翻して回避したKeyだが、そこにアリスがレールガンの砲身を鈍器として振り下ろし、それをKeyは横に跳んで回避した。

続けて、アリスにスーパーノヴァの砲口を向ける。

 

(スーパーノヴァはその出力を実現する為に機体に秘儀が組み込まれ、それが奪われた現状は本来の威力を発揮出来ない…しかし単なる遠距離火力としてはまだ使えない訳では無い。そして…)

 

「”王女は鍵を手に入れ───”」

 

「っ!まずっ…」

 

Keyはスーパーノヴァの火力を補うべく詠唱を行った。

本来の出力は取り戻せず、その出力あってこその『神秘を分解する光』こそ使えないが、その破壊力は依然アリス達にとって脅威となるだろう。

 

「”方舟は用意されました───”」

 

「逃げろ!アリス!」

「…いえ、ここで退く訳には…!」

 

カンナからの注意を受けるが、どの道避け切れないと判断したアリスはレールガンを構えチャージする。

それとほぼ同時にKeyもスーパーノヴァのチャージを終え…

 

 

「光よ───!」

「───光よ」

 

 

同時に放たれた両者の光線、それは衝突の後一瞬拮抗して…スーパーノヴァの光線がアリスのレールガンの光線を突き破り、アリスを飲み込まんと迫り───

 

 

 

 

「アリス!」

「っ!モモイ!」

 

 

駆けつけたモモイが間一髪の所でアリスを横に掻っ攫い、スーパーノヴァの光線の攻撃範囲からアリスを離脱させる。

その際モモイは脚の一部を光線に飲まれてしまっているが、可愛い妹の為ならばどうということは無いとその苦痛を表情に出すことも無くモモイはアリスの心配を優先した。

 

「モモイ…!マルクトは…」

「もう倒した!でもあいつが溜め込んでた特異体が溢れ出てきたせいでクロコさん達が足止め食らってる!」

「…いえ、モモイが来てくれただけでも今は助かります!カンナを援護してください!」

「分かった!」

 

短い伝達だけでもその意図をしっかりと汲み取ったモモイは、スーパーノヴァを放った後カンナとフブキに攻撃されその対処に回っているKeyに目を向け、アリスを優しく地面に置くとそちらの手伝いに向かった。

アリスはそんなモモイの脚が焼け爛れ少しずつ恐怖によって再生されていく様を見ると、自分も役に立たなければと己を奮い立たせ連続使用で温度が上がっていたレールガンを備え付けていた装置で急速に冷却させ、戦線に復帰出来るよう急いだ。

 

 

そして当のKeyは、カンナの『処刑人の剣』に最大限の警戒を向けつつ付かず離れずの距離から正確無比な射撃を加えてくるフブキと遠巻きに狙い撃ってくるセリカの弾丸を躱し、隙を突くように放たれるサオリからの狙撃は秘儀で分解することで凌ぐ。

 

「あなたがいるとアリスが幸せになれないんだ!だから、もう倒れろぉ!」

「血の繋がりも無い癖に、姉などとのたまう貴女が何を言うのですか」

「血の繋がりなんかなくたって、私はアリスの運命のお姉ちゃんだよ!」

 

「すまんそれは私達でも意味分からん」

「アリスちゃんってちょいちょい頭おかしい人に好かれるよね」

 

共に戦うカンナとフブキからの指摘を無視して果敢に攻め込んだモモイは、サオリからの狙撃があったのに合わせて同時に高圧の血の噴出で加速させた弾丸を放つ。

両方を秘儀で分解して防いでしまうKeyだったが、直撃せずともそうして防御してくれるだけでモモイ達にとっては有難い事だった。

 

(守りに秘儀を使ってくれるなら、その分あいつは神秘を消費する。相手のリソースを削るならとにかく受けにそれを浪費させる…)

 

「私の妹の対人戦のいろはを思い知れぇ!」

「よく分からないがその意気だ、アリスの姉!」

 

モモイの放った丸鋸のような血の刃を仰け反って回避したKeyに、カンナが『処刑人の剣』で切りかかる。

Keyは剣の持ち手を蹴り上げる事でその軌道を逸らし、カウンターの右ストレートをカンナの腹にぶち込む。

が、それをカンナは空いていた方の手のひらで受け止め、そこにこれまでは遠巻きから牽制してくるのみだったセリカが急接近してきた。

 

