ブルア廻戦   作:天翼project

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今回は原作253〜254話までの範囲でお送りします


人外魔境D.U.決戦─拾壱─

 

「っ…ここに来てまだ動けんのか…!」

 

ここまでの連戦によって秘儀の出力も著しく落ち、ホシノとの戦いで見せたような大規模な分解を行える余力はもう残っていないKey。

さらに積み重なったダメージは確実にその体力を削り、ヘイローを消耗させている。

それにも関わらず、レンゲの極まった体術による迫撃を凌ぎ、それをサポートするフブキやセリカも的確にいなし、サオリによる隙を狙った狙撃すら躱され始めている。

 

極限の消耗、極限の緊張…この状況においてKeyの集中力は逆に最高潮を迎え、ギリギリで致命傷を避けては目敏く反撃を狙って来ていた。

 

「テメェどんだけ粘るつもりだ!いい加減こちとらダレて来てんだよ諦めろ!」

「ラスボスが簡単に倒されてしまってはつまらないではないですか。それに負けるつもりなど毛頭ありませんし…諦めるべきはそちらでは?もう戦力も残り少ないでしょうに」

「チッ…!」

 

激闘の最中繰り広げられる煽り合い。

そしてKeyの推測は外れておらず、今ここにいる戦力で勝てなければいよいよKeyを詰め切ることが困難になってしまう。

アツコは無名の司祭を抑え込むので手一杯、アリスはモモイに介抱されていてまだ復帰してきていない。

シュンを呼ぶことも考えたが、直接戦闘力はそれなりにある彼女でも秘儀で自己強化できるセリカや簡易領域という一芸に秀でKey相手にも立ち回れるフブキ、言わずもがななレンゲと比べるとこの場においては劣り、それならば烏による突撃を狙ってもらった方が良いだろう。

 

(つーか烏ほとんど残ってねーじゃねーか。突撃してもらうにしても明確な隙を作らないとまず当たらないだろうし…)

「クッソ面倒くせぇ!大人しく倒させろ!」

 

「フンッ…『解』

 

他の皆とは違い神秘で自らを保護できないレンゲは細かなダメージも避ける為Keyの放った分解の波動を飛び越えるようにして回避し、そのまま距離を詰めていく。

釈魂刀がしつこくKeyの首を狙うも、Keyはそれを尽く躱すなりスーパーノヴァの砲身を使い弾くなりで中々決めさせてはくれない。

 

そこにフブキが閃光弾を転がしてKeyの視界を奪おうとするが、何度も同じ手は喰らわないと足元の地面を分解し、巻き上がった土煙をクッションにすることでそれを防ぐ。

すかさず回り込んだセリカが今回は赤い目出し帽を被り、秘儀を発動させ身体能力を上げて直接殴り掛かりに行こうとする。

 

もちろん1人では殴り負けるので、Keyが巻き上げた土煙を通ってレンゲが挟み撃ちにするように斬り掛かるも、真上に跳躍したKeyは手のひらを直下に向けた。

 

『解』

 

「うっ…ぐ、おい大丈夫か!」

「ええ!まだまだ行けるわ!」

 

真上から押し潰すように放たれた分解の波動。

レンゲは神秘で肉体を保護出来ない故に今の一撃が直撃して皮膚の至るところが崩れるが、元々の肉体の強度とKeyの出力の低下によって大したダメージにはなっていない。

セリカも装備や肌の一部が崩れたりしている程度で、継戦に影響するようなものでは無かった。

 

(…これまでは、私が秘儀を放てばどんな相手でも塵芥に帰して立ち続けられる者などほんのひと握りしかいなかった。それなのに今はこんな雑魚ユニットにすら平然と耐えられる…それはそれで愉快ではありますが、ずっとこの調子では爽快感も何もありませんね)

 

本日何度目か自分の弱体化を嘆いたKeyはサオリからの狙撃をスーパーノヴァの砲身を盾にして受け止め───

 

「…?待って今のは…!」

 

が、その方向からの攻撃を察知した時点で条件反射的に取ってしまった防御。

飛来してくるそれの速度がこれまでの狙撃とは違うことに気付いた時には時既に遅く───スーパーノヴァに直撃したミサイルが爆発炎上し、Keyを炎で包み込んだ。

 

「あっつ…!やってくれましたね…!」

 

 

 

 

