「という訳なんだけど……何か資料とか無いかな?リンちゃん」
「誰がリンちゃんですか。……あの報道について、ですか」
黒服との一件があった翌日。思い立ったが吉日、私は連邦生徒会で仕事をしているリンちゃんの元を尋ねていた。リンちゃん達連邦生徒会の子は、いつも忙しそうにしている。
何度も、"今行くのは申し訳ないかな"と思ったりもした。でも、今回ばかりはそうもいかない。
生徒の安全が掛かっている。そう思うと、後回しになんて出来なかった。
何やらブツブツと言いながら、リンちゃんは室内のとある場所に向かっていった。私も来るように催促されたので、歩を進める。
「もしかすると、こちらに手掛かりがあるかもしれません。長時間の滞在は難しいですが……」
連れられたのは、資料保管所。スペースも執務エリアと同等、或いはそれ以上。何についての資料も存在するのではないか?そう思えてしまう。
リンちゃんは、私の滞在を許してくれた。生徒会の忙しさもあって、そこまで長い時間は難しいらしいけど、許可してくれただけ御の字だと思おう。
それから、私に一言二言だけ言った後にリンちゃんはここを出た。
「…キチンと整理されてるし、案外早めに見つかるかも」
そんな僅かな希望を抱いて、私は膨大な資料を相手取り始めた。
────────
「…………見つからない」
あれから20分程経過して。これといった進捗は無い。ある程度ジャンルを絞って探してみたものの、てんでダメだった。次第に、目の前に広がる果てしない数の紙達に怒りを感じる程には、憔悴しきっているのが分かる。
まだ滞在終了の時間までそれなりにあるものの、やはり目立ったヒントがないと難しい。
最初、"生徒一覧表"や"学園一覧表"などを手当り次第に探してみた。けれど、それらしい人物も学園も見つからず。それでも、まだ関わりのない学園についての資料も読み漁ってみた。僅かな希望があると願って。
しかし、現実は非情だった。成果は得られず、正直もうお手上げ。
「先生、どうですか?」
「……見つかる気配が無いや」
忙しい合間を縫って来てくれたリンちゃんに対し、私は半ば投げやりにそう返答した。書類と睨めっこしてるよりも、気持ち疲れを感じている気がしている。
そんな私を見て、リンちゃんは半ば苦笑い、半ば呆れ顔。
「…でしたら、一度軽い休息を摂った方がいいですよ」
「そうしようかなぁ」
リンちゃんの提案に肯定の意を示し、部屋を出ようとしたその時。
「…?これは……」
リンちゃんがそれに気付き、拾い上げる。私も遅れてそれを見る。
……"キヴォトス天災記録"?こんなのまで記録してたんだ。災害関連は関係ないだろうと見込んで調べていなかったっけ。
それが気になったようで、リンちゃんが次々とページをめくっていく。
「…?リンちゃん、そこもっかい見せて?」
「そこ、と言いますと……ここですか?」
「うん、そこ」
あるページが気になったので、リンちゃんにそのページを見せるよう催促した。リンちゃんも、若干不思議そうにしながらページを戻していく。
そのページの記録には、こう記されていた。
◇
─○○○○年△△月□□日 四──護地区にて、大規模火災が発生。
─被害者はこれまでキヴォトスで発生した天災の中でも、圧倒的多数であり、最終的に、具体的な被災者数を特定する事は出来なかった。確認出来た数は、────人である。
─また、この火災により────学園が焼失。鎮火され次第、生存者の救助及び火災の詳細についての調査を行う手筈となっていた。
─火災の発生原因は不明であり、建物の残骸から生存者は確認出来なかった。鎮火活動に及んだ団体の証言からは、このような言葉が挙がった。
─『鎮火を試みたが、何時間に及ぶ鎮火活動を以てしても鎮火する事は出来なかった』
─『我々がどうすべきか考え暮れていた頃、突然炎は消えていった。勿論、その瞬間の近辺での鎮火活動は行っていない』
─この─守神─地区は、かつてより強い神秘が確認されていたとされており、その事実との関連性を調査することが推奨される。
◇
「……こんな事、有り得るの?」
「…いえ、正直に言えばかなり有り得難いかと」
だよね、と思う。いや、考えてもみて欲しい。
幾ら銃弾を受けて何とも思わないような世界であったとしても、火器の火炎放射を喰らえば皮膚は焦げる。爆弾で爆破した建物や人は、ただでは済まない。
それに、火は消せる。私も火が立ちこめる所を何回も目撃しているけれど、後処理班らしき生徒達が火を消しているのを割と見かける。勿論、ちゃんと火は消えている事も確認している。
…何が言いたいのか。それは、
……1番それらしい仮説を挙げるとすれば、ゲマトリアの誰かが何らかの実験をしたという説。ホシノの件もあって、”ゲマトリアならやりかねない”という思いがある。
……いや、待て。だとすると、黒服が私のところに来た段階で何も把握してなかった事と矛盾するんじゃあ?…だとすると、ゲマトリアも関係ない?
分からない。根拠らしい根拠も、結論らしい結論も出てこない。
「四守神護……リンちゃんは知ってる?」
「…いえ、私が連邦生徒会に入ってからもその前も、そんな名前の場所は聞いた事がありません」
「でも、こうして公的な記録が残ってる……」
どういう事だろう。何だか、不思議で不気味。でも、調べてみる価値はありそうだ。
「地図関連は……こっちだっけ」
すかさず、私はキヴォトス全体の地図を広げる。しばらく眺めていると、不自然に何も記されてない場所があった。
リンちゃんに確認すると、そこは今心霊地として噂が広がっている場所との事。それと、建物が焼けたような跡地があるらしい。
ここだ。直感が、そう告げる。
「……行かないと」
「今から向かわれるんですか?そうでしたら、護衛の生徒を付けるべきかと」
そうだった。私は1人でキヴォトスを練り歩くには、かなり貧弱だった。時折、その事を忘れそうになる。
誰に連絡しよう。……アビドスの子は、ここから遠いから大変だろうし、あまり関わりのない学園の子にお願いするのも、気が引ける。
「……なら、あの子かな」
そして、私はとある生徒に電話をかけた。
────────
─△△ッ!
─…ごめん、○○……私…もう…………。
手の中で、朽ちる人。私は、それを見届ける他出来なかった。
未だに燃える、忌々しい焔。何をしても消える事の無い焔は、私を煽るかのように音を立てて辺りを照らす。身体は、何故か動かない。
死んだ。死んだ。死んだ。私以外の全員が。
私の力が無かったから?私が気を緩めていたから?△△達が油断していたから?
違う。
─……何が、奇跡なの。
そう、決められていたのだろう。そうだ、そうとしか思えない。
こんな巫山戯た運命がまかり通るなら。こんな運命を背負って生きろと言うのなら。
奇跡なんて、要らない。こんな世界、信用出来ない。