ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作251〜252話までの範囲でお送りします


人外魔境D.U.決戦─拾─

 

クロコの手がKeyの胸に触れる。

そして解き放たれたのは、あらゆるものを分解する忌まわしき秘儀───

 

 

『捌』

 

「がふっ…」

 

 

触れた箇所から、Keyの身体が分解される。

胸元は崩れ、夥しい血がそこから噴き出す。

同時に勢い良く吐血したKeyは表情を歪めると、クロコを蹴り飛ばして距離を置き、スーパーノヴァを構えた。

 

”王女は鍵を手に入れ、方舟は用意されました”───光よ

 

詠唱を加えることで出力を上げたスーパーノヴァの光線。

対して、クロコは近くにあった白地にピンクの差し色が入った銃を手に取りそれを崩すと、空間を掴んで歪め…それに光線を巻き込んで軌道を曲げ、Keyへと打ち返した。

 

「厄介な…」

「面倒なのはこっちも同じ。いい加減…倒れて」

「っ…!」

 

スーパーノヴァの砲身を盾に打ち返された光線の直撃を防いだKeyだったが、その際に生じた爆煙に紛れて近づいたクロコはKeyに反撃されるよりも早く顔面を殴り飛ばす。

飛ばした方向にはアリスが回り込み、蹴りを叩き込もうとするがKeyはそれを腕で掴んで受け止め、『捌』を発動しようとする。

 

「”センセイ”!」

 

”任せて”

 

「っ!流石大人、行動が早いですね…!」

 

だがその前にクロコの指示を受けたプレナパテスがフォローに入り、アリスの脚に捕まるKeyを直上から手のひらを振り下ろしてはたき落とし、追撃に両腕を何度も叩きつける。

しばらくそうしていたプレナパテスだが、手応えの無さに手を止め砂埃が晴れるのを待つとそこにKeyの姿はなく、代わりに地面に穴が空いていた。

 

「地中に逃げた…?」

「クロコ先輩、この領域って地面の中とかどうなってるんですか?」

「試したことないから分からないけど多分そんなに深くない。少し潜ったら結界の外殻に当たると思う。今のKeyじゃ壊せないだろうからにげられはしないと思うけど…」

「なら、もぐら叩きと行きましょうか」

「ん、”センセイ”」

 

地中かはの奇襲わ警戒したクロコはアリスと共にプレナパテスの背中に乗っかると、その状態でプレナパテスは浮上して空中へと逃れる。

これでゾンビ映画さながら地面から出てきたKeyにいきなり足を掴まれるなんてことは無くなるだろうが…

 

「…来るよ」

「はい!」

 

地中で神秘が膨れ上がったのを確認したクロコが注意を促すと、アリスもレールガンを構えてチャージする。

静かな空間でアリスのレールガンの駆動音がしばらく響き…

 

 

「───光よ!」

 

 

地中から伸びてきた光線をアリスが迎え撃つ。

レールガンのエネルギー砲とスーパーノヴァの光線が衝突…双方が弾かれあって明後日の方向に拡散する。

 

「そこ、出てきて…『解』

 

クロコは地面に向けてKeyから模倣(コピー)した秘儀を使用する。

放たれた分解の波動は地面をごっそりと抉るように分解し、Keyは堪らず地中から飛び出て来た。

 

「私の秘儀…一体いつ…?」

「Keyの機器部品(モジュール)…最後の1本、回収出来なかったよね?」

「!なるほどあれを…取り込んだのですか?貴女か大人の方かは知りませんが」

「破壊力だけなら良い秘儀だけど、これは練習しないと雑にぶっぱするしか出来ないや」

「そう簡単に使いこなされても困りますので…降りてきてください」

 

空中から見下ろされ続けてるのが気に食わなかったのか、Keyは腕を振るのと同時に分解の波動を放ち、アリス達を飲み込む。

だが神秘による保護で弾ける程度の出力、それにKeyが領域から身を守る為に使用している『簡易領域』は既に大きく亀裂が走っており、あと数度攻撃を加えれば崩壊させられるだろう。

