やさぐれユウキ君(偽)のアングラバトル学概論 作:バトルフロンティア復興委員会会長代理
苧環:オダマキ
花言葉は「勝利」そして「愚か」――――
ポケモンの主人公。10歳で旅に出て、その物語の根幹を担う存在。男の子と女の子。
しかし、世界の中心は一人だけ。
選ばれなかった方が博士の子。オダマキ博士の子供になる。
だから、生まれて初めてその名を呼ばれた時、ゾッとした。そして足掻いた。
だがオダマキの姓が俺を縛る。
何をやってもあの女が上を行く。俺の欲しかったものを全部持って、物欲しそうに俺を見る。
これ以上何を奪えば気が済むんだ。
伝説も、ストーリーも、栄光もくれてやった。残ったのは意地汚く守り続けた『勝利』だけ。それすら奪おうとするのか。
永遠の2番手。努力の空回り。運命の奴隷。余りに虚しすぎる。
こんな、子供向け電子ゲームの世界で俺は⋯⋯
たかが
奴が追いつく前に、なんとか逃げ切らなくてはいけない。
オダマキの呪縛。世界の役割から。
あるいは、こんな地獄みたいな世界から――
◇
獣臭い。まず感じたのがそれだ。そして安心する。
サーナイトだな。美少女、あるいは美少年みたいな容貌しているがこういうところはしっかりケモノである。洗ってやらないと、そのうち千年の恋も冷めるような臭いを醸し出して来る。
まあ、でも、これくらいなら許容範囲だ。
同じ布団に入る温かな塊を抱きしめる。
「(おはようございました)」
間髪入れずに直接脳へ叩き込まれるモーニングコール。このまま永遠に寝ていたかったが、そうもいかないらしい。
薄ぼんやりと痛む後頭部に、今までの経緯を思い出した俺はゆっくりと目を開けた。
「ゆぅ……き……さん……」
まあ可愛い
ナイトキャップ被ったツツジちゃんだったので寝たふりに移行する。
ちょっと待ってどういう状況だこれ。
(
(……もうどっから突っ込んでよいやら)
(
(男子中学生みたいな反応やめろ)
(脳がッ、脳゛が破壊゛ざれるッ! アァァァァ゛ッ!)
――――テンションについてけない……!
因みに、よく考えなくても「チュン」は鳴き声から取られているのだモノが変わろうと「朝ポッポ」とは言わない。
……あれ? でもポッポ(小鳥ポケモン)は「ポッポ」って鳴くからポッポなのか……じゃあやっぱり「朝ポッポ」って言うのか? え……?
……何の話だっけ?
しばらくして、サーナイトが発していた訳の分からんうめき声が治まると脳内に直接、映像が流れ混んできた。
「昨日の女は
"ホウエンの優等生"が聞いて呆れる。
トーダイ・ツツジ。
当然、その祖父なんてものもだ。
カナズミのジムリーダーは同世代に近い少女、ツツジのはず。
初めて現れたそのズレに、俺は歓喜した。
原作に無い存在。時間軸。イベント。この世界がゲームそのままでない事に。
俺が
あの頃はそれが全てだった。
(⋯⋯『さいみんじゅつ』だサーナイト。深くかけろ)
(え、眠姦ですか? 御主人さま、そりゃあちと変態が過ぎるのでは)
(殴っていいか? ⋯⋯分かるだろ。何しろこいつを呼んだのはお前なんだから)
(⋯⋯⋯⋯バレてました?)
8年ぶりに故郷の土を踏んで数時間。プロのストーカーであるチャンピオンすら欺く密入国をどうしてピンポイントで見抜けると思えるんだお前は。
こういうところに思い至らないあたり、トレーナーという存在が必要なのだろう。
あの妊婦は⋯⋯まあうん、運が悪かった⋯⋯俺の。
(じゃあ目的も⋯⋯)
(⋯⋯ツツジちゃんはね、今一番脂が乗ってるんだ。オダマキ・ユウキの手により潰れかけたジムを弱冠14で立て直し、同時に名門校にも在籍する文武両道の秀才。おまけに可愛い。見たくもないのに雑誌にぽんぽん顔が乗る。そんな子に犯罪者と遊んでる暇はない)
(で、でもそれはっ、飢えた人が宝石を掘り当て感じで!)