「今の私ならミサキの武器も使えるが…流石にこの距離からでは普通に撃ったら当たらないからな。慣れとは斯くも恐ろしいものだとは思わないか?」

 

 

 

 

「ナイスだサオリ!良くやった!」

 

炎に包まれながら落下するKeyに向かって飛びかかったレンゲは自分も炎に触れることをものともせず、Keyの腕を掴んで地上に投げつける。

全身を地面に強打したKeyは自分を焼く炎を振り払おうとするが、これがどうして中々鎮火せず継続的にダメージを与え続けた。

 

この期を逃すまいとフブキとセリカも追撃しようとするが…

 

 

”王女は鍵を手に入れ、方舟は用意されました”───光よ!

 

「やばっ…下がって!」

 

炎を払えず、その間に攻めてこようとするフブキ達に気付いたKeyは詠唱してスーパーノヴァの出力を上げると、放った光線をやぶれかぶれに振り回した。

照射され続ける光線は地形を抉り、近くの立体道路やビルを切断して破壊する。

それを見たレンゲは何かを思いついたのか、Keyの近くにあったビルの外壁まで飛び上がって張り付いた。

 

「Key!こっちだ!」

「っ!」

 

声の方向に咄嗟にスーパーノヴァを横薙ぎに振るうKey。

光線は斜め上方向を横一直線に駆け抜けた。

それを壁を走りながら回避したレンゲはそのままKeyに飛びかかり、釈魂刀を縦に振り下ろす。

致命傷を与えうる攻撃が近付くと途端に勘が鋭くなるKeyは迫る刃に横からスーパーノヴァの砲身を叩きつけることによって軌道を逸らし自身の横に刃を落とすと、至近距離から光線を叩き込もうとして───

 

「…?この音は…」

「よく見ろバーカ」

 

凄まじい倒壊音。

それにKeyが気付いた次の瞬間、先程斜め上を切り払った光線…それによって斜めに切断されたビルの上部がKeyの方向へと滑るようにして倒れた。

 

倒壊したビルの下敷きになったKeyを見据え、それだけで倒し切れた訳では無いだろうと慎重に構えるレンゲ。

暫くすると予想通りビルの残骸の一角で爆発が起こり、一度瓦礫に埋もれたことでようやく鎮火していたKeyが姿を現す。

Keyはレンゲへと視線を向けると、近くにあった巨大な瓦礫を持ち上げ、それをレンゲの方へと投擲した。

 

迫る瓦礫を横にひょいと避けて反撃しようとしたレンゲだったが…

 

(…いない?)

 

瓦礫で視界が遮られたその一瞬でいつの間にかKeyの姿が消えていた。

ならばどこに消えたのか。

 

 

「───光よ」

「!?」

 

 

投擲した瓦礫に身を隠すようにして追随していたKeyが、瓦礫の裏側からレンゲにスーパーノヴァを放つ。

光線が直撃し真っ直ぐ吹き飛ばされ、直線上にあったビルまで突っ込んでいくレンゲの姿を見送ったKeyは、それを追ってビルの内部まで跳躍すると崩れた壁の裏側で待ち伏せていたレンゲが不意打ち気味に斬り掛かる。

それを避けたKeyはお返しにレンゲの脇腹に手を触れさせ───

 

『捌』

 

「っ〜〜〜!」

 

触れた場所から侵食した分解がレンゲの脇腹を抉り取った。

咄嗟に身を引いたことで重要な器官までは崩されなかったが、それでも無視出来ないダメージにレンゲは歯軋りする。

追撃しようとするKeyだったが、2人を追いかけてビルに突入してきたセリカが背後からKeyを攻撃しようとして、Keyはノールックでスーパーノヴァを背後のセリカに向けると放った光線で吹き飛ばしてしまう。

 

さらに真正面から飛びかかってきたレンゲが釈魂刀を振るうよりも早く、腹部を蹴り飛ばしてレンゲはその方向にあった窓を突き破りビルの外へと落下する。

 

が、息付く暇もなくKeyの真横…最初にKeyがビルに侵入する際に突き破った壁の穴に姿を現したフブキは自前の銃…ではなく、直前でセリカにパスされていた2丁のサブマシンガンを構え、簡易領域を発動し命中精度を底上げした上でそれらをKeyに掃射した。

 

「…っ、痛い、ですね!」

「そう言うならもっと鈍ってよ…!」

 