ここが攻め時だと判断したクロコはプレナパテスから飛び降り、アリスとプレナパテスもそれに続く。

 

Keyの立つ先程の分解で出来上がった窪地に降りたクロコは足場をものともしない素早い動きでKeyとの距離を詰め、触れてこようとしたKeyの腕を避け、アクロバティックな体捌きでKeyの顎下を蹴り上げた。

仰け反ったKeyに追加の回し蹴りを加え、よろめいたところにさらに腹部を連打、ラッシュのフィニッシュとして強烈な頭突きでKeyの額を割った。

 

Keyは頭から顔を真っ赤に染めるほどの血を流し、簡易領域の亀裂も広がる。

 

(…簡易領域の耐久度はあと37%といったところでしょうか…さて、どうしたものですかね…)

 

(私一人ならここまで押せなかった。皆が頑張ってくれたから…皆が命を張ってくれたから…今の私は戦えるんだ…!)

 

「君には負けない、今なら私の方が…強い!」

「くっ…」

 

Keyの蹴りを避け、脇腹に触れて『捌』を使用し抉り取るように分解する。

先程の胸の分解は徐々に再生しているが、頭突きでの頭部の負傷と合わせて回復が追いついていない。

スーパーノヴァを鈍器とした振り回してくるのを片手で受け止めたクロコは空いたもう片手で適当に拾った黒地に赤と黄色の差し色が入った銃を崩し、それに宿っていた秘儀を発動する。

 

 

『左遷しろ』

「っ!」

 

 

強く引かれるように、或いはとてつもなく大きなもので殴り付けられたかのように後方に吹き飛ばされるKey。

そこへ真上から飛び降りてきたアリスがKeyの腹に着地するように踏み抜き、地面に叩きつける。

腹部に強い衝撃を加えられた事でKeyは血と共に胃液を吐き、ギラリとアリスを睨むと自らの腹を踏み付けるアリスの脚を掴んだ。

 

『捌』!」

「っ…こんなの、痛くなんてありません!」

「小娘がっ…!」

 

脚の表面、そして筋肉を半ばまで侵食する分解を受けたアリスだったが、それに怯まずにより強く体重をかけてKeyを押さえつける。

その好機を見逃すまいとプレナパテスとクロコが向かうと、アリスは2人の方にKeyを蹴り飛ばした。

プレナパテスは腕を振りかぶり、クロコはKeyに手のひらを向ける。

 

『解』

「無駄です…!」

 

自身に向けられた分解の波動は、しかしKeyは自身のよく知る秘儀であるからか、出力の差を無視して同じように『解』をぶつけることで完全に相殺して見せた。

とはいえ追撃は終わらず、向かってきたKeyにプレナパテスが腕を振り抜いて腹を打ち抜く。

身体をくの字にまげ吹き飛ばされそうになるKeyだが、その前にプレナパテスの腕を掴むことでそれを防ぎ、同時に秘儀も発動さけた。

 

『捌』

 

「…!”センセイ”、少し下がって!」

 

”ごめん…”

 

せっかく再生させた腕をまた分解され、その回復をさせる為に一度プレナパテスを下がらせるクロコ。

勿論Keyも攻め手が弱まればその分抵抗も激しくなり、合流してきたアリスの不意打ちのレールガンを避けるとクロコの蹴りに合わせて蹴りを返し、双方の脚がぶつかり合う。

 

「…やっぱり、私の方が、強い!」

「…歯痒いですね」

 

押し合いに勝ったのはクロコ。

Keyの脚を押し返しそのままKeyごと蹴り抜いてアリスの方へ蹴っ飛ばし、それに合わせてアリスも腕を振り抜く。

スーパーノヴァを盾にしてガードしようとするKeyだったが、腕を再生させている途中にも関わらず割り込んできたプレナパテスがスーパーノヴァを抑え、それを妨害した。

 

