「…………これ程とは思わなかったわ」
目の前に広がる、機械の残骸。どれも、ズタボロになっていてこれ以上動く気配も無い。
あの後、彼女の戦力を把握する為に私が従える機械を相手に戦闘してもらった。勿論、生半可な強さはしていない。個では兎も角、群れればかなり脅威になりうる程ではある。
それを、あれよあれよと斬り伏せてしまった彼女。その動きは、驚く程に無駄が無かった。単体攻撃と範囲攻撃を適所適所で使い分け、自身に向かってくる弾幕を最小限に抑える立ち回りを続けた。
挙句には、銃撃を武器を回して落としきる、という荒業をしてのけた。少なくとも、銃撃戦蔓延るキヴォトスでは見かける事は無い動き。その数々に、私もトキも目を丸くした。
「対人戦は、こうはいかない。機械相手だからこそ、単調な動きさえ把握してしまえば多少雑な立ち回りでもどうにかなる」
……その割には、荒々しいながらも無駄の無い動きだった気がするのだけれど。
「……認めるのは癪ですが、私よりも戦闘力は高いと思います、リオ様」
そんな事はないわ、そう言いたいのは山々。しかし、ここまでの実力を見せられた後でそれを言えるだけの気遣いは、私には出来なかった。
それでいて、彼女は息1つ切らしている気配もない。寧ろ、どこかまだ戦い足りないとでも言いたげな表情をしている気が。
確か、彼女は強者を求めてキヴォトスを彷徨っているという噂があったはず。
……本当、私達の敵にならなくてよかったわ。彼女1人で、私の計画全てを台無しに出来るレベルだわ。
「……これで終わりでいいか?」
「ええ。貴女が加わるなら、私達の動きを共有する必要があるわ。さっきの部屋に戻りましょう」
これ程の実力者、採用しない筈が無い。恐らく、ネルですら彼女に勝てるか怪しいもの。ネルが先生側についた以上、彼女を懐に抱えるのは、マスト。
そうと決まれば、私達の動きを共有しないといけない。彼女には、ある程度自由に動いてもらうつもりだ。それでも、こちらの動きを知っている方が動きやすいでしょう。
─先生、私達に勝てるかしら?
────────
「……ふむ。勝てない相手はいなさそうだが」
調月らの動きを聞き、今日は解散となった。とはいえ、暫くはエリドゥ近辺にいる事になった。
情報を外部に漏らさないように、という意図からだろう。その姿勢、嫌いではないが。
自由の身となった私は、対峙するであろう面々の情報を見ていた。
…………美甘ネル。こいつ位だろう、私が危惧すべきなのは。
調月曰く、「先生の指揮能力には最善の注意を払った方が良いわ」との事だが……この目で確認していない以上、どの程度の脅威なのか分からないな。
かといって、作戦前に対峙するのは得策ではないだろう。無償で手の内を明かす事と変わらないからな。
そうなると、この目で見に行くのが1番か。気配を悟られない距離から見る分には、問題ないだろう。
「……天童アリス、か」
調月がこのエリドゥを作り、キヴォトスの安寧の為に動いた元凶。人の域を超える怪力を以て振るう武器は、戦艦の主砲だと聞いた。
だが、そこまでの脅威ではないだろう。持つ武器がどれだけ強力であれ、使い手がそれ相応でなければ相当の脅威に非ず。
他の者も同様。強いて言うならば、C&Cの連携に気を配るくらいか。ゲーム開発部は……再考するまでもない。
が、油断はしない。調月の切り札に対する切り返しの案を、毛色の違うベクトルから切り出してくる可能性は捨てきれない。その点においては、ゲーム開発部を警戒すべきだろう。
その為には、知らない事が多過ぎる。エリドゥやこのタワーの構造に、相手の立ち回り、先生とやらの指揮能力。
「……知る時間が必要、か」
ならば、私も動かねば。
────────
「……っ!アリス…!」
天童が、暴走したらしい。
たまたま近くでそれが起きた事もあり、気付かれる事無く先生の指揮能力を見る事が出来そうだ。
エンジニア部とやらの部室が、開放的になっている。更には、よく分からん機械もワラワラと。表情から汲み取るに、それらを捌くので手一杯の様に見える。
戦人ではないのだろう、冷静を欠いた状態での周りの把握がままなっていない。あの様子から、想定外には弱い事が分かる。これは大きいな。
