やさぐれユウキ君(偽)のアングラバトル学概論 作:バトルフロンティア復興委員会会長代理
苗字が無いのが不自然なのでいろんなキャラに勝手に付けます。悪しからず。
ポケットモンスター、縮めてポケモン。
それは現実の生き物をモチーフとした大人気キャラクター。
ゲームに始まりアニメに映画。20年以上続く大ベストセラー作品群だ。
そんなポケモンの世界に転生してかれこれ20年。
いい事も悪い事もあったが、『ポケモン』という作品自体は好きなので、今は大学教授としてなんとなく生きていた。あとバイトで"社長"もやっている。
時に『シュバルゴ』というポケモンを知っているだろうか?
鋼鉄の巻貝を甲冑や馬上槍のように着込んだ虫ポケモンだが、その図鑑にはこうある。
高速で 飛び回り 鋭い やりで 相手を 突く
しかしゲームでのこいつは鈍足。重箱の隅をつつくようでアレだが、はっきり言って設定ミスだろう。
しかしそれはゲームだからこそ許される話。
こっちはそれが現実だ。
では、
この世界では、シュバルゴは確かに
トップスピードを得るのに時間がかかる上、走り続けるスタミナも無い。だが動けば速い。そうして整合性をとっている。
では
矛盾を抱えたポケモンは長期作品の弊害でそれなりにいた。
そして、それなりのポケモンを調べた俺はある仮説に至る。
ゲームにおける『すばやさ』のステータスは、『実行速度』である。と……
聴覚が鈍い、体が重い、反射神経が悪い、本体が速すぎてドップラー化した指示の理解に時間がかかる。様々な理由でこの仮説は裏打ちされた。
で、あれば。
――
月夜の下で騎士が舞った。
「シュバルゴ、決して止まるな。相手は雑魚だ。55秒以内にきめろ」
「シュバッッッ!!!」
「巫山戯ないで! 私のポケモンを馬鹿にして!」
「それは勘違いだ。馬鹿にされてるのは君の方だよ」
「な――――ッ!?」
つまり、ポケモントレーナー。プロのトレーナーの才覚とはそういう所で決まる。
後ろで吠えているだけじゃないのだ。
◇
ところで、
話は変わるが『ストバ』というものを知っているだろうか?
正式には『ストリート・スタイル・バトル』 ポケモンバトルの形式だ。
まあ知るわけないだろう。俺が作ったのだ。厳密には違うが
アニメポケモンの初期も初期、いわタイプのポケモンに相性不利なでんきタイプで挑んだ我らが主人公サートシ君は、紆余曲折を経てスプリンクラーの水をぶっかける事でなんとか勝利に漕ぎつけたという話がある。
これが元ネタだ。
転生した俺は、この世界でどうしても負けたくない相手がいた。
どうしても負けたくなかったのでなんでもした。
例え罵られようと関係ない。どれだけ恨まれてもいい。もはや姑息でも卑怯でも構わない。負けない事に全てを賭けた。命を代償に勝てるならと、寿命だってガッツリ削っている。
それでも⋯⋯徐々に分が悪くなる。まさに天部の才。
⋯⋯負ける度に奴は強くなった。
⋯⋯負かす度に奴は笑顔を向けた。
不幸にのほほんと生きるより、幸せの中で死にたい。だがそれすら叶わない。追い詰められる内に俺の
決め手は死人が出た事だ。
そうして俺は犯罪者になったが。それでも奴は止まってくれない。
むしろ喜んだ。強くなる俺を。
奴も全てがどうでもいいのだ。
ただ『俺』に勝つことだけを楽しみに生きていた。
――私に勝てる人はいるよ? でもね、勝ち続けたのは君だけなの。だから私はあきらめない。たとえ
それを聞いた時、俺は殴り掛かった。
ポケモンバトルにリアルファイトが混ざった瞬間である。
結局、俺は奴がチャンピオンに就任した折、公職として土地と責任に縛られた奴を置いてほかの地方へ旅に出た。もっともそのころには指名手配されていたので俺も国際指名手配犯に進化したが、
全ては心の平穏の為である。
んで、
長々話したが、結局何が言いたいかと言えば、俺が遺した爪痕がそっくりそのまま
まず掛け金。「なんでも賭けていい」
それこそ命、人権、ポケモン――互いが納得する限りありとあらゆるものが掛け金になる。
では命を賭けるようなバトルはどんなルールか?