結果としてアリスの腕はKeyのようやく再生が終わったばかりの胸にクリーンヒットし、Keyは苦しそうに咳き込み始める。

続けてアリスはKeyの頭を掴み顔面に膝蹴りを入れ…Keyがアリスの腹に手のひらを押し付けた。

 

「しまっ…」

『捌』

 

放たれた秘儀がアリスの腹部を分解して水風船を割ったように血が溢れる。

その場に崩れ落ちるアリスにトドメを刺そうと頭に触れようとするKeyだったが、スーパーノヴァを抑えていたプレナパテスが砲身ごとKeyを振り回してクロコの方へと投げる。

またラッシュを入れられないようにスーパーノヴァの砲身を地面に突き立て急制動をかけるKeyに、そんな暇は与えないとクロコがアッパーでかち上げ、口から血を吐き腹からも血を流しながらもアリスが復帰してくる。

 

 

(今!ここがKeyを倒してヒナを助けられる最後のチャンス!アリスがわがままを言ってこの状況に持ち込んだんです…!休むな!治して、治して、治して…!力を振り絞れ…!)

 

 

(小娘…忌々しい、忌々しい!神秘の出力も肉体の制御も鈍ってきた!クソみたいなデバフばっかりかけてきて鬱陶しい!雑魚ユニットの癖に!害悪が!)

 

 

(もうKeyにも余裕は無い!圧倒出来る今の内に削り切る!ホシノ先輩達の仇を、今ここで!)

 

 

それぞれの激情が交錯し、熾烈を極める死闘。

Keyが地面に手を付き、砂を掴んで目くらましするために周囲へとばら撒く。

アリスは回避の余裕がなくまんまと引っかかってしまったが、クロコは腕を振ってその風圧で砂を吹き飛ばし、近くにあった白地にピンクの差し色が入ったアサルトライフルを掴んで崩すと、両腕をKeyへと突き出した。

 

薄衣(うすらい)!」

「それ、ばかり…!」

 

ガードも回避も出来ない一撃。

Keyの神秘による防御を貫通してダメージを与えるそれをまともに受け、Keyの簡易領域に限界ギリギリまで亀裂が広がった。

そこにプレナパテスが後ろからKeyに組み付き、スーパーノヴァを持つ右脚と右腕を掴んで固定する。

振り払おうとするKeyだが、そこにアリスとクロコが駆けてくるのを見るとプレナパテスの対処を後回しにして左手を2人に向けた。

 

『解』

 

「…っ、アリス!」

「大丈夫です!」

 

(今の出力が下がったKeyの秘儀は直接触れてくる『解』以外は怖くない!腕さえ封じれば、もう何も出来ない!)

 

強引に分解を耐え、先行したクロコがKeyの左腕を手のひらに触られないように掴み、さらに自分の脚をKeyの左脚に絡めて固定する。

右はプレナパテス、左はクロコに固定され、今のKeyではすぐには抜け出せないだろう。

 

防御も回避も出来ないKeyに、アリスは全力で腕を振りかぶり───がら空きのKeyの鳩尾に渾身の一撃を叩き込んだ。

 

 

「かはっ…」

 

 

同時に、耐久度の限界を迎えたKeyの簡易領域が崩壊する。

それにより、クロコが領域の結界に付与した必中効果を防ぐことが出来なくなり…

 

「出力最大…『救護』!」

 

青く輝く光の柱がKeyを飲み込む。

必中効果として付与された蒼森ミネの秘儀、秘儀を消滅させる秘儀であるそれが齎すのはKeyの秘儀の著しい弱体化。

当て続ければ完全に秘儀を消滅させることも出来るだろう。

 

そして必中効果が直撃して一気に損耗したKeyからならば…アリスは目的を果たすことが出来る。

 

「起きてください───ヒナ」

 

 

 

 

 

 

『ミカさんが残したヘイローの研究記録…”(ヘイロー)というものは多少混ざることはあっても1つになることはない。遺物から受肉した場合遺物の神秘と取り込まされた者の神秘の差によってどちらの意識が浮上し表に出るかを争い合うことになる可能性が高い”…では、Keyの神秘をヒナ以下まで削れれば…』

