飛将、戦禍の轍をゆく   作:Cross Alcanna

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泡沫の跡地

 

「ふむ……やはり、大した収穫は無さそうですね」

 

「例の火災で焼け落ちた、と考えた方が良さそうですね」

 

 

かつて栄えていたとされる、とある学園の跡地。辺りには、捨てられたガラクタのように散らかっている無機物。…どれだけの月日が経ったのかを物語るように、ソレもだいぶ脆くなっている。

 

黒服と共に来たのは良いものの、このような景色が続くようでは、マトモな証拠も見つかりそうには無い。砂漠に落ちた胡麻を探すかの様、とはよく使われる例えだが、今の我々が正に的確な状況だと思う。

 

思わず、無い頭を抱えそうになるくらいには。

 

 

「……黒服、ここには何も無いと割り切って帰るべきかと。もし探すとなれば、一体いつ見つかる事か分かりませんよ?」

 

「それもそうですね。今の私達ではこれが限界、という事なのでしょう」

 

 

どうやら、内に秘めた好奇心を抑えた模様。私は、彼のその偉業を褒めたい。

 

それに、私には撤収を急く理由がある。我々が採った行動の、いわゆるツケという理由。

 

それは。

 

 

「あら?誰ですか貴方方は?……先生?アレは撃ってもよろしいので?」

 

「うん……って言いたいんだけど、一旦抑えてくれるかな?」

 

 

そう、これである。

 

 

 

────────

 

 

 

「…何となく分かるけど、どうしてここに?」

 

「その想定、恐らくは正解ですよ?我々がここにいる理由は、先生と同じだと思いますから」

 

 

会う度に変わらない、不敵な笑みと掴みどころのない喋り方。ゲマトリアがどれ程の戦闘力を備えているか分からない事もあり、対峙すると身体が強ばる。

 

 

「黒服、先生を煽る言い回しは少し控えるべきかと。……申し訳ありません、先生」

 

 

会話は、進む。私を諭す様に語るのは、首から上が無い紳士服の誰か。黒服同様、掴みどころは無い。が、胡散臭さはそこまで感じられない。

 

ただ、異質さは変わらない。キヴォトスにおよそそぐわない風貌は、私の警戒心を刺激するには十分過ぎた。

 

それを汲み取ってか、同じ声の主が言葉を紡ぐ。

 

 

「失礼。訳あって、顔を合わせずの挨拶になる事をお許し頂きたい。私はゴルコンダ。彼と同様、ゲマトリアの1人です。そして、こっちがデカルコマニーです」

 

「そういうこった!」

 

 

ゴルコンダが持つ額縁から、その雰囲気に合わない高い声が辺りに響く。一瞬の困惑が生まれたが、今はそういうものだと思い込んでおく。

 

そんな中で言葉を放ったのは、付き添いに来てもらったワカモだった。

 

 

「…それで?貴方達の目的は何なので?先生の邪魔をするというなら…………容赦はしませんが?」

 

 

高圧的に、言ってのける。

 

横にいる私も、気持ちタジタジである。

 

そんなプレッシャーをもろともせずに、淡々と会話を続けるゴルコンダ。

 

 

「いえ、邪魔をしようなどとは思いませんとも。ここには、我々の想定する以上に何も残っていませんでしたので」

 

 

その言葉に、嘘が隠されているようには思えなかった。言葉の片隅に、僅かな困惑が隠れているのが分かった。

 

やはり、焼け落ちた場所には目ぼしい物的証拠は残らないか。私の思惑はどうやら黒服らと同じだったようだが、どうやら取り越し苦労になってしまった模様。

 

 

「我々は撤収させてもらいます。深追いは、推奨しませんよ?」

 

 

黒服に、釘を打たれる。そうしようと思っていたのか、ワカモの顔が険しくなっているような気がする。……お面を付けてるから、どうかは分からないけど。

 

気付けば、黒服らはいなかった。……何でいつも、音すら立てずに消えるのか。甚だ不思議である。

 

 

「貴方様?これからどうしますか?」

 

「うーん……少しここらを散策しようかなって。もしかしたら、あの2人が見つけてない何かがあるかもしれないし」

 

 

黒服らが何も見つけられなかったからといって、ここに何も無い事が確定した訳では無い。もしかすれば、まだ探しきっていない場所に何かあるかもしれない。私は、その僅かな可能性に賭ける事にした。

 

 

 

────────

 

 

 

「う~ん……ワカモ、何か見つかった?」

 