(その宝石で飯は買える。それが人間だ)
祖父が死んで、ジムが潰れる。一族経営とはいえおかしな話だ。彼女の両親は健在なのに。
答えは簡単。彼女の親は普通に平凡、並のトレーナーだったのだ。
並とプロ、一線級と二線以下、できるトレーナーとできないトレーナーはもはや別の生き物だ。見えるもの。聞くもの。感じること。少しずつズレていく。下手くそ相手はまぁまぁストレス。
悪く言えば強いトレーナーは皆どこか狂ってるのだ。
だから俺なんかのところに来た。最短距離で強くなるため。
一族最強だった祖父を、片手間で倒した怨敵の元へ。
そして発症するストックホルム症候群
まあこの世界『ストックホルム』ないんで、名前は違うだろうが、人間は生き残るために必要な人材に『好意』を抱くという話だ。たとえ加害者相手でも。
彼女が弟子になったのは4歳。
別れたのは6歳。
凡そ人生の三分の一。
気付くのが遅かった。
(ともかく、俺を殺さんというならここに居る意味はない)
(……私は、人の優しい心を食べる者。いいえ、感情全てが栄養だ。友達からこんな
(それこそあと5年しかないんだ。自分で殺すのが一番スッキリ終わる)
(それは、お前の感性だろうが!)
(俺に俺以上のことは分からんよ)
――⋯⋯もういい。
話が平行線に乗り上げたので
すると即座に青白い光が虚空で跳ね、緑のサーナイトが現れる。普通の体色。普通の能力。人語の会話もできないが、格上相手じゃなければ事足りる。
「お前は最強のサーナイトだが無敵じゃない。その知恵で俺に勝てると思うな、殺すぞ。⋯⋯もう行く」
「さなっ!」
そう言い残しテレポーテーション。景色は一辺。一面の森に、背後には泊まっていたポケモンセンター。そして彼女のオフロードだと思う自動車。(ピンク)
――――目算飛距離40mか、育たんな。
俺は首を鳴らしてから歩き出した。
◆
「お前は⋯⋯オダマキ・ユウキだな?」
「そう言うお前は……一体誰だ」
絡まれた。
海外ならいざ知らず、この土地で他人の空似は使えなかった。
――
「さ、さななぁ⋯⋯」
「お前が気にすることではない。これは俺の努力不足だ」
「へぇ⋯⋯! 天上天下、唯我独尊、最凶無敗のユウキ様ともあろう男が謙虚な事を言うじゃないか。ファンなんだ、サインくれよ!」
「サイン? お前の死刑執行書にか?」
「それでもいい! 俺もホウエンの男! 最凶に殺されるなら悔いはねぇ!」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯あー、ね」
完全に理解した。これめんどくさい手合いだな?
俺に絡む馬鹿は往々にして4種類に分けられる。
俺を倒して名をあげようとする者。妙な正義感に駆られる者。復讐者。そして⋯⋯
その他だ。
いやホント、訳の分からないバカが一割くらいいる。そして俺の経験が告げるのだ、目の前の男はその
断言する。こいつ絶対
「バッジは?」
「8つ!」
「ならポケモンリーグに挑めばいい」
「今の俺じゃ四天王にも勝てはしない! 一年あっためて来季でブチかます!」
「なら俺にも勝てはしない」
「ああッ! だが今を逃せばもう二度とこんなチャンスはやって来ねえ!」
「だ、だが犯罪者とバトルというのも⋯⋯ねえ? 第一お前は『エリートトレーナー』だ。法に背けばリーグによる学費支援、協賛企業の特別待遇、イメージ向上に尽くす報奨金、その他全て失い。違約金で雁字搦め、おしまいだ」
「チッチッチ⋯⋯! 犯罪者の捕縛、その協力はトレーナーの
「ぐぬぬぬぬぬ⋯⋯!」
クッソ、
「⋯⋯時間の無駄だったら殺すが?」
「ホウエンの生ける伝説の片割れにがっかりされちゃァそれこそ自殺もんだ! ルールは『フル・ダブル』! 俺の人生、
「ああもうッ、あーもッ、だからこの土地は嫌いなんだ――!」
殺しに来る奴は殺せばいい。
でも当たって砕けに来る奴はどうしろと?
