ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作249〜250話までの範囲でお送りします。


人外魔境D.U.決戦─玖─

 

クロコとKeyが向かい合う。

不敵に微笑むKey、その姿をクロコはじっくりと観察する。

 

(…ホシノ先輩が大きく削った。アリス達の攻撃も積み重なって、Keyのヘイローはもうボロボロ。出力だって本来のものは出せない。あの余裕は痩せ我慢だ。間違いなくKeyは追い詰められている。けど…)

 

クズノハを取り込んだ今のKeyはおよそ半分弱まで…クロコと同程度にまで神秘が回復している。

ホシノ程の出力を出せないクロコやアリス達では決定打を与えるには火力不足で、耐久力も無視して一撃でKeyを排除しうるカンナも死んだ。

それにいくらKeyの出力が低下しているとはいえ、直接手で触れることによる『捌』やゼロ距離の『解』は充分今のクロコやアリス達を殺しうる殺傷力を持っている。

 

(私がもっと早くマルクトを倒してこっちのサポートに来れていれば…あの時油断せずに特異体が溢れる前に手を打っていれば…いや、今考えるべきはそんな事じゃない)

 

自責の念に駆られるクロコだが、今はとにかくKeyを打ち倒すことだけを考えなければ行けない。

それ以外を考えては行けない。

 

「…行くよ、”センセイ”」

 

”うん”

 

構えたクロコはゆっくりと腰を落とし…音を置き去りにするほどの勢いで地を蹴った。

一瞬で目の前に迫るクロコに的確に合わせKeyは腕を伸ばすが、その手を彼方から飛来した弾丸が撃ち抜いた。

 

「チッ…しつこい…!」

「ありがとう、サオリ」

 

Keyの腕は弾かれ、迎撃が間に合わずにクロコの腕がKeyの鳩尾にめり込む。

ミシッ、と骨が軋む音と共に殴り飛ばされたKeyの後ろに今度はプレナパテスが回り込み、両腕を合わせてハンマーのように振り下ろし、Keyを地面に叩き付ける。

追撃に振り下ろされた腕を転がって避けたKeyだが、すかさず追跡するクロコが放った飛び蹴りを受けるもその威力を受け流しきれずにたたらを踏んだ。

 

「…っ、『解』」

「無駄!」

 

苦し紛れに放たれた分解の波動も自前の神秘による保護で弾いたクロコはならばとKeyが向けてきたスーパーノヴァの砲身を掴み、引っ張ってそれを持むKeyごと振り回すと前後の地面に何度も往復させるように叩き付ける。

5、6回それを繰り返したところでスーパーノヴァにチャージされたエネルギーが暴発し、クロコとKeyはそれぞれ反対方向に吹っ飛ばされる。

 

(一撃一撃は致命打には程遠いけど、今のKeyは私なら圧倒出来る!皆の頑張りは無駄にしない!)

 

着地したクロコは息付く暇も与えぬ為にプレナパテスと共にKeyへと突撃する。

対してKeyもまともにやり合っては分が悪いと踏んだのか、地面に手を着くとその場で秘儀を発動させた。

 

「『捌』」

「!」

 

手が触れた場所から地面が分解され、それが伝搬して一面の地面が塵芥と化し、砂塵が舞い上がる。

砂嵐のようなそれに目を細めたクロコはこの視界の悪さではサオリからの狙撃の援護が望めないだろうと判断すると、砂塵を吹き飛ばそうと片腕に神秘を集中させ…勢いよく薙ぎ払う。

生じた風圧が邪魔な砂塵をまとめて衝撃波に乗せて吹き飛ばすが、晴れた視界の先にKeyの姿は無かった。

 

 

”危ない!”

