主従の間に芽生えてしまった歯止めの効かない愛情は光をも割断する   作:てりのとりやき

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1921年2月12日14時56分2秒は今から3年後である
「さあ、魂の契約を」


 

 

 “騎士”。

 それは音速で戦闘活動可能な戦略兵器級の個人である。

 

 

 

 

 

 人体強化の魔法を極め過ぎたが故にその身体と携帯する剣のみを至上の武装とし、戦場においては他の追随を許さない圧倒的加速にて全てに死を撒き散らす者達。

 最強の代名詞。

 絶対の代名詞。

 人でありながら国家が擁する戦略兵器として扱われる者達。

 速度という最強の物理法則によって“魔法使い”を歴史から駆逐した者──それこそが“騎士”。

 

「ローロ。ローロ・ワン」

「はい」

「あなたが私の騎士(オヴィディエンス)になると言うなら、この手に傅き宣誓を」

 

 16歳の少女、ローロ・ワンには夢がある。

 母の遺言に従い“騎士”になるという夢が。

 

「さあ、魂の契約を」

 

 その夢が今、叙任式という形で叶おうとしていた。

 

「さすれば私はあなたを叙任しましょう」

 

 言葉に従い少女はその場で片膝を着く。

 見上げた先にいる人物の顔は、逆光になってはっきりとは見えない。けれどローロには彼女こそ、自身が今後一生を捧げ仕え尽くす主君であり、敬愛すべき女王であるという確信があった。

 ローロ・ワンは彼女のための騎士でなければならない。

 ローロ・ワンは彼女の道を切り開く剣であり、彼女を守る盾でなければならない。

 願いと祈りを。

 正道を。

 騎士道を――女王に捧げるのだ。

 

「ローロ。ローロ。私の可愛い可愛いぬいぐるみ」

 

 女が言う。

 手の甲を表に、こちらへと差し伸べながら。

 

「おまえは何もかもを燃やし尽くしてでも、騎士にならなければいけないよ」

「うん」

「最強の魔法使いを……魔王をも殺せるほどの強い騎士になりなさい」

「わかったよ。母さん」

 

 ………………母さん? 

 おかしいな。母は五年前に死んだはずだというのに。

 それにあの時の遺言とも内容が違う気がする。

 

「?」

 

 疑問が疑問を膨らませていく。

 辺りを見て、見回して、──随分さっぱりした空間だなと気付いた。

 真っ白い壁。

 のっぺりした天井。

 誰も居ない空間。

 

 

 

 見上げた先の女はにたりと笑っている。

 深い憎悪で歪みきった唇の形。

 死ぬ直前の母が浮かべていた笑顔にそっくりだ。

 

 

 

 あ。 

 これそうか、──夢か。

 

 

 

 ◇

 

 

 

 目を開けると、見慣れた光景が視界に広がった。

 五年前から毎朝ベッドの上で起きるたびに見続けた天井。ローロが所属する国の、軍人を育成するための士官学校、その寮の天井。

 

「……」

 

 はあ、と少女は溜息を吐く。

 首を巡らせ、枕元に置かれた一枚の紙片を見た。そこに掛かれた簡潔な一文を眠る前と同じように読み取った。

 

『厳正な騎士団選抜試験の結果、貴君を不合格とする』

 

 ごめん。

 母さん。

 

「騎士、なれなかったよ……」

 

 

 

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