俺だって別に好きで殺してるわけじゃないんだぞ。
しかし本気を望まれた⋯⋯
眼前の
――ならば見せよう。
――ポケモンのもつ18種の『
――すべてのトレーナーの夢、チャンピオン。その絶対王者、主人公をして「19番目の
挑まれたのは公式ルール。
俺は即座に袖に手を入れ、空気音と共に排出された5つのボールを
「俺は
「オイオイオイ、
「ドン、ドグー!」
「キシャア!」
奴が呼び出したのは黒土赤目の浮遊する土偶人形と
土くれだって、どっこい生きてる。それがポケモン。
あと不意に聞こえた『見せ札』とかいう隠語。
これ見よがしに見せてるポケモン。出さなければ『
――――この赤シャツ、結構『ストバ』で遊んでるな?
ならば
「行け――バクオング、サーナイト!」
対して、俺が出したのはサーナイト(通常個体)と全身穴だらけに体高ほど開くデカい口、バイクの排気管的な器官にまみれた小柄な怪獣――
対格下用完全初見必殺兵器『バクオング』さんだ!
更にこれはダブルバトル! シングルの常識は通用しない!
「サーナイトの
ポケモンは必ず一つは『特性』を持って生まれる。早い話、肉体依存の特殊効果だ。
サーナイトはそれをコピーする。ゲームではランダムだったがここは
そして、バクオングの特性は
なぜそんな体をしているか?
それは大きな口と、全身の呼吸管。数多いるポケモンの中で最も大きな声で、最も長く吠える事ができる種族だから。
こんな体でもないと、自分の声で爆散する!
バクオングさんの生態観察した時は、対策したにも関わらず、俺は死ぬかと思ったよ! (研究職)
耳じゃなく、内臓に来るとはなッ!
そしてそれ以降!!
俺がバクオングさんの話をする時はいつも大声になる!!
なぜか!? それはだなッ!!
あの姿を思い浮かべると!! 耳が!! 耳がおしゃかになった!! あの時の感覚がフラッシュバックするからだ!!
もしくは!! 大声で話す職場で介護職の常識が上書きされる問題!!
あるいは!! 爆発で耳がやられる自衛官、声デカい問題と同じかも知れない!!
我が心の鼓膜はまだ
――――お前も同じ
――――しねええええええええええ!!!
「ネンドール、『サイコ――――
「『ばくおんば』
んえ?
ああ そうか
これが
――――爆音
懐かしい この感覚 すべてが遅くなる
景色の歪み 2体を中心に見えないドームが広がる
時が止まるように 世界から音が消え
なのに 地は波打ち 砂は舞い 草木はなぎ倒される
まるで無声映画 災害 破壊 走馬灯のシーン
――――これは確か……! ヤバい、
地を這う破壊の先端が脚先に触れた。爆心地に、飲み込まれた。そう理解する前に叩きつけられる。
全空間。全方向。腹の底から破裂するような加減圧。
1拍遅れ、腹、胸、眼球、耳あたりを激痛が襲った。
内臓が混ぜ返される。
「「――――ウゲエ゛ェェエエエエ」」
気がつけば赤シャツと吐いていた。何も入れてなかった俺ですら滝のように胃液が絞られる。生理現象に逆らえない。人体ってこんなに
――
「あ! ……そう言えば
とんでもない自爆技みたいになったが本来俺が受けるダメージは相手の2/3未満。口の方向、声の向きは
別に二重じゃなくていいんだけど、ポケモンの遠距離技って『物理』か『特殊』か分かり辛いんだよね。ぶっちゃけ覚えてない。
『ばくおんば』は……特殊だったと思う。今はね!
でも昔は『物理』だったはずだ!
『はかいこうせん』も物理だった! 光線なのに物理だったんだ! 『ほのおのパンチ』はパンチなのに『特殊』だった!
最悪
リアルじゃ怖くて検証できないぜ!
バクオングさんで懲りたぜ!