 

「っ!」

 

「おや、よく躾られた犬ですね」

 

 

砂塵に紛れてクロコの背後に回り込んだKeyが腕を伸ばすが、それを間一髪のところでプレナパテスが妨害する。

振り返ったクロコは無造作に神秘を放出してKeyを牽制すると、背負っていた銃を取り出し乱射した。

当たりそうな弾丸のみ秘儀で分解して防いだKeyだったが、そこにプレナパテスが巨腕を薙ぎ払ってKeyを真横に吹っ飛ばし、その先に回り込んだクロコは飛んで来るKeyを渾身の力で蹴り上げる。

 

「む…」

「打ち、上がれ」

 

直上に蹴り上げられたKeyは空中で体勢を立て直すと直下のクロコへスーパーノヴァを向ける。

 

そこに、目立つ位置に上げられたことで狙い易くなったサオリからの狙撃が襲いかかる。

サオリが撃ってくる方向は常に一定であり、故にその方向に警戒し続けていた為迫る弾丸を慣れたように秘儀で分解するKeyだったが…逆に常にそちらへ意識を割いているからこそ、次の攻撃への反応が遅れた。

 

 

「光よ───!」

「!」

 

 

位置を変え、正確に狙い撃ったアリスのレールガンのエネルギー砲がKeyを撃ち抜く。

忌々しくアリスを睨むKeyはしかし直ぐに次が来ると見越して地上に目を向けると、バレーボールのレシーブでもするかのように構えたプレナパテスの腕の上にクロコが足をかけているのを見つける。

直後、プレナパテスに押し上げられたクロコはKeyが打ち上げられた高度まで一気に大跳躍し、Keyの襟を捉えた。

 

「アトラクションとかは好き?」

「如何せん体験したことが無いのでなんとも」

「じゃあ連れてってあげる」

 

内容そのものは休日の友人とのやり取りにも聞こえるそれ。

だが次の瞬間、クロコはKeyの襟を掴んだまま急降下すると浮上して追いかけてきたプレナパテスにKey諸共捕まれ、そして投げられる。

投げた先にはビル群があり、クロコはKeyをビルに叩き付けながら何棟も貫通、8つ目を貫通した辺りで次のビルは突き抜けないようその外壁に着地すると、Keyの頭を外壁に押し付け、擦り上げながらビルを駆け上る。

 

屋上に差し掛かると先程突き抜けてきたビル群の奥から追いかけてきたプレナパテスにKeyを投げつけ、プレナパテスは投げつけられたKeyを張り手でクロコの方に打ち返す。

打ち返されたKeyを今度はクロコがプレナパテスの方へ蹴り返し…それを何度も繰り返しラリーする。

 

最終的にはクロコに蹴り飛ばされプレナパテスにまた打ち返される前にKeyが真上にスーパーノヴァを放ち、その反動で自ら直角に落ちた事でラリーから外れた。

地上に降りたKeyをビルの屋上から見下ろすクロコは、済ました顔でピースサインを作った。

 

「ん、これが恐怖の殺人ジェットコースター」

「ジェットコースターではなくないですか?」

「ごめん私も遊園地とか行ったことないんだ」

「なんなんですか」

 

この状況においてはなんとも気の抜けた掛け合いだが、敵意や殺意は緩むことなくクロコはプレナパテスと共にビルから飛び降りてKeyへ追撃を仕掛ける。

先に降りたプレナパテスが両腕をハンマーのように振り下ろすのをKeyが飛び退いて避けるが、避けた先にクロコは銃を撃ち降ろした。

案の定届く前に分解されて撃墜されるが、そのままKey目掛けて踏みつけようと落下するクロコをKeyはスーパーノヴァの砲身で受け止め、殴りかかろうと迫ってきていたプレナパテスの方へ弾き返した。

 

プレナパテスがクロコを受け止めたところにKeyはまとめて吹き飛ばそうとスーパーノヴァを構える。

 

 

「”王女は鍵を手に入れ、方舟は用意されました”───光よ」

 

 

放たれた光線はクロコとプレナパテスを丸ごと飲み込み大爆発を起こす。

もくもくと立ち上る黒煙の中にじっと意識を向けるKeyはもう一度スーパーノヴァをチャージして構えた。

そしてやはりまだまだ元気な様子で黒煙から飛び出てきたクロコにスーパーノヴァを放つが、今度は下に潜り込むようにして回避され光線はクロコの真上を通り過ぎてしまう。

 

そしてスーパーノヴァの発射直後、その反動を抑え込むためにKeyの動きが一瞬硬直することをこれまでの戦いで見抜いていたクロコはその隙を見逃さず、Keyに肉薄すると低い姿勢からKeyの顎下を撃ち抜くように掌底を叩き込み、身体の浮いたKeyの脚を掴んでビルの方へと投げる。