最早それは殺し合いであり戦争だ。つまり「何をしても勝てばいい」
極論言えば『ポケモン』で『トレーナー』を攻撃するのもアリだが、文字通り何でもありすぎてバトルにならない。だからその都度、なにをしていいか、どこまでやって良いか決めるのだ。
こんなものが
当然ながらこれらは全て違法行為である!!
なのに流行ってる!! なぜか!! 世界的に!!
俺の行ったこと無い地方まで!!
俺の所為にされてな!!!
まあ、そこらへんはどうでもいい。責任とか、保証とか、そんなものは社会の話で
問題は『ストバ』と
ホウエン地方。それは九州をもとにしたエリアで、ポケットモンスタールビー/サファイアの舞台である。というのがゲームでの話。
表面上は同じでも、
時間がある。歴史がある。文化がある。そのすべてが『ストバ』と最悪の化学反応を起こした。
ホウエン地方が開拓されたのは最近の話。他と比べても自然が多い。悪く言えば『野生』から未だ勝ち取れていない土地だ。野生ポケモンによる死傷被害がリーグも無い未開の諸島、アローラに次いで多いと言えばわかるだろうか。
野生では弱い奴から死ぬ。
そして娯楽の無い開拓団が持ち込めたのは、相棒のポケモンくらい。
娯楽として、護身として、彼らは日々戦い続けた。戦えない奴は死んでいった。もうそれが全てだ。
そうして出来上がったのが『バトル至上主義』とでも言うべき民族性。『戦闘民族』『修羅の国』『ホウエン蛮族』と揶揄されるお国柄と、それを裏打ちする実力だ。
犯罪に対する嫌悪感はもちろんある。協力しなきゃ生きていけない土地、輪を乱す奴は死刑でも生ぬるい。の、だが⋯⋯
俺が警察と法律と自治組織相手に一騎当千しちゃった挙句、今のチャンピオンがそれを黙認するという想定外の事態に自浄作用が壊れた。
そしてもう一つ。
確かにここは修羅の国だが、外圧があるからこそ団結も強い。弱者救済もちゃんと完備している。
だから、戦えない奴はしょうがない。
けれど、闘わない奴は必要ない。
それは
ある意味、この地方では「戦わずして逃げる」のは死と同義だ。勝ち逃げはまた別。
まあ結局どういう事かといいますと⋯⋯
命を賭けるようなことはほぼ無いが、だからこそ『ストバ』であれ勝負を吹っ掛けられると降りられないし、武者修行感覚でヤバいルールで遊ぶ輩が続出したのだ。
しかもそれで観光客も増えている。他と違ってカツアゲが無いからね。戦闘民族への信頼よ。
頭おかしいんじゃないか?
だが、しかし⋯⋯だ。
命を賭けることはほとんどないとはいえ、"ほとんど"だ。
そう、たとえば、今の俺のように。
人から大層恨まれている奴は気を付けた方がいい。
もっとも、反社の王である俺がそれを断るのがどういう意味か分からないわけじゃない。
どうせ、勝ち続けるしかないのだ⋯⋯
そういう道を俺は選んだ。
「――戻れ、シュバルゴ。さて、55秒で3体のポケモンを失った気分はどうだ? 3対1で手も足も出ない気分は?」
「⋯⋯⋯⋯だ、⋯⋯⋯よ⋯⋯!」
「ああ、下りたいならそれでもいい。俺はこんなところで油売ってたくないんだ。できれば早く」
「まだ3体ッ!!! まだ3体いるッ!! まだ終わってないって言ってるのよッッッ!!!」
「はぁ。止めりゃいいのに⋯⋯」
――サーナイト、ちょっと来い。
怒り狂う女を前に脳内で呼びかける。俺のバトルの要となる存在を。
現れたのは純白の滑らかなサマードレスを着こんだ少女。そう表現していいほど、人間に近い生き物。
月光が
しかし彼女は
緑ではなく、青い体毛。おおよそ5000分の1で起こる遺伝子異常。所謂『色違い』個体。
だがそれ以上に彼女は異端の個体だった――――
「(はいは〜い。あなたの、あなただけのサーナイトちゃんどぅぇ〜す! いぇえええええええい!)」
「(すまん、やっぱ消えてくれ。消えろ。森に帰れ。脳内で喚くな)」
呼んだのをちょっと後悔する。いや結構。かなり。
よくも俺にコイツを呼ばせたな。貴様だけは絶対に許さん。
