「この道を進めばいいんだよね?」
「うん、こっちが最短ルートだから」
アリスを連れ戻す為に、私はゲーム開発部とヴェリタス、エンジニア部、そしてC&Cの皆と共に要塞都市エリドゥに来ていた。話には聞いていたものの、広過ぎる。
迷宮ではないものの、ハレのナビゲートが無ければ迷子になるだろう。アビドスでも迷子になった私が、こんな広大な都市で迷子にならない自信は、てんでない。
……それにしても。
どうやってこの都市を作り上げたのか。ヒマリからここの存在について教えてもらった訳だけど、他の皆は存在すら知らなかった様子だった。
ミレニアムの目からも逃れて作り上げたのだとしたら、リオという生徒の凄さを物語るには十分過ぎる事になる。
……経費は、セミナーから落としたのかな。
「……奇妙だな」
「?と、言いますと?」
「いや、よくよく考えたらおかしいと思ってな」
ネルが感じた違和感。曰く、私達が来る事を分かっているリオが、ここまで兵力を薄く寄越すのかという事らしい。
確かに、言われてみればそうだ。リオは(ヒマリ曰く)かなりの合理主義者と言われる程。そんな子が、最短ルートを態々手薄にするなんて事、果たしてあるのだろうか?
彼女の事だ、そこまで頭が回らなかったなんて事はないだろう。
そうなると…………。
「……誘い、込まれてる?」
「正解です、先生」
不意に聞こえる、聞き覚えの無い声。前方からだ。
声の主は、メイドの格好をした子。既視感があると思ったのは、C&Cに似ているからだろう。
「この先を行きたいと言うのなら、私が相手になります」
「……へぇ、アタシ達みてぇな格好だな?喧嘩でも売ってんのか?あ"ぁ?」
「?私は商人ではありませんので、売り物はありませんが…」
「そういう事聞いてんじゃねぇ!!ぶっ殺されてぇのか!?」
素っ頓狂な返答に、顔を赤くして声を荒らげるネル。……もしかしてあの子、天然なのかな?
そのやり取りの間に、皆が臨戦態勢をとる。怒りを顕にしながらも、ネルだって警戒を解いてはいない様子だ。
一触即発、正にその一言が相応しい空気。程良い緊張感からは、およそかけ離れている。
そんな静寂は、突然破られた。
「!!避けろ!」
ネルの一言で、各々が回避行動をとる。銃声は、しなかったはず。
「っ!やられたね……」
ウタハの一言に、困惑が隠しきれないでいた私。落ち着いて周りを見ると、C&Cの皆と分断された。
「こんなデタラメな事すら出来てしまうとはね……研究してみたいところだが……」
「部長、流石にそんな場合じゃないから」
研究者魂が疼くウタハと、それを諭すヒビキ。だが、ウタハの言う通りでもあった。
流石に、地形が変化するのは想定外過ぎる。一体誰がこんな事態を想定出来るだろうか。
それよりも、だ。これについて怖い問題が1つある。
「先生!先行ってくれ!」
「ネル!?」
「コイツの足を止めるなら、アタシらだけで十分だ!それに……コイツにはお灸を据えねぇと気が済まねぇんだ」
私の心配は、まだ拭えていない。が、ネルだって、この分断について何も考えていない訳では無いだろう。それに、分断されたこの状況でC&Cへ指揮をする事は非常に難しい。私が目視で情報が見れないから。それを加味してのネルの言葉なのだとは、理解しているんだけど……。
「……先を急ごう、先生。事態は一刻を争う可能性だってあるんだ」
冷静な言葉が投げられる。その声主は、ウタハ。
その言葉の真意は、十分に理解出来る。でも、先生としての私が、それを許してくれない。
「生徒を背に逃げる事は、教師のやる事ではない」「お前は、生徒を見殺しにするのか」
そんな言葉の数々が、脳裏に反響し続ける。そのせいで、動かすべき足も動く素振りを見せない。冷や汗も、止まらない。感じたくもない悪寒が、収まる事を知らない。
「先生!」
分かっている。分かっている。
…………分かって、いるんだ。
「だァァ!!さっさと行けってんだ!!!今ここで立ち止まったら、アリスはどうなると思ってんだ!!」
「……ッ」
そうだ。私が足踏みして、何になる。私の行動1つが、アリスの未来を変えてしまいかねないんだ。
アリスがどんな選択をするとして。私がアリスの元に行かない理由も、道理もない。
私は、先生なんだ。本当に助けを求めている生徒は、誰だ。
……そんなもの、初めから決まっている。
「…………ネル、任せるよ!」
「ったく……さっさとアイツを止めに行け!」
重い脚を、前に。
未来ある勇者の道を、私が閉ざす訳にはいかない。
────────
「少し遠回りにはなるけど……この道を行けば…!」
トキの相手をC&Cの皆に任せて、私達は遠回りをしつつもエリドゥの中央タワーに向かっていた。さっきのようにならない為にも、程々に警備の配置された道を選んだ。
その弊害として、何度も戦闘が起こっている。しかし、モタモタしていられないので、力の出し惜しみは出来ない。この音を聞きつけたリオが兵力を寄越さない事を、祈るばかりだ。
─どこを選んでも同じよ、先生
「ッ!?」
「…まさか、ここを通る事まで想定内だったとでも……!?」
─絶望は、まだ終わらない。
────────
「……私の出る幕は、あるのか?」
『無い方が本当は良いのよ。……でも、この後に出番はある筈よ』
「…………その心は?」
『先生は、アヴァンギャルド君を倒すかもしれない。先生は、私の計画を狂わせる、唯一の不穏分子かもしれないわ』
調月にそこまで言わせるとはな。……私も、評価を考え直す必要はあるかもしれんな。
私は、かなり遠くで戦闘が始まった先生一行を見ながら、調月と会話を交わす。そんな余裕があるのかとは、言わんでおくとしよう。
…とはいえ、アイツらも突破は難しいと思うんだがな。あの珍妙な名前の機械、しかし強さは本物だ。
…………いや、待て。アイツら、まだアレを持っているのか?だとすれば、私も準備をしなくてはならないが……。
……この様子だと、調月は気付いていないのか?いや、まさかな。
「……どの道、切り札さえきれば何とかなるんだろう?万が一に備えて、私はこのまま待つとするぞ」
『私としては有難いけれど……それでいいのかしら』
「闘えるに越した事はない。が……アイツらに負ける程度なら、強者とは呼べないだろう?」
戦場を提供しろとは言ったが、半端な奴と闘う事を求めている訳ではない。寧ろ、この程度は超えて貰わなくてはな。
そういう奴と、私は闘いたい。
『……そう。なら、そのまま待機でお願いするわ』
その一言だけ告げた調月は、そのまま通信を切る。
……どうやら、まだ一波乱ありそうだ。
「……ッハハハハ!!!!」
─