そこら辺はスーパーアローラ人として鍛えたその身で『技』を受け止めるというぶっ飛んだ研究をするククイ博士の論文読んで濁している。
でも
研究、したくないぜ! (研究者の屑)
誰か調べて、至急メールしてくれや。
と、あちらさんもようやく落ち着いた様だ。
「はぁ……はぁ……っ! なんだ今の! 全身、バーンって! 今朝食べたクラブハウスサンドと再会しちゃったんですけど……」
「音ってのは『波』だ、重ねれば重ねるほど強くなる。オーケストラみたいにな。そして衝撃でもある……うェッ」
「トレーナーに攻撃は違法だるぉッ!?」
「残念、これは
「――――ッ! そ、それじゃあ!」
「そうだ! これは君の言う〝生きる伝説〟の再現。嫌だったかな?」
「激アツ展開キタァァァアアアアッ! ありがとう御座いますッ! このバトル一生忘れません!」
「ハッハッハ! もうヤダこの地方怖い……」
まあ、それはそれとして……
この戦術には一つ致命的な欠点がある。
それは『爆音』の魔力に取り憑かれる事だ!
デカい音って、なんかテンション上がるよね?
爆音を聞いてるとなんか、興奮する……
花火とか、太鼓とか、フェスとか、楽しいものの周りには何時も爆音があった!!
腹の底を揺るがす衝撃!
心不全を起こしそうなギリギリ感!
止まった心臓を外部動力で動かすロマン!
適度な爆音はついつい聞きたくなってしまう魅力があるし、きっと健康にもいい!!
これを食らった奴は10人に3人くらい「自分も爆音を轟かせたい!」と一心不乱にバクオングさんを育て、爆音専属トレーナーを名乗るようになる!!
そして『音』は『声』を凌駕する!
たとえば津波に水鉄砲を撃つように。弱い方が飲み込まれる。
『爆音』は、相手の『指示』を封殺する!
これぞ我が極めし「19番目の
数ある『技』の一
『おとタイプ』の『爆音』使い! それが俺だ!
『ぼうおん』出されると積むけれど。でも『じめん』だって『ひこう』と『ふゆう』に当たんないじゃん!
じゃあもうタイプだ!
誰がなんと言おうと俺は『おとタイプ』の『爆音』使いなんだ!
ああ、爆音。素晴らしき爆音。一度ハマるともうやめられない!!
「ネンドール、――――
「『爆音』ッ!――――
――なあ……そうだろ、赤シャツッ!!
「ら、ライボルト! 『でんげき――――
「ヒャア我慢できねぇ!
――君もそう思うよな。爆音、欲しいでしょ?
「『でんげき――――
「『ばくおん――――
この音ハメは「解法」がわからない限り相手はどうしょうもない。ポケモンより人体が持たないのだ。
そして『圧縮指示』
それは『ストバ』以外でも通用するポケモンバトルの戦術だ。人間が『声』を使って命令する以上、言い切るまでポケモンは動けない。だが必要なのは技名の読み上げじゃなくて『情報』だ。
極論「
だがダブルバトル、味方だけでも2体いる。
(●●! ■■に、▲▲して!)
この命令のなんと無駄の多いことか!
嘆かわしい!
しかし爆音は違う。なんと言うか、ワンダフル!
にくらしいほどエレガント!
だけどとってもグロリアス!
『ばくおんば』は全体攻撃だ。もうそれだけで偉い! 内閣総理大臣賞! なのに――
( ば く お ん )
この四文字! 魂に染み入る甘美な響き!
サーナイトに至っては『ばくおんば』を
攻撃が全体攻撃で二重奏の爆音ハメは好きですか?
――――うん、大好きSA!
……とか考えてる内に耐久の低いライボルトが倒れてしまった。
流石に交代タイムまで潰すほど鬼じゃない……ていうかこれ『公式ルール』か。普通にルール違反するとこだった。
ヤバイヤバイ、少し落ち着け。素数を数えるんだ――
「ん゛〜〜〜〜、いい音だぁ……
「はッ……かはッ! こ……れが、
「その心意気や良しッ!! さあ見せてみろ、貴様の証を! ヒャハハハハハハ―――!」
因みに
いいえ、ジョウト人(隣の地方の人)です。
ジョウト人怖ええええ!
