「あ〜もう!!まるでチーターみたいなんだけど〜!?」
戦場に響き渡る、モモイの愚痴。誰に言うでもないソレは、誰の反応を返される事もなく消えていく。
ゲーム部一同の前に現れ、現在戦闘している相手は、ロボット。が、そこらの量産型の様な生易しいモノでは無い。
”アヴァンギャルド君”。リオが命名した、言わば殺戮兵器の類い。その機械からは3対の腕が伸びており、盾や銃が備え付けられている。その身体の大きさに見合わない動きを可能とするのは、脚として装着されたキャタピラのお陰か。
生徒が持つ銃よりも重い一撃を軽々と放ち、それでいて防御も抜かりない。そして終いには、銃の乱射。一見すれば、暴走したように思えるだろうそれは、しかしAIが暴走している訳ではないと来た。
……キツい。私は、素直にそう感じた。変に技巧的な立ち回りをする敵よりも、こういう素直にステータスが高い敵の方がやりづらい。レベルの高いオールラウンダーの凄さを、まさかここで実感する事になるとは。
アリスの一撃を何度も浴びせても尚、致命傷と言えるダメージを負わせているようには思えない。皆もじきに疲れてくる事だろうし、長期戦は避けたいところだけど……。
「ハレ、そっちはどう?」
「…ダメ。あの機械、プログラムの綻びが無い。本来ならどこかしらにある筈なんだけど……これでもかって位に堅いよ」
どうやら、プログラム面からのアプローチも効果が無さそうだ。ハレ達の援護が見込めないとなると、一層絶望感が煽られるばかり。
何とかなる、といつもなら息巻いているところだけど。今回はどうも、そんなうわ言を言える余裕はなかった。
「うわぁぁぁ!?!」
「!お姉ちゃ……っ!!」
時間が経つに連れて、次第に崩れていく前線。作戦にも持久力にも、徐々に限界が迫る。このままだと、負けるのも時間の問題。
だからといえど、打開策がある訳でもなく。
「……!増援……ッ」
ユズの一言に、私達の絶望は増す。こんな時に増援とは……私達がどれ程隙の無い相手と対峙しているのか、こんな時に実感させられるとは。
……万事休す、か。
『まだ諦めるには早いですよ?先生。』
刹那、こちらに向かってきていた増援が次々と爆散していく。何事かと思って振り返ると、そこには見知った生徒の姿が。
「部長の指示で、助けに来たよ」
「間に合いましたね、流石は超天才病弱美少女ハッカーの私の計算です」
『エイミ先輩!ヒマリ先輩!』
……何とか、首の皮一枚繋がりそうだ。
────────
「成程……あの巫山戯たネーミングセンスの被害者が、想定よりずっと強いのですね?」
こくりと、一同が頷く。しれっとリオをディスってる事には、今更触れる余裕は無い。
ヴェリタスやエンジニア部の頭脳を以てしても解決の糸口は掴めなかった事も話すと、ヒマリは考え込み始める。
「……このご時世ですら、完全にエラーを除去するのは熾烈を極める事ですから、何処かに抜け穴がある筈……」
そう、そこだ。
色んな生徒と話をしている私も、少しは機械関連の知識が身に付いているという自覚はある。キヴォトスでも、エラーの無い完全無欠な機械やシステムを構築するのは、不可能に近い程に困難だ。
というより、限られた容量や組み方で、無限とも言える種類のエラーを完全に抑える事が、そもそも問題無理に近しいとは、誰かの話だったっけ。
言語で言うなら、限りある文字列を組み替えると、意味のあるものから意味が喪失してしまう。その”組み替える事で意味を持たなくなったモノ”、それが所謂エラーやバグという認識に近いんだろう。
正しく組み合わせれば、正しく機能する。けれど、それは容易に弄れてしまう。それは、システムとかにも当てはまる。だからこそ、エラーやバグ、ハッキングへの完全な耐性を持たせるのが難しい。
ヒマリ曰く、「流石にあの女も、そこまでのレベルに到達はしていない筈です」との事。だとすると、何かしらの穴があると考えるのが妥当なんだけど……。
……ダメだ、何にも思いつかない。
そう、思っていた時。
「…………『鏡』」
誰が、そう言ったか。
私達は、忘れていた。G.Bibleのパスワード問題を解決するべく、ミレニアムから掠め取ったハッキングツール。
それなら。
押してダメなら、もっと押せ。ちょっと違う気はするけど、やってみる価値はありそうだ。
「先生」
無線越しに、チヒロが声を掛ける。何かなと問うと、言葉が返ってくる。
曰く、隙を作って欲しいとの事。鏡を使ったハッキングを試みるにはそれなりの時間が掛かるらしく、時間を稼ぐ必要があるらしい。
……皆がかなり消耗してる中で、果たしてそれが可能か。正直に言えば、賭けの部類に入るだろう。
ただそれでも、やるしかない。皆の瞳を見ても、考えは私と同じに思う。
「任せて」