 

ビルの外壁を破って内部を転がったKeyは追撃を警戒して直ぐに起き上がるが、壁の穴の向こうではクロコは銃を構えるだけで突っ立っていた。

その行動に首を傾げたのも束の間…真上から感じた気配に咄嗟にスーパーノヴァの砲身を傘にするようにしてその下に身を隠すKey。

次の瞬間、ビルの真上まで飛び上がっていたプレナパテスはビルそのものを崩壊させるほどのパワーを屋上に叩き付け、駆け抜けた破壊が最下層まで伝搬してKeyを瓦礫の下に生き埋めにする。

 

「…これだけやっても駄目か。やっぱりホシノ先輩みたいにはいかない」

「小娘を相手にするよりかは面白味がありますよ。誇っても構いません」

「そんな価値は求めてない。私達はただ”勝ち”が欲しい。なんちゃって」

「???」

「んっんん!カヤの秘儀の影響が抜けてないかも…」

 

柄にもなくふざけていることをあの後結局眠り倒して目覚めなかったままS.C.H.A.L.Eで休んでいる超人のせいにしながら、それでもやはり何処か心が落ち着かないのをクロコは自覚していた。

 

(ホシノ先輩が死んで、その現実がどうしようもなく心に刺さる。あの日私を暗闇の底から引っ張り出してくれた恩人…まだ、恩は返し足りなかったのに…それもこれも、私の責任だ。私がもっと強ければ、私が…ホシノ先輩を1人にさせなければ…)

 

傲慢な考えだとは、分かっている。

それでもと、思わずにはいられない。

 

(だから…その責任を取るよ。ホシノ先輩)

 

「やっと来たね…」

 

「!」

 

クロコが銃を横に置き懐から取り出した黒く煤けたボロボロのカードを構えた直後、Keyもまた近づいてきていた気配に気がついた。

そしてその気配が一定にまで近付いたその時…

 

 

 

 

 

「───神秘解放『ウトナ・ピシュティム』」

 

 

クロコの神秘が解き放たれる。

領域が、展開される。

 

そこに広がるのは、無限に続くように思える超広大な砂漠。

そして、至る所に墓標のように突き立てられた大量の銃。

 

 

「───『簡易領域』」

「ん…」

 

 

領域に取り込まれた瞬間、Keyは簡易領域を発動することでその必中効果を防いだ。

 

それに眉を顰めたのはクロコだ。

Keyが使うとすれば掌印を組み続ける必要のある名も無き神々の時代の対神秘解放対策の技である『彌虚葛籠』の方を想定していた。

そちらならばKeyの両腕を封じれると言う打算があったのだが…Keyは今回の決戦を通して、小鳥遊ホシノと合歓垣フブキが使っていた簡易領域を目で見ただけで学習、本来特定の儀式を受けて『シン陰』の門下に入らなければ使えないそれを極まった技巧のみで再現して見せた。

 

想定が1つ外れたのは誤算だが、それでも今この場で圧倒的に優位なのはクロコの方であることに変わりは無い。

 

 

(圧倒的な実力差か領域の洗練度があれば簡易領域も剥せるんだろうけど、やっぱりKey相手だとそう簡単にはいかないか。でも、ダメージを受け続ければ維持出来なくなるのは簡易領域も同じ。私が領域を維持できる時間は”センセイ”との接続時間と同様5分間だけ。なら───今はただ攻める!)