「いけぇ……!――マリルリ!」
「水玉水色水属性、まん丸プリティ筋肉うさぎか」
この状況で出したのは『ぼうおん』持ちじゃないポケモン。なるほどね?
マリルリは女児に人気の水を操るキュートなポケモン……に、見せかけてほとんどの場合ぽよぽよの皮下脂肪に隠れ筋肉が異常発達した『ちからもち』という特性をもつ暴力の権化だ。
寸胴体型に短い手足も0距離ファイトなら有利に働く。
そして恐ろしいのはその筋肉で後出し先制、
殴り飛ばさず、転ばせず、生かさず殺さず立ったまま戦闘不能に陥るまでタコ殴りにしたりする。女児泣くぞ。
というか泣いた、泣かせたわ……(犯人)
一つ弁明したい。彼女は対戦相手じゃない。観客だった。
だがしかし……
『アクジェ』は所詮単騎技! 狙いを示す時がいる!
だとしたら、その名前は長げーんだよ!
もう何も怖くない!
「『あ――――
「
――――圧縮、圧縮、言語を圧縮!
しかし、どうしましょ。
本気を出せと言われたから戦略方面はそうしたが、やはり一般人。
――――ポケモンの育ちを見るに、こいつは
そう囁やくのだ、俺の
――――可哀想だが命が大事だ。
「赤シャツ、お前は強い。あのポケモンの耐久力は凡人には決して出せない! 俺が認める、お前は強いんだ! 生きろ! そして、もう一度来い!」
「………は、………ぁ……………あ――」
「あ? どうした、何が言いたい!?」
「あか…………し! ……かし……ぁかし! おれの……あぁガしィィィイイイイ゛――――」
「その通り! 証は立った、立ったんだよ!」
「まだ……れる。お願いだ……失望……しないでく、れ……」
あ、ダメだコイツ話が通じねぇ。
さては耳が聞こえてないな? ナンテコッタ!
しかしそれもまた爆音道⋯⋯
――――ならば意識を刈り取るまで!
楽しい時間はすぐ終わる。決着の時が来た。
最後の早撃ち対決だ。
「
「⋯――――
終わった
終わったが
その瞬間
俺の目は驚愕に開かれた。
赤シャツはもうモゴモゴと呟く事しかできなかった。
耳も聞こえない。よーいドンに見せかけて、あいつは何の準備もできてない。それどころか今自分が何処になぜ立っているかすら朦朧としてるのではないだろうか。
だが、叫んだ瞬間。サーナイトとバクオングが息を吐くまでのコンマ数秒に、俺は覗いた。
奴の視界、奴のポケモン、俺の顔の驚く様。
そしてマリルリの背中。
『アクアジェット』の水流を身に纏い、サーナイトの背面に回り込むマリルリの勇姿。同時に閃光を放つネンドールの
――
意図的に残していた
即座に俺もサーナイトへ
それからは、見た通りに。
2体は『爆音』をキャンセルし『
そこにぶち当たるマリルリ。遅れてネンドールが閃光を放ち、全てを巻き込む『自爆』をする。
未来視ではない。逆だ。
我々の思い描いた通り、ポケモンが動いてくれた。
エスパータイプを
人とポケモン。ポケモンとポケモン。
互いに絶対の信頼と信用がなければ成り立たない小さな奇跡。『エスパータイプ』と肉体の相性もあるが、ギリギリでそれを起こしてみせた。
だが、まだ『奇跡』だ。
イメージは俺にまで飛んでいる。それに
目の前の小さな巨人が「自分は歩ける」というのを知っただけ。
―――後でサインでもなんでもくれてやる!
戦士の誕生。ホウエンの血が煮え滾る。
それだけで、崩れ落ちる体を抱きとめるには充分だった。
◆
(オトコ! 赤シャツ! キケン! ハナセ! ハナレロッ!!)
恐怖、危険、危機感。とにかく非常事態。そう想起させるテレパシーが脳を直撃する。
何がなんだかわからないが、手を離さなくては――――
俺に
逆らう選択がない以上、体は素直だ。
――サーナイト、パスだ!