簡易領域により精度の跳ね上がった射撃はその多くが的確にKeyの手、足、胴の長さを線分した時における88%部分に命中し、跳ね上がった弾丸の威力は確かにKeyの表情を歪ませる。

しかしKeyは直ぐに反撃に転じ、フブキの襟を掴むと壁に叩き付け、秘儀を発動させようとして───床をぶち抜いて下の階層から飛び出てきたレンゲがKeyを掻っ攫い、上の階にまで引き回した。

 

そのまま掴んだKeyを柱に投げつけたレンゲは床を滑るような低姿勢で追撃しようとする、が。

 

 

『解』

 

(…こいつ、力押し出来ねーってなったら普通に機転利かせてくんのめんどくせぇ!)

 

 

Keyは天井に無造作に『解』を放つと、崩れた瓦礫がレンゲの進路を塞ぎ足を止められる。

飛び越えるか迂回するかを迷う暇もなく、瓦礫の1つをKeyへと蹴り飛ばして牽制を仕掛けた。

 

(クソッ、のらりくらり躱されてちゃ意味がねぇ…!クロコが助かってもこのまま長引けば別の問題が出ちまう!ここで押し切らなきゃ…!)

 

「…天与の娘」

「!」

 

レンゲが蹴りつけた瓦礫をスーパーノヴァの光線で粉砕し、その奥のレンゲまで巻き込んで吹き飛ばしたKeyはビルの外まで突き抜けていったレンゲを追いかけた。

 

「小娘のように半端では無い全てを削ぎ落とした真の虚無。この神秘の世界における異物、実に興味深いものです」

「そうかよ!ならなんだ?私の健康診断書でもいるか!?」

「勿論不要ですが…神秘の祝福を受けぬその肉体が一体どれほど崇高なものなのか、試してみるのもまた一興というものでしょう!」

「あぁ!?」

 

天与宣誓により完全に神秘を捨て去ったその特性に好奇心を掻き立てられたKeyは、真っ向からレンゲと殴り合いに興じ、昂る激情によって下がっていた肉体の制御を徐々に取り戻してその動きのキレも増していく。

 

(…だから時間かけたくなかったんだ…!アリスが叩き込んだヘイローのズレが戻り始めてる…!)

 

ヘイローを観測出来るからこそ、一向に決定打を打てない今の状況で少しずつKeyに戦いの天秤が傾いていく様子が見えてレンゲは強い焦りに駆られる。

釈魂刀ならばヘイローの回復も阻害できると逸る気持ちを抑え切れずに強引に攻勢に回ろうとして───それに完璧に合わせてKeyの拳がレンゲの鳩尾にめり込んだ。

 

 

「が…」

 

 

 

 

 

───黒閃

 

 

 

 

黒い稲妻のような光が迸り、跳ね上がった打撃がレンゲをビルを幾つも突き破ってずっと遠くまで吹き飛ばした。

 

直後、例の方角からミサイルの飛来を感知したKeyはそちらに向けてスーパーノヴァを構え…

 

 

”王女は鍵を手に入れ、方舟は用意されました”───光よ

 

 

詠唱で出力を強化されたスーパーノヴァの光線が、飛来するミサイルを飲み込んでさらにそこ遥か先───サオリが狙撃ポイントとしていたビルの屋上を消し飛ばした。

 

黒閃によりゾーンに突入したKeyの研ぎ澄まされた神秘センスが低下した出力を補い、それに伴って詠唱を加えたスーパーノヴァの出力も上がっていたのだ。

 

その様子をビルから半身を乗り出して見てしまったのは、レンゲに助けられてからようやく復帰しようと起き上がってきたフブキ。

 

「…えっ、待って…誰か…誰も、いないの…?」

 

フブキは当たりを見回す。

レンゲはKeyの黒閃を受けてまともに戦闘を継続できる状態とは思えない。

セリカは先程Keyのスーパーノヴァの光線を受けた時に吹き飛んだ先で伸びていて、アリスはまだ回復が終わっていないのかそれを介抱していたモモイと共に復帰してこない。

サオリは先程のスーパーノヴァの光線に巻き込まれた可能性が高く、援護は期待出来ない。

 

シュンは…Keyが炎に包まれた時のやぶれかぶれなスーパーノヴァの放出により烏がみんな巻き込まれたのか、上空に援護をくれそうな烏は一羽も残っていなかった。

 