『もしくはヘイローに意識があるなら、Keyのヘイローを消耗させれば委員長ちゃんのヘイローが浮上してくるかもね』

『どちらにせよKeyを追い詰めないと行けないのは変わりませんが…』

『ま、おじさんも余裕があったら色々狙ってみるよ。もしおじさんが負けたらその時はアリスちゃん達頼りになるけどね。今のところ委員長ちゃんの救出案はおじさんが追い詰めるか、カンナちゃんの秘儀か、アリスちゃんの打撃かな?でも忘れないようにね。もしこの案が全部通じなかった時は───』

 

 

 

 

 

 

(ここで、決める!)

 

決戦前にホシノと行ったヒナを救出する作戦についての話をアリスは思い出す。

ここで救えなければ、もう救出という選択肢を取れなくなってしまう。

故に…アリスはKeyの顔面にこれを決定打とする為の拳を叩き込み、Keyのヘイロー…そしてその内側に沈む、ヒナのヘイローを揺らした。

 

 

 

 

 

 

 

 

ヘイローの構造。

混ざり合うことがない故に、アリスの『ヘイローを捉える打撃』によってKeyとヒナのヘイローの境界を引き剥がし、神秘を弱めたKeyの意識を上書きしてもらう。

アリスがホシノに相談し、クロコやセナ、ミネ等に協力を求め議論を交わした結果導き出した打開策。

その算段に間違いはなかったのだろう。

 

ただ1つ、想定外だったのは───

 

 

 

『…ヒナ…?』

 

『───もういいのよ…助けなくて…私ごと、消して…』

 

 

ヘイローに干渉したことにより一瞬通じた精神世界のような黒い世界。

そこでアリスは、長く白い髪を振り乱し、ぽつんと蹲るヒナの姿を見た。

大切な後輩が死に、恩師が死に、仲間を傷付け、多くの人の命を奪った…それは、ヒナが存在したからこそ起こった惨劇。

 

今のヒナに、生きる意思など───

 

 

『だ、ダメですヒナ…!まだ…!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「”王女は鍵を手に入れ、方舟は用意されました”───光よ」

 

「っ!?」

「そんな…」

 

Keyはスーパーノヴァの砲口にエネルギーを収束させると、それを暴発させ全方位に衝撃を撒き散らす。

アリスは弾かれるも、クロコとプレナパテスは踏みとどまった。

しかしそれによって2人の拘束が緩み…拘束から抜け出したKeyは、踏みとどまる為に全身に力を入れ硬直してしまい対応が遅れたクロコの胸にトンと手を当てた。

 

『捌』

「ぁ…」

 

Keyが触れた部分から、分解が侵食する。

Keyは腕を突き入れながら分解を進め…Keyの腕がクロコの胸を貫いた。

 

広大な砂漠がどこまでも広がっているような領域。

その空間に亀裂が走り、砕けた空間からは外の光が差し込む。

 

 

 

 

 

 

「…っ!?」

 

ズズッ、と肉が裂ける音がKeyの耳にまとわりつく。

 

それは人を相手にする際の常套手段。

ここまで消耗していなければ、Keyならば防げたであろう凡作。

 

Keyの首に”釈魂刀”を食い込ませていたのは、神秘を持たない特性をもっているからこそ、確実に決着をつける為に潜まされていた伏せ札。

 

 

勝利を確信した(Key)への、強襲。

 

レンゲの凶刃がその首を切り落とそうとして───

 

 

 

「ふっ…!」

「っ!?マジかよ…!」

 

首を落とさんとする釈魂刀。

Keyは首の半ばまで裂いていたその刃の側面を指で挟むように掴み、握力だけでそれ以上斬らせないように押しとどめた。

 

確実に成功するはずだった奇襲。

それを土壇場の馬鹿力で防いだKeyに戦慄するレンゲだったが、反撃される前にKeyの首を掴んで遠くに引き離すように放り投げると倒れようとしていたクロコの肩を支えた。