セリカは普段使っている自分のアサルトライフルを放り捨て、代わりに背負っていた2丁のサブマシンガンを取り出すと、それをKeyに向けて掃射する。

カンナを突き飛ばして引き離したKeyはサオリからの狙撃が迫っていることに気が付くとその方向にスーパーノヴァの砲身を盾として置き、セリカの射撃は甘んじて受けることにした。

だが…

 

 

「っ!?」

 

 

浴びた弾丸の内、特定の部分に当たった弾が他の弾と比べて高い威力を発揮してKeyにダメージを与えた。

一体何がとKeyがセリカの持つ2丁のサブマシンガンに目を向けると、それはアリスの中にいた時に見た事のある意匠のものであると気付く。

 

(あれは…太腿の娘の銃?なるほど、長年使い古された武装には使用者の秘儀が宿ることがある。あの娘の忘れ形見ということですか)

 

「なんでも使ってきますね…面白いですよ!」

「うぇっ!?」

 

詠唱も無しに低出力の状態で放ったスーパーノヴァは、それでもこの場においては圧倒的に実力の劣るセリカを遠くまで吹っ飛ばす。

そんなセリカの身を案じ追撃される前に肉薄したフブキは至近距離からの回避しようのない銃撃を叩き込むが、Keyは腕を振るって秘儀を発動。

放たれた分解の波動がフブキに襲いかかった。

 

「痛っ…!」

 

皮膚が、肉が、崩れていく。

芯までの侵食は簡易領域の中和効果でなんとか凌いだが、それでも類まれなる才能により神秘での保護を鍛え上げたアリスやカンナのように無傷とはいかない事に歯を食いしばり、なんとか痛みを堪えつつ負けじと反撃する。

 

(痛いのも死ぬのも嫌だけど…監督官だから、私が頑張らないと…!考えろ…遺物に宿った秘儀を封じられた今のKeyはホシノ先輩やネルさんを葬ったあの攻撃を使えていない!ホシノ先輩と戦ってた時の出力があるならとっくに全滅してるんだ!あいつもかなり弱ってる!勝てるって信じて、攻め続けろ…!)

 

(ふむ…小娘もそうでしたが、1ヶ月前に見た時よりも全員神秘を扱う技術が向上してますね。余程必死になって鍛え上げたのでしょうね)

 

「とりゃあっ!」

「小癪な」

 

フブキは足元で煙幕を炸裂させKeyの視界を奪う。

適当に腕を振って風圧でそれを吹き飛ばそうとしたKeyだったが、背後で棒状の光が見えた事でそれがカンナからの奇襲だと思い振り返りながら低出力のスーパーノヴァを放って牽制した。

が…

 

 

「いったいなぁ、もう…!」

「!」

 

(しまった…囮ですか!)

 

 

奇襲を仕掛けてきたのはカンナではなくモモイ。

そして煙の奥に見えた棒状の光の正体は、フブキがモモイに渡した誘導灯だった。

 

ならばカンナはどこに…そうして周囲に意識を巡らせたKeyの頭上から、飛び降りてきたカンナが『処刑人の剣』を振り下ろす。

 

 

(行ける!)

 

 

勝利を確信した絶死の刃がKeyへと迫り────『処刑人の剣』を持つ腕が掴まれた。

 

「なっ…」

「ようやく痺れが完全に抜けたところです。ここいらでギアを上げるとしましょうか」

「あぐっ…!?」

 

Keyは掴んだカンナを振り回し、力任せに遥か遠くまで放り投げてしまう。

フォローしようとフブキとモモイがKeyに迫るが…Keyはそんな2人を無視して投げ飛ばしたカンナを追跡し始めた。

 

「速っ…行かせちゃ駄目!カンナを守って!」

 

作戦の要であるカンナが倒されればいよいよKeyに勝つことがより困難になってしまう。

それを避ける為に自身もKeyを追いかけながら、フブキは周囲へと声をかえた。

共に追うモモイは後ろから銃撃を加えているがKeyはそれらを背中に浴びても気にする様子もなく、復帰してきたセリカの銃撃も同様に無視されている。

 

唯一サオリが放った狙撃は流石にまともに受ける訳には行かないのか秘儀で分解し防いでいたが、それでKeyの速力が落ちる訳でもなし。

ならばと、数を気にしてしばらく突撃を控えさせていたシュンが烏を操り特攻させるも、やはり分解されて撃墜されてしまう。

 

 

「止まってください、Key!」

「ハッ、今更貴女に何が出来るというのですか、小娘!」

「待っ…!」

 

 

そこに立ちはだかるのはアリス。

アリスはレールガンを放ち、真っ向から受けるのはマズいと判断したKeyはそれを飛び越え、さらにアリスの頭上までもを飛び越えてその遙か向こうの廃墟に突っ込んでいたカンナに追いついてしまった。