まず第一に目が死んでいた。表情筋も死んでいる。なのにやけに元気な声がテレパシーを通して頭骨で大反響。
なにやら腕を構えているが⋯⋯たぶん、親指を立てながらピースしているつもりなのだろう。「(ピースピース)」って言ってるし。しかしサーナイトには三本しか指がない。必然的にただの「パー」
なんだこいつ⋯⋯
「(私は消えませえええええんッッッ! 私は、世界最強のサーナイトだから!! ここで働かせて下さい! ここで働かせてください!! サーナイトぉ? 贅沢な名だねぇ⋯⋯私は今日から「ナ」だ!)」
「(さてはお前また勝手に俺の記憶見たな? その映画この世界にないぞ)」
「(はい。見ました。しかし愛する存在の全てが知りたいというのはわがままでしょうか? ってサーナイトは可愛く傾げてみたり)」
「(それが長年ストーカーに悩まされてる奴に言うことか?)」
「(致しません)」
「(⋯⋯何が?)」
⋯⋯以上のことから頭もパー。
しかし「なんだこいつ」とか言ってはいけない。頭と心と表情筋が多少壊れているものの、その能力は折り紙付き。雑巾を絞るように10tトラックをスクラップにできるサイコパワーは伝説のポケモンに匹敵する。嘘ではない。
本当に、本人の言うように、最強のサーナイトなのは確かなのだ。ただちょっと、いやけっこう、それなりに、天才特有の訳の分からなさがあるというか⋯⋯ね?
ね?
わかるよね?
それに、ポケモンの心が壊れるのは人間の所為である。
(そんな事よりご主人さま! 大変です、近くに人間の反応があります!!)
(⋯⋯そりゃポケモンバトルの最中だし)
(え、時速60キロで近づく動点ですよ? 目の前の女? ……うわ、なんかいる。魂が貧弱でわかんなかった)
(お前何言って⋯⋯え、じゃあ誰か来るの、こんな森のど真ん中に!? リーグの追手か?)
(おっ、この反応知り合いだ! マスターの
(よし逃げよう!)
まったくなにか良く分からない内に俺はピンチに立たされていたようだ。
ここはホウエン地方。俺の故郷にして、
(やっぱりマスターは浮気者⋯⋯近づいてるのは第二夫人の方です)
(どっちだよ⋯⋯)
因みにどっちも会いたくないので今の間は完全に無駄だった。
こういうトレーナーを二流と言う。
翻って、目の前の女は三流以下だった。
「それで、後半戦もするとして。残るモンスターボールは三つ。その三体で、いいんだね?」
「⋯⋯それ以外ないでしょ。なに言って」
「ああもういい。わかったから早く出せ。遅延か?」
「――ッ! また馬鹿にして!」
「それも戦術だ」
少なくとも
確かに多頭飼いによる自滅を防ぐため国際法上「持ち歩けるポケモンは6体まで」と決まっている。超えられるのは土木業を筆頭とした企業飼育、法人格による所有、儀式的な一時保有のみ。例外はない。しかし
前世で見た映画。背後から近づいてくる黒尽くめの男に毒薬を飲まされた結果、目が覚めると体が縮んでいた探偵のアニメにこんな一幕がある。
――8発入りの銃だけど、あらかじめ薬室に装填すれば9発になるの。
それと似たような話だが、国際法上決められているのは「所有するポケモン」であり、『所有』とは捕獲機であるモンスターボールに入れられた前提。つまり⋯⋯
まあ公式戦だと6体までしか出せないけども。それ以外で、手札が多いアドバンテージは測り切れない。
「行きなさい! ムーランド、ミルホッグ、ゼブライカ!! 相手はそのサーナイトって事でいいのよね?」
「まさか」
この色違いのサーナイトは偶然迷い込んだ野生のポケモンだ。いいね?
そう告げた俺は
「ゴージャスボール⋯⋯嫌味ね。成金趣味って感じ」
「最高のポケモンには最高の待遇で報いるだけ。そう見えるのは心の問題だ。⋯⋯それで、最後の確認だがこれは俺の死を賭けた戦い、でいいんだな?」
「⋯⋯⋯⋯当たり前でしょ。あんたが殺した彼の、その報いを受けさせる!」
吠えると、女は無意識かあるいは意図して、モンスターボールを持たない手が
⋯⋯ああ、うん⋯⋯そういうこと?