追撃者がいなくなり静かになった戦場。

その中心に立つKeyはふぅと一息つき…その視線がフブキの方を向いた。

 

「…え、マジで…?」

(やるしかないの…?私が?Keyを…?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うん?フブキちゃん?』

『はい!時々訓練に見学…というより見物に来てますけど、あまり絡んだことが無いのでよく知らないんですよね。一応2年生の先輩達の監督官をしてるのと、ホシノ先輩の後輩だというのは聞いていましたが…』

『フブキちゃんか〜…あの子あんまり積極的に人と関わりに行くようなタイプじゃないし、アリスちゃんの方から話しかけないと交流は難しいかもね。それにミレニアムの件からアリスちゃんを避けてるって聞いたし』

『っ…!』

『ああ、別にアリスちゃんが気にすることじゃないよ。そうだね…話のタネにするとしたら…フブキちゃんは私の2つ下の後輩でね。あの子高等部1年の時に任務で大怪我してから前線出るの怖がるようになって、仕方なくヒマリ部長が裏方の仕事を任せるようになったんだ。色々手厚くサポートもして…そうして甘やかされてたら逆にサボり癖着いちゃった時には参ったけどね。珍しく簡易領域習う!ってやる気出してシン陰に入って行ったと思ったらなんか想像の斜め上の努力してまたサボり始めたし…』

『…?想像の斜め上の努力、ですか?』

『簡易領域の射撃術ってあるでしょ?百鬼夜行支部のヒフミちゃんが使ってたみたいなあれ。領域内の対象への必中効果…それを劣化させた術者の精確さと反射神経を底上げするっていう原理なんだけど、フブキちゃんはそれをさらに昇華させててね…』

 

 

 

 

 

 

 

 

「…『簡易領域:マクロ』

 

「ふむ…?」

 

 

Keyの狙いが自身に向いた時、フブキは意を決して自らの十八番であるそれを発動する。

一見通常の簡易領域と遜色ないように見え、これまでの戦闘で何度もフブキの簡易領域を見ているが故にそれを如何にも大技のような雰囲気で発動したフブキにKeyも首を傾げる。

しかし───次の瞬間、フブキの簡易領域が急速に拡大し70m程離れた距離にいたKeyをその範囲内に巻き込んだ。

 

 

「!」

「はぁ…なんでこんな面倒臭いことやってるんだろ…」

 

 

Keyが簡易領域の範囲内に強引に引き込まれた直後、フブキは精確無比な射撃を次々とKeyへと叩き込んでいく。

Keyもそれを回避なりスーパーノヴァの砲身を盾にするなり、秘儀で分解するなり…様々な方法で捌こうとして、その尽くが失敗に終わった。

 

(…防御しようとすれば銃弾がガードの僅かな隙間を縫って弾が私に当たる。避けようとすれば、その方向を先読みしたかのような極めて精確な弾道で私を狙ってくる。秘儀で分解しようにも…簡易領域の中ではあの小娘の神秘の出力が上がり、私の神秘の出力は多少なりとも減衰させられる。なるほど厄介ですね)

 

「どれ、遊んでみましょうか…”王女は鍵を手に入れ、方舟は用意されました”───光よ

「っ!やっば…」

 

回避困難な射撃は確かにKeyに弾丸を届かせているが、それでもたかが銃弾に神秘を込めた程度の攻撃ではKey相手にまともなダメージを与えるには打撃力不足もいいところ。

せめてユウカの銃を使った弱点攻撃やアリスのレールガン並の出力が無ければ意味のある攻撃とは言えないだろう。

 

即ち別に受けても痛くも痒くもない攻撃。

レンゲやクロコとの戦闘中にこれを使われれば意識が散らされ弾丸を受けた衝撃で動きを阻害されて面倒だっただろうが、1対1ならばなんの脅威にもなり得ない。

そう判断したKeyはフブキからの射撃に対して一切の防御も回避も行わず、真正面から受け切ると弾幕を浴びながらスーパーノヴァをチャージし、詠唱を加えてその出力を引き上げた。

そして放たれた光線は一直線にフブキを穿とうとして───フブキはそれを背面跳びでギリギリ回避すると、着地するまでの間も一切その精確性を落とすことなくKeyへと弾丸を浴びせた。

 

「…?『解』

 