 

「おい!大丈夫か!?」

「…れ…んげ…私、まだ…」

「チッ!もういい!プレナパテス!クロコを頼んだ!」

 

”…そっちも、後はお願い”

 

レンゲからクロコを受け取ったプレナパテスは弱々しく力が抜けたその身体を優しく包み込み、戦場から離脱する。

プレナパテスが向かった方向ではココナが現れ、プレナパテスとクロコに触れると安全な場所へと転移していった。

 

一方レンゲは起き上がろうとしていたアリスの首根っこを掴み、無理矢理立たせた。

 

「おい、アリス。今のがヒナ助ける最後の案だったな?奇襲は失敗した…もう、余裕はねーぞ?」

「こうなったのは…アリスのせいです…アリスが、あの時直ぐに判断できなかったから…」

「…しっかりしろ。まだお前の力がいる。もう助けるなんて言ってられねぇ…殺すぞ」

「…はい」

 

Keyを仕留め損なった…ヒナを助けられなかったのは自分のせいだと自責するアリスに厳しく喝を入れたレンゲは釈魂刀を構えKeyを見据える。

本当なら今の奇襲で倒してしまいたかった。

今のがレンゲが不意打ちを仕掛けられる最初で最後のチャンスだった。

 

(本当はカンナさんの領域にも入ろうかと思ったが…直ぐに裁判が終わったからかその暇がなかったのが悔やまれるな)

 

あの領域ではあらゆる暴力行為が必中効果を受ける全員に適応されるため特性により必中効果を受けないレンゲならば一方的にKeyに攻撃することも可能だったが、ヒナを助けられる可能性を考慮してその判断に迷っていたこと、そうこうしている間にKeyがさっさと裁判を終わらせてしまったことでその目論見は潰えてしまった。

 

だがとにかく今はKeyを真っ向から打ち倒すことだけを考えなければいけない。

 

(アリスは…本調子じゃねーな。アタシが頑張らないと駄目か…世話が焼ける)

 

 

(…やられましたね。狼の娘から少なくない損耗を負っているというのに今更この深手…神秘の総量はまだあるにしろ、このままでは肉体が先に限界を迎えてしまう)

 

半ばまで切り裂かれ滝のように血が溢れる首筋を手で抑えながら、Keyは次の特異現象捜査部連中の動きを警戒する。

ここまで隠し通してきた伏せ札を切って来たということは、もう向こうにこれ以上の手札はほとんど残っていないと見るべき。

 

(…もう1ついやらしいのが、あの剣で切られた傷…他の部位よりも治りが遅いですね。ただでさえ恐怖の出力も低下してしまっているというのに)

 

Keyはクロコに抉られた胸、脇腹、割られた頭部の傷をほとんど回復しているが、その後のクロコ自身によるラッシュやアリスの打撃により至る所を骨折しており、そちらの再生にもリソースを割いている。

そして釈魂刀は(ヘイロー)の輪郭を観測出来る者が振るった場合、その部分に対しては恐怖により治癒が極端に弱まり、同じく(ヘイロー)の輪郭を観測出来る者でなければまともな治癒は行えない。

 

Keyはアリスとヘイローを同居していた為アリス同様その輪郭を観測することが出来るが、ホシノやネル、カンナやクロコ、そしてアリスと散々積み重なってきた損耗により低下した出力ではそれを満足に行えなかった。

 

 

「…フッ、上等ですよ。全滅するまで何度だって叩き潰してあげましょう」

「お前心臓抜き取っても死なないらしいな?なら首が落ちたり脳が潰れても死なないのか、試してやるよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(アリスも、いかなければ…ヒナを、殺さなくちゃいけない…もう助けられない…?)

 

Keyとレンゲが衝突する中、1人放心するアリスは呼吸を荒くし、締め付けるように痛む胸を抑えていた。

戦わなければ、倒さなければ…頭ではそれを分かっていても、精神への強い負担がアリスの足を止めてしまっていた。

 

(ヒナ…なんで、救われてくれないんですか…!)