(そういう事ですね。魂が二つありますはい)
専門家からお墨付きが出てしまった。
馬鹿なのか? ねえ馬鹿なの? 今一番戦っちゃいけない人じゃん。
もっとも、それで俺は止まらんが。
「――――行けッ、ルカリオ!」
「ワフ!」
呼び出したのは、犬の顔を持つ青い拳闘士。発達した筋肉とそれを支える鋼の骨格に、目を使わずとも全てを読み取る『波動』、それを操る細身のインファイターだ。
あとは命じるだけ⋯⋯
「ルカリオ、『はっけい』
「みんなッ! 距離を保――――は⋯⋯?」
無音。一拍おいて砲弾が穿つような打撃音が三つ。それですべて終わった。
なにが起きたかわからない顔をしている。
10mは離れていたのに、なぜ目の前にいるのか。
なぜ、自分のポケモンは倒れ。なぜ、そこに立っている。
なぜ一瞬で移動したのか。
(サーナイト、ナイス『テレポート』 あとで撫でてやる)
(一緒の布団で寝てもいいですか?)
(シャンプーしたらな)
(ミントの石鹸はやめて下さい⋯⋯)
「ワフッ!」
(お前も今日はステーキだ)
そうでなくとも二対三。普通に弱い。
それでは戦後処理に入る。
「さて、負けた訳だが、腹のガキとお前の命、どっちで払う? どっちも要らないが、なんか取らんと舐められる」
残念だが
選んだのは俺ではない。
ようやく状況を理解したのか、女が青ざめた。後ずさりしかけ、後ろ手にこける。
その体を青白い光が覆った。それは超能力による干渉を意味する光。女はサーナイトによりがっちりロックされたということだ。
「い⋯⋯いや⋯⋯いやだ⋯⋯!」
「俺だって嫌だよ。お前みたいのに時間を食われるの。でもさ、ホウエン人であることをダシに、喧嘩を売って来たら断れねーよ」
「そっ、それはあなたが人殺しだからッ!! あなたがあの人を殺すからッ!! あの人だけじゃない、みんなっ――!」
「なぜ自分は大丈夫だと思った? 理解に苦しむね」
路肩の石に興味はないが、邪魔なものは片づけるに限る。
原因と言えば、最近は就職に仕事と真面目に過ごしていた。おとなしすぎたかもしれない。ここいらで一発、
「俺の命とゴミの命、等価じゃないか⋯⋯。よし、この女の顔を焼け。内臓をかき混ぜろ。今後一生苦痛と喪失感に苛まれながら長生きできるようにしてやれ」
サーナイトの本領は『壊す』ことより『癒し』『守る』こと。むしろ得意分野。
それに、
サーナイトの腕に火がともる。捕らえられた女に避ける術はなく、恐怖を煽るようにゆっくりとそれを顔へと伸ばす姿は無表情ながら、どう見ても楽しんでいた。
――雑食動物だってベジタリアンになる。人間の心を糧に生きる種が、人間嫌いでも、なんらおかしくないのだが⋯⋯
(哀れですか?)
(⋯⋯え?)
(嫌いなものが他者より一つ多いだけです。それに、好きな物も)
(えっとごめん。考えてる時に
(⋯⋯まあ、時間切れ。的な? げーむおーばー⋯⋯たいむあっぷ。今日くらいは花を持たせてあげましょう。同じ雌のよしみです)
時間切れ? ゲームオーバー? 花?
考える間もなく獣の絶叫が耳を裂く。いつの間にか腕だけ解放された女が顔をガードしたらしい。まあどこで受けようと青いのの手は燃えているわけで⋯⋯
サーナイトは嬉々として、二本の棒を纏めるように腕を掴んで離さない。しかも器用にも同時に回復までしている。変な状態に治された傷は現代科学でも消せないだらう。いいぞ、もっとやれ。
そして空いた手を腹に伸ばし⋯⋯⋯⋯ひっこめた。え、なんで?