「いえ、残念ながら……やはり、このような場所には何も残っていないのでは?」

 

「そうなのかなぁ……」

 

 

あれから数十分。私もワカモも、これといった成果は得られていない。確かに、この状態になった後にも、雨が降ったり天気が荒れたりする事もあるはず。それを加味すると、ここにそれらしい手掛かりが無いのは当たり前か。

 

…ふと、前々から疑問に感じていた事が脳裏に浮かんだ。……ワカモが解るにせよ解らないにせよ、疑問に進捗があるかもしれない。

 

 

「…ねぇ、ワカモ」

 

「?何でしょうか、貴方様」

 

「ここにあったって言われてる学園について、何か知らない?」

 

「……申し訳ありません、貴方様。私にも分からないんです」

 

 

成程。一歩進んだかもしれない。

 

ワカモのこの反応は、()()()()()()()()()()()。何故か。それは、ここが百鬼夜行とかなり近い場所にあるからだ。それがどうして事態の前進に繋がるのか。

 

自分の学園外に関心をあまり持たない生徒も、割と少なくない。そんな中でも、ワカモは他学園について精通しているところがあったりする。それは、ワカモと話をしていくにつれてすぐに分かる事だった。

 

そんなワカモですら、ここで起きた事や学園について何の記憶も気付きも無い。まるで、そこの記憶だけ抜かれたような。

 

……思っていたより、私が追っているモノは強大なのかもしれない。

 

 

「……?あれは…………」

 

 

そんな中で私の視界に映ったのは、大きな壁。その壁の部分だけ奇跡的に崩れずに、今の今まで残っていたのだろうか。

 

……というか、これを黒服達は見逃してたって事?そんな事あるのかな?…いや、今は考えないでいいか。

 

その壁をよく見てみると、何かが描かれている。

 

 

「………亀?」

 

 

亀、だった。ただ、一般に見かけるよりもやけに長く尻尾が描かれてるように感じる。尻尾の先端は、崩れた部分に続いていたので、分からずじまい。

 

何故、亀?虎の屏風とか、鶴の水彩画ならまだしも、亀の壁画?何の意図で?

 

亀といったら……鶴亀とか、亀と兎の童話とか?だとしても、こんな仰々しく壁画にするまでかと言われると、そんな事はないだろう。

 

…………ダメだ、何も思い浮かばない。外の世界の知識でもあれば何らかの推察が出来るかもしれないけれど、こっちで過ごしているからか、あっちの世界の知識が割と薄くなっていっている。

 

何かが引っかかる。でも、その何かが分からない。

 

……ヒマリに聞いてみたら、何か分かるかなぁ?

 

 

「貴方様?」

 

「……あ、ゴメン。そろそろ戻ろっか」

 

 

気付けば、日が傾き始めていた。ワカモの声で意識もしっかりしてきたので、そろそろ帰る事にした。

 

……亀、か。今度、ウイの図書館にでも行ってみようかな。

 

 

 

────────

 

 

 

「……黒服。やはりあの壁画、気になりません?」

 

「気になるのもそうなのですが……」

 

 

不可思議。およそ、その一言に尽きると思いますね。とは、口には出さなかった。特段、理由はない。

 

亀。それがキヴォトスでも有り難がられる存在だとして、それに疑問を抱く事はないでしょう。鳥が神聖な生き物と謳う世界だってある訳ですから。

 

ですが、アソコに描かれていた亀は、我々の認識とは異なる特徴を備えていましたね。

 

長い尾。亀が亀である為の、割と特徴的なパーツ。本来であれば短いであろうソレは、あの壁画では長く描かれて。あれを不可思議と呼ばないのは、些か認識に欠陥があるとしか思えません。

 

 

「長い尾を持つ亀……ゴルコンダ。文献を漁れば何らかの情報は掴めそうですか?」

 

「……最悪、外の世界の知識も総動員する必要もあるでしょう。なので、それなりの時間を頂戴する事になると思いますが…」

 

「問題ありません。貴方の活動に支障が出ない範囲で、お願いできますか?こちらでも集められる範囲で情報収集を試みてみます」

 

 

……この問題、思いの外面倒ですね。私の研究対象である”神秘”についても大概ですが……外の知識に頼る事になるかもしれないとは、思いもしませんでした。

 

この世界、割と外の逸話を土台として成り立っている節がありますからね。暁の”ホルス”に”セフィラ”、”天使(トリニティ)悪魔(ゲヘナ)”。

 

…………亀の逸話、何かあったでしょうか?

 

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