その距離が距離だけに、少なくとも数分は誰もそれに追いつける機動力を有してはいなかった。

例えば今からココナを呼んで転移してもらおうにも、秘技の性質上その転移そのものにタイムラグが発生してしまうため到底間に合いそうもない。

 

 

体勢を建て直していたカンナは狙撃の支援も受けられない屋内での1対1に持ち込まれてしまったことに、いよいよ自分の死期も近付いてきたと内心自嘲する。

Keyは廃墟に突入する直前に、今の自分の低下した出力で放てる最大威力の秘儀…分解の波動をカンナへと放った。

 

 

 

 

死が垣間見えた時、走馬灯のようにカンナが思い出したのは───決戦前での訓練の時の一幕だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『そういえばアリス。Keyが身体を乗っ取っているという相手…空崎ヒナを助けたいんだったな?それならば私から1つ案がある』

『本当ですか!?』

『ああ、この訓練の間に何度か自分の秘儀と向き合ってみたが、これまでの経験と合わせて私の領域で顕現する処刑人の剣は触れた相手を例外無く即死させるが、その対象は死刑判決を受けた相手のみに限定されているんだ。ジャッジマンが受肉体の中の(ヘイロー)を識別して観測出来るのはアリスに使った時に確認できている』

『…!では…』

『ああ、死刑判決を受けるのがKeyならば、剣で斬られても内に眠る空崎ヒナは無傷のままKeyだけを取り除くことが出来るかもしれない。勿論万全のKeyを相手にそもそも領域に取り込めるだけの隙を作れるとは思えんから、小鳥遊ホシノが負けた場合のサブプランにはなるが…』

『いえ…そもそもヒナを助けたいというのがアリスの我儘です。その道筋が見えただけでも、嬉しいです。それに、ホシノ先輩ならきっと生きたまま捕まえる事だって出来るかもしれません。その時に改めてカンナが今のことをやってくれれば…』

『…ああ。全力を尽くそう』

『…今、カンナはホシノ先輩が負けた後に自分が戦うことを前提に話していましたよね?どうしてですか?カンナは、死ぬかもしれないのに、怖くないんですか?』

『そうだな…私は正義を見限り正義に見限られた人間だ。最後に自分を罰するのは自分でありたい。たとえこの戦いで命を落とすことになっても…私の死が、お前達の明日を照らせるのなら。それはきっと私にとっての救いになると思うんだ』

『…確かに、アリスも同じような考えではあります。ですがアリスは、誰にも死んで欲しくありません』

『…無理を言うな。私はもう…お前の目すらまともに見れない人間性になってしまったんだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…悪いな、アリス。やはり私はここまでのようだ。だから、せめて…)

 

Keyの放った分解を受け、カンナは身体の至る所がボロボロに崩れながらもまだ健在で立っていた。

Keyを前にして、カンナは襟を正し息を整えるとゆっくりと『処刑人の剣』を構える。

それを見たKeyは、興味深そうに瞳を暗く輝かせた。

 

(極限まで集中力が研ぎ澄まされている。それに、先程の『解』…割とカツカツの神秘を大盤振る舞いして放ったというのに、耐えられた。神秘での保護だけでなく、『展延』で『解』を中和して威力を減衰した?あれもかなりの高等技術の筈ですが…)

 

秘儀を目覚めさせてからおよそ2ヶ月弱。

異常な成長速度、異常な適応の早さ。

 

Keyは、愉快なまでにその興味を掻き立てられていた。

カンナの激情に呼応するように煌々と輝きを増す『処刑人の剣』…そして───

 

 

 

「知らんのなら覚えておけ、Key。ヴァルキューレの誇る三流悪党、『狂犬』の名をな」

 

「…ハハッ」

 

 

 

───小鳥遊ホシノにも追随する、才能の原石に。

 




小ネタ 一方その頃

キリノ「はぁ…それにしてもカンナ局長は大丈夫でしょうか…あれ以来ずっと音沙汰ありませんし…」
宇沢「あの人なら大丈夫でしょう!きっと今頃キヴォトス中で暴れているという特異現象とやらに噛み付いてますよ!」
キリノ「そうでしょうか…いえ、そうですよね。あの強く逞しいカンナ局長なら、きっと…」
宇沢「はい!またその内ひょっこり帰ってきた時の為に美味しいコーヒーを仕入れましょう!今は手に入れるの大変でしょうけど!」
キリノ「そうですね!きっと、喜んでくれますよね!」
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