 

 

Keyが簡易領域を維持出来なくなるダメージを与えるために、クロコはKeyに向かって駆け出すと辺りに突き立てられている銃の中から白い銃身にピンクの差し色が入ったアサルトライフルを掴み取り、それをKeyに向けて乱射する。

大袈裟に跳んでそれを避けるKeyだったが、そこに急接近したクロコはボロボロと崩れていくアサルトライフルを捨て、両腕をKeyに突き出した。

避けきれないと判断したKeyはスーパーノヴァの砲身を盾にそれを受け止めようとするが…

 

薄衣(うすらい)

「っ!?」

 

突き出された両腕はKeyの想像を遥かに上回る威力を発揮、スーパーノヴァの盾を貫通しKeyの防御をすり抜けるように届いた衝撃が肉体にダメージを響かせ、そして強く弾き飛ばした。

 

足場の悪い砂地の上を滑りながらなんとか踏みとどまったKeyは、自分の頭から滴る血と今の一撃を受けて簡易領域に小さく亀裂が走ったのを確認する。

 

 

(…なるほど、これがあの者達の次の策ですか。空崎ヒナの記憶から狼の娘の秘儀が模倣(コピー)だというのは割れている…領域に付与されている必中の秘儀はおそらくミネルヴァのものでしょうか?先程あの娘は領域内に設置されている銃から秘儀を取り出して発動していた…それで私の防御を崩し───)

 

 

領域内に風が吹く。

砂が巻き上げられて舞い上がり…その奥からアリスが姿を現した。

 

 

「…終わりにしましょう、Key」

 

 

(小娘の打撃を受けた時に感じた身体の内側で何かが揺れたような違和感…あれは私のヘイローに直接響くものだった。つまりは、私に決定的な隙を作って小娘のヘイローを捉える打撃で私と空崎ヒナのヘイローを引き剥がしたいということですか)

 

 

「…良かったですね、小娘。役割が与えられて」

 

 

「…アリス、大丈夫?」

「はい、問題ありません。行きましょう」

 

 

砂狼クロコの神秘解放、『ウトナピシュティム』

その効果はクロコが模倣(コピー)しストックしている秘儀の中から1つを選択して領域の必中効果として結界に付与する。

それ以外のストックしている秘儀は任意で領域内に突き立てられている銃として具現化させられており、クロコだけがその効果を引き出せる。

どの銃に何の秘儀が宿っているのかはクロコは外見から判断することが出来るが、相手からも同じ銃には同じ秘儀が宿っていることを判断可能。

一度銃に宿る秘儀を使うとその銃は崩れるが、数に制限はない。

そして、領域内の銃から秘儀を発動した場合クロコ本人は神秘を消耗せず、発動された秘儀は必中する。

 

(チャンスは私の領域が持続する5分間のみ…)

(クロコ先輩が身体を張ってくれてるんです…アリスが、頑張らなければ!)

 

Keyを打倒するべく、クロコ、アリス、そしてプレナパテス、それぞれが行動を開始する。

 

クロコはプレナパテスが懐から取り出した複数の小型ドローンを受け取ると、近くにあった無駄に豪華な、カイザーコーポレーションの社章が刻まれた銃を手に取ると、それをボロボロと崩れさせ小型ドローンをKeyに向けて飛ばした。

 

ドローンはKeyの周囲を囲い込むように飛び回り、鬱陶しく思ったKeyはそれらを分解して撃墜する。

そこに、迫ったアリスが連打を繰り出すもスーパーノヴァの砲身を盾に防がれるが、ワンパターンな守りを見切ったアリスは的確に防御の隙間を塗って蹴りをKeyの脇腹へと叩き込んだ。

 

「ぐっ…」

 

アリスから打撃を受けたことでKeyの内側で何かが揺れる。

それと共に視界も点滅し足取りも乱れ、そこを狙って飛び上がったプレナパテスが頭上からKeyに巨腕を振るった。

Keyはそれを飛び退いて避けるが…後ろに下がったたその時、鋭いワイヤーにでも触れてしまったかのようにKeyの身体の一部が切り裂かれる。

 

(これは…そういえば先程のドローン、式神化されていましたか。あの式神の軌跡が不可侵の領域になっていた…?)