その回避行動に僅かな違和感を感じたKeyは大きく後ろに下がり簡易領域の範囲から抜け出すと無造作に腕を振るい、広範囲に対して分解の波動を放つ。

波動は地面を抉りフブキへと迫り…簡易領域に波動が侵入した瞬間、簡易領域がフブキを中心とした直径1m以下にまで収束、遅れて再び簡易領域に届いた波動は超圧縮され秘儀の中和効果を極限まで高められたそれにほとんど減衰され微かにフブキの服に傷を付ける程度で終わった。

 

(…なんですか今のは?人間の反応速度ではない…いや、まさか…)

「”マクロ”とはそのままの意味ですか?」

「はっ、だからなんだってのさ?分かったところで…対処出来ないでしょ!」

 

フブキは再び簡易領域を限界まで拡大する。

その最大半径は100m近くにまで達し、Keyが強引に簡易領域に引き込まれる。

 

フブキが使用する『簡易領域:マクロ』その正体は、フブキが極限までサボりを追求する為に開発した()()()()()()()()()

簡易領域の範囲内に侵入した対象に対して、肉体が自動で最善の行動を取り危機回避、精密射撃を行うことでフブキ自身は何も考えずとも身体が勝手に対応してくれる楽チン戦闘術だ。

フブキは普段これの効果を劣化させサボりで寝ていたりする時に人が近付いて来た際、自動でそれを察知して身体が動き仕事をしているように見せかけるというしょうもない使い方をしていたりする。

 

デメリットとして、この簡易領域による対応対象は簡易領域内の自分以外()()な為、他人との連携には極めて不向きといった点が挙げられる。

 

 

(私は何も考えなくてもいい…自分で築き上げた”サボり”の真髄を信じろ…!)

 

 

精確な射撃は確かにKeyを捉えるが、まるでダメージにもならないと判断した簡易領域…それに組み込まれた”マクロ”はフブキの身体を無理矢理突き動かし、Keyに肉弾戦を挑みに行った。

 

 

「いやなんで!?」

「最善の行動を取るようにプログラムが組み込まれているのなら、実際それが最善の行動だと判断したからでは?」

 

 

本人はのらりくらり躱してアリス達の復帰を待つつもりだったのが、何故か勝ちに行こうとしていることにフブキは思わず自分の”マクロ”にツッコミを入れてしまう。

チマチマ撃ってくるのを煩わしく思っていたKeyは好都合とばかりにそれを迎え撃とうとするが…触れた傍から分解し身体を抉り取る『捌』を纏った腕を伸ばすKeyに上着を脱いでそれを目眩しすることでギリギリ回避すると、カウンターの蹴りを入れてKeyを吹き飛ばし、吹き飛ばした速度に追いつく程の脚力で追撃に向かった。

 

(これ私の身体の限界超えて動いてる気がするんだけど…あちこち痛い…痛いのは怖いのに、面倒臭いのは嫌なのに…なんで私ここに来たんだろ…逃げて、逃げて、逃げ続けた私が…)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『独自の簡易領域…必殺技みたいでカッコイイですね!』

『だよね。私にも真似出来ない…頑張れば出来るかもしれないけど、私には合わないだろうからやるつもりはないけど…あれはまさにフブキちゃんだけの持ち味だね』

『…ですが、ホシノ先輩。今の話を聞いて分からなかったことが1つ…今のフブキ先輩は普通に現場に出て戦ってますよね?その大怪我を負った時から今までの間に恐怖を克服するなり心変わりするようなイベントがあったんですか?』

『んー、そうだねぇ…あの子普段飄々としてて本当に臆病な子だから強気な態度を見せてる裏では割かしビビってる気がするんだよね』

『つまり、まだ恐怖を克服できていないと…?』

『そうじゃないよ。怖がることは何も悪いことじゃない。恐れは生存能力に直結する。前にヒマリ部長があまりにサボってばかりのフブキちゃんを見兼ねてお説教した事があるんだ。その時にこう言ってたんだよ。”真面目に仕事しないとお給料上げないぞ”って』

『シンプルに脅してません?』

『それで仕方なく、シュンさんが補助に付きながら任務に連れてったんだけど…そしたら意外と自分が戦えることに気付いたんだろうね。あの簡易領域が役に立ったって。それで自信が付いてったんだと思う。でも、結局フブキちゃんは自分自身では戦ってないんだよ』

