飛将、戦禍の轍をゆく   作:Cross Alcanna

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望むは強者

 

「委員長!まだまだ倒しきれそうにない!」

 

 

いつも通りに不良生徒を制圧している最中。イオリが愚痴っぽく言い放つ。それは確かにそうで、今日の制圧作戦はかなり大規模で行っている。ここまでの構成員が果たしてどこにいたんだろうと感じる程に、不良生徒の数が多い。今まで制圧してきたどのグループよりも、一段以上は上じゃないだろうか。作戦開始から数時間経過しているのは確かで、細かい時間数は最早数えるのを止めている。作戦開始の時にいた風紀委員のメンバーも、集中力の低下やダメージの蓄積によって殆どが戦線を進退している。

 

正直な話、ここまでとは考えていなかった。明らかな誤算だった。

 

ゲヘナは治安がどの学園よりも目に見えて悪い。あまりに悪くなり過ぎたソレは、いわゆるスラム地区の多さとして結果に現れている。私も万魔殿(パンデモニウム)も理解している。

 

でも、でも。こんな数が私達に気付かれずに息を潜め続けていたのは、一体誰が想像出来るだろう。この作戦、開始当初の光景だけ切り抜いてみれば、中規模グループの抗争といっても差し支えないと思う。

 

私の愛銃を握るこの腕も、相手の動きを捉えるこの目や脳も、この身体を支えて行動を起こす脚も、もう限界が近い。気合で立っているのが現状。

 

 

「委員長!そろそろ弾薬が尽きそう!!」

 

「ッ!」

 

 

その一言は私の脳に、撤退という選択を確立させるには十分過ぎた。このキヴォトスにおいて、弾薬が尽きる事は戦闘力が著しく低下する事を意味する。その事態に備え、武術や素手での戦闘を嗜む人もたまにいるが、私達はその類いではなかった。

 

撤退しなければならない。その選択を取らなかった時の結果は、目に見えている。相手の規模や戦力の認識の違いも把握できた。この戦闘は、その点においては非常に有意義なモノだったのかもしれない。しかし、私達の撤退は相手にとって、()()()()()()()()()()()()()()を意味する。それが相手にとってどれだけの活力剤になるか。

 

未知数。未知であるからこそ、怖い。正解だと分かっている選択肢を、どうしても取れないでいる。

 

 

「委員長!」

 

 

心は、これ以上にない位に焦りを感じていた。

 

 

─……笑止。

 

 

ふと、どこからか聞こえる声。それはこの戦場に置いて、最も落ち着いた声色だった。それでいて、嘲笑を含んでいた。

 

その声が聞こえたのは、上。…あの建物の屋上辺りだろうかと、私がそこを見る。それに数瞬遅れるようにして、イオリ達もそっちを見る。

 

いたのは、たった1人。銃を持っておらず、代わりに持っているのは鎌に似たナニカ。ただ、刃が付いているのは間違いないとは見て取れた。キヴォトスにいるとつい忘れてしまうけど、私達にも刃物はある程度効く。心臓に刺さればかなりの重症になるし、身体に突き刺さるとかなりの苦痛を感じる。

 

が、このキヴォトスにおいては攻撃手段として選択される事はほぼ無い。理由は単純、銃のリーチに刃物が勝てないから。

 

考えてもみて欲しい。遠距離から何十発も撃ち出せる銃弾と、近付いてようやく有効な攻撃を繰り出せる刃物。どちらが強いかと言われれば、考える必要はない。

 

だからキヴォトスでは、戦場で刃物を見る事は無い。

 

 

「……ふん」

 

 

上にいる誰かが、小さくそう漏らす。すると、そこから飛び降りる。何の躊躇もなく。

 

 

「ちょ…!?あれってマズいんじゃあ…!?」

 

「馬鹿なんですか!あの人は!?」

 

 

アコの言う事もその通りで、キヴォトス人がいくら頑丈だとはいえど、高所から落ちればただでは済まない。最悪の場合、死ぬケースだってある。軽症重症で済む事が殆どとはいえ、躊躇もなく取れる手段とは決して言えない。私だって、屋上に追い詰められてもあんな事をするのに躊躇するし、最終的にあぁできるとは考えにくい。

 

痛いものは痛い。ゲヘナで(何故か)畏怖されている私も、痛いものは痛いし、出来ないものは出来ない。それを鼻で笑いながら出来てしまうその人影は、何なのだろうか。

 

 

「……ふん!」

 

 

瞬間、強い衝撃。思わず、顔を両手で隠す。その人影が降り立つであろう場所に、砂埃が立ち込めた。私達が追っていたはずの人影は、いつの間にかどこにも見受けられなかった。一体どこに、そう思っていた矢先。

 

 

「…ッ!」

 

 

私は、銃を盾にするように構えた。その予感は的中していて、私の身体目掛けた一撃が振られていた。銃で受けていなければ、恐らく無事では済まなかっただろう。

 

…この一撃を受けて数秒、"重い"と感じた。

 