 

「アリス!しっかりして!」

「…!モモイ…?」

 

そんなアリスに、モモイがアリスの背中に手を置いて声を掛ける。

モモイは落ち着かせるようにアリスの背中を撫で、穏やかな声で諭した。

 

「落ち着いて、アリス。自分を責めないで、ね?それに、回復が止まってるよ。ゆっくりで良いから、深呼吸して、身体を癒して」

「…すみません」

 

 

 

 

 

 

アリスが落ち着いて身体を癒し戦線に復帰するまでの間、Keyはレンゲ達で相手しなければならない。

 

高い機動力を持つレンゲは周囲の地形を活かして派手に駆け回り、Keyを翻弄していた。

戦場は移って高速道路まで移動しており、立体道路の側壁を駆けるレンゲはけいが放ってくる『解』を避けながら一撃離脱を繰り返す。

 

(アタシだけじゃ手数が足りないか。この位置だと…周りに立体物が多すぎてサオリからの狙撃が望めないか。もう少し開けた場所に映るか…いや、サオリの方に移動してもらうか。あいつのことだからもう動いてるか?クソ、動きやすくするのと少しでも音を立てないためとはいえ無線外してくるんじゃ無かった…!)

 

あらゆる物体の硬度を無視して切り裂くことができる釈魂刀、再生を鈍らせる性質と合わせて先程の奇襲を受けた際にそれを見抜いたKeyはレンゲからの攻撃をまともに受けようとはせず、全て回避に注ぎ込んで対応してきていた。

 

ならばとKeyの頭上を通り過ぎてその背後にある看板に足をかけ静止、看板を蹴って背後から狙うという鋭角の軌道での強襲を試みるが、横薙ぎに払われた一閃をスーパーノヴァの砲身で叩き上げることでその軌道を逸らし、同時にレンゲにスーパーノヴァを押し当てた。

 

「───光よ」

「グッ…!クソが…!」

 

出力が低下しているとはいえゼロ距離から撃たれればノーダメージとはいかず、焼け落ちた服の下で火傷になっていないかを気にしつつも追撃を避ける為にレンゲは再び距離を取る。

 

(あんまりダラダラ戦ってると何してくるか分かったもんじゃねぇからな…良し、やるか)

 

周囲に意識を巡らせていたレンゲは近付いてきた気配に気付くと軽く屈伸し、バネのような勢いで地面スレスレの体勢の低さでKeyの足元に迫り、釈魂刀で足元を薙ぎ払う。

それをジャンプして避けたKeyにさらに切り上げを狙うが、身体を捻ってそれを躱したKeyはレンゲに手のひらを向け───その腕を横から弾丸が狙い撃って『解』をレンゲから外させた。

 

「チッ…次から次へと…」

 

「もう、レンゲちゃん移動し過ぎ!ただでさえ面倒なのに動き回らせないでよ…!」

「追いつくのも精一杯なんだけど…」

 

レンゲに合流したのはフブキとセリカ。

元々クロコが神秘を解放し領域を展開した際に万が一に備えて領域を取り囲むように位置取っており、その後領域から出てきたKeyをレンゲが掻っ攫うように連れ回してしまった為それを追いかけるのにセリカの方は既に息が切れかかっている。

 

それを煩わしく思い、そしてあの2人はこの戦場には相応しくない者達だと認識しているKeyは真っ先にそちらを排除しようとするが、彼方から飛来した弾丸に気が付くとそれを秘儀で分解しようとして…出力が足りずに崩し切れず、弾丸がKeyの腕に命中する。

 

(ここまで出力を落とされてるともう遠隔の『解』は役に立ちませんね…!小娘め、何度私をイラつかせれば…!)