 

予想外のダメージに先程のドローンの動きを思い返したKeyは、ドローンが通っていない空間を割り出してそこを抜けることで不可視の罠から逃れる。

が、そこを狙うのはクロコ。

 

空中に漂い歪んだ空間を掴んだクロコは、Keyの足元を狙って白地にピンクの差し色の入ったアサルトライフルを打ち下ろす。

若干丘のようになっている砂の足場は銃撃を受けて崩れ、それに巻き込まれてKeyも踏ん張ることが出来ずに滑りそうになる。

 

 

(この足場も厄介ですね…しかし悪くありません。今の私は小鳥遊ホシノとの戦いの影響で依然神秘を解放出来ない上に恐怖による肉体の治癒も効きが悪い。神秘の総量も狼の娘を下回り、スーパーノヴァは尾刃カンナにより内包された秘儀を封じられてその出力は頼りない。そしてスーパーノヴァが本来の出力を発揮出来ない以上、私の秘儀と組み合わせた『神秘を分解する光』は放てない。肝心の秘儀も遠隔で使えば小娘達には中々有効打にならないときました)

 

 

Keyは、これまでに経験したことがないほどに追い詰められている。

誰がどう見てもピンチと思える状況に、それでもKeyはその状況を楽しんでいる。

理不尽かつ困難でハードなゲームはKeyの望むところなのだ。

 

 

砂の足場によって体勢が安定しないKeyに、今度はプレナパテスがアリスを掴むと、ロケットのように投げ放つ。

同時に、空間の歪みをトランポリンのように利用して跳ねるように高速で接近してきたクロコもまた身体を捻りながらKey目掛けて腕を振り抜いた。

 

挟み込むような攻撃にKeyはクロコの殴りをスーパーノヴァを盾にして防ぎ、アリスのロケットキックを空いている方の腕で受け止める。

しかし、アリスの打撃を受けたことで再びKeyの身体の内側で何かが揺れた。

 

(この感覚…やはりそうですね。ヘイローを操る娘に小娘の打撃が効いたのと同じ道理。私と空崎ヒナの重なり合うヘイローの境界を知覚して打ち込んでくる。”浴”で沈めた空崎ヒナの(ヘイロー)を叩き起こし、私と空崎ヒナのヘイローの同調を阻害してくる。小娘の打撃を受ける度に私の神秘出力は低下し肉体の制御も鈍る。今のでまた簡易領域にもダメージが入った。守りを完全に剥がして、リスクは承知の上で空崎ヒナの内側の私の機器部品(モジュール)をミネルヴァの秘儀で消し去るつもりですね)

 

高速で思考しアリス達の作戦を看破するKey。

 

そんな中でもアリスはKeyの腕を掴んで固め、クロコはKeyに少しでもダメージを与えようと肉弾戦を試みるが、Keyはスーパーノヴァの砲身を上手く使ってそれをいなす。

そして左腕を固めているアリスの身体にポンと手を触れさせ、秘儀を発動しようとするが…

 

それよりも早く、クロコは近くにあった黒地に赤と黄の差し色が入ったアサルトライフルと白地にピンクの差し色が入ったアサルトライフルをそれぞれの手で掴むと、それらを崩して声を上げた。

 

 

『動くな』

 

「っ…」

 

一瞬、コンマ1秒にも満たないほんの僅かな瞬間。

大抵の者にとってはそれを認識出来ない程のごく短時間のみKeyの動きが硬直する。

 

「『薄衣(うすらい)』」

 

それを認識出来る域にいるクロコはその僅かな時間を無駄にせず、Keyを蹴り飛ばしてアリスから距離を取らせた。

 

「…コホッ…やっぱりちょっとキツイかも…」

「大丈夫ですか、クロコ先輩」

「ん、まだまだ平気」

 

ミノリの『言霊』、Keyとの実力差によって反動を受け小さく咳き込み僅かに血を吐いたクロコはアリスの心配に微笑みで返し、蹴り飛ばしたKeyの方に目を向ける。

Keyが展開する簡易領域にはチラホラと亀裂が広がっており、Key自身もそれなりに負傷が目立つようになってきていた。

 

反撃に転じようとスーパーノヴァを構えるKeyに、今度はその背後に回り込んだプレナパテスが巨腕を振り抜く。

咄嗟にスーパーノヴァを盾にそれを受けるも、この足場ででは踏ん張れず殴り飛ばされる。

 

クロコとアリスはそれを追いかけるが、砂を巻き上げながら着地したKeyは2人に手のひらを向けた。

 

「『解』」

 

「「!」」

 

放たれた分解の波動。

アリスとクロコはそれぞれ神秘による保護でそれわ弾いて直接のダメージを防ぐが…Keyが本当に狙っていたのはその足場の方だった。

 