『…あ、戦闘はすべて簡易領域の”マクロ”に任せているから…それだけに頼って戦い続けているから、心の奥底の恐れが抜けていないと?』

『うん。言わば自分の運命を自分を操る人形使いに任せているようなものだからね。だから、本当に危ないと思ったことをそんな不確かな人形使いに任せたくないから、絶対にこなせるだろう簡単な任務にしか行かないんだよ』

『そうなんですか…』

『でもね、アリスちゃん。私これでもフブキちゃんの先輩だからさ。信じてるんだ。これまで”マクロ”に頼り続けて…自分の意思によらない力に頼り続けてたフブキちゃんがさ。本当に大事な時に、自分の手で運命を掴まないと行けない時に、それに頼らずに自分の意思で行動できたなら───おじさん、先輩としてその成長を凄く誇らしく思うだろうなぁ』

 

 

 

『…』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(…ホシノ先輩、私が盗み聞きしてるのに気付いてわざとあんなこと言ったでしょ)

 

回想する決戦前の記憶。

なんだかんだで尊敬する先輩と、ミレニアムの件で恐れてしまった後輩の会話。

それが自分についてあんなにも語っていることを思い出すだけで恥ずかしさで死にたくなるが、それでも…

 

(あの時、私は戦わずに逃げた。だから後輩が何人も傷付いて死んで、大勢の市民も巻き込まれることになった。私の怠惰のせいであんなことになったのに…それなのに、アリスちゃんのせいにして、勝手に怖がって…私は、監督官として…先輩として、失格だよ)

 

 

「私を相手に呑気に考え事が出来るとは羨ましいですね」

「自分の意思に関係なく身体が動いてるんだよ?ずっと考えでもしないと怖くてやってられないよ」

 

Keyの攻撃を、分解を、スーパーノヴァを躱す、逸らす、受け流す。

簡易領域の拡大と縮小を使い分け、的確に捌きつつ応戦する。

だが…それでは足りない、勝てはしない。

今”マクロ”がKeyに積極的に攻撃を仕掛けているのは、それが最もフブキの生存率を上げられると判断したからだ。

生き延びることを優先していてはKeyには勝てないというのは自明の理だろうに。

 

 

(…信じる…本当に?私が築き上げた”マクロ(これ)”を、本当に信じてもいいの?)

 

 

「…無理矢理貴女の動きを引き出している分、負担はそれなりに大きそうですね」

「相手が君じゃなきゃここまでの負担にはならないよ…!」

 

 

Keyの放ったスーパーノヴァの光線を避け、潜り込むように突撃しようとするのを蹴りで払われ、直撃こそ避けるもののその為に人体の可動域を半ば無視したように身体を仰け反ったせいで背骨が痛む。

このままではフブキが先に肉体の限界を迎えてすり潰される。

そもそも、今のKeyは本気でフブキの相手をしていないと言うのに。

 

 

(まだ小粒は残っていますが、目の前の娘を片付ければ後は消化試合のようなもの。烏を操る娘もあの特攻が私の秘儀に相性が悪いのは確認済み。小娘とその姉(仮)は…話になりませんね)

 

 

 

(何を信じるの?私は…私が本当に信じるべきなのは───私を救ってくれた、信じてくれたヒマリ部長やホシノ先輩達と、突き放したのに気にかけてくれるアリスちゃん達でしょ…マクロ(そんなもの)に自分の運命を預けるな…!ホシノ先輩やヒマリ部長の後輩として、アリスちゃん達の先輩として…!私なりの責任を果たせば良い!)

 

例え敵わなくても。

例え自分が何より恐れていたものに直面したとしても…今だけは、それを振り払って次へと繋ぐ為に。

 

 

「さて、そろそろ飽きました。終わりにしましょう」

「ははっ…飽きっぽいとサボれなくて大変だよ?何事も楽しむ気概がないとね…!」

「…『捌』

「!」

 

 

Keyは地面に手を触れ、そこを起点に分解を伝搬させる。

崩壊した地面が跳ね上がり、フブキもまた空中に打ち上げられた。

 

そこを狙うのは、Keyが構えたスーパーノヴァ。

 

 

”王女は鍵を手に入れ、方舟は用意されました”───光よ

 

「…」

 

 

放たれた光線がまず最初にフブキの拡大された簡易領域に触れると、”マクロ”は少しでもフブキへのダメージを軽減する為に簡易領域を縮小して出力の減衰効果を高めようとして───