「っ!モモイ!アリスの砲撃が来る!」
モモイとやらが、先生の掛け声に合わせて天童の砲撃を避ける。が、その隙をあの機械らが見逃す訳もない。
追撃が、刺さる。
……天童に気を付けるべきか否かを検討していたが、よくよく考えればその必要はなかったか。天童は恐らく、調月が確保するだろう。その発想が頭から抜けていた。
敵に回ったとしたらあの威力には気を付けるべきと考えたが、要らん心配だったか。
天童が暴走したのを察してか、調月は先生の元に向かうと言っていた。それが今すぐなのか、はたまた騒動が落ち着いてからなのかは知らないが。少なくとも、私はそこは管轄外だ。
「………………勇気、か」
不意に、そんな言葉が漏れる。何故零したのかは、分からない。
……らしくないな。そろそろ、退くべきだろうか。
────────
「アリス、貴女は”魔王”なのよ。それは、貴女自身が証明したでしょう?」
「…ッ!ア、アリスは…………」
「何でそんな事を言うの!?アリスは”魔王”なんかじゃない!」
「何を言ったところで、魔王たりうる力を持っている事実も、ミレニアムに並々ならない被害を齎しかねない危険性がある事も明らかよ」
正論。覆し難い正論。
「リオ、もう一度考え直して欲しい」とは、言えずにいた。勿論、アリスは魔王なんかじゃあないと思っている。
でも、リオが言う事も確然たる事実。核心を突かれた様な気もして、反論を言うのを躊躇ってしまう。
反論しなければならないのに。
「……それに、こちらにだって対抗手段が無い訳じゃないのよ?」
「……対抗、手段?」
リオの言い回しに、一瞬言葉が途切れる。
今が初対面だけど、リオはそんな事を口走る様な性格じゃないように思う。もし口走る事が問題ない範疇なのだとしたら。
─私達に確実に勝てる何かが、あるとでもいうのだろうか。
「……アリスは、戻れません」
「アリスッ!」
気付けば、アリスはリオの傍にまで行っていた。
アリスの一言を聞いてか、リオは背を向けてこの場を去る。それに続くように、アリスも私達へ背を向けて歩き出した。
「アリス!……アリスッ!!」
「……そんな…」
いつも賑やかなゲーム開発部の部屋は、未曾有の静寂に包まれていた。
────────
「……連れ出す事には成功したみたいだな」
「えぇ。後は、ここを死守するだけよ」
天童を連れてこの部屋に戻ってきた調月。天童の方を一目すると、何やら死んだ魚の様な表情をしている。
……まぁ、一部始終を見ていた私からすれば、態々当人に問う必要はない訳だが。
「…………それで?コイツはどうするんだ?」
「あそこに横になって、意識をシャットダウンさせておくわ。万が一暴れられれば、無傷では済まないもの」
この女、首尾一貫して合理主義者だな。
……それはさて置き、その措置が正しいかはもう少し考えるべきではあるだろうな。
私も気になってコイツについて調べたが、割と訳ありな奴だという結論に至った。
”無名の司祭”について詳しくは知らんが、きな臭さは流石に察せる。そんな集団が残した遺産……厄ネタがこれで終わるとは思えん。
それに、調月も知っているであろう天童の正体諸々。
……私の依頼の範疇外故、そんな忠告などするつもりもないが。
「……私はまだ動かずにいるが、お前は動くのだろう?」
「勿論です。……それにしても意外ですね、戦闘狂な貴女の事ですから、血気盛んな勢いで乱戦するかと」
「それでも良かったが…………まだ足りない知識があるからな」
本当は、コイツの出番を無くしてでも戦いたい。それを察しての、コイツの発言だろう。本音を言えば、それはそう。
だが、まだ把握しきれていない事がある。それが、エリドゥの構造について。地形把握は戦闘をする上で必要な知識だ。それを完璧にしておきたい。
これだけで、後に機転が利く事も少なくない。
戦う上で妥協する事は、ならん。
「そうですか。……リオ様、私は準備に移ります」
「ええ。……頼むわ」
調月に一言告げ、去るメイド。……とはいえ、あの武装は使わないだろうに、さほど準備する事などあるのか?
……いや、そこを突くのも無粋か。何より、私には関係ない事だが。