自分の力を乗せやすい武器だからこそ、この感想は当然なのは私も分かっている。しかし、重い。感覚だけでいえば、軽戦車の進行を止めている様な、そんな。言い過ぎではと思うかもしれない。実際、私の身体は疲弊しきっているし、万全の状態でそつなく流せる技であるかもしれない。でも、少なくとも今の私にとってはそれくらいに重く感じる。

 

 

「…どうした、貴様の実力はそんなものでは無いだろう?」

 

 

どうやら、私についての知識はあるらしい。たまたま私に矛先を向けた訳では、なさそうだ。

 

 

「……いや、待て」

 

 

突然、私に向けられた重みが消える。目の前のソレは、視線と身体を不良の方へと向けている。そして一言。

 

 

「……あれか、コイツの戦力を削いだのは」

 

 

少し冷静になって私の姿をしっかりと視認したのか、誰に向けてなのか分からないような言葉を吐く。

 

瞬間、空気が冷たくなっていくのを感じた。それは向こうの不良も同じようで、身体を震わせる不良が過半数に。中には、逃げ出そうとする生徒も。

 

 

「……ふん!」

 

『うわぁぁぁぁ!?!?』

 

 

その声は、ソレが向いている方向からの悲鳴。音の重なり様からして、そこにいた不良のほぼ全てだと思う。少しして見ると、あれだけ残っていた不良は殆ど地に伏せている。

 

その鎌一振りしかしていないのは、明らか。だというのに、あの軍勢を機能停止にしてしまった。そして今も、恐ろしい程の身体能力で戦車に肉薄し、その装甲を貫いている。刃物は銃より弱い、そんな一般常識が覆る瞬間を目の当たりにした。

 

気付けば、まともに息をしているのは私達とソレだけになっていた。今度はコイツと戦わないといけないのかと、私は銃を構えようとした。したが……。

 

 

「…今の貴様では、まともな戦いが出来ん。構える必要もない」

 

 

ただただ冷たく、淡々とそう言われる。こちらとしてはもう誰かを相手取るだけのまともな余力はなかったので、嬉しいのだけど。その散々な言われ様に、僅かながらに苛立ちを覚えた。万全であれば、その天狗鼻をへし折ってやりたい。

 

その意思が表情に出ていないか、それが少しだけ心配だ。

 

 

「次に(まみ)える時は、殺すつもりでかかる。忘れるなよ」

 

 

言うだけ言ったソレは、私達に背中を向ける。その直後、アコが慌ててこう言った。

 

 

「ま、待ちなさい!貴方は一体……何者なんですか!?貴方のような人、キヴォトスで見聞きした事はありません!」

 

 

そうだ。こんな変わり者、私がキヴォトスで生きてきて聞いた事がない。膨大な数の学園都市があるキヴォトスで、一度も見聞きしないのも、よくよく考えればおかしな話。その疑問を投げかけるのは、何も不思議な話ではない。

 

その言葉に、目の前の人影は足を止める。こちらに振り返る素振りは、無い。

 

そう思っていた時。何食わぬ声色で、こう言い放つ。

 

 

「……知りたいのであれば、文献を漁ればいいだろう。こんな大層な都市だ、情報の1つや2つ、すぐ見つかるだろう?」

 

 

その一言を最後に、その人物が足を止める事もこちらを振り返る事もなかった。

 

 

 

────────

 

 

 

「何?謎の乱入者だと?」

 

「えぇ、貴女にも調べてもらいたいの。次にいつ、相対するか分からないから」

 

 

私が学園に帰って、万魔殿に今回あった事を詳細に報告すると、マコトは顔を顰めた。

 

 

「調べる事自体はやってもいいが……手負いとはいえど貴様が負ける程だと…?」

 

 

まるで、有り得ない事象を目にしたかのような表情を浮かべ、そう言ってくる。いつもの嫌味でもなさそうなので、私もそれには触れないでおく事にする。

 

私がキヴォトスで1番強い、というつもりはないけれど、大体の生徒には負けない実力はある…と自負している。ある程度のハンディを背負っていても、大体は勝てる。そんな私を間近で見て知っているからこその、この反応。自賛するようで嫌なのだけど、その反応になるのもそこまで不思議ではないように感じる。

 

それに、私に襲い掛かる可能性があると言わんばかりの最後の一言。警戒しないといけない要素が増えたのは、紛れもない事実。そこにも、眉をひそめているかもしれない。

 

……もしかすると、そこまで考えていないかもしれないけれど。仮にも万魔殿のトップなのだから、それくらいは考えていて欲しい気もするが。

 

 

「……いいだろう。色々と気にはなるが、ゲヘナ全体への周知が必要そうな案件だ。なるべく優先しておこう」

 

「…そうして頂戴」

 

 

いつにも増して、素直に要件を呑むマコト。……こうも素直になられると、ちょっと不気味ね。

 

 

「おいイロハ、お前シャーレの先生と関係は良好なんだろう?ならば、次にシャーレに行く時にでも聞いてこい。文献くらいはあるかもしれないしな」

 

「えぇ……面倒臭いんですけど」

 

 

……そこは貴女が行くなりするべきではないかしら、マコト。

 

思わず、溜め息が漏れた。

 

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