 

「あ、レンゲちゃん無線付けてかなかったでしょ。サオリちゃんには位置変えるようにこっちで伝えておいたから」

 

「助かる!後は一緒に前出てくれると有難いんだがな」

「無茶言わないでよ…私じゃ中距離でちょこちょこするのが限界だってば。セリカちゃんは後衛よろしく」

「わ、分かったわ!」

 

「デバフ役の狙撃兵1、アタッカーの白兵1、サブアタッカーの中距離1にサポート役の後衛1…そこそこバランスの取れたパーティですね」

「テメェもアリスに毒されてんじゃねーか。アウトドア派にも分かりやすい例えしやがれ!」

 

稲妻のようにKeyに迫ったレンゲは釈魂刀を縦に振り下ろすも、横に避けたKeyがレンゲに触れようと手を伸ばす。

が、そこに駆け寄ってきたフブキが飛び蹴りを入れ、Keyは思わずスーパーノヴァで受け止めてしまう。

 

(ここにきて近付いてくるから小娘が来たのかと…中衛を担当するというのはブラフ?となると…次が来る…!)

 

ほくそ笑むフブキがスーパーノヴァを蹴る反動で飛び退いて距離を取ると、その後方に構えていたセリカが何かを投擲した。

それが手榴弾か、煙幕か、或いは閃光弾か、分解しようとして間に合うかの判断に迫られたKeyはそれから逃れる事を選択してレンゲやサオリとの位置関係に注意しながら後ろに跳んだ。

 

念の為スーパーノヴァの後ろに身を隠してそれを防げるようにして───地面を転がった筒状のそれは甲高い金属音を上げるのみで何も起こらない。

 

(…ただの、水筒?)

 

「引っかかってやんの」

「!」

 

Keyが移動した場所、その直上には立体道路がある。

そこに誘い込めたことに思わず笑みを浮かべたフブキは、腰から取り出したスイッチを押す。

 

すると、Keyの頭上で爆発が起こり崩れた立体道路の瓦礫が降り注いだ。

 

(爆弾…いつの間に…先程からちょこまかとしている転移の娘ですか…!)

 

フブキがレンゲを追う移動中に連絡を入れたココナによって仕掛けられたトラップ。

本来ならばこの程度の瓦礫は砂粒にも等しいが、今の出力では遠隔の『解』では払い除けることも難しい為、慌ててKeyは立体道路の下から転がり出る。

そこを狙ったサオリの狙撃はKeyの側頭部を撃ち抜き、さらにその神秘を削った。

 

休む暇も与えずに肉薄したレンゲは高速で釈魂刀を振るいKeyを切り裂こうとするが、これだけはKeyは意地でも回避し直撃を避け、立体道路の石柱にまで下がると、その石柱に手を触れた。

 

『捌』

「ハッ、しゃらくせぇ!」

 

石柱を分解し、瓦礫を跳ね上げてお返しとばかりにレンゲに瓦礫の雨を降らせる。

自分に当たりそうなものだけを的確に釈魂刀で切り捨てながらKeyを追いかけようとするレンゲだったが…フィジカルギフテッドで強化された聴覚と視力が、Keyの言葉と口の動きを捉えた。

 

”王女は鍵を手に入れ、方舟は用意されました”───光よ

 

「っぶねぇ!」

 

詠唱を加えてKeyが放つのは出力を強化したスーパーノヴァ。

真っ直ぐ伸びてくる光線を肩に掠りながらもギリギリで避けたレンゲは一度一息付く為に追撃しようとしていたフブキとセリカを手で制して止めた。

 

「もう神秘も限界なんじゃねえか?出力も『捌』以外はカスみたいなもんだしな。サオリの狙撃だって地味に効いてる筈だ。いい加減底が見えて来ただろ」

「そうですね、今までに無いほどに追い詰められていることは認めましょう。ですが───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

───貴女達には負けませんよ。()()ですので」

 

(…はてさて、どういうつもりで言ってるのやら…やるっきゃ、ねぇよなぁ…)

 

何となく、嫌な予感を感じながらも。

それでもレンゲ達は勝利を掴み取るべくKeyへと挑むのだった。

 

 

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