「そこまでです! その人を解放して、大人しく投降しなさい!」
困惑を打ち払う、懐かしい⋯⋯声がした。
◆
気付けば俺たちは照らされていた。
機械仕掛けの強烈な光。自動車が背後まで来ていたようだ。エンジン音がしないのでEV、それもオフロードだろう。声はその横から。急いで、降りたらしい。
「もう一度だけ言います! 早くその人を放してください! 第45代チャンピオンの下、特例措置7号において私はあなたを殺害する権利があります。だから放しなさい、
呼ばれる俺の名。
放してやれ。命じる前にさっさと解放するサーナイト。転身の速さに口が歪む。お前は誰の味方だよ。女は地べたを転がるように声の主へと逃げていった。
そして縋る。無様にも。
「あ! あな⋯⋯た⋯⋯⋯⋯たすけ⋯⋯て⋯⋯殺される⋯⋯! 助け⋯⋯」
だが俺の記憶が確かなら、それは相手が悪い。
「
「ち! ちが⋯⋯! あいつが⋯⋯勝手に⋯⋯ッ!」
「私に嘘を吐くと刑期が伸びますよ。今のは報告します。裁判でも"あなたは都合のいい嘘をつく"と証言させいただきますので」
「な――ッ! なんッ⋯⋯嘘じゃ⋯⋯!」
「いいえ
――いいえ、師匠。
彼女がそう答えた時、女は死ぬほど驚いた事だろう。
"ホウエンの優等生"と称される少女と俺がそういう間柄だとはチャンプ以外誰も知らないし、
だって彼女は⋯⋯
「ど、して⋯⋯? あな、あなただって同じ被害者じゃない! あんたのお爺さんだって、あいつに殺されてるんでしょ!? なんで!?」
「⋯⋯それはあなたには関係ない事です」
俺と奴の闘争に巻き込まれ、命を落としたジムリーダー。その孫。純粋な被害者なのだから。
こんなことを知った日には大勢が背後の女みたく、きっと喚くだろう。
「まさかジムリーダーのくせに、あいつとグルなの――ぐぇ」
⋯⋯ぐぇ?
「あなた少しうるさいですよ。寝ててください。今わたしはユウキさんと話してるんです」
「苦⋯⋯るじ⋯⋯⋯⋯息が⋯⋯ッ!」
え、待って後ろで今何が起きてるの?
(第二夫人が、女を落としにかかってます)
(落としにかかってるの!?)
(いい感じのチョークスリーパーで。だがまだ甘いな! わたしならそこで
(何やってるのあの子!?)
(あ! 今、
(妊婦だぞ!?)
(それを教えましたか? それとも今から言います? 私は嫌だ)
(⋯⋯うん、黙ってよっか。怒られたくない⋯⋯)
(ではこの度はご縁が無かったという事で。罪人と罪人の穢れにまみれた子よ、速やかに眠れ。エイミン!)
(びっくりするほど不謹慎!)
(私にとって人間が減るのは喜ばしい事なので。早く戦争になーれ!)
(なんなのこの子⋯⋯)
(では現実逃避もそこそこに、そろそろ
(⋯⋯やっぱり、顔見なきゃだめ?)
(祖父殺しにとどまらず、
(ねえ、今すぐ『テレポ)
(向き合え。さもないと殺すぞ)
会いたくなかったが故に顔を見ないようしていたが、今ちょっと別の意味で振り返りたくなくなった。もうなつかしさとか感じない。そういえば女の子って声変わりしないのだ。声だけ残して俺の知る少女は消えたのだろう。そうに違いない。
よし、もうこのまま逃げてしまおう。
「おっと、逃げようなんて考えないことです。絶対に帰ってきたくなかったこのホウエンに、なぜ今さら帰って来たのか見当はついてます。あなたの仕事、全力で邪魔しますよ? あとチャンピオン呼びます」
ダメだった。天敵と天敵が手を組んでいた。もう悪あがきしかできない。
「⋯⋯リザイン。降参だ」
「そうですか。ではこっちを向いて、両手を出して下さい」
「逮捕の時って、後ろ手に手錠をかけた方がいいんじゃないか?」
「そうですか。ではこっちを向いて下さい」
「⋯⋯いやだ」
「⋯⋯そうですか。ではこっちを向け」
なぜ少女の顔を拝むのをそこまで拒むのか。普通の人間には分からないだろう。
俺は犯罪者で、極悪人で、クズでカスで最低だった。いや現在進行形でそうであるが、昔
そして、特例措置7号。ね。
俺を正しく殺す方法を得たわけか⋯⋯
「⋯⋯わかった。殺したいなら殺せ」
「いえ、そんな事はいいので、お話ししましょう。わたしあれからジムバッジ8個集めました」
「⋯⋯⋯⋯そうか」
「家だって、ちゃんと審査に合格してジムリーダーを継げたんです。あなたの弟子として恥ずかしくない実力をつけたつもりです。ああ! 一回だけですがチャンピオンにだって勝ったんですよ! まあ、非公式ですが」