不安定な足場が崩れアリスとクロコは体勢を崩す。

そこを追撃しようとするKeyをプレナパテスが阻むが、Keyは振るわれた巨腕に手を触れると、秘儀を発動させてプレナパテスの腕を粉々に分解し、直接スーパーノヴァの砲口を押し当てて発射し、領域の奥の方までプレナパテスを吹き飛ばした。

 

 

(ふむ、先程から領域の必中効果の対象から小娘とあの大人が外れていますね。なかなかどうして、小鳥遊ホシノにも出来ない『必中効果の対象の除外』…それを行うにも神経を使うはずですし、2人を外すのが限度なのでしょうが、その神秘の才能は尾刃カンナ同様にずば抜けている)

 

 

Keyがクロコの技量に感嘆している一方、クロコとアリスは体勢を立て直しながらも冷静に次の展開に思考を巡らせていた。

 

 

(あれだけ弱っていてもまだまだこの強さ、それに足りない出力を機転で補ってくるのは流石としか言いようがない。全快の時に相手にしてたら私じゃ歯が立たなかった)

 

(認めたくありませんけど、事実上最も強い相手と戦っているんです…ここで勝てないともう後がありません。クロコ先輩が領域を維持できる限界も近いですし…一気に畳み掛ける!)

 

 

アリスとクロコが共に駆け出し、吹っ飛ばされたプレナパテスも復帰してくる。

まず前に出たクロコは途中で柄に包帯が巻かれ銃口付近に御札が貼られた火縄銃を手に取り、それを崩す。

そしてKeyに殴りかかろうとして、Keyもそれを迎え撃とうとして───蹴り払った脚がクロコの身体をすり抜けた。

 

「何…?」

「うおりゃぁぁぁぁ!」

「チッ…」

 

クロコの後ろから突っ込んでくるアリス、そのままKeyをすり抜け背後まで回ったクロコ、頭上から両腕を合わせて叩き付けようとしてくるプレナパテス。

再び挟み撃ちを受けたKeyはアリスの打撃はスーパーノヴァを盾にして直撃を防ぎ、プレナパテスの剛腕による強力な攻撃は回避に専念し、実体化したクロコの鋭い体術には同じく極まった体術で応戦することで捌いていく。

 

 

(…それぞれの銃から秘儀を発動させているならば、見るに領域内にある銃の種類の数だけ狼の娘は模倣(コピー)した秘儀をストックしていると考えていい。1.ミネルヴァの秘儀、2.空間を面で捉える秘儀、3.式神の軌道に不可侵の領域を設置する秘儀、4.言霊、5.すり抜け…領域に付与されている秘儀は銃として具現化していない?となると、粗方出揃っていますか。ウジャトの目はないのですね)

 

 

(…ウジャトの目はこの1ヶ月の間にホシノ先輩からコピーさせてもらって試したけど、私じゃ上手く出力を上げられなかった。対象を自分にしか指定出来ない上にホシノ先輩みたいにずっと維持して”不変”の防御を成立させるなんてことは出来ないし、ホシノ先輩がやってるみたいな速度で再生することも出来ない。あれなら恐怖で回復した方が早いから、今回はストックに含めてない。それに…敢えて数を絞ったから、Keyはもうこれ以上の手札が無いと勘違いする!)

 

アリスが渾身の殴りでKeyを後退りさせ、そこに迫ったクロコは近くにあった白地にピンクの差し色が入ったアサルトライフルを手に取り、Keyと自分の間の空間を歪める。

その歪みによって、Keyはクロコの攻撃の目測を見誤った。

 

突き出された腕がKeyの胸に触れる。

そして、クロコは秘儀を発動させた。

 

(これなら確実に不意を突ける。私がこの領域内で使えるのは、結界に付与した秘儀、ストックしている中から銃として領域内に具現化した秘儀、そして───銃として具現化させなかった、()()()()()()()()()()()()()()!)

 

 

 

 

 

 

『捌』

「なっ…!」

 

クロコが触れた箇所から、Keyに分解の力が走った。

 




作者多忙につき明日の更新はおやすみとなります。
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