────────
「……ッ、お姉ちゃん!」
「ッの!怒りの弾丸を喰らえぇぇ!!」
少しの休息の後、2度目の激戦が繰り広げられる。しかし、今回はただの蹂躙劇では無かった。
善戦。そんな感想を抱いたのは、この戦いが幕を上げて十数分経過してからだった。
エイミが加わったパーティーは、どうも上手い具合に噛み合っているらしい。モモイ達の負担が減り、十分なパフォーマンスが出来ているように見える。
それでいて、アヴァンギャルド君の動きも、次第に鈍っていた。今では、完全無欠とは言えないまでに、弱体化されていて。
”鏡”は、かなりの有効打だったらしい。恐らく、リオもこればかりは誤算だったと思う。ヒマリも少し驚いていた様子だったし、きっとそうだ。
モモイの銃撃も、アヴァンギャルド君に大きな傷を与えていた。停止までは至らないにしろ、半分程は削れたように思う。しかし、油断は出来ない。
弱くなったとはいえ、あの銃撃乱射は健在。ハッキングでバグったのか、頻度が気持ち多くなっている気もする。火力が抑えられていなければ、地獄絵図になっていたに違いないど考えると、怖い。
「エイミ先輩!」
「分かった……ッ!」
モモイの掛け声に合わせるようにして、エイミの射撃。そしてそれに呼応するように降り注ぐ、数多の弾丸。避けるなんて考えを放棄させる程のその物量は、雨と言うに相応しいだろうか。
ソレらが、アヴァンギャルド君に被弾する。辺りに、爆音が轟く。
相手が倒れたのか否か。それは、思わず目を覆いたくなる程の煙によって隠されている。
流れる、静寂の時間。それは、果たして幾許の時間だったろうか。
煙が晴れる。
「…………やった〜〜!!」
「……ふぅ、ようやく倒せた」
いつも以上のリアクションを示すモモイの声と、半ば本気の安堵の声を零すエイミの声が、全てを示していた。
煙の中央にあったのは、アヴァンギャルド君だったもの。原型を保っていないとまではいかないにしろ、これを修復するとなると、相応の時間を要するだろう程の有様ではある。
”鏡”。もし、誰かがその存在に気付いていなければ。今こうして立っているのは、私達ではなかったかもしれない。そう思うと、冷や汗が私の頬を伝う。
強かった。弱体化出来ていなければ、それこそチーターみたいだ。あんな敵、出来ることならもう戦いたくない。
「先生、急がないと」
そんな私を思考の渦から呼び覚ましたのは、ミドリの一声。思わずハッとさせられる。
そうだ。私達には、時間が残されていない。ましてや、たらればを想像してる暇なんて尚の事。
「うん、急ごうか」
私達は、走り出す。
…………だが。
「……すまない、私達は……ここで脱落だ」
「っ!ウタハ!」
その場にバタリと倒れる、エンジニア部。どうやら、限界の限界まで踏みとどまってくれていた様で、緊張の糸が切れたのだろうか。
心配で仕方ない。が、アリスの元へ急がなければ。
それを察したウタハが、言葉を続ける。
「…行ってくれ、先生。先に行かないと……ダメなんだろう?」
「…………ゴメン」
「いいさ。倒れた仲間を置いて行く事は、何も恥じゃない。それだって、勇気ある行動だと私は思う」
……それでも。
…………いや、よそう。これ以上は、気を使ってくれているうたはに失礼だろう。
走る。目指すは、中央のタワー。
─待ってて、アリス。
────────
─トキはこっちで待機しているわ。貴女も、こちらに戻ってきてちょうだい。
「……いや、戻らない方が吉だろう。少なくとも、私がいる事は勘づかれない程度の距離にいるべきと考える」
調月の指示を半ば突っぱねる様に、私は言う。
何も、命令に背きたい訳では無い。
が。
私の勘が、告げていた。”機を待て”、と。
─どうして、そう思うのかしら?
「何かあった時の為に、私はすぐに切るべきじゃないだろう。それに、一戦士としての勘が、”私はすぐ動くべきでない”と告げている」
─貴女がそこまで言うのなら、止めはしないわ。ただ、緊急事態の時は従ってもらうわよ?
「構わん。もとより、そのつもりだ」
そこで、無機質な電波が途切れる。あちら側から切ったのだろう。
まぁ、いい。
それよりも、だ。
「”名もなき神々の王女”……か」
一傭兵として雇われている身ではあるが、随分な厄ネタに首を突っ込んだものだ。
リオが提供した情報を読み解き、自分の足で他の知識を探して、辿り着いた結論。
キヴォトス崩壊の、可能性。
果たして、ソレに気付いている奴はいるのか。
「……あんな厄ネタに、隠し玉がないとでも思っているのか?」
よりにもよって、あの調月が。
……いや、どうでもいいか。
それに。
死ぬ事自体、別に何とも思わん。最期の時まで
「…………」
直接対決だ。
─精々、楽しませてくれよ?