「それは⋯⋯凄いな。本当に凄い」
「そうですよね!! だから、もうそろそろ、こっちを向いてもいいじゃないですか⋯⋯! それとも自分がなにをやったか分からないんですか?」
「⋯⋯⋯⋯」
「そんなわけありません。だったら8年も連絡一つ寄越さないなんてするわけないだろうし」
いっそ怒鳴って欲しかった。
空回りする明るさが痛々しい。
「⋯⋯あの時わたしは6歳でした」
問答無用で、暴力に訴えて欲しかった。
すり寄ろうとする心を感じて死にたくなる。
「あなたに復讐するための力を、あなたがくれたんですよ? 私が頼んで、いいって、着いてきていいって言ったのに⋯⋯! なのに⋯⋯なのに! なんでッ!!」
けれど彼女は迷子だった。最後に会った時から今の今まで8年間、ずっと迷子だった。
「ある日突然、何も言わず消えた⋯⋯! 森の中に女の子一人で、目が覚めたら誰もいない! よくこんな事できますね! 何食べたら思いつくんですか?」
「⋯⋯置手紙はした」
「そうですね。でも"もう教えることはない、よくやった"って書けば子供を捨てていいんですか? 札束も置いてありました、100万円! 見ます? まだありますよ? 護身用にポケモンも置いてましたね⋯⋯ははっ、それで私にどうしろと? 待てばよかったんですか? それとも海外まで追って行けと? 教えて下さいよ、あの日、6歳だった私に!」
俺が迷子にさせて、ぶち壊した。少女だった者。どうして殴らないのかなんて、わかりきったことだった。
迷子の願い。
――見つけて欲しい
「あはっ……あはは! ようやくこっち見た! 最低だ。もう、顔ぐちゃぐちゃで……なんで泣いてるんだろ私? ……ああそうだ、憎いんだ。復讐しなきゃ。復讐して、私は私の人生を取り戻す!! お前が育てた力で、お前を葬ってやる……チャンピオンより先にお前の無敗伝説を終わらせる。この私が、トーダイ・ツツジがお前を倒す! 二度と忘れるな!!」
ああ、悪いことをすると、いつか帰ってくるのだ……
向けられていたのは、泣き腫らした、笑顔だった。
そして、小さな体。8年経ってもそれはまだまだ少女だった。自分が何をどう傷付けたのか、酷く理解させられる。
昔の事件の原因と被害者遺族。それがなんでこんな拗れたんだろう。
いや原因ははっきりしている。
全ては俺の下らないプライドだ。
俺はその為だけに全てを捧げた。
そして今更変われない。
「……ごめんねツツジちゃん」
「ははっ、なんですかそれ? 今更謝ったって許しません。強くなった私は、今後、一生かけて復讐しますから。10年も、20年も、じっくりと」
「……それは無理かな?」
「……なんで? また私から逃げるんですか?」
「そうかも知れない」
射殺せそうなくらい睨ませたので、どうぞと、背を向ける。ただこれはどうしようもない事だ。
――あと5年しかないんだ、俺の命。全部使っちゃった。
「だからごめんね。ツツジちゃん」
ありのままそう告げるとツツジちゃんは
「なんですか、それ。ははっ!」
あはははははと大爆笑。深夜の森でひとしきり笑い終わるとゴソゴソ何かを探し出し
「ふんぬッ!」
後頭部に強い衝撃が来た。
金属音だった。
登場人物
オダマキ・ユウキ(転生者)20歳
勝手気ままに生きた結果敵がいっぱいできた。殺しに来た奴は殺す派。
国家より強いので逮捕できないが一部チャンピオンはコイツより強い。公式ランキングに復帰できれば世界10位圏内は確実。汚い手を使わせれば世界一。プライドが高い俗物。
ポケモンは好き。
こんなのを教授に据える大学と社長にする会社があるらしいが⋯⋯
モブ(妊婦)
後先考えず暴力に訴えた弱者の典型例。案の定大火傷した。
青いサーナイト(色違い)
野生産の奇跡の個体。エスパー能力はミュウツーの次くらいある。『テレポート』『テレパシー』の射程は地球一個ぶんくらい。一部を除き人間が嫌い。少し情緒が不安定。
トーダイ・ツツジ(ジムリーダー)14歳
ホウエン地方、カナズミジムを経営するジムリーダー。先代ジムリーダーの祖父を殺され危うくジムが取り潰しになる所だった。紆余曲折ありユウキの弟子になるが6歳の時に置いてけぼりを食らう。
実力は世界ランク30前後。ちょっとドロドロしている。
灯台躑躅:ドウダンツツジ
花言葉は「上品」「節制」「私の思いを受けて」――――