だが、手放して思う。
――
よく考えなくても謎の声。
発信源は分かるので、振り向いた。
(
――――! ピンクのオフローおおおどぅへッ!?
巨大金属塊による悪質タックル。
それでも車体は、止まらなかった。
――――ぎゃああああああああ! うおっ!? ぎゃああああああ!
俺とダンパーでぶつかり稽古したと思ったらそのままぐいぐい押し込まれ、あっという間に車体の下へ巻き込まれる。
タイヤと地面で揉み洗い、こねまくり、擦りまくり、捻られまくり、上も下もわからない。
(はいブレーキ! いい感じに踏んづけてるから!)
その律動もいつしか消えて、ようやく止まったピンクの車。俺はその右後輪と地面の間で挟まっていた。
(聞いて下さいよツツジさーん! コイツ、私たちのことほっぽっといて今めっちゃ楽しそうにバトルとかしてましたよォ? そりゃもうめちゃくちゃエンジョイしてましたよ! 完全にオスの顔。
焚きつけるような
しばらくして、ドアが開く。
降りてきたのは運転手のツツジちゃん。
その顔は実に怒り心頭。まさに般若。赤い顔で食いしばり、過呼吸気味に、肩と胸が上下している。感情を抑えようと掴んだ裾が切れそうだ。
ガチギレですやん……
とりあえず、この
登場人物
オダマキ・ユウキ(転生者)20歳
大好きなゲームで主人公になれなかった人。
公式バトルでTKO狙ってくる輩。『爆音』の使い手。『爆音』の魔力に魅入られし者。爆音道?の創始者。こいつも情緒不安定だった。
弱い奴、将来性の無い奴が嫌い。その逆は好き。本人は見て見ぬふりをしているがこいつもちゃんと『ホウエン人』。熱いバトルとそこに命を賭ける者には敬意を表す。
犯罪者だがポケモンバトルに置いて『主人公』と並び革新的な事(オブラート表現)ばかりしていたからその筋では人気者。隠れファンも少なくない。
この世界の人間をNPCとして若干、いや結構、かなり見下しているが⋯⋯
モブ(エリートトレーナー♂)
『ポケモンリーグホウエン』に認められた戦士の卵。制服が赤いことから「赤シャツ」「赤ジャケ」と呼ばれる。ハイパーボール派。
普通に強い。相手が悪すぎた。
少しだけガラが悪かったし、違法バトルにも手を出していたが、そのポケモンとバトルに対する思いは潔白だった。
サーナイト(緑色4号)
ユウキが研究の為、バトルの為に育て上げたサーナイトの1体。ダブルバトルの遊星ギア、潤滑油。隣に立ったポケモンである程度「何をすればいいか」理解する。得意技は『ハイパーボイス』 でも肺活量が普通なのが悩み。
バクオングさん(さん)
かつてユウキを仕留めかけた種族。チャンピオンも叩きのめした。強い!
その類稀なる大声――『ばくおんぱ』を攻撃に用いるが、世界一性格の悪い男に破壊効果より妨害効果としての価値を見出された。ある意味、リアルバトルにおける登竜門。
全身に呼吸管かあるので声を出しながら息が吸える。すげえ!
普段はおとなしい。大声は出さず、呼吸管を笛のように使い話す。やさしい!
なぜか一部でカルト的人気がある。
青いサーナイト(色違い)
ユウキの帰国と位置情報をツツジに密告した犯人。一度覚えた魂(心)は世界の裏まで追跡できる。
なにか目的があるみたいだ⋯⋯
トーダイ・ツツジ(ジムリーダー)14歳
かつてユウキと旅をしていた。才色兼備。
かなりムカムカしている。
おまけ
「マゾヒズム」の原理と考察
人間は限界を超えた苦痛を受けると脳内麻薬を出して誤魔化そうとする。これにより苦痛を快楽へ変換しているという説がある。また、「パブロフの犬」のように「鞭打ち=脳内麻薬の放出」と体が覚えてしまえば、実際にはそこまでの苦痛なしで脳内麻薬を得られ、「ハイな状態」になれるのではないだろうか⋯⋯
そう、たとえば、かつてそれで死にかけた『爆音』とか