 

 

 

 

「思考を投げ出すのは、もうやめた」

 

「!」

 

 

フブキは”マクロ”をオフにすると、自らの意思で簡易領域を更に拡大…半径120mにまで広がったその内側にKeyを巻き込む。

 

(広げた…?それではより減衰効果が弱まってしまう筈ですが…)

 

その行動を疑問に思うKeyだったが、光線は止まることなくフブキを飲み込まんとする。

目の前に死の光が近付いたフブキは悪戯っ子のように笑い…

 

 

「結界、収縮」

「!?」

 

 

突如、Keyは背後から何かに押されるようにその身体がフブキの方へと引き寄せられた。

引き寄せた力の正体…それは、簡易領域を広げたのと同時に、簡易領域の外縁と重ねるようにしてフブキが展開した”結界”。

特異現象捜査部が任務の際に使うような、内と外を分断するだけの単純な結界だが、フブキはKeyより外側に張ったそれを自分自身が中心になるように縮小することで、縮小にKeyを巻き込んだのだ。

結界の強度としてはKeyならば少し力を込めて叩けば破壊される程度。

だが一連の早業は”マクロ”に頼らない簡易領域を利用した脊髄反射による超反応を利用して行われており、スーパーノヴァの光線がフブキに届くよりも前に行われていたそれは…知る者が見れば、さながらホシノがミレニアムで見せた0.2秒の神秘解放を想起するだろう。

 

そして光線の着弾より早くフブキに引き寄せられたということは…

 

 

(簡易領域の範囲を広げたのは結界を誤魔化す為…だけじゃない!スーパーノヴァの光線の威力を落とさないようにする為…!)

 

「私にしては、よくやったかな…」

 

 

 

 

 

 

 

スーパーノヴァの光線はフブキに着弾するのと同時に、爆発がそれに引き寄せられていたKeyを巻き込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぅ…ぅ…」

 

「…中々どうして、世の中飽きない事ばかりです。この戦いで何度それを再確認したことか…」

 

ボロボロになり倒れるフブキを見下ろすKeyもまた、長い戦いでボロボロになっていた。

神秘の出力は黒閃を出したことによる研ぎ澄まされた神秘センスによって多少取り戻していたが、肉体よりも神秘よりも、何よりもヘイローへのダメージが危険域に突入するほどに蓄積している。

全体的に大きくひび割れ今にも崩れそうなヘイロー。

 

(…ですが、時間をかければ…完治までに数ヶ月、下手したら年単位でかかるかもしれませんが、回復できる。この戦いが終われば…)

 

 

 

 

「フブキさん!」

 

転移してきたココナが倒れるフブキを回収しようと手を触れようとして…一瞬で詰め寄ったKeyがココナを蹴り飛ばした。

 

「あぅっ…」

「いい加減貴女も鬱陶しいです」

 

 

 

 

「っ!いけません…!」

 

 

 

 

(…!あれは…姉さんの…最後の烏なのに…!)

 

ココナに迫る危機。

それを看過出来なかったのが最後の一匹である監視用の烏すら特攻に使ってココナを救おうとするシュン。

しかし…

 

「姉妹揃って、随分と引っ掻き回してくれたものです。それももう終わりですが…『解』

 

Keyは秘儀によってそれをあっさりと分解し撃墜すると、今度はココナへ手のひらを向け───分解の波動が放たれる。

 

 

 

 

「…?」

 

だが、地面を抉り取る分解が駆け抜けた先にはココナの姿は無かった。

塵1つ残さず消滅したのかもしれないが、それでも今のKeyの出力による遠隔の『解』では物体を消滅させられるほどの分解は出来ない筈だ。

ならばその行方は一体どこに消えたのか────そして、Keyは近くにあったビルの屋上の方を見上げた。

 

 

 

「危ないところデシタね!お嬢さん!」

「…は、はいぃ…?」

 

「…???え、誰ですか?」

「おっと、私を知らナイとはモグリデスね!これデスから人工知能というのは人に興味がナクテ困りマスよ!」

 

ココナを…ついでにフブキを担ぎ上げるようにして回収していたのは、朱色の金髪を羽織った長い髪の女性だった。

 

そして一切その女性に見覚えがないKeyは、ホシノがいないにも関わらず『アイ・オブ・ホルス』を受けたかのように困惑で硬直するのだった。

 

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